目次◎図解で身につく!ランチェスター戦略はじめに
章序シンプルなのに効果が大きい経営戦略
①日本で花開いた〝勝ち続ける〟ための戦略②ランチェスター戦略では「市場シェア」を重視する③「」④ランチェスター戦略のもう一つの目的「組織の活性化」⑤シェアは1位でなければならない理由⑥1位になるには、そうなれる市場をつくる⑦細分化された地域で攻めるべき市場とは?⑧ランチェスター戦略の3つのキーワード⑨「」⑩「」「」⑪ランチェスター戦略の効果⑫戦略の体系は5つのパートで構成される
第1章ランチェスター戦略の基礎を理解する
◆予備知識①ランチェスターの「第一法則」②ランチェスターの「第二法則」③ランチェスターの法則を経営分野に応用する●コラム・事例1④弱者の基本戦略「差別化」
⑤弱者の個別戦略●コラム・事例2●コラム・事例3⑥強者の基本戦略「ミート戦略」⑦強者の個別戦略●コラム・事例4●コラム・事例5⑧クープマンらによる考察⑨ランチェスター戦略モデル式⑩経営資源を配分する⑪シェアの目標数値とは?●コラム・事例6⑫意思決定で重要な「射程距離理論」⑬シェアの分布と推移⑭もっとも大切な結論「ナンバーワン主義」⑮足下の敵攻撃の原則⑯資源を集中させる「一点集中主義」●コラム・事例7●コラム・事例8●コラム・事例9
第2章弱者のための代表的戦略「地域戦略」
①ランチェスターの「地域戦略」とは?②地域戦略の基本原理③地域戦略が重視される背景④地域戦略の目標と5原則⑤商圏戦略の方法⑥地域戦略のためのノウハウ
⑦シェアアップ戦略の立案(重点エリアの設定プロセス)●コラム・事例10●コラム・事例11
第3章流通段階でのシェアアップを図る
①そもそも流通とは何か?②「」③流通とマーケティングの関係④直接販売と間接販売の特徴とバランス⑤「」⑥市場シェアの調査方法⑦ローラー調査で地域ナンバーワンへ⑧ローラー調査を実施する方法⑨ラージABCで流通の実力を見る⑩スモールabcdで競争地位を示す⑪シェアアップの目標値をつくる「構造シェア」⑫シェアアップ戦略を構築する方法●コラム・事例12●コラム・事例13
第4章営業員を〝科学的に〟管理する方法
①営業員攻撃量の法則②時間管理の重要性③訪問計画の必要性④新規開拓の効果的な方法●コラム・事例14⑤営業力向上のカギは〝科学的〟な管理
章序シンプルなのに効果が大きい経営戦略
②ランチェスター戦略では「市場シェア」を重視する前項のような経緯で生み出されたランチェスター戦略では、とくに「市場シェア」を重視しています。市場シェアの定義は、左図のとおり、ある市場において競争関係にあるすべての会社の販売数量の中で、一つの企業が占める販売数量の割合のことをいいます。市場シェアを重視する理由は、本書巻頭にもあるように、「販売なくして利益なし」「シェアなくして売り上げの保証なし」という考えに立っているからです。しかも、シェア1位でなければなりません。とくに不況期や成熟期においては、左図にある「ゲーム型」と呼ばれる推移パターンをとるからです。
③「市場シェアアップ」は目標達成手段の一つ前項で述べた理由から、市場シェアを高めることは、結果的に利益の増大や財務体質の向上につながることから、経営の目標を達成するための手段の一つといえます。またシェアは、最終顧客からのブランドロイヤリティーとしての支持の大きさであり、販売店や代理店といった流通段階での店内シェアは取引先との信頼関係の強さをあらわしています。前項の繰り返しになりますが、これらのようなことが、不況期あるいは商品の成熟期において、とくにシェアが重要視されることとなる、おもな理由となります。なお、市場シェアと利益率の関係についてもいくつかの研究結果があり、シェアが10%を超えると、正の相関(シェアが上がると利益率も上昇)の傾向が見られます(左図※)。
④ランチェスター戦略のもう一つの目的「組織の活性化」ランチェスター戦略におけるもう一つの重要な目的として、「組織の活性化」があります。単なる成果主義や精神主義(根性論)とは異なり、ランチェスター戦略に基づきながら経営の意思決定や顧客訪問計画を立てて実行・管理(PDCA)を行ないます。このとき、営業マネージャーや経営者は、「報連相」によるOJTや、時には陰で受注支援をすることによって部下の受注獲得の手助けを行なうことが重要で、これにより、着実に受注件数やシェアを向上させることができます。このように、受注結果のみでなくプロセスも管理することにより、とくに新人営業員のスキルの向上につながりまー戦略においては、ただの1位ではなく、そのセグメントにおいて2位以下を大きく引き離した、圧倒的に強い1位を目指します(一つの目安としては、シェア40%があります)。
⑤シェアは1位でなければならない理由20ページ〔*こちらを参照〕で説明したように、不況期や成熟期においては、市場シェアが1位の会社のみがシェアを伸ばすことが可能となります。ただし、ここで大事なことがあります。それは、たとえシェアが1位であったとしても、いつも安定的に1位の地位を維持できるとは限らないということです。ランチェスター戦略においては、ただの1位ではなく、そのセグメントにおいて2位以下を大きく引き離した、圧倒的に強い1位を目指します(一つの目安としては、シェア40%があります)。これを「ナンバーワン」と呼んでいます。また、ナンバーワンのセグメントをつくって増やしていくことを「ナンバーワン主義」といい、ランチェスター戦略の中でもっとも重要なキーワードの一つとなっています。
⑥1位になるには、そうなれる市場をつくる前項まで、ランチェスター戦略の目的や市場シェアを重視していることについて述べてきましたが、ここからは、シェアアップのプロセスについて、基本となる部分を解説しましょう。さまざまな業界や商品の市場においては、1位の会社は当然1社だけ。国内では、乗用車ではトヨタ、ビールではアサヒ、携帯電話の契約数ではNTTドコモ、同じく家電メーカーではシャープとなっています。ところで、「わが社は規模が小さいから1位など無理」という言葉を耳にすることがありますが、大丈夫です。多数の会社が1位ひいては「ナンバーワン」になるためには、そうなれる市場を自分で用意すればよいのです。ナンバーワンになれる大きさまで市場を細分化前述した1位の会社の例は、あくまで日本国内のスパンにおけるものですが、10の地域に細分化すれば、1位の座に10社が立ちます(同じ会社が複数の地域で1位であり10社に満たない場合もあるが)。
このように細分化することを「セグメンテーション」、そして細分化された一つひとつの単位を「セグメント」と呼びますが、これもシェアアップのプロセスにおいてはもっとも重要なキーワードの一つです。細分化する座標軸は、商品・地域などランチェスター戦略では、細分化する座標軸として、次の4つを用意しています。①商品②地域③販売チャネル④最終消費者
このうち、①の例を見ますと、国内の自動車総販売台数の上位はトヨタ・日産・スズキの順となりますが、軽自動車のセグメントでは、ダイハツ・スズキ・ホンダの順になります(前ページ図)。また、コラム(事例)にも掲載のいなば食品は、ペットフード事業において、キャットフード全体では国内市場で6位(シェア7%)となっていますが、キャットスナックのカテゴリーでは、5割近い圧倒的なシェア(ナンバーワン)を取っています。細分化されたセグメントの数はかけ算で大きくなる細分化に際し、ランチェスター戦略では4つの座標軸を用意しましたが、得られるセグメントの数は各座標軸の細分化の数のかけ算になるので、非常に大きな数になります。たとえば、それぞれの座標を10に細分すれば、10×10×10×10=10000という具合です。こうすることによって、自社がナンバーワンになれるセグメントを見つけるわけです。
⑦細分化された地域で攻めるべき市場とは?前項のように細分化された市場の中で、まず重点化するセグメントは、もっともナンバーワンにしやすいところです。具体的には、自社が1位の地域があれば、それらの中で2位との差がもっとも大きいところ。1位の地域がなければ、もっとも1位にしやすいところとなります。細分化の度合いの目安としては、自社の商圏あるいはテリトリーを10程度に分割します。その際、分割されたそれぞれのセグメント内の市場規模(総需要)が大きくバラつかないように(せいぜい数倍程度に)配慮する必要があります。選んだ地域の中でナンバーワンにする手順今度は、そのセグメント内の得意先(販売店など)の中で重点化するところを選びます。
その選び方は地域の重点化と同じで、「ナンバーワンにしやすいか?」が基本になります。ただし今度は、「一点集中」を指向する質の面のみでなく、量の面(カバー率)も重要な概念の一つで、これらを合成したシェア(構造シェア)を用いてシェアアップのプロセスを進めていきます。具体的には、各販売店を売上げ規模で順位付け、累積分布でグループ分けした横軸と自社の市場地位を縦軸にとったマトリックス上で重点化と資源の配分を行ないます。そのための具体的な計画づくりを示してくれるランチェスター戦略が教えてくれる計画は、「戦略的格付け」に基づき、得意先ごとへの営業員パワーや販促費といった営業資源の配分の仕方についてです。重要度に応じて得意先をグループ分けし、各グループへの訪問回数と滞在時間を合理的に割り当てていきます。シェアアップと人材・組織の育成に結びつけるためには、作成された訪問計画の実行・管理(PDCAなど)が大事だということは、言うまでもありません。以上の手順を繰り返すことで、ナンバーワンのセグメントを増やす以上のような手順で当該のセグメントをナンバーワンに育成したら、次に、2番目のセグメントの中で同じ手順を繰り返し、結果としてナンバーワンのセグメントの数を増やしていきます。この概念もランチェスター戦略では重要なものの一つで、本書では「ステップ・バイ・ステップ」と呼んでいます。
⑧ランチェスター戦略の3つのキーワードこれまで述べてきたことからもわかるように、ランチェスター戦略における手順はじつにシンプルでわかりやすく、しかも効果が大きいという特徴があります。ここで、その本質を特徴づけている重要な概念(キーワード)を整理してみると、・ナンバーワン主義・セグメンテーション・ステップ・バイ・ステップの3つが挙げられます。この組み合わせにより、経営資源が十分でない企業や事業部においても、ランチェスター戦略のプロセスをコツコツと着実に実践することにより、事業の発展や安定化に資することが可能となります。
⑨「三点攻略法」という事例前項で述べたことの特徴をよくあらわした事例の一つに、「三点攻略法」があります。その名前のとおり、ある会社が1つの地域でナンバーワンを狙う場合は、最初からその中心を攻めるのではなく、次のように攻略していきます。①中心部の周辺地域を細分化する②その中で戦いやすいセグメントを選んで経営資源を重点的に投入し、ナンバーワンになるまでシェアを高める③同じ展開を2番目のセグメントに、続いて3番目のセグメントに対して行なう④中心部に向かって3つのセグメントから総攻撃をするこのように、これらのプロセスの中に3つの特徴が十分に織り込まれているのがわかるはずです。
⑪ランチェスター戦略の効果これまでに述べてきた、ランチェスター戦略における効果を整理すると、次のような、①市場シェアアップのプロセスとして、「三点攻略法」「構造シェア」などを示してくれる②市場地位に応じた的確な意思決定について示してくれる③経営資源の適切な配分について、どのセグメントに重点的に配分したらよいかを示してくれるなどが挙げられます。そのほかにも、・戦略的な投資と戦術的な投資についての適切な配分・製品ライフサイクル(PLC)に応じた意思決定(第5章)についても示してくれます。
⑫戦略の体系は5つのパートで構成されるはじめにでも少し触れましたが、ランチェスター戦略の体系は5つのパートから成り立っています。これをいくつかの視点から、さらにグループ分けをしたものを左図に示しておきます。そして、以下のことは、本文内容を理解する際の一助になるでしょう。①ランチェスター戦略のエッセンスをまとめた「戦略入門」と、実践編にあたる「地域戦略」~「市場参入戦略」に分けられる②①の実践編の中を、「弱者の戦略」の典型ではあるが、戦略策定と実行のプロセスとしての「地域戦略」~「営業員戦略」と、もう一つは、時間軸をともなう製品ライフサイクルにおける戦略を扱う「市場参入戦略」とに分けられる
第1章ランチェスター戦略の基礎を理解する
予備知識「戦略」と「戦術」について
「戦闘力」「兵力」「武器効率」とは?
ランチェスターの法則で用いるこれらの言葉について予備知識を持つことは、法則を理解するのに役立ちます。とくに、兵力、武器効率の経営への類推はイメージしやすいと思います。「兵力数」:戦闘においては、兵士の人数。販売活動の場面では、営業部隊の人数「武器効率」:・戦闘においては、①武器の性能②兵士の技量(スキル)③兵士の士気(モラール)・販売活動においては、①営業活動用のツールの効果(情報端末を使い顧客にとって価値の高い情報を提供できたり、効果的なプレゼンができるなど)②営業員のコミュニケーションスキル③営業員の士気(モラール)
①ランチェスターの「第一法則」ランチェスターの法則(18ページ〔*こちらを参照〕)は、戦闘の形態が異なる「第一法則」と「第二法則」から成り立っています。ここではまず、「第一法則」から見ていきましょう。「第一法則」が支配する戦い方は、「局地戦」「接近戦」「一騎討ち戦」です。敵味方の戦闘力は、武器効率×兵力数となりますが、「戦闘力」は、「相手に与える損害量」と言い換えることもできます。また、「武器効率」というのは、武器の性能や兵士の技量を数値化したものです。この式から、戦闘力を高めるためには以下2つの方法が挙げられます。①武器効率を高める②兵士の数を増やす
②ランチェスターの「第二法則」「第二法則」が支配する戦い方は、敵が視界に入らない広域的な総合戦や、近代兵器を使用する「確率戦」となります。敵味方の戦闘力は、武器効率×兵力数の2乗となります。今度は、双方の戦闘力は兵力数の2乗で効くため、兵士の数が多いほうが圧倒的に有利となり、ある程度の武器効率の差を凌駕してしまうことがわかります。なお「確率戦」の場合、損害量が相手の兵力数の2乗に比例する理由は、左図のように、ある時刻における、単位時間あたりの損害量は敵の兵力数に比例し、味方の兵力数に反比例するからです。
③ランチェスターの法則を経営分野に応用するランチェスター戦略では、ある市場において、シェアが1位の会社を「強者」、2位以下の会社を「弱者」と呼びます。31ページ〔*こちらを参照〕のシェアの順位表を見てください。たとえばビール業界では、・「ビール系飲料全体」:「強者」はアサヒ。キリンビール以下は「弱者」・「第3のビールのみ」:「強者」はキリンビール。サントリー以下は「弱者」となります。どんなに大きくて、なおかつ優良な企業であっても、2位以下であれば弱者と呼びます。また、自社がシェアで何位にいるのかについては、「市場地位」という呼び方であらわします。そして、強者と弱者は、とるべき戦略が反対になります。
Column事例1奇跡を起こした「一点集中」――アサヒビール株式会社――し烈な営業競争の中、シェアを0・1%変えるのも難しいと言われたビール業界において、「ラガービール」のキリンがシェア6割を占めていた時代があった。この時期、低迷著しかったアサヒビールは、ビールの中で構成比率が1割にも満たない生ビールに経営資源を集中し、奇跡と言われたシェア逆転を成し遂げた。ラガービールから生ビールへのシフトを提言し営業部門を率いた中條(現名誉顧問)は、当然、社内の反発にあう。メーンバンク出身のトップの理解があったとはいえ、多くの困難を乗り越えて大躍進できたのは、「消費者が望んでいるのはうまい生ビールだ」という気づきであり、「お客様にとって正しいこと」を貫く信念といえる。時代は変わり、消費者の低価格志向の中、第三のビールにいち早く進出したキリンとサントリーが、このカテゴリーではリードを保っている。
④弱者の基本戦略「差別化」まず「第一法則」では、武士の数が劣勢であっても「武器効率」を上げることによって勝てることがわかりました。「武器効率」は、ビジネスにおける営業の「質」です。営業員の「質」(顧客とのコミュニケーション能力、モラールなど)、情報武装、商品の「質」などを高めることは「差別化」といえます。競合企業との「差別化」を図ることで、営業員の数や店舗の数など量的に劣勢であっても勝てる可能性は十分にあるのです。また、すぐに「差別化」を図ることができない状況でも、「局地的」に戦力を集中させることで局面ごとに有利な状況をつくり出すことは可能です。ゆえに、営業員の数が少ないなど量的に劣勢である場合には第一法則下で戦ったほうが有利ということがわかります。しかも、相手にこちらの動きをさとられないようゲリラ的な活動をすることも、弱者にとっては大事な戦略です。
⑤弱者の個別戦略弱者がとるべき戦略は「差別化戦略」が原則となりますが、前ページの図のように、さらに5つの個別戦略に分かれています。「局地戦」では、ビジネスの領域や地域を限定することで資源を分散させないようにします。もともと総合力で力の劣る弱者が、欲張って手を広げてしまうと資源が分散し、勝てる可能性がなくなってしまいます。まともに戦っても勝ち目のない弱者は、勝てる市場を探すか、勝てる市場をつくる。たとえば、建築業界の中でもリフォームのみを専門に扱っているような会社がこれに該当します。「接近戦」は、相手に接近して戦うことをいいますが、ビジネスの場面では近づく相手は競合企業ではなく、顧客となります。これは、実際に会って顧客の心をつかむような手法ですが、重要顧客に対しては、頻度のみならず滞在時間も長くします。「一騎討ち戦」は、まさに一対一の戦いです。競合の多い市場や顧客を狙うのではなく、競合が1社しかないというような市場・顧客を狙います。複数の競合企業を相手にするより、1社相手のほうが戦いやすいことは容易に想像できます。「一点集中主義」では、重点を置くべきところを決め、そこに経営資源を集中させます。ヒト、モノ、カネ、情報など総合力で劣る弱者は、全面戦争で強者に勝つことはできません。市場や地域を細分化し、業種・顧客・商品などのどこに重点を置くのかを決定し注力しなければ、勝負に勝つどころか現状を打開することもできません。商品・地域・販売チャネル・ジャンル・最終顧客などマーケティング上のセグメンテーションをしっかり行なうことが大切なのです。「陽動作戦」とは「かくらん戦法」のことで、敵の裏をかく奇襲戦法でも相当します。不意を突いた行動で注意をそらしたり動揺させることで、競合の企業戦力を分散させたり、こちらの真の目的をさとらせないようにします。
Column事例2MSエクセルの活用ツールに一点集中――株式会社アイエルアイ総合研究所①――「プログラムを書かずにプログラムを作成する機能を中心に、ユーザーの情報リテラシーを向上させたい」との思いで、『StiLL』を開発販売しているアイエルアイ総合研究所は、顧客の使い勝手や、性能・機能などの商品力に磨きをかけ続けている。その成果は、経済産業省情報化促進貢献議長賞をはじめ多数の受賞にあらわれ、累積の利用者は3000社、14万ライセンスが販売されている。営業部門出身の内藤社長は、自社の営業パワー不足を補うため、StiLLを用いて「メールマーケティングシステム」を開発し、運用している。最近では、パートナー企業(ソフトハウス)とタイアップし、SFAなどの営業管理システムにランチェスター戦略(地域戦略、流通チャネル戦略)を付加したパッケージソフトの開発に着手している。
Column事例3日本人のアレルギー対策に一点集中――辻安全食品株式会社――辻安全食品は、アレルギー対策に特化した会社。日本人の約3割は何らかのアレルギーを持っていると言われ、その数は10年前の2倍にもなっている。とくに30~40代の女性と子どもに多く、重度になると外出もできずにアレルギー反応が致命傷になってしまうケースもある。辻社長はアレルギー対策を徹底することで、患者を一人でも多く救いたいとの強い思いがある。アレルギー専門の「そよ風クリニック」「辻調剤薬局」では何が原因かを究明。アレルギーは室内の空気が原因となることが多いため、シックハウスやほこりなど住環境対策として「辻安全建築有限会社」で対応している。そして、食に関しては厚生労働省が認定するアレルギー品目を使わずに製造できる自社工場を完備。近年では、すべてアレルギーフリーの食事のバイキングツアーを企画、大好評を得ている。
⑥強者の基本戦略「ミート戦略」第二法則では、兵力数の多いほうが圧倒的に有利でした。「兵力数」というのは、ビジネスでいうところの営業員の数、店舗の数や面積、扱い品目数などです。とくに、第二法則では2乗倍となるので、量的に多いほうが圧倒的な「営業力」を持つことになります。多少相手の「質」がよく「差別化」されていたとしても、圧倒的な数量で凌駕することが可能です。これを「ミート戦略」と言います。これには、圧倒的な数量に物を言わせて「模倣」して打ち消す、あるいは「同質化する」という意味があります。したがって、営業員や店舗数などが多い場合には、第二法則のもとで戦ったほうが有利になります。ランチェスター第二法則からは「強者の戦略」が導き出されます。
⑦強者の個別戦略強者は「ミート戦略」が原則となりますが、さらに5つの個別戦略に分かれます。弱者に弱者の戦略をとらせないようにすることが強者の戦略の基本的な考え方となるので、弱者の戦略と180度異なる戦略となります。弱者の「局地戦」に対し、強者は「広域戦」です。広い範囲の戦いでは弱者の力は分散し、逆に狭い範囲では弱者の力が集中します。強者は弱者に「局地戦」を展開させないようにしなければなりません。そして強者は局地的に営業をしかけるのではなく、広域的に展開します。弱者の「接近戦」に対し、強者は「遠隔戦」。顧客との距離を置く戦い方です。広告宣伝を活用し、顧客に「これが欲しい」と思ってもらうことで営業員が顧客に対面する前に勝負が決まってしまうような「プル型」のマーケティングになります。実際、コンビニなどではテレビCMの投下量で棚の位置が決まってしまいます。店側は、消費者に多く認知されていれば売れると考え、よい棚の位置を提供してくれるわけです。メーカーなどが、直販ではなく卸をフル活用したりという手法も「遠隔戦」の考え方です。弱者の「一騎討ち戦」に対し、強者は「確率戦」です。強者は一対一の戦いを避け、弱者を数で押さえ込むことを考えます。競合数の多い市場や併買率の高い顧客を狙うのです。また、自社内でも競争させたり弱者につけ入る隙を与えてはいけません。たとえば、メーカーであれば製品アイテム数を増やして自社製品同士を競争させたり、営業拠点・代理店同士を競争させることで他社が進出する隙をなくします(「オープンテリトリー」という)。弱者の「一点集中主義」に対し、強者は「総合主義」です。総合戦、つまり持てる武器を総動員し、圧倒的な量で戦います。総合戦になれば、部分的な弱点があっても他の部分や総合力でカバーできます。圧倒的な量や品揃え、広域テリトリーで勝負します。弱者の「陽動作戦」に対し、強者は「誘導作戦」。先手を打つなどして弱者をこちらの都合のよい土俵に導きます。たとえば、弱者の差別化商品の発売に対して先手を打つことで陳腐化させるなどです。
Column事例4「二番手戦略」はミート戦略の一種――松下電器産業株式会社――まだ家電量販店が台頭する以前の1970年代、家電メーカー各社は自社の専売店を育成し全国に販売チャネルを構築していたが、家電業界の雄・松下電器(現パナソニック)は最大級の専売店チャネルを有していた。ソニーなどが新製品を市場投入したのちに遅れて追随することも多く、〝マネシタデンキ〟などと揶揄されたこともあったが、これは強者の戦略として理に適ったやり方だ。開発・生産する技術力は十分に持っていても一番手を演じないのは、その商品市場がどこまで伸びるのかを見きわめるためであり、会社の大きな販売力を生かすためには当該商品の市場性が大きくなければならなかった。これは、「不良在庫にともなうリスク」を避けるためのマネジメントと言える。強者の戦略ではこのほか、「フルライン戦略」や「挟み撃ち」も第二法則型の状況をつくり出す。
Column事例5強者としての戦略、市場の拡大――株式会社アイエルアイ総合研究所②――市場規模はいまだ小さいとはいえ、圧倒的な強者である『StiLL』を有するアイエルアイ総合研究所は、顧客の活用レベル向上や市場の育成にも力を注いでいる。定期的に「研究フォーラム」を開催して、ユーザーの活用事例を発表したり、StiLLの技術情報を伝えることによって、ユーザーの育成を図っている。また、事務処理や営業管理・企画業務に必要な小さいサイズのプログラム(テンプレート)を多数用意し、ホームページなどを通じて安い価格で提供している。このような顧客の育成や市場の育成は、まさに強者の役割といえるだろう。
⑧クープマンらによる考察ランチェスターの法則とともにランチェスター戦略のもう一つのルーツとなるのが、クープマンらが開発した「ランチェスター戦略方程式」です。第二次世界大戦中、米軍は、戦争を科学的、そして数学的に解析するために、数多くの分野の学者たちによる作戦研究班を編成します。その中でクープマンらは、ランチェスターの法則の発展形である数式を利用し、解析を進めました。戦力の生産と補給ランチェスターの法則は、実際に戦闘が行なわれている戦場においての、双方の戦力(兵士の数など)が減る度合いについて述べられていますが、クープマンらは第二次世界大戦時に研究を進め、国と国との戦争を扱いました。この場合、国内で武器弾薬を開発・製造し、戦場まで送り届けるという行為があります。この、生産・補給の単位当たりの量(年間の予算のようなイメージ)を「生産・補給率」と呼び、73ページ〔*こちらを参照〕の図ではP、Qとあらわしています。戦略力と戦術力クープマンらは、戦力を「間接的な戦闘力」と「直接的な戦闘力」に分け、どのような比率で配分したときに最適になるかの解析を進めました。「間接的な戦闘力」のことを「戦略力」と呼び、戦闘には直接参加せず、敵の武器の開発力や生産力、物資の補給力などを減らすために使われます。具体的には、B29のように相手国の領域内にまで飛来し、軍事施設などを爆撃・破壊します。「直接的な戦闘力」は「戦術力」と呼び、戦車や戦闘機、戦艦、銃を持った兵士などが該当しますが、直接相手の兵器や兵士と戦闘することにより、相手の戦術力や戦略力を減らすために使われます。
⑨ランチェスター戦略モデル式クープマンらは、前項のような過程から得られた方程式を解くため、数学者ジョン・フォン・ノイマンが発表して間もない理論(ミニマックス原理)を用いて解析を進め、得られた結論が、左図の「ランチェスター戦略モデル式」です。ここで大事なことは、双方の戦力・生産補給が同程度であれば、「戦略力2:戦術力1」のときにもっとも適切になることです。アメリカがB29などの戦略爆撃機の開発に注力したのも、この結論によるものでした。なお、ミニマックス原理を使用するに当たっての前提条件は、相手の意思決定者(司令官)が賢い選択をすることです(クープマンらは「合理的な判断をする」と表現している)。
⑩経営資源を配分するここからは、これまでの成果を経営の分野に応用することになります。前項で、戦力を戦略力と戦術力に分けましたが、これを経営の分野に応用すると、50ページ〔*こちらを参照〕で述べた戦略と戦術の関係から以下のように分類できます。・戦略力〈見えないもの〉:商品開発、流通チャンネル開発、物流システム、情報通信システム・戦術力〈見えるもの〉:営業員数、営業拠点、販売促進費など(販売店の場合は取扱品目数、売場面積など)戦略力と戦術力の特性について語られる際、戦略力は「見えざるもの」、戦術力は「見えるもの」との表現がありますが、たしかに商品開発などは完成して市場に投入されるまで相手には見えません。また、市場との直接的コミュニケーションである戦術力のほうは相手にも見えます。そして前項の結論から、それぞれに対し経営資源を2対1になるよう配分するのが適切になります。
⑪シェアの目標数値とは?クープマンの「ランチェスター戦略モデル式」の応用の1つに、シェアの目標値があります。これは、経営における判断基準や活動方針の根拠を与えるのと同時に、シェアアップに際するマイルストーンの役割も果たしています。それでは、「7つのシンボル目標数値」を一つずつ見ていきましょう。・「安定目標値」41・7%まず求められた目標数値は、安定的に首位の座を維持できるシェアのレベルでした。首位独走の条件として戦略力と戦術力の関係を考察し、その結果得られた数値が41・7%です。この安定目標値は、経営における7つの目標数値の中でもっとも重要な値と言ってもよく、3社以上の会社が入り乱れて経営活動をしている通常の業界では、この数値は後述(86ページ〔*こちらを参照〕)の「ナンバーワン」と同等の意味を持っているといえます。・「上限目標値」73・9%次に求めたのは、シェアの均衡が保てるか崩れるかの境目になる数値です。1社のシェアがこの数値を超えると、もはや均衡が崩れて、シェアは拡大を続けることになります。ただし、現実的にはライバルが不在に近い状態では自社の社員のモラールも低下し、また、市場そのものが活性化されないというデメリットも起こり得ます。・「下限目標値」26・1%ドングリの背くらべの状態から抜け出てトップの座に就くことができる、強者としての最低条件を示す数値。これは100%から上限目標値の73・9%を引いた数値でもあり、この数値を下まわっていれば、1位といえども不安定で他社からの逆転も起こりやすいのです。・「上位目標値」19・3%下限目標値である26・1%に上限目標値をかけて得られた数値で、「弱者の中での強者」を意味します。ドングリの背くらべの中での強者であり、その地位はきわめて不安定であることに変わりありません。
・「影響目標値」10・9%26・1%に安定目標値41・7%をかけて得られる数値。弱者の中で一定の地位を確立できるかどうかのレベルをあらわします。企業間の力関係でいえば、自社の存在が市場全体に影響を与えるようになれるかどうかの水準と言ってよいでしょう。・「存在目標値」6・8%26・1%のうちの26・1%を占める数値。競争相手から、その存在を認められるようになる水準です。・「拠点目標値」2・8%弱者中の弱者ともいうべき6・8%の41・7%を占める数値。競争相手からは無視されるレベルですが、シェアがこの数値に達すれば、かろうじて存在が可能になります。その意味で、事業を取捨選択する際の基準になる水準と言えます。
Column事例6高シェア企業の社会的責任――ナカシマプロペラグループ①――舶用プロペラのメーカーとして、直径が10メートルを超える大型船の分野では国内シェア8割超、モーターボートのような小型船のプロペラでは95%のシェアに達したナカシマプロペラグループ。スーパーニッチャーとしての同社の差別化要素は、製品の高い性能・機能にあり、それを支えているのが、①蓄積データを生かした高い設計力②プロペラの曲面を自動研削できる装置と熟練の技による高精度の製品製造技術などである。圧倒的シェアを占める同社の関心事は、経営理念である「安全で快適な航海を陰で支える」を具現化すること。そのためには、プロペラに動力を伝えるシャフト部分の損傷(洋上で船が進めなくなる)を防ぐ「キーレス方式」を発明した際、特許を取得せず、世界中のプロペラメーカーに情報を公開することも行なっている。
⑫意思決定で重要な「射程距離理論」ランチェスター戦略モデル式において「両者の戦力の均衡が保たれるか、それとも崩れるか」の均衡条件から導き出されたのが「射程距離理論」です。1位の会社がシェア73・9%を超えると、2位以下の会社はシェア26・1%を割り込んでその差は埋まらず、逆転はきわめて困難になります。この比、73・9÷26・1≒3を射程距離と呼びます。これは、競合他社との差をどれだけ引き離せばよいのか、どの程度なら追いつけるのかという判断の目安になるので、意思決定に際してきわめて重要な理論です。なお、第一法則下において射程距離は3倍ですが、これは顧客内の単品シェア、二者間競争の場合に適用されます。第二法則下では倍(約1・7倍)となり、第一法則以外の状況なら、すべてこの第二法則に当てはまると考えてください。
⑬シェアの分布と推移シェアの目標数値と射程距離理論を組み合わせることにより、以下のシェアパターンが得られます。①「分散型」1位が「下限目標値26・1%」以下で、1、2位間、3、4位間など各上下の差が射程距離以内におさまっている状態です。首位が下限目標値26・1%以下なので、首位交代や順位の変化も起こりやすいことになります。分散型になりやすい業界としては、以下のものがあります。・成長期の商品で、各社が製品開発に力を入れている業界・成熟期の商品で、販売方法が間接販売主体である業界国内ではこのパターンが多く、半分程の業界がこの型だと言われています。②「相対的寡占型」1~3位の上位3社での合計が、「上限目標値73・9%」以上のシェアとなっている状態です。
1位のシェアは2位と3位をたしたものより小さいこと、そして1~3位までの差が射程距離以内の範囲におさまっている型を言います。いわば「三つどもえの戦い」です。③「二大寡占型」1位と2位の上位2社で「上限目標値73・9%」以上のシェアとなり、さらに1位と2位の差が射程距離以内におさまっている状態です。三つどもえの戦いから2位と3位の戦いが激しくなって、どちらかが脱落すると2社の力が圧倒的に強くなります。ただし、1位と2位の戦いの隙を突いて3位が浮上する〝漁夫の利〟が発生する可能性もあります。④「絶対的独占型」1位が「安定目標値41・7%」以上のシェアで、1位と2位のシェアの差が射程距離以上の状態です。「二強型」からどちらかが敗れ、首位に立った企業がひたすら独走する状況が継続します。さらに「相対的安定値40%」を超え2位以下を射程距離圏外に引き離した状態です。シェアパターンの推移一般的に、一つの商品や事業のシェアパターンの推移は、各社がとる戦略の優劣に差がなければ、分散型にはじまって、寡占化が進む方向に推移していきます。したがって、自社の市場地位と現在のシェアパターンを把握することによって、これからの変化の方向が予測できるので、より的確な戦略をとることが可能になります。
⑭もっとも大切な結論「ナンバーワン主義」ランチェスター戦略を総括すると3つの結論に到達しますが、もっとも重要な結論となるのが「ナンバーワン主義」です。これは単なる市場シェア1位のことを言っているのではなく、2位を3倍以上の「射程距離圏外」に引き離した1位のことをナンバーワンと言います。ナンバーワンになるのが重要なのは、さまざまなメリットがあるから。最大のメリットは2位以下に逆転されにくいことです。ほかにはスケールメリット、価格主導権、代名詞効果、持続的繁栄、理想の実現などが挙げられます。ナンバーワンになる順番経営資源の乏しい弱者は、「地域」「得意先」「商品」の順で強化していくのがセオリーです。逆に強者は、弱者と反対に「商品」「得意先」「地域」の順で強化していきます。
⑮足下の敵攻撃の原則2つ目(2番目)のランチェスター戦略の結論は「足下の敵攻撃の原則」です。ここで重要なことは、「競争目標」と「攻撃目標」は違うということです。左図を見てください。自社が2位だった場合、狙いうつ競合他社は1つ上の1位企業ではなく、1つ下の3位企業です。間違っても1位の企業に勝負を挑んではいけません。価格勝負になった場合、体力で勝る1位企業に2位の自社が勝てる可能性は低いからです。「競争目標」というのは目指すべき頭上の敵で、競争局面におけるワンランク上位の競合他社です。上位の敵に対しては全面対決を避け、戦う場合には弱者の基本戦略「差別化戦略」で戦います。これに対し、「攻撃目標」というのは競争局面におけるワンランク下位の競合他社「足下の敵」です。この場合は自社の立場が強くなるので、強者の基本戦略である「ミート戦略」で市場シェアを奪います。
⑯資源を集中させる「一点集中主義」ランチェスター戦略の3つ目の結論は「一点集中主義」です。「一点集中主義」は、弱者の5つの個別戦略のうちの1つでもあります。弱者は経営資源が限られているわけですから、「商品」「客層・顧客」「地域」「販売経路」それぞれについて細分化を行ない、その中から重点化するセグメントを選び、そこに資源を集中的に投下していきます。その際、ナンバーワンにしていく優先順位に関しては「ナンバーワン主義」のところでも述べましたが、弱者は地域、得意先、商品の順、逆に強者は商品、得意先、地域の順に強化していきます。一点に絞ることは、ほかのセグメントを捨てることにもつながりますから勇気がいる決断ですが、決断することで資源が集中され、高いパフォーマンスが得られます。
Column事例7格安航空券に一点集中――株式会社エイチ・アイ・エス――30年前、机2つ、電話1本で起業したエイチ・アイ・エス(H.I.S.)の澤田会長は、まずは小さいセグメントでナンバーワンを目指す弱者の戦略のとおり、当時ニッチだった「格安航空券」の分野で1位を目指した。そして「1位になるまで他の分野には手を出さない」を合言葉に活動した。競合他社にこちらの存在を察知されないように(陽動作戦)……。この分野で1位になった後、パッケージツアーに進出。そこで、当時大手は力を入れていなかった「バリ島」に着目した。その後、戦略どおりバリ島でナンバーワンとなり、他の地域にスライド(横展開)、今日の地位を築き上げた。「弱者は市場・顧客を細分化し、重点化し、差別化し、小さな1番を目指す!」「ナンバーワンになるためには一点集中しなければならない」。まさにこの言葉を地でいったのがH.I.S.なのである。
Column事例8家事サービスで最高のクオリティーを――ミニメイド・サービス株式会社――ミニメイド・サービスは、日本初の家事サービス業としてスタートした会社だが、とにかく徹底した研修制度により、そのサービスクオリティーを維持・発展させている。「誰に?」「何を?」「どのように?」「どう感じさせて?」「いくらで売るか?」を徹底的に吟味したという。その結論は、特定少人数でもよいので繰り返し利用していただくこと。そしてこのサービスの対象顧客は年収2000万円以上の富裕層になる。とにかくサービスの質を上げ、顧客の信頼を勝ち取ることに専念した。提供する価値として「つねにお客様の期待を上まわる仕事」を掲げ、スローガンは「いつもピカピカ」、目指すべき姿は「家事サービス・ナンバーワン・ブランド」と「価値観の共有」。これを実践していくことで、信頼されるという差別化を図っていったのである。
Column事例9ターゲットの絞り込みが生んだコンセプト――アキレス株式会社――子ども用運動靴市場で売れ続けている『瞬足』という名の靴がある。これを開発したのはアキレス。この『瞬足』を出すまで、アキレスは年々競合他社にシェアを奪われ続け、非常に厳しい状態にあった。そこで、市場・ターゲットをできるだけ絞り込んだ。こうして生まれたコンセプトが「運動会で勝つための靴!」。まさに、一点集中の実践である。デザイン性、機能性(小学校のトラックは左まわりが主流なので、それに適した靴底)、通常履きとしても使える配慮、そしてネーミングの妙。これらが功を奏しV字回復にまで発展した。またその背景には、運動会で勝ってほしいと願っているのは本人以上にその親だという事実がある。その意味で「運動会で勝つための靴!」というキャッチコピーは、まさに親心をくすぐる絶妙なコピーだった。
第2章弱者のための代表的戦略「地域戦略」
①ランチェスターの「地域戦略」とは?地域戦略が必要とされる背景には、現在の企業間競争において、この戦略が、弱者でも勝利できて差別化もできる、唯一無二の戦略だという事実があります。今は、顧客に近い最前線の営業所や店舗にこの戦略が求められ、「顧客に近い=地域に密着している」ことから、競合他社と差別化して企業がターゲットとする地域を制圧するためにも、その地域を細分化し、その中でのナンバーワンの地位・シェアをつくり上げていこうとする考えで戦略が必要なのです。地域戦略におけるポイントには、以下の3つがあります。①地域を細分化し、ターゲットとする地域を集中する②地域ごとに一様性がないため、その地域ごとの特性に合わせていく③営業活動(営業員や物流など)の生産性・効率性を重視する以上の理由から、ランチェスター地域戦略とは、地域の特性や事情をもとに対応した地域別の戦略であり、地域において差別化できる戦略といえるのです。
②地域戦略の基本原理地域戦略における基本的な考え方には、①細分化する②集中化するという2つのポイントがあります。地域戦略の基本をよく示す江戸時代の民話に「対馬での猪退治」というものがあります。まず、99ページ〔*こちらを参照〕の図を見ていただきたいのですが、このストーリーには、地域戦略の基本原理である以下のようなポイントが入っています。①地域を細かく分けて対応するという、セグメンテーションの戦略②周辺のいくつかの点を押さえ、周囲から真ん中に向かうという地域攻略のノウハウ③団子の串刺し的に隣から隣へと移動していくのではないという戦略この事例からわかるとおり、ランチェスター地域戦略の基本方針は、ナンバーワンの地域をつくるうえで地域を細分化し、優先順位をつけて一つひとつ集中して攻撃(営業)して、その地域を一つひとつナンバーワン化していくということです。ランチェスター地域戦略における地域は行政区分で考えがちですが、行政区分で細分化するのではなく、①山や川などの地域的要素②道路や線路などの分断要素③人口の移動や今後の地域開発計画などで影響する地域で区分していきます。県境や市境などの行政区分で区切ってしまうと地域を誤って認識してしまうので注意しましょう。なお、29ページ〔*こちらを参照〕の図では、便宜的に行政区分の地図を使い、また108ページ〔*こちらを参照〕の説明では、まず行政区画を使用していますが、その後で、自社の状況・戦略に応じて線を引き直すのも現実的な方法です。また、地域を集中して攻撃するということは、経営資源(ヒト・モノ・カネ)が足りない弱者でも勝てるということになります。
③地域戦略が重視される背景ではなぜ、地域戦略が重視されるのでしょうか?そのポイントは3つあります。1つ目は、地域ならば差別化も重点化もできるということ。つまり、地域戦略こそ差別化の最後の切り札であり、経営資源が限られた弱者でもナンバーワンになれる、ナンバーワンになるための原点なのです。2つ目は、地域によって特性が異なるということです。地域の特性とは、次のように分類されます。①気候・風土・風習・県民性・消費購買特性②農業・工業・商業・ベッドタウン・業務地区などの産業構造③うちもの地区とよそもの地区④高シェア地区と低シェア地区⑤需要の伸びのバラつきこういった地域の特性により、強者の地域、弱者の地域とは異なるケースも出てきます
し、需要と供給のバランスを考えて販売戦略も変えていかなければなりません。このように、地域の特性とは地域上の体質の違いだけでなく、需給バランスや競合他社との関係の違いなども含めて広く捉えることが必要です。3つ目に、企業間競争が生産性を高める戦いである以上、効率を上げるためには地域の重点化がもっとも効率的だということです。企業が営業活動を行なううえで、1時間以上も移動に費やすことがある場合、時間的なロスが生じます。そのようなロスが発生しないよう、1時間でまわれる範囲を重点営業地域としたほうが効率よく営業活動が行なえます。これを実践している企業に、セブン‐イレブンがあります。セブン‐イレブンは、出店戦略としてドミナント戦略をとっていますが、これは、商品配送などの物流面や、競合参入を阻止しようとする店舗網、店舗経営指導員の営業活動を効率化するためです。以上の3つのポイントからも、地域戦略が重要になっているのです。
④地域戦略の目標と5原則「こんなに走りまわっているのに、ぜんぜん売り上げが伸びない」「こんなに広い営業エリアなのに、お客様が集まってこない」あなたの会社(店舗)では、このような悩みはありませんか?同じエリアには、たくさんの競争相手がいます。営業エリアを広げすぎると、競争に負けて同業他社に顧客を奪われる状態が続きます。営業エリアを限定し、集中的に顧客をつくりましょう。増客の効率が上がります。地域戦略の目標は、細分化された地区の中で、ナンバーワン地区を1つでも多くつくっていき、最終的に、販売地域全体においてナンバーワンになることです。そのため地域戦略では、次のような5つの原則があります。それぞれ説明しましょう。①一点集中の原則:「1位になれる重点エリアを決めよう」②足下の敵攻撃の原則:「ライバルを絞り込もう」③地盤強化の原則:「まず地元をしっかり固めよう」
④ナンバーワンキープの原則:「大口顧客やリーダー格顧客を確保しよう」⑤固定化の原則:「離脱客をなくす、フ・ニ・イ・キ作戦の展開を」ナンバーワンエリアをつくる5原則――①一点集中の原則「1位になれる重点エリアを決めよう」苦戦している企業は集中化に欠ける傾向があります。これは、力が分散しているからです。たとえば「○○地区限定」「○○専門店」は、一点集中の絞り込みがある企業や店舗です。経営効率を上げるには、このように営業エリアや市場を限定し、集中的に顧客をつくることが重要なのです。その手順は、「細分化」「重点化」「集中化」。細分化した地区の中で重点地区を決め、その地区に対して集中攻撃をかけます。まずは、一点集中のために細分化です。地域で分けると、県・市町村・町丁目・学校区・道路・沿線などで細分化できます(重点市場の発見には、地域だけではなく顧客層~年齢・性別・職業・年収・ライフスタイ
ル・業種・規模別などの細分化もある)。次に、重点化です。成長性や競合状況を考え、ナンバーワンになれるエリアの絞り込みをします。競合他社が2人の営業員を投入しているのであれば、少なくとも3人以上の営業員が必要です。その力の量は、3倍や1・7()倍(81ページ〔*こちらを参照〕)。これが、集中化です。ナンバーワンエリアをつくる5原則――②足下の敵攻撃の原則「ライバルを絞り込もう」戦争と企業間競争の違いは、企業の競争にはライバルが多いということです。その数ある敵の中で、どの敵と戦うかは戦略上の重要なポイント。とくに、弱者が戦いに勝つには「足下の敵攻撃の原則」にのっとり、自社よりもシェアの低い企業を攻撃目標とすることが大切です。・競争目標:頭上の敵(自社と同等か、自社より1つ上のライバル)・攻撃目標:足下の敵(自社より1つ下のライバル)
競争目標と攻撃目標は、市場ごとに分けること。たとえば自社が業界2位の場合、競争目標は頭上である敵の1位のA社、攻撃目標は足下の敵、3位のC社です(前ページ図)。しかし、全社スパンにおける競争目標と攻撃目標が、ある支店や店舗では違っているという場合が多くあります。細分化された地域における自社の地位は、全社のそれと同じではありません。たとえばビール業界において、札幌では1位だが全国では3位という場合、足下の敵を見誤らないことが肝心です。「勝ちやすきに勝て」が、戦略となるのです。ナンバーワンエリアをつくる5原則――③地盤強化の原則「まず地元をしっかり固めよう」「近い」とは、それだけで差別化になります。あなたの会社(店舗)では、「向こう三軒」が顧客になっていますか?テリトリー全体でナンバーワンになるには、まず地元を固めなければなりません。これを「地盤強化の原則」といいます。地盤というのは、本社周辺、支店周辺、あるいは営業所周辺、店舗周辺のことをいいますが、メーカーであれば工場周辺も地盤となります。たとえば、トヨタのシェアがもっとも高いのは地元の愛知県ですが、これは、自社関連の事業所が多いことと、協力工場が集中していることが大きな要因です。このように考えると、店舗や関連施設、営業所をどこに置くかが、戦略上のポイントとなります。地域攻略の前進拠点を格上地区に置くことができれば、その地域における自社の基盤は強くもなるのです。しかし、同業が多数いるエリアより、競争の少ないエリアを選ぶのも戦略となります。ナンバーワンエリアをつくる5原則――④ナンバーワンキープの原則「大口顧客やリーダー格顧客を確保しよう」成熟した社会・業界になると、顧客は上位に集中します。すなわち、10社あれば上位3社に7割くらい需要が集まる大口顧客です。ナンバーワンを目指すには、これら地域最大の顧客との取引を強化していくことがポイントとなります。あなたの会社では、地域のリーダー的顧客を攻略しているでしょうか?そのリーダー
的大口顧客を攻略するには、次の2点が重要です。①三層営業を徹底する自社の幹部・上司・担当者と、相手先の幹部・上司・担当窓口との定期的な面談。②未取引先は、四回訪問の原則(193ページ〔*こちらを参照〕)で新規開拓する挨拶訪問・情報収集訪問・仮提案訪問・本提案訪問の4回で、見込み客をつくる。次に、ナンバーワン顧客づくりです。ナンバーワン顧客とは、顧客内シェアが1位であり、さらに2位を3倍以上引き離している顧客です。あなたの会社では何軒キープしていますか?しかし、顧客内シェアが100%ではかえって危険性が高まります。なぜなら、適度な競争状態にあったほうが、自分の会社の良さがわかりやすくなり、選んでもらえるからです。ナンバーワンエリアをつくる5原則――⑤固定化の原則「離脱客をなくす、フ・ニ・イ・キ作戦の展開を」顧客には、既存客・離脱客・休眠客・新規客・見込み客という5種類があります。この中で客数減にもっとも影響を与えるのが「離脱客」です。あなたの会社(店舗)では、1年間に何人くらい客離れが発生していますか?離脱客は、多いところで年間40%も発生しているところがあります(飲食店平均で20%)。戦略というと、基本的には攻めが中心となりがちですが、守りも非常に重要です。現在取引中の顧客が継続して会社の顧客となるよう、守りも固めなければなりません。そのためには、「顧客管理」と「マイナスのお客様対応」を見直すべきです。〔フ〕:顧客に不便をかけているところを、洗い出し改善する〔ニ〕:顧客に二度手間をかけているところを、洗い出し改善する〔イ〕:顧客にいやな思いをさせているところを、洗い出し改善する〔キ〕:顧客に嫌われているところを、洗い出し改善する挨拶をしない、目を見ないで話をする、品物のやり取りなどは1回ですまない……など、挙げたらきりがありません。既存客が固定客として繰り返し取引が続く関係をつくりたいものです。
⑤商圏戦略の方法商圏戦略では、自社の商圏の形や大きさを把握するのが前提です。商圏がわからないと、競合他社も確定できませんし、チラシの配布地域やポスティングする地域も間違ってしまいます。マップを使い、まず自社の商圏を知ることが必要です。商圏の形成は、地形・歴史・交通・メディア・人口移動・行政区分・学区などが大きく影響しています。また、店舗型の商圏やメーカー・卸ビジネスのテリトリーは都市圏の影響下にあるともいわれ、時間軸によって大きく6つに分けられます。〔最寄圏〕:徒歩で買い物ができる範囲の2キロ圏、15分前後の距離〔買回圏〕:バスや電車で15分の範囲にあり、10キロ圏で目的買いをする圏内〔通勤圏〕:バスや電車で1時間以内で、30キロ圏〔ドライブ圏〕:50、、〔トラック圏〕:70。〔工場立地圏〕:70
あなたの会社では、どのあたりまでを自社のテリトリーと考え、商圏をつかんでいるでしょうか?店舗型ビジネスの「商圏戦略」店舗型ビジネスの商圏では時間を重視します。たとえば、人の足で歩ける距離は、1分間に60メートルから90メートルです。店舗型は、時間軸の影響を受けます。次の、1次商圏・2次商圏・3次商圏は、前述の最寄商圏や買回商圏で活用され、顧客分布や競合店を把握するのに使います。〔1次商圏〕:確定商圏。アプローチさえすれば来てもらえる確率の高いエリア。日常の売り上げをつくってくれる顧客の居住地。頻度客が多い。名簿率30%が目標〔2次商圏〕:売上商圏。この商圏から売上シェアを算出する。確定商圏を少しでも広めるための、通常の販促商圏。売り上げを確保するために設定する商圏〔3次商圏〕:最大商圏。来店してもらえる確率のある商圏。2次商圏拡大のための、年に1、2回はチラシを投入するエリア
さらに、顧客を地図にプロットしていくと顧客マップができ、いろいろなことがわかってきます。たとえば、「北側に顧客が多くて、南側には少ない」というようなことです。ダメな会社ほど、商圏やテリトリーをつかんでいないことが多いものです。メーカー・卸売ビジネスの「テリトリー戦略」「地域情報はマップ化、グラフ化せよ」地域戦略は、テリトリー全体でナンバーワンになるための戦略です。狭い日本といえども、各地域には地域特性があり、画一的な戦略では機能しません。支社や支店、営業所などで、それぞれの地域特性にあった戦略を立案展開するのが望ましいでしょう(特性・市場構造・市場体質については次項で解説)。効果的な地域戦略を展開するには、年齢人口やその動向、地域の歴史、県民性、産業構造や業界という地域の特性をまず、つかむべきです。たとえば、若者人口が多い地域と高齢者人口が多い地域では、売れるものが違ってきます。同じ県内でも、漁業地域では金銭感覚が大雑把です。農業地域では保守的傾向が強く、公務員の多い県庁所在地ではブランド志向が強いのです。地域ナンバーワンになるためにはステップがあります。ここまでのことをまとめてみます。〔現状把握と細分化〕:顧客の多さ・広さと市場チェック→〔エリア特性分析〕:細分化した地域の特性把握→〔重点エリア決定〕:攻略する地域の決定地域情報は、マップ化やグラフ化で見えないものが見えてくるのです。
⑥地域戦略のためのノウハウ①七三構造地域は、需要が集中する地域と、分散する地域とに分かれます。そして、それら地域の区分としては、需要の7割が集中する地域と、3割が分散する地域になります。強者は、需要の7割が集中する地域で勝てなければなりません。それは、需要が集中している地域でシェアが確保できなければシェアアップすることがないからです。そのため、強者は強者の戦略である、広域戦・確率戦・総合主義で戦っていきます。一方、弱者は分散されている3割の地域で勝てば生き残ることができます。強者の参入が後まわしになるため、そのエリア内の一部でナンバーワンになれば安定して生き残れるからです。したがって、弱者の戦略は局地戦・接近戦・一騎討ち戦で戦っていくことになります。②死角・盲点死角とは、ランチェスター地域戦略においては弱者が勝つための地域になります。
地域戦略における常とう手段は「勝ちやすきに勝つ」ことですが、弱者にとって、この「勝ちやすきに勝つ」地域は狙い目です。そのような地域は、強者の目が届かず後まわしになる地域を指します。それが死角です。具体的には、以下のような地域が死角に該当します。・幹線道路・鉄道から離れている地域・島、半島、盆地、ポツンと離れた港町・川べりや山すそなど、いわゆる田舎やへんぴな場所強者は、都市部の人口の集中している地域を狙います。それは、市場が大きくて売り上げ・利益が取りやすいからです。しかし、そのような地域は競争も激しく、確率戦での戦いとなるので弱者には不向きです。ですから、弱者は競争が少なくてライバルとの局地戦や一騎討ち戦で戦いやすい死角を狙うべきなのです。では、すでに都市部に参入している弱者の場合には、いったいどこを狙えばよいのでしょうか?都市部でも、強者の盲点はあります。弱者ならば、そこに活路を見出すべきなのです。以下のような地域が、その盲点となります。・県、市、区などの境目・普通列車しか止まらない駅やその周辺・1級河川、幹線道路、鉄道などによって分断されている孤島的な地域(デルタ地域)・競合する強者の営業拠点から遠い地域・2等立地代表的な例としては、衣料品チェーン「しまむら」の出店戦略が参考になります。しまむらの本社は埼玉県さいたま市にありますが、店舗展開している立地は本社のあるさいたま市でも必ずしも1等立地ではなく、強者の死角や盲点の2等立地での出店が多く見受けられます。さいたま市の中心部といえば大宮駅の周辺一帯となりますが、そういった中心部を避け、おもに住宅街や県道、市道などに立地してドミナントを形成しています。これは一見すると、自社競合によって互いに食い合いすることを考えがちです。しかし、あくまでも自社の市場占有率を上げることでシェアを高めることを目的としており、局地戦に持ち込むのと同時に、顧客に近づくことでの接近戦が可能となっているのです。
これも、強者の盲点を突いた地域戦略上の差別化に当たるのです。③市場構造市場は、商圏の広がりにおける他地域との連動性から、「点の市場」「線の市場」「面の市場」という3つの構造に区分されます。・「点の市場」:島や盆地、半島、ポツンと離れた港町など、他地域と分断された、独立性の強い局地的で狭域な商圏・「線の市場」:街道沿いや沿線、海岸線、河川流域など、線でつながっている線域商圏・「面の市場」:大都市や平野部など、面的な広がりのある広域連動商圏そして、それぞれの市場のポイントととるべき戦略は、以下のとおりとなります。・「点の市場」:弱者向け。戦略は局地戦・接近戦・一騎討ち戦・「線の市場」:弱者から強者へのステップアップ地域・「面の市場」:強者向け。戦略は広域戦・確率戦・総合主義
④市場体質市場体質とは、その地域に住む住民の気質により、「うちもの」市場と「よそもの」市場に分けることを指します。・「うちもの」市場:田舎、古い城下町、門前町、郡部、農村部など、土着型で土着型の人の出入りが少ない排他的な地域を指す・「よそもの」市場:新興住宅地や宿場町、港町など、人の出入りが多く開放的で、ある意味では他人に対して無関心な地域を指すまた、それぞれの地域の市場性=市場体質としては、次のようなことが言えます。・「うちもの」市場:参入しにくいが、参入を果たすとシェアは安定する・「よそもの」市場:参入しやすいものの、シェアは不安定で、競争が激化しやすい市場参入に際しては、地域市場における以上のような体質をきちんと見分ける必要があります。
⑤市場攻略法ランチェスター地域戦略では、競争に勝ちやすい最重点地域を決めて攻略していきます。中長期的には地域攻略のシナリオが必要になります。そのノウハウとしては、以下の4つの攻略法があります。・三点攻略法・西側拠点説・北守南進論・点・線・面の市場このうち、地域攻略法における代表的な攻略法は、三点攻略法になります。三点攻略法は、地域戦略上でもっとも重要な地域攻略法なので、とくにとり上げて説明します。どの地域においても、市場参入していくときにはもっとも攻略したい本命地域は必ずあります。その本命地域にいきなり参入すると、すでに参入している競合他社との競争になるので、弱者の場合は競争に敗れて撤退することもありえます。そうではなく、本命地域を攻め入るのは最後にしておき、その地域を中心として、周囲を3つの点で囲うように包囲し、一つひとつ攻略していくという攻略法です。1つのエリアを攻略して次に移る目安は、そのエリアで40%以上のシェアを取れるか否
かが判断基準となります。シェアが40%に満たない状況で、次のエリアに参入してはいけません。あくまでもエリアのシェアを高めてから一つひとつ攻撃していくことを認識しましょう。〈三点攻略法の手順〉①自社にとって有利な地域(点の市場)を攻略し、シェア40%まで上げる↓②本命地域を意識した地域を、第2の地域として攻撃する。この地域は隣接する必要性はない。この地域もシェア40%以上にする。これで全体の20%ほどのシェアになる。点から線の市場が出来上がる↓③本命地域を囲うように、第3の地域を同じようにシェア40%になるまで攻撃する。こうすることで、線の市場から面の市場が出来上がる。全体のシェアも30%くらいまでになる↓④第1・2・3の拠点から、囲った本命地域に向けて物量戦をかけて全体のシェアが40%になるまで攻撃していく。こうすることで、本命地域を含めて地域ナンバーワン化を実現することができるこれが、最初の点から線になり、面で押さえる三点攻略法になります。名称は三点攻略法としていますが、別に3点にこだわる必要性はなく、4点・5点でもよいのです。このように、地域を中長期的に見て攻略していくシナリオ=戦略が必要なのです。
⑦シェアアップ戦略の立案(重点エリアの設定プロセス)ランチェスター地域戦略では、エリア全体でナンバーワンになるのが最終目標です。すでにエリア全体で1位となっている強者にとっては、この目標の実現可能性は高いでしょう。しかし、2位以下の弱者にとっては簡単なことではありません。では、弱者はいったいどうすればよいのでしょうか?ランチェスター地域戦略では、地域を細分化して小さなエリアを特定し、ナンバーワンを1つずつ重ねることを実践します。そのためには、ナンバーワンになりやすい重点エリアを選定しなければなりませんが、感覚で重点エリアを選ぶわけにはいきません。戦略の立案には情報が欠かせません。まず、データを集めて分析・意思決定し、行動を起こしましょう。〔ステップ1〕:、〔ステップ2〕:、〔ステップ3〕:、
それではこれらをどのように推進していくのか、具体的に説明してみましょう。*【ステップ1】自社の商圏分析:顧客・自社・競合他社からおおよそのシェアをつかむ戦略立案で重要な情報は、販売情報と地域情報の2つです。このうち販売情報とは、おもに競合他社に対する情報をいいます。これには、同一地域における全顧客数、商品別総需要、メーカー別、卸別シェア、セールス数などのほか、数値ではあらわせない顧客情報や競合他社情報などがあります。一方、地域情報は、人口や世帯数、商店数に所得、地域の風土や県民性などの情報です。エリアに圧倒的強者がいたとしても、その多くが女性向け商品である場合、男性向けでは勝てないかなど、情報を細分化すれば勝機を見つけることができます。【ステップ2】顧客マップ作成で商圏を再編成する:テリトリーを見直すエリア情報を調べたら、それを地図に落とし込みます。エリアの地図を準備して顧客をプロットします。たとえば、顧客内で自社が1位は青・2位は黄・3位は緑のシールを貼り、顧客の大小・ライバルの強弱を一目でわかるようにします。顧客の分布はどうか、自社地盤は強化されているかなどを地図にすると、さまざまなことが見えてきます。重要なことは、弱者は上位他社のエリアと一致させないことです。【ステップ3】自社商圏の細分化と重点エリアの設定をする:どこに第1点を打つか?自社商圏・テリトリーがつかめたら、地域を細分化して攻撃すべき重点エリアの絞り込みをします。これは10カ所以内程度を目安に区分します。次に、各エリアにおける市場規模を割り出します。需要が集中しているエリアと分散しているエリアがあるために、市場規模の差が大きく出るケースがあります。この場合には、市場規模が大きいエリアは2分割する、小さいエリアは2つを1つにまとめるなどの平準化によって調整をします。その差は数倍以内が目安です。このようにしてエリアを細分化したら、次は自社重点エリアの絞り込みをします。強者の場合は、成長性の高いエリアや県庁所在地、地域内最大の都市など、代表性のある地域を選びます。弱者の場合は、「ナンバーワンになりやすいエリア」を選びます。この際には、もっともシェアの高いところ、上位との差がもっとも少なくて逆転しやすいところ(上・下ライバルとの差、点の市場・うちもの地域を考え)を選びます。
Column事例10地域戦略・一点集中――株式会社諏訪商店――諏訪商店は、千葉県にこだわった特産品を中心に販売する「房の駅」を県内に6店舗展開している。小売業の苦戦が続く中「局地戦」を展開し、順調に業績を伸ばしてきた諏訪社長は、さらに3店舗を県内に出店する予定。房の駅で扱う商品は安くはないが、蔵のような江戸時代風の造りを特徴とし、店内装飾などにもこだわることで買い物をしやすい雰囲気になっている。また、県内各地の土産品から地場企業の醤油や味噌、自社開発の加工食品や菓子類、野菜など年間200品目の新商品が開発され、店頭に並ぶ食品はほとんどが試食できる。房の駅の顧客は県内の人が8割を占め、自分の住んでいる地域以外の特産品を購入している。このように、リピーターが多く地元住民に愛されていることも好業績の大きな要因となっている。
Column事例11ローラー調査で全数把握――某セミナールーム――過当競争下、後発にもかかわらず圧倒的な稼働率を誇るセミナールームがある。その実践ポイントは、フィールド内での徹底した顧客・競合調査にあった。一件一件訪問するローラー調査がその基本作業となるが、このやり方も、業種などによってさまざまな手法がある。このセミナールームは、まず自社が持つセミナールームの地域を細分化。競合がどこに存在し、そこはどんなサービスや料金体系で運営しているのか、また利用する顧客は誰か。これらの情報を徹底的に集めてきた。具体的には、エリア内のセミナールームに赴き、その日に利用している企業名などをチェックしていった。そこにダイレクトにアプローチするので、これが非常に効果的なことは容易に想像できるだろう。これを実践することで、このセミナールームの稼働率は格段に上昇したのだ。
第3章流通段階でのシェアアップを図る
①そもそも流通とは何か?商品が製造され、消費者の手に届くまでのルートをマーケティングチャネル、または流通経路といいます。製造業者と消費者とのあいだに中間業者(流通業者)が入り、いくつの業者(段階)が存在するかを見きわめる必要があります。中間業者の段階数をnとすると、さまざまな商品にはn段階の流通チャネルがあり、nを大きくするか小さくするかが流通戦略といえます。流通段階がもっとも少ないゼロ段階チャネルとは、メーカーから直接、ユーザーや消費者に販売するルートをいいます。通常、一般消費財においては流通チャネルnが大きくなり、商品の付加価値が高くなれば、nは小さくなる傾向があります。メーカーから見ると、nが大きいほうが代理店などの販売力を利用できますが、逆に、管理するのは大変になります。反対に、nを小さくするとメーカーは代理店などを管理しやすくなるものの、販売量を増やすためには直接販売をしなければならず、営業員の数を増やす必要があります。
②「マーケティング」の意味マーケティングとは、広い意味では「人や社会のニーズを把握し、それに応えること」、簡潔にいえば、「売れる仕組みづくり」のことです。よく、顧客ニーズなどといわれますが、ニーズとは「満たされていない欲求」であり、表にあらわれない潜在的な欲求も含まれます。モノが売れるためには、この顧客ニーズを把握し、顧客を満足させる価値を提供することが必要です。たとえば、「スポーツジムに通う」という行為のニーズは何でしょうか?これには、「健康でいたい」「体力をつけたい」「やせたい」「友だちが欲しい」などといった欲求を満たそうという目的があります。その目的を達成するための手段が、「スポーツジム」なのです。そして、顧客のニーズに対応することは、シェアの向上、および売り上げや利益を向上させることにつながります。
③流通とマーケティングの関係ランチェスター戦略における流通チャネル戦略は、弱者と強者とでは以下のように異なります。弱者の流通チャネル戦略としては、①差別化された新しいチャネルを開拓する②局地戦として、他社が1社しか入り込んでいないオンリーチャネルを狙う③接近戦として二次卸売業者を重視し、プッシュ戦略をとるなどがあります。強者の戦略としては、①広域戦として一次卸売業者を重視する②遠隔戦として広告宣伝などのプル戦略をとる③確率戦として、複数の代理店・特約店を同じテリトリーで競争させるなどがあります。
④直接販売と間接販売の特徴とバランスここでは、直接販売と間接販売におけるメリットやデメリットについて解説し、155ページ〔*こちらを参照〕の図のような各状況ではどのような戦略をとるべきかを整理しておきましょう。直接販売のメリット・間接販売のメリット直接販売のメリットは、流通経路の短縮によって生じる、①戦略を一貫させやすい②顧客ニーズを歪めることなく把握しやすいなどがあります。間接販売についてそのメリットを考える前に、卸売・小売などのチャネルの機能として、配給機能のみならず、①商品の整理と収集②貯蔵および保管③運送および配送④金融機能⑤危険負担⑥需要創造⑦セールスプロモーションがあります。したがって、これらの機能が、直接販売に対する優位性としてメリットになります。各状況における直接販売・間接販売の選択不況期は、顧客を訪問する直接販売、好況期では売り子の数のメリットを生かした間接販売が適切であり、成熟商品は、売上鈍化を克服するための直接販売、成長商品は、販売チャネルの数に物を言わせる間接販売が一般的戦略となります。これは、好況期、成長商品は、代理店や特約店の数の多さ、豊富なチャネルが物を言う
世界だからです。また、弱者は商品を直接販売し、強者は商品を間接販売するのが有利となります。直接販売と間接販売の比率の管理これまで述べてきたように、直接販売をとるべきか、あるいは間接販売をとるべきかについては画一的に決められません。そのため、景気の変動などへの対応を配慮した合理的な戦略としては、直間接比率が50:50が望ましいと言えます。そのうえで、「好況期には間接販売の比率を上げ、不況期には直接販売の比率を上げる」といったような方針をしっかりと持っておくことが何よりも重要になります。
⑤「市場シェア」とは何か?本書ではすでに、シェア1位が強者で、2位以下が弱者であることを述べましたが、ここでは、その市場シェアをどのように捉えるべきかを考えます。シェアについては、業種や業態によって生産シェア・流通シェア・市場シェアの3つの捉え方があります。市場シェアについては自社商品と競合している他社商品の定義を行ない、具体的かつ明確に区別しておく必要があります。競争関係は顧客の選択領域であり、自社の商品を選ぶか他社商品を買うかの選択です。たとえば、事務機にはパソコンや複写機、プリンターなどがありますが、これらをまとめて事務機器のシェアとして捉えるには大雑把です。また、複写機としてはやや大きすぎるが、カラー複写機で、スピードが毎分30枚以上の機種ではと絞り込んでいくと、自社と他社のシェア状況がつかみやすくなります。最近市場の伸びが大きいデジカメを例にすると、一眼レフ、コンパクトカメラ、ビデオカメラというジャンルでシェアをつかむのが妥当でしょう。
⑥市場シェアの調査方法本市場シェアの調査としては、業界と他社をどのように捉えるかが重要ですが、もう一つ大切なのは、金額(出荷・販売・保守など)なのか、台数(生産・販売・保有)なのかを区別することです。製品や商品の特性によっては、台数では捉えにくい面もありますが、基本的には、まず数量でシェアを算出し、他社に勝つことです。その後、金額ベースに転換して他社を圧倒します。さらに、機械などの生産財や車、複写機などの大型耐久商品は販売台数ベースでのフローシェア(流通シェア)、市場に稼動し登録されている保有台数ベースでのストックシェア(累積現有台数シェア)で調査する必要があります。たとえば、自家用車の販売台数(流通シェア)と登録台数(累積シェア)、また複写機ではフローシェアでの販売台数、ストックシェアでの稼働台数があります。製品・商品の特性に応じて二面性からシェアを調べる必要があります。
⑦ローラー調査で地域ナンバーワンへ市場の現状を把握するためには、まずローラー調査を行ない、情報を収集します。道路工事の現場でローラーを使い、すべてを押しつぶして平らにしている光景を見ることがありますが、このように、やり残しのないよう全数を調査することをローラー調査といいます。この手法では、偏りのない精度の高い情報が得られます。また、調査を自社社員で行なうことで、生の情報に触れ、市場に対する認識を新たにすることができます。自社が一般消費財のメーカーで、販社を経由して市場に商品を流しているとします。第2章で選んだ重点地域に対して、ローラー調査を行ないます。重点地域に存在する販社を一軒一軒訪問し、担当者から、自社商品・競合他社商品の売上高など、調査品目の販社での流通実態を調査します。
⑧ローラー調査を実施する方法ローラー調査は必ず自社の営業員が実施し、次の準備を行ないます。①調査対象とする自社商品および調査品目の決定②調査地域の選定③調査品目を取り扱う、販社のリスト作成④調査用紙⑤調査員名刺⑥携帯電話(カメラ、ボイスレコーダー付き)⑦お礼の品⑧その他一方、ロールプレイング(役割演技法)で、販売会社の担当者、調査員に扮し調査のシミュレーションを行ないます。その結果から、質問事項の整合性、時間配分などの確認を行ないます。1組2名で調査チームをつくり、1件の調査時間は約20分、1日10社ほど訪問する計画を組みます。調査期間は3日間程度。訪問件数が多い場合はチーム数を増やすか、地域をより細分化することによって対応します。1社の調査終了後、すぐにチームで調査結果をまとめます。これを繰り返し、リスト上の販売会社全数を調査します。訪問できない場合は、公表されているデータまたは過去に蓄積したデータで推測します。
⑨ラージABCで流通の実力を見るローラー調査で得たデータをABC分析手法で分析します。ABC分析は、流通の実力および偏りの度合いを分析する手法です。ABC分析図は、売上高の多い順に配列した棒グラフと、売上高の累積百分率(%)を示す折れ線グラフを重ね合わせた複合グラフで示します。累積百分率の70%までに含まれる販売会社をAクラス、70%を超え95%までに含まれる販売会社をBクラス、95%を超え100%までに含まれる販売会社をCクラスとします。A・B・Cの各クラスに含まれる販社数の比率が1対2対2程度のとき、安定的な姿とみなされています。もう一つ重要な指標として、取引店率(カバー率)があります。調査した販売会社の総数に対する、自社と取引している販売会社数の割合が取引店率です。販売会社はライバル社の商品を扱っている場合もあり一概に言えませんが、取引店率が大きいと市場シェアも大きいということができます。
⑩スモールabcdで競争地位を示す次は、調査品目を取り扱っている販売会社の中での自社の競争地位を分析します。分析結果はスモールabcdを用い、次のように分類します。aは、自社商品の得意先内シェアがナンバーワンである販売会社bは、自社も競合他社も含めてナンバーワンがいない販売会社cは、競合他社がナンバーワンである販売会社dは、自社が未取引の販売会社店内シェアとは、販売会社売上に占める自社商品の売り上げの割合のことです。ナンバーワンとは、自社が他社を店内シェアで射程距離圏外に引き離した場合をいいます。ラージABCとスモールabcdを組み合せ、たとえばAa店のように表示します。「Aa店率」とは、Aクラスの販売会社数に対するAa店数の割合のことです。
⑪シェアアップの目標値をつくる「構造シェア」この場合、ランチェスター戦略では構造シェアを用います。構造シェアは、左図の式に示したように、取引店率とAa店率から合成します。この式からわかるように、量の面を持つ取引店率と、質の面を持つAa店率に分けたシェアの計画づくりが可能となり、それぞれを増加させることで、市場シェアをアップすることができます。また、流通段階における取引店率とAa店率の把握から、最終市場シェアを推計することができます。なお、商品の特性やライフサイクル上の位置にもよりますが、競合他社の取引店率が上がる(併売率が高くなる)と、最終市場シェアよりも高めの結果が得られます。その補正のため、たとえば各社の平均取引店率が60%ほどになれば、取引店率の係数を0・4、Aa店率のそれを0・6にします。
⑫シェアアップ戦略を構築する方法ここまでで分析は終了しました。この後はシェアアップ戦略の構築です。まずは、流通戦略マトリックス(左図)を作成して戦略を立てます。マトリックスの左上が重要得意先、右下がウェイトを下げる得意先です。次に、目標とするシェアアップの数値を取引店率とAa店率に配分します。Aa店率を上げるには、Ab店またはBa店の中からAa店昇格の候補を選び、重点的に営業活動を行ないます。候補の選び方は、Ab店については、ナンバーワンになりやすいか、Ba店については、相手の売り上げを伸ばす支援活動を行ないやすいかが判断基準になります。取引店率を上げるには、未取引の販売会社の中から候補を選び、重点的に訪問活動を展開します。未取引の販売会社の新規開拓の詳細については第4章で述べますが、競合他社のオンリー顧客も候補の一つとなります。
Column事例12テレビ通販に販路を特化――株式会社三井コスメティックス――1月某夜、小林社長はテレビ通販番組出演のためショップチャンネルのスタジオへと向かう。1日数回にわたるライブを生放送で行なうために。三井コスメティックスは、独自にブレンドしたハーブ原液をそのまま製品化。発売から28年、累積100万本超を売り上げている「シミコンク」は、そのこだわりハーブ化粧品の代表格である。原料は社長自ら欧州各地を訪問、ハーブに最適な農園を探し求めて栽培契約を交わしている。三井コスメティックスは1998年からテレビ通販を開始し、ショップチャンネルで販売しているメーカーの中では現在、最古のブランドとなっている。スピードが求められるテレビ通販の中で、今なおトップレベルで居続けられたのは、変化に柔軟に対応してきた結果なのである。
Column事例13新しい製品の開発とチャネルの差別化――いなば食品株式会社――「、」社是、、、。稲葉社長は、自ら命名した「チャオ」ブランドを立ち上げ、原料の質の良さ、缶の容量、包装形態などで差別化をはかったが、外資系大企業が圧倒的に強いこの市場ではシェアを取れず、苦戦していた。そんななか、プレミアム・カテゴリーなどの各種高価格帯の商品を開発・発売したが、この新しいジャンルの商品は既存のチャネルである量販店やデパートなどを使うのみでなく、ペットショップでの販売も行なった。このチャネルでの認知度が上がるにつれ売上げも拡大し、高価格帯のセグメントにおいてはナンバーワンの圧倒的シェアを獲得している。
第4章営業員を〝科学的に〟管理する方法
①営業員攻撃量の法則営業員の行動にも、ランチェスターの法則を適用することができます。ランチェスターの第一法則は、戦闘力=武器効率×兵力数と展開することができましたが、これを営業行動に適用すると、営業攻撃量=平均訪問時間×平均訪問件数とあらわすことができます。この式は、個々の営業員が得意先に対して力を発揮するためには、訪問時間と訪問件数を増やすことが必要であることを示しています。また、営業所や支店といった単位で営業攻撃量を計算する場合、ランチェスターの第二法則が適用されるので、営業攻撃量=平均訪問時間×平均訪問件数の2乗となります。すなわち、組織単位で考えた場合、訪問件数のウェイトがより大きくなることを示しています。
営業員を数値的に管理しないと、業績の評価は単純な結果主義に陥ってしまう危険性があります。結果主義が当たりまえになると、営業員は月末に帳尻を合わせようとする後半主義や、8割の力でいつも行動してノルマのアップを避けようとする八掛け主義に陥ります。これは、営業員の自覚の責任というより、会社の管理体制の問題といえるでしょう。このような組織は、目標の未達成が常態化し、業績不振だけではなく、個々の営業員のモラールダウンや頻繁な退職につながる恐れもあります。しかも、その原因が究明されず、放置されるために、さらなる組織力の低下を招いてしまいます。結果主義に陥らないようにするためには、「営業員攻撃量の法則」のような原理原則にのっとった理論を持って、科学的に営業を捉えることが必要となります。
②時間管理の重要性「営業員攻撃量の法則」でも見たとおり、営業員が攻撃量をアップするためには、滞在時間と訪問件数を増加させることが必要となります。そのどちらを高めるにも、時間をうまくつくって営業活動の時間をつくり出すことが重要です。すなわち、時間管理の巧拙が業績をアップさせるカギとなります。時間管理を行なうためには、営業員それぞれが、自分自身の労働時間をどのように使っているのかを知る必要があります。そのため、業務記録を詳細につけてデータを収集します。こうした現実的なデータなしには、科学的な改善はできないのです。データが収集できれば、時間の使い方を吟味し、改善ポイントを見出します。それぞれの営業員には「訪問件数が多い」「滞在時間が長い」といった行動の癖といったものがありますが、データを押さえていれば、癖を捉えることも、それを具体的に改善していくことも難しいことではありません。一般的に、営業活動以外で時間を占めているのは次のとおりです。
①社内業務②社内会議③移動時間①の社内業務とは、日報の作成、営業準備、クレーム処理などを指します。組織全体で、なるべく社内業務を削減していく努力は必要ですが、こうした業務は、社内にいればいくらでも発生するので、午前中の顧客訪問時間を早めるなどして、社内にいないようにする工夫も有効です。②の社内会議を営業員が無視するわけにはいかないでしょうから、組織として時間短縮していく工夫が求められます。③の移動時間を減らすには、組織として営業員の担当テリトリーを狭めることが必要です。また、営業員自身も、訪問する順序やルートを工夫することで移動時間の短縮を図ることが必要です。誰にとっても時間は有限なものですから、時間管理の徹底が、営業員にとっても競争力の源泉となります。日本の営業員の営業生産性がアメリカの営業員にくらべて低いのは、労働時間の使い方にムダが多いということが田岡信夫の時代から指摘されています。
③訪問計画の必要性行き当たりばったりの営業行動では、訪問件数や得意先での滞在時間を増やすことはできません。行動のムダをなくして効率性を高めるためには、訪問計画を立てることが必要になります。その日一日、どのような順序で、どのような訪問ルートで、そして何件の得意先を訪問するかという計画を立てることにより、時間ロスや未訪問顧客を排除することができるのと同時に、営業員のモラールアップを図ることができます。得意先の訪問順序や滞在時間、訪問件数を決める際にも一定のルールがあります。どんなに強い企業であっても、すべての得意先を均等に訪問することは不可能ですから、優先順位をつけなければなりません。その前提となるのが、第3章でも取り上げた「ABC分析」です。一方の軸に販売店全体の売り上げが大きい順からABCにランク分けし、もう一方の軸に自社との取引額が大きい順からabcにランク分けします。すると、9つのマスが出来上がりますので、それぞれのマスごとに優先順位をつけることになります。
9つに分けるのは細かすぎるという場合には、「Aa、Ab、Ba」をAグループ、「Ac、Bb、Ca」をBグループ、「Bc、Cb、Cc」をCグループの3つに分類するという方法もあります。いずれにしろ、得意先ごとの優先順位をつけるためのルールをきちんと決めておくことが大切です。ABC分析が終わり、優先順位が決まれば、訪問順序、滞在時間、訪問回数を決定します。具体的には、A→B→Cの順番で訪問し、A→B→Cの順に滞在時間を多くとり、A→B→Cの順に訪問回数を多くしていきます。重要なことは、営業員の攻撃量を増やすための行動ルールを統一し、標準化することです。標準化することで、各人の行動を客観的に数値化して管理することが可能となります。訪問計画を意味あるものとして機能させるカギは、標準化です。
④新規開拓の効果的な方法営業員が業績を上げ続けていくためには、既存の得意先に向けた営業活動だけでは不十分です。つねに一定の割合で新規取引先を開拓していくことによって、得意先数や市場占拠率を維持・向上し、さらに業績を上げることが可能となるのです。しかし、市場が成熟した今日、得意先の新規開拓は容易なことではありません。この状況下で業績を上げるためには、漠然と営業するのではなく、戦略的に新規開拓に取り組むことが必要です。新規開拓をする際にも、やみくもに飛び込み営業をかけていたのでは効率が悪く、営業生産性を上げることはできません。ここでも、生産性を上げるためのカギは、営業活動の標準化となります。一般的に営業活動は、リストアップ、アプローチ、ヒアリング、プレゼンテーション、クロージング、アフターフォローの6つのプロセスに分類することができます。また、強者と弱者では、狙いうちの根拠が異なってきます。
それぞれのプロセスにおいて、やるべきことと持つべきスキルを明確にし、それを標準化することで、営業活動全体の品質を向上させることが可能となります。(1)リストアップリストアップとは、対象とすべき顧客の絞り込みのことを指します。いくら営業活動が熱心で優れていても、購入する気の低い顧客だけを相手にしていては、思ったような成績を上げられません。逆に、購入する気が高い顧客を相手にしていると、営業スキルが未熟でも、ある程度の成績は残せるはずです。その意味でも、もっとも成績に直結するのが、このリストアップというプロセスです。とくに、困難が予想される新規開拓営業においては、しっかりとした根拠のもとで「狙いうち」をすることが大切です。その「狙いうち」をする場合、①強者の目がまだ行き届いていないような地域や、顧客層にいる顧客を狙いうちする②「足下の敵攻撃の原則」に基づき、自分より弱い競合他社を狙いうちする③強者の商品とは差別化された商品を持って狙いうちする
などといった考え方があります。強者ならば、「確率戦」に持ち込むため、併売店や規模の大きい得意先を狙いうちします。逆に弱者ならば、「一騎討ち戦」に持ち込むため、オンリー顧客を狙いうちします。このように、リストアップはもっとも戦略的な要素が強いプロセスであり、その他の戦術的なプロセスよりも、より重視すべきものなのです。(2)アプローチアプローチとは、顧客への接触、つまり何らかの方法で顧客と直接コミュニケーションをとることです。ここで大事なことは、なるべく多くの顧客に接触すること、そして、接触した顧客との信頼関係をしっかり築いていくことです。新規開拓は、断られることが前提と言われるほど成功確率は低いのですが、何回か通っているうちに信頼関係を築いていけることも多いものです。かといって、見込みのない得意先ばかりに時間をかけていたのでは、著しく生産性を低下させてしまうことになります。そこで、新規開拓を行なう場合には「四回訪問の原則」を適用します。これは、どんな得意先に対しても、最低4回は訪問をしてから見込みのあるなしを判断せよという原則です。人は、はじめて会う人よりも何度か会っている人を信頼するという心理上の特性を持っています。その意味でも、1回や2回の拒絶であきらめるのは早計です。かといって、何度も通いつめたりするのはやはり非生産的なことです。得意先の本音と建前を見きわめるのに、4回は訪問することが適切だと考えてください。ここでも大切なことは、営業員個人の感覚に任せるのではなく、4回訪問を標準化して、組織全体のルールとすることです。それが、組織としての営業力向上につながるのです。また、顧客と信頼関係を築くためには「ハッピーコール」をうまく使うことも有効です。これは、マネージャーにとって重要な仕事の一つです。このハッピーコールは、通常の営業活動とは違って、目的を持たないあいさつ程度の訪問のことを指します。4回訪問をしてから見込みありと判断した得意先については、途中下車をしてふらりと立ち寄ったりといった、まさに無目的に見える訪問を取り入れることによって得意先の警戒感を解き、信頼関係を築く効果があります。
(3)ヒアリングヒアリングとは、顧客のニーズ(顧客の満たされない欲求)やウォンツ(製品やサービスを求める感情)を的確に聞き取ることです。ここでは、必要な情報を漏れなく聞き出すのと同時に、本音を引き出す深い聞き取りが重要です。もちろん、ヒアリングが機能するには、その得意先と一定の信頼関係を築くことができたという前提があります。漏れなく聞き出すためには、事前にヒアリングシート(質問状)を準備しておきます。ニーズを引き出すための質問内容は多岐にわたると思われるかもしれませんが、実際にはいくつかの質問項目に集約されます。顧客の受け答えに応じて臨機応変な質問を投げかけることも大切ですが、その前に、質問内容を標準化することで必要な情報の聞き漏らしをなくすことのほうが重要です。ただし、より深いニーズやウォンツを聞き出すには、相手の反応をよくうかがい、本音がどこにあるのかを掘り起こす質問スキルが必要になります。そのためには、ロールプレイングを行ないヒアリングの訓練をしておくべきです。
(4)プレゼンテーションプレゼンテーションとは、顧客のニーズにマッチするような商品やサービスの提案を行なうことです。ここでも、効率的に、数多くの企画提案を行なうのと同時に、相手の印象に残るような、強いインパクトを与えなければなりません。プレゼンテーションを効率化するためには、企画提案書をある程度統一して、あらかじめ準備しておくことが有効となります。得意先によって、提案内容は変えなければならないと感じるかもしれませんが、実際には、提供する商品やサービスが共通である以上、提案内容の大部分は共通化できる内容になっているはずです。いくつかのパターンに沿った企画提案書を準備しておいて、得意先のニーズに応じてカスタマイズできるようにしておけば、営業準備の時間が大幅に短縮されます。さらに、得意先に深い印象を残すようなインパクトある提案をするためには、臨場感や迫真性を演出するツールを準備しておくとよいでしょう。たとえば、その商品の使用状況を体験してもらう工夫や、実際に使ってもらう場面をつくることなどです。得意先の担当者が提案内容に興味を持ったならば、さまざまな質問を投げかけてくるは
ずです。仮に、提案のマイナス面を指摘するような質問であっても、興味を持っているからこそだと前向きに捉えてください。したがって、この段階の質問には誠実に丁寧に解答しなければなりません。あるいは、提案が顧客の心に響いていないと思われる場合は、プレゼンテーションが拙かったというよりは、ヒアリング段階でのニーズ把握が不十分であったと考えるべきです。したがって、提案を無理に押し通そうというよりは、ヒアリングに戻って質問をやり直すようにします。ヒアリング段階でのミスをプレゼンテーション段階で取り返すことは、まず不可能です。いさぎよく、前段階に戻る勇気を持ってください。
Column事例14地域戦略、営業員戦略を高度に活用――綜合電材株式会社――東京都足立区の住宅街に拠点を置く電気部品卸、綜合電材。国府田社長以下、社員皆がランチェスター戦略を習得し、日々の営業活動に生かし、シェアを着実に伸ばしている。事務所の壁には2種類の戦略マップを貼って得意先などが可視化されており、社員たちもその前で打ち合わせをすることが習慣となっている。「広域戦略マップ」は、大型工事案件に使用し、宛先と自社・競合他社の距離関係がひと目でわかり、攻めるか否かの判断基準が得られる。狙いは顧客の注文に即納できることで、これが大きな差別化につながっている。「近郊エリア戦略マップ」は、地域戦略で言う「地盤強化の原則」に則し、地元顧客への高度なサービスを展開するために使用、高い支持を得ている。戦略を社員皆がしっかりと実践し続けていることが同社の強みである。
(5)クロージングクロージングとは、契約締結のための行動です。顧客は、提案を受け入れようと気持ちを固めていたとしても、心理的に最後のためらいや迷いを覚えるものです。それを払拭して、そっと背中を後押しすることが、クロージングの役割で、顧客の反応をよく読み取り、細やかな気遣いで誠実に対応することが求められます。ただし、この段階でできることはわずかです。クロージングが上手くいかないのは、むしろプレゼンテーションやヒアリングが的確ではなかったと考えて、このプロセスで無理な努力はしないほうが賢明です。ごり押しするようなクロージングは好ましくありません。
(6)アフターフォローアフターフォローは、一度購入した顧客にリピートしてもらうための活動です。リピーターづくりは新規顧客開拓より楽な作業なので、これからの営業員が業績を上げるカギは、リピーター対策だといっても過言ではありません。しかし、多くの営業員が新規開拓には熱心でも、アフターフォローには無関心であることがほとんどです。せっかく新規開拓した顧客がリピーターとなり本当の得意先になるためには、営業員の地道な行動が必要不可欠です。アフターフォローがなければ、新規開拓は完成しないことを理解してください。そうはいっても、アフターフォローに欠ける営業組織が営業員の自覚に任せるだけなら、今までどおりになるでしょう。アフターフォローを組織として行なうなら、やはりその行動を標準化し、ルールとして規定することが必要です。たとえば、初受注の一定期間後に訪問する、あるいは手紙を送るなどのルールを決めて愚直に行なうこと。こうした地道な活動で、リピーターになる確率は着実に高まります。
⑤営業力向上のカギは〝科学的〟な管理ランチェスター戦略の生みの親、田岡信夫は、1972年に発表した「ランチェスター販売戦略」の中で、成熟期を迎える日本が今後、生産性を高めていくためには、営業に科学的な要素を入れていかなければならない。そして、科学的な営業を行なうためには、まず、営業作業の標準化を行なうことからはじめなければならないと書いています。そもそも、日本の製造業が世界一の生産効率を誇るようになったのは、製造工程を細かく分解し、それぞれの工程を極限まで効率化していった積み重ねから成り立っています。その根本には、デミング博士の作業標準化の思想がありました。ところが、世界を驚かすような作業の標準化、効率化が、これまで営業活動に生かされてこなかったことは残念なことでした。前項で書いた営業活動をプロセスに分解して標準化する方法は、新規開拓営業の場面だけに適用されるのではなく、すべての営業活動の品質を高めるうえでとても有効です。しかし実際のところ、営業の現場に出てみると、画一的な営業プロセスやパターンに当
Column事例15チーム営業でナンバーワン達成――ノバルティスファーマ株式会社――グローバル企業の開発力を生かして毎年革新的な新薬を発売し、ランチェスター戦略の活用で着実にシェアを伸ばしてきた医薬品メーカー・ノバルティスファーマ。同社のランチェスター戦略活用における特徴の一つが、担当エリア内のチーム営業の体制。1人の顧客に対して複数の医薬情報担当者(MR)が協働して活動する。これにより第二法則が支配する局面をつくり出し、ナンバーワン達成を早めている。約2500名のMRが、ランチェスター戦略の活用効果を遺憾なく発揮するためには、医師・薬剤師とのコミュニケーション能力の向上が非常に大事で、「上司マネージャー(営業所長)は、業績だけでなく部下のMRの育成責任も担い、トレーナーあるいはメンターとして日々、OJTやOFF/JTを繰り返しています」と、夏山教育研修部長は語る。
第5章時間軸に応じた戦略を行なう
①市場参入への基本方針企業活動として、製造業では顧客に安くてよいものを生産し、販売業では売れるものを安く仕入れることが当然のことです。そして、企業は市場が受け入れ、顧客ニーズを満たした商品を持つことが重要となります。企業が成長し存続していくには、自社の商品と受け入れる市場をつねに考えた戦略を打つ必要があります。市場参入というテーマになると、参考にできる理論としてアンゾフ博士のマトリックスフレーム=製品・市場マトリックスが参考になります。これは、事業拡大のためには2つの軸——水平軸としての「既存製品」と「新製品」、垂直軸としての「既存市場」と「新市場」——を考える必要があるということです。企業においては、成長するためには多角化が全社の戦略と考えることが必要ですが、一般的な企業では事業間の連携を考えて次の事業を考えていかないと大きなリスクとなります。
つまり、一つの事業で成功した企業は、まったく新しい事業に参入するのではなく、過去につくり上げた資産のうえに次の事業を展開するほうが成功確率も高くなります。ある市場が成熟し、他の方向へと進まざるを得なくなった企業がよく考えるのは、・同じ製品を他の市場で売れないか?・同じ市場で別の製品を売れないか?といった疑問です。しかし、ランチェスター戦略における市場参入の基本方針は、既存製品を既存市場にどのように参入したらよいかを考察していきます。
②市場参入の「5W1H」市場参入の基本は、自社の市場参入が先発か後発か。そして、もっとも重要なのが製品のプロダクトサイクル(導入期・成長期・成熟期・衰退期の4つの段階)での製品の時期を把握したうえで市場参入の戦略を考慮することです(プロダクトサイクルの各段階の特徴と市場参入の注意点は後述)。ランチェスターの市場参入戦略の基本は「弱者の戦略」が基本であり、とくに後発メーカーの場合は、プロダクトサイクルの段階を見きわめ、先発メーカーの状況と戦略を自社と相対的に見て、どのように差別化するかがカギとなります。反対に、先発メーカーはコストリーダーシップを発揮し、低価格競争も視野に入れた市場シェアアップを徹底的に図り、後発や新規メーカーに対して参入停止となるような障壁をつくる戦略を打つことが有利です。市場参入の基本的な考えとして、5W1Hの質問に対し冷静に検討する必要があります。・Why:「なぜ市場参入するのか?」自社の経営理念や事業ドメインに合致しているか?・What:「どの製品で市場参入するのか?」自社の経営資源(ヒト・モノ・カネ)を有効に生かせるか?とくに、ヒトの戦力化とやる気を引き出せるか?・Where:「どの地域に参入するのか?」弱者は点の市場重視で地域を絞れるか?・Who:「顧客は誰か?どんな客層か?」顧客のセグメンテーションとターゲティングはできているか?・When:「いつ市場参入するのか?」製品のライフサイクルの段階を把握しているか?先発か後発か?・How:「どのように市場参入するのか?」市場参入戦略は弱者の戦略であるが、その基本戦略を理解しているか?
③市場参入のプロセス企業にとって、どのような顧客にどのような製品を売るかということはもっとも基本的な活動です。そのためにも、自社製品を売る市場と顧客を明確にしておかなければなりません。「市場」とは、ニーズ(顧客の満たされない欲求)や、ウォンツ(製品やサービスを求める感情)を持った人々の集まりです。「セグメント」とは、その市場の中で共通のニーズを持ち、製品の認識の仕方、価値感、使用方法、購買の行動が似ている顧客集団をグループ化することです。「ターゲティング」とは、セグメントした顧客集団のグループの中から製品を買ってほしい顧客を具体的に決めることです。最近はとくに、社会や周囲の環境変化によって顧客ニーズが急変する可能性があります。そのため、市場をいくつかのグループに分けて細分化するセグメントや製品を売る具体的な相手とするターゲティングを見直したりする必要があります。
④市場参入のため、消費者の階層をどう分けるか?企業が製品を売る際、最終消費者の製品購入の態度に注目し、購入時期の早い順に5つに分ける方法があります(ロジャースのイノベータ理論)。①革新的な購入者(イノベータ):とにかく製品を早く手に入れたいと願う購入者で、全体の約2・5%と少ないが、製品普及の火付け役である②初期少数購入者(オピニオンリーダー):イノベータに次いで、他人より我先にと先駆けたい購入者で、全体の13・5%といわれる③前期多数購入者(アーリーマジョリティー):製品の普及につれ、他人に遅れを取りたくない購入者で、実績を重んじる傾向がある。全体の34%を占める④後期多数購入者(レイトマジョリティー):みんなが購入しているからとの理由付けにて購入する人々であり、全体の34%を占める⑤採用遅延者(ラガード):伝統主義的なやや頑固な一面もあり、普及と購入には直接結びつかない人々で、全体の16%といわれる
⑤市場参入のため、消費者階層に応じた価格戦略を新製品などの市場参入の戦略としては、基本的に2つの価格戦略が採用されます。1つ目は、製品をあえて低価格で販売し、市場に普及することを優先する戦略で、2つ目は、業界標準より製品価格を高く設定し、製品の高級感と希少価値を理解してもらう戦略です。前者はペネトレイティング・プライス(市場浸透価格戦略)といわれ、消費者階層でいうと前項③④の前期・後期購入者の合計68%に焦点を当てた価格戦略です。一方、後者はスキミング・プライス(上澄み吸収価格戦略)で、前項①の革新的購入者層と②の初期少数購入者層を狙った価格戦略。具体的事例として、ペネトレイティング・プライスの価格戦略はコピー機本体を安く売り、市場に普及させて保守料とトナーなどの消耗品ビジネスの拡大を狙う戦略です。さらに、スキミング・プライスの価格戦略の事例として発売当初の画期的新製品や高級感を出した製品、たとえば液晶テレビや電気自動車などがあります。
⑥「プロダクト・ライフサイクル理論」とは?プロダクト・ライフサイクル(PLC、製品ライフサイクル)は、商品(製品・サービス)が市場に投入されてから退出するまでを複数の段階に分ける考え方。最大のマーケティング効果を実現するために、製品ライフサイクルを的確に捉え、各段階の特性に即した戦略をとることがきわめて重要となります。PLC理論は、イギリスの数学者ベンジャミン・ゴンペルツの成長曲線(ゴンペルツ曲線)モデルに基づき、植物などの成長と同様、商品市場もS字状の成長曲線に沿って発展するとの考え方に基づきます。ランチェスター戦略では、商品市場の成長を「導入期」「成長期」「成熟期」「飽和期」「衰退期」の5段階に分け、各段階ではグー・パー・チョキの3つの市場参入戦略をとります。このPLC理論は、経験曲線効果とともにPPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)の根拠となる考え方として、経営計画や製品開発計画および市場参入などの事業戦略策定と意思決定での重要な考え方となっています。
⑦PLCの各段階における特徴と4つのポイントPLC曲線上には、各成長段階を特徴付ける4つのポイントがあります。最初に訪れるのが、導入期が終わる時点の「デシ・ピーク(DP)」。次に、成長期に入って一時的に横ばいになる時点の「プラトー」、3番目が成長期の終わりを示す「ターニングポイント(TP)」、4番目が成熟期のピークにくる飽和点の「ピーク(P)」です。これら4つのポイントは、先述の消費者階層とも密接な関係があります。PLC曲線は、市場参入のタイミング的進退の判断に重要となるのみならず、各消費者階層と市場の特徴に合わせた戦略的マーケティング設計へのガイドとなります。このように、これら4つの節目のタイミングにおける正確な市場・商品動向に対する判断と、各段階でとるべき適切な戦略の採択が、新規市場参入の成否を担う重要なカギとなります。
⑧PLCの各成長段階における特徴と対応①デシ・ピーク(DP)導入期の終わる時点で、文字どおりに、市場規模がピークの10分の1となる点を指します。利益はDP点を過ぎて成長期に入るところから計上されはじめます。このため後発企業としては、このDP点までは焦らず先発企業の動向と商品の動きをじっくりと観察し、十分に勝算を見きわめたうえで市場参入していくことがカギとなります。②プラトー(Plateau)プラトーは高原を意味し、何かの過程において、進歩・進展が一時的に止まって横ばいの状態になる一時的な停滞状態を指します。PLCにおいては、たいてい商品の普及率が10~15%に達した段階で起こります。プラトー現象が起こるのは、市場の参入方法と密接な関係があります。イノベーター層からの商品展開を図るスキミング・プライス(先述)を取ると、その上層の購買者による購入が一巡してしまうと一時的に普及が止まることによります。このプラトー現象の後、再び上昇に転じるケースとそのまま落ち込むケースがあり、この判断が新製品・事業の成否を大きく左右します。この判断は容易ではありませんが、プラトー現象が終わるとき(ポスト・プラトー)は先発企業の開発利益がようやく上向く時期といえます。すなわち、後発企業にとって、ポスト・プラトーのタイミングは市場参入戦略の大事なキーポイントとなります。③ターニングポイント(TP)成長期とその次にくる成熟期の境目がTP(転換点)で、たいてい商品の普及率が50~60%に達した時点でさしかかります。その判定はなかなか難しいのですが、ランチェスター戦略で一定の目安としているシンプルな3つの判断基準を紹介します。
⑨TP(転換点)判定の3つの判断基準その1:需要の伸びの鈍化金額の変化では一概に判断できません。データ処理の方法によっても異なってくる要素もありますが、一つには、数量(販売個数など)の伸び率の差などを変化の指標とし、その変化が鈍化するポイントを見出します。その2:先発と後発の占拠率の変化TPは、成長期と成熟期の境目となる転換点です。TPの当初、すなわち成長期の終盤では、先発商品と後発商品のシェアは50対50で均衡してきますが、ひとたび成熟期に入ると、先発商品のシェアは徐々に下がりはじめ、後発商品のシェアが上がってきます。このTPにおいて、先発企業と後発企業が、それぞれとるべき明確な戦略(ランチェスター戦略における「強者の戦略」「弱者の戦略」)については後述します。その3:参入の停止新規参入がほとんど止まってしまうのも、成熟期の特徴の一つです。この特徴はある条件を満たす市場に見られますが、その条件としては、先発企業がランチェスター戦略「強者の戦略」をとっていることが挙げられます。先発商品が圧倒的な市場占拠率の維持に努め、メインとなるチャネルを揺るぎなく押さえているなど、後発に対する参入障壁を築いている場合、成熟期における後発商品の参入は容易ではないといえます。【TPにおける戦略】・先発企業(強者)の戦略:徹底的な寡占化を図ります。値下げは避け、セールス・プロモーションなどの手段により、市場占拠率の維持向上に努めます。・後発企業(弱者)の戦略:先発のライフサイクルの段階を見きわめ、セグメンテーションを基本戦略とします。
短期化するプロダクト・ライフサイクルへの対応近年、開発技術や流通手段の向上により、製品開発が格段にスピードアップしてきています。さらにはIT技術の進化と普及により、市場や顧客の動向が瞬時に把握できるようになり、また、消費者の比較購入の自由度の高まりから急速に価格競争が進む時代となってきました。このような環境の中、現代のPLCはきわめて短期化してきています。米アップル社のビジネスモデル米アップル社は、2010年5月、その時価総額が2213億ドル(19兆9000億円)となり、米マイクロソフト社を抜きました。その株価は10年ほど前にくらべ、数十倍にも成長しています。このあいだに目覚ましい成長を遂げたグーグルですら5倍ほどであることにくらべると、じつに驚異的な発展といえます。この10年間では、数多くの金融破綻が生じ、大手企業の倒産も相次ぎ、世界的には不況といわれてきました。そのような中、なぜアップル社はこれほどまでに著しい成長と成功を続けているのでしょうか?
アップル社は、2001年、当時ソニーなど強者寡占状態にあった携帯音楽プレーヤー市場に、iPodでドラマチックな参入を果たしました。その後もiPhoneで、大手先発・競合がひしめく通信端末市場に参入、ついでiPadで再度、パソコンや書籍の市場を塗り替えはじめています。参入の際は後発、しかし、つねにイノベーターを意識し、サービスコンテンツとの一体化などで先発の強者に徹底的に差別化、そしてプロダクト・ミックスを維持しつつも、徹底したセグメンテーションで、参入時は一点集中。この短期化するPLC時代を綿密に分析した市場参入と製品開発戦略こそが、アップル社を中規模のパソコンメーカーから、市場を牽引・成功を続ける時代的企業へと進化を遂げた最大の秘訣ともいえるでしょう。
⑩導入期の「グーの戦略」導入期は市場の発達段階で、新技術や新製品によって市場が創出される場合もあります。したがって、この段階の基本目的は第一次需要をつくり出すことで、製品のメリットや他製品との優位性を迅速にアピールすることです。しかし先発メーカーとしては、競合他社がまだ存在せず需要が喚起できるか未定で、しかも製造やマーケティングコストがかかり、投資期間としてのリスクもその分多いと言えます。そのため、導入期の市場は小さいので、基本的戦略としてターゲット顧客は革新的購入者「イノベータ」と初期少数購入者「オピニオンリーダー」層に絞り、一本釣りのような直接販売で間口を絞り込んだ差別化・一点集中戦略=「グーの戦略」(手を握り締めた)を徹底することです。さらに、導入期の戦略的な思考として、製品の市場テスト、需要喚起テストなどのトライ&エラーを兼ねるため、製品改良や売り方変更などを柔軟に行なえるよう準備することも大切です。
⑪成長期の「パーの戦略」製品が市場に浸透すると、買い手は購入や製品の使用方法などに知恵付いてきますが、この段階で製品の差別化や競合製品との優位性を買い手にアピールする必要があります。つまり市場が拡大・多様化し、波及効果が出る状況で、企業の戦略としては導入期での差別化・一点集中主義=「グーの戦略」から拡大路線をイメージした「パーの戦略」(手のひらを広げた)をとります。顧客層としては、初期多数購入者層「アーリーマジョリティー」にも広がり、先発に加え後発メーカーも市場参入し、顧客獲得競争が激化します。その中で、先発メーカーは後発メーカーへの参入を困難にするため、顧客層に合わせた価格戦略をベースとして製品ラインを広げておくことがおもな戦略となります。一方の後発メーカーは、参入時期としてはPLC曲線のプラトー(もっとも高い段階)を見きわめ、技術的・機能的・デザインなどの優位性をアピールする差別化戦略で勝負することが有利となります。
⑫成熟期の「チョキの戦略」市場での製品普及率が60%を超えると、成長期から成熟期に突入し、販売量が増加しても売上の伸び率は停滞します。成熟期の戦略では、製品ライン、製品価格、販売地域・チャネルの集中と選択が必要とされ、切り捨てをイメージした「チョキの戦略」(指を2本出す)が重要です。客層も製品の普及とともに後期購入者層の「レイトマジョリティー」が増えて製品の差別化が困難となり、価格競争が激しくなります。成熟期を有利に戦うには、成長期にシェアを高めた企業・製品が有利で、ランチェスター戦略のナンバーワン企業は「強者の戦略」、2、3位は「弱者の戦略」と差別化戦略を徹底すべきです。この段階の市場参入者はあまりありませんが、地域・顧客・ニーズを見据えたニッチな市場で戦わざるを得ません。したがって、成熟期の戦略においては、ランチェスター戦略の基本をいかに生かし、市場での戦いを実践するかが大きなカギといえます。
⑬商品構成と多角化の技術ライフサイクルをそれぞれ異にする複数の事業や商品の組み合わせを多角化と呼びますが、この目的は次の2つです。①会社の安定的な成長②事業リスクへの対応ランチェスター戦略では、これらの課題への適切な対応を取るため、まず②のリスクを「風」にたとえて2つに分類します。①「不況の風」:不況により、市場規模が小さくなること②「占拠率の風」:法律が変わったり、社会的な価値観やライフスタイルの変化により、自社商品の市場が大幅に縮小すること(占拠率とはシェアのこと)これらのリスクおよびPLC上の推移にともない市場規模が変化することに対応し、商品構成を図のような角度に屏風を立てるのが好ましいと言えます。プラスC~マイナスCまでの構成比率は、正規分布の数値が根拠です。1つの商品や事業を見れば、時間の推移とともに図の左から右に移っていきます。
Column事例16多角化、占拠率の風――ナカシマプロペラグループ②――船舶用プロペラのメーカーとして圧倒的なシェアを誇るナカシマプロペラグループは、単品メーカーであるがゆえに、昭和40年代の造船不況の波をもろに被った。社員を大切にする社長は、このとき断腸の思いで社員数の削減を行なったが、その教訓から、本業を補完する事業として、労働集約型であるソフトウェア業に進出した。その後、工場見学に訪れた地元の医師のアドバイスを生かし、人工関節の製作に乗り出した。曲面が多くて製造が同じ、鋳造→機械加工→手仕上げという流れであることなど、プロペラと技術的なシナジーが大きく、現在では第2の柱として成長している。
おわりに●実践する際に高い成果を上げるための留意点本書の中でたびたび述べているように、ランチェスター戦略はシンプルでわかりやすく、しかも効果の大きい戦略です。ここで、実践する際に成果を高めるための留意点として、以下2つのことに触れておきます。一つは応用力(とくに「差別化」で)の点で、「商品・サービスの価値向上や、顧客との信頼関係の強化」をひたすら続ける職場風土の醸成が基本ですが、もう一つ「何をどのように差別化するのか?」のアイデア出しも重要です。ビジネスの能力として非常に重要な「アイデア出し」はセンスの領域になりますが、これも基本はまず職場内を創発的、活発な雰囲気にすることになります。なお、技法(この手順で進めればアイデアが出やすいというもの)としては、創造技法や問題解決技法と呼ばれる分野で手順が多数発表されています。一例に、本書59ページ〔*こちらを参照〕の下図に「チェックリスト法」として使えるよう差別化のヒントを例示しています。もちろん、問題意識を高めておけばニュースや本を目にしたり街を歩いているとき、アイデアの素材は蓄積されていくものです。2つ目は、実行の管理、つまりマネジメントの問題です。これも時折耳にする言葉ですが、「戦略にもとづいて計画を立てても、営業員や営業部門は守ってくれない」ことについてです。これは一般的なマネジメントとして、①営業員・営業部門の育成②評価・インセンティブシステムの設計と効果的な実行の管理が重要だと思います。また、目標達成の管理について、シェアが短期間で上昇することは稀であり、通常数カ月~数年かかることもありますが、その間は忍耐が必要になることをマネージャー・経営者は配慮してください(まずトップがランチェスター戦略の理解を進めるのも一つの方法)。ランチェスター戦略を導入し業績を伸ばしているある会社は、業績評価の項目を、「売上げの結果責任」は事業部門のトップのみにし、営業部門には評価項目を「計画と実施の結果」のみにした会社があり、その後の進展に興味を持っています。●F・W・ランチェスターと田岡信夫
ランチェスターは〝第二のダ・ヴィンチ〟と称されるほど多能で好奇心旺盛であり、ベンツ社の顧問でありながら飛行機にも興味を持ち、航空工学のエンジニアとしても大成しました。とくに第二法則への洞察は、翼性能を大きく発展させるヒントとなった有限翼と揚力の関係から得られています。のちに、飛行機が戦争に与える影響にも興味を持ち、双方の戦力と損害量のあいだにある関係を分析し、第一法則と第二法則にまとめました。シェアの目標数値の導出以降の理論は、同僚の斧田太公望氏との共同作業で、「地域戦略」~「市場参入戦略」の実践編は田岡が構築した体系なのに、「田岡の戦略」とは呼ばずに「ランチェスター戦略」と名づけたのは、卓越した思考力と見識を有したランチェスターに対する敬意のあらわれとも想像されます。最後になりましたが、数々の資料や情報を提供していただいた田岡佳子名誉会長、内容をチェックしていただいた竹端隆司理事長、いくつかの事例を提供していただいた当協会インストラクター名和田竜氏に心からお礼申し上げます。
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