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人材戦略

第7章では、未経験者でも利益を上げ続ける人材戦略に触れる。未経験者や新入社員を即戦力化する業務体制のつくり方、組織全体にコスト意識が芽生える「たった一つの方法」について紹介する。これまで多くの人から受けた質問、「なぜ、そんな小さな会社が時価総額1000億円もあるのか」「なぜ、若い社員がイキイキと働いているのか」などにも、きっちり答えるつもりだ。

当社は従業員一人あたり利益の大きさから、業務をアウトソーシングしているのではないかと思われることが多い。アウトソーシングして人数が減れば、一人あたり利益が増えるからだ。しかし、実際には、外部に出さず、ほぼ自前でやっている。コールセンター、広告運営も自前だ。数年前まで商品の梱包・出荷も自社で行っていたが、現在は倉庫のキャパシティがオーバーして、外部に委託している。アウトソーシングのデメリットは、全体最適を見たシームレスな業務改善ができなくなることだ。だから、外部委託していた業務でも、非効率になったら、自分たちで再度引き取って効率化を図っている。また、「利益が高いのは社員の給料を抑えているからだ」と言われることもある。これも固定費の削減、利益増加につながるからだ。

「ABC利益率」を把握し、新卒を即戦力化する当社では、新卒でも即戦力になるよう、業務体制の組み方を工夫している。これは経営者の重要な仕事だ。業務オペレーションの組み方によって、5段階利益管理のABC(アクティビティ・ベースド・コスティング)は変わる。ABC利益は、販売利益から商品ごとの人件費を引いて求める。ABC利益=販売利益-ABC(商品ごとの人件費)ABC利益率の動きを見ると、いかに適切な業務体制が構築されているかがわかる。ABC利益率を見ながら、業務オペレーションを改善し、人の配置を変えるのだ。

パンクには2種類ある。一つは宅配業者のパンク、もう一つは自社倉庫のパンクだ。

宅配業者は荷物を拠点に集めて振り分けるが、拠点のキャパシティを超えるとパンクする。そうなると荷物を引き受けてさえもらえない。自社倉庫の場合、注文が多すぎて出荷が間に合わなくなる。年末になると、カニの注文が殺到する。

注文件数が多い場合、作業工程を分け、分業にする。作業難易度に応じて人を割り振る。前述の工程を、次のように分解した。①注文票を印刷する②伝票に書かれた商品をピックアップする③ピックアップしたものを箱詰めする④送り状を貼り、出荷棚に置く①、③、④は誰でもすぐできる仕事。②はカニの種類がわからないとできない仕事だ。そこで②に経験者を集中的に配置し、①、③、④に臨時のアルバイトを配置する。急に注文が増えたら、注文票の印刷だけする人、商品のピックアップだけする人、箱に詰めるだけの人、出荷するだけの人と分けたほうが効率的だ。仕事には未経験でもすぐできるもの、熟練しないとできないものがある。そこに着目して人員を配置したのだ。セル方式、ベルトコンベア方式のメリットとデメリット

この考え方は様々な業務改善に応用できた。私が創業した頃は、ネット通販経験者がほとんどいない時代だった。そもそもネットでモノを買う人がいないのだから、ネットでモノを売る人はもっといない。採用しても経験者はいない。そこで、未経験者だけでも成果が挙がる組織づくりを考えた。Ⓐ、Ⓑ、Ⓒ、Ⓓの4つの部品から製品を組み立てる仕事があったとしよう。このとき、やり方は2つある。一つは図表38に示すセル方式だ。

一人ひとりが4工程をすべて受け持って製品をつくる。この場合、一人ひとりの裁量が大きく、仕事でモチベーションと責任感が高まる。同時に技能も大きく向上し、現場の活性化につながる。一方で、作業者が複数の技術を高いレベルで習得する必要があるので、教育に時間とコストがかかる。Ⓐ、Ⓑ、Ⓒを組み立てる3工程が得意でも、Ⓓを組み立てる工程が不得意だと作業の品質が下がる。もう一つは、図表39に示すベルトコンベア方式だ。

4工程の作業内容を分析し、それぞれ熟練者向きの仕事か、新人でもできる仕事か考える。また、各工程で求められる能力や技術を考える。適材適所で配置し、持ち場に特化して働いてもらう。この方式のメリットは、各人員が行う工程は範囲が狭いため、教育の時間とコストが抑えられる。4工程のうち一つできればいいので戦力化が早い。また、一つの工程に特化すると採用もしやすい。各自が得意な仕事に特化することで、全体のクオリティも高まる。その一方で、局所的な作業になるため、長い目で見たときに作業員の技量向上が望めない。単純作業になりがちなため、仕事への意欲が低下しやすいなどのデメリットもある。総合職社員中心とアルバイト・一般職社員中心では組織のつくり方は異なるセル方式、ベルトコンベア方式の考え方は、様々な業務で応用できる。

そもそも総合職社員中心の場合と、アルバイト・一般職社員中心の場合では、目的や組織のつくり方は異なる。総合職社員が中心の場合、会社や個人の成長、やりがいを目的にする。個々人の得意分野、苦手分野を洗い出し、どの仕事を誰がやるかを決める。個人の個性を重視し、メンバーが変わったら組合せも変える。この場合のメリットは、それぞれが得意な仕事に集中できるので、全体のパフォーマンスがアップする。本人も仕事が楽しい。デメリットは、仕事が細分化され、本人が意識しないと全体を理解することができない。スペシャリストは育ちやすいが、ゼネラリストが育ちにくい。得意なことしかしないので、苦手部分が克服できず、成長にバラツキが出る。特に、新入社員には配慮が必要だ。新入社員でも、ある分野に突出した能力を持っていれば、すぐに活躍できる。ただ、その他の仕事についても基礎的な部分は習得するよう研修を行う必要がある。自分がつくっている商品、自分が販売している商品がどのようにお客様に届いているか、お客様にどう思われているかなどを理解してもらう。カスタマーや物流も体験し、仕事全体の流れ、自分がどの部分を担っているかを考えてもらう。アルバイト・一般職社員が中心の組織の場合は、業務を目的ベースではなく、作業ベースで細分化する。おもに次の3つに分ける。①入社3日でもできる作業②ある程度わかっていないとできない作業③得意・不得意がはっきりしている作業(事務処理能力、文章を書く能力、アドリブ会話力など)これに分けてフローを組む。メリットは、一つひとつの作業は簡単なので、業務量が急増した際に、人数さえ増やせば対応できること。メンバーが辞めても、すぐに代わりができる。デメリットは少ない。カスタマー部門の改善ビフォー・アフター具体的に当社の改善例をシェアしよう。

当社のカスタマー部門の業務は多岐にわたっていた。受注処理、電話対応、メール返信、変更処理、解約処理、健康美容相談などだ。業務に必要なスキルが多く、社員の戦力化に時間がかかるのが悩みの種だった。電話対応のトーク力、メール対応の文章力、変更や解約処理を間違いなく行う事務処理能力、健康相談に答える知識などを身につけなくてはならない。注文が増えてくると、対応人数も増やさなくてはならない。新規採用した人がすべての仕事を身につけ、戦力になるまで1年半かかった。これでは注文を増やせない。ピーク時のカニの出荷と似た現象が起きた。私は業務の組立を考え直した。そもそもカスタマー部門の仕事をすべて一人でこなすのは無理だ。たとえば、電話対応はうまいが、メール対応は苦手な人。逆にメールではわかりやすい文章を書けるが、電話ではうまく話せない人もいた。人それぞれに得意・不得意がある。担当者によってサービスの質が違う。全仕事を一人でやるとミスが多発する。そこで次のように、カスタマー部門の仕事を作業ベースで分類し、各業務に適した能力を持つ人を配置した(図表40)。

【ビフォー】カスタマー部門スタッフ……受注処理、電話対応、メール返信、変更処理、解約処理、健康美容相談など↓【アフター】受注処理専門スタッフ……受注処理のみを行う。ミスが少なく事務処理ができる人を配属メール対応専門スタッフ……ちょっと調べればわかる範囲の問合せメールに対応する。採用試験で文章力をチェックし、文章力がある人を配属。一方で話す能力は求めない電話対応専門スタッフ……ちょっと調べればわかる範囲の問合せ電話に対応する。人と話すのが苦にならない人を配属解約専門スタッフ……解約処理のみを行う。人と話すのが苦にならない人を配属。入社2〜3日でできるので、派遣スタッフが対応商品カウンセリング課……商品、健康に関する相談のみに対応。管理栄養士など専門知識のある人を配属変更・対応専門スタッフ……メール対応専門スタッフや、電話対応専門スタッフが受けた変更や対応を処理。ミスが少なく事務処理ができる人を配属調査専門スタッフ……メール対応専門スタッフや、電話対応専門スタッフが受けた案件の調査を行う。全体を把握していないとできない未経験でも入社1週間で即戦力化する方法分類してみると、商品カウンセリング課と調査専門スタッフは高度な知識、スキル、経験が必要だ。それ以外は未経験者でも入社1週間で戦力化できる。補充も簡単だ。調査専門スタッフを補充する際も、ゼロから育てなくても、他部署で経験した人を異動させると戦力化が早い。これにより、商品カウンセリング課のサービスレベルが格段に上がった。

以前のお客様対応では、人によって商品や健康に関する知識にバラツキがあった。誰が対応するかによってサービスの質に差があったのだ。そこで管理栄養士などの専門家を採用し、お客様満足度を上げた。全員が得意なことに特化し、同じ業務量を少人数、短時間でこなせるようになった。作業ベースでの組織の構成は他部署でも行っている。システム部門では、「プログラムは書けるが、チェック漏れが多い人」が多かった。そこで既存メンバーはプログラム制作に専念してもらい、プログラムは書けないが、バグチェックが得意な人を採用して「チェック課」をつくった。広告部門の職種は広告制作、バナー制作、ウェブページ制作などがある。それぞれ求められる能力は異なる。広告制作では、キャッチコピーなどで目を惹く言葉を考えられること、ウェブページ制作では人を説得する文章力が必要だ。さらにウェブページ制作には「人目を惹くキャッチコピーや文章を考えるのは得意だが、デザインは苦手」「きれいなデザインはできるが、文章は苦手」という人がいたので、「ライティングディレクションチーム」と「デザインチーム」に分けた。重要なのは、目的ベースではなく、作業ベースで組織を構成すること。目的ベースで構成するのは幹部クラスのみだ。優秀な人がくるように会社を大きくする成長スパイラル私は創業から現在に至るまで、適正人数と適正業務量を常に考えてきた。適正人数とは業務量的に採算の合う適切な人数をいう。創業初期は売上も利益も低いので6人だった(図表41)。

職種を、①制作、②カスタマー、③商品開発、④システム、⑤経理、⑥集客の6つに分け、一職種を一人で行っていた。だが実際には、カスタマー一つを見ても、①問合せメール対応、②問合せ電話対応、③テンプレート作成など、10種類程度の業務がある。各職種に10ずつ業務があるとすれば、合計の対応業務数は60にもなる。一職種を一人で行う段階では、一人ひとりに要求する能力は10だ。10種類の仕事があり、すべてできてほしい。総業務量は少なくても、10種類くらいの仕事ができるオールマイティな能力が求められる。ところが、企業規模が小さく不安定で待遇も悪いため、そんなオールマイティな人はきてくれない。対応業務数が60の場合、仕事を回すのに適正な人数は60人。社員を60人まで増やす必要がある(図表42)。

各業務に担当が一人いる状態だ。一人は1種類の仕事ができればよく、そうすれば、一人に要求する能力は半分くらいに下がる。一方で、会社の規模が大きくなると、優秀な人が採用できるようになり、日常業務は問題なく回る。だから、「60人採用しても採算が合う」状態を目指さなければならないのだ。さらに、組織が大きくなり、社員180人になるとどうか(図表43)。

対応業務数60は変わらないから、一つの業務を3人で行える。一つの業務を3人で行うので、みんなでカバーし合える。企業規模が大きくなると、さらに応募者のレベルが上がる。一つの業務に3人いるので切磋琢磨、相乗効果が起きる。余剰能力が生まれ、さらなる成長の原動力になる。こうして考えてみると、組織をつくる手順がわかる。まず、社員に対する要求能力を下げる仕組みをつくることだ。要求能力が高いままだと、社員がパンクして定着しない。要求能力を下げるには、マニュアル化とともに、一業務一人状態を目指してなんとか会社を大きくするしかない。ここが一番の踏ん張りどころだ。6人から60人の時期は踏ん張るしかない。会社が大きくなり、優秀な人が入ってくると、組織で業務が回り出す。組織力で大きくなり、さらに優秀な人によってますます会社が大きくなる。優秀な人がきてくれれば、会社が大きくなるわけではない。優秀な人がきてくれるように会社を大きくするのだ。改善の第一歩は、鳥の目で業務を俯瞰すること業務改善を図る場合、業務全体の流れを鳥の目で俯瞰する必要がある。客観的な目で見るとわかりやすいので、第三者にチェックしてもらうのがいい。以前、当社のベテラン社員が諸事情で退職することになり、その人の業務をどう引き継ぐか問題になった。その人には「経験がないと判断できない」と思われる仕事が集中しており、経験の浅い社員が引き継ぐことは難しそうだった。仕方なく、私がいったん引き継ぐことになった。業務内容を聞いていると、その人が経験に基づいてケース・バイ・ケースで判断していることも、実はほとんどパターン化できることに気づいた。そこで、その人の仕事を全部洗い出してマニュアル化すると、アルバイトでもできる仕事になった。マニュアルをつくっていなかったから、ベテラン社員の経験値に基づく判断が必要なのであって、マニュアルをつくっていれば、実は誰にでもできる仕事だった。ベテランのせっかくの豊富な経験を、マニュアルをつくっていないことで無駄遣いしてしまっていたことに大変申し訳なく思った。このようにベテランにしかできないと思われる業務も、客観的に見直す機会をつくると、マニュアル化して誰でもできる仕事に変換できる可能性がある。5段階利益管理のABC利益率に注目すると、「ここに問題があるのではないか」と数字がアラートしてくれる。商品ごとに利益管理をすると、売上が高く販促費もかかっていないが、ABCが高いために利益が出ていない場合がある。これは社員の手間がかかりすぎているので、この部分を業務改善する必要がある。部下を変えようとしない。作業を変えよう業務がスムーズにいかない場合、マネジャーは担当者の能力のせいにしがちだ。だが、実際には「このやり方でいいのか」と考えたほうが解決は早い。私は新人マネジャーに「自分を変えることはできるけれど、他人を変えることはできない」と話している。マネジャーになると、部下に仕事を与える。たとえば、採用業務をしていたマネジャーがその仕事を部下に引き継いだとしよう。部下がなかなか仕事ができないときに、「いつまで経ってもできない」「変わらない」とイライラする。そんなとき、私はこんな話をする。「あなたは成長したけれど、私に変えられて成長したわけではないでしょう?自分で成長したと思っているでしょう?」人は自分の意志でしか変わらない。人が劇的に変わるのは多くて10年に一回。普通は20年に一回くらい。それが今年起きる確率は10分の1か、20分の1。そんな10分の1の確率にかけて仕事をするのはおかしい。

「人は変わらない」という前提で、仕事の仕組みを考えるべきだ。一人に全部やってもらおうとしてもできないなら、その人が得意なことだけやる仕組みにする。部下が変わるのではなく、マネジャーが仕事を仕組み化する能力をつけることだ。採用業務には、「求人媒体社と商談する」「応募者の反応がいい求人広告をつくる」「大量の応募者を説明会、面接に振り分ける」「面接して人の資質や能力を見極める」などの実務があるが、それぞれ求められる能力は違う。それを一人の部下に任せるのではなく、4つの業務に分け、それぞれに適した人に振り分けてみる。常に業務を俯瞰的にとらえ、仕組みを再構築する能力がマネジャーには求められるのだ。

優秀な人材の見極め方求人広告「しゃべらない接客業」への意外な反応作業ベースでの業務分類を始めたのは2010年頃だった。前述したように、カスタマー業務が一人前にできるまでに時間がかかるのが悩みだった。一人ひとりの仕事の様子を見ると、電話対応はうまいが、メールは苦手という社員がいた。電話では言われたことにパッパッと答えているが、伝えるべきことを整理して相手にメールを書くのに時間がかかった。一方、わかりやすいメールは書けるのに、いつも電話では緊張してしまい、予期せぬ質問をされると、しどろもどろになる人もいた。そこでカスタマー業務を分類し、必要な能力のある人を募集した。メール対応スタッフは「しゃべらない接客業」とコピーを変えて募集してみた。「お客様に直接会わなくてもいい、電話もしない顧客対応スタッフです」という求人広告に予想を超える応募があり、優秀な人を採用できた。情報を整理して相手に伝わるよう構成する能力が必要なので、採用試験では「こういうトラブルが起きました。これについてお詫びのメールを書いてください」という課題を出した。採用した人たちはメールの文章がうまいので、今では総合職社員が文章をチェックしてもらうほどだ。商品カウンセリング課は、健康や美容の相談がおもな仕事なので、管理栄養士、コスメコンシェルジュなどの資格がある人を採用した。受注処理専門スタッフ、変更・対応専門スタッフなどは、事務処理能力の正確さが求められる。独自のケアレスミスチェックテストをつくり、その成績優秀者を採用した。たとえば、左右に並んだ、アルファベットと数字のランダムな文字列の違いを探すなどの課題を出す。ここでは注意力を試している。

「IQ130」の人材を採る方法仕事がデジタル化するにつれ、従来より採用はとても重要になった。デジタルの世界で頑張っていこうという人は、旧態依然の「大手企業」に行きたいと思っていない。自分自身の活躍の場を求め、当社のような企業にくる。だからこそ、私はその期待に応えたい。当社には、広告運用を専門的に行う職種がある。各広告媒体が独自に持つAIのアルゴリズムを読み解き、広告運用を「北の達人流」に最適化する。言うなれば「AIに指示を出す人」だ。AIのアルゴリズムを理解してアドテクノロジーをうまく活用すれば、ターゲットにピンポイントで訴求できるので、無駄な広告配信を極限まで抑えられる。この職種に向いているのが、数学的アルゴリズム(計算や問題を解くための一定の手順)に秀でた人だ。広告が配信されるアルゴリズムを理解しながら、そこに合わせてチューニングする。

アルゴリズム分析が得意な人を採用する際、私は並んだ数字や図形から法則性を見出すIQ(知能指数)テストに注目した。データから法則を見つけてチューニングする仕事に似ていると考え、社内の広告運用担当者たちにやってもらうと、IQの平均が134だった。このレベルの人をどうしたら採用できるか。一般に、IQが20離れると、会話がかみ合わなくなるという。IQ130の人は一般人と会話が合わない。おそらくこれまでに生きにくさを感じていたことだろう。そこでおもいきって「IQ130の仲間がいますよ」と求人広告を出してみた。すると優秀な人が集まってきた。IQテストを行い、面接して採用した。このように、どの職種にどんな能力が必要かを考えたうえで、その能力がある人を採用する方法を考える。テストは自社開発することもあるし、外部のテストを活用することもある。

仕事に対する価値観は多種多様と思い知った倉庫アルバイトでの会話

実は、特産品のネット通販を始める前に、別の事業で起業を志したことがあった。だが、それはうまくいかず、すぐに財布の中身が50円になってしまった。ごはんが食べられない。とにかく働かなくてはならない。ただし起業について考える脳の体力は温存したい。そこで倉庫でのアルバイトを選んだ。そこはアパレル会社の倉庫だった。半年に一回大量に入荷があり、営業の人の指示に従って梱包して百貨店などに送る。返品があれば処理する。昼間はアルバイトをして、夜はネット通販の準備をした。アルバイト仲間はいい人ばかりだった。だが、自分とは異なる仕事に対する価値観を持つ人も多かった。私は当時、「自分の仕事に対する価値観は普通」だと考えていた。「ちょっといい大学を出て、リクルートという大手企業に入った。中の上くらいの世界で生きている」だが、その感覚は普通でないということに気づかされた。アルバイト先には、25歳で一度も正社員として就職をしたことがない人がいた。高校を卒業するときに就職先を決めることなく、卒業後に「これからどうしようかと考えた」という。「あなたは就職しないの?」「将来は就職しようと思っている」私は内心「25歳って、もう『将来』じゃないのか」と思った。頭の回転の非常に速い19歳の女性がいた。倉庫は大阪の中心地から少し離れた場所にあったので、「あなたは大阪の中心地で働ける能力があるのに、なぜここで働いているの?梅田に行ったら、もっと給料の高い仕事があるよ」「だって自転車で行けないでしょ」私は驚いた。さらに彼女はこう続けた。「木下さんは神戸の出身なのに、なんで大阪の大学に行ったの?そんなに遠い大学に行くなんて意味がわかんない」その女性は自分の家の近所で活動するのが普通だと思っていた。私は自分が今まで狭い価値観の中で生きてきたことを感じた。各自、全然価値観は違うが、みんないい人でみんな幸せそうだった。働き方は人それぞれでいい。自分が幸せを実感できるのが一番いいのだ。

「給料が1万2000円高い」より「ランチ無料」が響く人この経験が現在の採用に活きていると思う。総合職、業務職、アルバイトを募集するとき、それぞれの価値観に合う募集広告をつくっている。一般的に求人広告を制作する人は総合職の人が多い。自分の価値観で募集広告をつくるから「キャリアアップできる」といったコピーを書く。しかし、アルバイトの中にはキャリアアップを求めていない人も多く、コピーに目が留まらない。通常、総合職募集時には「保険完備」というコピーは書かない。総合職の場合、保険完備は当たり前だからだ。だが、パート・アルバイト募集時には、「保険完備」が売りになる。パート・アルバイトなどの短時間労働者でも、法律上は条件を満たせば社会保険に加入することができるが、実際には加入していない人も多い。総合職、業務職、パート・アルバイトなど職種によって会社に求めるものは違う。そこで求人広告をつくるときには、福利厚生欄を職種によって変える。たとえば、総合職を募集する際は、「社長が直接教える研修制度」を目立たせる。すると、「一代で東証一部上場企業を創った当社社長が自ら講師となる一流のビジネスパーソンになるための『一流塾』」というコピーに興味を持った人、私から直接最新のウェブマーケティングを学びたい人が応募してくる。アルバイトを募集する際は、「勤務地が駅から近い」「ランチ無料」「保険完備」「残業なし」を目立たせる。特に「ランチ無料」は札幌でも話題になっている。東京都内ではランチ無料の会社は増えているが、地方ではまだまだ少ない。社員が知人に会社名を言ったら、「あのランチ無料の会社だね」と言われたという。新型コロナが流行する前はバイキング形式のランチだったが、コロナ禍で弁当にしている。生姜焼きやハンバーグなどの肉料理や、焼き魚やムニエルなどの魚料理の主菜と、野菜などの副菜もついているので、栄養バランスもいい。

だから、お昼に「おいしくて温かいごはんが無料で食べられる」と社員に好評だ。ランチの原価は1食600円くらいなので、20営業日で月1万2000円ほど。給料が1万2000円高いより「ランチ無料」のほうが響く人もいる。私は、倉庫のアルバイトで出会った人たちの生活実態や話を聞いて、いろいろな学びがあった。人の価値観は時代とともに変わっていくから、常に聞き取りが大切だ。だからこそ、総合職、業務職、パート・アルバイトの人に募集広告のキャッチコピーを見てもらい、どんなところに興味が湧くかをいつも聞いている。

社員と会社の理念を共有する「GOOD&NEW」の何が効果的か創業間もない頃、朝礼に「GOOD&NEW」と「クレド」を導入することにした。当時は私とアルバイト3人の計4人だった。「GOOD&NEW」は24時間以内に起きた「よかったこと(GOOD)」や「新しい発見(NEW)」を一人1分ずつ話して全員で共有し、拍手をする取り組みだ。組織やチームの活性化、アイスブレイクなどを目的に、アメリカの教育学者ピーター・クライン氏によって開発された。導入には理由があった。

毎朝4人で打合せをしていたが、私とAさん、私とBさん、私とCさんという「社長と各アルバイト」の一対一の関係になってしまうので、個人的に直接指示された業務はきちんとやるが、全体への指示には関心が薄く、自分以外の人への指示は聞いていないという問題があった。たとえば、「今日はこんな注文が入るから気をつけてね」と言っても、「聞いていなかった」と言い出す。「いや、あなたの目の前で言いましたよ。Aさんは聞いていましたよね」「はい、聞いています」「自分には関係ないと思ったので、聞いていませんでした」こんな光景が日常茶飯事だったのだ。「GOOD&NEW」の手順は次のとおりだ。13〜5人のグループに分かれる2ボールなど手に持てるアイテムを誰か一人が持つ3ボールを持っている人が話す4話し終わったら話し手以外が拍手する5話していない人にボールを手渡す6全員が話すまで繰り返す7最後の人が「今日もよろしくお願いします!」と言って終了する「GOOD&NEW」をやり始めると、3日くらいで社内の雰囲気が変わった。それまで同僚に対する興味がみんな薄かったが、「GOOD&NEW」で情報共有すると、互いを仲間として認識し始めた。今までは私から指示されたことだけをやっていたが、アルバイト同士で会話をするようになった。「Aさん、この商品はどうなっていた?」「それは昼に納品されるよ」と質問や確認ができるようになり、ガラッと雰囲気が変わった。私は、スタッフがコミュニケーションを図る仕掛けは、会社が準備すべきことだと気づいた。「GOOD&NEW」には「何事もなかった日でも物事のよい面を見つける癖をつける」という目的もある。当社の場合、24時間以内に起きた面白かったことを共有するネタ合戦のようになっていたが、スタッフ間のつながりも強くなった。現在でも、朝礼の時間に全社員が6、7人のチームに分かれて「GOOD&NEW」を行っている。朝礼のときにタイマーを使い、一人1分ずつ話し、みんなで拍手する。最近では、多くの職場で人の動きが流動的だ。あまり知らない人、初めて出会った人と即席のチームをつくって働くこともある。そのような場合でも、「GOOD&NEW」をやってみると、コミュニケーションが取りやすくなる。人を育てる毎朝30分の「クレド」の習慣「GOOD&NEW」と同時期に「クレド」を導入した。

クレドは「企業活動が拠りどころとする価値観・行動規範を簡潔に表した言葉」のこと。アメリカの大手企業ジョンソン・エンド・ジョンソンが考案し、全世界に広まった。当社では、「北の達人コーポレーションが大切にすべき価値観」をクレドにまとめている。全社共通項目が18、部署別項目が2〜5ある。これを毎朝、各部署で1項目ずつ読み上げ、該当項目への自分の意見やエピソードを一人ずつ言い合う。代表的な項目に、「お客様からのご注文の一件一件は、我々から見れば数千件のうちの一件でも、そのお客様にとっては何日も悩んだ末に、多大な期待とともに申し込んだ思い入れのあるご注文です。よって今回のご注文がそのお客様にとって頼んでよかったと最高の出来事になるよう決して気を抜くことなく、いつまでも一期一会の精神と最高のサービスで接します」がある。創業し、初めて注文をいただいたとき、「この人はどうやってうちのサイトを見つけ、商品を買うためにお金を払ってもいいと思ってくれたのだろう」と考えた。注文が本当にありがたかった。だが、1日の注文数が増えてくると、そんな気持ちが薄れてくる。お客様からクレームがあったとき、「1000人のお客様のうちの一人がクレームを言っているだけ。0・1%だから問題ではない」と考えてしまう。でもそれは断じて違う。こちらから見たら0・1%だが、そのお客様から見れば100%だ。届いた一つの商品に不満があったら、100%不満だ。特にネットビジネスでお客様とダイレクトに接していないと、このことを忘れがちになる。

人は同じ時間に同じ内容を6回聞くと理解する

お客様一人ひとりとの関係を、大切にすることを確認するためにクレドがある。クレドは経営理念を浸透させるのに有効だ。リクルートで企業研修の担当をしているとき、「経営理念が社員に伝わらない」と経営者の悩みをよく聞いていた。すでに言語化された経営理念を見てもピンとこない。言語にたどり着くまでに、どんな経営理念がいいかを考え、まとめていくプロセスに意味がある。だから社員全員で再度会社の理念をつくる。すると、そのプロセスに関わっている人は理念が腹落ちする。ただ、その後に入社してきた人はやっぱり他人ごとだ。理念を浸透させようと、いい方法を探していたときに知ったのがクレドだ。人は同じ時間に同じ内容を6回聞くと理解するという。当社のクレドは20項目あるので、1か月(20営業日)でクレドの全項目が一巡する。それを6か月やると、同じ内容を6回聞いたことになり、クレドが身についてくる。毎朝貴重な30分を、クレドと「GOOD&NEW」に使う。これはかなりの人件費を使ったことになるが、その分の効果を実感している。

組織全体にコスト意識が芽生える「コスト削減キャンペーン」月間150万円、年間1800万円のコストを削減した秘策利益を上げるには、売上を上げるよりコスト削減のほうが早い。当社はもともとコスト意識が高いほうだと思うが、あることを始めてから一気に意識が高まった。それは「コスト削減キャンペーン」である。年一回、管理職(決裁者)7、8人が集まって「コスト削減委員会」を組織し、聖域なしでコスト削減の議論を行う。5段階利益管理の経費項目で言えば、原価、注文連動費、販促費、ABC、運営費の5つすべてが対象だ。当社は100億円の売上で利益は29億円。つまり、71億円の支払いがあるのだ。年間71億円、いろいろな経費を払っている。そこで年一回、一つひとつの支払いを全部見直している。支払台帳を管理職が見直し、削減できそうな経費をリストアップする。たとえば、物流部門では、月に約15万件出荷している。一件一件の梱包物には、納品書、定期購入案内、商品説明リーフレットなど、様々なものが同梱されている。1枚10円の同封物が2種類あったとき、合体させて1枚にし、一件につき10円の注文連動費を削減した。このとき事前に「合体させて問題ないか」を議論した。強引なコストカットが目的ではない。経費が利益に結びついているかを考えることが重要だ。一枚10円のチラシを入れた価値を、様々な角度でシミュレーションしながら徹底的に議論したが、「合体させることで問題が起きるかどうかは、やってみなければわからない」という結論になった。「この2枚を1枚に合体させ、1年経って問題あるなら戻そう」これで月間約150万円、年間1800万円程度のコスト削減になった。また、注文に関する説明書とFAX注文用紙を合体させ、5円のコスト削減を図ったこともある。FAXによる注文数を調べると、近年はほとんどなかった。だが、完全にFAXによる注文を受けつけなくなると機会ロスになるので、注文の説明書の裏側につけた。5円減るだけで、年間900万円もコストが減った。1年後に問題の有無を検証するが、今まで元に戻した施策はない。「応接室の花は2万円の赤字」仮説を検証する社内で応接室の花について議論したこともある。花には月1万円のリース代を支払っている。「なぜ花を置いているのだろうか」「花があると心地いいからだろう」「誰の心地よさがどのように会社のメリットとつながっているのだろうか」などと考える。すると、「採用面接で応接室を使うので、内定を出したときの受諾率が上がるかもしれない」といった仮説が出てきた。「何%くらい上がると思う?」「仮に1%上がるとすると、年間採用経費はいくらだ?」「年間採用経費は1000万円。内定受諾率が1%上昇すれば、10万円分、効率化される」「この花は年間10万円の価値を提供しているけれど、コストは月1万円だから年間12万円。ということは、2万円の赤字だ」「では、他にこの花が役立っていることはないか」と深掘りする。答えが完全にわかることはなくても、一つひとつ仮説を立て、投資効果を検証する癖をつける。何も考えず、なんとなくやり続けるのが一番いけない。

1億円のコストダウンをする方法削減された項目を5段階利益管理で示された5つのコストに当てはめて考えてみよう。前述の同封物は注文連動費の削減につながり、花は運営費の削減につながった。ABCと運営費を同時に削減したのが次の例だ。当社には週一回、社員の自主清掃の時間がある。最初は雑巾で掃除をしていた。自分の身の回り、共有部分を雑巾で拭く。これが「コスト削減委員会」の協議事項に上がった。「雑巾で掃除すると、掃除後の洗う時間、干す場所の家賃がかかり無駄ではないか。使い捨ての掃除用ペーパータオルのほうがコスト削減できるのではないか」そこで両者を比較した。雑巾を使用した場合は、掃除後に洗う時間に対する人件費がかかる。その時間で利益に貢献する別の仕事ができるだろう。洗った雑巾が乾くまで干しているスペースの家賃がかかる。これは社屋の面積に占める割合、月間家賃に占める時間から算出できた。もしその時間、そのスペースに雑巾がなければ、もっと利益に貢献できる使い方ができるかもしれない。掃除用ペーパータオルは、一人が一回何枚使用するか、1か月では何枚使用するかでコストが計算できる。結局、後者のほうが安いとわかり、雑巾からペーパータオルに変えた。他にも、仕入れ先の見直しは原価削減につながる。だから定期的に行っている。規模が小さいときに取引を始めた仕入れ先は、小ロットが前提の高い単価であることが多い。そのまま発注数が増えると、支払いが高額になる。そこで見積りを取り直したり、仕入れ先を見直したりすることで、1億円程度の原価の削減ができることがある。また、決済手数料は大きな注文連動費だ。年間100億円の売上に対して実は莫大な決済手数料がかかっている。2〜3%とすると、カード決済手数料を年間2〜3億円払っている。それを交渉し、0・1%減っただけでも、1000万円の注文連動費の削減になる。このように様々なコスト削減策を考え、年間1〜3億円のコスト削減アイデアが出る。

「コスト削減キャンペーン」の真の狙いコスト削減キャンペーンを経験すると、社員のコスト意識が高くなる。無駄な発注が極端に減る。決裁者は、新しくコストをかける稟議申請が回ってきたとき、「これに経費を使ったら、今年のコスト削減キャンペーンの議題に上がるのではないか」とすぐ頭に浮かぶようになる。同時に、毎年様々なコスト削減手法を経験しているので、「この施策は、こうすることで経費をかけずにできないか」「この施策とこの施策を同時に行うことで、半分のコストでできないか」「この施策の費用対効果はどう考えているのか」など、稟議のたびに、コスト削減キャンペーンレベルで判断できるようになる。一度、コスト削減キャンペーンに本気で関わった管理職は、適切な決裁をするようになる。その姿勢により、全部署にコスト意識が伝わっていく。

このようにして徹底して無駄金を使わない組織ができるのだ。この話を友人の経営者との情報交換や講演などでよく話す。そして多くの経営者が自社で実施したことで絶大な効果があったことを報告してくれる。この「コスト削減キャンペーン」は、ぜひ今すぐやってほしい。

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