38人の値うちというものほんとうの人の値うちというものは、任せてみないと分からない。任せてみて、初めて分かる。そういうものである。 ――長いあいだ、経営者として会社を守ってきましたが、年をとったこともあり、そろそろ引退しようと考えています。そこでだれに会社を引き継いでもらおうかと社内を見まわしてみると、どれも〝帯に短し襷に長し〟で、会社の将来を考えると不安でなりません。後継者を選ぶ基準についてアドバイスをお願いします。松下 皆さんもそうだと思うんですが、自分がほんとうに安心し、これなら大丈夫というような結論は、私は実際はありえないと思うんです。まず、六〇パーセントはやれるだろう、あるいは七〇パーセントぐらいはやれるだろうというような範囲しか、私はお考えになれないと思うんです。 なかには、これはもう一〇〇パーセントおれ以上だという人を見いだすこともありましょうけれども、さてそういう人に任せてみると、案外うまくいかないという場合がある。だから、ほんとうの人の値うちというものは、やってみないと分からないんですね。つまり独立させてみて、そして任せてみて初めてその成果というものが分かる。 まあ、この人であれば将来重役になると思うような人がありましても、さて実際に重役になったときに間に合うかどうかということは分かりません。それほど人間が人を見るということは頼りないものです、実際は。私はそう思うんです。 しかし、いまのお尋ねに具体的にお返事しないといけませんから申しますが、私は、六〇パーセントの可能性があれば、まず事を決するというようにしてきたんです。かりにその人を部長にするにも、課長にするにも、六〇パーセント可能性があると思ったら、やったらいいということでやってきたんです。 そして使ってみると、六〇パーセントの可能性があると思ったが、案外五〇パーセントしかない人もあります。しかし、六〇パーセントだから、まあいいだろうと思ってやったところが、課長として八〇パーセントの成績やなあというような人もあります。使ってみないことには分からないということです。 皆さんが日々、後継者ということでなくても、一つの役柄を決めるという場合に、お迷いになると思うんです。これはもう迷うのがほんとうですよ。八卦見が「あんたはいつまで生きます」と言うたかて、生きたためしがないというぐらいで、当たりませんわ。 八卦見で分からんのに、われわれみたいな者が分かるわけありませんわ。(笑)だから、〝ああ、これは六〇パーセントぐらいかな〟と判断されたら、あとは冒険ですな、私はそう思うんです。あとはもう冒険である。 私は会長になりましたときに、「自分は会長になった以上は、もう会社に出勤しない。週に一回だけ出るが、あとはいっさい出勤しない」と言った。それは二頭政治になっちゃいけない、二頭政治をやると、六〇パーセントやと思っても五五パーセントになるかもわからない、これはいかんと思ったので、私はその日にそれを全社員に言明したんです。「自分は会長になった以上は、いっさい会社に出勤しないという方針をとりたいけども、そうはいかんから、原則として週に一回出勤する。あとは新社長を中心として諸君が努力してもらいたい」と、就任のあいさつで私は言明したんです。 そうしたら、みなびっくりしたわけです。しかし結果は、それでよかったと思うんです。そうするともう、どうしてもこうしても、その責任の地位にあたらねばならんということになりますし、また他の幹部も、どうしても新社長を守り立ててやらねばいかんということになり、いわゆる背水の陣をしくということになります。幸い、それがよかったと申しますか、その後ずっとそれを実行しております。〔一九六三〕
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