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24  世論とどう対峙するか

24世論とどう対峙するか平時は世論に従う。しかし、非常時にあっては、世論に反して行動しなければならないときがある。そのときの情勢に立って、考え、決心する。大事に臨んで決することができないようではいけない。松下  男たるものは進退が非常に大事である。退くべきときに退く、進むべきときには進む。それが適正でない場合には過つ、ということをよく言いますわな。やはり、そういうことやと思うんです。だから今、この不況というものに対して、自分はどういう手をとるかということ。自分の進退というのは、辞めるとか辞めないやなくして、どういう采配を振るかという問題ですわな。それが進退ですわな。そういうことができるかできないかということですね。それが随所にできないといかんわけです。  例になるかどうか分かりませんけど、今日、世論に従うということがありますわな。世論というものは大事なものである。政治家といえども、世論に抗することはできない。だから世論に従っていけば間違いない。これは、平時にあって、そうやと思うんです。  しかし、信長が桶狭間の戦いのときには、あれは世論に反したんですよ。そのときの皆の意見は、全部籠城であったんです。むこうが二万の大軍でね、わずか二千の軍をもって平地に出てやったら負けるにちがいない、だから籠城してもちこたえるあいだに、どういう味方が現れるかもわからない。負けるに決まったような平地の戦争をやめて、籠城しようというのが、そのときの世論であったわけです。つまり、すべての家来の世論は、籠城して時を稼ごうということであったんですね。  ところが信長は、その世論に反したんです。「そうか、おまえらそう思うのやったら、そうせい。わしは一人だけ行く」と言うて、行ったんですわ。だから、進退というものは、信長には分かっておったわけです。世論には分からなかったんですな。信長一人だけは、籠城したら、もう負けるにちがいない、勝負は時の運、いっぺんやってみようということで、万が一と決めたのが、当たったわけですわ。世論に反して、勝ったんです。  そういう例一つをとってみても、経営者というものはおおむね世論に従う。世論のうえに立って采配を振っていくことはよろしい。しかし、ときには世論に反してやることが必要やということですな。それが見えるか見えんかという問題ですな。  これは私、非常に大事なものだと思うんです。まあ分かったような分からんような話をするようですけどね。われわれは、平時にあっては、常に世論のうえに立ってやって間違いない。しかし、非常時にあっては、世論に反して行動することが生きる道であることもありうるということですね。だから、そのときの情勢に立って、ものを考えねばいけない、決心せねばならん。  その決することをようやらん者は、経営者としてあかんと思うんです。経営者は決することだけですよ。軍師は戦の方法を知っているわけです。こうしたら勝つとか負けるとかというようにね。しかし、戦をするとかせんとかということは、これは大将が決めるんですわ。やるかやらんかということは、軍師では決まらないですよ。大将が決めないとしょうがないですな。  大将が戦をやると決めたら、それじゃいちばん効率的な戦をするために、「おまえ考えよ」と軍師に言うたらいいわけですな。戦をするかせんかということは大将が決めないといかん。  ぼくは経営者も、そういうもんやと思うんですね。決意すらできない者、大事に処して意思決定のできない者は経営者やない。こういう考え方を、はっきりもっていないといかんですね。大事に臨んだ場合には、経営者は決することをやらないといかんですね。その心がまえを常に養っていないといかん。常に養っておらんとそれができないんですね。大事に及んで迷うわけですな。  平時は小さいことにも迷う。「わしも分からん」と、こう言うていい。それでも事ないですわ。  しかし大事な場合には、そんなことをしたらあかん。大事な場合は自分で考えて、「よっしゃ、これこうせい」と即座に言えないといけませんな。大事に臨んですぐに言えるというためには、これは常に自分というものを養っておかなければいけないですね。  商売というもの、あるいは経営というもの、国家経営というものは、厳しいものが一面なければならない。しかし、そう毎日厳しいわけやない。平生は事なければ、それでよろしい。「まあ、そこは適当にやってください」と言うたらよろしい。  しかし、これは大事にいたるぞという場合にはね、ぴしっとやるものがなかったらあかん。われわれの会社の経営でもそうですわな。それなくしては多くの人に喜びを与えることはできない。経営者というのは、そういうものです。〔一九六七〕

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