20正しい者が最後は勝つどんなに競争が激しいときでも、行く道はある。約束を正しく実行することで、信用はついてくる。松下 これは戦争前の話ですが、ソケットの原価が十銭かかるんです。それを八銭で売るんですよ。そうしたら二銭損でしょう。日本に製造する会社が五、六軒しかないんですよ。私どももその一つです。これではあんまりもったいないやないか、ということで協調したわけです。 で、各会社の社長さんが来て、みな調印したんですよ。独禁法も何もないときですから、要するに五軒なら五軒が申し合わせたら、万事そのとおりできるんです。それで調印して、いついつからそれを実行するということになったわけです。それで私は、いやしくも男たるものが記名連判したんやから実行しようと思って、チャッと実行したわけです。 それから二、三カ月たってから、代理店会議を開いたんですよ。そうしたらぼくに対して非常に囂々たる非難です。どういう非難かというと、「松下はけしからん。あなたがたは今度協調したらしいけれども、せめて一万個なり二万個なりは、どこも前の値段でみな〝勉強〟してくれるんだ。ところがきみのところだけはどうしてもしない。もうけしからんと思うているのだ、今まであれだけきみのところをひいきにしてやったのに。きょうはうんと不足を言おうと思ってやってきたのや」と、こう言うわけですわ。 そのときにぼくはどう言うたか。ぼくはそれを聞いて驚いたわけですね。みなやっていると思っていたのに、やっておらんのですからね。やっているけども、今度協調のために高くするから、今のうちに二万個買うてくれとか、一万個買うてくれと言うて、前の値にするということを、みなやっているわけですわ。やらんのはうちだけですわ。それでは憤慨するのは当たり前ですわ。特にうちに力を入れているところは憤慨しますわな。そういうことがあったんです。 それでぼくは、「よく分かりました。皆さんの立場になって考えれば、そういう憤慨をなさるのは当然の話です。しかしこれにはこういう事情があります。何月何日に東京で各社の社長が寄って記名連判した。男と男の約束をしたんです。そしてそれを実行したのが私です。みんなも実行していると思ったが、皆さんの話によると、よそは実行しておらない。私は松下は偉いと思う」と言うたんです、お得意先にね。「そういう約束を実行する松下電器というものに、皆さんが不足を言うておられる。こういう連判したものを実行したのは私であるということを知ってもらいたい。そういうように約束を正しく実行する者を頼みになさるんであれば、今後も売ってください。そんな約束を守るやつはけしからんというのであったら、私はもう取引してもらわんでよろしい」とやってやったんです。 そうしたらみんな、「よう分かった。そう言われたらそうやなあ」ということで、一言もありませんわ。それから私に対する信頼が篤くなった。それからぐっと私のほうは重きをなしたわけです。そうなると私が信用を博するために皆が損をしてくれたのと一緒ですわな。(笑)そういうことです。商売というのは面白いもんですよ。 人間というものは、欲ばかりではいかんのですわ。それをやることの正しさというのは認めてくれるんです。私はそのとき瞬間に思ったですよ。〝ああよそはやらんのか。頼りないやっちゃなあ〟と。私は非常に誇りを感じたんです。で、その誇りを感じたとおりにバッと言うたわけです。皆さんがそういう松下電器を信頼されるのか信頼されないのか、私は皆さんとの約束もこのとおり守ると。そういう話をしたらいっぺんに信用絶大で、儲けているのは私がいちばん儲けているんや。(笑) そのときに、そういう競争の激しいときでも、行く道があると私は思ったんです。結局、正しい者が最後は勝つというのは、そういうことが結びつくということですね。〔一九六二〕
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