06「まだまだ素直さが足りない」と思っているとらわれない心のために「素直さ、謙虚さ」を磨く「自分は素直な人間だ」と胸を張っているような人がいたら、それは、本当の素直さや謙虚さにはまだまだ遠いと言わざるを得ません。 「素直さ」とは何なのか「素直さ」というと、どんなイメージがありますか? 従順で、逆らわずによく言うことを聞く子どもを「素直だね」と言ったりしますが、本来、素直とは従順なことではありません。 素直さとは、なんの偏見も思い込みもない、とらわれない心の状態のことです。 松下幸之助さんは、素直な心をたいへん大事にされていて、「各界各分野の指導者の立場にある人びとにとっては、素直な心をもつということがまず第一に肝要なことだ」「指導者に素直な心があれば、物事の正しい実相をつかむことができます」と言っています。 また、「自分はぜひ素直な心になりたい、というようなことを朝夕くり返し心に思い浮かべていく」「きのうの行ない、きょうの行ないに素直な心が働いていたかどうかをよく検討し、反省をする」とも言い、「そういう姿を一年、二年、三年と続けて、約三十年を経たならば、やがては素直の初段ともいうべき段階に到達することもできるのではないかと思うのです」とまでおっしゃっています。「素直な心」になる道は、そのくらい厳しく、難しいということなのです。 経営者になぜ「素直さ」が必要なのか 例えば、仕事のうえで経験も積み、実績も上げ、自信もついてくると、人が何か言ってくれても「いや、これでいいんだ」と撥ね返してしまうことがあります。自分のほうが正しいと思い込み、そこに疑問を持とうとしないまま、撥ねつけてしまう。もちろん、原理原則や生き方を十分に学んだ人が、そちらに照らしてダメだというのなら、まだ理はあります。しかし、それでも、相手から学ぶことはあるのです。 相手の言葉を受け入れることができないのは、素直さがないからです。 言い換えれば、勝手な思い込みにとらわれているのです。 自分には知らないこと、分からないことがたくさんある、ひょっとしたら大事なアドバイスかもしれない、という気持ちで耳を傾けられるか。 それが大事なアドバイスかどうかは、聞いてみないと分からないわけです。 素直でなければ、人の知恵を活かせない。 若いころは、けっこうみんな素直に人の話を聞こうとします。知識も経験も浅い。逆にいうと、思い込みもないので、素直になれるのです。 やがて仕事に慣れ、自信がついてくる。経験が豊富になり、地位が上がると、だんだん「他の人よりも自分のほうがよく分かっている」という気になりやすくなります。 経営者ともなると、会社で一番権限を持ち、諸々の決断を下す立場です。 経験を積むほど、年を重ねるほど、素直さを失ってしまいやすいのです。 松下幸之助さんは言っています。「素直さを失ったとき、逆境は卑屈を生み、順境は自惚を生む」 順境であっても、逆境であっても、素直な心を失ってしまったら、判断を誤る。失敗するのです。経営者が判断を誤って失敗したら──ヘタをすれば、会社はつぶれます。 素直さという言葉は、簡単に使われますが、奥はとてつもなく深いものです。 自分は賢い、何でも知っていると思っている人は、勉強しようとしないものです。まだ知らないことばかりだ、もっと知りたいと思うから勉強しなくては、と思う。 同じように、自分はもう十分素直だと思っている人は、素直さが伸びないのです。だから、自分はまだまだ素直さが足りない、と思っていたほうがいいのです。
謙虚、素直でありたいと努力する人が成功する 素直さと謙虚さは深くつながっています。「社長、社長」と呼ばれていると、知らず知らずのうちに自分が偉くなったような気になってしまうのです。そして、傲慢になったり、横柄になったりしてしまう人がいます。これは謙虚さの対極です。 謙虚さのない人は、人を受け入れようとする姿勢がないので、素直さもありません。 とくに権威主義の人は始末が悪い。地位や立場を笠に着て威圧的に振る舞い、人の言うことに耳を貸さなくなります。 いかにして、そうならないようにするか。 謙虚であり続けよう、素直でありたいと努力をし続けることです。 素直でありたいと思っている人は、偉ぶろうとしません。 肩書にこだわらず、誰に対しても気さくに、謙虚に接することを心がけています。 そうしないと、自分を伸ばせず、また、能力のある人に出会うチャンスを逸してしまうからです。 もちろん、いつも有益な話ばかりとは限りません。すべてを鵜呑みにして受け入れていいわけではなく、「これは受け入れるに値することだろうか?」と吟味しなくてはいけません。そのためには、自身で生き方や原理原則を学ばなければならないのです。 逆に、自分の中に価値観の基準を持ち、日々たくさんの情報に触れ、素直なとらわれない気持ちを持っていれば、吟味する目も磨かれていくでしょう。 いろいろな人の話を聞いて、まずは受け入れ、そこから吟味して大事なことを吸収していく。素直な人は、どんどん成長していけます。 素直で謙虚であることは、人間の器もどんどん広げて大きくしていける。 また、気さくに話をよく聞いて、コミュニケーションがとれていれば、人がますます協力してくれるようになります。 そして、素直というのは、受け入れるとともに、それに前向きに対応することだとも松下さんは述べておられます。 素直であることは、成功するための大切な条件なのです。 謙虚で素直な人は「畏れる存在」を持っている 成功している経営者の中には、信心深い方やゲン担ぎをされる方がけっこういます。 私は、それは素直さや謙虚さと関係しているのではないかと思っています。 成功している人は、自分の力だけで現在があるとは思っていません。運だとか、巡り合わせといったものの恩恵に助けられていると思っているので、「自分は運が良かっただけだ」とよく言います。つまり、感謝や畏敬の気持ちを強く持っているのです。 実は、これがとても大切なことで、人間ではコントロールできない偉大な力があると思っていれば、謙虚にならざるを得ません。 自分の非力さを感じ、畏れる気持ちを持っていれば常に謙虚でいられます。自分たちで何でもコントロールできるような気になってしまうと、ろくなことになりません。「実るほど、首を垂れる稲穂かな」ですね。 Point「自分はまだ素直さが全然足りない」と謙虚な気持ちでいないと、素直さは伸びない。
複雑な世の中を複雑なまま理解する思考力を高める 私たちは、どんどん「分かりやすさ」や「簡便さ」を求めるようになっています。 簡単に分かること、簡単にできることが好まれるようになっていますが、これが要注意なのです。本も読みやすい本が好まれますし、日常生活においても、自動改札機やコンビニでの電子マネー決済など、とても簡単です。 しかし、世の中は、実際は複雑です。経営者には複雑なことを複雑なままに理解する能力が必要なのです。 勉強すればするほど、分からないことが増えますが、それが大切なのです。 それには、「どこが分からないか」を理解できる必要があるのです。本当に大事なのはこのことです。素直さ、謙虚さで言ったように、「自分には理解できないことがある」と思っていることが、真摯に学ぼうという意欲を高めるのです。 私は、ときどき、評判の良い難解な本を読むことにしています。理解力を高めるためです。自分が理解できていないことは何か、分からないこと、知らないことは何かを学びながら、理解力を高め、本当に自分の知識にするためです。 難しい本は 1回読むだけでなく、 2度、 3度と読み返すことになります。そうすると、最初に読んだときには分からなかったことが分かったりもします。 3度目読んだからもう十分かというとそうではなく、 4度目に読んだら、もっと理解が進むかもしれないと思うわけです。 思考を深めるトレーニングになるのは、そういう本の読み方をするときです。 良いときも悪いときも反省する「反省」も大切です。松下幸之助さんは、自分を客観的に見つめることを「自己観照」と言っています。自分本位になっていないか、何かにとらわれていないか、自分の心を一度自分の外に出して、冷静に見つめてみることです。 反省を日々繰り返していると、自分の間違いに気づくようになってきます。私は、「自分で自分を笑える人は強い」という話をよくしますが、自分を客観的に見つめられない人は、自分で自分を笑えないのです。 反省で大切なのは、うまくいかなかったときだけでなく、うまくいったときも振り返ってみることです。たいがいの人は、うまくいかなかったときしか反省しません。しかし、それでは正しい分析はできていないのです。「素直さ、謙虚さ」のところで少し触れたように、物事は自分たちの実力だけでなく、たまたま運が良かった、ということがあるものです。新型コロナウイルスのような一時的な環境変化で突然ニーズが高まったとか、ライバルが低調だったので相対的に結果が良くなったといったことです。 運には再現性はありません。ですから、「今回うまくいったのはどうしてなのか」を、冷静に分析しておいたほうがいいのです。 それをせずに、「あのときはうまくいった」と自分たちの実力による成功体験のように認識していると、同じことをやっても今度はうまくいかないということになります。 良いときも悪いときも、成功したときも失敗したときも、反省をしたほうがいいのです。 3年連用日記で 1年前、 2年前まで振り返る 私は 3年連用日記帳を使って 28年、いま 10冊目です。 どこに行った、何をした、誰に会ったというような簡単な記録ですが、 3年連用なので、自然と 1年前にやっていたこと、 2年前にやっていたことが目に入ってきます。「あのとき、あの人にお世話になったんだった。しばらくご無沙汰してしまっているけれど、お変わりないだろうか」と思ったら、メールを出したり、電話をかけたりします。「昨年も同じ時期にこの講演があったけれど、反省点があったんだよなあ」と思い出すこともあります。時間の経過の速さに驚くこともあります。 人は、過ぎ去ったことはすぐ忘れてしまいます。大事なことも忘れるし、変えてはいけないものの考え方が変わっていくこともあります。
今日を振り返るとともに、大事なことを忘れていないかを振り返る意味で、私は 3年連用日記を使い続けています。 ネガティブな感情を一瞬で切り替えられるシンプルな方法 どんな人でも、常にポジティブでいられるものではありませんね。 怒り、不安、焦り、嫉妬……といったネガティブ感情が湧きます。人の心は、ネガティブな感情のほうが優先順位が高いため、抑えるのはなかなか難しいのです。 しかし、感情を抑えるのは難しいけれど、切り替えることはできると、若いころに読んだ本に書かれていて、その方法を一年間ほど試してみたことがありました。 手首に輪ゴムをはめておいて、ネガティブな感情が出たら、輪ゴムを引っ張ってパチンとやる。刺激を与えることで、感情をリセットするのです。 何ということもない動作ですが、これだけでネガティブな感情をいつまでも引きずらない練習になるので、気持ちの切り替え方がうまくなります。今では、輪ゴムを使わなくても、「こんなことを考えていても仕方がない」と思い直すことで、ネガティブな感情を断ち切れます。 「生き方を学ぶ師」を持つ 経営者というのは、経営のことだけ分かっていればできるというものではないことをもう十分理解していただけたと思います。どういう生き方の指針を持っているか、どんな心構えで生きているかがとても大切なのです。 人としての正しい生き方、望ましい生き方をしっかりと持っていなくては成功できない。そのために普遍的な思想や哲学を学ばなくてはいけない。だから、古典を読もう、自分にとっての座右の書を持とう、と提案しているわけです。 できることならば、本を読むだけでなく、やはり生身の先生、生きた心の師匠を持てると、たいへん心強いです。 私自身、何度かお話ししてきたように、藤本幸邦先生と知り合うことができ、その薫陶を受けたことが、本当に自分の財産になっています。スティーブ・ジョブズが、日本人の禅僧を師として仰いでいたこともたいへんよく知られています。稲盛和夫さんは得度されているわけですから、当然、仏道の師がおられるはずです。 人との出会いは運と縁ですから、人生を学ぶ師匠がそう簡単に見つかるとは言えませんが、自分を高めていれば、必ず良い出会いがあります。 それには、ベースのところで松下幸之助さんの言うように、素直で謙虚でいなければいけないと思います。結局はそこに尽きるのです。 Point良いリーダーは、生き方も含めて、尊敬され、慕われる能力を持っているもの。
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