PART7緊張抑止トレーニング大勢の聴衆を前にしてのスピーチ・講演ともなると、「緊張するな」というのは無理でしょう。まして、あがり症の人だったら、その場から逃げ出したくなっても無理はありません。ここでは、そんな緊張・あがりを抑えるコツや心構えについてお教えします。
本番前に原稿に印をつけておく講演やプレゼンの前に、原稿のチェックなど何もせずに「どうしよう、うまくいくかな」と心配ばかりしていたら、心が緊張感に支配されてしまいます。そんな人ほど、終わった後に「緊張したからうまく話せなかった」と言い訳をしがちです。緊張しないためには、原稿を入念にチェックし、準備を重ねてください。本番前の原稿チェックでおすすめしたいのは、原稿に記号をつけることです。参考までに、私の〝メモ付き原稿〟を紹介しておきます。文字だけではなく、笑顔マークやアクセントマーク、クレッシェンド・デクレッシェンドのような記号などを使うと、作業がより楽しくなりますよ。【マーク一例】・強調・音量アップ…………キーワードをで囲む・間を空ける…………・スピードを上げて読む…………・ゆっくりとスピードを落として読む…………・高い声で読む…………・低い声で読む…………読んでみましょう。
講演やセミナーの前は控室にこもるなビジネスマンとして経験を積んでくると、何かの集まりで講演をしたり、セミナーで講師などを務めたりする機会が増えてきます。そのときに、ずっと控室などにこもって、原稿を確認したり、リハーサルをしたりする人が多いかと思います。そういったことも、もちろん重要です。と同時に、その日の会場をのぞいて、できれば聴衆と少し話をしておくことも、本番のときに大きな力になると思います。とくに初対面の人たちに、「今日、お話をさせていただく〇〇です」と挨拶しておくことはとても重要です。なぜなら、〝顔見知り〟になることで、自分に親しみを持ってくれるからです。「あ、さっき挨拶したあの人が出てきたな」と、こちらの話に好意的に耳を傾けてくれるのです。しかも「聞いている間、居眠りしたり、他のことを考えているようでは申し訳ないな」という心理も働くので、視線をしっかり向けて、真剣に聞いてくれます。心理学の用語で「ザイアンス効果」という言葉があります。繰り返し接することで、好感度や印象が高まるというものです。つまり、顔見知りになった人たちは場を盛り上げる協力者になってくれるわけです。これは言い換えれば、講演やセミナーの会場をアウェイからホームに近い環境に変えてしまうということでもあります。控室にこもっていると、会場は完全にアウェイ状態のまま、本番を迎えることになりますから、どうしても緊張感が高まってしまいます。その結果、うまく話せなくて失敗に終わるということにもなりかねません。挨拶のついでに「今日、どんな話を聞きたいですか?」とか「日頃、悩んでおられることはありますか?」などと聞いておくと、もっと聴衆との距離が縮まります。その場で「時間が許す限り、その点にも触れていきますね」と答え、後で講演原稿にその内容をプラスする。そのくらいのマメさがあれば、さらに多くの聴衆を味方につけることができます。本番前にあなたのファンになってくれるかもしれません。実際、聴衆の生の声を聞くと、「ああ、そういう話を期待されているんだ」という気づきが得られます。主催者側からのリクエストにはなかったニーズがつかめるのです。こういった時間を確保するためにも、会場には早めに行ったほうがいいでしょう。ちなみに私は、2時間前には着くようにしています。最初の1時間で、デスク、マイク、ペンといったステージまわりの備品やプロジェクターなどのセッティングをチェックしたうえで、リハーサルを終わらせます。これをやっておくと、本番で思わぬアクシデントに見舞われても、とっさに対処ができます。そして残りの1時間で、ぼちぼち集まり始める参加者とコミュニケーションを密にしていくのです。このように、時間に余裕を持って「抜け」がないように準備し、さらに控室の外に出て参加者とのコミュニケーションをとっておくと、本番で緊張する危険度も下がります。また、事後のアンケートにおける評価も間違いなく高くなります。「非常によかった」の項目につけられる〇印が増えることでしょう。
あがりカミングアウト大勢を前にしゃべるときは、壇上に立つやいなや、一斉に聴衆の視線が自分に集まって、いやでも緊張します。あがり症の人がこの視線を浴びると、頭が真っ白になりかねません。ただ、それはしかたがないこと。見られると緊張するのは、動物の本能だからです。緊張状態になると、交感神経が高まり、「その場から逃げろ」と脳に指令が送られてくるのです。私だってしょっちゅう、緊張のあまり「うーっ」と気持ち悪くなっています。「聴衆はみんな、カボチャだと思いなさい」などと言われることがあります。けれども、それはあまりいい対策とは言えません。なぜなら、カボチャだと思うと、聴衆の反応から目をそらすことになるからです。聴衆の反応を目の当たりにしてこそ、話す気力も湧いてくるものです。反応がわからないと、話す気力が失せるばかりか、焦りや緊張を増幅させることにもなります。おすすめは、「あがりカミングアウト」です。「すみません、みなさんの視線で胃袋が縮みあがってます。ちょっと視線をはずしてもらえますか?」というふうに、弱点をカミングアウトすると、聞き手は親近感を覚えてくれて、場の緊張した空気が一気にゆるみます。ところで、緊張して空気に呑み込まれる人の特徴として、緊張と向き合う時間が長いということがあげられます。逆に言えば、緊張という気持ちを味わうだけの余裕があるということです。先にご紹介した原稿に記号をつけて、表現することに意識を向け、聴衆に関心を持つことで緊張に呑み込まれることはなくなります。
目を合わせるのが苦手な人向けのメソッド緊張したり、あがったりすると、どうしても相手の視線を避けたり、目が泳いだりしがちです。私の経験から言うと、「緊張しやすい」とか「私は人見知り」と訴える人ほど、相手の目を見ずに話しています。そういう人は、相手の目ではなく、眉間や鼻、ネクタイなどに目をやって話すことがよくあります。相手の目を見つめるのは失礼にあたるから、適度に視線を外しましょう、と教えられてきた人もいます。しかし、大勢の前で話すときも、少人数の前で話すときも、そして1対1で話すときも、聞き手の目を見て話すのが基本。そうしないと、話に力が出てきません。そこで聞き手の目を見るのがラクになり、相手とラポール(互いの信頼)が瞬時に築ける方法をご紹介しましょう。それは、相手の左目の黒目の中の光を見ることです。これには科学的な根拠があるわけではないことを、あらかじめお断りしておきます。ただ、過去5000人の受講生に試してきて、効果を実感したと言われたメソッドです。なぜ、右目ではなく左目なのでしょうか。左目は、右脳=潜在意識とつながっています。左目を見れば、相手の潜在意識とダイレクトにつながることができます。慣れると一瞬でラポールを築くことができるようになります。
一方、右目は、左脳=顕在意識とつながっています。左脳は論理や理性を司っています。右目を見ると、相手の理性が働いてしまいます。そうすると、なんとなく居心地が悪いという感覚が生じてしまうのです。もちろん、「左目の黒目の中の光を見る」がすべての人に通じる方法ではないかもしれませんが、人と話すときに、どこを見ていいかわからず、落ち着かないという方は、ぜひ試してみてください。「相手を見て話せるとはこういうことか!」ということが実感できるはずです。これは1対1の場合だけでなく、1対3~4人で話すときや大人数の前で話すときにも効果的です。
「え~」「あのぉ〜」抑止法話し始めるとき、「え~」「あのぉ~」「そのぉ~」などと言うクセがある人、けっこういますよね。こうした、いわゆる「ノイズ言葉」は、耳障りで非常に聞き苦しいもの。話のリズムが損なわれるし、ノイズが気になって、肝心の話の内容がまったく頭に入ってこない、ということもあります。これでは説得力のある話はできません。「ノイズ言葉」が出てきそうになったら、いったん話すのをやめます。そして、ゆっくりと鼻から息を吸うようにしてみてください。その間に、別の出だしの言葉を考えること。これが、ちょうどいい「間」にもなります。聞く側は、ストレスなしで話を聞くことができますし、「しっかり言葉を選んでいるんだな」と好印象で受け止めてくれます。自分がふだんどんな「ノイズ言葉」を使っているか、案外わからないものです。そのことを知るには、こちらのコラムで触れたような自撮りがおすすめです。自分が話しているところを録画もしくは録音し、ノイズ言葉の傾向や頻度をチェックして、気になるなら、少しずつ減らしていく努力をすることです。ノイズ言葉を無意識に使っていることが自覚できると、抑止効果が上がります。
本番中の原稿チェック法プレゼンやスピーチで、ずっと下を向いて原稿を読んでいるといった棒読み姿は、役人の答弁のようで、あまりかっこいいものではありません。「本当に自分の主張なの?誰かに用意してもらった原稿を読んでいるだけなんじゃないの?」などと思われてしまい、説得力がなくなります。第一、ずっと下を向いていると、聞き手の目を見ることができないので、互いの間に信頼関係が生まれません。だからといって、「完璧に暗記して、まったく下を向いて原稿を見ることなく、最後まで聴衆を見渡して話す」というのも、理想ではありますが、どうしても覚える時間がないということもあるでしょう。記憶が飛んでしまうと、パニックに陥り、失敗する危険が高まりますからね。原稿のスマートな扱い方は、カンペ代わりに使うこと。話す前に、だいたいの内容はあらかじめ頭に入れておいて、本番では確認程度に原稿に目をやるのがちょうどいいでしょう。ここでは、そういう場合の原稿の目のやり方についてのポイントをお話ししましょう。自分に集まっている聴衆の視線を別のところに誘導し、その間に原稿をチェックすることです。自分に視線が集まっていると、どうしても緊張してしまうので、緊張を緩和する意味でも、このテクニックは使えます。具体的には、話している最中に「手元の資料をご覧ください」とか「スクリーンのグラフを見てください」などの言葉を挟みます。すると、視線は一斉にそちらに移ります。あるいは何か質問を投げかけて、「Aだと思う方は手をあげてください」というような双方向コミュニケーションを挟むと、聴衆は自然と周囲をうかがおうと、会場を見回してくれます。その間に、サッと原稿を確認するのです。「聴衆の視線をコントロールするとあがらない」ということを覚えておいてください。また、あらかじめ原稿の中身を、重要な幹の部分と、枝葉の部分に分けておくのも重要です。そして、幹の部分は、「ここだけは原稿を見ないでしゃべる」と決めて何度も練習し、完璧に頭の中に叩き込んでおきます。そのうえで、「それ以外のデータや資料からの引用部分は原稿を見てよし」としておくと、気分がぐんとラクになります。このように、原稿を見ずに力を入れて話す場面と、原稿や資料を参照しながら正確に伝えようとする場面との二本立てで、メリハリをつけて話を組み立てるようにするのです。「あらかじめ完璧に暗記しておかなければ」と思うと、心理的に追いつめられて本番に悪影響を及ぼしかねません。その点、「いざとなれば、いつでも原稿を見て話せる」状態にしておくと、安心して本番に臨むことができます。
緊張感を高揚感に結びつける先に「人前で話すときは緊張して当たり前」という話をしました。しかし、やはり緊張はしたくないもの。というか緊張さえも味方につけてしまいたいものです。そこで、緊張が高まってくると、「よし、調子が出てきた」というふうに捉えるようにします。武士が果たし合いの前に武者震いをするようなものです。そのうえで、深い呼吸でリラックスし、練習してきた「いい声」を出してゆっくり話し始めます。それだけで聞き手は気持ちをつかまれ、うまく伝える環境が整うのです。こんなふうに、緊張することを恐れず、緊張感をうまく高揚感に変換していくと、聞き手を巻き込んで説得力のある話し方ができるようになるのです。緊張してきたら、それを「絶好調の前ぶれ」と思えるようになれば完璧です。
コラムシンプル丹田呼吸法心を落ちつけるのによく使われるのが呼吸法です。呼吸法には様々な流派がありますが、私自身が試し、受講者の方も効果が実感できたものをご紹介しましょう。シンプル丹田呼吸法1.体の中の息を口からすべて吐ききります。お腹をできるだけへこませます。2.すべて吐ききったら、自然に肺に入ってくる空気を鼻から3秒吸い込みます。3.吸いきったら、2秒止めます。4.15秒かけて口から吐ききります。本番に強くなりたい方、あがり症の方、話しているときに頭が真っ白になる方向けの、簡単メンタルコントロール術です。
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