Part5輸出実務をおさえよう④EPA/FTAの活用
- 33EPA/FTAとは
- 34メガEPAとは
- 35様々なEPA
- 36EPA活用のためのプロセス①
- 37EPA活用のためのプロセス②
- 38事前教示制度
Part5輸出実務をおさえよう④EPA/FTAの活用
EPA/FTAとは33輸出をする上で、どのEPA/FTAを利用してもらうか、ということを考える必要があります。
EPA税率よりMNF税率が有利な場合もあるので、そのときはEPAを利用しないこともできます。
EPAは締約国間で必ず適用されるものではないので、利用する・しないかは輸入者が決めます。
そもそもEPA/FTAとはなにか、という点から説明していきます。
EPA:EconomicPartnershipAgreementとは経済連携協定のことをいいます。
FTA:FreeTradeAgreementとは自由貿易協定のことをいいます。
EPAは貿易取引の他、投資、人の移動など経済活動に関する様々なルールを定めた協定です。
FTAは自由貿易を目指す協定ですが、貿易に関してはEPAとFTAは同義ですので、以下本書ではこれらの自由貿易の拡大に関する協定を「EPA」と表記します。
EPAは日本での呼称で、世界的にはFTAと表現されています。
EPAは国家または地域間の協定により、加盟国間にのみ適用されるルールです。
世界の統一ルールと異なり、柔軟かつ、先進的なルールが定められていることが特徴です。
加盟国でのみ、特定の品目の関税を撤廃したり、税関での手数料をかからないようにしたりするルールが定められており、EPAを利用することで関税コストを削減できます。
そして、同じ国との間でも複数のEPAを締結している場合があるため、輸入者は各EPAの、各品目ごとに定められている関税の税率を比較し、最も有利なEPAを選択する必要があります。
単純に関税率を比較するだけではなく、EPAの規定の適用のしやすさ、手続きのしやすさなども加味する必要があるので、EPAを理解し、使いこなすことは、なかなか骨が折れます。
輸出者は輸入者にただ、EPAの選択を委ねるのではなく、輸入者がEPAを活用しやすいように、輸出品の原材料や、サプライチェーンを工夫することで、商材のアドバンテージとすることができます。
メガEPAとは34EPAは各加盟国ごとのルールですので、非加盟国が関わると適用できなくなってしまいます。
A国と日A・EPAを締結した場合、加盟国であるA国にはこのEPAの条件で輸出できるけれども、非加盟国であるA国にはこの条件では輸出できないのは当然ですね。
また、加盟国であるA国に対し、A国で生産した物を輸出したいとき、あるいはA国から輸入した素材をちょっと加工してA国に輸出したいときも、A国が非加盟国であると、EPAの条件が適用できませんね。
また、様々な国と個別にEPAを締結していくと、それぞれの国へ輸出する際に、それぞれの別々のEPAのルールを理解し、別々のEPAに則った手続きをしなければならず、お互い大変です。
このように、世界経済の中で様々なEPAが複雑にからまって、煩雑な様子は「スパゲッティボウル現象」と呼ばれています。
複数の国にまたがったサプライチェーンを構築している企業は、この「スパゲッティボウル現象」に頭を悩ませていることでしょう。
このような状況を解決するものとして、複数の国にまたがるサプライチェーンを全てカバーできるような、広域のEPAが指向されるようになりました。
そして、このような広域のEPAや、経済規模の大きなEPAを「メガEPA」といいます。
近年、続々とメガEPAが発効し、自由貿易圏の拡大とともに、よりEPAの活用が期待されるようになりました。
様々なEPA352021年3月現在、日本が締結し、発効済みのEPAは19件です。
日本で初めて発効したEPAは2002年の日シンガポールEPAです。
その後、メキシコ、マレーシア、チリ…と2国間のEPAが発効し、2008年に日ASEAN・EPAが発効しました。
日本にとって初の多国間EPAですね。
2020年に合意にいたったRCEPはこのASEAN他、中国・韓国等を含むEPAであり、これらの国にサプライチェーンを持つ日本企業は少なくないため、使い勝手の良いEPAとして注目・期待されています。
2018年には11か国が加盟するメガEPAであるCPTPP(TPP11)が発効し、翌年には日EU・EPA、その翌々年には日米貿易協定と、経済規模の大きなEPAが続々と発効しています。
ブレクジット(英国のEU離脱)をカバーすべく、2021年には日英EPAが発効しました。
日英EPAでは、非加盟であるEU諸国の原産品を互いの国へ輸出する場合などにも、日英EPAの協定税率を適用するといった、他のEPAでは見られないユニークな制度を採用しています。
EPA活用のためのプロセス①36実際にEPA税率を適用するにはどうすればよいでしょうか。
EPA税率は各EPAで定められている原産地規則に則り、原産品と認められる貨物を輸入するときに適用することができます。
EPA適用について選択・決定するのは輸入者ですが、輸出者は自身の商材と有利なEPAを併せて売り込むことで、営業活動に繋げることが可能です。
そのために輸出者は、まず、輸出したい貨物の原産性を確認しなければなりません。
原産性を判断するには、貨物のHSコードを特定します。
貨物が「EPA加盟国の完全生産品であること」、「加盟国の原産材料のみから生産される産品であること」または「品目ごとに定められたPSR(品目別規則)を満たす産品であること」のいずれかに該当することが、原産性が認められる条件のうちの一つです。
他の条件も満たし、原産性が認められたら、次に原産性を証明する手続きを行います。
EPA活用のためのプロセス②37EPAでは手続方法についても自由に定めることができるので、EPAによって証明手段は異なります。
原産地手続は大きく3つに分けられます。
①第三者証明制度②認定輸出者による自己証明制度③自己申告制度早い時期に発効したEPAは①の制度を採用するものが多くありました。
近年発効しているメガEPAなどは③のみを採用するものがほとんどです。
また、①~③を選択的に利用できるEPAもあります。
それぞれ、どのような制度か見ていきましょう。
①第三者証明制度第三者が発行する「原産地証明書」による証明手続です。
日本の場合は、経済産業大臣が指定した日本商工会議所が原産地証明書を発給します。
輸出国政府のお墨付きがある書面での証明手続ですね。
日本が初めて発効した日シンガポールEPAでは、第三者証明制度が採用されています。
②認定輸出者による自己証明制度権限のある政府当局から原産地の自己証明ができる輸出者として認定を受けた、認定輸出者による自己証明制度です。
日本では、経済産業大臣が認定を行います。
日本の認定輸出者は日スイスEPA、日ペルーEPA、日メキシコEPAの3つの協定については原産地証明書の提出に代えて、自ら原産地であることの証明証を作成し、申告することができます。
輸出者自らが申告できるため、手続きの簡素化が図れます。
③自己申告制度自己証明制度は、輸入者、輸出者又は生産者自らが原産地に関する申告書を作成することができます。
CPTPP、日EU・EPA、日米貿易協定、日英EPAでは自己申告制度のみが採用されていますので、原産地証明書の発給など、輸出国政府の関与なく、原産性を証明することができます。
日米貿易協定では、輸入者のみが申告でき、日本への輸入の際には原産品申告書の提出が必要ですが、米国に貨物を輸入する場合には原産品申告書の提出は不要です。
米国への輸入者は、「原産品である」との申告を「輸入申告書」の一部を構成する形で行います。
自己申告制度にはEPAによって様々な方法があり、誰がどんな書類を作成すべきか、注意が必要ですね。
事前教示制度38輸出先の税関で、いざEPA税率を適用して輸入しよう、という段階で多いトラブルは、取引事業者が想定していた貨物のHSコードと、輸入国側が認定するHSコードが異なることです。
貨物のHSコードが異なれば、原産性判断の基準も異なり、結果EPA税率を適用することができなくなってしまうおそれがあります。
このような不都合を避けるために、「事前教示制度」というものがあります。
輸入者、輸出者が、輸入国のしかるべき機関に対し、ある貨物のHSコードと、原産品にあたるかということなどを事前に確認できる制度です。
WTOは加盟国に対し、このような事前教示制度を導入するよう勧告しています。
近年のEPAの多くは、加盟国に対し、事前教示制度の提供を義務付ける規定を設けています。
事前教示制度による回答があれば、EPAの適用に関して、安心して輸出できますね。
著者プロフィール片山立志(かたやまたつし)株式会社マウンハーフジャパン代表取締役社長、日本貿易実務検定協会®理事長。
また、早稲田大学エクステンションセンター非常勤講師、嘉悦大学経営経済学部非常勤講師などを務める。
金融法学会会員。
主な著書に『よくわかる貿易実務入門』『絵で見る貿易のしくみ』『マンガでやさしくわかる貿易実務輸入編』『「通関士」合格の基礎知識』『通関士試験合格ハンドブック』『どこでもできる通関士選択式徹底対策』(以上日本能率協会マネジメントセンター)、『グローバル・マーケティング』(税務経理協会)他多数。
コメント