PART5「声量アップ」トレーニング
話に説得力や影響力を持たせるうえで、「通る声」とともに重要なのが、声量です。声量とは「声の強さ・大きさ」のことですが、ただ、強く・大きいだけでは意味がありません。このPARTでは、聞く人の心に届くような、声の強さ・大きさをトレーニングによって身につけます。
大きな声は積極性と安定感を演出する心理学者のY・ローズは、声の大きさによって聞き手が話し手に抱くイメージがどう変わるかを調べる実験を行ないました。68デシベル以下の小さな声で話をする人は「内気で臆病」なイメージ。76~85デシベルくらいの声で話をする人は「前向き・快活・積極的」なイメージ。86デシベル以上の大声で話す人は「攻撃的すぎる」イメージ。この実験結果からわかるのは、声が小さい人は内気で臆病と思われてしまい損をするということ。一方、声量のある人は、前向きで積極的なイメージを聞き手に与えるので、話す内容を好意的に受け取ってくれる可能性が高まるということです。大きな声で話すことができれば、「え?」と聞き返されて嫌な思いをしないですむだけでなく、心に不安がない、安定感のある人と見られるのです。みなさんは大きな声を出すとき、どのように出していますか?よくボイストレーニングの本などには、大きな声を出すには「大きく息を吸い込み、いったん息を止めてお腹に力を入れ、ハッと出しなさい」などと書かれています。劇団やアナウンススクールなどでも、こういう発声法を指導するところもあります。そんなことから、多くの人は「お腹に力を入れれば大きな声が出る」と思い込んでいるのではないでしょうか。しかし、それは間違いです。お腹に力を入れると、上半身全体に力みが出るので、ノドがつまって「声」が出なかったり、ノドを痛めたりする危険があります。実際、お腹に力を入れて声を出し続けた結果ノドを痛め、「発声法を教えてください!」と、私の教室に駆け込んでくる劇団員、声優、アナウンサーの方は少なくありません。また、お腹に力を入れると筋肉が硬くなり、骨伝導による声の響きが遮断されて、硬くキンキンした声になります。キンキンした声は聞いている人に不快感を与えてしまいますよね。「お腹の底から声を出す」のと、「お腹に力を入れて声を出す」のは違うということを理解してください。
大きな声を出すのに腹筋は不要また、「大きな声」を出せるようになるためには、「腹筋を鍛えることが大事」と思い込んでいる人がいます。ボイストレーニングの本には、よくそう書いてありますからね。実際、腹筋運動を奨励する教室もあります。実はこれも間違い。いくら腹筋を鍛えても、「声」の大きさにはあまり影響はないのです。声にとって重要なのは、腹筋ではなく横隔膜。腹筋というアウターマッスルではなく、横隔膜というインナーマッスルのほうを鍛えなければならないのです。大きな声にとってポイントになるのは、「横隔膜」と「息の循環」です。PART5では、この2つに照準を合わせたトレーニングを行なっていただきます。
横隔膜マッサージ動画ありまずは、横隔膜の鍛え方から。イラストや動画を見ながら、実際にやってみてください。この「横隔膜マッサージ」は、人前で話す前の「ストレッチ」としての効果もあります。スポーツをする前に、まずはストレッチを行ないますよね。ケガの予防とパフォーマンスを最大限に発揮するためです。話す前も実はストレッチが大切。ここでは、横隔膜マッサージをご紹介しましょう。こちらの図や動画を見ながら、実際にやってみてください。人前で話す前にやっておくと、声によい効果をもたらしますし、毎日行なうと、横隔膜が鍛えられ、声量がアップするコツがつかめます。声に悩みを抱えている方の多くは、みぞおちあたりの筋肉がカチカチに固まっています。自動車でたとえると、息は声の燃料にあたります。息という燃料を使って、声を出す動力エンジンとなるのが横隔膜です。横隔膜まわりの筋肉が硬いと、浅い呼吸になって息が取り込めなくなり、発声に必要な吐く息を十分使えないため、エネルギーのある声が出せなくなります。横隔膜まわりの筋肉をマッサージしてほぐしてあげると、呼吸がラクになり、声を出すための息の出し入れがスムーズになります。横隔膜は肋骨の下にあります。そのあたりを両手で軽く押さえ、咳をして動く場所、そこが横隔膜です。はじめは少し猫背気味でもかまいません。背中を丸めて、肋骨の下の部分に人差し指・中指・薬指の3本の指をグッと押し込み、肋骨をつまみ、息を吸う、吐ききるを繰り返します。
温息発声トレーニング動画あり次に、発声のための呼吸の感覚が簡単に身につくトレーニングをご紹介します。この感覚が身につくと、吐く息の量が増え、しっかりと声帯を振動させることができます。そうすると、より聞きやすい声を出すことができるのです。まず、手のひらに温かい息を「ハァーッ」と吹きかけます。息を吐くときに、横隔膜のあたりが少し前に張り出すのを感じてください。このとき、「声」は出さずに、温かい息を吐ききることに専念してください。1回につき5秒。それを2回繰り返します。3回目には「はーーーーー」と声を出してみましょう。力強い声が出せるようになっているはずです。このとき大切なのは、吐く息と発声を連動させることです。
横隔膜プッシュ・トレーニング動画あり横隔膜を鍛えることで、自然によい声が出せるようになるトレーニングです。横隔膜あたりに両手を当て、口を縦に開けて、声は出さず、「ハッハッハッハッハァーーー」と息を吐きます。その際に、「ハッ」を4回言って、5回目の「ハ」の音を伸ばします(3回繰り返す)。お腹を前に張り出すことがポイントです。肩や首に力が入らないように注意してください。力みは一切不要です。
エア風船トレーニング動画ありこれは、プレゼン直前の5分前にもできる、即効性の高いトレーニングです。吐く息の量が増え、一瞬で力強い声が出せるようになります。1.親指を人差し指・中指に重ねて円をつくる感じで軽く握り、それをもう一方の手で包むようにして、口の少し下に置く。2.鼻から息を吸う。3.1.の手でつくった穴のなかに、力強くスーッと吐き出す。トレーニングのときに、横隔膜まわりの筋肉が前に押されていることを確認してください。風船をふくらませる要領で、これを3回繰り返してください。息は細く長く吐き出すのがポイントです。もちろん、〝エア〟ではなく、本物の風船を使ってもOKです。「エア風船トレーニング」が終わったら、そのまま次の文章を読んでみましょう。歩ける。行こう。肉体の疲労恢復と共に、わずかながら希望が生れた。義務遂行の希望である。太宰治『走れメロス』より「エア風船トレーニング」を行なった後に読んだら、トレーニング前に比べてどのような変化が生じているでしょうか?強い、意志力を感じさせる声に変化しているはずです。
サイレントロングブレス・トレーニング動画あり話しているとき、つい早口になる人がいます。これは、息を一定のスピードで吐けないことにより起こります。そういう人は「サイレントロングブレス・トレーニング」を行なうことで、一つひとつの音が明瞭になり、語尾までしっかりと聞き取れる話し方ができるようになります。一定の強さで安定して息を吐くトレーニングです。大きな声が出せるようになるのと同時に、心の安定やリラックス効果も期待できます。1.息を吐ききった状態から、0・5秒くらいの短い時間で鼻から少量の空気を吸う。ポイントは、鼻と口まわりの空気をスッと吸い込むイメージです。くれぐれも大量に吸い込もうとしないように。ノドが締まり、息が吐けなくなって、声が出しにくくなります。2.次に、横隔膜部分(みぞおち)に片手を当て、前に押し出すイメージで、ゆっくり20秒かけて口から息を「スーッ」と吐ききる。これを2セット行ないます。20秒続かないという方は、肩や首に力が入っている可能性があります。力を抜いて、リラックスして行ないましょう。3.息を一定のスピードで吐く感覚で、次の文章を読んでみましょう。この道はいつか来た道、ああ、そうだよ、あかしやの花が咲いてる。あの丘はいつか見た丘、ああ、そうだよ。ほら、白い時計台だよ。北原白秋『この道』きっと、トレーニング前よりずっと聞き取りやすい声で読めているはずです。
ドッグブレス・トレーニング動画あり横隔膜を鍛えて、思い通りに動かせるようにするトレーニングです。横隔膜を自由に動かせれば、吸った息をスムーズに声に変換できるようになります。1.口を縦に開きます。舌を脱力させて、下唇の上に軽くちょんとのせる。2.犬が全速力で走ったあとのように、「ハアハアハアハア……」と荒い呼吸をする。スピードの目安は、1秒間に1往復。これを10秒間で1セット、合計2セット行ないます。そのとき横隔膜が動き、お腹が前に動いているのを感じてください。3.3セット目は、最後に「はーーーーーーーーーーー」と声を出す。まったく力を使わなくても、ラクに大きな声が出せているのを感じるはずです。
「ドッグブレス・トレーニング」を行なった流れで、次の例文を読んでみましょう。山田市役所では3月3日土曜日、午前10時から午後3時まで、「ひな祭りフェスティバル」を開催します。ポイントは、力まないで声が出ていることを確認することです。声の音量を自在にコントロールできるようになることで、よりエネルギーのある声とともに、あなたの思いも伝えられるようになります。
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