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CHOICE13 組織内に「ヌシがいる」か「ヌシがいない」か

情報格差を少なくするためには、組織にも工夫が必要です。

アイリスの組織は、家電、ホーム(収納インテリア・ハウスウエア)などの事業部組織と、商品開発、応用研究、生産技術などの機能別組織を併用しています。

例えば、「家電事業部の商品開発担当」という名刺を社員が持ちます。これ自体はよくある組織の形だと思います。面白い点は、アイリスには管理職はいますが、管理だけをしている人は一人もいないことです。

目次

管理だけをする管理職はいない

一般に、組織がある程度の規模以上になると、管理する人と現場で動く人に分かれます。

開発部門でいえば、基礎研究、研究開発、設計・デザインなどの担当に分かれ、各部門には管理業務しかしない部課長がいて、そして、開発全体の組織を束ねる管理職がまた別にいるということが多い。

アイリスの場合も部門を束ねる管理職はいますが、管理職全員が現場に携わっています。

開発は全部門が併走しながら進みますが、製品ごとに開発部門の責任者が決まり、他部門のスタッフが彼をフォローします。

その「責任者」「他部門のスタッフ」の中に、管理職も入って一緒に進めます。

組織が大きくなってくると、どうしても部門ごとに動きがバラバラになってしまって、アイデンティティー(同一性)が取りにくいものです。

しかしアイリスでは、プレゼン会議やICジャーナルなど、規模が大きくなっても管理職を含む一人ひとりの社員が、ユーザーインの開発に関わる「仕組み」を整えることで、同じ意識を共有しているのです。

主体性がないと評価されない

誰もが現業に携わるということは、誰もが会社を引っ張っているということです。

「2・6・2の法則」とは、どんな会社でも2割の優秀な人が会社を引っ張っているというものですが、アイリスはそうではない。

辞めていく人も一定数はいますが、遊んでいる人は一人もいない。

プレゼン会議でも開発部門内の会議でも、若手社員が直接、役員と話をすることで、案件を前に進めるのです。

「自分は歯車だ」という意識は誰も持っていないはず。自分が考えた製品を自分で作っていく。自分がコントロールしているという感覚があるはずです。

そのため、主体性がないとアイリスでは評価されません。受け身が心地よい人は自分の働き方に合った部署に異動します。

管理だけをして、自分では動きたくないという人も居場所がない。そしてもう一つ重要なのは、「ヌシ」がいないということです。

企業は、特定の仕事に精通している「ヌシ」を作りがちです。ヌシがいると、そこに情報が吹きだまりのように集まり、組織のためにはなりません。

また、ヌシのような専門家がいれば仕事の能率が上がるようにも見えますが、マンネリ作業は効率を下げます。

どんな仕事でも、違う部署から新しい人が入ってくるからこそ、悪いところが分かり、改善が進みます。

もちろん、「改悪」をしてしまうケースも現実にはありますが、相対的にいうと改善することが多い。基本的には、いいところだけが残るからです。

典型的な事例でいえば、新しい工場長が来ると不要な在庫、あるいは倉庫の奥に眠っている「不動在庫」をよく見つけます。

営業職でいうと、新任者はしばしば無駄な値引きを指摘します。

前任者がある時期、売り上げを取るために値引きで攻め、以降、元に戻さず放置しているケースというのは案外多いものです。

こんなに安く売らなくても棚は維持できるのに、「どうしてこの値段なのか」と聞いても、前任者は「それが当たり前のように続いていまして……」と答えにならない答えをする。

必要のない無駄な値引きやサービスは改めなければなりません。そこで、アイリスでは人事異動を頻繁に行います。営業所長は3~5年が一区切り。厳密な取り決めはありませんが、3~5年で所長をローテーションします。10年、15年と1つの営業所で働くことは皆無です。

一人の社員に同じ営業所を任せていると、その感覚やノウハウの中でしか業務が回りません。多くの人が担当することによって、仕事のレベルが改善します。

アイリスの管理者向けの業務マニュアルの中に、「管理者十訓」というものがあるのですが、「同じことを繰り返すな~単調になると創造力が失われ鈍くなる。感激と喜びのないところに人生はない」という言葉を掲げています。

それはまさしくヌシを排除するものです。技術部門でも異動は頻繁です。

アイリスでは採用後に配属された部門が園芸部門だったからといって、そのまま園芸用品のプロになるような人事はしません。

家電部門、建装部門へと異動します。せっかく知識・技能を覚えても、新しい部門に異動すると1年は苦労します。

実際、新しい部門に移った技術者が作る製品は、発売1年目は計画通りにいかず、ほとんどの場合、赤字です。見よう見まねで設備を作るから、不良品を出して生産性も悪い。

2年目にようやく、その部門の技術者として活躍するようになり、3年目からはしっかり稼ぐ製品を開発します。

大変ですが、そうした経験を繰り返すとノウハウが溜まる。普通の会社はそれを嫌がって、機械メーカーから専用機を購入します。

そちらのほうが立ち上がりはいいので、1年目から利益が出るかもしれません。けれど、その技術者に、そして社内にノウハウが残らないのです。どちらを選択するかという話です。

2020年7月から始めた角田工場でのマスク生産も、それまで中国で作って日本に輸入していましたから、国内生産は初めて。

中国から技術者が立ち上げに来てくれるとよいのですが、新型コロナで渡航がままならなかった。

やわらかい素材のマスクを、やわらかいビニール製のパッケージに挿入するのは結構難しいのですが、現場は苦労しながら、自動化ラインを立ち上げました。

それができるのも、常日頃から幅広い仕事に携わっており、技術者の応用範囲が広いからです。ヌシ化を防ぐにはローテーション人事をして、部外者の目で見つめ直します。

一人ひとりの業務を日々情報共有するといった仕組みも必要です。

「人の意見を素直に聞いて、あなたの仕事の進め方を改善しなさい」と言っても、ヌシは絶対に聞き入れません。

ヌシとして仕事を独り占めしたほうが、自分の存在価値を保ち続けることができるからです。

しかし、それは全体最適ではないのです。

「大山健太郎」がヌシではいけない

仕事を属人化させない数々の仕組みの利点を、最大限発揮できる場面が事業承継です。

通常、アイリスのように創業型の経営者が多方面に事業を展開した会社を継ぐと、2代目は最初のうちどうしても目が行き届かず、苦労を強いられます。

しかし、マネジメントの仕組みがあれば、事業承継する際に安心できます。

私は、製品開発のヌシにならないように、全部門の責任者が参加するプレゼン会議で、「なぜ、この製品にゴーサインを出すのか」「なぜ、この製品はもっと改善が必要なのか」という意思決定の一部始終を見せてきました。

そのノウハウは決して高度なものではなく、ユーザーの立場で買うかどうかを考え、個々の収益予測で判断するだけです。

社員が計画通りに仕事をするのは、全部門長が集まる月次会議で細かく進捗をチェックする仕組みがあるからです。

個々の製品において利益を確実に出せるのは、私が特別なノウハウを持っているからではなく、社員がICジャーナルという情報網の中から損益改善の方法を見つけてきたりするからです。

私は会社のオーナーではあるが、私がいなくても会社が回るようにしてきました。私がヌシになってはいけないのです。

仕組み化を進めればこのように経営がぶれず、事業承継にも有効です。もちろん、時代や顧客ニーズの変化に応じて、仕組みそのものを構築し直すことは必要です。

私の社長時代も、誰がやっても行き詰まるようなら「仕組みがダメになってるんじゃないか」と、すぐ仕組みを変えてきました。

例えば、売り上げが伸びているのに利益が計画通りに伸びないなど、数字の動きがおかしいときがあれば、顧客の分類の仕方や損益の取り方を変えて、その分析をするために新しく担当者を付けるなど、ガラッと仕組みを変えました。

いったん仕組みをつくって習慣化してしまえば、組織は自律的に回り始めますが、最初に仕組みをつくるとき、そして仕組みを変えるときには、トップの強いリーダーシップが必要です。

決算賞与でアイリス株が買えるアイリスのことを社員はどう思っているかというと、よく耳に入るのが「働く社員にとっては、すごくいい会社。働かない社員にとっては、しんどい会社」。

頑張ろうが頑張るまいが一緒、というのが社員にとって一番悪い組織です。アイリスでは部署別評価会で計画達成や実績が半期ごとに評価されます。

また、営業部門の社員については個人別の損益まで開示している。アイリスの仕組みは「働かない人」の居場所をなくしていきます。

どの会社でも、陰に隠れようとする社員は一定数いるものですが、「アイリスでは『働かない社員』は極端に少ない」というのが、社員たちのもっぱらの見方です。

結果重視の成果主義とは別物です。

アイリスでは、誰でもできることを怠っていると徹底的に叱りますが、結果につながる正しいプロセスを歩いていれば、周囲がちゃんと頑張りを見ていて、サポートを受けられるようにしています。

一般に、社員が不満を持ちやすいのは、自分の頑張りを見てくれているという実感が得られないときです。

アイリスの情報共有の仕組みは、こうした社員の心理に即したものといえます。日々の頑張りは、ICジャーナルによって直属の上司だけでなく、役員や他部署の社員にも見られています。

朝礼の内容を十分に理解しているかどうかは、論文を通して見られています。全員が全員の言動を見られる仕組みが、組織の力を引き上げるのです。

賃金についてはアイリスは年功ではなく、等級によって決まります。同じ等級の社員であれば、月給は基本的に同じです。

人事評価によってどんどん等級が上がる社員もいれば、頑張りが足りないと停滞する社員も多い。そこはシビアです。

そして、アイリスの賃金制度で最も特徴的なのは、決算賞与と持ち株の連動制度でしょう。夏冬のボーナス以外に毎年3月、主任以上を対象に決算賞与を出します。

原資は営業利益の5%。

等級は関係なく、各個人の業績寄与度で分配します。そして、この決算賞与の範囲内で、アイリスの株式を買うことができる。

50万円もらったら、50万円分まで株を買える。それ以外のときには、どんなにお金を積まれても株は売りません。アイリスの株式は、私と長男でほとんど持っています。

社員が買う株が足りなくなれば、社員持ち株会経由で私の株を一部放出するので、総株数に変化はありません。

未上場企業なので、市況によって変動することもない。株価は、株主資本を株数で割った値です。利益を出して、内部留保を積んで、株主資本を増やせば、株価が上がる。

だから社員は利益を上げようというモチベーションが働くわけです。

毎年、決算賞与の支給後、約2週間が売り買いができる期間で、そこで昔買ったアイリスの株を売れば、まとまったお金が入ります。

70歳までは株を持てる会社がどんどん利益を上げると、資本家だけが太るというのはおかしい。社員にも利益配分に加えて、資本配分もしたほうがいい。

「決算賞与+自社株購入」は1990年代に始めた制度ですが、私が社員だったらこういう制度があれば辞めずに頑張るよな、と考えたものです。

この自社株を積み立てていれば、退職金制度よりも随分利回りがいいと思います。おそらく年率15%くらいでしょう。定年退職後も70歳までは株を持ってもらっています。

OBは「老後資産が増えるように、しっかり利益を上げてくれ」と現役社員にハッパをかけています。

アイリスの企業理念の第三条はこう定めています。

「働く社員にとって良い会社を目指し、会社が良くなると社員が良くなり、社員が良くなると会社が良くなる仕組みづくり」。

私たちはすべてを再現性のある「仕組み」で回します。それは人材育成においても同じです。人が育たないのは、人に問題があるのではなく、仕組みに問題があるのです。

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