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CHOICE11 社長にとって「いい会社」か社員にとって「いい会社」か

目次

社員の目線を引き上げる

思えば20代、30代の頃の私は、社員との目線のギャップに常に悩んでいました。

私は「こんな会社にしたい」という高い志、ビジョンがあるのに、それを社員が理解してくれない。

分かりやすく言うならば、「今は規模や実力が10のレベルの会社だが、これから50にして、100にするぞ」という志を私は持っていた。

具体的には自社製品をいくつも開発して下請けから脱し、会社を大きくしたい。そのステップとして今は10だが、数年後には20、30の会社になるように頑張ろう。

そう社員に話しても、どうにも反応が鈍いのです。社長の目線まで、社員の目線が上がらないのです。

能力が高く、モチベーションも高い人は社長のビジョンを理解するでしょうが、そうした人は引く手あまたで、もっといい会社に就職します。

東大阪の小さな下請け町工場にすぎない大山ブロー工業所には、来てくれません。周りには、大企業や中堅企業がたくさんありました。

社員の大半は「大山ブロー工業所に勤めたい」と思って来たわけではありません。うちでしか雇ってもらえないから、応募してきた。

松下電器産業に入れるような人が、好き好んで大山ブロー工業所には来ないのです。

会社の実力が10のときに、10の資質を持った人が来てくれたらまだいいのですが、資質が下の人しか入ってこなかった。会社が20のときには10の人、50のときには30の人と、常に人材の質が遅れるのです。

若い頃の私は、なぜ社員は私の志を理解してくれないのか、どうして会社がよくなっても、それに見合った人が来てくれないのか、腹立たしくもありました。

しかし次第に、これはどこの中小企業でも常に抱えている問題だと気づきました。

話題性のある製品を出して世間から注目を集めているような、よほどユニークな中小企業以外は、必ず人のギャップが生じているのです。

社長自身は20の力の会社だと思っていても、それは社長が勝手にそう思っているだけで、働く人から見たら、そのレベルの会社ではないかもしれない。

社長は自社のいい面を見てしまうので自己評価は高くなりがちですが、評価は本来、他人がするものです。中には、社長の見立てが正しい場合もあるでしょう。

けれど、20の実力の会社に10の資質の社員が集まってくることを憂える必要はないのです。むしろ、そのほうがいいのではないかと思うに至りました。

力のない社員を育て、レベルの高い仕事に挑戦させて成功すれば、本人はとても喜びます。「俺も、やればできる」という気持ちが芽生え、仕事が面白くなる。そうした一人ひとりが前向きな組織は力強くまとまります。

つまり、社長の高いビジョンに向けて社員を手取り足取り育て、目線を引き上げようとする。その行為自体が重要なのです。

ギャップがあるからこそ育成が可能であり、結果としてベクトルがピタッとそろい、組織が機能する。だから、入りたくて入った会社ではないかもしれないけれど、できるだけ長く働いてもらいたい。

そう考え方を変えたのですが、当時の私は「仕組み」と呼べるようなものは持っていませんでした。そこで20代の私が何をしたかというと、情をかけることでした。

社員の立場で想像する「今日もご苦労様でした。一緒に夕飯食べようか」仕事が終わると、社員を私の家によく招き、母の手料理を振る舞いました。

仕事中だけでなく、仕事以外でも社員といろいろな話をしていると「小さな会社だし、給料は安いが、この社長だったら頑張ってみるか」と思ってくれるようになります。

今は、社長の家で社員が集まり、ご飯を食べるという時代ではなくなったのかもしれませんが、店に行って牛丼でもラーメンでも何だっていいのです。

一緒に飲み食いしていれば、人と人の間には必ず情が生まれます。

社員が安心して働けるように給与体系や福利厚生制度を整えることも大切ですが、会社が小さなうちはトップの人間的魅力で社員をまとめるしかない。

そのためには社長は人の2倍、気遣いができないと務まりません。

若い頃の私は、取引先の人と食事をするより、社員と一緒に食事をする時間を優先しました。毎日、社員に「ご苦労様」と感謝して、その労をねぎらっていました。

私は、人の下で働いた経験がありません。だからこそ常に、社員の立場で物事を考えようと意識してきました。

「自分が会社員だったら、どんな会社に勤めたいだろうか。どんな社長だったら、一緒に頑張りたいと思うか」と必死に想像したのです。

豪華な食事を一回だけご馳走しても、社員の心は動きません。「うちの社長は何が目的なんだろう」と身構えるだけです。そうではなく、毎日毎日、情をかける。情の深さは、接触回数に比例するのです。

社長が社員に気遣いをしていると、地元での評判も良くなっていきます。

友達や親戚から「大山ブロー工業所で働いているんか。なかなか、ええ会社らしいやないか」と言われると、多少給料が安くても関係なくなるのです。

逆に「どうして、あんな訳の分からん会社に勤めてるんや」と周囲から言われると、社員はいたたまれなくなる。

小さな会社の間は、求人広告を見て遠方から応募してくる人は少ないので、地元での評判が頼りです。それを左右するのが社長の気遣いです。

情の組織マネジメント実は今もアイリスでは、しょっちゅう懇親会をしています。春の花見会をはじめ、部署内の懇親会には一人につき3000〜5000円を会社が支給します。

「最近の若者はお酒をあまり飲まないから、懇親会を開いても集まらない」という社長がたまにいますが、それは嘘でしょう。

社長や上司が上座にどんと居座り、「ちゃんと働け」などと偉そうな態度を取るから、飲み会に来ないだけです。

毎年、泊まりがけで社員と温泉にも行きます。一緒に風呂に入って浴衣を着て、座敷で車座になってお酒を飲む。これが楽しいと思うのは、人間の本能です。若い人もベテランも関係ない。大企業の社員でも零細企業の社員でも関係ない。

高級レストランで、フォークとナイフでかしこまって食べても、この関係はできません。お酒が飲めなくてもいいのです。わいわいと話をすれば、きっと互いに仲良くなれます。

そうして「いつも頑張ってるな」と肩をたたけば、誰だってうれしいですよ。もちろん、情をかけても辞める社員はいます。

「ここまでおまえのことを考えてやっているのに、なぜ辞めるんだ」とぼやきたくなる気持ちは分かります。

けれど、それは結局のところ、「私」を主語にして考えているんです。社長にとって「いい会社」が、社員にとって「いい会社」とは限らない。社長はそこを勘違いしがちです。

社員を主語にして、社員にとって「いい会社」をつくらないと、組織は動きません。

辞めるも辞めないも、社員が決めることです。社長の立場では「どうして?」かもしれませんが、社員にとっては、社長が思うほど、社長のことが魅力的ではなかったのです。

人間同士のことですから、それはある程度は仕方のないことです。万人に慕われるのは難しい。たとえ、可愛がっていた社員に辞められても、情をかけることを諦めてはいけません。

感謝の量が足りなかったと反省し、もっともっと社員のことを気遣っていくしか、社員の心をつなぎ止める方法はないのだと思います。

経営者を56年間も経験した今から振り返っても、この「想像する」ということは、マネジメントの根幹を成すものだと断言できます。

社員の立場で納得できる評価方法とは何かと想像する。顧客の立場で製品を見たらどうかと想像する。

これはまさにユーザーインの考え方です。逆に、あらゆる経営の失敗は、自分の立場で物事を考えることから始まります。

これは社員数10人の零細企業だった頃も、社員数が約1万9400人(国内6600人、海外1万2800人、2020年1月現在)となってからも、全く共通しています。

主語を社員にすることは、どんな規模の会社においても、利益を出す土台になります。

ただし、中小企業が中堅企業、大企業と発展していこうとすれば、そして、外的環境に振り回されずに必ず利益を出そうとするならば、自分の立場で考えないようにすることを、組織の仕組みにまで落とし込まなければなりません。

新入社員に必要なのは「価値観の転換」

多くの社長が「良い人材が社内にいない」と不平を口にします。ただ、人材も資金も技術も十分にあるなら、社長は昼寝しながら経営できる。

中小企業も大企業も、限られた資産で何をするかを考えるのが経営です。皆、ないものねだりをしすぎです。どうしても人が足りないなら、製品開発や営業活動より採用を最優先にすべきでしょう。

けれど「人が採れない」という会社ほど、募集にお金をかけていない。「棚ぼた」で人は採れないのに、努力も工夫もあまりしていません。

社員教育もそうです。放ったらかしでは若手社員は育たないのに、現場に教育を任せきりにしている社長が多い。それではいつまでたっても、人が足りないという状態から抜け出せません。

アイリスが小さな町工場だった頃は、私も採用に苦労しました。だからこそ、入社してくれた一人ひとりにしっかり働いてもらえるように丁寧に教育しました。

町工場の頃から、今に至るまで、新人教育で最も重視してきたのは「価値観の転換」です。学校教育では、テストで良い点数を取れば褒められます。必要なのは知識量でした。

しかし会社では、物事を知っているだけでは駄目。例えば営業の方法を知っていても、顧客から1つも注文が取れなければ意味がないわけです。

「知っていること」と「できること」は別。

社員が入社すると、技術習得よりも何よりも、まずはその考え方を教え込んできました。新入社員の価値観を変えようとすれば、1年から2年はかかります。具体的には何をすればいいか。

私は2つの教育をしてきました。

1つは挨拶です。挨拶の重要性を皆、軽視しがちですが、挨拶はコミュニケーションの基本です。挨拶の仕方が悪ければ、お客様に気に入ってもらえない。

お客様とコミュニケーションが取れていないと、いくら自社製品の特長を覚え、訴えたところで、相手に伝わりません。

新入社員に付ける5つのリボンアイリスでは新入社員研修初日、全員に、5つのリボンを服に付けてもらいます。それらは次の5項目を表します。

  1. 1「基本マナー」受講態度や挨拶、体操
  2. 2「基本理念」企業理念、経営方針、行動指針を正確に理解し、大きな声で暗唱できる
  3. 3「報告訓練」自分の考えを分かりやすく、堂々と相手に伝えられる
  4. 4「研修参加報告書」短時間で報告書をまとめ、納期を守って提出できる
  5. 5「私の抱負」1年後の自分に対する決意を皆の前でコミットする

審査を受けて合格できれば、該当のリボンを外すことができます。これなら、それぞれの人が何ができて、何ができていないかが、ひと目で分かる。厳しいようですが、この5つは社会人の基本です。

中でも挨拶は最重要項目です。

そして見ての通り、「基本マナー」「報告訓練」「研修参加報告書」「私の抱負」で求めているのは、まさしくコミュニケーション能力です。

顧客や周囲の仲間とコミュニケーションがしっかり取れて初めて、仕事で成果を出せるのです。

仕事の評価は自分ではなく、他人がする若手教育のもう1つの柱は、仕事の評価は自分ではなく、他人がするという常識を覚えてもらうこと。

学校の勉強では、自分の頑張り次第でテストの点数が変わります。けれど仕事の評価はお客様や上司がする。お客様が求める品質や価格を実現し、信頼が得られたら次も仕事をもらえる。

しかし、若手社員は「こんなに優れた製品を開発したのに、なぜお客様は買わないのか」「一生懸命に努力したのに、どうして上司は評価してくれないんだ」と考えがちです。

勉強と違い、仕事では努力が必ずしも評価されない。この理解は大切です。評価は自分ではなく、他人がする。

価値観をそのように転換できると、社員は自らを客観視し、そこからぐっと成長を始めます。お客様の都合より自分の都合を優先したら、社員も企業も伸びません。

そのため、アイリスの人事評価では自己評価と他者評価の差を明らかにします。

若手社員の場合、「規律性」「積極性」など12項目について、自己評価と上司や同僚の他者評価、それぞれの点数を比較できるようにしているのです。

上司は自分の部下の点数を甘く付けがちです。だから上司だけでなく同僚からも、そしてリーダークラスになると部下からも評価を受ける。

この360度評価により、自分中心から他人中心に価値観が大きく変化します。学校では、一夜漬けで知識を詰め込み、テストが終わったらそれを忘れても許された。

けれど社会では、そういうわけにはいきません。実践できてなんぼです。だから、できるまでしつこく教える。

「挨拶をしなさい」「自分中心で仕事をしないで」と言うと、その瞬間は理解しても、何日かしたら元に戻ります。

体に刷り込むには習慣化させないといけない。朝礼で毎日元気よく挨拶し、年に1回、自己評価と他者評価を比べてもらう。できるまで、徹底的にやらせる。

それが企業における社員教育であり、社長の責務だとも考えています。若手以外の人事評価の仕組みについても詳しく説明しましょう。

アイリスではいろいろな事業を手掛けており、米国、欧州、中国、韓国などにある海外子会社も含め、グループは28社(2020年9月時点)あります。

海外法人のトップは現地の人に任せており、原則、他社からのスカウトはしません。適任者を選ぶには、公正な評価が不可欠です。

どの国の人から見ても明確な評価基準を作って、一人ひとりの社員がチームのために頑張ろうと思える仕組みをつくる。

そのために人事制度は常に磨きをかけてきました。実績と能力と360度評価今、アイリスでは3つの評価基準を持っています。

1つは業績、実績。これが一番分かりやすいけれど、これほど不公平なものもないでしょう。営業社員の場合でいえば、たまたまいいお客様に恵まれたから数字がいいということがあるのです。

開発社員の場合なら、担当商品が競合メーカーの出現で利益率が低下することはよくあります。これらは個人の力によるものかというと、そうとは言い切れない。物差しの一つとして実績は大事ですが、実績のウェイトは全体の3分の1です。

次に能力です。

ただし、管理系の人もいれば、営業、製造、開発と職種はさまざまですから、どこを見るかがポイントです。

アイリスでは思考・伝達力に絞っています。知識だけでは、仕事はできない。知識と能力は反比例しませんが、比例もしていない。

だから、知識をいかに知恵に変えていけるかを重視します。主任以上の約700人には、年初に課題論文を書いてもらい、それが評価の対象になります。

論文のテーマは毎年変えており、ある年は「自部門における現状分析、課題解決、会社成長貢献のためのアクションプラン」。

これくらい具体的なテーマであれば書きやすいと思いますが、「人間力」という抽象的なテーマを出した年もありました。テーマ設定はいろいろです。

論文はA4判で2枚。書くだけではありません。部長職、次長職、課長職などの等級ごとに論文の内容を評価し、優秀な人には持ち時間15分でプレゼンをしてもらいます。

聞き手兼評価者は、役員全員と各部門の代表、そして同じ等級の社員たちが務めます。プレゼン評価は毎年2月です。階層ごとに200~300人ほどいますので、実に13日間をかけます。

もちろん社長をはじめ、役員も評価にかかりっきり。2月の役員は他の仕事にあまり時間を割けませんが、長年続けてきました。

社員のためにこれだけの時間をかけなければ公正な評価はできないと考えているからです。

個人の実績と能力。これだけで会社は動くかというと動きません。野球もサッカーもそうですが、チームプレーです。

そこで360度の多面評価です。これが残りの3分の1のウェイトです。アイリスでは15〜20人で1人の評価をします。メンバーは上司、同僚、部下、関連部署の人でバランスを取るように人事が選びます。

「実績」「能力」「360度評価」。

これらの合計で点数を付けて、等級ごとに順位を発表します。例えば主任が100人いるとすれば、1番から100番まで順位付け。

下から数えて1割の人には公表せず、一対一で伝えます。本人にすれば「どうして私の評価が低いのか。

こんなに成績を上げているのに」と不満に思うことが多い。だから丁寧に、多面評価でどこに問題があったのかを具体的に伝える。

でも、伝えるだけではなかなか改善されないものなので、相談相手のメンターを付けます。

2年連続イエローカードで降格このワースト1割に入ると、1回目は「イエローカード(気づきカード)」。

2年連続でワースト1割に入ると「レッドカード」になり、降格です。でも、野球やサッカーと同じで、一軍と二軍は行き来するのが本来のあり方。翌年の評価が良くなれば昇格します。

組織も常にブラッシュアップをするためには、公正で厳しい仕組みが必要です。誰もが満足する公平な評価は難しいけれど、誰もが納得する公正な評価は可能です。

新人教育でコミュニケーション力に重心を置き、社員の人事評価は360度評価で自分を客観視してもらう。

これらの理由は、一言でいえば独りよがりにならないようにするためです。アイリスはユーザーインの会社です。

社員一人ひとりが日々の仕事で、どれだけユーザーのことを意識するかによって、50%を超える新製品比率や高い経常利益率が達成できるかどうかが決まってきます。

そのためには、他人の立場で自分がしていることを客観的に見る力が必要です。アイリスの人材育成は、事業活動と直結しているのです。

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