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CHOICE10 「短期の効率」か「中期の効率」か

アイリスでは新製品比率をKPIにしているので、社内でもその比率のことをよく話題にします。

一方で、ROAやROEという指標を口にすることはまずありません。ROAとは総資産利益率。

売上高利益率と総資産回転率の積で、良い製品・サービスで利益率を高く確保できているか、持っている資産をどれだけうまく売り上げにつなげているかを測る指標です。

利益率については私も重視しており、経常利益率10%以上を目標に掲げていますが、総資産回転率についてはあまり考慮していません。資産を増やさなければその比率は上がるので、どうしても安全志向になってしまうからです。

目次

ROA、ROEはあまり関知しない

見てきたように、アイリスでは設備稼働率が7割以上になれば追加投資をします。それによって急な需要が起きたときに、一気に増産できるからです。

また、各工場では、いつでも使えるように汎用ロボットをたくさん備蓄しています。それは、自動化ラインをすぐに構築し、スピーディーに製品を市場に投入するためです。

そして、小売店にすぐに届けられるように、同じ製品を全国各地の工場で作っています。これらは目先の資本効率を落とします。

けれど、外的環境が変化する前提に立てば、こちらのほうが経営的には正しいはず。ROAは市場が安定している条件下での指標です。

株主資本をどれだけ利益につなげているかを示すROEについても同様です。資本主義社会では、企業は株主のものです。

その株主が供した資本をどれだけ効率的に使っているかを示す指標は意味があるように見えますが、ROEの高さは現時点での効率性を示すものにすぎません。

金融機関からの借り入れを増やして株主資本を低く抑えることでROEは高まりますが、それは企業体力を落とします。

加えて、無駄を省き、利益を増やす経営をしていると、急に現れた需要に応える余裕もない。

アイリスではROEは資本効率という意味で参考にしますが、経営において重要なのは、チャンスをいかにつかむかです。

ROEを指標にすることに意義があるとするなら、やはり市場が安定し、拡大を続けているときですが、これからの時代はROEが求める効率性を追求すると会社を傷めます。本当の効率を追求しなければいけません。

目先の資本効率は邪魔

いかなる時代でも利益を出し続ける会社にするためには、目先の資本効率は邪魔です。

ただ、確実に利益を出す仕組みを整えれば、結果として売り上げも利益も大きく伸びますから、資本効率も高まります。

つまり、目線を置く位置なのです。気をつけていないと目先の効率に流されてしまうのが、人の常です。アイリスも成長が伸び悩んだ時期がありました。

1990年代後半です。自分なりに分析して出した答えが、ホームセンターへの過度の依存でした。

ホームセンター以外の販路開拓を怠っており、ビジネスチャンスを取り逃していたのです。

そこで私は、自らの成功体験を捨て、利益を生み出す新たな仕組みを考えました。キーワードは「ジャパンソリューション」です。

6章で詳述しますが、日本が抱えている課題をアイリス流のやり方で解決を目指すものです。その一つが家電です。

2012年、経営難で人員削減した大手電機メーカーからの人材獲得を始めました。アイリスはその3年前に家電事業に参入しており、中途採用を機に、大阪にR&Dセンターを新設しました。

家電は成熟商品で一見すると、用途、機能に関しては開発し尽くされている。しかも、台湾や韓国のメーカーの格安商品に押されている。

しかし、ユーザーの利用シーンの中から不満を見つけて、それを解消する価値を提供すれば、まだ伸びしろは大きい。

例えば、サーキューレーター。室内の空気を循環させるファンです。

床と天井では温度差があるので湯かき棒のように循環させるために使うと快適で、静音で強力な製品を出したら、累計700万台超という需要を作ることができたのです。

需要は、米国や欧州にも広がりました。生活者の視点で開発すれば、今までの競争とは違うところで大きな需要が出てくるのです。アイリスの家電は単なる家電ではない。

すべてはユーザーが使って「なるほど」と思う製品を作る。ユーザーインの思想です。

家電事業は、調理・空調家電などを中心に売り上げを伸ばし、全体の5割を占めるまでになりました。

この家電はホームセンターだけでなく、家電量販店、インターネット通販などもメインルートです。販路を広げることでアイリスの成長力は回復しました。

「5×5=25」の意味するもの

効率なくして経営はできない。効率の追求は大切ですが、効率一辺倒では危険だということは、コロナショックで思い知らされたはずです。

コロナ危機で大きな打撃を受けている会社は、もしかしたら持っている製品、サービスのジャンルが限定的なのかもしれません。

これをきっかけにリスクヘッジした経営に転換すれば、あなたの会社はぐっと強くなるはずです。ロングセラー商品に頼りすぎると会社を駄目にします。

真の効率とは何か。そこを考えることが、本当の意味でコロナ危機を乗り越えるということなのかもしれません。

こういう話をすると、「一般的な経営とは真逆ですが、確かに、大山さんの考え方もあり得ますね」と言う人がいます。

どちらの考え方も正しくて、どちらを選んでもいい、と言いたいのでしょうが、それは違う。効率優先の考え方が正しいとは言い切れないのです。

アイリスの昔の新聞・雑誌記事を見ていただければ分かりますが、1980年代から戦略は変えていません。

新製品比率をはじめ、今と全く言うことが変わっていない。

1990年は200億円くらいの売り上げで、2020年は7000億円くらいです。

その間、新製品比率は50%を割ったことがほぼありませんので、200億円から7000億円に至る30年間は、経営が間違いではないことが実証されていると思います。

「効率×効果」という計算式で考えてみましょうか。

目先の経営効率を上げるものと、目先の効率化はもたらさないけれど、企業の力になる効果があるもの。これらに10のリソースをどう分配するかを考えます。

「9×1」は9、「8×2」は16、「7×3」は21、「6×4」は24、「5×5」は25となって、最も積が大きいのは、効率と効果にリソースを半分ずつ振り分けることです。

これは数字のマジックのようなものですが、本質を突いていると思うのです。私は経営効率をしっかり追う。しかし効率は5割でいいのです。

「未上場企業だから」のマネジメント

アイリスが「稼働率7割」「自前主義」「工場分散」など、長い目で見た効率化戦略を貫けるのは、未上場だからという側面があります。上場企業では目先の資本効率を株主に求められます。

「長期的に見れば、こちらのほうが資本効率を高めます」と説明しても、聞き入れてもらえないでしょう。

また、株主に対しては決算発表時に中期計画を発表しなければならない。そこでは、確実性のある事業しか発表ができません。

アイリスのような需要創造型の製品は、どれくらい売れるのかと聞かれても、不確実なものを製品化しているので説明のしようがない。

アイリスが仮に上場したら、「具体性がない」「根拠がない」と、アナリストからブーイングが出るでしょう。

最近はESG投資など、長期的、社会的な側面から企業を見るという視点が出てきています。でも、多くの株主が求めるのは、やはり短期的収益です。

アイリスが目先の効率ではなく、中長期の効率を追う会社である以上、短期的な収益を求める第三者を株主に入れることは絶対に避けなければいけません。

また、大山家による同族企業ですから、決定も早い。株主に意見を求める必要もありません。ただ、大山家は支配者ではない。会社は誰のものかということを社員にはよく話します。

アイリスの株式の大半は私や家族が持っていますが、会社は実質的には社員のものです。

緊急を要するときには、オーナーの判断で一気に事を進めます。そうした意思決定の瞬発力を支えるのも社員であることを、経営者は自覚しなければいけません。

アイリスでは社員の目線を引き上げるため、徹底的に育て上げます。

次章では、いかなる時代環境でも利益を出すための組織について考えます。

いかなる時代環境でも利益を出すには、世の中に必要とされる事業・製品をどれだけ幅広く、そしてスピーディーに提供するかが勝負です。

そうした事業・製品を生み出すのは、人であり、組織です。

本章では、いかなる時代環境でも利益を出すために求められる社員、組織とはどのようなものなのかを考えていきます。

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