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CHOICE9 「選択と集中」か「選択と分散」か

さて、本書も中盤にさしかかってきましたが、あなたはまだ、従来の思考回路から脱することができず、1つの製品、1つの技術、1つの市場に依拠したほうが効率的と考えますか。

スタートアップ企業の場合はもちろん、大きなリスクを取った上で1つのイノベーティブな製品・サービスを立ち上げる形態なので、それでいい。

けれど、環境変化に強い会社をつくりたいならば、幅広い製品を手掛け、余裕のある稼働率を維持し、いざ変化が起きたならば、その変化によって盛り上がる市場に即座に戦力を注ぐのです。

バブル崩壊後、「選択と集中」という言葉が広まりました。事業領域を絞り込み、そこに経営資源を集中することで、強い会社になれるというものです。

本業から縁遠い分野に多角化した会社が、利益の出ていない事業を切り捨てることは必要です。儲からない製品、儲からない販路などを惰性で抱えているのは無駄です。

原価計算をした上で、儲かる市場に集中するというのは正しいと思います。ただ、特定の市場に集中しすぎると、不透明な時代環境では命取りになりかねない。

どんな市場が勃興するか、どんな市場が衰退するか、それらが読み切れない中では、強みを生かすことは必要ですが、過度の集中は逆効果に働きかねないのです。

そこで、自社の強みを広げるかたちで、分散する戦略を取る。アイリスでは生活用品というジャンルを選び、生活者視点で不満を見いだし、需要創造する製品を開発しています。

その中で幅広い製品を展開し、稼働率にも余裕を持たせる。

「集中」と「分散」のバランスです。

「選択と集中+選択と分散」の戦略で、各事業・技術のシナジー効果をもたらすことにより、競争力を高めるのです。

目次

分散の結果としての多様性

アイリスでは工場も分散させています。

グループで売上高が7000億円というアイリスの事業規模では、国内工場は3つあれば十分です。

北海道から九州まで、8拠点に9工場を持っているのも、一番の理由はトータルコスト・コントロールのためです。

製造原価だけで捉えるのではなく、お客様の手に届けるための最終原価にこだわります。

また、どこの工場が止まっても、別の工場がすぐにフォローできるようにするためです。

この仕組みが生きたのが、2011年の東日本大震災のときでした。

2011年3月11日、国内の主力拠点である角田工場では震度6弱の揺れが数分間続き、電気、ガス、水道とすべてのライフラインが止まりました。

従業員は幸い全員無事でしたが、工場内部は棚から落ちたものが散乱し、10トン以上の重さがある射出成型機の位置がずれ、基幹システムのサーバーは停電によってダウンしました。

ただ、生産・物流設備に致命的な損傷はありませんでした。そこで災害対策本部がまず取り組んだのは、情報システムの再稼働です。

15日朝には兵庫県三田市の三田工場のバックアップシステムにリモートアクセスして、角田工場の出荷分を他の6工場に振り分けました。

特にその比重が高かった埼玉工場には角田工場から55人を送り込み、代替生産を支援しました。スピード復旧は多くのメディアで取り上げられました。

要因の一つは、工場を分散していたことで受発注システムと生産の代替ができたこと。もう一つは、部署の垣根がないため、全社一丸となって復旧に取り組めたことです。

「部署の垣根がない」というのは、プレゼン会議や、4章で説明する全社日報データベース「ICジャーナル」などの仕組みを通し、全部署・全社員での情報共有の場を作ってきたアイリスの強みです。

一般に、企業は規模が大きくなると事業部制になります。事業部が太い幹で、その下の部や課は、事業部から伸びた細い幹です。そのため、部や課のレベルでは他の事業部と情報交換をする場がほとんどありません。

その状態は、特定の事業を推し進める機能としてはよいかもしれませんが、新しいことを始めるときには逆効果です。

「新規事業のプロジェクトはいろいろな部門から集めた横断チームで走らせる」という会社もあるでしょうが、一時的なものではなく、普段から情報交換ができていないと、その組織の力が十分に発揮できません。

アイリスの組織も事業部制ですが、縦割りの「ツリー構造」ではありません。実質的には俯瞰して物事が見られる「ネットワーク構造」です。

プレゼン会議では機能別の全部署が集まりますし、開発現場では多能工化が進んでいるので、互いの強みをよく知っている。

そうした関係性をICジャーナルで補完します。これは、グループの全社員が日々の業務についてまとめるデイリーリポートで、全社員が閲覧できます。

全社員の情報を全社員が見る。これにより神経細胞のように各部署・各社員が自律的につながるのです。

「選択と分散」の本質的な強みは、分散しているからこそ得られる多様な知恵です。それを生かすのが情報共有の仕組みです。この点は4章で詳しく考えていきます。

金型を拠点間で融通する

在庫は少なければ少ないほど望ましい。これが従来のサプライチェーンマネジメントの常識でした。しかし、それでは非常時のときに、供給網が止まってしまうリスクがあることが、東日本大震災やコロナショックで露呈しました。

それでもまだ、目先の効率を追って拠点の集約、在庫の最小化に走るのかどうか。

アイリスは大震災やパンデミックを具体的に想定したわけではありませんが、オイルショックの経験から、本当の効率化とは拠点の集約、在庫の最小化ではないと判断しました。

もちろん、在庫に余裕を持たせる一方、コスト削減を図らなければ平時の競争力が落ちます。そこで、生産拠点の標準化を徹底しています。各拠点の製造装置や生産管理システムは同じ。

また、現場から出てきた改善事例は全拠点で共有し、各工場が独自に進めないようにしています。社内のノウハウを均一に保つため、工場長や現場責任者も頻繁にローテーションします。

各拠点の仕組みが同じなので、ほかの拠点から応援に駆けつけた作業員はすぐにラインに入れます。

ある地域で出荷量を増やす場合は、拠点間で製品を融通するのではなく、金型を移動させて納入場所に近い拠点で生産。これにより、物流費を下げることができます。

金型は現在、中国の大連工場と提携メーカー7社、さらに東南アジアの協力工場3社で作っています。

年間で1000型以上を作っており、累計では約2万型を保有しています。1型当たり300万円ほどはしますから、相当な金額です。金型コストの低減を図るには、日本では難しい。

中国や東南アジアで金型を作れば2、3割は安いので、日本と同等品質の金型を作れるように試行錯誤を繰り返してきました。

多くの日本企業がアジアから金型を調達しようとして苦労していますが、アイリスは2000年頃から、まずは中国、次に東南アジアからの調達を始めました。

金型の設計は国内で担当し、生産のみ中国と東南アジアという分担です。

金型を発注する場合、一般にセットメーカーは、製品図面を金型メーカーに送り、金型メーカーが金型の設計・製作をします。

しかし、アイリスは金型の設計図を自社で作成し、金型の材料は何を使うかなどすべて事細かに指定します。

日本の自社工場では金型を作りませんが、1990年代までは社内で設計、製造もしていたため、今も角田工場内には、金型の倉庫と加工機を備え、保守と改造をしていますので、製品の改良などにはすぐに対応できます。

こうして出来上がった金型を、工場間で融通することで原価低減につなげています。

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