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CHOICE8 瞬発力があるのは「身軽な外注」か「柔軟な内製」か

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他社と逆行し、部品や機械を内製化

アイリスでは、設備機械の改造は内製化しています。機械メーカーから購入するのは、あくまで基本的な加工ができる汎用機。

アイリスではそれを社内のエンジニアがアレンジし、作りたい製品に合った機械に仕上げます。

機械メーカーから専用機を極力買わないのです。

機械メーカーに仕様を発注して丸投げしたほうがラクですし、最初からある程度の生産スピードも期待できます。

でもそれでは毎回、多額の設備購入費がかかりますし、せっかく購入したのだからフル活用したいという心理が働き、稼働率を極限まで高めたくなるでしょう。

多くの製造業は外注を活用してきました。加速したのは1980年代半ばです。

1985年のプラザ合意で大幅な円高に振れると、日本の大手製造業は、部品製造や機械加工などをそれまで以上に外部に出しました。

理由の一つは、付加価値が低い工程は人件費の安い下請けに任せたほうがいいという考え方です。

もう一つは、部品製造や機械加工の専用設備を自社で持ってしまうと、一定以下に固定費を下げることが難しいという判断です。

それは目先の効率を考えれば正しいかもしれませんが、より安い部品や加工先を求めた結果、サプライチェーンがどんどん延びていったのです。

東日本大震災では、被災した東北の部品メーカーの生産が止まり、九州や北米の自動車工場が影響を受けました。

コロナショックでは、中国で生産している温水洗浄便座の部品が入らなくなった例などが象徴的です。

原価を下げるために、そこまでして安い調達先・加工先を世界に広げているのは、大きなリスクです。

日本には、その企業にしかできないという独自の部品や機械を作っている中堅・中小企業はたくさんあります。

そうした部品や機械は購入するしかありませんが、汎用的な部品製造、機械製造はノウハウさえ積めば、自社でできるのです。

世間が外注にシフトした1980年代、私は懸命に内製化を進めました。

「大山は何をバカなことをしているのか」と笑う人もいましたが、マネジメントの本質はどちらにあるだろうかということが常に頭にありました。

前述のように、メーカーベンダーとして幅広い製品を作るノウハウを社内に蓄積するには、内製化したほうがいいという狙いもありました。

汎用機を改造して使う

アイリスでは汎用機を改造して使います。製品寿命が予想より短くても焦ることはない。それを再び改造して、別のラインに転用すればいいだけです。

自前で作ると柔軟性があるため、稼働率を100%に近づけようと頑張らなくてもいい。

ある製品の需要が急に高まったら、稼働率を3割上げればいいし、それで足りなければ汎用機を活用してすぐに自動化ラインを作る。

車に例えると分かりやすいのですが、仮に走行距離10万キロの耐久性がある車ならば、タクシーの場合は2、3年で寿命が来ます。

けれど、年間1万キロしか乗らない一般家庭なら、10年は持つ。それと同じように、稼働率7割なら機械の持ちもいい。

他の製品の生産ラインに転用すればさらに長く使い続けられる。

キャッシュフロー効果もある。キャッシュフローは当期利益と減価償却費の合計。アイリスでは優遇税制、割増償却制度などを調べ、最大限利用します。

上場企業であれば、利益の圧縮につながる前倒し償却は株主の批判を招くかもしれませんが、アイリスは未上場ですから問題ありません。

設備を内製すれば、償却中はキャッシュフローを高めますし、償却が済んだ時点で設備が急に使えなくなることはありませんから、その後は原価低減につながります。

現場はロボットが使いたい放題

生産設備は短期間で内製できても、社員はそうはいきません。例えば1000人いる工場が、明日から1500人に増員することは現実には無理です。

そこで、設備はできるだけ自動化・無人化することを目指します。

一般に生産ラインの自動化は、人手不足や人件費高騰の解消のためにしますが、アイリスでは需要拡大に対応するためにロボットを使う。

需要を追いかけることができるという意味で「追いかけ生産」と社内では呼んでいます。

ロボット活用による自動化ノウハウは、内製化戦略を通じて、アイリスが長年かけて蓄積してきたものです。

このノウハウが高いから、多様な製品をスピーディーに作ることができますし、コロナ下のマスクのように追いかけ生産の瞬発力が半端ではないのです。

現在、アイリスには自動化ラインを設計・構築する専門スタッフが200人以上います。国内大手メーカーで、自動化の専任者が200人以上もいる会社は少ないでしょう。

アイリスでは、プレゼン会議を通じて年間1000種類以上の新製品が出てきます。

自動化スタッフはその設計図をもとに、どのような加工・搬送ロボットを使って、ラインをどう設計するかを日々考え、組み立てます。

いつ何どき、ロボットが必要になってもいいように、好況であろうが不況であろうが、常に一定の金額をロボット購入に充てます。

用途を決めず、毎月ロボットを数十台買い、各工場に在庫しておくのです。ロボットは1990年代から最初は年5~10台のペースで購入し、次第に購入台数を増やしてきました。今では国内外に計2000台のロボットが稼働しています。

用途も決まっていないロボットを毎月買うのは、効率重視の人には究極の無駄に思えるでしょう。

それをアイリスがなぜできるかというと、毎年、経常利益の50%を投資に回すという、前述の仕組みがあるからです。

各部門では月次で細かく計数管理しているので、この50%投資の仕組みがなければ、製造部門は目先の数字を良くするために、ロボット投資を控えるかもしれません。

それを防ぐためには、やはり仕組みが必要なのです。誤解のないように補足すると、経常利益の50%の金額を厳密に計算しているわけではありません。

数字に縛られるのは本末転倒だからです。数値の目標を掲げるが、数値ありきではない。役所がやっているような予算消化は性に合いません。

現実において必要な投資をする。投資をけちらないように、50%程度を目安にしているということです。

ともあれ、アイリスの各工場には、未使用のロボットが約50台置いてあります。省人化や自動化のアイデアが出れば、すぐに使えるのです。

在庫してある汎用ロボットとは別に、新しいロボットが必要な場合は工場の判断で購入できます。稟議を上げる必要はありません。

アイリスの工場では常にどこかのスペースを作り替えています。もともとあった設備を解体していたり、新しい生産ラインをロボットで組み立てていたりする。

市場の変化に合わせているからなのですが、この点も普通の会社とは異なるでしょう。

ビスも作る完全自前主義

工場にいる200人の自動化専門スタッフには、大学でロボット工学を学んだような生粋の専門家はほとんどいません。

アイリスに入社してから現場で先輩と一緒に場数を踏んで、ロボットラインのエンジニアとして独り立ちしていきます。

扱う素材もプラスチック、金属、木材、マスクのような繊維製品まで何でもありです。

苦労はしますが、そうした一人ひとりの多様なノウハウが、どんなジャンルの製品にも対応できる技術の連鎖をもたらします。

新製品の初期ラインは生産スピードが十分ではなかったりして、材料原価や設備償却費を引くと、初年度は赤字の製品も多い。

けれど、そこから先、自動化スタッフが日々改良を重ねるので、2年目になってトントン、3年目で儲かり出します。

営業社員も開発社員も初年度の損益だけを考えれば、本音では下請けに出したい。

しかし、私は内製化を優先させます。

ノウハウが社内に蓄積し、最終的にはそちらのほうがコストダウンにつながるからです。例えば、2018年に発売した超軽量のスティック型掃除機。

掃除機の駆動部に使うモーターのファンは自社成型したプラスチック製を使い、軽量化とコストダウンを実現しました。

もちろん、成型のための金型も自社製です。ゴミ入れは手入れが面倒なダストカップ式ではなく、使い捨てが可能で軽量化も図れる紙パック式を採用。

そこで、マスクを生産する中国工場で紙パックの自動化ラインを立ち上げたのです。こうして本体は1・4キロと業界最軽量クラスです。

このスティック型掃除機には、床以外のホコリ掃除に便利なモップも付いています。軽量で吸引力も既存品より大幅に強くしたので、大ヒットしています。

これは、企画の立ち上げから発売まで1年。大手家電メーカーではあり得ないスピードでしょう。アイリスの自前主義は徹底しており、製品に使用するビスも自社で作っています。

生活者目線で「この値段なら買う」という価格を先に決め、そこから原価を詰めるアイリスにとって、ユーザーが期待する価格を実現するためのコストダウンは至上命題です。

それを可能にするためには、内製化が欠かせません。ビス1本まで作るべきかどうかは、業界によって違うでしょう。アイリスは生活用品のメーカーです。

想像してもらえば分かると思いますが、生活用品はそれほど複雑な構造をしていない。だからこそ、ビスを内製化することで、完成品にとって使いやすいビスを作ることができ、また、品質の信頼性も上げることができます。

どこまで内製するかを検討する

目先の効率を追って外注生産ばかりしていると、自社に蓄積されるのはマーケティング機能や営業機能など一部だけになりかねません。人口減少社会では、需要創造が企業の成長には不可欠です。

そのためには、ユーザーのニーズを「的確に捉える」ことができ、そのニーズを「的確に形にする」ための体制が必要です。

アイリスでは、その一つが設備や部品の内製化というわけです。

安い調達先・加工先を世界から探して、長いサプライチェーンを組み上げ、ジャスト・イン・タイムで補完する仕組みは、もはや効率的ではない。経営の仕組みの再構築が問われているのです。

自前主義に否定的な人は、それがスピーディーなイノベーションを妨げると指摘します。社外の技術を取り入れれば、自社の強みがさらに生きてイノベーティブな製品を開発できるのは確かです。

アイリスが家電事業を始めるときには、大手電機メーカーの技術者を中途採用し、彼らの持っていたノウハウを生かしながら、事業を立ち上げました。

私は何でも自前にこだわるわけではなく、自前にしたほうが結果的に効率的だと考えているものに限定しています。

部品を自前で生産するのも、生産設備を自前で作るのも、そのほうが迅速な開発とコスト削減の効果が享受でき、ユーザーの満足度を高められるからです。自前主義がいいのかどうかは、その会社が何を求めるのかによって異なります。

ただし、目先の効率を求めるだけの理由で「反自前主義」を選択するのは、ビジネスチャンスを逸しますし、企業競争力もそぐことは、ぜひ知っておいてほしいと思います。

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