たくさんの新製品を作り、しかも売れる製品にするためには、ユーザーインの思想を組織に落とし込む仕組みが必要です。
「ユーザーインの発想に立て」というかけ声だけでは全く担保されません。これをどう仕組みに落とし込むか。ポイントは伴走型の開発です。
一般に、多くの企業ではリレー型の開発体制を取ってきました。
まず、商品企画部門がアイデアを出し、開発部門がプロトタイプに落とし込み、それを量産化する体制を生産技術・管理部門が構築し、営業部門が販売する。
このリレー型のいいところは専門性が生かされ、手間が少ないことです。開発部門は商品企画が持ってくるアイデアを待っていればいい。営業部門は出来上がった製品を売ることに専念すればいい。
分業であり、流れ作業です。
開発部門は開発のことだけ考えていればよく、営業部門は営業ノウハウを会得すればいい。人材教育の方向性も絞られます。
しかしリレー型は、本当に効率がいいのでしょうか。
従来の延長線上の製品、他社で前例がある製品を作るときにはこの体制でいいかもしれませんが、イノベーティブな製品を作ろうとすれば、部門間で衝突が起きます。
開発部門は企画部門に「そんな企画で売れるか」と迫り、製造部門は開発部門に「そんな設計で量産化ができるか」と文句を言い、営業部門も開発部門に「そんなものが売れるか」と言う。
個別最適で動くので当然です。
一番の問題は、ユーザーのニーズから離れ、個々の部署の都合で動きかねないことです。
ユーザー自身も気づいていないニーズを深く掘り起こそうとすれば、また、ニーズにぴたりと合ったかたちでそれを商品化しようとすれば、デザイナーもエンジニアもプロダクト担当もセールス担当も、全員が製品のアイデア段階から関わらなければいけないはずです。
それによって、企画が持ち上がったところから発売後の売り方まで、全員がユーザーのニーズを高い解像度で、しかも同じ解像度で見ることができます。
そうすれば、ユーザーニーズからずれることはないし、開発スピードも速くなります。
アイリスの組織は事業部制です。
生活用品、家電などの製品ジャンル別に事業部があり、その中には商品企画、研究開発、営業担当などのスタッフがいます。
この事業部制、あるいはプロジェクトチーム制と「伴走型」は似ているように思うかもしれません。
しかし、事業部制やプロジェクトチーム制を取っている会社で社員がどう動いているかというと、リレー形式の場合が多い。
しかも、広報や財務などのサポート部門まで含めて、同時並行で動いている組織というのは、あまり聞きません。
まして、経営者までもが同時に関わるというところまでいくと、極めて事例は少ないでしょう。
全部署が集まる「プレゼン会議」
アイリスでは毎週月曜に全部署の責任者が全員集まり、「プレゼン会議」という名の開発会議を開きます。
収納用品や園芸用品、ペット用品、家電に至るまで、アイリスの2万5000点の製品はすべて、このプレゼン会議から生まれます。
1980年頃にプレゼン会議の原型がスタートしたときは、「開発会議」と呼んでいました。当初は私が考えた新製品の内容や意図を幹部社員に説明する場でした。
そのうち事業領域が広がり、社員の提案を役員が聞くことも増えていきました。
最初のメンバーは開発・製造部門のマネジャークラスだけでしたが、販路別、顧客別に何が売れているかといった市場情報をより詳細につかめるように、マーケティング部門の責任者も参加してもらいました。
そうこうするうち、この会議が製品開発のエンジンのような存在になってきたので、知的財産や広報、PR部門など全部門を集めたという流れです。
1つの案件につき、5〜10分で社員が次々とプレゼンテーションすることから、「プレゼン会議」という名称に変えました。
午前中に決定したことが、午後の商談・業務に生かせるようにと、そのときに注力している事業から順にプレゼンがスタートします。
あらゆる部門の人材が情報を共有し、同時進行で仕事を進めるプレゼン会議の詳細は次の通りです。
時間は、毎週月曜の午前9時半から、昼食を挟んで午後5時近くまで。
場所は、アイリスの本拠地、宮城県角田市にある角田I.T.P.(インダストリアル・テクノ・パーク)内の会議室です。
出席者は、月曜は他の予定を一切入れないのがルールです。事業の根幹であるプレゼン会議に集中するためです。
会議室はすり鉢状で階段式に席が配置されており、中央最前列に陣取るのは社長。以前は私が座り、社長を息子の大山晃弘にバトンタッチしてからは、彼が座っています。
さらに役員全員、そして事業部、開発部、営業部、製造・物流部、品質管理部、知財・販促部など各部門のマネジャーを中心に総勢50人がずらりと後方に控え、遠隔地の東京や大阪、中国・大連工場などの関係者もテレビ会議で参加します。
こうして全方位を関係者に囲まれた中央のステージに、プレゼンをする事業部のマーケティング担当者や開発担当者が、あらかじめ決められた時間割に沿って入場し、製品の説明を始めます。
後ろの席にいる人も、すり鉢状の階段式会議室なら、前のステージがよく見える。大勢の人が同時に最新情報に接し、同時に議論に参加できます。
実は、角田I.T.P.には7つの階段式会議室、その他全国の各工場にも階段式会議室があり、後述する幹部研修会などで使用しています。
アイリスが、どれだけ情報の同時共有にこだわっているかが分かるでしょう。
「分かった。OK!」と10分で即決
プレゼン会議では毎回60案件前後が議題に上ります。プレゼンが始まると、室内は緊張感に包まれます。雰囲気を伝えるため、ある日の会議のやり取りを紹介しましょう。
私がまだ社長を務めていたとき、新製品の一つとして、天井埋め込み式のLED照明が議題に上りました。
住宅メーカーや電気工事会社向けに販売する新しい製品です。
一通りのプレゼンを聞いた後、私は試作品を手に取りながら「お客さんの反応はどうや」とステージ上の担当者に尋ねました。
開発担当「施工しやすいと高評価をいただいています」大山「そうか。どうやって薄くしたんや」開発担当「制御部を分割して、脇に回路を埋め込みました」(担当者、カバーを開けて見せる)。
大山「特許は取れへんのか」知財担当「方式が異なる先行特許がありますが、取得できないか検討します」大山「競合商品に比べて価格優位性はどうなんや」
設計担当「はい、今は一部がダイキャスト製ですが、プラスチックに変更できればかなりいけます」大山「プラ(プラスチック)にできたら競争力あるな。LED電球でやったように、アイリスの強みを生かせ。分かった。OK!」
「LED電球のように」とは、プラスチック成型が得意なアイリスがLED電球で金属部品をプラスチック部品に変更し、大幅にコストダウンした過去の成功例を指します。
「OK!」を合図に、社員が決裁書類を持ってくると、私は手元のはんこをポンと押しました。これがゴーサインの証し。
プレゼン開始から決裁まで10分もたっていません。
新製品の開発提案からパッケージデザインに至るまで、アイリスではすべてが、プレゼン会議の議長である社長の決裁で進みます。
開発に関することだけでなく、売り場デザインや販促キャンペーン、重要な得意先への納入価格の決定などもプレゼン会議で社長決裁です。
もちろん、「ダメ出し」をすることも多々あります。同じ日、LED照明売り場のデザイン案が提出されました。担当者がレイアウトを詳細にプレゼンしますが、途中でいろいろ注文を付けました。
「もっとLED照明の専門店らしくならんか」「(空間が)もったいなさすぎるで」「柱が邪魔してるんやないか」最後は「もう1回。再考!」と議論を打ち切りました。
この担当者は部署で再検討し、翌週以降にまた提案しなければならない。アイリスには約20の事業部があります。
社長は全事業部の全案件を1日で決裁します。各事業部の持ち時間は数十分。
次から次へと繰り広げられるプレゼンに対して、社長は「分かった。OK!」「分からん、もう1回!」という判断を即座に下します。
この決断の速さが、年間1000アイテムの新製品を生み出すアイリスの事業スピードに直結しています。
そのスピードは、取引先にもよく驚かれます。ある衣料品チェーンにLED照明を売り込んだときのこと。受注すれば全店展開も見込める重要案件ですが、他社製との比較テストで評価が芳しくなかった。
当時のLED照明事業本部長は、衣料品チェーンの担当者からその話を金曜に聞きました。そこで週末に策を練り、翌週月曜のプレゼン会議で提案しました。
担当者「改良版を作り、案件を取りにいきたいと思います」大山「やってみろ。光量を増やして影の出方を工夫したらどうや」役員や開発陣と、その場で改善案を協議し、「出来たらすぐ持っていけ」という私の命で、午後に試作品を作り上げ、夜には顧客に持っていった。
金曜の夕方に問題点を話したら、月曜夜に改良品を持ってきた。そのスピードに衣料品店の担当者は目を丸くしたそうです。
素早い対応が功を奏し、その後導入が決まりました。プレゼン会議では、その場に開発部門や品質管理部門、特許部門など主要部門のマネジャー級が集結しているので話が早い。
一同で協議し、議長である社長がOKを出せば、全部門が同時並行で即座に走り始めます。典型がLED照明で、最初から大事業になると思っていたわけではありません。
LEDの活用は園芸部門のイルミネーションから始まりました。そこからLED電球が作れるのではというアイデアが会議で出たのです。
当初は限定した生産量でしたが、東日本大震災後は節電需要に対応するため、LED事業部が毎週のように、朝のトップバッターでプレゼン会議に登場しました。
午前中に決裁し、午後から社員が動けるようにするためです。LED照明への参入は2009年8月と最後発ですが、法人向けの直管型のLED照明や、水銀灯を代替する高出力タイプなど新製品を次々に開発し、わずか3年でLED関連製品は主力事業の一翼を担う製品に成長。
プレゼン会議での超スピード開発が、成長の原動力になりました。最初は小さな種でも毎週、水をやっていれば、大きな木に育つのです。
プレゼンの仕方も教える
プレゼン会議では、短時間で要点を説明することを社員にたたき込みます。
「報告はまず結論を。次に経過・理由を順序よく」。
これがプレゼンの掟。
例えば販促提案なら「販促費500万円を使いたいという提案です。このキャンペーンの狙いは……」という順序で話してもらう。
スクリーンに投影する画面は、ひと目で判断できるように、1画面内に情報を収めます。
表の中に無駄な情報や空白があれば「それ邪魔や。取れ」と一喝します。
この会議はアイリスの心臓部です。取締役会以上の意味があると言っていい。その中でもたもたしているプレゼンターには厳しく指導します。
販売予測や想定原価、投資回収の時期や利益といった収支の試算も示してもらいます。数字の詰めが甘いと、すぐ訂正を求めます。
開発費をかけすぎて、儲かるはずの製品が、実は発売してみたら赤字を垂れ流すといった事態を避けなければいけないからです。
例えば金型費がいくら、設備機械がいくらかかるとかは、概算で構わないので全部提案してもらう。
この製品に関してはこういう販売計画で、償却が何年なのでこれくらいの利益が出ますというシミュレーションを出した上で決裁する。
アイリスはメーカーベンダーとして約10万店舗と取引があるので、事前にある程度の情報は取れます。
例えば、1000店舗には間違いなく納入されると見て、1店舗当たりこれだけのリピートオーダーが来ると、年間これだけの販売数になる、というように、細かい計画を出してもらう。
それをもとに具体的な判断・指示をするわけです。
会議の各シーンで、社内各所の人間の知恵を結集して、明確な決断を下します。役員にとっても社員にとっても、月曜は気が抜けない。マーケット動向を注視し、売り方も決める。事業判断のほぼすべてを、プレゼン会議でしています。何千万円とかかる投資判断もプレゼン会議で一発で決裁します。
普通の会社のようにまず開発部門でアイデアを検討し、次に部長級が集まる会議、最後に役員会と何度も会議を重ねると、失敗しないための議論や現場の状況を判断できないトップのジャッジにより、ユーザーニーズとかけ離れてしまいます。
アイリスでは毎週、トップから現場までが一堂に会して話し合うわけです。年間50回の提案機会がありますから、製品の新陳代謝が非常に高速になります。
プレゼン会議なくして会社は回らない。アイリスにとってプレゼン会議はスピード経営を実現するためのエンジン。事業そのものと言っていいでしょう。
ユーザーイン思想を共有する場
私はスーパーマンではありませんから、どの製品がヒットするかが見えるわけではありません。
ただ、社内で一番キャリアが長く、いろいろな経験もしていますから、プレゼン会議の最終決裁者をしていた。
「ユーザーにとって」ということが最初にあり、生活シーンでどのように使うか。これをみんなでイメージしながら、議論をします。プレゼン会議は多数決では決裁しません。
みんなは右だが、議長一人が左となったら、議長の意見を通す場合もあります。多数決では、決めることが目的化しますし、売れなかった場合、反対した人が賛成した人を非難します。
この会議は議長の責任の下、審議する場です。そこで話す内容は、担当者一人、議長一人の思い込みではいけない。
単なる提案の場でもなく、多数決で決める場でもなく、ディスカッションをする場なのです。だから、アイデアがブレークスルーする。
決裁した瞬間に、責任は議長である社長が負います。ヒットしたら担当者の手柄、失敗したら議長の責任。
こうしておくと、社員はチャレンジします。
アイリスのこの会議をまねした会社はいくつかあると聞いていますが、特に大企業ではうまくいったところは少ないそうです。
それはユーザーインの思想がぶれているか、議長が怖がって決裁しないか。そのどちらか、あるいは両方だと思います。名だたる大企業ともなれば、優秀な社員がたくさんいます。
ユーザーインに基づいた開発の種もたくさん組織内に存在するはずです。しかし、それが課長会議にかかり、常務会にかかり、役員会にかかる。
3段、4段とフィルターを重ねるうちに、最後に判断する人が「それで競合に勝てるのか」と問いかける。要するに、失敗したくないわけです。
既に売れている製品は比較的ジャッジがしやすい。売れるか売れないかは出してみなければ分からないという製品はジャッジをしたくない。それではユーザーインの製品は世に出ません。トップに技術的な専門知識がなくてもいいのです。
知識がない分野ならば、社員に「おまえを信用していいか」と聞けばいい。責任は議長が負うのですから、売れなくても、担当社員を降格はさせません。
もう1回チャレンジさせる。でも、2回も3回も同じような製品で失敗すると、新しい担当にチェンジする。
情報と決裁を「見える化」
この会議を私が仕切っていた頃には、「これだけテンポよく物事が決まる会議は大山でなければ機能しないのではないか」「大山がいなくなったら、アイリスはどうなるのか」と言われましたが、それは誤解です。
プレゼン会議は誰かのパーソナリティーで回したら失敗します。
仕切り役の人の好みに合わせるために、毎週、猛スピードで開発案件を回してくれるほど、社員は暇ではありません。
また、1つや2つの製品なら、トップの感性でヒットすることもありますが、何十、何百となると無理です。
製品が売れなければ利益率も上がらず、新製品比率も高まらず、会社は衰退します。
この会議の議長は、パーソナリティーを排除することが重要です。ユーザー目線でジャッジすることに徹するのです。
私は情報共有さえしっかりしていれば、企業戦略の根幹に関わる買収などの案件でない限り、誰がジャッジしても結論はさほど変わらないと思っています。
会議では皆で同じ情報を共有します。だから、事前の根回しは一切禁止。「来週、こんな提案をしますのでよろしくお願いします」といった事前交渉には一切応じない。
開発を早く進めたい社員が、「プレゼンで通らずに作り直しになったら時間をロスするので、事前にサンプルを社長に見せて、反応を確かめよう」という気持ちを持ちたくなるのも理解できないわけではありませんが、一切禁止。
情報の偏在は、開発力を減退させます。プレゼン会議の場で社長だけが知り、ほかの参加者は知らないという情報は1つもありません。議長はその公開情報に基づき、「これが最も合理的だ」と思う判断をしているだけです。
さらに、決裁の理由や疑問点も必ず話します。いわば、情報と決裁を「見える化」しているわけですね。
ですから誰が議長でも、理にかなった判断をすれば、大方が納得する決定ができる仕組みになっています。
私が会長になってからは、社長が議長をしていますが、全く問題ない。見方を変えれば、この会議は事業承継の仕組みでもあるのです。
開発案件で根回しを認めている会社はやめましょう。社員の目線がユーザーから離れ、議長を見るようになるからです。そして時間の無駄です。
プレゼン会議のような公開議論・決裁の仕組みを検討してください。業種を問わず、どの会社でも導入可能です。プレゼン会議の特長を改めて整理します。
1社長が決めるから速い
何カ所も稟議書を回して決裁すれば、時間のロスを生みます。最初から社長決裁にすれば経営のスピードは格段に上がるし、社員は迷うことなく思い切って動けます。
提案、ブラッシュアップ、再提案の繰り返しで、おのずとプレゼン内容にも磨きがかかり、結果的に製品開発のスピードを速めることにつながります。
製品によっては大きな設備投資も発生し、失敗するリスクも伴う。これはトップが判断するしかないのです。
計画通りにいかなかったらトップの責任。大ヒットしたら担当者の功績。このようにしないと、社員は石橋をたたいて渡らない。リスクのある開発をしないのです。
2その場で問題解決するから速い
プレゼン会議には開発、製造、品質管理など各部門の責任者が一堂に会するので、問題の多くがその場で解決できます。
社員は各持ち場から意見を述べます。役割分担して短時間ながら要領よく話し合い、社長が最終判断を下す。これが会議のテンポの良さを生んでいます。
3社長の考えが全員に伝わるから速い
「もっとユーザーの目線で考えろ」「どうすればアイリスの強みが生かせるか考えろ」。議長はこうしたセリフを何度も繰り返します。ユーザー目線の考え方を植え付けるためです。
私自身、開発中の製品は可能な限り、自宅に持ち帰って実際に使ってみます。無加水調理鍋を開発したときは「女房に作ってもらったらカボチャがすごく甘かった。無加水で作るとおいしい食材を一覧にして、レシピを小冊子で配布したらどうか」と指示しました。
プレゼン会議は、こうした話を紹介しながら、売れる製品の作り方、売り方のコツを社員に伝える場でもあるのです。
社員は時に怒られながらも、プレゼン会議での社長や幹部の発言から「開発の思考回路」を学びます。
根回し禁止で、情報共有や決断のプロセスにブラックボックスがないので、社員も社長のロジックを理解しやすい。
こうして社長の分身を増やし、優れた商品企画を量産しています。
4毎週実施するから速い
いい企画をひらめいても、次の会議までしばらく手元に置いておく──。毎週会議を開けば、そんな本末転倒も起こりません。プレゼン会議で重視するのはテンポです。
その場で次々に決断するリズム感は、そのまま社員に伝わり、ダメ出しされても1週間でブラッシュアップする。
思い立ったらすぐ集まって話ができるように、アイリスの社内各所には「立ち会議」の丸テーブルがいくつも設けられています。
いちいち会議室を予約していたら、とても間に合わない。毎週会議をするから、半年ごとに製品を世代交代する離れ業も可能になる。LED電球はわずか2年の間に、中身が「第4世代」に変わりました。
最初はアルミ筐体、第2世代で筐体をプラスチックに変え、第3世代で回路を変え、発光効率を高めるといった具合です。会議の頻度が、新陳代謝の速いものづくりを可能にするのです。
開発部門の会議も高速で回る
プレゼン会議以外の日はどのように開発現場が動いているのかを話しましょう。開発部門は、家電や園芸用品などの分野ごとに約10人ずつのチームに分かれています。
企画提案は新入社員を含む全員に求められます。そんな開発部門内で情報共有の要となるのが、「開発週次ミーティング」。
毎週火曜と水曜に、角田工場と家電の研究開発拠点がある大阪・心斎橋オフィス、中国・大連の工場など関連拠点をテレビ会議で結び、開発担当専務の仕切りで、製品開発の議論をします。
内容は多岐にわたります。新製品の企画の詰めや開発の進捗状況の確認、既存製品の改良提案など。
1チームにつき1時間、スケジュールが遅れているなど重要度と緊急度の高い案件から順に話し合います。スピード重視のため、会議中は全員が立ったまま。
専務は2日間立ちっぱなしです。
心斎橋オフィスは会議室が狭く、2フロアに分かれてミーティングを開きますが、それらの部屋をわざわざテレビ会議で結んでまでも全員参加にこだわります。
後で伝えると情報が劣化したり、勘違いが出たりするので、それを避けるという意味もありますが、会議の雰囲気や熱気を全参加者に等しく感じてほしいからです。
同じタイミングで情報を共有できれば、入社年次や役職に関係なく、担当者が専務と直接コミュニケーションできる利点もあります。
新入社員も役員も一人の生活者として朝起きてから夜寝るまで、家電や日用品を使う。その中で不満を感じたら、それを解消する製品を提案します。アイデア出しは誰でも平等。
組織が大きくなると、どうしても意思統一が図りにくくなりますが、アイリスは役員と社員が非常に近い距離にあります。
開発部門内での議論を経てブラッシュアップした企画がプレゼン会議での提案に進むのです。ただし、これは社長交代をする前のフローです。
アイリスでは私の社長時代も、息子に代わってからも、しょっちゅう仕組みを見直します。同じ仕組みが長年続いていると、どうしてもマンネリ化する。
だから少しでも課題が見つかれば仕組みをどんどん変えます。もちろん、ポイントはずらしません。この開発会議でいえば情報共有です。アイリスでは情報共有を表層的なものにはせず、全員が同じレベルの情報を同時に持ちます。
ユーザーイン思想を育む場
プレゼン会議は、開発案件を高速で回すだけではなく、ユーザーの目線を共有するための仕組みでもあると言いました。情報共有であり、意識共有の場。
だから、リアルタイムで場を共有することに大きな意味があるのです。その場にいる各部門の責任者たちは、ユーザー目線でバンバン質問を浴びせます。
実は、ユーザーインが理解できていない社員は、話の焦点が定まらないからプレゼンも下手。経営陣の質問にきちんと受け答えできない一方通行のプレゼンは、厳しく指導します。
逆にユーザーインの視点があれば「7割方は失敗しそうだな」と思った提案でも、あえてやらせることがあります。
たとえ失敗しても多くの場合、損害は知れたものですし、失敗の理由を考え、次に生かすことが本人の成長につながるからです。こうしてユーザーインの発想が組織に行き渡ると、売れる製品がどんどん作れるようになります。ユーザーインの視点は数字でも裏付けを取ります。
通常、工場から出荷した製品がどこにどのように流れているかは細かく分かりません。しかし、アイリスはメーカーベンダーなのでそれが分かります。
アイリスの配送システムは、小売店のPOS(販売時点情報管理)をもとにした発注システムとつながっているので、いつ、どの店舗にどの製品が何個入ったか、そして消費者がいつ購買したかという情報が手に取るように分かります。
野球で言えば、バッターがキャッチャーのサインを見ながら、バッターボックスに立っているようなものです。
そのデータを全国規模で分析すると、日本の消費トレンドが見えてきます。プレゼン会議で議論・判断をするときには、こうした強力なバックデータがあるわけです。
もちろん、需要創造型の新製品は発売してみなければ販売数は読めません。でも、リアルタイムのPOS情報をベースに仮説を立て、販売予測を行う。
加えてユーザーイン思想の組織浸透度も他社をしのぐレベルだから強い。アイリスのユーザーインの「仕組み」がご理解いただけましたでしょうか。
かけ声なら簡単ですが、仕組みにするのは難しい。しかし、仕組み化しなければ、経営ではない。
固有の技術があったとしても、それがいつまでも続く保証はない。必要なのは、売れる製品をたくさん生み出す固有の仕組みです。
仕組みがなければ、いかなる時代環境でも、利益を出すことはできないのです。私はオイルショックの後、時間をかけて、この仕組みをつくってきました。
作り手の発想が染みついた組織を、使い手の発想が浸透した組織に変える作業は想像以上に大変でした。組織というのは放っておくと楽なほう、つまり自分勝手な経営に重心が寄ってしまうものなのです。
実際、多くのメーカーが今もなお、良いものを安く作ればいい、というミスマッチした思い込みに陥っています。
一方、昔のオイルショックのときも、今回のコロナショックも、ユーザーのニーズに合わせた商売をしているところは、しっかり利益を出しています。
アンケート調査では需要創造はできない
ユーザーインは、経営においては極めて重要です。
プロダクトアウトの時代にユーザーインが存在しなかったのではなく、大量生産・大量供給そのものが、ユーザーのニーズだっただけです。
ユーザーニーズの変化については、マーケティングの第一人者とされるフィリップ・コトラー氏が4段階で表現しています。
供給者主導の「マーケティング1・0」の時代が終わり、消費者主導の「マーケティング2・0」になった。
アイリスはまさにそれを実践するため、経営の仕組みに落とし込みました。
そして「マーケティング3・0」は企業の社会的価値などで消費者は商品を選別するようになったという。
「マーケティング4・0」は顧客の自己実現を支援するものです。
それらはマーケティング2・0を否定するのではなく、付加されるものです。アイリスも生活者の視点に、社会性をより取り込んでいくことになるでしょう。
コロナ下でのマスク供給も、結果としてアイリスの知名度、信頼度というブランド価値を高めたと認識しています。
アイリスは「ジャパンソリューション」を掲げ、日本の課題解決を図る製品にも力を注いでいます。農業を支えるコメの商品開発・販売に乗り出したのも、その一つです。
ただ現実には、消費者主導の経営は多くの企業で十分にできていません。コトラー氏の理論などを頭で理解しているだけで、マネジメントの仕組みに落とし込んでいない。
かつて日本はアジアの盟主で、しかも人口が増加していましたから、海外で安い製品を作って持ってくれば、企業は食べられた時代が長かったのです。
それが通用しなくなっているのに、いまだマーケティング1・0のマネジメントをしている企業がよく見受けられます。
言葉では「ユーザー目線」などと言っていても、仕組みに落とし込んでいない。まさか、アンケート調査をしただけで「当社はユーザーの意見を取り入れている」と本気で思っているのでしょうか。マネジメントを変えなければ、消費者主導の経営をしているとはいえないのです。
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