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CHOICE3 KPIの目的は「業績向上」か「新陳代謝」か

顧客が求める製品を開発する上では、価格競争に対する考え方も重要です。

人口が減り、消費が停滞しているといっても、ここしばらくの間、日本のGDP(国内総生産)はあまり変わっていません。

これは何を意味するかというと「衰退している市場」と「成長している市場」があるということです。

もしあなたがいる市場が縮小しているなら、成長している市場に移らなくてはいけない。頑丈な船でも、沈むときには沈みますから、船を乗り換えるという発想が大事です。

あなたを乗せる船は、必ずどこかにあります。いかなる時代環境においても利益を出すには何をすればいいか。その一つが、利益が出なくなった製品を根本から見直すことです。

この考え方は製品開発をする上で欠かせないものだと思いますが、多くの企業では実行されません。利益率が大きく下がった製品があっても、少しでも利益が出るならばと無為に居座り続けるのです。

事例で説明しましょう。

時は1991年。バブル崩壊で起きたのは、オイルショックと同じ「価格破壊」でした。供給過剰になると単価が下落する。これはもう教科書通りでした。

特に、当時のアイリスの看板商品であるクリア収納ケースが激しい価格競争にさらされていました。この製品は5月の寒い日の朝、私と妻の会話から生まれました。

私は釣りに出かけようとセーターを探しましたが、見つかりません。家中の衣装ケースや引き出しを開け、寝ている妻を起こして探したものの見つからず、ついには言い争いに発展──。

「収納ケースの中身が見えたらいいのに」「しまうだけでなく、探すための便利さも必要だな」。そんな気づきが、世界初のクリア収納ケース開発の原点でした。

「きっと皆も、困っているに違いない」。早速、製品化に向けた取り組みがスタートしました。

しかし当時、透明性の高いポリプロピレン樹脂は、使い捨て注射器という特殊な用途のために開発された素材で、希少で高価。製品開発は簡単には進みませんでした。

そこで、値ごろ感のある製品を開発するため、原料メーカーと共同研究を開始。クリア収納ケースは発案から2年の歳月を経てようやく形になったのです。

完成した製品を見た取引先の反応は、「収納ケースは価格競争が激しい市場。高い製品は誰も買わない」といま一つ。

しかし、価格の安い不透明な収納ケースと並べて販売したところ飛ぶように売れ、クリア収納ケースは瞬く間に日本中の家庭に行き渡りました。

クリア収納ケースは従来品より2割高い価格だったので、アイリスに大きな利益をもたらしましたが、あれよ、あれよという間に30社が乱立します。

経営は競争です。

ヒット商品を作ったからといって、いつまでも儲かるわけではない。ヒット商品であればあるほど、他社がそこに目をつけて、類似商品を出してきます。

市場は完全に供給過多でした。そこにバブル崩壊が起きたのです。

目次

儲からない市場からは一時退避

需要と供給のバランスが完全に崩れ、投げ売り合戦が始まります。2000円程度だった価格は半値以下まで下落。

アイリスはサイズのバリエーションを増やすなど、小手先の工夫はしてみましたが、その程度では価格競争から抜け出すことはできなかった。

クリア収納ケースは私たちが作った市場ですから、愛着はとても強かった。オンリーワンの製品で、日本の収納文化を変えたというプライドもある。

しかも、クリア収納ケースは売り上げの3割を占める事業の柱に育っていました。しかし、価格が半分も下がると、原材料費もまかなえません。このままでは共倒れで、オイルショックの二の舞になると思いました。

そこで私はどの会社よりも早く、国内市場からの一時撤退を決断しました。

正確に言うとやめたのではなく、こちらの提示価格で買ってくれる顧客だけに販売した。

「価格が安くなければ駄目」という小売店からは手を引くことにしたのです。そうすると設備や金型が余り始めます。そこで私は、米国市場の開拓に取りかかった。

米国は家が広く、大きなクローゼットがある。しまうことに不満はないかもしれないが、探す不満は必ずあるはず。この判断は正しく、アイリスにとって初めての海外進出が始まります。

国内市場からの一時撤退がなければ、アイリスの海外展開は始まらなかったと考えています。

国内では、値引き販売をやめた途端、売り上げは急降下しました。ただ、もともと材料費分も出ていなかったのですから、手元に残る利益が減るわけではありません。

むしろ、シェア確保に費やす労力を他の事業に振り向けることができた。

冷静に考えれば誰もが納得する経営判断でしょうが、こうしたケースでは、多くの会社が市場に踏みとどまります。

「市場はまだ伸びる」「売り上げが欲しい」などの理由を並べたて、過当競争の渦の中でがまんをし続けるのです。

私も迷いはありました。

しかし、ここで市場から一時撤退しなければ「いかなる時代環境でも利益を出す」という理念に反する。

オイルショックに伴う値崩れで、倒産しそうになった経験を二度としたくない。そうして、迷いを振り切ったのです。その後も市場では価格競争の嵐が吹き荒れ、現在も残っているメーカーは数社です。実は当社もその中にいます。

価格競争が一段落し、十分な利益が出るような状況になってから、クリア収納市場におけるシェアを再び伸ばすことができました。

アイリスは価格競争に早く見切りをつけたおかげで、売り上げをカバーする新製品開発に力を注ぐことができ、米国市場を開拓できました。米国市場で得た利益は、次の開発原資に振り向けることもできました。

価格競争が起きた市場に固執してはいけないのです。多くの人が頭ではそう理解していても、なかなか実行できないと考えているでしょう。

しかし、価格競争を続けることは不毛だという考え方を持たなくては、その先には進めません。

幅広いジャンルの新製品を作る

価格競争の渦に巻き込まれたのは、クリア収納ケースだけではありませんでした。散水用のホースリール、卓上事務用品のレターケースなど、あらゆる製品が15%程度の大幅値下げを余儀なくされました。

1994年度の売上高は500億円を見込んでいたのに、1993年度の17%増、422億円止まり。経常利益は前期並みの33億円、利益率は約8%でした。

バブル崩壊で事業縮小に走る会社が多い中、8%の利益率を上げたことは、ユーザーインで製品開発を進めてきた成果といえます。

しかし、価格競争という外的要因と無縁ではいられなかった現実に、私は悔しい思いをしていました。

不況時に、100円で買っていた製品が80円になったからといって、その分買う人が増えるわけではありません。

けれど、ユーザーのニーズを掘り起こした新製品であれば、100円が相場のところ、120円で販売しても売れます。

バブル崩壊後の価格破壊で改めて学んだことは、新製品比率を高く維持することの重要性でした。

ヒット商品に頼りすぎてはいけないことはオイルショックで学びましたが、仕組みがないと、易きに流れて新製品開発は滞る。

いかなる時代でもしっかりと利益を出すには、新製品を一定以上、持たなければならない。利益率以外の理由からも新製品比率の重要性を感じていました。

不毛な価格競争から一時避難するには、その時点で他の製品を展開していることが必要です。有望な製品が他に一つもないと、避難することができず、価格競争の泥試合を続けるしかなくなってしまいます。

一般に製品展開では、誰もが注目する分野か、儲かりそうな市場に目を向ける会社が多いように思います。けれど、そうした市場は他社も次々に参入しますから、再び定員オーバーで船は沈みます。

そもそも、ビジネスは面倒くさいことにこそチャンスがあります。

面倒くさいことは誰もやりたがらないからです。

おそらくどの会社もそうですが、創業したときは面倒くさいことに一生懸命に取り組み、会社を大きくしてきたはずです。

ところが創業時にはできていたのに、新規事業を立ち上げるときには、目先の効率を優先する会社が多い。

皆が注目している分かりやすい成長市場、しかしその分競争が激しい市場にわざわざ飛び込み、失敗します。

そのため、特定の市場・技術によりかからず、そして、誰もが注目している分かりやすい成長市場以外にも、製品ジャンルをできるだけ広げておかなければならないのです。

そうすればどんなに激しい環境変化が起きても、有望な市場に人員や資金をシフトすることで、利益を伸ばし続けることができます。

ただし、「できるだけ」というと人間には甘えが出てしまいますから、製品の点数やジャンルは広がりません。そこで仕組みが必要なのです。

経常利益の50%を毎年投資に回す

アイリスでは、毎年、経常利益の50%を設備などの投資に回します。

既存製品の利益率が下がり、一気に新しい市場に乗り換えようとして失敗するパターンはとても多い。経営環境の変化は時間をかけながら進みます。

短期間で変化したように見える事象も、必ず以前からその兆しはあるものです。例えば、日本の少子高齢化は随分昔から予測されていました。この10年、20年で突然分かったことではありません。

そうした変化に合わせ、あるいは変化を見越して、一歩ずつ新しい市場に動く。これが経営の基本です。

しかし、この「一歩ずつ」が苦手な会社が多い。環境が変わってきても、何とかなるだろうと既存市場にしがみつき、いよいよまずいとなったときに、一か八かで新市場に参入する。

体力のない企業が一か八かの勝負をして失敗したら、ひとたまりもありません。

メディアはよくV字回復した会社を取り上げます。

読み物としては楽しいかもしれませんが、現実に成功するのは、優れた指導者による卓越した戦略構築、そして社員と一体になった業務改革によって成し得るもので、V字回復は簡単ではありません。

だから、企業は常に経常利益の50%分を、新市場の開拓費用に振り向けたほうがいいと思います。

50%なら仮に失敗しても、どのみち税金(法人税)として取られていたと諦めもつく。

2000万円の利益が出たら1000万円を投資に回す。500万円の利益が出たら250万円を回す。常に経常利益の50%分の資金を使い、新市場に一歩一歩入っていくのです。

そして入った市場が駄目だとなれば、早々に別の市場に照準を合わせる。

じりじり動き、あるときふと後ろを振り返ったら「もう山の中腹まで登っていたのか」と気づくくらいでいい。

一気に山頂に登ろうとするから、途中でこける。アイリスは株式上場をしていません。また、実質的に無借金経営です。

それでも事業を多岐にわたり広げてこられたのは、一歩一歩、新しい市場に出てきたからです。

投資にはリスクが伴いますが、そのリスクを経常利益の50%に抑えていれば大丈夫。

目先の利益だけを欲し、少しのリスクすら取ろうとしないと、いつまでも市場縮小に苦しむことになります。

結果として、売上高に占める新製品の研究開発費も一定水準を保っています。

売上高40億円のときも、売上高400億円のときも、売上高4000億円のときも、売上高の4%です。

会社が大きくなっても、開発の手を緩めていません。こうして軍資金を確保する一方、新製品比率の目標を立てるのです。

新製品比率を50%に設定

アイリスでは中長期の計画を立てません。

今期の1年間はこれくらいの数字を目標にしようという方針は出しますが、中長期の計画は立てない。根拠の薄い計画を立てることに意味がないからです。

その代わりに、売上高全体に占める新製品の売上高比率を数値目標に掲げます。

新製品は「発売して3年以内の製品」と定義し、「新製品比率の目標は50%以上」です。

「売上高全体に占める1つの製品ジャンルを20%以下にする」など、製品群の構成比で考える方法もあります。

しかし、市場を分散させることは本質的ではありません。販売する市場が分散していても、イノベーティブな製品を投入していなければ利益率は低くなります。通常、市場投入された製品は時間の経過と共に価値が下がっていきます。

鮮度の高いヒット商品でしっかり稼ぎつつ、ロングテールの既存製品で利益を補う。

そのバランスは難しいですが、少なくとも新製品比率が50%を下回ってはならないという判断です。

アイリスでは、この「新製品比率50%」の戦略を、1990年頃から意識するようにしました。

そして1994年度には2800アイテムだった製品数を、1995年度には4000アイテムへと一気に増やしました。

営業戦略も、ボリューム商品中心の営業から、新製品優先の営業へとシフトしたのもこの頃です。新製品比率は1991年以降、50%を切ったことはほぼありません。

2010年代に入ってからは、LED電球や家電、コメなどの新製品をどんどん投入するようになったので、60%前後を維持しています。

2019年度は、売上高に占める新製品比率は64%です。ここ最近は毎年1000点以上の新製品を投入しています。

アイリスでは新製品比率50%を目標に据えていますが、50%がいいのかどうかは業界・業態などによって違うでしょう。

また、新製品比率の代わりに新規客開拓率など別の指標を目標にしたほうがいい場合もあるかもしれません。そこは柔軟に考えていいと思います。

ユーザーインを妨げる大企業病

重要なのは、会社の新陳代謝を最もよく表す指標をKPI(重要業績評価指標)に据えるという視点です。

「大企業病」という言葉を聞いたことがあるでしょう。組織が大きくなると、官僚主義、縦割り主義などの弊害が起きやすい。

大企業病にかかると、組織の維持を優先し、顧客の期待を後回しにするため、いずれ利益率が落ちてきます。

それを防ぐには、イノベーションを高める指標をKPIに設定することです。アイリスの場合は、それが新製品比率と経常利益率です。

単に規模拡大を目的にしたKPIでは、新陳代謝が十分にできているかどうかは分かりません。顧客に常に新しい価値を提供できてこそ、外的環境の変化に耐える力が蓄えられるのです。

ヒット商品やロングセラーに寄りかかることは会社の活力を奪います。

あなたの会社がいかなる時代環境でも利益を出すには、どんな指標をKPIに設定するか。そこをまずロジカルに考えて、そして社内のコンセンサスを得るようにします。

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