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CHOICE2フォーカスするのは「買う人」か「使う人」か

顧客に必要とされる製品やサービスを継続的に送り出すことが、いかなる時代環境でも利益を出すための第一歩です。

売れる製品をたくさん出していれば、粗利は拡大しますし、あるジャンルの製品が売れなくなっても、他のジャンルの製品がカバーします。

利益を出し続けるためには、顧客を中心に経営を組み立てる必要があるのです。私が、顧客を経営の中心に据えたのは、オイルショック以降でした。

目次

黒字企業に共通するマーケティング力

オイルショックのリバウンドによりプラスチック業界の8割の会社は赤字で、多くの会社が倒産しました。しかし驚くことに、2割の会社は黒字を維持していました。

大赤字を出してリストラを余儀なくされた私と彼らの間に、どんな違いがあるのかと調べると、「マーケティング」というキーワードが浮かび上がります。

2割の黒字企業は、顧客のニーズに合わせてものづくりをしていたのです。

養殖用のブイも農業用の育苗箱も、利用者である漁師や農家の不便や不満に注目し、その課題を解決するという視点で開発した製品ですから、顧客をないがしろにしたわけではありません。

けれど、私はヒット商品に寄りかかりすぎた。

「作ればどんどん売れるぞ」と踏んだ瞬間から、顧客のことは向こうに追いやり、品質のいいものを安く大量に作って問屋や商社に納めさえすれば儲かるという、プロダクトアウト型の経営に転じてしまったのです。

プロダクトアウト型の経営は、しばしば需要とミスマッチを起こします。オイルショックの仮需要が起きたときも、儲かったわけではありません。

100円の製品が200円で売れたけれども、プラスチック原料はそれ以上に高騰したからです。

私たちしか扱っていない製品ならさほど値崩れはしなかったでしょうが、そんなに甘い市場は現実にはありません。

当たり前のように競合が次々に現れました。

「私たちは先発メーカーで業界シェアも高い。漁業・農業のマーケットは大きいから、まだまだ大丈夫だ」と高をくくっていました。

しかしオイルショック後、100円の製品は50円にまで下がり、私たちの利益を乗せた価格では問屋は買ってくれなくなったのです。

「好況時だけ儲かるビジネス」ならプロダクトアウト型でも構いません。

しかし、「不況時でも儲かるビジネス」をするには、常に顧客側に立脚しなければならない。顧客ニーズをしっかり見て、事業展開することを経営の軸に据えよう。オイルショックをきっかけに私はそう決めました。

マーケットインではなくユーザーイン

「顧客を中心に経営を組み立てる」というと当たり前のように聞こえるかもしれませんが、多くの会社は十分にできていません。

注意しなければならないのは、顧客は誰かということです。アイリスでいえば、顧客は小売店なのか、それとも消費者なのか。そこのところを明確にするには、経営を3つの型で捉えるといいと思います。

「プロダクトアウト」「マーケットイン」「ユーザーイン」です。

プロダクトアウトと対になる言葉としては、マーケットインが一般的ですが、経営で重要なのはユーザーインの思想です。

順に説明しますと、プロダクトアウトは、自社独自の強みを深掘りすることで勝負する戦略。かつては需要が供給を上回っている状態でしたから、松下幸之助氏が提唱した「水道哲学」のように、とにかくモノを大量に安く作ることが、企業経営の模範とされました。

現代においてプロダクトアウト型が通用しなくなったわけではなく、製造業なら品質、価格、納期などを極めれば勝つことができます。ただ、外的環境の変化や競争条件の変化で需要がなくなれば、せっかくの強みが帳消しになる危険性は常につきまといます。

次にマーケットインですが、これは業界や市場の要望に応える戦略と私は位置づけています。独自性の高くない製品でも、市場で必要とされるものはたくさんあります。価格競争に耐えるだけの資本力や営業力のあるメーカーは、マーケットイン型で戦うことができます。

ただし、市場の競争環境によって業績が上下するので、資本力に劣る中堅中小企業が利益を上げるには無理があります。オイルショックで大赤字を出した、かつてのアイリスがその典型です。

プロダクトアウト型、マーケットイン型の経営が間違いというわけではないのですが、環境変化に翻弄されない会社をつくろうとすれば、ユーザーの動きをしっかりとらまえたユーザーイン型の経営ということになります。

アイリスのように生活者向けの製品を作っている場合、ユーザーとは「エンドユーザー(使う人)」のことです。使う人が「これは役に立つ」「これは安くて使い勝手がいい」などと満足するかどうかを考えるのが、ユーザーインの思想です。

「買う人=使う人」とは限りません。技術者はどうしても、プロダクトアウトの発想になりやすい。また営業社員は、マーケットインの発想になりがちです。

営業社員にとっての直接の顧客は問屋や小売店のバイヤーですが、彼らのニーズは大抵、流通のニーズです。流通は、文字通り製品を流すことが役目であり、必ずしもエンドユーザーのニーズとは一致しません。

例えば、多数の製品を扱う問屋は、売れるかどうか分からない斬新な新製品よりも、安定して売れる製品を扱いがちです。確実に利益が得られる製品をメーカーの営業社員に求め、うのみにした営業社員がそれがエンドユーザーのニーズだと開発に伝える。

そうしたニーズのずれはよくあることです。マーケットのニーズとユーザーのニーズを混同しているのです。ユーザーとカスタマー(顧客)は違います。

問屋は、メーカーにとってのカスタマーではありますが、ユーザーではないのです。

しかも、問屋などの流通企業は、製品の性能ではなく、あちらのメーカーのほうが価格が安いからという理由で仕入れ先を切り替えることがあります。

顧客のニーズを聞いても安泰ではありません。マーケットのニーズとユーザーのニーズのずれを放置し、修正せずにいると、いずれ行き詰まります。

メーカーが、自社の製品を売ってくれる問屋や小売店を大事にするのは至極当然のことです。しかし、その先にいる真のユーザーを見ることが経営の要点なのです。

「透明タンクは売れない」と言った問屋

具体例を挙げましょう。オイルショックの後、アイリスが着目したのが園芸業界でした。

1970年代の園芸といえば、一般的には商店街の種屋さんで種を買い、屋外に置いた素焼きの植木鉢で育てるというものでした。

生活が豊かになるにつれ、もっと自由に、そして室内でも草花や観葉植物を楽しむ時代が来ると、私は考えました。

園芸業界を調べると、どの会社も2ケタの利益率を上げているが、大きな会社はない。しかも、私たちが手掛けていたプラスチック製育苗箱の製造ノウハウを生かせる。

また、消費者向けのビジネスのほうが好不況の影響を受けにくいはず。

こうしてアイリスは、プラスチック鉢を出発点に、BtoB商品からBtoC商品へと軸足を移していくのです。

具体的に、どんなプラスチック鉢を作ったか。素焼き鉢は重くて、落とせば割れる。長く使うとコケやカビが生えるなど、取り扱いが面倒でした。

それに対してプラスチックは軽くて、カラフルで、壊れにくく、安価です。既に業務用の鉢はプラスチックに置き換わりつつありましたが、消費者向けはまだ手つかずでした。

理由は、消費者は早く花を咲かせたいと水と肥料をどんどんやり、根腐れさせるからです。素焼き鉢であれば、鉢自体が水を通すので、やりすぎた水は鉢の外へ流れ出てくれます。

そうした素焼き鉢のメリットを考慮し、プラスチック鉢の底をメッシュ構造にすることによって、アイリスは扱いづらい植木鉢を生まれ変わらせました。

1981年のことです。

この製品のヒットを皮切りに、顧客目線で多種多様な製品を投入したアイリスは、プラスチックの園芸用品においてナンバーワンになるのです。

このようにユーザーのニーズを素直に捉えればヒット商品を開発できますが、流通企業がその壁になることがあります。

1980年代、農作業に使う薬液噴霧器のタンクの色は、黄色が当たり前でした。しかし、これでは農薬がどれくらい入っているか、見ただけでは分かりません。

透明なタンクなら、残りが見えて便利なのではと私は考えました。なぜ黄色ばかりだったかというと、農機具業界では「タンクを黄色にしておけば、直射日光に当たっても、中の薬が変質しない」というのが定説だったからです。

小売店は「タンクが黄色でないと売れない」とまで断言していました。でも、よく調べるとおかしい。

農薬は水で薄めて使うのですが、使用説明書を見ると「その日のうちに使い切ってください」と書いてある。水で薄めた農薬は何日も持たないからです。

どのみち、2日、3日と使わず、1日で使い切るなら、直射日光の影響はほぼないはず。そこで、半透明タンクの噴霧器の販売に踏み切りました。

一応、小売店の意見も汲んで、黄色いものと半透明のものと二本立てで売り出しました。すると、売れるのは半透明のものばかり。その後、黄色いタンクは見かけなくなりました。

積み上げ式の値決めからの脱却

このように買う人ではなく、使う人の立場になって考えることで、新たな市場を創造することができるのです。

ユーザーは法人ではありません。

部品会社なら部品を買ってくれる会社ではなく、部品を使う現場の人、あるいは部品を使って組み立てられた製品を使う人がユーザーです。ユーザーは心底欲しいと思うものには、どういう時代環境であれ、お金を払います。

ユーザーの役に立たなければ、どれだけ小売店の購買担当者に気に入られても、店頭からは消えていきます。どんな業種であっても、ユーザーのニーズを取り込む仕組みを考えていかなければなりません。

小売店は、直接ユーザーと接しているから大丈夫、ということは全くなく、ユーザーのニーズに合った製品を提供できていない店は客離れが起こります。

自分たちはユーザーのことを、どこまで真剣に考えているだろうか。

そう問い直すだけで経営は随分変わります。

過度な値下げはマーケットの要望で、個々のユーザーはそこまで望んでいないことがほとんどです。経営者は、そこをはき違えてはいけない。

あくまでもユーザーニーズに深く入り込んだ製品、サービスを考えるのです。日本企業はマーケットインの発想が強い。

今していることは、「誰の要望なのか」と、まずは落ち着いて考えてみましょう。使う人の視点に立てば、値付けに対する考え方も変わります。

「原価がこれだけかかったから、利益を乗せると、この価格で売らなければ割に合わない」といったコスト積み上げ式の値付けをしていないでしょうか。

なぜ、このような思考回路が出てくるのかというと、組織の維持を優先しているからです。

どの企業も、もともとは何かしらの事業を顧客に提供したくて組織をつくったはずです。組織を存続するために事業を開始した会社は一つもない。

しかし長く経営を続けていると、組織が事業をするための手段ではなくなり、組織を維持することが目的で、事業がその手段になるという逆転現象が起きやすくなります。

それは結果的に組織をむしばんでいくのです。企業が創造する価値を提供する相手は、ユーザーです。

そのユーザーには「原価がいくらかかったから、この値段にしました」という作り手の言い訳は全く通用しません。

この価値ならいくら払うか。それだけで購買の決断を下します。

だからアイリスでは、顧客になりきって値段を考えます。ユーザーは製造原価が分かりません。流通コストがどれだけかかっているかも関知しません。

けれど、目の前にある製品の価格が「高いか、安いか」を知っています。「欲しいか、欲しくないか」を知っています。

作り手の事情を排除し、ユーザーの目線で値段を決めることが、売れる製品を作る基本です。

LED電球でトップシェアを取れた理由

2010年、LED電球の値段が1個5000円程度していたとき、アイリスは2000円のLED電球を開発、市場投入しました。

2000円なら、主婦が買いたくなるはずと考えたからです。LED電球は、蛍光灯や白熱灯より価格が高いことが、普及のネックになっていました。

2000円まで下げれば、1年で元が取れる。2年目からは電気代が10分の1になるメリットをフルに享受できます。

これを店頭でアピールしたのです。原価は一切考慮に入れていません。ユーザーインで値付けをしたから、LED電球で国内トップシェアを取れたのです。

では、どのようにして売価5000円が当たり前の製品を2000円で作ったか。最初の時点では具体論が描けなくても、何とかなるものです。

松下幸之助氏も言っていました。

1割、2割を値下げするのは難しいけれど、半値にしろと言われたら知恵が出る、と。高い位置にターゲットが定まれば、別方向から新しいヒントが出てくるのです。

イノベーションとは不可能なことを可能にすることであり、それを可能にするのが、「ユーザーのためにこの不可能を実現しなければ」というユーザーインの執念です。

LED電球の場合は、ボディー(筐体)を内製化することで、2000円の価格を実現しました。

日本の大企業は大抵、アッセンブリメーカーですが、アイリスはビス1本から自前で作るくらい、内製化率が高い。

外注先に頼んだほうがラクですが、多様な製品を作るには、内製化したほうが結果的には効率的です(3章参照)。

期待したほど売れなかったらどうするのかと心配かもしれませんが、それは考え方が逆です。ユーザーが望む値段で提供すれば、たくさん売れて原価率が下がります。

投資して手間をかけてユーザーの望む価格を実現することと、外注して手間をかけずにユーザーが望まない価格で提供すること。

どちらがリスキーかというと、後者です。多くの人はここを勘違いする。リスクを下げているつもりが、実はユーザーからそっぽを向かれる行為をしているため、リスクを高めているのです。

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