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CHAPTER3ホスピタリティを育てるディズニーの「しくみ」

目次

CHAPTER3ホスピタリティを育てるディズニーの「しくみ」

01ミッションと行動指針がホスピタリティの〝基礎〟

すべての人にハピネスを提供する──ディズニーのミッション

「ミッション」とは、その組織がめざすべき方向性のことで、組織の存在意義といってもよいでしょう。ミッションがないと、従業員がそれぞれ別の価値観をもって仕事に取り組んでしまいます。

そのため、職場のチームワークが悪くなる、コミュニケーションが不足するといったことが起こります。その結果、商品やサービスの品質が低下したり、生産性が落ちたりします。当然、顧客満足度が低下し「お客様離れ」が進行するでしょう。

このような事態を避けるためにも、どのような会社・組織であれ、ミッションは絶対に必要です。自分の組織に〝形〟のあるミッションがないのであれば、創業者の「思い」や現在の経営者の「思い」をミッションととらえればよいでしょう。

ディズニーのミッションは「すべてのゲストにハピネスを提供する」です。これは、サービスと同じように、すべてのキャストが守るべきルールとして定着しているので、厳密にはホスピタリティとはいえないかもしれません。

ただし、このミッション自体、ディズニーの創始者ウォルト・ディズニーのゲストに対するホスピタリティから生まれたものです。

いうなれば、ディズニーのホスピタリティの原点といえるでしょう。ディズニーでは、このミッションを繰り返しキャストに伝えていきます。そのため、キャストに「ゲストのために」というホスピタリティが自然に芽生えていきます。

ところで、このミッションは、ディズニーだけではなく、すべての業種・業態にも当てはまります。

「ゲスト」を「お客様」あるいは「人」に置き換えれば、ビジネスシーンだけでなく、パーソナルシーンにおいても十分通用する考え方です。

前述したように「すべての人がハピネスを求めている」からです。

ホスピタリティの基礎となる「行動指針」──SCSE

ディズニーのすべてのキャストは、ミッションを達成するために自分の役割を果たしていくことになります。

そのとき、気をつけるべきことは何か、どういう優先順位で取り組んでいくべきかを表したのが行動指針です。

ディズニーは、行動指針として、優先すべき順に、①安全性(Safety)②礼儀正しさ(Courtesy)③ショー(Show)④効率(Efficiency)の4つ(SCSE)を定めています。

前著でもご紹介しましたが、それぞれのポイントをおさえておきましょう。

①安全性(Safety)

まず、ゲストにハピネスを提供するために、何よりも大切なのは「安全」であることです。

私がディズニー研修の講師だったときは、「ハピネスの場を創る」もしくは「やすらぎの場を創る」という表現を用いて、安全性の重要性を伝えていました。

たとえば、もしゲストがケガをした場合、それまでの楽しい思い出を失います。そして一緒に来園された恋人やご家族も心配したり、悲しんだりと、ハピネスを失います。

このようなことがないように、ディズニーでは、まず「キャストはゲストをよく見ること」を指導します。そして、その人の気持ちになって思いをめぐらし、そのうえで行動するように教えます。こうした教育を受けることで、キャストもゲストの安全を守れるようになるのです。

たとえば、雨上がりで床面が濡れているとします。当然、通常よりも滑りやすくなります。そういうなかで、キャストの目の前を子どものゲストがアトラクションに向かって走っているとします。そのとき、キャストは、まずゲストの先の行動に思いをめぐらす(推測する)のです。

①路面が濡れている。危険な状態だ

②あの走っている子どものゲストは転ぶかもしれない

③転んで頭を打つかもしれない

④ケガをして、緊急車両で病院に運ばれるかもしれない

⑤楽しい思い出がすべてなくなってしまうだろう

⑥一緒に来たご両親もきっと悲しみ、楽しい思い出が苦い思い出になるだろう

次に、当然そうならないように行動に移します。「ボク、ここから歩いていってね」そして、両手でストップをかけるかもしれません。あるいは、そのとき、子どもはそのまま走り去るかもしれません。

しかし、この声かけで少しでも速度が遅くなる可能性があります。また、足元に注意して走るかもしれません。つまり、子どもがより安全に行動する可能性が高まります。

だからこそ、このようなキャストの言葉や行動が重要なのです。そして、もうひとつ重要なことは、キャストの安全も確保するということです。

ハピネスを提供する側の安全が保たれていなければ、ハピネスを提供することができないからです。ですから、バックステージでキャストが走っていると、同僚キャストから注意されます。

②礼儀正しさ(Courtesy)

安全性の次に優先されるのが礼儀正しさで「すべてのゲストはVIPだと考え対応する」ことが求められます。東京ディズニーランドのエントランスから中に足を踏み入れると、床面のタイルが赤色に染められています。

それは、大事なゲストを迎えるときにレッドカーペットを敷き詰める欧米の慣習に倣ったものです。また、この礼儀正しさは、ゲストにホスピタリティを感じてもらうためには最も重要な行動指針にほかなりません。

ところで、ディズニーの礼儀正しさは、一流ホテルの礼儀正しさとは少し違います。というのもディズニーでいう礼儀正しさは、一流ホテルのような高い格式を求めるものではなく、「親しみやすい礼儀正しさ」だからです。

具体的には、笑顔、挨拶、アイコンタクト(相手の目を見て対応する)、そして身だしなみの4つを実行することです。これなら、もちろん研修やトレーニングも必要ですが、新人であっても身につけることができるはずです。

「CHAPTER2」でも述べたように、この4つは、ホスピタリティを相手に伝えるうえでとくに大切です。

「CHAPTER4」でくわしくご紹介します。

③ショー(Show)

前述したように、ディズニーでは、園内を、ゲストに素晴らしい体験をしていただくための舞台と考え、園内のことを「オンステージ」と呼んでいます。

そして、オンステージ上のすべてを「ショー」としてとらえています。身だしなみは、礼儀正しさの行動指針だけでなく、「ショー」の行動指針にも含まれます。

たとえば、コスチュームは、配属される施設の物語に沿ってつくられています。

そのコスチュームの意味を理解し、正しいサイズで、正しく身につけることが重要です。

そして、その役になりきることが求められます。

たとえば、ジャングルクルーズのキャストは、船長であり、水先案内人でもあります。

カリブの海賊のキャストは、海賊です。

ただ、役になりきろうとするあまり、リアリティを求めすぎてしまうと、問題が発生します。

カリブの海賊であれば、あごひげが生えていて、汗臭いぐらいのほうがリアルかもしれませんが、ゲストから「だらしない」「きたない」と思われるかもしれません。

そのように思われてしまう格好では、ハピネスを提供することはできません。

身だしなみに関するルールを「ディズニールック」と呼びますが、身だしなみの基準について、ディズニーでは細かくルールをつくり、厳しく運用しています。

ですから、「いま、この髪型がはやっているから」といって、いわゆる〝流行〟を取り入れるようなこともしません。

「夢の世界」に流行は必要ないからです。

④効率(Efficiency)行動指針の優先順位の最後に、効率がきます。

効率とは「チームワークを大切にし、ムダをはぶく」ことです。

「効率」は、行動指針のなかでは最後ですが、キャストがつねに意識していることでもあります。

たとえば、東京ディズニーランド自体、効率的にゲストが移動できるような設計になっていて、ほかのエリアに行くときほとんどまわり道をせずに行くことができます。

また、待ち時間は誰でもイヤなものです。

そこで、待ち時間をできるだけ長く感じさせない工夫もされています。

たとえば、ジャングルクルーズでは、ゲストの乗り降りをサポートするキャストを必ずつけて、少しでも乗降時間を短くする工夫をしたり、待っているゲストのためにユーモアを交えた放送を流し、楽しんでもらうことで、少しでも待ち時間を忘れてもらうよう工夫しています。

また、運営そのものの手順を変更することもあります。

このように、キャストはつねに効率が上がるように、少しでもムダがなくなるように工夫しています。

それがキャストのチームワークによって生み出されていることはいうまでもないでしょう。

新人研修の最後に、ディズニーの講師は、キャストに次のように伝えます。

「『安全』で『礼儀を守り』、『ショーを維持』すれば、自ずと『効率』も上がる」と。

ディズニーの行動指針もまた、ミッションと同じように、ゲストへのホスピタリティから生まれたものといえるでしょう。ゲストに安全に、心地よくディズニーを楽しんでもらうことをふまえたものとなっています。

同時に、「礼儀正しさ」や「ディズニールック(身だしなみ)」に見られるように、ディズニー・キャストとしての接遇の基礎となる内容となっています。

この基礎がしっかりと身についていないと、東京ディズニーランドのキャストとしてデビューできないのはもちろん、ゲストにホスピタリティを伝えることもできない、というのがディズニーの考え方です。

「駐車場」にも反映されるSCSE

ディズニーのミッションや行動指針は、キャストが守るべきルールとしてあるだけでなく、商品やアトラクションはもちろん、あらゆる施設の設計にも反映されています。

その好例が駐車場です。

──ゲストが東京ディズニーランドにクルマでやって来た場合、まず駐車場の料金所に向かいます。

〈①安全性〉

まず最初に、料金所のキャストが「おはようございます!」と元気よく迎えてくれます。そして、「東京ディズニーランドの駐車場内は、一方通行になっています。

運転には十分注意してくださいね」と必ず安全を重視する言葉をかけます。一方通行になっているのは、対面通行よりも安全度が高いからです。

〈②礼儀正しさ〉

料金所のキャストが、「おはようございます。本日は、所沢からいらっしゃったんですか。たくさん楽しんでくださいね」と声をかけます。

ゲストのクルマのナンバープレートを見て、親しみ・配慮のこもった声かけをするわけです。また、一方通行になっているため、キャストも後ろを気にする必要がなく、ゲストの目を見ながら、安全にゲストを誘導できます。

〈③ショー〉

ゲストのクルマを、ディズニーの人気キャラクターのイラストが描かれたポールの立つ駐車エリアへ誘導します。

ゲストがクルマのドアを開けると、ゆっくりと、そして静かにディズニーの音楽が流れてきて、「東京ディズニーランドに来たぞ」という雰囲気がだんだんと盛り上がっていきます。

その高揚した気持ちは、エントランスでキャラクターがお迎えしてくれている光景が目に飛び込んできたとき、最高潮に達するでしょう。

〈④効率〉

クルマを止めるとき、一方通行で誘導するためバックして止める必要がなく、時間のロスが防げますし、安全に駐車できます。

また、到着時間によって駐車エリアが分けてあるので、キャストに到着時間を告げればすぐに駐車エリアを教えてもらうことができ、クルマを探しまわる必要がありません。

また、出口が1カ所なのも、ゲストが帰るとき、道に迷わないようにという配慮がされているからです。

このような施設設計により、キャストは、日常の仕事を通じて、ディズニーのミッションや行動指針を再確認しています。

同時に、このような施設設計は「会社は、口だけでなく行動指針をちゃんと実行している」という証明にもなり、キャストは、会社に対して信頼感を抱くようになります。

もちろん、それは、自分の仕事に対する誇りを高めることにもつながっていきます。

02ミッションとSCSEをどうやって教えるのか

繰り返し繰り返し伝える

ディズニーでは、何か特別な「ホスピタリティ教育」と銘打つ研修やトレーニングを行っているというわけではありません。少なくとも私が在籍していた当時は、そうでした。

繰り返しになりますが、本来、ホスピタリティは人それぞれの心のなかで育っていくものですから、ホスピタリティ自体を、会社や組織が従業員に学ばせることはできません。

しかし、だからこそ、ほかからマネされることもないわけです。ただ、ディズニーでは、ミッションと行動指針は徹底的に教え込みます。

前述したようにディズニーのミッションと行動指針には、ホスピタリティの大切さ、ホスピタリティを発揮するうえで欠かせない基礎が盛り込まれています。

ですから、この2つを徹底的に伝えることで、キャストはホスピタリティの大切さを認識し、その基礎を身につけていくことができるのです。

東京ディズニーランドの研修やトレーニングは、入社後6カ月間に集中しています。

もちろん、キャストは、何も知らない状態で入社してくるのですから、どうしても、その時期に研修やトレーニングが多くなりがちです。

もうひとつの理由は、入社直後は、キャストの心が揺れ動いている時期だということです。

たとえば、「いい先輩や同僚とめぐり合いたい」「きちんと仕事をしたい」と期待する一方、「いやな先輩がいたらどうしよう」「ちゃんと仕事ができるかな」というような不安もつのる時期です。

こういうときは、逆に「教えられることを吸収しやすい」という心理的な傾向があります。ですから、覚えるべきルールなどの知識はもちろん、キャストとして必要な姿勢など幅広く身につけることが期待できるのです。

ところで、新人採用後に、導入・新人研修を行うものの、ただそれっきり、という組織・会社が多いようです。だから、新人にミッションや行動指針が根づかないケースがよく見受けられます。

ディズニーでは、導入研修だけでなく、さまざまな研修やトレーニングを通じて、繰り返しミッションや行動指針が伝えられます。

すべてのツールに「思い」を込める

行動指針が駐車場にも反映されていると前述しました。

そのようなパークの施設設計に反映させるだけでなく、キャストの掲示板、社内報などのツールを通じても、ことあるごとにミッションや行動指針が伝えられます。

たとえば、社内報にのせるキャストの写真も笑顔であることが求められます。

もっとも、ディズニーのキャストの場合は、笑顔がすでに身についているので、誰かに言われなくても、笑顔で写真におさまります。

また、東京ディズニーランドのキャストがもつIDカード(身分証明カード)の写真は、すべて笑顔です。撮影担当者が笑顔でないとカメラのシャッターを押してくれないのです。たとえ社長であっても許してもらえません。徹底しています。

バイト同士が「基礎」を確認し合う

ディズニーでは、同僚間や先輩・後輩間でも、積極的にミッションや行動指針を確認し合う風土が根づいていることも見逃せません。

たとえば、ゲストに対してだけでなく、職場の同僚や上司にも、笑顔、挨拶、アイコンタクトの3つを、日常的に行うように心がけています。

そのことで、職場においても、ホスピタリティが生まれ育ち、キャスト間のコミュニケーションも活発で、風通しのよい風土をつくり出しています。

ディズニーの継続的な教育に加え、このようなディズニーの風土が、キャストが基礎を自分のものにする大きな要因となっています。

自分の所属する組織や職場に、ディズニーのような風土をつくりたいとお考えの読者は、まず、自分の組織や職場で従業員同士が、挨拶や笑顔、アイコンタクトができているか確認してみてください。

そして、できていなければ、そこから始めることが風土を変え、ホスピタリティの精神を育てる第一歩となるはずです。

なぜアルバイトを「ユニバーシティ・リーダー」に育てるのか

ディズニーには、「ユニバーシティ・リーダー」というしくみがあります。

ユニバーシティ・リーダーは、新人キャストを対象とした導入研修や、後輩キャストの指導にあたる「トレーナー」と呼ばれるキャストを対象とした研修のインストラクターを務める役割を担っています。

つまり、先生の先生です。

東京ディズニーランド開業から13年間ぐらいは正社員から選ばれていましたが、その後は、現場のアルバイトに募集をかけ、選抜しています。

ユニバーシティ・リーダーに選ばれると、ディズニーの哲学・精神はもちろん、園内の施設やサービスに関する知識、インストラクターとしてのスキルなどを、それこそ1カ月間、カンヅメ状態で教え込まれます。

修了時には、その厳しい研修・トレーニングをやり遂げた達成感もあり、ほぼ全員が泣いてしまうほどです。

私も、第2期(1985年当時)ユニバーシティ・リーダーでしたが、とにかくたいへん厳しい研修・トレーニングが課せられました。

ただ、ユニバーシティ・リーダーとしてインストラクターを務める期間は、例外的なケースを除けば、だいたい1年間です。その後、また元の職場に戻っていちキャストとして働くことになります。

「そんなに厳しい研修やトレーニングを受けたのに、任期はたったの1年間?」と思われる読者もいらっしゃるでしょう。

たしかに、ちょうどインストラクターとして成熟してきた時期に任期が終了してしまうのは残念な気がします。

しかし、もともとユニバーシティ・リーダーは、現場で働いていた先輩が研修を行うことによって、受講するキャストへの説得力を高めることに加えて、職場に戻って、ディズニーの哲学や精神を伝える伝道師を育成するという目的でつくられたしくみなのです。

言葉を換えれば〝ウォルト・ディズニー〟をつくり出すということです。

ですから、同じキャストを何年もユニバーシティ・リーダーにとどまらせるよりは、1年後にまた新しいユニバーシティ・リーダーを育成して、伝道師を増やしたほうがよいというわけです。

ユニバーシティ・リーダーが後輩の手本になる

職場に戻ったユニバーシティ・リーダー経験者は、当然、人に教えることを鍛えられていますから、後輩キャストたちに、いろいろなことをとても上手に教える存在になります。

同時に、自然とミッションや行動指針が守られているかどうかにも気を配るものです。それは、いうまでもなくホスピタリティを発揮するための基礎を職場に徹底することにつながります。

仮に間違ってミッションを理解していたり、行動指針に問題があったりすれば、それを正すために積極的に行動します。

前著でもご紹介しましたが、私自身、同じ職場のキャストがミッションを間違えて理解していることに気づいて、最初は孤独な闘いでしたが、試行錯誤の末、なんとかキャスト全員がミッションを正しく理解するようになった、という経験があります。

これも、やはり、私が、ユニバーシティ・リーダーとしての研修・トレーニングで鍛えられていたからこその体験だったといえるでしょう。「ディズニー精神の伝道師」となった私には、見過ごすことはできませんでした。

実は、このような先輩の存在を見て、「私も先輩のようになりたい」と思う後輩キャストが増えていきます。そして、そのようなキャストは主体的かつ積極的に仕事に取り組むようになっていきます。

もちろん、ホスピタリティを発揮し、ゲストに予想外の感動を与えるケースも増えていくでしょう。

04自社の商品に〝誇り〟をもたせる

ウォルト・ディズニーの哲学を体感するキャストたち

1955年、ウォルト・ディズニーはより多くの人により大きなハピネスを感じてもらおうと、それまで手がけていた二次元のアニメーション映画の世界をそのまま三次元の世界に移すために、ディズニーランドをつくり上げました。

ディズニーのキャストは、さまざまな機会を通じて、なぜウォルトがディズニーランドをつくったのか、その存在意義、つまりミッションは何かについて繰り返し伝えられます。

その結果、ディズニーのキャストはみな、ディズニーのショーに誇りをもっています。だからこそ、自分の役割をきちんと果たし、ホスピタリティをもってゲストに接することもできるわけです。

東京ディズニーランドでは、キャストを対象にした映画上映会が開かれることがあります。それも16ミリ映写機を使った、どこか懐かしいニオイのする上映会です。

上映される映画も、ディズニー初期の頃のアニメーションがほとんどです。驚くのは、映画が終了した直後です。

たとえば、「白雪姫」を見終えたあととしましょう。突然、部屋が真っ暗になります。数秒後、「パッ」とライトに照らし出された扉が開けられて、実物の白雪姫やドーピーが現れるのです。

当然、キャストは驚いて大歓声を上げます。実は、このような演出もディズニーの教育の一環といえるでしょう。

キャストは全員、ウォルトが二次元の映画の世界を体現するためにディズニーランドという三次元の世界をつくったことを入社後の導入研修で伝えられているので、当時を思い出し、初心に帰ろう、「いつでも初演を忘れないようにしよう」というわけです。

同時に、その三次元の世界で働くことで、ゲストにハピネスを提供しているのだという誇りを忘れないようにしようという意味が込められています。

ディズニーも他と同じように〝商品〟を扱っている

「ディズニーのキャストは全員、自分の職場や仕事に誇りをもっている」と言うと、「それはディズニーだから可能なんだ」と反論する人がいます。

しかし、それは間違っているといわざるを得ません。というのも、東京ディズニーランドもまた、ハピネスを提供するための〝商品〟にほかならないからです。

何もキャラクターグッズだけがディズニーの商品ではないのです。さらに、東京ディズニーランド内の7つのテーマランドも、それぞれ商品と考えることができます。

もちろん、各アトラクションも商品です。

ディズニーの商品も、ほかの商品と同じように、一生懸命、調査・研究され、開発されたものです。クルマやテレビ、パン屋のパン、レストランの料理と同じく、商品のひとつにほかなりません。規模の大きさは関係ありません。

ディズニーが特別ということはありません。あなたの会社・組織でも、すべての従業員が、自社・組織の商品に誇りをもつことは十分に可能なのです。

企画・開発担当者の「思い」を伝える

すべての従業員に、自社で取り扱う商品に誇りをもたせるためには、どうすればいいのでしょうか。

それには、たとえば、ディズニーが創始者ウォルト・ディズニーの哲学を徹底的にキャストに伝えているように、企画・開発担当者の商品への思いや苦心談などの情報を、会社・組織のすべての人間にきちんと伝えるということです。

すると、「そんな思いが込められているのか」「よし、みんなで一生懸命に売ろう」などと商品に対する愛着や誇りが生まれ、モチベーションも上がってくるものです。

企画・開発担当はもちろん、宣伝担当も営業担当も販売担当も、一致団結して商品の売り出しに一生懸命に取り組むでしょう。

それは、ホスピタリティをもってお客様に接することに必ずつながっていきます。

05働きがいのある職場のつくり方

職場を笑顔でいっぱいにする

ディズニーの行動指針は、ホスピタリティを発揮するための基礎です。ただ、その基礎を守り、ホスピタリティを発揮するには、前提条件が満たされている必要があります。前提条件とは、ひと言でいえば、「働きがい」です。

つまり、自分の会社・組織、職場で働きがいを見出しているかどうかが問題です。働きがいももてない人に、ホスピタリティを発揮することなどできるはずがありません。

ちなみに、この働きがいを、私は「JS(JobSatisfaction)」と呼んでいます。働きがいのある職場は、当然、従業員満足度(EmployeeSatisfaction、以下「ES」といいます)、つまり、従業員の自分の仕事や職場に対する満足度が高いということになります。

では、働きがいをもたせるには、何が必要なのでしょうか。創始者を尊敬している、経営陣の言動が一致している、商品に誇りがもてるなど、働くモチベーションを高めるためには、さまざまなことが考えられます。

もう少し身近な例をあげましょう。

前述したように、ディズニーの職場で特長的なのは、キャスト同士が、笑顔で明るく挨拶を交わし合っていることです。

ディズニーの場合は、それが当たり前のこととして根づいていますが、それが根づいていないような職場でも、最初はぎこちなくても笑顔で明るく挨拶を交わしていると、自然にコミュニケーションもとりやすくなってきます。

そして、チームワークもよくなり、居心地のよい職場になっていきます。当然、従業員の働く意欲も増してくるはずです。

キャスト1人ひとりがリーダーになる

東京ディズニーランドが東日本大震災に見舞われた際のキャストのホスピタリティあふれる行動が話題になりました。

たとえば、あるキャストたちが自発的に、商品のぬいぐるみを防災頭巾がわりに、ゲストに配ったといいます。

たとえば、「ミッキーが守ってくれるからね」というように、ゲスト1人ひとりに語りかけながら、ぬいぐるみを手渡したというのです。

ディズニーの行動指針で最優先しなければいけないのが「安全性」ですから、まさに行動指針を守ったうえでの行動といえるでしょう。

ただ、商品を無料で配るというのは、考えてみれば、ちょっと勇気のいる行動です。ためらっても不思議はありません。しかし、ゲストのために実践したわけです。

なぜ、それができたのか。

それはディズニーには、日頃からキャストの主体的・自主的な行動を許す風土があるからです。キャストが普段から「ゲストに喜んでもらえる」ことを自主的に実践していたことが、今回の震災でも、活かされたといえるでしょう。

一方、自主性を規制するような傾向があまり強いようだと、従業員は、ホスピタリティを発揮しようにもなかなか発揮できないものです。

従業員は萎縮し、息苦しさをつのらせることになります。やはり、人は誰でも、のびのびと働くことのできる職場に魅力を感じるものです。

上司・先輩が積極的にフォローする

ディズニーでは、上司・先輩が積極的に部下や後輩に声をかけます。

たとえば、「いまのゲストへの対応、よかったよ」とフィードバックしたり、「もっと、こうしたらよくなるよ」とアドバイスしたり、ことあるごとに声をかけます。

そのことによって後輩は、「あの先輩、自分のことを見てくれているんだ」「私の存在を認めてくれているんだ」という気持ちになり、「よし、頑張ろう」と、さらに主体的・自主的に仕事に取り組むようになります。

ちなみに、私がディズニー在籍当時、私の職場内で「日頃、上司・先輩から、何か間違えたことがあれば、ちゃんと指導されているかどうか」を聞いたところ、ほとんどのキャストが「イエス」と答えました。

ディズニーの上司・先輩が、日頃から、いかによくキャストを見ているか、そしてマメに声をかけているかを再確認することができました。

イベントにも教育的な意味が込められている

ディズニーのキャスト・イベントのひとつに、アルバイトのキャストが「商品開発」をするというものがあります。

キャストがアイデアを出し合い、プレゼンテーションをして、優秀者には賞品が出るだけの催しですが、出したアイデアが実際に商品としてショップに並ぶこともあるので、キャストにとっては参加しがいのある楽しいイベントです。

モチベーションアップにひと役買っています。これ以外にも、キャストが職場単位でチームをつくって挑むカヌーレースなども開かれています。

開演前の早朝に練習をするのですが、指定された時間に1人でも遅れたり、1人でも練習を休んだりすると、そのチームは練習をすることができません。

ですから、ほかのメンバーに迷惑をかけないためにも、時間を厳守する、練習をサボらないことが求められます。

つまり、レースを楽しむだけでなく、ルールを守ることの大切さを知り、責任感や連帯感、チームワークを高めるという教育的な意味も込められているのです。

このほかにも、ディズニーには、教育的な意味を込めたキャストのためのイベントがありますが、それらのイベントの名称も、ディズニーの精神や世界観を込めたものになっています。

そのための専門のネーミング・チームもあるくらいです。このようなイベントを通じて、キャストは、文字どおり、楽しみつつ学習するわけです。

それは同時に、ディズニーで働くことの誇りを再確認することにもつながります。当然、仕事に取り組むモチベーションも高まります。

06従業員満足度(ES)を高める

ESが低ければ顧客満足度(CS)を高めることはできない

会社の業績を伸ばすには、CS(顧客満足度)を高める必要があります。では、そのCSをつくり出しているのは誰かといえば、フロントライン(最前線)で働く従業員です。

フロントラインには、表舞台で働く従業員だけでなく、裏方で働く従業員も含まれます。実は、このCSは、ES(従業員満足度)と切っても切れない関係にあります。

というのも、ESの低い従業員は、必然的に仕事に対するモチベーションも低く、マニュアルに決められたルールを守ればよいほうで、ホスピタリティを発揮することも少ないといわざるを得ないでしょう。

当然、CSに対する意識も低いため、実際にCSも低くなるでしょう。言葉を換えれば、ESが高くなければ、CSを高めることはできない、のです。

では、ESを高めるには、いったい何が必要なのでしょうか?給料が高い、休日が多いなど、さまざまなことが考えられます。

そのなかで、ディズニーが、最も大切にしているのは、キャストが「働きがい」をもって自分の仕事に取り組める環境をつくるということです(CHAPTER3LECTURE05参照)。

ESとCSは自転車の両輪

私は、よくESとCSを「自転車の両輪」にたとえます。前輪がCSで、後輪がESです。多くの自転車は後輪駆動です。つまり、前述したように、ESが動かないことには、CSも動かないわけです。

会社・組織が、CSを高めようと思えば、まずESを高めることが必要だということです。さらに、自転車には両輪だけでなく、それを支えるフレームやサドルやブレーキ、チェーンもあります。

会社でいえば、施設や設備、情報や制度、しくみ、ルールなど、人を除くすべてのものが該当します。そして、両輪がスムーズに回転するように、きちんと設計されているのはもちろん、正しく運用されていかなければなりません。

もちろん、ペダルを漕ぐ人がいなければ自転車は動きません。

ペダルを漕ぐのは経営陣やマネージャークラスだけと勘違いしている人がいますが、ペダルを漕ぐのは、経営陣はもちろん、正社員、アルバイトなど会社内・組織内のすべての人であることを忘れないようにしましょう。

さて、その自転車は、どこに向かって進めばよいのでしょうか。

そこで必要になるのがミッション(CHAPTER3LECTURE01参照)です。

そうです、ミッションが自転車がめざすべき「方向」を決めることになります。

ディズニーではキャスト全員が「すべてのゲストにハピネスを提供する」ことをめざして、ペダルを漕いでいるわけです。ときには速度が速すぎて転倒することもあるでしょう。

そのとき、自転車を起こして再び漕ぎ出そうとしても、ミッションがなければ各自の方向性がバラバラで、再び転倒し、二度と自転車に乗れない、自転車は動かないということになってしまいます。

そういうことがないよう、ミッションをもち、つねにみんなが同じ方向を向いている必要があるわけです。また、ときにはパンクをして、みんなで修理しなければならなくなるでしょう。

ときには、みんなで自転車を担いで通り抜けなければならないような坂に遭遇することもあるでしょう。

こういうときでも、ミッションがあれば、迷わず同じ方向に向かって進むことができます。このミッションを実際にどう達成するかを取り決めたものが「行動指針」ということになります。

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