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CHAPTER3〈能力〉編

インスタは「シンプル」を極めた——シンプルに、もっとシンプルにクリーガーはスタンフォードで私の講義を受けたばかりだった。彼は人間はどのような条件がそろったときに行動するのかを理解し、また、他人の行動を引き出すにはその実行をいかに簡単なものとしてデザインできるかが重要だと知っていた。バーブンが失敗した理由もそこにあった。バーブンには不必要な機能や、わかりにくい機能がたくさんあったのだ。この気づきにより、クリーガーとシストロムは新たな写真共有アプリをシンプルにしたいという思いをさらに強くした。2010年にインスタグラムを発表したとき、写真を投稿するまでのタップ数はたったの3回だった。アップストアに初登場したときも、インスタグラムは「ものすごく簡単」だと紹介され、そのシンプルさは当時の競合アプリと比べると一目瞭然だった。写真のシェアに大きなビジネスチャンスがあると気づいたのは、クリーガーとシストロムが最初ではない。発表当時、強力なライバルとしてフリッカーやフェイスブック、ヒプスタマチックなどの存在があった。どのサービスも洗練された機能を満載し、フェイスブックとフリッカーは資金力やインフラの面でも圧倒的だった。かたやインスタグラムは二人の若者がカフェでつくった無料アプリだ。機能といえば、写真を撮り、フィルターで加工し、シェアすることだけ。そこまでシンプルなものはめずらしかった(いまでもそうだ)。競合サービスのすべてがユーザーの望むさまざまな機能を備えていたが、このビジネスの暗号を解いたのはインスタグラムだけだった。発表から18か月足らずで、インスタグラムはフェイスブックに10億ドルで買収された。当時、この買収金額は高すぎると揶揄された。ところが現在、インスタグラムの評価額は1000億ドルを超えている。「成功者のストーリー」に騙されるなでは、インスタグラムのシンプルな手法は、なぜここまで成功したのか?アプリの開発者たちはなぜ誰もが同じようにしないのだろう。わかりきったことではないか?それがそうでもない。どういうわけか私たちには先入観があり、何かを達成しようとするなら徹底的に取り組まなくてはいけないと思い込んでいる。悪習をやめたり、悩みを解消したり、大金を稼いだりするには、大胆な行動に打って出るしかないと。一気に断ち切る。家を売って海辺に引っ越す。手持ちのチップをすべて「オールイン」する。こうした極端なやり方で成功すれば、たしかに羨望の的になる。たとえば、3歳のころから毎日12時間トレーニングを続けてきたオリンピック選手や、成功を収めながらすべてを売り払ってイタリアに隠居し、本当の幸せを見つけた元実業家など。大胆な行動そのものは悪くない。人生と幸福にはときに大胆さも必要だ。だが、成功者の物語がメディアで印象深く伝えられるのは、それが「例外的」だからだということを忘れてはならない。大胆な行動は、ドラマになるのだ。他方、持続的な成功へとつながるゆるやかな進歩は見向きもされない。私がトイレのあとに腕立て伏せを2回する場面が取材されないのはそんな理由からだ(まあ、それだけが理由じゃないだろうが)。つまり、大きく大胆な行動は、一般に思われているほど効果的ではないのである。小さいことは、注目はされなくても実際には効果的で持続性がある。人生における変化に関していえば、大きく大胆な行動は、小さく目立たない行動に比べて総じて効果が小さい。やることはすべて徹底してやろうと考えていると、自己批判と失望が待ち受けている。すでに述べたようにモチベーション・モンキーは私たちを大きな行動へ誘おうとするが、苦しくなると逃げ出してしまう。また、大きな行動は痛みをともなうこともある。私たちはよく、肉体的にも精神的にも無理をしてしまう。だがそんな努力は、しばらくのあいだ続くことはあっても、そう長く持つことはない。無理をしても、いい習慣を身につけることはできないのだ。あなたは「小さく考える」方法を知らないそれなのに多くの人が行動を変えるために徹底した行動を取ろうとする。おそらく、小さく考える方法を知らないのだ。つまり、「行動をシンプルにする考え方」は、学んで習得すべきスキルだということになる。たとえ行動をいくつかのステップに分解しても、まだ大きすぎた

そのせいで圧倒され、モチベーションの波が引いて自分が置き去りにされ、気がつけば軌道修正できなくなってしまう。インドのベンガルールに本拠地を置くフォーチュン500企業で、プロジェクト・マネージャーを務めるサリカは、何年にもわたってモチベーションの浮き沈みを経験してきた。タイニー・ハビットを始めるまでは、健康維持のため自炊と運動の習慣を身につけようと努力を重ねていた。だがサリカには双極性障害があり、気分や気力に極端な波があった。薬を使えばある程度は症状を管理できるが、その副作用は重い。医師たちからは、瞑想と運動、心理療法によって症状は緩和できるが、そのためには日課を守ることが欠かせないと言われた。日課を守れば症状が表れるのを早めに察知し、生活に支障をきたす前に対応できる。たとえば、毎朝、廊下の観葉植物に水をやる習慣を身につけられたら、その行動をするときの気分を確認できる。これは調子のいい日なら、何も考えずにできる行動だ。ところが、忘れないように戸口に置いた水差しを無視したい衝動を感じたら、それは何かが起きつつある兆候だ。そうして、ほかの習慣に対する反応も、注意深く見守っていけばいいというわけだ。ところが、ひとつだけ問題があった。サリカはどんなに努力しても、日課を守れなかったのだ。タイニー・ハビットに出合うまで、サリカの人生には仕事に行く以外、日課がなかった。毎日の出勤時間さえ不規則だった。朝食は屋台で買い、昼食は食べるとしたらテイクアウト、自宅のキッチンはほったらかしで、本当にひどい状態になってから、必死に1時間、片づけに没頭する。瞑想は大好きだが、クッションに座ることなく何週間も過ぎてしまうこともあった。瞑想や毎日の安定した習慣を守らなければ、自制心を失いやすくなり、病院に行かなければならなくなる。家では気が短くなり、職場では落ち込んだ。だが、医師たちから習慣を守るように指示されると、火星に打ち上げる宇宙船をつくれと言われているように感じるのだった。サリカは「高揚と消沈」の循環から抜け出せなかった。日常生活の中でとくに足かせになっていたのが理学療法だった。彼女はケガをしたひざの痛みを和らげるため、医師から30分の運動を日課にするように勧められていた。だが何か月かごくたまに運動してみたものの、少しもよくならなかった。だから運動は続かず、いつまでもサポーターを外せるようにならなかった。痛みが和らいだときはモチベーションが一気に高まり(高揚)、このときばかりは先延ばしにしていた運動に取り組んだ。ところが、ふだんから運動をしていないせいですぐに痛みを感じて、「高揚」のあとにはまた運動しない日々が続いた。彼女は身につけようとしたあらゆる習慣について、こうした悪循環に陥っていた。継続に「能力」の有無は関係ないサリカのような経験はめずらしくない。多くの人が「高揚」と「消沈」のあいだを行き来し、不安や失望に陥っている。炭酸飲料をやめたい、朝早く起きたい、毎晩自宅で夕食をつくりたい、収入をきっちり管理したい、毎日、自己研鑽の時間を持ちたいなど、切実な願いは人それぞれだ。多くの人が感情の起伏を経験する。サリカは、健康的な習慣を身につけられないことについて仕方ないと思える日もあれば、落ち込む日もあった。彼女の自信はほぼゼロで、自分には永続的な変化を起こす能力がないのではないかと感じていた。だがついに、サリカは習慣をデザインする効果的な方法に出合った。天体物理学を修めなくてもすむ手軽な方法だ。タイニー・ハビットの方法で、小さく確実に、日課を組み立てるようにしたのだ。毎日、20分の瞑想を目指す代わりに、「リビングの真ん中に置いたクッションに座り、3回だけ深呼吸する」ことにした。朝食をすべて手づくりすることを目指す代わりに、「キッチンに入ったらまずはコンロの火をつける」ことにした。理学療法に沿った30分の運動はやめ、「お気に入りの青いヨガマットで30秒、ストレッチをする」ことにした。サリカはそこから出発して能力と自信を伸ばし、これらの小さい習慣が日課として根づくまで繰り返した。やがて、習慣は成長した。何年も身につけようとしてきた日課を習慣化し、以前より健康になり、自炊やキッチンの片づけ、運動、瞑想、水やりなども毎日できるようになった。サリカは私に、かつて経験したことのない「レジリエンス(立ち直る力)」の感覚を得た気がすると教えてくれた。中断しても「再開」すればいいだけサリカによると、この経験の最大の収穫は、健康的な習慣を手に入れて症状を管理できるようになったことにも増して、自信を得たことだった。彼女はいまでは、望むことはほとんど何でもかなえられると知っている。小さいことから始めさえすれば。だから気分がすぐれず、日課をこなせない日があっても、自己嫌悪には陥らない。最近、足を捻挫して何日か横になっていたことがあった。彼女が住んでいる建物にはエレベーターがないので、以前なら「どうしていつも私ばかりこんな目に?」と思って泣いていたはずだという。だがこのときは、精神的な悪循環に陥らずに痛みを受け入れることができた。ケガが治ったら健康的な習慣に戻れるとわかっていたので、焦らずに過ごせたのだ。そんなふうに感じられたのは、小さい習慣は再開するのも簡単だからだ。大きな山ではなく、小さな丘に登るだけでいい。いたってシンプルだ。それでいて、実際の行動だけでなく、日々の気分にも効果絶大だ。気分がすぐれないときは無理をしない。明日になればもっと日課をこなせるとわかっている。モチベーションが高まった日には、小さい習慣の丘を登ってもまだ心と頭に余裕を感じ、新しいことを試してみたくなり、どんなことを生活に取り入れられるかと考えるほどだ。すべてが以前より軽やかで、実行できると感じられる。新たな習慣を始めたくなったときは、圧倒されるのではなく、胸が躍り、好奇心をそそられる。そんな心境の変化が、人生のすべてのことに波及していった。サリカとインスタグラムの創業者たちが、「変わるときは徹底しなければならない」という神話を克服して成功できたのは、行動につながるいちばん確実な方法に従ったからだ。つまり、「実行しやすさ」のダイヤルを調整し、物事をシンプルにしたのだ。小さく始める——行動デザインのステップ4

行動デザインのステップステップ1:「願望」を明確にするステップ2:「行動の選択肢」を挙げるステップ3:「自分に合った行動」を選ぶステップ4:小さく始める行動をできるだけ実行しやすいものにすること(多くの場合は小さく始めること)によって、モチベーションに頼らなくてすむ。ある行動を実行するには、行動モデルの行動曲線を上回れるように、モチベーションと能力が十分に高くなければならない。モチベーションが頼りにならないことはすでに説明した。しかし幸いにも、能力はちがう。能力が行動モデルのどこに位置するかを確かめれば、どのような行動が習慣化できそうか、見通しを立てることができる。たとえば、毎日20回腕立て伏せをしたいと思っているとしよう。それを行動モデルで表すと上のようになる。

一日のうちどの時間帯をとっても、20回の腕立て伏せに対するあなたのモチベーションはかなり低く、縦軸では真ん中以下にあるとする。さらには、能力についても左端に近いところに位置している。そうなると、この行動は行動曲線をかなり下回る。つまり、あなたにとって一度に20回の腕立て伏せをすることは習慣になりそうにない。能力が低すぎるため、「モチベーションの波」に乗った日だけ、実行することになるだろう(そしてそんな日はあまり多くない)。それでは、新しい習慣が壁を使った腕立て伏せを2回するだけならどうだろう。縦軸(モチベーション)の位置は「腕立て伏せ20回」とあまり変わらない。だが大きなちがいがある。「壁腕立て伏せ2回」の場合、横軸は右端まで移動する。

注目すべきは、行動を実行しやすくすれば、モチベーションは低くても行動曲線を上回れるということだ。これぞ、タイニー・ハビットの効果的なハックのひとつだ。モチベーションがあまりいらない程度まで行動を小さくするのだ。壁腕立て伏せ2回は簡単に実行できるから、習慣として持続できる可能性はかなり高い。「繰り返す」につれて簡単になる新しい習慣をデザインするのは、じつは「確実さをデザインする」ことにほかならない。そして結果を得るには、シンプルさがカギになる。私が学生によく言う表現を使うなら、シンプルさが行動を変えるのである。習慣を確実に実行したいなら、B=MAP(行動=モチベーション・能力・きっかけ)の中でもっとも信頼できる「能力」を調整すべきだ。それが有利な状況をつくる戦略となる。ある行動が難しいなら、もっと簡単に実行できる行動に変えること。モチベーションは時間の経過とともに不規則に変化するが、能力は習慣を繰り返すにつれて向上する。そして能力が向上すれば、習慣を成長させる力にもなる。壁腕立て伏せ2回を2週間ほど欠かさず行うと、行動モデルの中でその位置は、次の図のようになる。

毎日繰り返せば、筋力も柔軟性もテクニックも少しずつ向上する。やがてこの行動はより簡単になり、横軸を右へ、①から③のほうへと移動していく(うまくできたと感じられると、モチベーションも高まる)。モチベーションはいったん脇に置いて、能力の調整によって習慣をデザインしていくと、それが短期間で根づいて成長することに驚くかもしれない。私は、まだ自分の手法に「タイニー・ハビット」という名前をつける前、習慣のメソッドを確立しようと試行錯誤していたときにこのことに気づいた。すでに行動モデルは完成し、行動を長期的かつ確実に続けるにはB=MAPの要素のうち能力がきわめて重要だということもわかっていた。ただ当時は、私はこれを、スタンフォード大学での研究と、ビジネス界のプロフェッショナルたちと新しい商品やサービスを検討するような限定的な状況にしか活用していなかった。だが私はある日、これを個人の行動変化という領域に活用することにした。もっとも小さい「義務」をつくるそれは歯医者の椅子に座り、フロスをサボっていることをやんわりと注意された日のことだった(注意されるのは初めてではなかった)。なんともばつが悪いではないか?行動科学者だというのに、歯の手入れひとつできないとは。ときにはモチベーションが高まることもあったが(歯医者に行った翌日など)、それ以外の日はとくに思い出すこともなかった。私はモチベーションの波に身をゆだねていたのだ。そのときふと、行動モデルの「能力」の要素に着目すれば、フロスを毎日の習慣にできるはずだと思いついた。歯科衛生士が最終チェックのために歯科医を呼びにいっているあいだ、「どうしたらフロスを簡単にできるようになるだろう?」と自問した。そして、その方法が頭に浮かんだが、歯科衛生士には言わなかった。笑われるに決まっているからだ。私が出した答えは「たった1本の歯をフロスすること」だった。

冗談ではない。朝の歯磨きを終えたら、歯を1本だけフロスする。たったそれだけ。ひどくばかげていると思われるだろうが、これがうまくいった。最初の数日は、シンプルさを維持するため、1本の歯だけフロスした。だが私はあるルールを設けた。フロスしなければいけないのは1本だけだが、さらに多くの歯をフロスするのは自由としたのだ。約2週間後には、1日2回、すべての歯をフロスするようになっていた。以来、その習慣をずっと続けている。行動計画を立ててしまえば、欠かさずフロスをするのは簡単だった。しかし、これが実現した背景には、ある重要な、そして複雑な仕組みがある。「発見のための質問」をする私はフロスをばかばかしいほど簡単にすることで問題を解決したが、その前にこの行動を難しくしている原因を解明する必要があった。必要な問いかけはこうだ——この行動の実行を難しくしている原因は何か?私が研究と長年の経験から突き止めたのは、その答えには次の5つの要素のうちいずれか1つ以上が含まれているという事実だ。私はこれら5つを「能力の要素」と呼んでいる。内容は以下のとおりだ。・この行動を実行するのに十分な「時間」はあるか?・この行動を実行するのに十分な「資金」はあるか?・この行動を実行する「身体的能力」はあるか?・この行動には「知的能力」が多く求められるか?・この行動は現実の「日課」に組み込めるか、それとも調整が必要か?あなたの「能力の鎖」の強さは、もっとも弱い「能力の要素」の輪によって決まる。「この行動の実行を難しくしている原因は何か?」と自分に問いかけると、どの要素が最大の問題なのかが見えてくる。これを私は「発見のための質問」と呼んでいる。ただし、「難しくしている原因」といっても、少し難しくしているだけの場合も含むので注意してほしい。行動の実行を妨げるあらゆる障害を検討するのだ。具体的に考えてみよう。たとえば、「7分間の筋トレ」を行う習慣はどうか。大半の人にとっては、簡単そうに聞こえるだろう。だが本当にそうだろうか?「能力の鎖」を使って分析してみよう。「時間」はおそらくもっとも強い輪だ。ほとんどの人にとって、7分の時間を確保するのは簡単だ。少なくとも、1日に30分の運動をするのに比べれば簡単なはずだ。「資金」はどうか?筋トレは家でできるのでお金はかからない。「身体的能力」は?さて、どうだろう。人によっては、7分間の筋トレは簡単かもしれない。だが、多くのエクササイズ系アプリは、筋トレをする際、自分を極限まで追い込むように要求する。そうなると簡単ではない。つまりこうしたアプリの指示に従うと考えると、身体的能力の輪は弱いということになりそうだ。これだけでも、7分間の筋トレを習慣にする努力を妨げるには十分である。もっとも弱い「輪」を改善するここで私の、フロスの小さい習慣の話に戻ろう。フロスに要する時間はたったの数秒だ(時間)。お金はほんの少ししかかからない(資金)。やり方は知っていた(知的能力)。生活にはうまく組み込めた(日課)。つまり、これらの要素はすべて強力な輪だった。だが、「身体的能力」という要素について考えたとき、意外なことに気づいた。フロスは実行するのが身体的に難しかったのだ。溝を掘るとか、車を持ち上げるわけではないのだから不思議に聞こえるかもしれないが、私には難しかった。かなり個人的な理由だが、私は歯と歯の間隔がとても狭いので、フロスするのが難しいのだ。そのことは歯科衛生士からも指摘されていて、フロスを歯のあいだに通すのがひと苦労だった。フロスを入れるのも大変だが、取り出すときはまるで歯を抜いているような感じがした。糸はぼろぼろで使い物にならなくなるので、一回抜くとまた新しいフロスが必要になる。「能力の鎖」のうちのこのもろく小さなひとつの輪は、私に何か月も連続でフロスをサボらせるほど弱いものだった。行動が難しく、モチベーションも低かったため、このままではフロスの習慣が定着することは絶対になさそうだった。そこで私はフロスを簡単にするために何をしたのか?私は自分の歯に合うフロスを探した。約15種類のフロスを買って試してみると、自分にぴったりの製品が見つかった。「調子が悪いとき」でも続けられることは何か?私が出会うほとんどすべての人に、習慣を身につけようとして挫折した経験がある。あなたが健康や生産性、健全な精神のために実践したいと思いつつできていないことを思い浮かべてみよう。なぜできないのだろうか?

じつはあなたにもできる——アプローチさえ正しければ。まずは「発見のための質問」(この行動の実行を難しくしている原因は何か?)をして、あなたの「能力の鎖」の中に弱い輪がないかを考える。それがわかったら、その解決が必要な問題に焦点を絞る。これが「能力の鎖」というツールの素晴らしいところだ。このツールがあれば、混乱や苛立ち、怒りなどとは無縁で行動に移ることができる。私のフロスの例では、モチベーションが足りないと自分を責めることはなかった。そうではなく、1本の歯から始め、細いフロスを使うことで、行動を簡単なものにしようとした。そうして「能力の要素」の中の弱いひとつを強化すると、行動を反復できるようになった。最初の一歩を踏み出すと、あとは簡単だった。1本フロスすれば、手はもう口にあるのだから、簡単に次の歯に取りかかれる。さらには、反復するうちに腕も上がった。その達成感のおかげで、次の日もまたフロスをしようと思えた。私は行動を小さくすることで、この習慣を日課に根づかせることができた。こんなふうに考えてみよう。根の浅い大きな植物がある。強い風が吹いたとき、この大きな植物は根がしっかり張っていないせいで倒れてしまう。習慣の形成も同じだ。実行するのが難しい大きな行動から始めたら、デザインとしては不安定だ。根の浅い大きな植物のようなものだ。人生に嵐が来れば、大きな習慣は危険にさらされる。だが、簡単にできる小さな習慣なら、柔軟な芽のように嵐を乗り越え、その後さらに深く、力強い根を張ることができる。もし、過去一年のあなたの生活を振り返って、ソファでくつろいでばかりだったなら、7分間の激しい運動から始めるのはやめておこう。もっと小さいことから始めたほうがいい。新しい運動の習慣を極端に簡単なものにして、「能力の鎖」のいちばん弱い輪を強化するのだ。たとえば、壁腕立て伏せを1回するだけにとどめよう。たったの1回。風邪をひいたりして調子が悪いときでも、鼻づまりだろうと何だろうと、1回ならできる。小さく始めることで、確実さを身につけられる。小さい状態を保つことで、新たな習慣をしっかりと根づかせることができるのだ。「突破口をつくる質問」をするここで、2つ目の重要な問いに移ろう。私たちが習得したいと願う行動や習慣について問うべき次の問いは、「この習慣をもっと簡単にするにはどうすればいい?」である。私はこれを「突破口をつくる質問」と名づけ、答えは3つしかないことがわかった。行動を簡単にするアプローチを理解するため、ふたたび「人・行為・状況」を確認するPACパーソンの図に戻ろう。

3つのアプローチはいずれも「能力」の要素を調整するものだ。願望がどんなものであれ、スキルを高め、道具を確保し、行動を小さくすることによって、願望に向かう行動は実行しやすくなる。だが忘れてはならないのは、行動をデザインするにはいくつかの道があるということだ。新しい習慣を実行しやすくするには、たとえば自分に合ったフロスなど適切な道具さえあれば十分なこともある。あるいは、1本の歯だけフロスするといった具合に、行動を最小化するだけでいいこともある。何かを実行しやすくする方法はたった1つではない。同じ池で泳ぐにも、水際からそろそろと歩いて入ることもできれば、桟橋から飛び込む方法もある。ターザンのようにロープを揺らして大きく飛び込むこともできる。では、それぞれのアプローチを見ていこう。行動を簡単にする「3つのアプローチ」——いろいろな方法でやりやすくする①スキルを高める得意なことは実行するのが比較的簡単だ。スキルを身につければ能力を高めることができる。スキルの高め方は、行動によってちがってくる。オンラインで情報収集することもあれば、友人に秘訣を尋ねたり、講座を受けたりすることもあるだろう。また、行動を反復することによってもスキルを高められる。私はインターネットでいくつか動画を見て、フロスのスキルを向上させた(どんな行動でも、やり方を紹介してくれる動画があるものだ)。近藤麻理恵の著書、『人生がときめく片づけの魔法』(河出書房新社)は世界的ベストセラーだが、家の片づけのモチベーションを高めるだけでなく、片づける方法を段階を追って教えてくれるところが人気の理由だろう。「ボイストレーナーを雇う」「雑貨店で包丁の使い方講座を受ける」「腕立て伏せのフォームを研究する」といったこともスキルの向上策の例となる。「スキルアップ」のアプローチは、「モチベーションの波」に乗っているときは、その勢いでごく自然にできる。一度限りの行動で将来の行動が実行しやすくなるなら、エネルギーがほとばしっているときにスキルアップしない手はない。たとえば、この章を読み終わって、腕立て伏せをする気になったとしよう。モチベーションが高いこのタイミングは、インターネットで正しい腕立て伏せを解説する動画を研究するには絶好のタイミングだ。スキルアップのためのエネルギーが湧いてこないこともあるだろうが、悲観しなくていい。行動を簡単にする方法はほかにもある。②道具や手助けを使うレタスを洗わないといけないとか、タッパーの蓋がぴったり閉まらないといったごく小さな負担によって、職場にサラダを持っていくか、外でハンバーガーを食べるかの分かれ道になることがある。ストレスをともなう行動は習慣になりにくい。行動に合わせて、使いやすい包丁セットや、履き心地のいいウォーキングシューズなど、行動をシンプルにする道具を使うことができる。私にとって、フロスを簡単にするには道具が決め手だった。自分に最適な細くて滑りのいい製品を探す必要があった。それからはフロスが大好きになり、ダブリンに出張したときは、フロス工場の特別ツアーに参加したほどだ。以前、私のブートキャンプに参加したモリーも、道具と手助けによって変化を起こすことができた。モリーは食事の準備をきちんとできないことが悩みだった。きちんと自分でつくれたときは、自動販売機のスナックをランチにしたり、会議の残りのピザをほおばったりという不健康な選択をせずにすみ、はるかに気持ちよく過ごせる。頭ではわかっていたが、それでも毎日自炊はできなかった。幸運にも、彼女には助けてくれる人がいた。ハンサムな婚約者のライアンは、ウェイトリフティングの選手で、栄養にはかなり気を使っていた。1週間の食事を自分で用意するのが習慣で、モリーとはちがってそれを負担には感じていないようだった。モリーはそんな様子を観察して、彼のやり方を少しまねてみた。低血糖状態になったときのために、サツマイモを大量に料理してタッパーに保存した。やがて、毎週日曜日に料理をして1週間分のつくり置きをするのが二人の習慣になった。だがモリーにとって、5時間もキッチンで過ごすのは気が進まなかった。しだいにモリーは、日曜日が近づくとほかに予定を立て、キッチンに立たずにすませるようになった——毎朝、出勤時にサラダを買えばいいと誓って。ところが、サラダを買うことはめったになかった。平日の昼になると、会議室にある残りのピザを見つめ、自分に失望しつつ、ほかに選択肢はないとあきらめるのだった。やる気がしないときは「どうすれば簡単にできる?」と自問するモリーは私のブートキャンプに参加してから、これは行動デザインの問題であって、性格上の欠陥や意志の問題ではないと気づいた。そこで、日曜日に未来の夫とキッチンで過ごすのをサボる自分を責めるのはやめ、料理を簡単にする方法について戦略的に考えはじめた。ある日のこと。モリーが友人の家を訪ねると、見慣れない器具を目にした。平らな枠に交換できる刃がついていて、友人はニンジンをまるまる1本、ものの10秒もかからずにスライスしてサラダボウルに収めた。まるで魔法のようだった。モリーが「すごい!何それ?」と聞くと、マンドリーヌというスライサーだった。その後、モリーは時間短縮のための調理器具をいろいろと購入するが、これが第1号となった。モリーは未来の夫の助けを借り、マンドリーヌをはじめとする便利な道具を活用して、日曜の料理の時間を5時間から2時間半に減らした。いまではマンドリーヌでニンジンやキュウリ、パプリカをスライスし、1週間分を1日分ずつタッパーに詰めてストックしている。モリーが行動をデザインし直してから数か月後、二人は1週間に一度、10食分を欠かさずつくり置きするようになった。これで平日の昼食と夕食はすべてカバーできる。モリーは1日の中に運動の時間も確保できるようになり、これは活力を高め、健康を維持するうえでも役立った。そしていつの間にか、ライアンと一緒に野山を走れるようになり、休暇中も健康的な食生活を続けようと提案するまでになった。

1年後、彼女は私に、かつてないほど幸せでエネルギーに満ち、生産的になったと教えてくれた。そして何より重要なのは、自分が望む行動に対してモチベーションが下がったとき、「どうすれば簡単にできる?」と自問するようになったことだ。結局のところ、問題解決に向けて柔軟に試行錯誤する気構えこそ、モリーにとって何よりも役立つツールだったのかしれない。こうして「シンプル」にしたつくり置きの習慣発見のための質問「この行動の実行を難しくしている原因は何か?」【質問からわかった問題】モリーの「能力の鎖」の中でもっとも弱いのは「時間」(所要時間5時間は長すぎる)と「身体的能力」(面倒な調理をするのは負担が大きい)だった。突破口をつくる質問「この習慣をもっと簡単にするには?」【質問からわかった解決策】モリーは行動の実行を難しくしている「時間」と「身体的能力」の負担を取り除くため、道具を活用した。また、ライアンに手助けを求め、1週間分のつくり置きの内容と調理法について指南してもらった。③行動を小さくする行動を極端に小さくすることは、ある理由からタイニー・ハビットの基礎をなしている——それは物事を実行しやすくする確実な方法であり、モチベーションのレベルに関係なく、第一歩を踏み出すのにうってつけなのだ。私たちはすでに、行動を小さくする例をいくつか見てきた。それらは「初めの一歩」と「縮小」という2つのタイプに分かれる。「初めの一歩」戦略を使うこれは文字通り、希望する行動に向けて小さな一歩を踏み出すことだ。たとえば、毎日5キロのウォーキングを習慣にしたいなら、「初めの一歩」はウォーキングシューズを履くことかもしれない。その初めの一歩が、新たな習慣の最初にすべき唯一の行為である。ここでの目的は、習慣化のプロセスにおいてきわめて重要な初めの一歩をまず踏み出すことだ。そこで自分に言い聞かせる。「歩く必要はない。毎日かならず靴を履くだけでいい」靴を履くと感じ方が変化する。ウォーキングが急にそれほど大変ではないように思えてくるのだ。大半の日は、靴を履くと外に出て、ちょっと家のまわりを歩いてみるようになる。初めの一歩はそんなところから、やがて大きな習慣に変化していく。だが、タイニー・ハビットの心構えとして私が伝えたい重要な点は、すぐに難易度を上げてはならないということだ。靴を履いてそれ以上気が向かなければ、その日は歩かなくていい。難易度を低く保つことで、習慣を維持できる。やがて、モチベーションに浮き沈みがあっても行動を毎回確実に実行できるようになるだろう。サリカの最大の勝利は、朝食を自分でつくるようになったことだ。以前は絶対に身につかない作業だとあきらめていた。でも誰もが毎日朝食をつくっているのに、どうして自分にはそんなに難しく感じるのか、不思議で仕方がなかった。サリカはタイニー・ハビットの講座を受け、「初めの一歩」の考え方を学ぶと、いくつかの習慣を試し、問題から抜け出す方法をデザインできるかどうか確かめてみた。そして彼女が選んだのは、「朝起きたら、まずはコンロの火をつけること」だった。それが彼女の新しい習慣だ。なんとも小さな行動だが、朝食づくりに向けた初めの一歩である。最初の数日は、それしかしなかった。何秒か火をつけて、消した。だがしばらくして、彼女はコンロに鍋を置いてみた。そして鍋を置くと、おかゆ用のお湯を沸かしてみようかという気になった。お湯を沸かすと、オートミールを加えないのがばかばかしく思え、最終的には毎朝食事をつくれるようになった。驚いたことに、頭の中で思い描いていたより、はるかに簡単に感じられた。ただし、急いでいるときや、ほかに気がかりなことがあるときは、コンロをつけて消すだけでいい。なぜなら初めの一歩というのは、「新しい習慣を日課に組み込むための行動」だからだ。初めの一歩は柔術の技のようなものだ。非常に小さな動きなのに、驚くべき効果がある。それによって生じる勢いにより、次のステップへとすんなり移れることが多い。大切なのは、難易度を上げないこと。初めの一歩を実行することこそが成果なのだ。これを繰り返すことによって、習慣を維持し、成長の可能性を育んでいる。サリカはコンロをつける習慣がすぐにいくつもの習慣を開花させ、朝食をつくる習慣につながったことに驚いた。数か月後にはおかゆからさらに前進し、南インド定番の朝食「ドーサ」のチャツネ添えまでつくるようになっていた。こうして「シンプル」にした朝食づくりの習慣発見のための質問「この行動の実行を難しくしている原因は何か?」【質問からわかった問題】サリカの「能力の鎖」の中でもっとも弱いのは「知的能力」だった。何をつくるかの計画がなく、カウンターが汚れた食器だらけで料理する場所もないため、自分には複雑すぎて手に負えないと感じていた。突破口をつくる質問「この習慣をもっと簡単にするには?」【質問からわかった解決策】サリカは「初めの一歩」を利用し、それまで圧倒されていたプロセスを細かい作業に分解した。コンロをつけるのは簡単に実行でき、このシンプルな行動が彼女に達成感をもたらし、習慣を成長させることになった。「縮小」戦略を使う

次は行動を小さくする2つめの方法である「縮小」について見ていこう。あなたが本当に望む行動よりはるかに小さい、縮小版の習慣を考えるのだ。私のフロスの習慣の場合、本当はすべての歯をフロスしたかったが、最初は1本の歯だけにした。縮小した結果だ。望んでいる行動が「毎日1キロ半、ウォーキングすること」なら、縮小版は「郵便受けまで歩くこと」にしてもいい。それ以上は歩かない。それを毎日すべき最低限の習慣にする。こうして「シンプル」にしたフロスの習慣発見のための質問「この行動の実行を難しくしている原因は何か?」【質問からわかった問題】私の「能力の鎖」の中でもっとも弱いのは「身体的能力」だった。それまで使っていた太いフロスは歯に通しにくく、ストレスがたまった。突破口をつくる質問「この習慣をもっと簡単にするには?」【質問からわかった解決策】適切な道具を手に入れることでフロスをしやすくした。自分に最適なフロスを見つけ、努力と負担を減らした。何より重要なのは、行動を縮小して、1本の歯に集中したことだ。縮小しなければ、私にとってフロスは習慣になっていなかっただろう。私には小さく始めることが必要だった。第2章で明らかにしたあなたの「黄金の行動」を思い出し、小さくできるか考えてみよう。使う戦略は「初めの一歩」でも「縮小」でもかまわない。参考として次に例を示す。

何から始めればいい?——「スキル」か「道具」か「小さくする」か?行動デザインの経路はいくつもあり、「唯一の正解」というものはない。それでも、あなたがどこから始めるべきかを案内したい。あることを実行しやすくするのに、かならずしもすべての要素を調整する必要はないが、「スキル」「道具」「小さくする」という3つの選択を総動員すると行動を最大限にシンプルにできるため、うまくいく可能性は高まる。自分にとって最良の出発点を決めるには、モチベーションのレベルに着目しよう。スキルと道具の獲得は一度限りですむ行動であることが多く、これはモチベーションが高まっているときに実行するのが理にかなっている。モチベーションが高いときは、ふだんより難しいことができる。反対にモチベーションが低いときは行動を小さくすることで気持ちをカバーする必要がある。ある行動に対する自分のモチベーションを把握できれば、それを習慣にするための次のステップを決める手がかりになる。いわばタイヤの空気圧をチェックするようなものだ。もっと空気を入れる必要があるのか、そのまま走り始めていいのか。私は体系化するのが大好きなので、どんな行動でも実行しやすくできる方法をフローチャートにした。チャートは巻末の付録で確認できるが、ここでは実際の流れを理解できるよう具体例で見ていこう。あなたが「毎日20回腕立て伏せをする」習慣を身につけたいと思っているとしよう。その行動を実行しやすくするステップは、以下の流れになる。順を追った問いかけが案内役だ。「分析」のステップ「発見のための質問」をする:20回の腕立て伏せの実行を難しくしている原因は何か?答えは「能力の鎖」からわかる。この場合はたいてい「身体的能力」になるだろう。それが解決すべき輪になる。「デザイン」のステップ「突破口をつくる質問」をする:腕立て伏せをもっと簡単にするには?「身体的能力」がもっとも弱い輪であることを踏まえ、行動を簡単にする方法として何が効果的か、自問する。PACパーソンの3つのアプローチに着目しよう。❶「腕立て伏せの『スキル』を高めれば実行は簡単になるか?」これだけで完全な解決策にはならないが、ある程度のモチベーションがあるなら、スキルを高めれば実行しやすくはなりそうだ。❷「適切な『道具』や『手助け』は、実行しやすくするのに役立つか?」それほどでもない。腕立て伏せの正しい方法を教えてくれる動画はあるが、この運動が簡単になるわけではない。また、トレーナーがあなたの腕立て伏せを代わりにしてくれるわけでもない。❸「簡単にできるように、20回の腕立て伏せを『小さく』できるか?」できる。20回の腕立て伏せは身体的負担が大きいので、この習慣を小さくするのが最良の選択だ。方法はいくつかある。「1回に減らす」「膝をついて数回腕立て伏せをする」「壁腕立て伏せをする」など。身につけたい新たな習慣がどんなものでも、「発見のための質問」と「突破口をつくる質問」と「3つのアプローチ」があれば、行動をシンプルにする手順が見えてくる。そして、この問いかけは繰り返すうちに自然とうまくなる。行動を「簡単」にする方法「新しいスキルを習得するモチベーションはあるか?」【イエス】素晴らしい。では実行しよう。そして次の質問へ。【ノー】次の質問へ。「道具や手助けを探すだけのモチベーションはあるか?」【イエス】素晴らしい。やってみよう。では次の質問へ。【ノー】次の質問へ。「行動を『縮小』できるか?」【イエス】素晴らしい!質問は終わり。新たな習慣の形成に取りかかろう。【ノー】次の質問へ。「行動の『初めの一歩』は見つけられるか?」【イエス】いい調子だ。「初めの一歩」を最初の習慣とし、気分が乗ってきたらさらに踏み出していこう。【ノー】なるほど。これまでの答えがすべて「ノー」なら、「行動の群れ」を見直して、ほかの行動に取り組む必要がありそうだ。

習慣を「持続」させる——最低限だけやればいい行動を実行しやすくするのは、それが大きく育つように根づかせるだけでなく、継続が難しくなったときでも習慣を維持できるようにするのにも役立つ。こんなふうに考えてみよう。小さい植物なら、毎日ほんの少し水をやるだけで維持できる。習慣も同じだ。私はいまでも、フロスをするモチベーションがことのほか低くなる日がある。そういう日は1本の歯だけにしている。ここで大切なのは、そんなときも罪悪感を持たないこと。私は「習慣を保つには1本だけで十分」だと知っている。ほとんどの日はすべての歯をフロスしているのだから、1日や2日でいちいち気にすることはない。人生にはいろいろある。病気になったり、旅行に出かけたり、緊急事態に見舞われたり。だから「完璧」を目指してはいけない、目指すべきは「継続」だ。習慣を生きながらえさせるには、どんなに小さくてもいいので、ルーティンにしてしまう必要があるのだ。小さな行動で「先延ばし癖」に対処する「初めの一歩」は、習慣にする必要のない行動についても魔法のような効果を発揮することがある。少し前、私は経過観察のため、口腔外科に予約の電話をしなければならなかった。楽しいことではないので、難しい行動でもないのに先延ばしにしていた。これは、先延ばしにするのはばかげていると思いつつも避けてしまうことの典型的な例だ。先延ばしについて忘れてはならないのは、実際の難しさに負けず劣らず、難しいと「感じる」だけでも障害になるということだ。しかも義務を果たさずにいると、頭の中でそれが肥大化し、ますます難しく思えてくる。私は深い穴にはまり込む前に、「初めの一歩」を試すことにした。医師の電話番号を付箋に書き、電話に貼りつけるのだ。私は「番号を書くだけでいい」と自分に言い聞かせ、実行した。レベルを下げたことで、私は頭を切り替えることができた。番号を書くのは怖いことではない。それなら簡単にできる。いざ書いてみると、私はすべての行動の完了に向け、すでに一歩踏み出した状態にあった。そこで私はスマホを手に取り、医師の番号を押したのである。あなたもこうした気の進まない課題をいくつも抱え、日々気にしているのではないだろうか?そんな状態は精神的な疲れにもつながる。どんなに小さくてもいいから最初の一歩を踏み出せば、私たちの脳が大好きな、勢いを得たという感覚が生まれるかもしれない。小さな作業を完了すれば自信になり、それが行動を最後まで実行するモチベーションを高めることにもなる。次の章では、フォッグ行動モデルの最後の要素「きっかけ」について論じる。きっかけがなければ行動が起きないことはすでに確認した。きっかけは行動することを思い出させてくれる合図である。いわば火を熾す火花だ。では、このきっかけも簡単なものにしてしまったらどうだろう?すでにあなたの日常に組み込まれていることをきっかけにしたら?時間も労力も資金もかけずに構築できるものだったら?それなら簡単そうだ。

「習慣を簡単にする」ための小さなエクササイズこのエクササイズは2つのパートに分かれている。最初は「分析」、次は「デザイン」にスポットをあてる。パートA「実行しにくい習慣」を分析するステップ1:身につけようとして挫折した習慣を1つ書き出す。何も思いつかなければ、「毎日もっと野菜を食べる」としてみよう。ステップ2:「発見のための質問」を自分に投げかける。この行動を難しくしている原因は何か?ここで「能力の鎖」を考える。その行動には「時間」がかかりすぎるのか?「資金」がかかりすぎるのか?「身体的」または「知的」な負担が大きいのか?あるいは「日課」に組み込むのが難しいのか?パートB行動を「実行しやすい」ようにデザインするステップ3:ステップ2で検討した弱い輪について、「突破口をつくる質問」を投げかける。この習慣をもっと簡単にするにはどうすればいい?たとえば、実行に要する時間を短縮する方法を考える。すべての弱い輪について、いくつものアイデアを挙げるのが重要だ。ステップ4:ステップ3のアイデアから有力な方法を3つ選ぶ。ステップ5:有力な3つのアイデアについて、自分が実践しているところを想像する。具体的な方法を詳細に検討する。おまけの課題:選んだ行動を実行に移し、様子を見る。

 

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