01つねに「自分の役割」を意識するキャストたち
「自分の役割」をわかっているか?
カストーディアルのキャストが、ゲストに、水たまりの水を使って、ほうきでミッキーマウスの絵を描いてみせるパフォーマンスが、マスコミにも取り上げられ、人気を呼んでいます。
その影響もあったのでしょう、一時、カストーディアルのキャストの間で、ディズニーのキャラクターを描くことがブームになったことがあります。
しかし、一部のキャストの間で、「これは、まずいのでは」という声がもち上がりました。
カストーディアルとは「管理する」「保護する」という意味で、パークを清潔に保つ以外にも、パーク内で困っているゲストに出会ったら、そのゲストを保護するというのが本来の役割であり仕事です。
一部のキャストは「このままでは、本来の役割を忘れ、ゲストにキャラクターの絵を描いてみせることが自分の仕事と勘違いするのではないか」と不安に思ったのです。
そこで、彼らは一計を案じました。カストーディアルのキャストたちは、自分たちで清掃スキルに応じて段位を設けています。
そこで、ゲストにキャラクターの絵を描いてみせることのできるキャストを、高段位者のキャストに限定することにしたのです。まずは、本来の自分たちの役割をきちんと果たす、その技術アップをはかろうというわけです。
「ショーに命を吹き込むのはキャストたち」
ディズニーでは、オンステージ上のすべてを「ショー」としてとらえています。当然、キャストもショーを構成する重要な存在です。
ウォルト・ディズニーは、「ショーに命を吹き込むのは、キャストだ」とまで言っています。ディズニーのキャストには、「ショーをつねに一定レベル以上に保つ」ことが求められています。というと、ディズニーだけに通用する話ととらえられがちです。
しかし、ショーを「商品」と考え、商品の品質を一定レベル以上に保つと考えれば、どの会社・組織でも同じでしょう。
自分の役割をきちんと果たす、それにホスピタリティを加えるという考え方は、どのような業種・業態であっても、通用するものです。
たとえば、トイレがいつもピカピカであるためには、トイレを清掃するカストーディアルのキャストが、ルールに従ってトイレをきちんと清掃する必要があります。
つまり、自分の役割をきちんと果たすことが要求されます。仮に、キャストが手を抜いてしまえば、トイレがピカピカではなくなる、つまり品質が低下することにつながってしまいます。
まず、自分に与えられた役割をきちんと果たすこと、これがディズニーの品質を保つうえで、最も大切なことなのです。そのことをすべてのキャストが理解しています。
というのも、ディズニーの場合、基本を徹底的に教え込むための研修やトレーニングのしくみが整っています。それに加えて、上司や先輩が、後輩と密にコミュニケーションをとり、ケアしていく風土があります。
だからこそ、すべてのキャストが自分の役割を一生懸命に果たす気持ちになっていくのです。同時にキャスト自身がディズニーのショーの出演者です。
そして彼らには「すべてのゲストにハピネスを提供する」というミッションがあります。そこで、自ずと求められるのが、ゲストに対するホスピタリティです。
キャストがホスピタリティをもってゲストに接することで、ゲストに予想外の感動を与える、文字どおりハピネスを実感していただくこともできます。
ホスピタリティは大切ですが、その前に、本来の自分の役割をきちんと果たさなければならないことを確認しておきましょう。
02ディズニーでは「できない」とは考えない
逆光での写真撮影に挑む
キャストディズニーのキャストは、ゲストに写真の撮影を頼まれる機会が少なくありません。なかには、アトラクションを背景にしたいなどの理由で、逆光状態でもかまわず、「写真を撮ってください」と撮影を依頼してくるゲストもいます。
そういうときは、「逆光ですから、ちょっとこの方向はムリです」と言うのが普通ではないでしょうか。
しかし、ディズニーのキャストは、逆光のときは、どうすればよいのかと考え、勉強するのです。
そして、「逆光になりますが、いいですか」と問い、「いいです」という答えが返ってくれば、「じゃ、少しでも光が入らないように撮りますね」と言ってレンズの上に手をかざして撮る、あるいはフラッシュをたいて撮る、など工夫します。
場合によっては、キャストが木陰に入ってそこから撮るといった方法もとります。
大雪でクローズ。
でも一部を無料開放私が在任中、関東地方に記録的な大雪が降ったことがあります。東京ディズニーランドにも大人の膝が埋まるほどの積雪でした。
夜中、早朝と、それこそ全キャストが雪かきにかり出されました。ただ、雪は一向にやむ気配がなく、キャストたちは懸命に雪かきをしましたが、すべての通路を確保することはむずかしい状況でした。
そして、これでは危険だということで、クローズすることになりました。そこで、ゲストにチケットの払い戻しが行われました。
ただ、雪にもかかわらず、せっかく足を運んでくれたゲストのために、ワールドバザールとカリブの海賊だけは屋内施設で安全性も確保できたので、無料開放されました。
ゲストは、残念そうな表情ではありましたが、それでもカリブの海賊を楽しみ、買い物やレストランでの食事を楽しんでいました。
「できない」ではなく「何ができるか」を考えるこれらのケースに見られるように、なぜ、ディズニーのキャストは、どんな場面でも「何かできることはないか」と考えようとするのでしょうか。
それは、キャストが、つねに「どうすればゲストにいちばん喜んでもらえるか」を第一に考えているからです。
そして、そのために一生懸命考え、勉強しているからです。すると、何か答えが見えてくる、つまり、できてしまうことも少なくない、あるいは何かしら代替案が見つかるものです。
そういうことが積み重なり、「ゲストのために何ができるか」と考えることが、ディズニーの風土として根づいているのです。
03キャスト全員に情報を共有させる
バイトのトレーナーがつくる「レッスンプラン」
ディズニーには、「トレーナー」と呼ばれるアルバイトの先輩キャストが、新人や後輩を指導するしくみがあります。トレーナーが、新人や後輩にどのように教えるか、つまりレッスンのプランニングは、トレーナー個々に任されています。
トレーナーが現場のことをよく知っているからというのも、その理由ですが、キャストの自主性を重んじるディズニーならではの〝しくみ〟といえるでしょう。
レッスンプランには、たとえば、後輩キャストにレジ操作の指導をするとき、レジの正面に立つのではなく、後輩と同じ向きになってレジ側で指導するといった、指導の内容や方法などが含まれています。
ただ、レッスンのプランニングはトレーナー個々に任されていますが、プランを自分だけのものにしておかず、たとえば上司が「これは、みんなで共有したほうがいいな」と思った情報は、ミーティングなどでほかのトレーナーにも伝えられます。
こうして情報を共有化することで、当然、すべてのレッスンプランのレベルが上がっていくことになります。
キャストの「ホスピタリティ体験」を共有する
このような情報の共有化は、ホスピタリティに関しても同様です。「これはいいな」という言動や方法は、ルールとして規定され、みんなで共有し、守ります。ですから、ディズニーのルールは、キャストのホスピタリティ・レベルの進化に応じて、どんどん進化しています。
一例をあげましょう。
ディズニーのアトラクションによっては、身長制限があります。そのために子どものゲストが乗れないとわかれば悲しい気持ちになってしまうでしょう。
キャストがそれを見て、「悲しそうだな」「がっかりしているな」と感じ、その気持ちを少しでも癒してあげたいと考え出したのが、カラフルなリストバンドをプレゼントすることです。
たとえば、身長制限にかかる子どものゲストに対して、「今回は乗れなかったね。でも、このリストバンドをつけてあげるね。次は乗ろうね。待ってるからね」と言って、リストバンドをプレゼントするのです。
このリストバンドには、身長別に色分けをしてあるので、別のアトラクションに行って、また「身長何センチ?」とキャストから聞かれないというメリットもあります。
何度も同じ質問をされれば、子どものゲストもいやな思いがするでしょう。そういう思いもしないですみます。
このように、子どものゲストの心を完全に癒すことはできないかもしれませんが、少しでもアトラクションに乗れない悲しみを軽くできたらというキャストのホスピタリティによって生まれたのがリストバンドです。
それが、いまではルール化され、サービスとなって、当たり前のこととして子どものゲストに配られていますが、このホスピタリティを、キャストはつねに心のなかに抱いています。
04キャストが互いにフィードバックし合う
ディズニーの上司・先輩は、後輩をよく見ている
笑顔にしても、元気のいい挨拶にしても、自分ではしっかり実行しているつもりでも、他人からはそうは見えないことがあります。
身だしなみにしても、自分ではきっちり守っているつもりでも、ツメを切り忘れていたというようなケースもあり得ます。
どんなに注意しているつもりでも、人はミスをするものです。
ディズニーの上司・先輩は、そういうことがないよう後輩たちをよく見ています。そして、気づいた点があれば、そのことを指摘します。
ちなみに、笑顔をつくるトレーニングとして、割り箸を口にくわえる方法などもあるようですが、ディズニーでは、そういうことはしていません。
笑顔が出ていなければ「笑顔が出ていなかったよ」と声をかけるだけです。もちろん、しっかり守られていれば「笑顔がいいねえ」とか「元気のいい挨拶だね」とほめることも忘れません。
つまり、後輩たちへのフィードバックをつねに心がけているのです。また、同僚キャスト同士でも、フィードバックが行われています。
このようなフィードバックを通じて、キャスト間のコミュニケーションが深まるというメリットも生んでいます。
「はじめ」と「終わり」が効果的
ディズニーでは、朝礼と終礼が必ず行われます。朝礼のときは、ホスピタリティの基礎である身だしなみを必ずチェックします。
もちろん、たくさんあるチェック項目のすべてを朝礼でチェックすることはできませんが、とくに見落としやすい点、たとえば、前髪が目にかかっていないか、髪の長い女性キャストであれば髪を束ねているか、などについてチェックします。
終礼のときは、その日一日に起こったさまざまな出来事を報告・確認し合います。その際、キャストにはメモをとることをすすめています。
「なるほど、こういうふうにすればゲストに喜ばれるんだ」と、そのときは思っても、時間がたてば忘れてしまうこともあります。
ですから、必要な情報は、必ずメモに記録しておこうというわけです。
05問題点を指摘し改善するディズニーの「修正力」
キャストが問題点の慢性化を防ぐ
「やさしい笑顔」「明るい挨拶」、きちんと相手の目を見て話す、いわゆる「アイコンタクト」「身だしなみ」の4つは、ディズニーのキャストにとって、ゲストに接するときの必要最低条件です。
まさにディズニー・接遇スキルの基礎中の基礎にほかなりません。
本書では、このような基礎的なスキルを身につけ、ホスピタリティを発揮することによって、ゲストに予想外の感動を与えることができる、と説明しています。それが基本だからです。
しかし、実際にゲストが感動するかどうかは、結局のところ、ゲストの感じ方次第というところがあります。
ですから、キャストが、この基礎をきちんと実行するだけでも、ゲストによっては、大きな感動を抱かれるケースもあるでしょう。
とにかく、ショーの品質を一定レベル以上に保つうえで、この4つは、絶対に欠くことができません。
だからこそ、研修やトレーニングで繰り返し教えるのはもちろん、職場においても日々実行し、ふつうのこととして体に染みつくようにキャスト全員が心がけているわけです。
しかし、キャストも人間です。ときには、この基礎を忘れてしまうキャストも出てきます。
あるいは、キャスト間(正社員とアルバイトの間)でコミュニケーションがうまくとれないような事態が生じることもあります。
ディズニーが素晴らしいのは、そういう状況が慢性化しないことです。キャストの修正力が、慢性化に歯止めをかけるからです。
「初演の気持ちを思い出して」と訴えるキャスト
たとえば、1人のキャストが、ショーのレベルが低下していることに気づくと、そのキャストは朝礼で「ショーのレベルを維持しよう」と毎回のように同僚に語りかけます。
さらに、そのキャストは、ショーの考え方をみんなに忘れないでほしいという意味を込めて、たとえば各職場の手づくりの新聞などに、次のような文章をのせて、ほかのキャストに訴えかけるのです。
「最近、こんなキャストを見かけます。
・オンステージ上で、こわい顔をしている。
・ディズニールックに違反している。
あなたの目の前のゲストは、一生で一度の東京ディズニーランド体験かもしれません。その夢をこわさないでください!いえ、それ以上に最高の思い出をつくるお手伝いをしてください。どうぞ、もう一度、初演の気持ちを思い出してください。
私たちは、ハピネスを提供するディズニー・キャストなのです」このような指摘が、アルバイトのキャストから出てくるのです。
上司やアルバイトのリーダーは、朝礼などの短い時間を利用して、「このような問題が指摘されている」と、職場のキャスト全員で考えるように伝えます。
すると、「これはいけない」と反省するキャストが増え、だんだんと修正されていくのです。
「ゲスト」として入園してチェックするキャスト
ゲストは、文字どおり「大切なお客様」です。当然の話です。ところが、キャストが「大切なお客様」に変身することがあります。
というのも、仕事の休日などを利用して、東京ディズニーランドを訪れるキャストが実に多いのです。そのキャストたちが、レストランで味見をしたり、商品を買ってチェックしたりするのです。
もちろん、純粋に東京ディズニーランドを楽しむのが目的で入園しているのですが、自分たちが提供している商品やサービスの質をもっと高めたいという気持ちをつねにもっているのです。
そして、何か問題点があれば、後日、上司に報告します。上司としては、率直な意見を聞けるので、たいへんありがたく、参考になります。
そういう意味で、キャストも「大切なお客様」というわけです。ディズニーといえば、万事順調のように見えますが、ほかの会社・組織と変わらず、ときには問題も発生します。
人が集まる場所ですから当然です。ただ、そういうとき、アルバイトのキャストたちが先頭を切って、問題解決をはかります。
キャストたちが修正力を身につけているからです。それが、ディズニーのホスピタリティ・レベルを維持・進化させる大きな力のひとつとなっています。
落とした指輪を小箱に入れてお返ししたキャストこれは、同僚から聞いた話です。婚約指輪を落とされたゲストがいたそうです。
そのゲストは、すぐに遺失物センターに出向きましたが、そのときは、まだ見つかっていませんでした。数時間後に、そのゲストは、再び遺失物センターの窓口に行きました。
すると、担当キャストが、「これでございますか?」と言って、小箱を取り出しました。ゲストは、小箱を落としたわけではなかったので、首をかしげながら、渡された小箱を開けました。
すると、落とした指輪が中に入っていたのです。「わざわざ小箱を用意してくれたなんて……」落とした指輪だけを渡されると思っていたゲストは、たいへん感激されたそうです。
「指輪の落とし物は、小箱に入れてお渡しするように」というルールがあるわけではありません。遺失物センターのキャストが、小箱に入れて渡せば、ゲストにもっと喜んでもらえるだろうと機転を利かし、それを実行に移したというわけです。
これを上司が聞いて「何やっているんだ。ほかのゲストと平等にサービスしなければ苦情がくるだろう」などとは言いません。
上司は、まずそのキャストをほめ、そして「どうしたらほかのゲストにも同じようにサービスできるのか」を考えるのです。だからこそ、ディズニーのサービスも、そしてホスピタリティも進化するのです。
オリジナルの「おもてなし」を加えて迷子に接する
オンステージでは、迷子になる小さなゲストもいます。基本的に、迷子に接するときは、「迷子らしきゲストを見つけたら、声をかけること。膝を折って、迷子のゲストと同じ目の高さで話すこと。時間があれば、まわりにご家族がいないかしばらく捜す。それで見つからなかったら、責任者に報告し、迷子センターに連れていく」といったことが決められています。
ただ、ホスピタリティのあるキャストは、基本をおさえつつ、さらに自分なりに配慮して、迷子のゲストに接します。
たとえば、そういうキャストは、「子どもだって、これ以上は近づいてほしくないというパーソナル・スペース(なわばり)をもっている。他人にいきなりそこに入り込まれるのはいやに違いない。まず距離をあけて話しかけたほうがいいな。いきなりポンと肩をたたいたりするのはやめよう」といったことを、勉強して身につけています。
ですから、実際に迷子のゲストに接する場面では、膝を折って同じ高さの目線で、「どうしたの、ボク?」「ここで働いているお兄ちゃんだから、なんでも言ってごらん」とフレンドリーな声かけをして、まず元気づけてあげようとします。
それから、いくらか時間が経過したところで、「近づいてもいい?」「できれば手をつないで、まわりを捜してあげたいな」と話しかけます。
さらには、「抱っこはやめたほうがいいな。親御さんは、下を向いて捜しているはずだから、こっちに気づきにくくなるから」などといった判断を加えたりします。
これらはほんの一例にすぎませんが、ディズニーのキャストたちは、既存のルールを守ることはもちろん、もっといい行動をとることはできないかとつねに考え、主体的に勉強をしています。
それが、ディズニーのキャストのホスピタリティをどんどん進化させる大きな力となっています。
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