[CHAPTER1]育てる前に教える側の「足場」を固める
01ディズニーが考える理想の上司・先輩とは?
理想の上司・先輩とは?
ディズニーで理想の上司・先輩といわれるキャスト(ディズニーでは、アルバイト、正社員ともに「キャスト」と呼びます。)は、どのような上司・先輩なのでしょうか。
私が、ディズニーのキャスト体験を通じて知り得た理想の上司・先輩像をご紹介しましょう。
その上司・先輩像と比べて、はたして自分はどうか──まずは、現在の自分を振り返ってみてください。
リーダーシップをもっている理想的な上司・先輩の考え方や行動の根底には、ホスピタリティ・マインドに裏づけされたリーダーシップがあることはいうまでもありません。
このリーダーシップこそ、理想の上司・先輩となる必須条件です。
ゲストをよく見ているゲストが何か困っていることはないか、心から楽しんでいるか、ニーズに変化はないかと本当によくゲストを見ています。
そして、安全面などで何か気づいたことがあれば、すぐに声をかけます。
また、困っているゲストには、すぐに手を差しのべます。
後輩をよく見ている・後輩にマメに声をかける自分の後輩が、すべてのゲストにハピネスを提供しているかどうか、常に見ています。
そして、何か気づいたことがあれば、すぐに声をかけます。
改善点を見つけたら、すぐに改善するための行動を起こす何か改善点を見つけたら、すぐにそれを改善しようとします。
これがディズニーにおける理想的な上司・先輩像ですが、すべての業種・業態に共通する理想の上司・先輩像といえるのではないでしょうか。
最悪の上司・先輩とは?
最悪の上司・先輩は、文字どおり、理想の上司・先輩とは逆の行動をする人です。
ひと言でいえば、自分のことしか眼中にない上司・先輩といえます。
また、言っていることと、やっていることが違う上司・先輩も、後輩から見れば最悪でしょう。
最近めだつのは、後輩を注意する、忠告する、叱る上司・先輩が少ないことです。
たとえば、後輩のミスに気づいても、後輩に面と向かって叱ったり忠告したりすることができない上司・先輩が多いのです。
なかには、後になって、メールで注意するといったケースもあるといいます。
これでは、注意の内容よりも、「どうして、あのとき言ってくれなかったのか」という割り切れなさのほうが、後輩には強く印象に残ってしまうでしょう。
もちろん、ケース・バイ・ケースで一概にはいえませんが、まずは現場で、ミスをした後輩に面と向かって、注意したり叱ったりすべきです。
そのほうが、後輩も納得できるでしょう。
また、仕事の大切さ、仕事に対する責任の重さについて、実感できるはずです。
それは、当然、今後の仕事にも活かされ、ミスの軽減にもつながっていくことになります。
それが、会社にとって有益なことはいうまでもありません。
ただ、叱りっぱなしはよくありません。
ディズニーでは、・叱る前にほめる・叱った後、フォローすることが求められます。
「叱る」というコミュニケーション能力を身につける教育プログラムも設けられています。
ちなみに、ディズニー時代、私が調査したところ、93パーセントのキャストが、「上司や先輩から、自分に足りないところをきちんと教えてもらっている」と答えています。
裏を返せば、日頃から、上司・先輩が、それだけ後輩をよく見ていること、気がついた点があればマメに声をかけているということです。
02「教える喜び」を感じないと後輩は育たない
熱意のある先輩が指導役に抜擢される
ディズニーでは、さまざまな研修が用意されています。
さらに、現場では新人キャストや後輩キャストにさまざまなトレーニングが日常的に行われています。
そんな教育シーンで大活躍するのが「トレーナー」と呼ばれるキャストたちです。
トレーナーは、職場の責任者に代わって、①仕事の手順や方法②仕事をより効率的に行うためのスキルなどのトレーニングを手がけます。
また、キャストに自信をもたせる役割も担っています。
トレーナーは、主にアルバイトから選ばれます。
各施設の責任者が、キャストたちのふだんの仕事ぶりを見ていて、「ほかのキャストに、いつもしっかり教えてあげているな、楽しそうだな」と思うキャストがいると、後日、そのキャストと面談をします。
そのとき、そのキャストに問いかけるのです。
「あなたは、人を育てることに喜びを感じますか」そして、「トレーナーをやってみませんか」と、本人がトレーナーになる意思があるかどうかを確認します。
「やってみたい」と本人が答えれば、トレーナー候補として、トレーナーになるための研修、トレーニングを受け、はじめて正式にトレーナーとしてデビューします。
このように、ディズニーでは、たとえば、アトラクションでナレーションが上手だから、トレーナーになるというわけではありません。
トレーナーになるいちばんの条件は、教えるのが上手であること、そして何よりも、人を教える、育てることに喜びを見出していること、人を教え育てることに情熱・熱意をもっていることです。
こういう条件を備えたキャストをトレーナーとして育てていきます。
ただ、トレーナーになったからといって、昇給に直接結びつくわけではありません。つまり金銭的な対価はないのです。トレーナーを示すピンバッチが配られるだけです。
それよりも、トレーナーたちは、「自分がトレーニングすることによって成長していく後輩の姿を見るのがうれしいんです」と言います。
お金とか地位うんぬんよりも、人を育てていくことに〝快感〟があり、やりがいがあるというのです。
また、私の所属していた運営部では、よく「トレーナー(先輩)は、親も同然」という言葉が飛び交っていました。その言葉には、親のように愛情をもって、ときには叱りながら、ときにはほめながら、後輩を育て自立させようという意味が込められていました。
後輩を育てるときに欠かせない3つのポイントとは?
ディズニーのトレーナーについて前述しましたが、ディズニーでは、後輩を育てるにあたって、基本的に何が求められているのでしょうか。
そのポイントとして次の3つをあげることができます。
ポイント1教える内容・教え方(しくみ)が論理的であること
私が、後輩教育の説明をするとき、よく引用させていただく話があります。
それは、次のような話ですたとえば、8枚の金貨があるとします。そのうち1枚がニセ金貨で、ホンモノよりも少し軽いという特徴があります。
さて、天秤を使って、8枚の金貨からホンモノを取り出すとすると、最低何回、天秤を使えばいいでしょうか。
つまり、最も効率よくニセ金貨を取り出すには、何回天秤を使えばよいかと問うているわけです。答えは、2回です。1回目は、3枚・3枚を天秤にかけます。釣り合えば、ニセ金貨は残りの2枚にあることになります。
その2枚を天秤ではかって軽いほうがニセ金貨ということになります。3枚・3枚で釣り合わなければ、軽いほうの3枚のうちにニセ金貨があることになります。そこで、この3枚のうち2枚を天秤にかけます。
そして釣り合えば、ニセ金貨は1枚なので、残りの1枚ということになります。釣り合わなければ、当然軽いほうがニセ金貨というわけです。
「論理的」とは、この例のように、最も効率がよいものを導き出す考え方であり、トレーニングに要する人件費を抑えるねらいがあります。
また、上司や先輩に教えられたことに従って行動したところ、ムダがあちこちに出たということになれば、後輩に不信感を与えかねません。
もちろん、会社にとっても損失を被ることになってしまうでしょう。
ポイント2心理的な工夫が施されていること
後輩に何かを教えるときには、ホスピタリティ・マインドを発揮し、教えられる側の後輩の身になって、後輩に過度な負担を強いることのないよう工夫することが必要です。
たとえば、入社したばかりの後輩には、基本的なことにポイントを絞り、シンプルな教え方を心がけるべきです。
教育プログラムやマニュアルをつくる際にも、このように人の心理を配慮し、かつ上手に活用すれば、後輩も頭のなかで整理しやすく、理解も深まります。
ポイント3上司・先輩が教えることに熱意をもっていること
どんなにマニュアルや教育プログラムがすぐれていても、教える側に熱意がなければ、相手の心に響きません。
ただ、ディズニーのように会社に教育担当者を決めるしくみがあれば問題ないかもしれませんが、上司・先輩という理由だけで、後輩教育を担当している場合には、いやいや後輩教育をせざるを得ないこともあるでしょう。
しかし、後輩をほんとうに育てたいと思うなら、情熱・熱意をもって教育にあたらなければなりません。しっかりと自覚することが大切です。
03自分が扱われたように、後輩は人を扱う
ディズニーでは、先輩がゲストと同じように後輩を迎える
採用の際、ディズニーでは、基本的には、すべての人を「ウエルカム」というかたちでお迎えします。
実は、ディズニーの「ウエルカム」の姿勢は、後輩たちが会社に入ってはじめて研修(導入研修)を受ける場面でも見ることができます。
導入研修では、受付やインストラクターの先輩キャストが、後輩キャストを迎えます。そのとき、先輩キャストは、パークでゲストをお迎えするように、親しみを込めて笑顔で挨拶をし、手厚く、後輩キャストを迎えます。
この背景にあるのは、「人は、自分が扱われたように人を扱う」という考え方です。
このような手厚い出迎えをすることで、先輩キャストは、「あなたたちが、オンステージにデビューしたときも、こんなふうにゲストをお迎えしてもらいたい」という暗黙のメッセージを、新人キャストの心に訴えかけているのです。
ディズニーでは、導入研修の時点ですでに、パークで仕事をするときのあるべき姿を、自分たちのふるまいを通じて、後輩たちに、無意識にしろ、感じとってもらおうとしているわけです。
先輩が笑顔で後輩に接するのは当たり前のこと
もうひとつ、特筆すべきなのは、後輩たちを迎える先輩キャストの笑顔が、つくり笑顔ではないということです。
後述しますが、笑顔で接することが、キャストにとっては当たり前のこととして身についています。
いうなれば自然な笑顔、挨拶に迎えられることで、後輩たちは、よりスムーズにディズニーの世界に足を踏み入れることができるはずです。
04「見て覚えろ」では後輩は育たない
後輩の「やる気」を引き出すディズニーの指導プログラム
ディズニーでは、かなり高度な「トレーニング・パッケージ」をもっています。つまり、後輩たちを育てるためのプログラムが整備されています。
これらのプログラムは、カリフォルニアにディズニーランドが最初にオープン(1955年7月)して以来、徹底的に考えられ、精査され尽くされた結果、生まれたものです。
たとえば、新人を採用するには、当然コストがかかります。とくにディズニーの場合は、採用人数が多いので、その分採用コストもはね上がります。
さらに、ディズニーでは、ある一定水準以上のレベルのサービスをゲストに提供できるキャストでなければ、パークにデビューさせません。ですから、トレーニングにもコストをかけています。
ただ、むやみに長い時間を要することがないよう、徹底的に論理的・合理的な内容で、プログラムは構成されています。同時に、キャストにやる気を起こさせ、気持ちをサポートするために心理的な側面をもふまえた内容となっています。
育て方を間違えると、会社が損をする
ディズニーに限らず、どこの会社でも、よほどの例外をのぞいて、上司・先輩のほとんどが、後輩に育ってほしいと願っているはずです。では、そのためにどう対応しているかとなると、問題点が少なくないようです。
たとえば、「人のやることを見て覚えなさい」という言葉を後輩に投げかけるだけのケースがあります。あるいは、「2、3時間だけトレーニングをして、あとは〝ほったらかし〟」というケースもあります。
実際のところ、こういうケースがほとんどではないでしょうか。このようなやり方は、次のような問題を引き起こします。
問題点1CSを低下させる
たとえば、アルバイトが店頭に立つような場合、十分な商品知識や、サービス提供のノウハウがないので、お客さまへの対応もぎくしゃくしたものとならざるを得ないでしょう。
また、商品を探すのに手間取ったり、お客さまの質問に答えられないケースも出てくるはずです。
このような場合、お客さまの売り逃がしなど、機会損失にもつながります。お客さまにしてみれば、新人もベテランも関係ありません。
ただ、よい商品を手際よく提供されたいとのぞんでいますから、「何よ、この店の対応は……」ということになってしまいます。そして、「もう、この店には来たくない」と思われてしまう、顧客離れにつながってしまう可能性も十分あるのです。
つまり、トレーニングをしっかりと積まない社員が〝前線〟に立つと、CSを低下させ、会社の損失につながるということです。
問題点2後輩のモチベーションを下げる
後輩は、多少不安もあるでしょうが、それよりも、「どんな先輩と出会えるかな」「この会社で、いろいろなことを吸収して成長したい」「この会社で頑張るぞ」といった期待や希望に胸をふくらませて、入社してきているものです。
ホスピタリティ・マインドを働かせてみれば、すぐにわかるはずです。
ところが、仕事に対してどう取り組むべきか、それはなぜかといった動機づけをされることもなく、ちゃんとしたトレーニングも受けられないとなると、後輩の期待や希望の熱は、一気に冷えてしまいます。
そして、文字どおり、モチベーションをもてない状態に陥り、働きがいを見出すこともできなくなってしまうのです。新人なりの仕事に対するパフォーマンスも、当然落ちていきます。
こういうケースが重なると、無気力で、ただ目の前の仕事をこなしていくスタッフで固められた職場ができあがってしまいます。会社にとって好ましくないことは、いうまでもありません。
問題点3後輩が先輩になったとき、自分の後輩を育てない
前述したように「人は、自分が扱われたように人を扱う」ものです。「人のやることを見て覚えなさい」「2、3時間だけトレーニングをして、あとは〝ほったらかし〟」という扱い方は、当然、次の世代にも引き継がれていくはずです。
つまり、きちんと対面して、後輩を育てようとしない姿勢が、それこそ職場の風土になってしまうのです。もちろん、このような育て方が功を奏すケースもあるでしょう。
しかし、一般的には、このような育て方をした結果、多くの後輩たちが、「何もしてくれない」と会社や上司・先輩に失望するでしょう。
たとえ会社に残ったとしても、後輩の負担は大きく、一人前になるまで長い時間がかかり、結局、人育てによけいなコストがかかります。
たしかに、すべての会社が、ディズニーのようにきめ細かい指導・教育プログラムをつくることはむずかしいかもしれません。
しかし、私も長くプログラムづくりにかかわってきましたが、ディズニーにしても、はじめから、いまのような教育プログラムがあったわけではありません。それこそ、試行錯誤を繰り返しながら、いまのプログラムをつくりあげてきたのです。
要は、後輩たちが働きがい、やる気をもつような自社なりのプログラムを、時間をかけて練り上げ、つくりあげていくことです。そのとき、この本でご紹介するディズニーの考え方や方法が参考になるはずです。
05ミッションを正しく理解し、後輩に伝える
ディズニー・ミッション──すべてのゲストにハピネスを提供する
「ミッション」とは、その組織がめざすべき方向性のことです。組織の存在意義といってもよいでしょう。
「自分たちの会社は、何のために存在しているのか」ということです。ディズニーのミッションは「すべてのゲストにハピネスを提供する」ことです。
このディズニーのミッションは、正社員はもちろん、アルバイト1人ひとりにまで浸透しています。
それを物語るシーンをご紹介しましょう。
シーン1「ミッキーは、1人に決まってるじゃない!」アルバイトの女性キャストが、自宅にいたとき、母親にこう聞かれたそうです。
「ねえ、ミッキーは何人いるの?」ディズニーに勤めている娘なら裏事情にもくわしいはずと見込んでの質問でした。
女性キャストは、こう答えたといいます。
「何言ってるの、お母さん。
ミッキーは1人に決まってるじゃないの」もちろん、キャストに対する「バックステージの話を外部にもらさないように」というディズニーの教えもあったでしょう。
しかし、それよりも、彼女は、母親が、今度ディズニーランドを訪れたときに、ミッキーと出会ったときの幸福な気持ちを大切にしてあげたいと思ったのでした。
シーン2ミッションを自分なりに消化するレベルのアルバイトもいる優秀なキャストのなかには、ゲストに「何をしてるの?」と聞かれた場合、「いま、私がやってることですか?」と質問内容を繰り返して、自分が質問を正しく受け止めているかどうか確認した後、「答えになっているかどうかわかりませんけど。
みなさん、楽しい思い出をたくさんつくってらっしゃいますよね。
実は、私は、パークに落ちている思い出のかけら(=ゴミのこと)を拾ってるんですよ」と答えるキャストもいます。
つまり、「すべてのゲストにハピネスを提供する」というミッションをただ理解しているだけでなく、自分なりに消化して行動に移しているのです。
実は、ディズニーでは、このようなシーンに、それこそいたるところで出合うことができます。
というのも前述したように、ディズニーでは、すべてのスタッフの心にミッションが刻み込まれているからです。
御社に「ミッション」はあるか?
「あなたの会社のミッションは何ですか」と問うと、「ええ?あったかなあ」というような答えが返ってくるケースが少なくありません。
しかし、何も大上段に構える必要はありません。たとえば、どこの会社にも、基本方針があるはずです。
「理念」あるいは「社是」「会社の使命」といった言葉で、会社のあるべき姿がうたわれているはずです。これこそ、立派なミッションです。
ただ、ほとんどの会社で、立派な額におさめられているだけで、社員の心には刻まれずじまい、というのが実情ではないでしょうか。
社員に徹底されず、いつのまにか風化した、場合によっては、方向が変わってしまったというケースもあるようです。また、ミッションは、会社組織全体だけでなく、さまざまなプロジェクトにおいても設ける必要があります。
たとえば、「なぜ、このプロジェクトを行うのか」、つまり、プロジェクトの存在意義を明確にしておくことが必要です。
たとえば、ただ単にバケツに「水を汲んできなさい」と命令されて水を汲んでくるケースと、「飲食用の水をプールする」というミッションが明確で、そのために「水を汲んできなさい」と説明されて水を汲んでくるケースを考えてみましょう。
前者の場合は、ただひたすら水を汲んでき続けるほかありません。
また、ミッションがはっきりしないと、社員個々が勝手に行動する、あるいは社員が仕事へのこだわりを発揮できないなど、さまざまな問題が生じます。
その結果、効率が悪い、生産性が低い、モラルを逸脱するといった会社の存亡を左右する事態に結びつくケースも少なくありません。
それに対してミッションがはっきりしている後者の場合は、はっきりと目的意識をもって、水を汲んでくることができます。
ゴミが入らないようにバケツにフタをするなど工夫をすることもできます。モチベーションが高まり、効率も高まります。
もしミッションがない場合は、早急にミッションをつくる作業を始めるべきです。
すべての会社・組織に共通するミッション──人のためになる人材を育てる
ミッションをつくることに、上司・先輩がかかわるケースもあるでしょう。
そこで、ミッションについて、もう少し述べておきましょう。
ミッションをつくるとき、まず考えなければならないのは、自分たちは、どういうビジネスをやっていて、どういう人材を育てるかを明確にし、理解しておくことです。
そこで、まず自分たちの属する組織について考えてみましょう組織というとすぐに思い浮かぶのが、顧客であり、CSでしょう。
では、商品やサービスを買ってくれる顧客のために組織が存在するかというと、それだけではないはずです。組織の存在は、取引先の人、社員、会社のある地域の住民のためでもあるはずです。
そう考えていくと、組織は「人」のために存在していることがわかります。
人のために組織が存在しているのであれば、当然、その組織に属する社員は、人のためになる存在でなければいけないはずです。
すなわち、「組織は人のために存在し、われわれは人のためになる存在でなければならない」ことは、すべての会社、組織に共通する基本的、かつ重要なミッションということです。
もちろん、上司・先輩には、そういう人材を育てることが求められます。まずは、この考え方を「ミッション1」とし、自社のミッションづくりをスタートさせましょう。
上司・先輩は、ミッションをきっちり理解しておく
ミッションがあれば、それで十分かというと、そうではありません。ミッションを後輩に伝える上司・先輩が、ミッションをしっかり理解しておく必要があります。
当たり前の話ですが、上司・先輩がミッションを理解していないと、後輩たちに正しく伝えることができません。そうなると、ミッションはあってないようなものです。
上司・先輩の間違って伝えるミッションを、後輩たちは、そのまま身に付けることになり、本来のミッションとは異なる方向に、職場あるいは会社全体が動いていくことになります。
場合によっては、ミッションがないケースと同じように、後輩たちが、各自別々の方向に進んでしまい、職場のなかがバラバラになる、あるいは派閥ができて、職場の人間関係が著しく悪い方向に向かうことも十分考えられます。
その結果、会社の提供するサービスや商品などのクオリティが低下すれば、顧客離れが進むことになります。会社が損失を被ることは、いうまでもないでしょう。
つまり、ミッションがあっても、それを伝える上司・先輩に問題があれば、ミッションは生きないのです。ひいては、会社に不利益を与える可能性があります。
といって、すべての責任を上司・先輩に求めるのも考えものです。やはり、まず経営者自身がミッションの大切さをしっかりと認識する必要があります。
そして、できれば、ミッションを全社員に浸透させるためのしくみをつくることがのぞまれます。
なぜディズニーでは、ミッションが社員全員に浸透しているのか
どうしてディズニーでは、正社員はもちろん、アルバイト1人ひとりにまでミッションが浸透しているのでしょうか。
それは、上司・先輩がミッションを理解していることはもちろん、さまざまな機会を通じて繰り返しミッションを伝えているからです。
まず、ディズニーの導入研修、さらに、その後に行われるどの研修プログラムにも、必ずミッションと行動指針が盛り込まれます。
さらに、キャスト間のコミュニケーションをはかるためのさまざまな媒体にも、ミッションと行動指針が頻繁に登場します。
たとえば、アルバイトにも配布する社内報があります。その社内報にキャストの写真が掲載されていますが、全員「笑顔」です。
これは、ハピネスを提供するためには、笑顔が不可欠な要素であることを、暗黙のうちに伝えているのです。
ディズニーでは、ミッションや行動指針がキャストの日常のなかに組み込まれているといっても過言ではないでしょう。
その結果、いつしか自然にディズニー・ミッションが、すべてのキャストの心に確実に根づいていったのです。
ディズニーの例からもわかるように、後輩1人ひとりにミッションを根づかせるには、経営陣、上司・先輩自身が、常に自社、あるいは職場やプロジェクトのミッションを念頭に置き、もちろん正しく理解し、さまざまな機会をとらえて、繰り返し繰り返しねばり強く後輩に伝えていくことが不可欠です。
06行動指針をもち、優先順位をはっきりさせる
「行動指針」は飾りじゃない!
先輩や上司がミッションを理解し、後輩に伝えると、後輩は、ミッションを実現するために行動することになります。
その際、どのように行動すべきかを示す「行動指針」があれば、ミッション実現のためにより効果的な行動をとることができます。
「行動指針」というとむずかしく考えがちですが、平たくいえば「仕事を進めるうえで忘れてはならないこと」です。
たとえば、「迅速性」とか「確実性」とか、いろいろなフレーズが考えられます。なかには「うちには行動指針がない」というケースがあるかもしれません。
そういう場合は、創業者はどういう思いを抱いて会社を創設したのか、あるいは社長はどのように行動をしているかといったことを参考にするのもよいでしょう。
しかし、いちばんよいのは、やはり明確な行動指針をつくっておくことです。
たとえば、ディズニーでは行動指針として、安全性(Safety)、礼儀正しさ(Courtesy)、ショー(Show)、効率(Efficiency)の4つ(以下、4つをまとめて「SCSE」といいます)を設けています。
行動指針があれば「迷い」がなくなる
行動指針があっても、優先順位がはっきりしていないと、仕事の効率や生産に悪影響を与えたり、会社のイメージを著しく損なうことがあります。
というのも、たとえば行動指針にうたわれている「迅速性」と「確実性」のいずれかを選択しなければならないようなケースが必ず出てくるからです。
優先順位がはっきりしていないと、後輩たちも当惑します。
そのため、同じ社員でも、あるときは「迅速性」を優先する、またあるときは「確実性」を優先するというように、行動にバラツキが出てしまいます。
また、社員によって優先順位が異なるというケースも出てくるでしょう。
このような場合、仕事の流れが悪くなったり、クオリティを低下させることが予想されます。
また、それが、お客さまとの対応のなかで出てしまうと、お客さまを混乱させ、お客さま離れの一因となる可能性があります。
そのようなことを避けるためにも、優先順位をはっきりさせておくことが非常に大切なのです。
理由については次項でふれますが、ディズニーの行動指針の優先順位は、次のとおりです。
①安全性(Safety)②礼儀正しさ(Courtesy)③ショー(Show)④効率(Efficiency)
ディズニーの行動指針は、御社にも活用できる
ディズニーの行動指針は、実は、どのような業種・業態の会社や組織でも十分活用できるものです。
ここで取り上げている事例などはディズニーに関するものですが、行動指針そのものや、その考え方については、あなたの会社に置き換えてもスムーズに受け止めることができるはずです。
特に、現在、行動指針がないという会社・組織の上司・先輩は大いに参考となるでしょう。
それでは、ディズニーの行動指針──SCSEについて、優先順位に従って、その基本的な内容についてご紹介していきましょう。
①安全性──当たり前のこととして常に安全に目を配る安全性は、SCSEのなかでも、いちばん優先順位が高くなっています。
というのも、安全性が保たれてはじめて、ゲストはパークを楽しむことができるし、キャストも最高のショーを提供することができるからです。
安全性は保たれていて当たり前──つまり、それだけ重要だと、ディズニーでは考えられています。
たとえば、家族や友人との旅行中、誰か1人でも病気になったりケガをしたりすると、楽しい気持ちが一転、悲しい気持ちになってしまうものです。
そういうことがないよう、ゲストに常にハピネスを感じてもらうために、キャストは、何より安全に対して目配りをすることが求められているのです。
また、キャストとゲストの触れ合いのなかにも、安全を優先させることがルールとして決められています。
すなわち「危険な状態に出合ったり、危険だなと感じたときは、そのままにせず、すぐに対応する」ことが求められます。
たとえば、柵に登ろうとしている子どもがいれば、「あぶないな……。
落ちてケガをするかも……ボク、降りてもらっていいかな」「ここ、登っちゃいけないんだよね」というように声をかける、そういう行動を起こしましょうということです。
安全を最優先するという考え方は、どの業種・業態であれ、共通しているはずです。
上司・先輩は、安全を優先する考え方が後輩に浸透し守られているか、常に見ている必要があります。
②礼儀正しさ──「すべてのゲストはVIPである」と考え対応する当たり前のこととしてパークが安全であること。
次は、そこにゲストをお迎えするということになります。
そこで、どのようにゲストをお迎えするか、ゲストとどう触れ合うかが、ディズニーの優先順位の2番目の行動指針として定められています。
ディズニーには「すべてのゲストがVIPである」という理念があります。
つまり、VIPに対するように、すべてのゲストに対して礼儀正しく接する、それも、単なる礼儀正しさではなく「親しみのある礼儀正しさをもつ」ことが、「安全」に続くディズニーの行動指針です。
具体的には、次の3つを実行することが求められます。
①笑顔②挨拶③アイ・コンタクト(相手の目を見て対応する)そして、「ゲストの望みに応える」「相手の立場に立って考え、行動する」ということも大切になります。
たとえば、ゲストの記念写真を撮ってあげる、ゲストが重い荷物をもっていれば、もってあげるなど、キャスト自ら声をかけ、ゲストの望みをかなえるために、ゲストの負担を少しでも軽減するために行動しようということです。
③ショー──ディズニールックを守り、私的なことを仕事にもち込まないディズニーでは、パーク内を「オンステージ」と呼びます。
そこは、まさに、ゲストに素晴らしい体験をしていただく表舞台だからです。
そして、ディズニーでは、オンステージのすべてが「ショー」であるととらえています。
オンステージで働くアルバイトは、アトラクションの出演者はもちろん、ショップで働く人も、清掃を担当する人も、すべてショーの出演者です。
ですから、ディズニーでは、アルバイトのことを「キャスト」と呼ぶのです。
キャストであれば、当然きちんとコスチュームを着る、ゲストを不快にしないよう身だしなみを整えることが求められます。
その基準は「ディズニールック」として規定されており、キャストは必ずディズニールックを守らなくてはなりません。
もうひとつは「オンステージとオンステージ外(私生活も含みます)のスイッチをちゃんと切り換えよう」ということです。
たとえば、プライベートな問題を、オンステージにもち込まない。ちゃんと気持ちを切り換えようということです。
同時に、オンステージ外であっても、オンステージの状態を維持しなければならないケースがあることを自覚しなければなりません。
たとえば、友人や家族からバックステージのことを聞かれたような場合は、今度パークに来られたときのことを考えて、夢をこわさないような対応をする必要があります。
④効率──チームワークを大切にし、ムダをはぶくことを常に心がける「効率」とは、もっとかみくだいていえば、ムダなことをせず、自分の役割を理解しきちんと果たそうということです。
同時に、次の2つを実践することが求められます。
ひとつは、「1人の力+1人の力=3人分の力」になるので「チームワークを大切にしよう」ということ。
もうひとつは、効率よくものごとが進行していない状況がある場合には、「どうすればそこから生じるムダ、ゲストの不満などをカバーできるかを考え行動しよう」ということです。
たとえば、人気アトラクションなどでは、長蛇の列で待ち時間が生じることがあります。
そんなときに並んでいるゲストの前でちょっとしたパフォーマンスをするなど、ゲストに少しでも待ち時間を短く感じてもらうような努力をしようということです。
第一に安全性、次に礼儀正しさ、それが実践されてはじめてショーが成り立つというのがディズニーの考え方です。
もちろん、効率も同様に大切ですが、効率は4番目ということになります。
このディズニーの行動指針を見て、「人間として基本的に身につけておくべき、ふつうのことではないか」と感じられた読者も多いのではないでしょうか。
むしろ、ディズニーの特長は、行動指針がそれこそアルバイト1人ひとりにまで、しっかりと根づいていることにあるのかもしれません。
たとえば、顧客によりよいサービスを提供しなければならないはずの会社の社員がコストの削減や効率を求めて暴走し、職場環境をこわしたり、ときには顧客に損害を与えるようなケースがあります。
その原因のひとつとして、行動指針がなかったか、あるいは上司・先輩が行動指針を正しく理解し、後輩にしっかりと伝えてこなかった──それがいつしか会社の風土となり、行動指針そのものが風化していたことがあげられるのではないでしょうか。
繰り返しになりますが、ディズニーで、ミッションや行動指針が、アルバイト1人ひとりにまで浸透しているのは、経営陣、また上司・先輩、同僚キャストが、繰り返しその重要性について確認し合う風土があるからです。
たとえば、導入研修でSCSEの基本をわかりやすく伝えてからも、その後の研修やトレーニングにおいても、それぞれの部門ごと、レベルに応じて、もっと詳細かつ具体的なSCSEを教えていきます。
ちなみに、ディズニーでは、行動指針とは別に、各シーンにおけるルールや手順などを定めたマニュアルが存在します。
当然、これらのマニュアルにも、SCSEが反映されています。
上司・先輩も、さまざまな機会をとらえて、それこそ口酸っぱく行動指針を後輩たちに伝えていくようにしましょう。
行動指針を後輩1人ひとりに根づかせるには、それが最大にして唯一の方法なのです。
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