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9割がバイトでも最高の成果を生み出すディズニーのリーダー【改訂】

◉目次

プロローグ

いくつもの試練を乗り越えてきた東京ディズニーランド!

CHAPTER1→「マネジメントリーダー」とは何か

01人を導き、成果を生み出す

ディズニーの〝課長〟は大企業の経営者並み/「マネジメントリーダー」とは誰のことか/マネジメントリーダーの4つの条件

02「業績」よりも「人」を重視・優先する

ディズニーでいちばん魅力のあるアトラクションはキャスト!/なぜディズニーのキャストは手を抜かないのか/業績を伸ばすのは「人」

03部下を「堂々と」よく見る

キャストにしっかり注意するディズニーのリーダー/注意するときの2つのステップ/リーダー間で基本的見解を一致させる/パーク内に寝泊まりしていたウォルト・ディズニー

04部下と緊密にコミュニケーションをとる

「部下との時間」を常に大事にする/ミーティング、面談を活用する

CHAPTER2→自分の「マネジメントリーダー力」を伸ばす

01まず自分を振り返ってみよう!

部下と苦楽を共にするディズニーのリーダー/部下から信頼されているかどうかを知る方法/自分を知ることがレベルアップにつながる/こうすれば自分を知ることができる

02「どうすればできるか」思考で行動する

ディズニーで「できない」は禁句!/「できない」のではなく「やっていない」

03部下に「ストローク」を与える

部下がつらいときにこそ「声をかける」ディズニーのリーダー/ストロークが部下のやる気を高める

04「自分の目」で判断・評価する

うわさを信じ込んだリーダーの失敗/うわさは「信用しやすい」ので要注意!

05流ちょうでなくてもいいから「熱く語る」

「兄ちゃん、頑張ってるなあ!俺も頑張るから!」/ヘタでも本気で伝えれば、必ず伝わる/伝えたい言葉を文章にしておく

06必ず理由を伝える

「弁当持ち込み禁止」をゲストに伝え続けたキャスト/ゲストに不快に思われない伝え方/優先順位があれば、理由を説明しやすい

07怒りはコントロールし、厳しく叱る

ディズニーでは、たとえ個人的な事情があっても厳しく叱る/叱るときは、この3つのポイントを押さえる/怒りをコントロールする方法

08部下同士の〝ケンカ〟を解消する

新人正社員とアルバイトが大ゲンカ!/ケンカ状態を解消する3つのステップ

09他部署と〝ケンカ〟する

ディズニーでは小雨が降ると2つの部署が〝ケンカ〟する!?/〝ケンカ〟でもディズニー哲学を伝える

CHAPTER3→「マネジメントリーダー力」で部下を伸ばす

01部下の力を活かす

キャストと共に考えるディズニーのリーダー/自分流を押しつけない

02部下への対応を改善する

対応を変えたとたん、キャストの行動が変わった/部下への対応を改善するのはカンタン!

03部下の気持ちに寄り添う

「大丈夫だよ。いちばん責任を感じてるのは、お前だろ」/「やっぱり、カヌーは疲れるんだね。頑張ってくれて、ありがとう」

04企画立案段階から参画させる

エレクトリカルパレードの誘導法を考案したのはキャスト!/キャストが参画するメリット

053つのステップを踏んで提案を受け止める

積極的に提案するディズニーのキャストたち/提案を受容する3つのステップ

06時間を捻出し、有効に活用させる

「部下に十分な時間を与えなければ損をする!」/ミーティングを支援するときのポイント/失敗を財産に変えるディズニーのキャスト

07部下に権限を委譲する

ディズニーでは権限委譲が当たり前!/なぜディズニーでは権限委譲がスムーズに行えるのか/部下に権限を委譲するときの3つのポイント

08失敗を成長につなげる

ディズニーには失敗を未然に防ぐ「しくみ」がある/失敗した部下とその原因・改善策を考える

09部下のモチベーションを高める

正社員への道を拒み、アルバイトであり続けるキャストたち/ポストやカネによるモチベーションは長続きしない/人間関係がモチベーションを維持するカギ!/よい人間関係が根づいた職場は変化に強い

CHAPTER4→成果を伸ばす「しくみ」をつくる

01自信を持たせる「教育のしくみ」をつくる

ディズニーのトレーニングは「マンツーマン」が鉄則!/ディズニー式「マンツーマン」トレーニングのメリット/トレーニング・研修の成果を「最終テスト」で確認する/部下が自信を持つことのメリット/新人キャストを職場に配置するときの3つのポイント

02「成長に合わせて対応するしくみ」をつくる

ディズニーでは、キャストの経験・成長に応じて対応する/「入社後6カ月未満のキャスト」への対応は?/「入社後6カ月~1年のキャスト」への対応は?/「入社後1~3年のキャスト」への対応は?/「入社後3年以上のキャスト」への対応は?

03「やる気が出るしくみ」をつくる

ディズニーの表彰は投票数では決まらない/なかなか浸透しなかったディズニーの表彰制度/表彰制度を浸透させた3つの対策/表彰制度をつくるときの注意点

04疎外感を抱かせない「情報のしくみ」をつくる

トップ情報もアルバイトに伝える/1人のアルバイトの現場情報を全員で共有する

05部下を「癒すしくみ」をつくる

退職する仲間の労をねぎらうキャストたち/部下にサービスを提供する方法

06今すぐ職場状況をチェックしよう!

問題点があれば、今すぐ改善しよう

おわりに

オープン前に流れた「1年でつぶれる!」という悪評2013年4月15日、東京ディズニーランドはオープン30周年を迎えました。

この間、東京ディズニーランドは、アトラクションやキャラクター、イベントショーの魅力をゲスト(お客様)に提供し続けてきました。

そして、今では、ゲストに対するサービス、ホスピタリティレベルの高さを維持し続けることによって多くのリピーターを生み出し、テーマパークとして世界トップクラスの入園者数を誇り、「テーマパークとしての〝おもてなし〟世界一」という評価を得ています。

このような東京ディズニーランドの不況とは無縁の姿を見て、「東京ディズニーランドは特別なんだよ」と、東京ディズニーランドが今日まで順風満帆に歩んできたと思っている人が少なくありません。

東京ディズニーランドを訪れると、すべてのキャスト(正社員及びアルバイト)が笑顔で接してくれることもあり、そう思う人が多いのも当然かもしれません。

しかし、実際には、東京ディズニーランドもまた、ほかの多くの企業と同じように大きな壁や試練に直面してきたのです。

たとえば、オープン前には「成功するはずがない。

すぐに閉園に追い込まれるよ」といった悪評にさらされました。

私自身も、オープン前の1982年暮れ、オリエンタルランドの正社員採用試験の最終面接を終え、乗った帰りのタクシーで、運転手さんからこう告げられた記憶があります。

「オリエンタルランドか~。

就職するのはどうかな。

やめたほうがいいかもね。

東京ディズニーランドは1年でつぶれるらしいよ」追い打ちをかけるように、「土地転がしではないか?」といった噂も立ちました。

とにかく当時のオリエンタルランドの評判は、大変悪かったのです。

東京ディズニーランドがオープンしてからも、この本でご紹介するようなさまざまな試練に直面してきました。

テーマパークとして世界トップクラスの入園者数を維持し、「テーマパークとしての〝おもてなし〟世界一」に至る道のりは、決して平坦なものではなかったのです。

そして、もちろん、悪評に惑わされず、さまざまな試練を乗り越えたからこそ、今の成功があります。

では、なぜ悪評や試練を乗り越えることができたのでしょうか。

なぜアルバイトや正社員といったさまざまの立場のスタッフが一丸となって、最高の成果を生み出すことができたのでしょうか。

それは、責任あるポジションに就くリーダーたち、つまり「マネジメントリーダー(くわしくは「CHAPTER1」で解説します(※こちらを参照))」たちが、●それぞれの立場で自分の役割を自覚し果たしてきた●試練を乗り越えるために一生懸命考え行動してきた●アルバイトを含む自分の部下たちを信頼しリードしてきたからです。

すなわち、マネジメントリーダーたちがリーダシップを発揮し、アルバイトはもちろん一般正社員たちを導き行動したからこそ、試練を乗り越えることができたのです。

その一例を、私が入社した30年前、東京ディズニーランドがオープンした当時からピックアップしてみましょう。

「手抜きは一切するな!」と、社長自ら資金調達に奔走!東京ディズニーランドをオープンさせるためには、多額の資金を必要としました。

しかし、日本初のテーマパーク建設に、金融機関が簡単に融資するはずもありません。

そこで、当時の高橋政知社長は、土地の利用について千葉県と交渉し「一部宅地として転売可能」という約束をとりつけました。

担保価値を高めないことには、金融機関から資金を調達できなかったからです。

当然、それは、宅地に転売されるリスクを背負い込むことでもありました。

前述したように、当時、マスコミからは「数年後には、宅地として転売されるだろう」とずいぶん叩かれました。

それでも、高橋社長は「とにかく、よいものをつくろう」と手抜きを一切許さず、自ら資金調達に奔走したのです。

この高橋社長の姿は、最高のショーを提供するためには一切妥協しない天才ウォルト・ディズニーの姿勢と共通するものといえるでしょう。

ただ、このため、当初予定していた資金の3倍近い1800億円もの資金が必要となりました。

当然、そのほとんどを借金で賄わなければなりませんでした。

ここまでは、どこの組織でも見られる光景かもしれません。

高橋社長がユニークなのは、この後です。

100円玉の入った大入袋を全キャストに配る1983年4月15日、社長以下経営陣の努力が実り、東京ディズニーランドはオープンしました。

しかし、客足は伸びませんでした。

土日こそ、多くのゲストが訪れましたが、平日は2

000~3000人のゲストしか入園しないことも決して珍しくありませんでした。

一方、前述したように、多くの負債を抱えてのスタートです。

経営者としては、1円でも支出を抑えたいところです。

にもかかわらず、高橋社長は、1日3万5000人以上(私の記憶が正しければ……)の入園者があった日は、アルバイトも含めたすべてのキャストに、100円玉の入った大入袋を配ることにしました。

支出によるマイナス面よりも、多くのゲストが入園した喜びをキャスト全員で分かち合い、明日の糧にするプラス面を重視したのです。

ただ、問題がありました。

それは、袋詰め作業です。

「大入袋」と白抜き文字の入った朱色の袋に100円ずつ入れ、糊で封をするのです。

その数1万袋ですから、大変な作業です。

十数人ほどの経理部のキャストがその作業に当たるのですが、当然、経理部から〝泣き〟が入りました。

そのとき、高橋社長は、こう言ったそうです。

「みんなで稼いだお金じゃないか。

特に現場で働いているキャストは、頑張ってくれているんだよ。

ちょっとした感謝の気持ちじゃないか。

力を合わせてやろうよ」社長の心意気に経理部のキャストが応えたことはいうまでもありません。

社長の目論見はみごとに当たりました。

中身はたったの100円でも、大入袋を手渡されると、すべてのキャストの頰がゆるみました。

100円玉に込められた経営陣の感謝と励ましのメッセージを感じとることができたからです。

もちろん、多くのゲストに入園していただいたことによる嬉しさや充実感も覚えました。

同時に、その気持ちをすべてのキャストで共有できる喜びもありました。

「明日も頑張るぞ」というやる気にもつながりました。

中身はたったの100円でも、開封したとたん、喜びや充実感、やる気でキャストの心をいっぱいにするものがぎっしり詰まった、まさに「大入袋」でした。

この大入袋は、オープンして3年間くらい続いたでしょうか。

ただ、ちょうど大入袋キャンペーンが終わった頃に、そのこととは関係なく、やっかいな問題が起こりました。

昇進を断った先輩キャスト私は、東京ディズニーランドオープン以降、ジャングルクルーズに配属されていました。

当時、ジャングルクルーズの現場は44人の正社員と、「ワーキングリード」と呼ばれる現場責任者によって構成されていました。

藤島(仮名)さんは、6人のワーキングリードの1人でした。

私には、藤島さんとの忘れられない思い出があります。

ジャングルクルーズのブース(当時のチケットカウンター)には、非常放送用のボタンと、ゲストが並ぶエリア(「キューエリア」と呼びます)に放送を流すボタンの2つがあります。

非常放送用のボタンはあくまでも緊急事態用です。

この非常放送用のボタンを押してスピールを行うと、ショーのオーディオが止まり、ジャングルクルーズ全体に放送が流れるため、通常の運営中は決して押すことはありません。

ちなみに「スピール」とは、キャストが、並んでいる間もゲストに楽しんでもらう、あるいは注意を呼びかける、ショーの開始を知らせるアナウンスのことです。

ある日の運営中、私は並んでいるゲストを楽しませるため、キューエリアにスピールすることにしました。

ところがその際、間違えて非常放送用のボタンを押してしまったのです。

そのため、ショーのオーディオがすべて止まった状態のなかで、「凶暴なゴリラが周辺に現れたという情報が入りました。

皆さんの周囲にゴリラはいませんか」という私のスピールが、ジャングルクルーズ全体に流れてしまったのです。

近くにいたキャストが仰天し、すぐに止めに入ってくれましたが、私にとっては、まさに〝非常事態〟でした。

当然、ジャングルクルーズの責任者のマネージャーに始末書を提出しなければなりませんでした。

そのとき、藤島さんは、「福島さん、ゴメンね。

上司である私のミスだよ。

非常放送用ボタンが簡単に押せないような工夫が必要だったね。

一緒にどうすればいいか考えよう」と言い、私と一緒に始末書を提出してくれたのです。

また、後日、非常放送用ボタンの上にプラスチック製の四角のケースを取り付け、ケースを上げないとボタンが押せないように改善してくれました。

このエピソードからもわかるように、藤島さんは、部下が失敗しても全部自分で責任を持つ一方、その失敗を必ずフォローしてくれました。

また、指示・命令が的確なのはもちろん、部下の意見を取り入れる柔軟性や、それを実現するために他部署とやり合う勇猛さも備えていました。

そんな藤島さんが、部下のキャスト全員から慕われていたことはいうまでもありません。

もちろん、上司のマネージャーも、藤島さんが非常に有能であることを知っていました。

ある日、マネージャーから、藤島さんに打診がありました。

「ジャングルクルーズだけでなく、ほかのアトラクションにも携わってみないか。

ワーキングリードではなく、ワンランク上のポジションで」昇進の打診でした。

ふつうなら「はい、ありがとうございます」と快諾するでしょう。

ところが、藤島さんは、首をタテに振らなかったのです。

というのも、藤島さんには、東京ディズニーランドオープン時のジャングルクルーズのキャスト(当時、私たちは「オープニング・クルー・キャスト」と呼んでいました)として、同僚たちと苦楽を共にしながら、ゲストにエンターテイメントを提供してきたというプライドがありました。

同時に、ジャングルクルーズの仕事への愛着もありました。

もちろん、ほかのキャストもそれは同じでしたが、キャストを直接引っ張ってきたワーキングリードのプライドと、その職への愛着は特に強かったのです。

しかし、異動を拒否し続けることは、組織人として不可能です。

結局、藤島さんは、「ジャングルクルーズで仕事ができないのであれば、辞めます」と言って退職してしまいました。

続々と辞めていく正社員の穴をアルバイトが埋める実は、藤島さんと同じような理由で退職したキャストが、ジャングルクルーズ以外のアトラクションでも少なくありませんでした。

また、大きな負債を抱えてのスタートで給料が抑えられていたこと、加えて、まだ「テーマパーク」という考え方が一般に普及・浸透しておらず、大規模な遊園地のようにとらえられがちで、キャストが将来に不安を感じたこともあるのでしょう。

オンステージ、バックステージを問わず、多くの正社員が退職していきました。

当時、辞めた正社員を補充する目的も兼ねて採用された正社員が年間500~700人もいました。

いかに多くの正社員が辞めていったかおわかりいただけるでしょう。

当然、オンステージでは、退職した正社員の穴を埋めなくてはなりませんでした。

そこで、白羽の矢が立ったのが、アルバイトのキャストです。

つまり、それまで正社員が行っていた仕事をアルバイトに移行させることになったのです。

たとえば、当時「ビッグ5」と呼ばれていたスペース・マウンテン、イッツ・ア・スモールワールド、ホーンテッドマンション、ジャングルクルーズ、カリブの海賊の5つのアトラクションは、正社員がすべてを担当していましたが、そのほとんどの仕事をアルバイトに切り替えていくのです。

当然、アルバイトの研修やトレーニングを担当するキャストや、職場のマネジメントリーダーたちに大きな負担がかかりました。

基本的に、ディズニーでは、1人のトレーナーが1人の新人キャストを相手にトレーニングを行います(くわしくは「CHAPTER4」で解説します(※こちらを参照))。

しかし、この時期は、1人のトレーナーが、2~3人の新人キャストを相手にせざるを得ませんでした。

もちろん、トレーニング日数を増やすことはできません。

そのため、トレーナーはさまざまな工夫を凝らしてトレーニングに当たりました。

その努力のかいあって、多くの新人がデビューし、オンステージのサービスやショーのクオリティ(品質)レベルを維持することができました。

この試練はメリットももたらしました。

より合理的なトレーニング方法の開発や新人アルバイトの教育を先輩アルバイトが担当するトレーナー制度の設置など、トレーニングシステムの改善・整備につながり、拙著『9割がバイトでも最高のスタッフに育つディズニーの教え方』で解説しているような教育メソッドへと進化していきました。

残業に応じてくれたアルバイトたちオンステージの仕事を正社員からアルバイトに移行することになったと前述しましたが、実は、ここでも大きな問題がありました。

肝心のアルバイトがなかなか集まらなかったのです。

特に、当時、私が所属していたジャングルクルーズやカヌーは、精神的にも肉体的にも重労働ということもあり、ほんとうに人が集まりませんでした。

そのため、アルバイトに残業を依頼せざるを得ないこともたびたびありました。

もちろん、学業で忙しい学生のアルバイトもいました。

彼らに残業を頼むのは、ほんとうにつらいことでしたし、断られても仕方がありませんでした。

しかし、幸いにも、多くの場合、アルバイトたちは残業に応じてくれました。

そのおかげで、危機を乗り切ることができたのです。

なぜ自分の都合や予定もあるはずの彼らが東京ディズニーランドの危機を乗り越えるために、自ら〝犠牲〟になることを惜しまず、心を一にして頑張ってくれたのでしょうか。

それは、オープンして数年後とはいえ、風通しのよい職場風土を通じて現場のリーダーとアルバイト・一般正社員との間に信頼関係が育まれていたからです。

たとえば、ワーキングリードは〝親〟のようでありたい、一般正社員は〝兄貴〟のようでありたいといった気持ちで、アルバイトのキャストたちと接していました。

そして、その気持ちがアルバイトたちにも通じていたからこそ、ついてきてくれたのでしょう。

もちろん、研修やトレーニングを通じて、ディズニーのゲストを第一に考える姿勢やディズニーのキャストとしての誇りを共有していたことも大きな要因でしょう。

折しも、オープン3年目の1985年には、つくば科学万博が開催されることになり、ほとんどのマスコミが、人々の関心が万博に向かい、東京ディズニーランドの入園者数は激減するだろうと予測し報道していました。

しかも、ディズニー内部では、前述したように、正社員の退社、アルバイト不足など大きな問題を抱えていました。

しかし、経営陣をはじめ、マネジメントリーダーたちに引っ張られ、キャスト全員が自分たちの役割を果たした結果、大方の予測を裏切り、万博開催との相乗効果も生まれ、万博開催中は、逆に入園者数が伸びる現象も起きました。

最高の成果を生み出す「マネジメントリーダー力」を体得しよう!どのような業種・業態であれ、試練を経験しない組織はありません。

事業開始前後は特に大きな試練に見舞われるものです。

東京ディズニーランドも例外ではありませんでした。

その試練に押しつぶされるか、試練を乗り越えステップアップさせた状況をつくり出すことができるかは、経営陣はもちろん、各部署・職場のリーダー、つまりマネジメントリーダーがいかに的確に手腕を発揮するかにかかっています。

一般社員では、権限や能力に限りがあり、すべての試練を乗り越えることはできません。

なかでも、多くの社員と直接かかわるフロントライン(現場レベル)のマネジメントリーダーの責任と役割は重要です。

では、フロントラインのマネジメントリーダーは、どう考え、どう行動すればよいのでしょうか。

この本は、9割をアルバイトが占める東京ディズニーランドのフロントラインを中心に「マネジメントリーダー力」とは何かをわかりやすく解説しています。

また、単なる知識の伝達というよりも、マネジメントリーダーとして自分が持っている強みを発見し、その強みをどんどん発揮するために必要なことは何かについて、さまざまなエピソードを盛り込むことで〝体感・体得〟していただくことを狙いとしています。

それは、あなたの組織・職場でも大いに役立つはずです。

本書を読んで、マネジメントリーダー力を確実にアップさせ、より大きな成果に結びつけていただければ幸いです。

この本のポイントCHAPTER1「マネジメントリーダー」とは何かマネジメントリーダーとは誰か、どのような役割・責任を持つかをあきらかにし、マネジメントリーダーとして必要な考え方・姿勢について解説します。

CHAPTER2自分の「マネジメントリーダー力」を伸ばすマネジメントリーダーとして、部下から信頼され、自分の能力を伸ばすために必要なことについて解説します。

CHAPTER3「マネジメントリーダー力」で部下を伸ばすマネジメントリーダーとして、部下の立場・気持ちを踏まえながら、部下のやる気を高め能力を伸ばすために必要なことについて解説します。

CHAPTER4成果を伸ばす「しくみ」をつくるマネジメントリーダーとして、部下に自信を持たせ部下の状況に応じて行う教育・指導のしくみや方法、部下の心身をケアするしくみや方法について解説します。

目次

CHAPTER1→「マネジメントリーダー」とは何か

01人を導き、成果を生み出す

ディズニーの〝課長〟は大企業の経営者並み

私が在籍した当時(2007年)の東京ディズニーランドの商品販売部、運営部の組織構成は37ページ(※こちらを参照)の図表のとおりです。

現在では組織構成や役職名称などに変更が加えられていますが、「マネジメントリーダー」について語るうえで支障はないので、私がよく知る在籍当時の組織構成をベースに話を進めていきましょう。

たとえば、東京ディズニーランドの商品販売部の場合、最高責任者として部長がいて、その下に「マネージャー」が置かれていました。

さらにマネージャーの下に3~4つのショップを管理する「ユニットマネージャー」と呼ばれる責任者がいました。

そして、それぞれのショップには「スーパーバイザー」(運営部では各アトラクションに置かれた「ワーキングリード」)と呼ばれる現場の責任者がいました。

スーパーバイザー(ワーキングリード)の下には、業務を分担して任せる「アルバイトリーダー」、トレーニングを任せるアルバイトの「トレーナー」が置かれていました。

ちなみに、東京ディズニーリゾート全体で、現在約2万人ものキャストが働いており、たとえばユニットマネージャーの管理するキャストは、100~300人で、一般企業でいえば、中規模企業の経営者並みの部下を抱えています。

その上のマネージャーは一般企業でいえば課長クラスですが、抱える部下は1000人以上の規模で、大企業の経営者並みといえるでしょう。

「マネジメントリーダー」とは誰のことか

たとえば、ディズニーのユニットマネージャーが、商品発注・補充、金銭の集計管理、キャストのスケジュール管理、さらには安全管理やレジのメンテナンスなどを行っているわけではありません。

実際問題として不可能です。

誰がそれらの業務を行っているかといえば、部下のスーパーバイザーたちです。

さらに、スーパーバイザーも、部下のアルバイトリーダーやトレーナーに業務を分担しています。

このような業務分担は、何もディズニーに限ったことではありません。

1人あるいは数人の責任者が、担当する人、カネ、モノ、時間、信用、ブランドなど、いわゆる「資源」一切を管理・運営することはできないからです。

そこで実際には、さまざまなポジションの責任者は、部下を通じて、それらを管理・運用し、成果へと結びつけます。

つまり、人を通じて成果をあげているわけです。

すなわち、私がいう「マネジメントリーダー」とは、このような「人という最も大切な資源を導いて、成果を生み出す人」にほかなりません。

ですから、ディズニーではアルバイトリーダーやアルバイトのトレーナーもマネジメントリーダーに該当します。

一般企業でいえば、グループリーダーや主任クラスもマネジメントリーダーに該当します。

また、広く解釈すれば、高校の野球部の主将などもマネジメントリーダーと呼んでい

いでしょう。

マネジメントリーダーの4つの条件

マネジメントリーダーとは、言葉を換えれば部下や仲間を的確にリードし目標達成、顧客満足度アップ、売上アップ、従業員満足度アップ、部下のモチベーションアップなどさまざまな成果をあげることによって、組織さらには地域社会に貢献する存在です。

同時に、それこそマネジメントリーダーの役割であり責任にほかなりません。

また、それを実現するには、前述したような資源を効率的・効果的に管理・運用できる人材を育成することが不可欠です。

特に人を重視するディズニーでは、明確に定義されているわけではありませんが、よいマネジメントリーダーの条件として、次の4つをあげています。

●部下をどのように育てるかを本気で考えている●部下の持っている長所や強みを最大限に引き出す●部下の個人的な悩みを聞き相談にのる温かさを持っている●愛情を持って部下を叱ることができる

02「業績」よりも「人」を重視・優先する

ディズニーでいちばん魅力のあるアトラクションはキャスト!

ディズニーでは、「ディズニー・テーマショーの主役は、キャストである」と考えています。

つまり、「キャストこそが、ゲストを幸福にする最も大きな力だ」ということです。

たとえば、ディズニーでは、マネジメントリーダーによるキャスト教育の一環として、次のようなシーンを見ることができます(次の会話文では、「マネジメントリーダー」を「リーダー」と記します)。

リーダー「いちばんのアトラクションは、なんだと思う?」キャスト「え、行列がいつでもできているから、スプラッシュ・マウンテンかな」リーダー「そうだね。

人気あるよね(否定はしない)。

でも、ウォルトも言っているけど、最も人を惹きつけるのは〝人〟だよ。

つまり、キャストなんだよ。

あなたのディズニースマイルが、ゲストを惹きつけるんだ。

アトラクションには、人を惹きつけるものという意味があるんだよ。

最も魅力があるのは、あなた(キャスト)なんだ」このような教育は、オンステージのキャストだけを対象に行われているわけではありません。

ディズニーでは、人事や総務、経理などといった内部管理部門のキャストにも、「オンステージのキャストがゲストを惹きつけることができるのも、あなたたち、バックステージのキャストのフォローがあればこそだよ」と人間重視の教育を行っています。

たとえば、私がディズニーに在籍していた24年間、新入正社員は内部管理部門に配属される前に必ず3年から5年、フロントライン、つまりアトラクションやショップに配属されました。

その間、一般キャスト、トレーナー、スーパーバイザーを実際に体験することによって、彼らは、自分の組織の本業は何であるかを知ることはもちろん、キャストこそがゲストにハピネスを提供する主役であることを実感するのです。

そして、フロントラインで働くキャストとの人間関係を築くとともに、彼らの苦労を理解します。

このような入社後のフロントライン体験は、その後も内部管理部門のキャストの心に確実に生きています。

たとえば、内部管理部門のキャストは、しくみやルールをつくることがあります。

そういうとき、特にフロントラインのキャストから「なぜ、こんなルールが必要なの?」とい

った批判を浴びがちな損な役回りです。

しかし、彼らもゲストに幸福や満足感を与えるフロントラインのキャストを、少しでも応援したいという気持ちでいるのです。

だからこそ、たとえばオンステージに雪が積もれば、率先してオンステージの雪かきをします。

つまり、直接ゲストと触れ合う機会はほとんどなくても、バックステージの社員1人ひとりが「自分たちもキャストの一員である」ことを自覚しているのです。

なぜディズニーのキャストは手を抜かないのか

ドイツの心理学者リンゲルマンの興味深い実験データがあります。

それは、人には、大きな集団になるほど手を抜く傾向があるというものです。

たとえば、1人対1人で綱引きをした場合、人は100の力を発揮するが、2人対2人になると100の力が93になり、3人対3人になると85しか力を発揮しなくなるといいます。

というのも、集団になればなるほど「誰かが頑張ってくれる」という考えが無意識に働き、手を抜いてしまうからだといいます。

一方、ディズニーに目を転じてみるとどうでしょうか。

東京ディズニーリゾートには約2万人のキャストが働いています。

もちろん、シフト勤務もあるので、2万人全員が同じ時間帯に一挙に仕事に就くわけではありません。

しかし、〝大集団〟で仕事に取り組んでいることは間違いありません。

ところが、ディズニーのキャストは、「誰かが頑張ってくれるから」と手を抜くことはありません。

それどころか、リピーターが圧倒的に多いことからもわかるように、大変高いレベルのホスピタリティやサービスを維持し、ゲストに提供し続けています。

リンゲルマンの実験結果から見れば、ディズニーのキャストの仕事ぶりは驚くよりほかありません。

なぜでしょうか。

それは、冒頭の例にも見られるように、ディズニーには人間重視の風土があるからです。

だからこそ、いつでも手を抜かないキャストが育っているのです。

もちろん、キャストも人間ですから、ときには手を抜きたいと思ったり、気がゆるんだりすることもあるでしょう。

しかし、そんなとき、次のような思いが、ディズニーのキャストの脳裏を駆けめぐるのです。

「ゲストにハピネスを提供するために頑張っているほかのキャストの足を引っ張ってはいけない」「仲間に迷惑をかけてはいけない」

だから、ディズニーのキャストは誰も、手を抜きそうになっても手を抜かないのです。

つまり、人間重視の風土によって育まれた「仲間を大事にする思い、仲間への気遣い、思いやり」が、ディズニーのすべてのキャストの胸に刻まれ、手抜きをしない大きな力となっているのです。

業績を伸ばすのは「人」

一方、業績ばかり重視して社員の気持ちを考えようとしない組織・職場では、風通しが悪く人間関係に問題が山積みという風土ができあがっていきます。

たとえば、マネジメントの対象は、次の2つに大別することができます。

●業績的な側面●人間的な側面「業績的な側面」は、文字どおり、売上や利益率などを対象とし、「人間的な側面」は、社員の成長や考え方などを対象とする、つまりモチベーションを高めたり組織への誇りや愛着を育てるようなマネジメントのことです。

一般的によく見かけるのは、業績的な側面を重視し、売上アップの方法や実務に必要な法務の研修などを積極的に行い、「今月の売上目標は……」といったスローガンを前面に出して社員を牽引するような組織です。

実は、このような組織では、一時的には業績がアップしても、社員の士気が上がらず、時が経つにつれ、だんだんと業績が落ちていきます。

そのような組織のマネジメントリーダーのなかには、そのような状況に陥ってはじめて人を重視する重要性に気づき、外部のメンタル的な研修やコーチング研修を受講する人が少なくありません。

しかし、業績的な側面を重視する傾向からどうしても抜けきれず、外部の研修を受講して得た知識をなかなか有効に活かせないようです。

もちろん、マネジメントリーダーにとっては、業績も重要です。

ただ、業績的な側面よりも、まず人間的な側面を重視しなければなりません。

なぜなら、生産性や売上を上げるベースは人、つまり部下だからです。

部下がやる気になって頑張ってくれて、はじめて業績が伸びるのです。

いくら業績を伸ばす知識を詰め込んでも、部下がやる気を出してくれなければ業績は伸びません。

その意味で、大切なのは、経営陣をはじめマネジメントリーダーが、まず人間的側面を重視する考え方を持ち部下に接すること、人を重視する研修やトレーニングを継続して実施していくことです。

そうなれば、自然に職場にも人間重視の風土が育っていきます。

また、「自分や仲間が重視されている」と感じることができれば、部下の仕事へのモチベーションも上がります。

その結果、当然、業績も伸びていきます。

「業績を伸ばすのは人です!」──この言葉を肝に銘じましょう。

キャストにしっかり注意するディズニーのリーダー

ディズニーには、ディズニールックという厳しい身だしなみのルールがあります。

これを徹底させることは、マネジメントリーダーの大きな役割のひとつです。

また、ディズニーには、「アピアランス・コーディネーター」というディズニールックをキャストに遵守させる専門の担当者もいます。

マネジメントリーダーもアピアランス・コーディネーターも堂々とキャストを見ており、身だしなみに乱れのあるキャストがいれば、はっきりと注意や忠告を行います。

そのため、チェックされることに不慣れな新人キャストは、最初は「ビクビク」したり、ときには「ムッ」としたりしています。

しかし、マネジメントリーダーやアピアランス・コーディネーターが自分たちをほんとうによく見ていることや両者の間にブレがないこと、そして彼らの身だしなみに対する妥協のない姿勢に、リスペクトすら感じるようになっていきます。

注意するときの2つのステップ

マネジメントリーダーは、部下の仕事に対する能力レベル、人格・性格などを観察し的確に判断しなければなりません。

そのため、マネジメントリーダーには、たとえ部下に最初は嫌がられても、「部下を堂々とよく見る」姿勢が求められます。

「部下を堂々とよく見る」姿勢・行動は、リーダーシップと共に、マネジメントリーダーに絶対に必要な基本中の基本といってよいでしょう。

読者の皆さんも、この本を読み進めていく過程のいろいろなシーンでそのことを再認識されるはずです。

ただし、堂々と見て何か問題があった場合、すぐに反省点や修正点を告げるのではなく、次の2つのステップを踏むことが肝心です。

[ステップ1]よい点を褒めるよく見た後、まずよい点をすぐにフィードバックしてあげることが大切です。

それがすぐにできないときは、同僚キャストに「マネジメントリーダーが褒めていた」と伝えてもらいます。

[ステップ2]反省・修正点を伝えるよい点をフィードバックしたうえで、反省・修正すべき点があるキャストには、反省・修正すべき点を伝えます。

忘れてならないのは、まずよい点を褒めることです。

いきなりキャストに「反省しよう」「修正しよう」と言うと、反射的に反発するケースもあり得ます。

つまり、「すべてが悪いわけではない、よい点もあるんだよね。

でも、ここがちょっと乱れているから気をつけようね」とステップを踏めば、キャストも素直に指示を受け止めることができます。

いずれにしても、部下を堂々と見た後にフィードバックしてあげることが大切です。

このフィードバックがあればこそ、部下は「自分のことを気にしてくれている」と思い、仕事に対するモチベーションが上がる、あるいは働きがいを感じるようになります。

なお、注意・忠告するのではなく「叱る」場合については、104ページ以降(※こちらを参照)を参照してください。

リーダー間で基本的見解を一致させる

冒頭のマネジメントリーダーがディズニールックが守られているかをチェックする例でわかるのは、「部下を堂々とよく見る」ことに加えて、「マネジメントリーダーたちの言うことが一致している」ことです。

たとえば、ディズニールックのルールのひとつに、髪の長さに関する規定があり、男性キャストの場合、「前髪が目にかかってはいけない」と規定されています。

このような微妙な規定の場合、ある人は「これくらいの長さならOKだ」と思っても、別の人は、「それはちょっとまずい」と思うように、人によって判断に違いが出る可能性があります。

ディズニーでは、そういうことがないよう、マネジメントリーダー間で意見交換し、共通の解釈・認識を持ってはじめて行動に移します。

マネジメントリーダー間で意見が相違する可能性のある場合は、自分の判断だけで動くことはありません。

もし、マネジメントリーダーによって、基本的なルールなどの解釈や考え方に違いがあれば、「課長からはこう言われたが、部長からはこう言われた」というような事態が生じて、部下は、誰の言うことを信じればよいのかわからなくなります。

また、そういうことが重なれば部下は混乱するだけでなく、マネジメントリーダーはもちろん、組織を信頼しなくなります。

そういうことがないよう、マネジメントリーダーはお互いに日頃からよくコミュニケーションをとり、基本的なものごとについては、共通の解釈・考えを持って部下に接することが大切です。

パーク内に寝泊まりしていたウォルト・ディズニー

ここで、ディズニーの創始者ウォルト・ディズニーに関するエピソードをご紹介しましょう。

ウォルトは経営者として多忙な日々を送っていましたが、時間があればディズニーランド(アメリカ・アナハイム)内にあるファイアーステーションの2階のオフィスに出向き、寝泊まりをしていました。

そして、そのオフィスの窓から、パークはきれいに保たれているか、ゲストは楽しんでいるか、しょっちゅう見渡していたのです。

もちろん、キャストの仕事ぶりもしっかりと見ていました。

そして、笑顔でゲストに接していないキャストを見つけると、上司のマネジメントリーダーを呼び、「なぜ彼は笑顔じゃないの?ここは夢と魔法の王国なんだよ。

笑顔のできないキャストはここでは働けないと、彼に言いなさい」と伝えました。

すなわち、ウォルトは社長であると同時に、フロントラインのマネジメントリーダーとして、オンステージの状況やキャストの仕事ぶりを見ていたのです。

では、なぜウォルトは、そこまでしたのでしょうか。

それは、1人でも多くのキャストに成長してもらい、自分の分身になってほしかったからです。

ウォルトは、自分1人では夢と魔法の王国を築き存続させることはできないことを知っていたのです。

ウォルトの寝泊まりしたオフィスは、今も当時のままアナハイムのディズニーランド内に残されています。

「部下との時間」を常に大事にする

「部下としっかりコミュニケーションをとりましょう」「部下をよく見ましょう」と言うと、「そんな時間はない」と言うマネジメントリーダーが少なくありません。

前述したように、多くの部下を抱えるディズニーのマネジメントリーダーも忙しい立場です。

決して時間に余裕があるわけではありません。

ただ、ディズニーのマネジメントリーダーたちは、時間をつくるためにどうすればいいか、そのために自分はどんな能力を高めればいいか、常に考えて行動に移します。

そして、忙しくてもなんとか時間をつくって、キャストとコミュニケーションをとっています。

たとえば、ディズニーのマネジメントリーダーは「今、キャストの士気が落ちてる」とか「こういう苦情があったな。

みんなで解決しなくちゃいけない」と思ったときは、たとえどんなに忙しくても、ミーティングを開くタイミングを判断し時間設定を行います。

そして、問題・課題解決の方策をキャストたちと話し合い、キャストたちが納得したかたちで解決策を実行に移します。

キャストは、当然、「マネジメントリーダーが忙しいにもかかわらず、自分たちのために時間をとってくれている」ことを知っています。

だからこそ、マネジメントリーダーとキャストの間に厚い信頼関係が育まれていくのです。

ミーティング、面談を活用する

ディズニーでは、●朝礼や終礼●アルバイトリーダー・ミーティング●トレーナー・ミーティング●スーパーバイザーとアルバイトキャストの面談・ミーティングなどの機会を、必要事項の伝達、キャストの提案を聞く、あるいはキャスト同士の打ち合わせはもちろん、マネジメントリーダーとキャスト・キャスト同士のコミュニケーションの場としても活用しています。

また、ディズニーには、開園後大雨になって入園者数が伸びなかったような場合、「雨天解消」といって、勤務するキャスト数を減らすしくみがあります。

しかし、ときには雨天解消とせず、その後の時間を余剰となったキャストのミーティングにあてることもあります。

また、ディズニーのマネジメントリーダーは、日常の業務中においても、キャストに積極的に声かけをするなど、常にキャストとコミュニケーションをとるよう心がけています。

いずれにしても、得意・不得意を問わず、マネジメントリーダーには、部下とのコミュニケーション能力を高めることが求められます。

この能力の詳細については拙著『9割がバイトでも最高のスタッフに育つディズニーの教え方』で解説しているので参考にしてください。

CHAPTER2→自分の「マネジメントリーダー力」を伸ばす

01まず自分を振り返ってみよう!

部下と苦楽を共にするディズニーのリーダー

プロローグでもご紹介したように、東京ディズニーランドは、1800億円という大きな負債を抱えてスタートしました。

そのため、大入袋を配る社長の英断はあったものの、給料は、かなり低めに抑えられていました。

私も、オープンして数年間は、家賃を払えば残りわずかで、これでやっていけるのかと不安を覚えたものでした。

私と同じような思いを抱くキャストが大勢いました。

また、今のように「テーマパーク」という名称に馴染みがなく、「遊園地」ととらえる人が一般的でした。

そのような世間の目を意識して、このままディズニーの仕事を続けていいものかと悩むキャストもかなりいました。

前述したように、オープンして数年後に退職者が続出したのも、それらのことと無関係ではなかったでしょう。

私が、このようなキツく、悩み多き時期を乗り越えることができたのは、やはり、仕事上の悩みや愚痴を聞いてくれる先輩やマネジメントリーダーがいたからです。

彼らには、よく飲みにも連れていってもらいました。

そこで無礼講で議論し、ケンカもしましたが、悩み事の相談にのってもらったりすることで信頼感が育まれ、何ものにも代え難い共に働くことの楽しさも生まれました。

私がジャングルクルーズやカヌーのマネジメントリーダーになってからも、先輩たちと同じようにキャストに熱く接しました。

当時は、ディズニーの哲学の解釈をめぐってキャストとぶつかり、大変な思いも経験しましたが、そのときのジャングルクルーズやカヌーの仲間とは、今でもおつき合いがあります。

今なお、「苦楽を共にした」という気持ちを共有し続けているからです。

部下から信頼されているかどうかを知る方法

ディズニーでは、部下の個人的な相談にのったり、自ら部下に「何かあったの?」と声をかけることが、マネジメントリーダーの大切な役割とされています。

さて、あなたはいかがでしょうか。

部下から相談されることが多いでしょうか。

それとも、少ないでしょうか。

実は、相談機会の多い少ないが、部下から信頼されているかどうかの指標になるのです。

つまり、部下から相談される機会が多いマネジメントリーダーは、それだけ部下から信頼されているわけです。

では、部下の信頼が薄いとどういうことが起こるのでしょうか。

部下から信頼されていないと、成約報告や売上アップといったよい報告ばかりが上がってくるようになります。

たとえ悪い情報でも報告するように義務づけてあっても、定期的な報告や連絡の際、よい報告ばかりがめだって、悪い報告は避けられるケースが多いのです。

悪い報告をすると、どう対応されるかわからないといった不信感や不安感が募るためでしょう。

このような状態は、職場・組織全体にとって「危険な状態」といわざるを得ません。

というのも、悪いところがわかれば、それを改善することで職場・組織の強化につなげられるからです。

逆に、悪いところがまったく報告されず、マネジメントリーダーが知らないままだと、悪いところが放置されたままの状態になり、一向に改善されないことになります。

そうなると、マネジメントリーダーにしても、自分の〝命取り〟になりかねません。

減給、降格などの処分を受けかねないし、場合によっては、会社が倒産する可能性すらあります。

そんな大事に至る火種はくすぶっていないか──マネジメントリーダーとして、自分は部下に信頼されているか、部下から相談を受ける機会は多いか少ないか、自分を振り返ってみましょう。

自分を知ることがレベルアップにつながる

マネジメントリーダーとしてレベルアップするには、周りからどのように思われているか、どう評価されているかを知る必要があります。

自分が、どういう人格・性格で、どのような言葉を使い、どのような行動をしているか、どのように周囲の人と接しているかなどを知れば、なぜ周囲の人がそういう反応を示すのか、どういう気持ちでいるのかが判断できます。

また、「自分にはこんな能力もあったんだな」とそれまで気づかなかった自分の能力を知ることもできます。

自分の能力を知れば、その能力に合った目標、さらには、その目標よりも高い目標を設定することができます。

そして、●その目標が誰が見てもはっきりしている●その目標が具体的である●その目標が計量化できる●その目標がイメージできるという条件を満たしていれば、自分自身の置かれた現実に気づき、理解し直すという自己

洞察が進んでいるといってよいでしょう。

それはマネジメントリーダーとしてレベルアップしつつあることを意味します。

こうすれば自分を知ることができる

ただ、客観的な目で自分を知る・評価するのはむずかしいものです。

やはり、自分の普段の言動を客観的に知るには、鏡やカメラ代わりとなる周りの人からのフィードバックが必要になります。

このため、私が在籍していた当時は、ディズニーでは「多面評価」と称して、上司・同僚・部下から自分をどのように思っているかを伝えてもらう機会が設けられ、自分を客観的に見つめることができるようになっていました。

そういう機会を得ることがむずかしいマネジメントリーダーの方のために、72ページ(※こちらを参照)に、自分で自分をチェックできるリストを掲載しておきます。

自分で追加したい項目があれば、その項目を加えて、自分流のチェックリストをつくってください。

このチェックリストを活用して、自分なりに冷静・客観的に反省点、気をつけたい点、改善したい点、よい点、さらに伸ばしたい点などを見つめ直し、自分でレベルアップするための目標を立ててみましょう。

ところで、マネジメントリーダーだからといって、リストにあげたすべてを身につける必要はありません。

というより、それは不可能でしょう。

あくまでもチェックリストとして活用してください。

そして、1度で終わりにするのではなく、定期的にチェックを繰り返すことをおすすめします。

02「どうすればできるか」思考で行動する

ディズニーで「できない」は禁句!

拙著『9割がバイトでも最高の感動が生まれるディズニーのホスピタリティ』でもご紹介したように、ディズニーでは「できない」は禁句です。

ディズニーでは「どうすればできるか」をまず考えます。

たとえば、成人の日には、着物姿の女性ゲストがたくさん入園しています。

ジャングルクルーズでは、水しぶきの上がる滝を巡る箇所があるので、着物を濡らすゲストが出る可能性があります。

そんなとき、ジャングルクルーズのキャストは、「着物のゲストには乗船をご遠慮していただこう」とは考えません。

「どうすれば、乗船しても着物を濡らさずに楽しんでいただくことができるか」を、キャスト全員で考えます。

たとえば、●スピールで「着物が濡れる場所」と「どのくらい濡れるのか」を伝えよう●レインコートをお貸ししよう●濡れてもシミにならない水質にしようというように、まず制限・制約なしで、できる方法を考えます。

こういうとき、つい「これはムリだから……」と制限を設けて考えてしまいがちですが、ディズニーの場合は、制限なしで一生懸命考えます。

そして、その結果、どうしても妙案が出ない場合には「代替案」を考え出します。

なぜ、キャストにこのような姿勢が身についているかといえば、マネジメントリーダーが、そのように行動しているからです。

逆に、マネジメントリーダーが「できない」思考に染まっていると、部下も同じように「できない」思考に染まります。

部下は上司のすることをよく見ていて、上司の真似をするものなのです。

「できない」のではなく「やっていない」

「部下を育て伸ばしていますか」と質問したとき、「いやあ、なかなかできないんですよ」と答えるマネジメントリーダーがいます。

そんなとき、私は、それ以上言う言葉を失ってしまいます。

「できない」のであれば、どうしようもありません。

でも、ほんとうにできないのでしょうか。

私が知る限りでは、部下を育て伸ばすことができないのではなく、「自分の仕事が忙し

い」とか「時間がとれない」といったことを理由にして、部下を育て伸ばそうとしていない、やっていないケースがほとんどです。

できるにもかかわらず、やっていないのです。

しかし、やっていないのであれば、まだ可能性があります。

すぐにでも、行動に移してください。

部下がつらいときにこそ「声をかける」ディズニーのリーダー

「ストローク」については拙著『9割がバイトでも最高のスタッフに育つディズニーの教え方』でも詳しく解説していますが、重要なことなので、本書でも取り上げておきましょう。

前述したように、ジャングルクルーズの仕事は、精神的にも肉体的にも、とてもハードです。

たとえば、ジャングルクルーズのスキッパーのナレーションに、ゲストがいつも楽しそうな反応を示してくれるとは限りません。

ときにはまったくの無反応、ときには「前に来たときのスキッパーのおしゃべりのほうが面白い」とか「つまらない」と露骨に口に出すゲストもいます。

かと思えば、乗船中はものすごく盛り上がったのに、帰港したとき、まったく拍手がもらえないこともあります。

そんなとき、スキッパーのつらさ、悲しさといったらありません。

しかも、1日30~40周もしなければなりません。

にもかかわらず、ほかのアトラクションやショップのアルバイトと時給は同じなのです。

それでも、アルバイトたちが、ジャングルクルーズの仕事を続けることができるのは、「ワーキングリード」と呼ばれる現場のマネジメントリーダーが、しょっちゅう声をかけてくれるからです。

彼らが、「(拍手がないと)厳しいゲストだったかな。

次は大丈夫」「(拍手があると)さすが!」と積極的にストロークを与えてくれるからこそ、つらい思いや不満を忘れ、笑顔で全力で仕事に取り組むことができるのです。

ストロークが部下のやる気を高める

「ストローク」とは「相手を認めること」です。

具体的にいえば、笑顔で挨拶したり、褒めたりする行動のことです。

心理学によれば、「人は、肉体への物理的な攻撃よりも、ストロークを与えられないことにより大きなダメージを受ける」「人はストロークをもらうために生きている」といいます。

実際、ストロークを受ければ受けるほど、人は幸福感に包まれるものです。

マネジメントリーダーから繰り返しストロークを受ければ、部下は「自分は、リーダーに認められている」と感じて信頼感を抱き、仕事に対するやる気も高まります。

ところが、マネジメントリーダーのなかには、「ストロークなんて……特に褒めたりすればつけ上がる」と言って、ストロークを与えない人がいます。

しかし、褒めるストロークと叱るストロークのメリハリをきちんとつけていれば、部下が「つけ上がる」ということはありません。

また、「ストロークはあまり与えるものではない」と、ストロークの回数に限度を設けているマネジメントリーダーもいます。

しかし、ストロークの回数に限度など設けるべきではありません。

その結果、「富める者はますます富み、貧しい者はますます貧しくなる」ではありませんが、ストロークを積極的に与え続けるマネジメントリーダーは、ますます部下から信頼され、ストロークをしない、あるいはストロークに消極的なマネジメントリーダーは、ますます部下から信頼されなくなります。

マネジメントリーダーにとってストローク力は、部下から信頼されるとともに、部下のやる気を高める必須の能力です。

04「自分の目」で判断・評価する

うわさを信じ込んだリーダーの失敗

マネジメントリーダーが犯しやすい事例をご紹介しましょう。

Aユニットのショップの運営に配属された入社3カ月目の山田(仮名)くんは、ある日、三田(仮名)ユニットマネージャーに呼び出されました。

「山田くん、Bユニットのショップに異動してくれないか」山田くんは、突然のことで驚きました。

希望して配属されたショップだったので、異動には抵抗もありました。

でも、異動命令を拒否することはできないので、山田くんは「心機一転、頑張ろう」と思い直して、Bユニットのショップに異動しました。

山田くんは、Bユニットのショップで、自分なりに一生懸命頑張りました。

ほかのキャストとの関係も悪くありませんでした。

ところが、異動して2カ月経過した頃、木村(仮名)ユニットマネージャーの自分に対する態度が変わり始めたことに気づきました。

異動当初は、「よろしくな、一緒に頑張ろう」と温かい言葉をかけてくれていましたが、妙にとげとげしくなり、叱られる回数も多くなってきたのです。

それには、理由がありました。

実は、最近、木村ユニットマネージャーは、ほかの同僚から、こんな話を聞かされたのです。

「山田か、あれはダメだろう」「山田か、こんなミスが多かったぞ」そのとき以来、木村ユニットマネージャーは「挨拶が少ない」とか「オレに対して無表情だ」とか、山田くんの欠点ばかりが目につくようになりました。

そして、いつしか木村ユニットマネージャーは、イライラし声を荒げて山田くんを注意・叱責するようになりました。

山田くんの顔を見るのも嫌になりそうでした。

一方、山田くんは、どんどん仕事への意欲をなくしていきました。

ある日、決定的なことが起こりました。

山田くんがゲストと接している最中に、木村ユニットマネージャーに呼ばれ、「あのゲストに近づくな」と理由もなく告げられてしまったのです。

そして、木村ユニットマネージャー自身が続きの接客を行ったのです。

山田くんの存在を否定するような言葉と行動でした。

山田くんは、数日後、退職を決意しました。

うわさは「信用しやすい」ので要注意!

なんとも嫌な事例です。

しかし、実際に、このようなケースが少なくありません。

人には、もともとうわさ話に左右されやすい傾向があります。

特にうわさ話は、直接見たものや直接聞いたものより信用しやすい側面があります。

木村ユニットマネージャーも、「山田は、ダメだ……」というほかの人の言葉に心を動かされてしまったのです。

このような姿勢が、マネジメントリーダーとしてふさわしくないことはいうまでもありません。

部下の成長の芽を摘むのはもちろん、この事例のように部下を退職に追い込むことになってしまいかねません。

せっかく雇用・育成した部下の退職は、人的コストの〝浪費〟にほかならず、組織に損失を与えます。

次のようなケースも考えられます。

たとえば、悪いうわさを信じて冷遇した部下が、自分よりも上のポジションに昇進するケースです。

そのときは報復される可能性もあります。

また、その部下がお客様として、自分の前に現れるケースも考えられるでしょう。

お客様になった部下が、今度は自分や組織に対する悪い口コミを広げることもあり得ます。

逆に、部下に公平で誠実な対応をしていれば、後に、自分を支える大きな力になってくれる可能性もあるでしょう。

将来的にこのようなケースもあり得ることから、部下もまた、自分の命運を左右する人脈の1人という視点を持つことが必要です。

マネジメントリーダーは、部下の悪いをうわさを信じ込んで、公平性を欠く対応をすることがないよう、くれぐれも注意しなければなりません。

05流ちょうでなくてもいいから「熱く語る」

「兄ちゃん、頑張ってるなあ!俺も頑張るから!」

私が、パークの夜間清掃に当たるナイトカストーディアルの新人キャストの研修を担当したときのことです。

私は、研修室に入ったとたん、思わずギョッとしました。

50人ほどの40代から50代の男性ばかりのクラスであることは承知していましたが、多くの人からギロッとにらみつけるような視線を浴びたからです。

後ろのほうでは、腕組みをして寝ている人もいます。

そして、ほとんど全員が、大きく股を広げて椅子に深くもたれかかった格好です。

「俺たちは、夜間掃除をしに来ただけなんだ。

めんどくさいことはやめてくれよ」という雰囲気が部屋中に満ちていました。

全員が新人研修を受けた経験などなかったのですから、無理もありません。

私は、まず大きな明るい声で、「こんにちは、ジャングルクルーズで働いている福島文二郎です!楽しいクラスが始まるので、まず、体を眠りから覚ましましょう」と言い、その場でできる簡単な準備運動から、研修をスタートさせました。

それから、「これから働く皆さんのお仕事のおかげで、ゲストが爽快に気持ちよく東京ディズニーランドで楽しめます。

ゲストに爽快で、すがすがしい気持ちになっていただくには、皆さんのお力を借りるしかありません」と言って、ナイトカストーディアル・キャストの仕事の意義を説明しました。

ただ、その間もずっと寝ている50代の男性がいました。

そこで、私は、休憩のときに、周りにいる人に聞かれないように、「私は、吉田(仮名)さんとお仕事がしたいのです。

でも、このまま寝ているようであれば、吉田さんが東京ディズニーランドを訪れるゲストのために安全で清潔な環境をつくれるか、不安です。

一緒に東京ディズニーランドのゲストを楽しませることができるキャストであることを、私に見せていただけませんか」と震えながら注意しました。

そして、私は、顔をこわばらせながらも、とにかく一生懸命に、そして熱くディズニーの歴史、ディズニーテーマショーの考え方、キャストの目指すべきゴール、キャストの行動指針などについて伝えていきました。

研修には、パークの中を一緒に見て回る時間も含まれています。

そのときも、汗をかきながら一生懸命に熱く説明しました。

こうして、やっと4時間目の最後の研修科目が終わりました。

私は、研修を終えた新人ナイトカストーディアルのキャスト1人ひとりに、「ブロシャ

ー」というディズニーに関するパンフレット一式と、「福島文二郎が担当しました」という直筆の研修修了証明書と、キャストの名前の入ったネームタグを手渡しました。

そのときのキャストの顔を今でも思い出します。

研修を受ける前、あれほど、嫌そうな表情を見せていたキャストのほとんどが、なんと私に笑顔を返してくれたのです。

なかには、私に、「兄ちゃん、頑張ってるなあ!俺も頑張るから!」と声をかけてくれるキャストもいました。

ヘタでも本気で伝えれば、必ず伝わる

「自分は口ベタだから、相手にうまく言葉を伝えることができない」と言う人をよく見かけます。

しかし、大切なのは、流ちょうにしゃべることではなく、いかに一生懸命に、かつ熱く相手に伝えるかです。

立て板に水のようにトークを展開するセールスマンよりも、木訥でも一生懸命に熱くトークをするセールスマンのほうが成績がよいものです。

また、相手がちょっとでも反抗的な態度を見せると、すぐに口を閉じてしまう人がいますが、それでは伝えたいことも伝わりません。

ディズニーのマネジメントリーダーたちは、一生懸命に熱く語れば必ず伝わると信じています。

だから、忍耐力を持って、何回も何回も一生懸命かつ熱く語ろうとします。

そうすれば、事実、必ず相手に伝わるものです。

前述の研修でも、私の一生懸命さ・熱さが、研修後のキャストの「俺も頑張る!」という言葉につながったのです。

伝えたい言葉を文章にしておく

マネジメントリーダーには、たとえば新しいルールを徹底したいときなど、いろいろな機会を利用して、部下に繰り返し伝えなければならないことがあります。

もちろん、筋道を立ててわかりやすく伝えることが必要ですが、毎回違う言葉を使って伝えていては、説得力が弱まります。

部下の記憶にも残りにくいでしょう。

そこで、使う言葉を文章にしておき、部下に話す前に目を通すのです。

そうすることで、前回の話と矛盾するようなことがなくなるのはもちろん、最も浸透させたい言葉をブレなく強調することができます。

その結果、そのフレーズが部下の心に深く刻印され、後々まで残ります。

06必ず理由を伝える

「弁当持ち込み禁止」をゲストに伝え続けたキャスト

東京ディズニーランドがオープンして数年間は、パーク内で弁当を食べることはできないというルールが、ゲストに浸透していませんでした。

そのため、パーク内のパラソルの下のベンチで、家族で楽しそうにお弁当を広げて食事をしているゲストも見受けられました。

そんなゲストに、場所を変えて食事をしていただくようにお願いするのは、キャストも心苦しい気持ちでいっぱいです。

それでも、キャストは、ほかのゲストの夢を壊さないため、勇気を振り絞って声をかけました。

「お食事中、誠に申し訳ございません。

実はパーク内へのお弁当のお持ち込みをご遠慮いただいております。

(ガイドブックを広げて、園外に設けられたピクニックエリアを指しながら)ご面倒でも、この場所にご移動いただき、お食事していただけますか。

出るときに出口で手にスタンプを押し、入るときそのスタンプを提示していただけば再入園できます」そして、その理由について、こう伝えました。

「東京ディズニーランドは、夢と魔法の世界をお客様に楽しんでいただいております。

せっかくつくったおいしいお弁当をこの場所でお食べになりたい気持ちは、十分承知しておりますが、パークにいらっしゃる間は、お弁当により現実に戻るのではなく、夢の世界をお客様にも楽しんでいただきたいのです」キャストたちは、ゲストにルールだけを伝えるのではなく、その理由についても丁寧に説明することを根気強く続けました。

ただ、それでも、「なぜ東京ディズニーランドは、弁当の持ち込みを許さないのか。

パーク内のレストランを利用させて儲けようとしている」といった批判を浴びることもありました。

ゲストに不快に思われない伝え方

東京ディズニーランドが、ゲストを大切にしていることはいうまでもありません。

ですから、ゲストからクレームが入るような問題が生じると、朝礼で、マネジメントリーダーは、「私たちは、オリエンタルランドから給料をもらっている。

でも、突き詰めて考えれば、私たちが接しているゲストの皆様から、お金をいただいているんだよ」とはっきり言います。

といって、ディズニーには、顧客第一主義とか「お客様は神様です」というような考え方はありません。

つまり、前の事例でもおわかりのように、お客様の希望することはなんでも受け入れるというわけではありません。

たしかに、ディズニーにも「すべてのゲストがVIP」であり、ゲストを最優先する考え方はあります。

しかし、ディズニーでいうゲストとは「ディズニーのテーマショーに賛同してくれるお客様」のことです。

ディズニーのテーマショーとは、五感を使って楽しむ3次元のショーで、長編アニメーションを中心とした物語がベースとなっています。

たとえば、白雪姫もそのひとつですが、白雪姫の舞台で、お客様がおにぎりをほおばっていれば、白雪姫の物語をぶちこわし、テーマーショーが台無しになってしまいます。

また、このようなテーマショーを妨げるお客様は、テーマショーを楽しみにしているほかのゲストにとって、迷惑とまではいえないでしょうが、好ましい存在とはいえません。

そこでキャストは、なぜ弁当の持ち込みはできないのか、なぜ下駄履きやタトゥーをむき出しにした格好で入園できないのか、その理由を一生懸命にゲストに伝えてきました。

というのも、ルールだけを伝えれば、一方的に指図されているようで、ゲストを不快な気分にさせる可能性があるからです。

なぜそのルールがあるのかを懇切丁寧に説明してはじめて、ゲストも納得し理解してくれます。

キャストたちの継続的な努力の結果、今では、すべてのゲストがパーク内のルールを当たり前のこととして受け入れています。

優先順位があれば、理由を説明しやすい

こういう例もあります。

たとえば、カストーディアルの研修でキャストから「ゲストの写真を撮ってあげましょうと教えられたのですが、清掃がおろそかになりませんか」と質問されることがあります。

これに対して、ディズニーのマネジメントリーダーは、次のように答えます。

「ディズニーには、①Safety(安全)、②Courtesy(礼儀正しさ)、③Show(ショー)、④Efficiency(効率)という行動の優先順位があります(くわしくは拙著『9割がバイトでも最高のスタッフに育つディズニーの教え方』を参考にしてください)。

ゲストの写真を撮ってあげるのは『②礼儀正しさ』のカテゴリーに、清掃は『③ショー』のカテゴリーに入りますから、ゲストの写真撮影が優先されます。

ただし、そばでお子さんがアイスクリームを床に落とされたような場合、滑って転ぶ危険性があるので、『①安全』のカテゴリーに入り、アイスクリームの清掃が優先されます。

ただ、清掃をしながら、お子さんに『掃除が終わったら、新しいアイスクリームと交換してあげるね』と声をかけます。

つまり2番目の『礼儀正しさ』を実行します。

この4つの優先順位をゲストの立場になって常に考えて、積極的に行動してください。

慣れない間は、遠慮せずに質問してください」

このように、ディズニーでは、なぜそういう行動をとらなければいけないのか、その理由についてもきちんとキャストに伝えます。

また、ここで注目したいのは行動の優先順位です。

合理的な裏づけのもとに行動の優先順位が決まっており、それが部下に徹底していれば、このマネジメントリーダーの説明に見られるように、簡潔にわかりやすく理由を説明できるケースも少なからず出てきます。

まだ行動の優先順位が決まっていない組織は、ぜひ行動の優先順位を決めることをおすすめします。

ちなみに、ディズニーでは、前述のような質問が出た後は、朝礼などで、質問をしたキャストを褒めるとともに、全キャストに報告し、情報を共有化します。

07怒りはコントロールし、厳しく叱る

ディズニーでは、たとえ個人的な事情があっても厳しく叱る

ディズニーのマネジメントリーダーは、たとえば笑顔ができていないキャストがいれば、周りには聞こえないように配慮しながら、そのキャストをしっかり叱ります。

「笑顔、出ていないぞ。

頑張れ」と。

仮に、そのキャストから「話を聞いてほしい」と申し出があれば、マネジメントリーダーは、本心が話せるように人気のない倉庫の片隅などで話を聞きます。

ただ、「前日、友人との間にトラブルが生じたため」と事情がわかったとしても、マネジメントリーダーは、話を聞いた後、「事情はわかった。

でも、あの場所はオンステージだよね。

あの場所では笑顔でゲストに接しなさい」と伝え、同情はしません。

ディズニーでは、日頃からキャストに「オン(演技中)とオフ(私生活)を切り替えなさい」と指導しているからです。

叱るときは、この3つのポイントを押さえる

最近は、部下に遠慮して、部下を叱らないマネジメントリーダーが多くなってきています。

部下を育てるには、ときには厳しく叱ることも必要です。

特に、安全にかかわるミスや、お客様からクレームが出るようなミスをした部下に対してはしっかり叱らないと、同じミスを繰り返し、組織に大きな損失を与えかねません。

また、ほかの部下が「この程度ならミスしても叱られないんだ」と仕事に対する姿勢が甘くなったり、逆にマネジメントリーダーの指導力に不信感を抱き、職場の士気が低下したりします。

ただ、部下を叱るときは、次の3つのポイントを押さえる必要があります。

[ポイント1(時間)]時間をあけない部下が重大なミスをした場合は、時間をあけず、その場ですぐに叱ることが大切です。

そのほうが部下に与えるインパクトが大きく、自分が犯したミスの大きさを実感し、「同じミスを繰り返してはいけない」という思いが、部下の心により強く刻まれるからです。

それに対して時間があくとミスの記憶が薄れ、ミスの重大さを実感できなかったり、自分の行為・行動のどこに問題があったのか、思い出せなかったりします。

そのため、マネジメントリーダーから叱る理由や的確な行動を伝えられても、真剣に受け止めることができず、場合によっては「なぜ、今頃になって」と反発されかねません。

当然、同じミスを繰り返す確率も高くなります。

このような事態を避けるために、繰り返しますが、部下が重大なミスを犯したときは、時間をあけずにすぐに叱りましょう。

ただ、その際、次の2つのポイントも押さえて叱る

ことが必要です。

[ポイント2(内容)]行為・行動を叱る叱る対象は、あくまでもミスや間違い、つまり誤った行為・行動であり、人格ではありません。

よく「お前がだらしないから、こんなミスを犯すんだ」とか「お前の性格の問題なんだよ」、はては「お前やっぱり、バカだな」と、あたかもミスや間違いを犯した原因が部下の人格にあるような叱り方をするマネジメントリーダーがいます。

しかし、これは、叱るというよりは部下への人格攻撃であり、部下がミスや間違いをしたことを反省し、今後同じミスや間違いを犯さないためにはどうすればよいかを考えることにはつながりません。

部下の反感を買うか、部下を委縮させるだけです。

[ポイント3(環境)]人前で叱らない部下を叱るときは、人前で叱らないように配慮しましょう。

部下を人前で叱ると、部下は恥をかかされたような気持ちになり、部下の恨みを買うケースもあります。

また、朝礼など公の場では、「昨日、星野(仮名)くんが、こんなミスを犯したが……」などと名指しせず、名前を伏せて「こういうことがあったが」と話を進めていくようにしましょう。

怒りをコントロールする方法

「叱る」ことと「怒る」ことの違いについて考えてみましょう。

「叱る」とは、単にミスや間違いを責めるだけではなく、今後はミスや間違いを犯さないよう指導することを含む理性的な言動であり、部下を育てたいという愛情も含まれています。

それに対して、「怒る」とは、声を荒げてミスや間違いを犯した相手を責めたてることで、誰にもプラスにならない感情的な言動です。

なぜ、両者の違いに言及したかといえば、叱る気持ちが高ぶりすぎると、叱るのではなく、怒る状態に陥りやすいからです。

怒りは、部下を傷つけたり、部下から反感を買ったりする可能性が高く、部下を育てることにはつながりません。

また、マネジメントリーダー自身も、怒った後、後味の悪い思いをすることが多いはずです。

そのような事態を避けるには、自分の怒りをコントロールすることが求められます。

では、どうすれば怒りをコントロールできるのでしょうか。

[方法1]怒る前にひと呼吸あけるその方法のひとつは、怒る前にひと呼吸あけることです。

その間に深呼吸をしてもよいでしょう。

ひと呼吸あけて、高ぶる気持ちを静める、あるいは怒りのエネルギーを吐き出す時間をつくることで、理性的・客観的に対応するように自分を導くことができます。

そして、ミスをした部下に、「少し、感情的になりそうだ。

ちょっと整理して、後で話をしたい」と言えるようになれば、もう怒りをコントロールする上級者です。

そう言えること自体、客観的で冷静な姿勢を失っていませんし、部下も、なぜ怒られるのか反省する時間を持つことができるからです。

[方法2]怒りの〝地雷〟をつかんでおくもうひとつは、どういう事態に出合ったとき自分は怒りを爆発させるか、つまり怒りの〝地雷〟を把握しておくことです。

人は、自分や自分が親しくしている人に危険が迫ったとき、怒りの行動に出るといわれますが、より具体的に、自分はどういうことがあると怒りやすいかを把握しておくのです。

たとえば、挨拶がないと必要以上に怒ってしまうとか、会話を途中で遮られると激高す

るとか、自分が怒りやすい部下の言動を把握しておくわけです。

自分の〝地雷〟がわかっていれば、いざ、そういう事態に出合ったとき、「これは、まずいぞ」と怒りの爆発を予知しセーブすることができます。

また、人には、怒りの〝バイオリズム〟のようなものがあるので、どのくらいのペースで怒りが爆発するのか、客観的に把握しておくのも有効です。

たとえば、カレンダーに怒りを爆発させた日に印をつけてペースをつかんでおくと、「そろそろ怒っちゃいそうだな」と予測し、自分をコントロールしやすくなります。

[方法3]ストレートに怒りを相手に伝えるただ、ストレスへの抵抗力が弱いマネジメントリーダーは、怒りをため込んでしまうと、メンタル面の問題を引き起こす可能性も出てきます。

そういうマネジメントリーダーは、いっそのこと怒りを出したほうがよいでしょう。

たとえば、「私は、今、怒ってるんだぞ」「はらわたが煮えくり返ってるんだ」と自分が怒っていることを相手にストレートに伝えるのです。

当然、部下には怒っていることが伝わります。

ただ、声を荒げて部下を責めているわけではないので、部下の感情的な対応を抑えることができます。

もちろん、怒りっぱなしにするのではなく、後で、どうして怒ったのかを検証し、怒った部下にその理由を冷静に説明し、今後は気をつけるように伝えればよいでしょう。

いずれにしても、怒りのコントロールはむずかしいものです。

ただ、以上ご紹介した方法を積み重ねていくことで、怒りを抑える確率を高めることができます。

08部下同士の〝ケンカ〟を解消する

新人正社員とアルバイトが大ゲンカ!

ディズニーの職場には、よい人間関係が根づいていると前述しました。

しかし、キャスト同士がいつも友好的な関係を保っているとは限りません。

特にディズニーの場合は、血気盛んな若いキャストが何千人もいるのですから、キャスト同士が対立することも少なくありません。

実は、私も、マネジメントリーダーとして、部下同士の対立に直面したことがあります。

私がジャングルクルーズのワーキングリードをしていたときのことです。

前述したように、ディズニーでは、新人正社員は入社後3~5年間、現場研修を受けます。

その間、正社員は、アルバイトから業務内容や方法について指導してもらいます。

あるとき、指導を受けていた新人正社員と指導していたアルバイトが、今にもとっくみ合いのケンカになりそうな騒ぎを起こしました。

アルバイトの指導を受けてばかりで業を煮やした新人正社員が、アルバイトに向かって「オレは、正社員なんだよ!」と口走ったのが発端でした。

新人正社員を担当するのは、経験年数の長いリーダー格のアルバイトですから、当然、業務に対する知識も深ければ誇りも持っています。

そこで、「なんだと!」となってしまったわけです。

このとき、私がディズニーのマネジメントリーダーとしてどう対応したかを、ご紹介しましょう。

ケンカ状態を解消する3つのステップ

[ステップ1]ケンカの原因をつくったキャストと1対1で話すケンカの原因をつくったのは、あきらかに新人正社員でした。

そこで私は、「最初にケンカをふっかけたのは、お前だろ。

しかも『オレは正社員だ』と差別的な言葉を口にしたんだよ。

自分が間違っているとは思わないのか」と言いました。

彼は胸中反発していたのかもしれませんが、「わかりました。

僕が、間違っていました」と言い、私の言うことに納得してくれました。

その言葉を聞いて私は、「お前だって、オリエンタルランドで働いてるんだろ。

オレたちがメシが食えるのは、アルバイトのキャストたちが頑張ってくれてるからだろう。

アルバイトのキャストたちと仲良くしろよ。

お前も、いずれリーダーになるんだから」と続けました。

そのとき私は「アルバイトのキャストに謝れ」とは言いませんでした。

頭ごなしに「謝

れ」と言うと、たとえ謝ったとしても当事者間に遺恨が残ると考えたからです。

私は「自分の気持ちを正直に、アルバイトのキャストに伝えなさい」とだけ言っておきました。

後日、私は、マネジメントリーダーとして、対立した当事者同士が話し合うための時間をつくりました。

そして、2人にじっくりと話し合ってもらいました。

後で私は、新人正社員が自分のほうからアルバイトに謝ったと聞きました。

[ステップ2]2人のポジションを離し、徐々に近づけていくその次に私がとった行動は、2人のポジションを離しておくことです。

たしかに2人で話し合いを持ちましたが、お互いに気持ちの整理がスッキリついたとは思えなかったからです。

そして、時間をかけて徐々にポジションを近づけていくように2人を配置しました。

[ステップ3]1つのテーマについて一緒に考えさせるディズニーの各職場では、マネジメントリーダーが「楽しみながら技術力がアップできるようなイベントをしなさい」と、キャストに企画を任せることがあります。

たとえば、ジャングルクルーズであれば「礼儀正しさを徹底するキャンペーン」とか「ゲストから拍手をたくさんいただくキャンペーン」などのイベントをキャストが企画し、実践するわけです。

私は、このイベントを考えるメンバーに、対立した2人、さらに2、3人のキャストを選出し、「みんなで一緒に企画を考えなさい。

成功するのも失敗するのも、君たち次第だからな」と言って、そのための時間を捻出しました。

対立後ある程度時間を置いて、1つの目標達成のために協力し合う時間をつくることは大変有効です。

互いに集中して一生懸命考え、案を出し合ううちに、仲間意識が生まれ、チームワークもよくなっていきます。

このときも、2人の間にあった〝わだかまり〟は、いつの間にか消えていきました。

後日、私は、2人を飲みに誘い、和解の総仕上げの機会を設けました。

ちなみに、「オン」と「オフ」の切り替えを徹底して指導するディズニーの場合、キャスト同士の対立がゲストへのサービス低下につながることはありません。

09他部署と〝ケンカ〟する

ディズニーでは小雨が降ると2つの部署が〝ケンカ〟する

一般に、東京ディズニーランドというと、キャストや職場に一体感があり、お互いの間で何の対立もないと受け止められがちです。

たしかに、「すべてのゲストにハピネスを提供する」というディズニーのミッションを達成するために全キャストが一丸となり、一生懸命努力しています。

しかし、であればこそ、対立が生まれるケースがあります。

たとえば、運営部には、オンステージ上でショーがある場合など、運営全般を管理する責任があります。

つまり、ゲストが満足しているかどうかを確認したり、ゲストの入場や退出を誘導したり、座席を管理したりする責任があります。

一方、エンターテイメント部には、オンステージのショーイベントやパレードを完璧に提供する責任があります。

霧のような小雨がショーの始まる前に降り出したときなど、この2つの部署が対立することがあります。

小雨が降り出すと、「オップスワン」と呼ばれる運営部の現場の最高責任者と、「エンターテイメントワン」と呼ばれるエンターテイメント部の現場の最高責任者が、ショーを通常どおり実行するかどうかについて協議をします。

そのとき、オップスワンは、ショー時間中の天気予報を調べて「天気予報ではやむと言っているので、ショーを始めよう」と主張します。

せっかく楽しみにしているゲストの期待になんとか応えたいと願っての主張です。

それに対して、エンターテイメントワンは、ダンサーやキャラクターが滑って転ぶリスクもあるし、ショーのレベルを低下させればゲストを失望させることになるので、「今回は中止しよう」と主張し、両者が対立するようなことがあります。

両者とも、それぞれの部の立場から、キャストやゲストのためを思っての対立です。

ただ、対立したままでは困るので、どちらかの主張を通すことになります。

基準が明記されているわけではありませんが、オップスワンの意見が通ることが多いようです。

もちろん運営部のキャストは、できるだけ多くのキャストを集めて舞台上の雑巾がけをしたり、カストーディアルから温風器を借りてきて温風で乾かしたり、最善を尽くします。

〝ケンカ〟でもディズニー哲学を伝える

ディズニーでこのような対立が生まれるのも、裏を返せばそれだけ風通しがよいからです。

ディズニーにおける〝ケンカ〟とは、ゲスト、キャスト、組織のために、よりよいものを導き出そうと互いの考えをぶつけ合い切磋琢磨する行為ともいえるでしょう。

ただ、マネジメントリーダーには、ギリギリまで相手を説得する、しかし、引くときは引くという柔軟性も求められます。

でないと、意地の張り合いになってしまい、いつまでたっても〝ケンカ〟が終わりません。

いずれにしても、このような〝ケンカ〟ができるからこそ、30年間、ショーのレベルを維持できたといっても過言ではないでしょう。

一方、部下のキャストは、このようなマネジメントリーダーの後ろ姿を必ず見ているものです。

そして、ゲストを大切にする姿勢、ディズニー哲学を貫く姿勢、全力を尽くす姿勢、キャストを信じ認める姿勢など、マネジメントリーダーの〝ケンカ〟からさまざまなことを学び取っています。

ディズニーには、「自分の役割を果たすために、自分を導く」というリーダーシップについての考え方があります。

つまり、マネジメントリーダーにはマネジメントリーダーの役割があり、その役割を自ら積極的に果たしていこうということです。

というのも、部下は、上司の背中を見ているからです。

上司であるマネジメントリーダーが自ら自分の役割をしっかりと果たしていれば、部下もまた、自分の役割をしっかりと果たすようになるからです。

CHAPTER3→「マネジメントリーダー力」で部下を伸ばす

01部下の力を活かす

キャストと共に考えるディズニーのリーダー

たとえば、ディズニーのショップに新しく着任したユニットマネージャーが、「レジ周りの商品配置は、ハンカチやポケットタオルのほうがいいと思うよ」と言ったとしましょう。

すると、即座に、そのキャストから、次のような答えが返ってくるはずです。

「それは、もう試しました。

今置いているストラップのほうが、売上や利益率がいいんです」ディズニーでは、マネジメントリーダーは、だいたい3~6年で異動を繰り返します。

その意味では、ディズニーのマネジメントリーダーは、技術的なメンテナンス部門などを除けば、スペシャリストというよりはゼネラリストに近いといえるでしょう。

だから、新しい職場に着任すれば、当然、そこで何年も経験を積んでいるアルバイトのキャストのほうが、作業的な分野に関しては圧倒的にくわしく、後輩に対しても強い影響力を持っています。

同時に、現場の人間関係などキャスト情報も詳細に把握しています。

もちろん、仕事に対する誇りも持っています。

ですから、マネジメントリーダーの発言の度が過ぎれば、「知ったかぶりをするのは、やめてください」と怒られかねません。

そこで、実際には、新しく着任したユニットマネージャーは、次のようにキャストに声をかけます。

「レジ周りの商品配置だけど、テーマ性が出ていていいね。

このテーマ性は壊さずに、もっと購入点数を増やすにはどうすればいいか、一緒に考えないか」ディズニーのマネジメントリーダーは、アルバイトたちの作業分野のレベルの高さを知っており、そんなアルバイトたちをリスペクトしています。

ですから、部下のキャストに対して一方的に自分の考えを押しつけることはありません。

ディズニーのマネジメントリーダーは、キャストの力を活かそう、もっと引き出してあげようとします。

自分流を押しつけない

マネジメントリーダーのなかには、自分1人で前面に立とうとする人がいます。

自分で何にでも顔を突っ込む〝プレイングマネージャー型〟のマネジメントリーダーが少なくありません。

たとえば、以前の職場や分野で大きな成果を上げていたからと、新しい職場や分野で

も、自分流を押しつけようとするマネジメントリーダーがいます。

しかし、前の職場や分野で成功しても、新しい職場や分野で成功するとは限りません。

場合によっては、部下の能力を殺す結果にもなりかねず、職場の雰囲気も悪くなります。

また、なかには、大口のクライアントだけを、自分1人で担当するようなマネジメントリーダーも見受けられます。

これでは職場の雰囲気が悪くなりますし、部下の信頼を得ることもむずかしいでしょう。

このようなマネジメントリーダーのいる職場では、部下のモチベーションが低下し、退職率が上がります。

その結果、新人の研修やトレーニングを繰り返すことになって戦力ダウンは避けられず、短期間であればなんとか現状を維持することはできるかもしれませんが、組織の特に中・長期的な成長を阻む要因になってしまいます。

02部下への対応を改善する

対応を変えたとたん、キャストの行動が変わった

私がディズニー在籍当時、後輩のマネジメントリーダーから相談を持ちかけられたことがあります。

「部下のキャストから、積極的な意見がほとんど出ない」というのです。

ディズニーでは、珍しいケースです。

その原因として、私が思い当たったのは、彼には、「頭ごなし」といえば言いすぎですが、キャストの言うことを十分聞く前に自分の意見を主張する傾向があることでした。

そこで、私は、彼にこんなアドバイスをしました。

「自分の意見を言う前に、1回、深呼吸をしようよ。

そして、自分の気持ちを落ち着けよう」彼は「うんうん」とうなずきながら聞いていました。

数カ月後、彼はニコニコしながら、私にこう報告してくれました。

「深呼吸で、冷静になれるようになったよ。

キャストの話も聞けるようになって、キャストも自分の意見を少しずつ言ってくれるようになってきたんだ」つまり、彼が意識的に部下への対応の仕方を変えたことで、彼に対する部下の接し方も変わったのです。

部下への対応を改善するのはカンタン!

前の事例と関連するレビン(K.Lewin)という社会心理学者が説いた「行動力学の法則」をご紹介しましょう。

それは、行動(B=Behavior)、性格(P=Personality)環境(E=Environment)には相関関係があり、「B=f(P・E)」という式で表すことができるというものです(次図参照)。

むずかしくなるので詳細は省きますが、要は、人の行動(B)は、自分の性格(P)・取り巻く環境(E)によって決まるということです。

たとえば、前の事例では、マネジメントリーダーの対応が変わった、つまり行動が変わったことにより、キャストの行動が変わった、つまり、それまで消極的だった行動が、積極的な行動へと変わりました。

つまり、マネジメントリーダーは、部下から見れば環境に該当するので、マネジメントリーダーが行動を改善すれば部下の環境に変化を与え、その結果、部下の行動や人格に影響を与えるということです。

言葉を換えれば、マネジメントリーダーが部下への対応をよい方向に変えることで、部下の行動をよい方向に変える、すなわち部下の力を伸ばしていくことができるということです。

というと、「部下への対応をよい方向に変えるって、どうすればいいの?」と思われるマネジメントリーダーも多いことでしょう。

しかし、何もむずかしく考える必要はありません。

たとえば、次のような簡単なことから始めればよいのです。

●「自分は厳しすぎるな」と思う人発言の前に深呼吸する

●「自分は部下に甘いな」と思う人「~すべき」という言葉を入れる

●「冷たいな」と思われている人笑顔を意識して出す

●「自分本位だな」と思っている人人の意見に「はい」「なるほど……」という相づちを頻繁に入れてみたり、意見にうなずいてみたりする

●「いつもガマン」している人・「人の言うことをいつも聞き入れて」しまう人

●いつもの倍の声を出す。

または意見に「私は……」という言葉を入れてみるこれだけでも、部下は敏感にマネジメントリーダーの対応の変化、つまり環境の変化に気づくはずです。

もちろん、よい方向への環境の変化ですから、部下の行動にも好影響を及ぼします。

ぜひトライしてみてください。

「大丈夫だよ。いちばん責任を感じてるのは、お前だろ」私は、ジャングルクルーズでワーキングリードという現場の責任者をしていた頃、一度だけ遅刻したことがあります。

ジャングルクルーズのワーキングリードは、午前9時開園であれば(日によって開園時間が異なります)、その1時間半前の7時半までには出社することになっていました。

そして、オフィスのカギなど備品の準備、船の修理状態など前日からの連絡事項の確認、当日の天候、団体客数、予想入園者数、イベント商品の販売状況などの情報の収集、メンテナンスやカストーディアルの責任者との調整など、開園の準備業務を行います。

当然、ワーキングリードがいなければ、さまざまな問題が発生することになり、私もそれは十分自覚していました。

ですから、前夜どんなに深酒をしても、私は一度も遅刻したことがありませんでした。

ところが、その日に限って、朝目覚めて時計を見ると、午前7時半の出社にはとうてい間に合いそうもない時刻。

完全なる朝寝坊で「ゾッ」としましたが、深呼吸をしてなんとか冷静になろうと努めました。

そして、すぐに「すみません、30分ほど遅れます」と連絡を入れ、大急ぎで会社に向かいました。

会社に到着し、すぐにオンステージ用のコスチュームに着替え、オンステージに入ろうとしたまさにそのとき、ジャングルクルーズのあるアドベンチャーランドとウエスタンランドの責任者であるスーパーバイザーに、バッタリ会ってしまったのです。

当然、きついお叱りを覚悟してギョッとしましたが、「すみません。遅れてしまいました」と、私は、なんとか言葉を絞り出しました。

すると、彼は、遅れた理由も聞かず、開口一番、「大丈夫だよ。いちばん責任を感じてるのは、お前だろ」と言ってくれたのです。

予想外の言葉に、私は驚きました。

同時に、「この人は、ほんとに私のことをわかってくれている」と実感し、「よし、頑張らなきゃ!」という気持ちに切り替えることができました。

私は、この体験を通じて、あきらかに責任を感じ反省している部下を、あえて叱る必要はないこと、逆に、部下の気持ちに寄り添うことで、部下の責任感はより強まることを学びました。

今でも、遅刻の夢を見るのは、このときの体験が私の脳裏に深く刻まれているからでしょう。

「やっぱり、カヌーは疲れるんだね。頑張ってくれて、ありがとう」私には、もうひとつ似た体験があります。

私がカヌーに配属されていた頃の体験で、これまた眠りにまつわるものです。

当時、カヌーのキャストは、半坪ほどの木製の小屋をオフィスとして事務処理などの仕事に利用していました。

あるとき、オンステージでの仕事の合間にそのオフィスに立ち寄った際、私は、不覚にも眠り込んでしまったのです。

──そして突然、後方のドアが開く音がし、びっくりして目を覚ましました。

振り返ると、なんと専務が立っているではありませんか。

背筋に悪寒が走りました。

ところが、次の瞬間、専務は、「やっぱり、カヌーは疲れるんだね。

頑張ってくれて、ありがとう」とひと声かけただけで、ドアを閉めオフィスから出ていきました。

私は、しばらくの間、何も考えることができず呆然としていました。

そして、私は、ガックリと頭を垂れ、思いました。

「オレの人生、これで終わったな……」と。

私はこの出来事を直属の上司になかなか言うことができませんでした。

しかし、次第に不安になり、ある日、私は上司に、おそるおそることの顚末を話しました。

すると、上司は、「そんな話、全然聞いてないよ。

専務はそんなこと、人には言わないよ」と言うのでした。

私の胸に専務に対する熱い思いが湧き上がったことはいうまでもありません。

ただ、その後、その上司にきつく叱られてしまいましたが……。

私は、このときも、マネジメントリーダーは、部下の気持ちに寄り添い、部下のことを理解しなければならないと実感しました。

マネジメントリーダーが、このような姿勢でいれば、部下は必ず信頼し、ついてきてくれるはずです。

もちろん、部下の仕事に対するモチベーションも上がるはずです。

ただし、ディズニーでも、ほかの組織と同じように、同じ失敗を繰り返せば厳しく叱られることはいうまでもないでしょう。

エレクトリカルパレードの誘導法を考案したのはキャスト!東京ディズニーランドでエレクトリカルパレードが始まったのは、オープンして3年目の1985年のことです。

もちろん、アメリカのディズニーランドから導入したのですが、問題がありました。

ゲストを誘導する方法が、アメリカの場合、非常に大ざっぱだったのです。

たとえば、アメリカでは、パレードが通行するところと観客席が明確に分かれていませんでした。

そのため、ゲストはパレードが始まる前にパレードのルート上にどっと集まり、パレードが始まるとパレードのルートをあけるために動きながら見物し、パレードが終了すると八方に解散していきました。

明確な指示・表示に慣れた日本人の場合、アメリカと同じようにすると混乱が予想され、ケガをするゲストが出る可能性もありました。

そこで、日本人のゲストを安全に誘導する方法を考え出そうということになったのです。

その方法を考えるミーティングの中心となったのが、運営部のキャストたちです。

キャストが中心となって、ロープを通行ルートに張ることを提案したり、ロープをどのように、いつ張るか、いつ撤収するのが安全か、ロープはどのくらいの圧力に耐えられるかなど、整備部の協力を得て検証したりして、アメリカの誘導方法を改善していきました。

キャストが参画するメリット東京ディズニーランドのエレクトリカルパレードの誘導法や、そのとき用いられた用具類のほとんどは、一般正社員やアルバイトたちによって考案されつくられたものです。

その後の改善も、彼らが主体となって行われたといってよいでしょう。

①キャストを参画させる、②企画立案段階から参画させるメリットをまとめると、次図のようになります。

積極的に提案するディズニーのキャストたちディズニーでは、「意見や提案は大いにしてください」と推奨しており、キャストから新商品や新メニュー、新しいナレーション案など多くの企画が提案されます。

ただし、提案したことを自分勝手に実行に移すことはできません。

必ずルール化してから実行に移されます。

提案のルール化は、「①安全→②礼儀正しさ→③ショー→④効率」というディズニーの行動の優先順位の規定にもとづいて行われます。

提案を受容する3つのステップ提案したキャストのなかには、「すぐにでも自分のやり方を実践したほうが効率的なのに」と言うキャストもいます。

たとえば、キャストから、「パレードルートを確保するロープ張りがなくても、ゲストの安全は保たれるのではないでしょうか。

アメリカでもそうしていると聞いています」という意見が出たとしましょう。

このキャストへの対応を通じて、ディズニーでは、どのような手順で提案を受容するかを見ていきましょう。

[ステップ1]提案に感謝するキャストから提案が出た場合、ディズニーのマネジメントリーダーは、まず「提案をありがとう」と「感謝」の言葉を述べます。

[ステップ2]提案内容を検証するディズニーのマネジメントリーダーは、提案に感謝した後、次のように続けます。

「どうしてこのようなコントロールの方法をしているのか、話を聞いてくれるかな。

パレードを始めるとき、当然アメリカの方法は知っていたけれど、日本人が明確な指示や表示に慣れていることなどから、『ここはパレードルートですよ』とゲストにはっきりわかるほうが安全に誘導しやすいと考えたんだ。

ほかにもいろいろ考えたよ。

早くからパレードルートで待たれると、ほかのゲストの通行の妨げになり、安全面でも問題があるから、待ち始めてもよい時間を設定したり、車椅子を利用しているゲストとそのご家族のために、専用の鑑賞エリアを設けたりしたんだ。

ルートの反対側に通行されるゲストのためにクロスオーバー(パレードルートを横断する通行路)を設けたのも、すべて最優先すべき安全のためなんだ。

ステージショーでの椅子席の導入や、ステージショーの抽選システムも同じように安全

を第一に考えて決められたんだよ。

そして、その次に大事な礼儀正しさについて考えたんだよ。

たとえば、パレードルートの前列にいらっしゃるゲストにはシーティング(後ろのゲストが鑑賞できるように座ること)をお願いするとか。

それは、後ろの列のゲストへの礼儀正しさであり、後ろのゲストにもショー(行動優先順位の3番目)を楽しんでいただく配慮だよね」というように、キャストの提案について検証し、問題点があれば、その理由を説明します。

[ステップ3]提案を受容する次に、「その上で、あなたが提案してくれた行動優先順位が4番目の効率を考えていこうよ。

決して、この提案を受け容れないわけではないんだ。

どうやったら提案した方法が実行できるか、一緒に考えてみよう」とキャストの提案を「受容」します。

このように、ディズニーのマネジメントリーダーは、キャストの提案に対して、まず「感謝」して、ディズニーの行動の優先順位を押さえながら、過去の経緯や理由を説明し検証します。

決して一方的に却下せず、その提案を受け入れる「受容」というステップを踏むよう心がけています。

「部下に十分な時間を与えなければ損をする!」ディズニーのマネジメントリーダーは、キャストが計画を練ったり、目標を立てたりするときは、その時間を確保するために上司に相談し許可をとります。

このとき、マネジメントリーダーは、キャストたちが、きちんと計画や目標を立てられるよう、できるだけ多くの時間を捻出しようとします。

実際のところ、十分な時間をとることはなかなかむずかしいのですが、決して中途半端な時間にならないよう配慮します。

いうまでもなく、時間はコストです。

あまりにも時間が短いと結局、何も決まらずコストだけを費やすことになりかねません。

それよりは、しっかり時間を与えてきちんと計画や目標を立てさせたほうが、かけたコストが生きる、つまり、有益なコストになります。

だから、ディズニーのマネジメントリーダーは、キャストのミーティングにできるだけ十分な時間を与えようとするのです。

ミーティングを支援するときのポイント時間をより有効に活用するための支援も、ディズニーのマネジメントリーダーに課せられた大切な役割です。

たとえば、アルバイトたちだけでは、ミーティングを進めることがむずかしいケースがあります。

ここでは、商品販売部の「アルバイトからアイデアを求めるミーティング」のケースについて見ていきましょう。

ユニットマネージャーが、このミーティングをアルバイトたちだけで進めるのはむずかしいと判断した場合は、ミーティングの進め方の上手な部下のスーパーバイザーを選んで、次のようにアドバイスし、ミーティングに同席させます。

「まずは、全体の意見をできる限り聞くこと。

熱心に聞いてもらっているというので、キャストのミーティングへの参画意識が高まるからね。

その後、出た意見をまとめること。

まとめるときは、反対意見も肯定的にとらえ、何か問題が生じたときは、その反対意見も参考にすると伝えること。

意見をまとめたら、それをより具体的にするため、そのまとめた意見に関してさらにいろいろな意見を聞くこと。

そして、また、まとめる。

そして、また、より具体的な意見を出してもらうこと。

アイデアを求める会議は、〝拡散→集約→拡散→集約〟の繰り返しだよ」もちろん、ユニットマネージャーは、どのスーパーバイザーがミーティングを進めるのが得意か、部下のスーパーバイザーについてよく知っておくことが必要です。

失敗を財産に変えるディズニーのキャストディズニーのマネジメントリーダーが、キャストに十分な時間を与えて行動計画を立てさせ、それにもとづいて行動させたものの、よい成果が得られなかったというケースもあります。

ただ、よい成果が得られなかったとしても、マネジメントリーダーが精いっぱい努力して時間を捻出してくれた場合であれば、キャストは「マネジメントリーダーに申し訳ない」という気持ちを抱くでしょう。

また、キャストたちは、「どうして、うまくいかなかったんだろう」と素直に反省し、「どうすれば、うまくいくんだろう」と自分たちで改善点を考えます。

つまり、キャスト自ら失敗を〝財産〟に変えていきます。

ただ、失敗の責任は、マネジメントリーダーがとるべきです。

もし十分な時間を与えられていなければ、どうなるでしょう。

きちんとした計画が立てられないのはもちろん、「あんな短い時間しか与えられないんだもの」と十分な時間をくれなかったマネジメントリーダーへの不平・不満を口にする部下が出てくることも考えられます。

マネジメントリーダーは、部下のための時間を惜しんではなりません。

ミーティングに勇気を持って参画し考える部下のために、できる限りの時間を捻出してあげましょう。

ディズニーでは権限委譲が当たり前!ディズニーに限らず、すべての組織において、それぞれの社員にそれぞれの役割・業務が与えられています。

ここでいう「権限の委譲」とは、本来はマネジメントリーダーに与えられているはずの役割・業務を部下に任せることです。

もともと部下に与えられている役割・業務を、マネジメントリーダーが部下を指定して任す、つまり仕事を割り振るケースとは異なります。

ひと口に「権限を委譲する」といっても、マネジメントリーダーにとっては、なかなか勇気のいることです。

無責任と非難されるリスクもあれば、部下が失敗するリスクもあります。

一般的にいって、権限の委譲に二の足を踏むマネジメントリーダーが多いのも、当然といえば当然でしょう。

ところが、東京ディズニーランドでは、マネジメントリーダーが部下に権限を委譲するケースが少なくないのです。

たとえば、東京ディズニーランドのマネジメントリーダーには、次図のような権限が与えられています。

この図を参考に、マネジメントリーダーが部下に権限を委譲するケースについて見ていきましょう。

ところで、「ワンマンワンボイス」という考え方があります。

指示・命令系統が分散していれば、統率がとれず、組織がバラバラになってしまうので、指示・命令は1人の人間から発するべきだという考え方です。

たしかに、「ワンマンワンボイス」が理想ですが、たとえば東京ディズニーランドで2~3店舗の責任を任される商品販売部のユニットマネージャーは、部下に100~300人ものキャストを抱えています。

そのため、いつも自分1人ですべての指示・命令を出すことは不可能です。

そこで、どういう対策がとられるかといえば、自分の直近の部下で、1店舗単位の責任者であるスーパーバイザーにユニットマネージャー不在時の代行はもちろん、日別売上の責任などの仕事の権限を委譲します。

しかし、スーパーバイザーも、1人で70人前後のキャストを担当しており、すべての仕事を1人でこなすことは不可能です。

たとえば、70人のアルバイトの契約更新期間は平均3カ月です。

スーパーバイザーは、アルバイトの契約満了前までには、必ず30分以上の契約更新・人事考課のための面談をします。

1人のスーパーバイザーが1年で280回以上(70人×年4回)面談を行っている計算になります。

この例ひとつを見ても、スパーバイザーがすべての業務をこなすことは不可能だということがおわかりいただけるでしょう。

そこで、スーパーバイザーも、場合によっては、アルバイトリーダーにキャストの勤務スケジュールの作成やイベントの企画立案などの権限を委譲します。

なぜディズニーでは権限委譲がスムーズに行えるのか前述したように、権限委譲にはさまざまなリスクが伴います。

ですから権限委譲はむずかしいと考えるマネジメントリーダーがいても当然でしょう。

なぜ、そんなリスキーな権限委譲をディズニーのマネジメントリーダーは行うのでしょうか。

その理由のひとつは、前述したようにマネジメントリーダーが時と場合によっては権限委譲をしないと自分のほかの業務に支障を来すほど多くのキャストを部下に持っていることがあげられるでしょう。

しかし、もっと重要なのはマネジメントリーダーと部下との間に信頼関係があることです。

つまり、マネジメントリーダーは、この部下なら間違いなく自分に代わって役割を果たしてくれると考え、権限を委譲された部下はマネジメントリーダーの期待に応えるために最善を尽くしたいと考える関係ができているのです。

また、見方を変えれば権限を委譲できる人材を育てているということです。

一方、部下もマネジメントリーダーから権限を委譲され、その役割を果たすことで大き

な自信を得ることになり、自分の能力アップにつなげることができます。

仕事への士気が高まることはいうまでもありません。

もうひとつ忘れてならないのが、ディズニーでは、たとえ失敗しても、それを成長につなげようと考えることです。

つまり、ディズニーには失敗を必ずしもリスクとはとらえず、キャストを伸ばすチャンスととらえる風土があります。

以上のような理由で、ディズニーでは、マネジメントリーダーによる権限委譲が積極的に行われています。

それは、まさにディズニーの〝強み〟といえるでしょう。

ただし、ディズニーといえども、部下にすべての権限を委譲できるわけではありません。

当然、ユニットマネージャーでなければできないこともあります。

たとえば、組織の長期・中期計画に沿って予算を考慮した目標を立てる、商品開発をする、そのための予算を組む、あるいは、そのためにどのような人材が必要か、どのようにその人材を創るのかといった業務は、ユニットマネージャーとしての立場や能力がなければできません。

そういう権限まで部下に委譲しようとすれば、「無責任だ」と逆に部下の信頼を失うおそれがあるので注意しましょう。

部下に権限を委譲するときの3つのポイント前述したように、権限委譲には部下が自信を持ち実力を伸ばすというメリットがあります。

ですから、部下を伸ばすために意識的に権限を委譲してみることも必要になります。

ただし、権限を委譲するときは、次の3つのポイントを押さえておかないと、よい成果は得られないでしょう。

[ポイント1]積極的に仕事に取り組む部下に委譲するマネジメントリーダーが部下に権限を委譲すると、委譲された部下に次のような遂行責任と結果責任の2つが必ずつきまといます。

①委譲された権限にもとづいて行動・実行する(遂行責任)②その行動・実行した結果に対して責任を負う(結果責任)の2つです。

そのため、委譲される部下の反応が2つに分かれることがあります。

ひとつは、「オレにはムリムリ」「なぜオレがやらなきゃいけないんだ」という拒否的な反応、もうひとつは「よし、頑張るぞ」という肯定的な反応です。

いうまでもなく、前向きな後者の人間に権限を委譲したほうが、成果も大きくなるでしょう。

嫌々仕事をする人間よりは、積極的に仕事に取り組む人間のほうが、あきらかに生産性も高いはずです。

ただし、前述したように部下にやる気を持たせることもマネジメントリーダーの重要な

役割のひとつです。

そこで、やる気のない部下にあえて権限を委譲し、部下を育て伸ばすことも選択肢のひとつとして考えておくべきでしょう。

[ポイント2]好き嫌いで権限を委譲しないマネジメントリーダー自身は、やる気のある部下、能力のある部下に権限を委譲しているつもりでも、実際には、自分が相手にしやすい、あるいは好き嫌いで部下を選び、権限を委譲していることがあります。

こういう場合は、ほかの部下の反感を買い、職場内の空気が悪くなるので注意しましょう。

[ポイント3]部下の情報を積極的に収集するディズニーで権限委譲がよく行われる背景のひとつには、マネジメントリーダーが部下をよく知っていることがあります。

ディズニーのマネジメントリーダーが部下をよく知っているのは、もともと風通しのよい職場風土に加え、●ミーティングなどを通じてコミュニケーションを密にとっている●定期的に面談を行っている●日頃からよく相談にのっている●日常業務の様子を堂々とよく見ている●よく声かけをしているなど、部下のさまざまな情報を得る機会を数多く持っているからです。

ディズニーの例からもわかるように、権限委譲するには、権限委譲しても大丈夫な部下がいることが必要です。

言葉を換えれば、権限委譲できる人間が多い組織ほど、有能な人間が多いといえます。

当然、組織が成長する可能性も高くなります。

そのため、マネジメントリーダーには、部下が失敗を怖がらず、積極的にチャレンジできる環境をつくり、権限委譲できる人材を育てることが求められます。

ディズニーには失敗を未然に防ぐ「しくみ」がある

キャストも人間です。

気持ちが落ち込んでいたり、集中力が散漫になることもあります。

このようなときには、うっかりミス(失敗)を犯してしまいかねません。

当然、ゲストにハピネスを提供するためには、そういったミスを未然に防がなければいけません。

ミスを未然に防ぐには、日頃から、キャスト同士が声をかけ合ったり協力し合ったりするチームワークの維持・強化や技術レベルの向上に努める必要があります。

実は、それを実践しているのがディズニーのキャストたちなのです。

たとえば、ゲストパーキング(駐車場)のキャストは、1時間当たり2000台以上の車を誘導しなくてはなりません。

そのため、キャストのちょっとしたミスが事故につながり、ゲストの楽しい思い出を台無しにする可能性があります。

そこで、私が在籍した当時、ゲストパーキングのキャストたちは、ディズニーの行動の優先順位(101ページ参照(※こちらを参照))を踏まえたうえで、チームワークや作業技術のレベルを上げるためのコンテストを実施していました。

そのひとつに、軽トラを運転するキャスト、カラーコーン(通行する車を誘導する赤い円錐形の標識)を渡すキャスト、カラーコーンを置いていくキャストの3人が1組となり、カラーコーンのパーキングへの設置と回収を競うコンテストがありました。

車の速度、カラーコーンを渡すタイミング、カラーコーンが等間隔で置かれているかなどについて、安全・効率面を基準に審査されます。

軽トラックを走らせながら3人のキャストが連携しなくてはいけないので、当然チームワークを強化するトレーニングになります。

また、カラーコーンの設置・回収技術のレベルアップにもつながりますディズニーでは、このようなコンテストを通じて、作業の間違いを正したり、間違いや失敗を犯しやすい作業の改善にも役立てています。

実は、これらのコンテストはキャストが提案したものがほとんどです。

ディズニーのマネジメントリーダーは、キャストの提案を積極的に受容し活用しています。

まずは、このように失敗を未然に防ぐ「しくみ」をつくることが肝心です。

失敗した部下とその原因・改善策を考える

前述したようにディズニーには、ミスや失敗を未然に防ぐしくみがあります。

しかし、それらのしくみがすべてのケースをカバーできるわけではありません。

たとえばマネジメントリーダーは、うまくやってくれるだろうと思って権限委譲や業務の割り振りをするわけですが、うまくいかないケースも出てきます。

そこで、できて当たり前のようなケースは別ですが、もしかすると失敗するかもしれない「ストレッチ目標(ワンランク上の目標)」にトライさせるようなケースでは、マネジ

メントリーダーは、「この結果責任は私がとるから、頑張りなさい。

ただし、解決できない悩みが生じたら、すぐに相談しなさい」と部下に告げましょう。

すると、部下は、より積極的に任された仕事にトライすることができます。

また、「悩んだときは、マネジメントリーダーに相談しよう」という気持ちになり、安心感を持つこともできます。

そして、部下がよい成果をあげられなかったり、失敗したりした場合は、「なぜ失敗したのか」「どうすれば成功するか」を部下と共に考えましょう。

すると、部下は、「信頼してくれたマネジメントリーダーのために、次こそは、よい結果を出そう」「私を守ってくれているんだ。

次の機会も、細心かつ大胆にチャレンジしてみよう」と思います。

その姿勢が部下の成長につながることはいうまでもないでしょう。

また、このようにして育まれた部下との信頼関係は、生涯を通して継続するものです。

これほど、マネジメントリーダーにとって、というよりも1人の人間として喜ばしいことがあるでしょうか。

09部下のモチベーションを高める

正社員への道を拒み、アルバイトであり続けるキャストたち

東京ディズニーランドには、オープン前から現在まで勤務しているアルバイトのキャストが大勢います。

いうまでもなく、そのようなキャストは大変優秀です。

ゲストに対してはもちろん、後輩のキャストにも高いホスピタリティを持つことにより、後輩のキャストからも大変慕われています。

上司もそれを十分承知して、再三にわたり、正社員への登用試験を受けるように進言しています。

ただ、それでも彼らは、正社員になることを断ります。

「ゲストの笑顔と接していたい」「ゲストから〝ありがとう〟の言葉をいただける立場でいたい」「仲間(アルバイトキャスト)と一緒にディズニーを守りたい」「後輩の育つ姿を現場で見ていたい」という理由からです。

彼らの言葉に触れると、給料や名誉だけが仕事に対するモチベート(動機づけ)の要因ではないことを教えられます。

ポストやカネによるモチベーションは長続きしない

部下の仕事に対するモチベーションを継続させることは、マネジメントリーダーの大切な役割のひとつです。

この本でご紹介するほとんどすべてのことが、部下のモチベーションの維持、さらにはアップに役立つはずです。

ですから、「モチベーションを維持・アップさせるのはこれだ」とひと言でいうことはできませんが、モチベーションの維持やアップに必要な基本中の基本について、ここで整理しておきましょう。

部下のモチベーションを高める要因には、「外部的要因」と「内部的要因」の2つがあります。

外部的要因は、昇進や賃金、休日、環境、人間関係などです。

これに対して、内部的要因は、嬉しいという気持ち、やる気、達成感など、文字どおり心の中に湧き上がるものです。

ただ、2つに分けられるとはいうものの、この両者は密接に結びついています。

というのも、外部的要因が内部的要因と結びつくことによって、モチベーションが高まるものだからです。

たとえば、定期昇給は、「もうすぐ給料が上がるぞ。

よし頑張ろう」という内部的要因に結びつけることで、モチベーションをアップさせる効果があります。

ですから、ディズニーでも正社員だけでなく、アルバイトキャストへの昇給制度などに細心の注意を払います。

しかし、昇給や昇進も、その当初は嬉しくてモチベーションも上がりますが、時間が経つにつれ、嬉しさも薄れ、モチベーションも下がっていきます。

また、机や椅子、パソコンなどを新調しても、モチベーションアップが期待できるのは最初だけです。

つまり、外部的要因のなかでも昇給や昇格などによるモチベーションアップは、重要ではあるものの、一時的なことが多いのです。

人間関係がモチベーションを維持するカギ!

ただ、一時的な効果しか期待できない外部的要因のなかで例外がひとつあります。

それは、人間関係です。

たとえば、お互いに認める、褒めるといった人間関係は継続させることができます。

マネジメントリーダーが、部下の給料を簡単に上げることはできませんが、継続的に部下を認める、褒めることはできるはずです。

しかも、ストロークのところ(78ページ(※こちらを参照))でもご紹介したように、ストロークを繰り返せば繰り返すほどストロークの数が増えていく傾向があります。

当然、認められたり褒められたりすれば、人は誰でも嬉しく思い、モチベーションも上がり、そのようなストロークを継続して受ければ、モチベーションも高いまま維持されます。

よい人間関係が根づいた職場は変化に強い

ストロークを継続することにより、お互いを認め合うことができれば、当然、よい人間関係ができていき、やがて、それが職場の風土として根づいていきます。

それを実現させているのがディズニーです。

ディズニーのキャストがよく言います。

「理解してくれるリーダーや仲間と一緒にいたい」「リーダー、仲間からの期待に応えたい」ただ、人間関係がよいからといって、単なる仲良しクラブでは意味がありません。

仕事を通じてお互いを高め合うことのできるような、よい意味での人間関係の親密な職場では、当然、部下たちの仕事に対するモチベーションは上がり、生産性も高まります。

そして、最大のメリットは、よい人間関係が根づいた職場では、たとえ異動や退職でマネジメントリーダーが変わっても、たとえ大きな試練に見舞われても、社員の高いモチベーションや生産性が維持され続けることです。

その好例が、東京ディズニーランドにほかなりません。

たとえば、前述したように、30年以上の歴史のなかで東京ディズニーランドは何度も試練に見舞われてきました。

キャストレベルでいえば、アルバイトの時給が下がったこともありました。

当然、その間も、マネジメントリーダーは、3~6年で職場異動を繰り返してきました。

しかし、東京ディズニーランドのサービスレベルが落ちたことは一度もありません。

逆に、何か問題があればそのつど改善され、サービスレベルはさらにアップし続けています。

その理由はもうおわかりでしょう。

東京ディズニーランドの職場によい人間関係が風土として根づき、キャストのモチベーションが高いレベルで維持され続けているからです。

 

03「やる気が出るしくみ」をつくる

ディズニーの表彰は投票数では決まらない

「社員表彰制度」は社員のモチベーションを上げるうえで、大変有効です。

東京ディズニーリゾートにも「スピリット・オブ・東京ディズニーリゾート」という表彰制度があります。

ご存じの読者も多いことでしょう。

この表彰制度は、キャストが「頑張っている!素晴らしい!」と認めた同僚キャストの名前と、「ここが素晴らしい!」という内容のメッセージを記した専用シートを投票し、その投票結果にもとづいて選出されたキャストを表彰する制度です。

この表彰制度がユニークなのは、投票数の多さで表彰されるキャストが決定されるのではないことです。

むしろ、投票数よりも、メッセージの内容が重視され、メッセージの内容から「素晴らしい!」と選出委員会に認められたキャストが表彰されます。

選出されたキャストには「スピリット・アワードピン」と呼ばれる記念のピンが贈られます。

この制度により表彰されるキャストの人数は、年度により違いますが、300~500人程度です。

実は、この表彰人数にも〝ヒミツ〟があります。

表彰者が少なすぎると選ばれなかったキャストは「自分には関係ない」と思うし、多すぎると表彰の権威が落ちます。

「自分も頑張れば表彰されるかもしれない」と思える人数のキャストを表彰するよう気配りされているのです。

なかなか浸透しなかったディズニーの表彰制度

「スピリット・オブ・東京ディズニーリゾート」には、選考基準があります。

その選考基準と照らし合わせて、キャストが「素晴らしい!」と認めた同僚に票を入れます。

では、その選考基準がどのようにして決まるのか見ていきましょう。

まず、主としてキャストの教育を担当するユニバーシティ課が、東京ディズニーリゾート全体のゲスト向けのキャンペーン内容を全キャスト版に落とし込んだ目標をつくります。

次に、そこで決まった目標を各部の委員会に持っていき、自分たちの部に合った目標や活動方針に落とし込みます。

そして、それを、運営部であればそれぞれのアトラクション施設、たとえばジャングルクルーズやカヌーといったレベルにまで落とし込み、それぞれの施設に応じた目標や活動方針などを定めます。

たとえば、ユニバーシティ課でつくった全体目標が、「ゲストにワンランク上のハピネスを提供しよう!」であれば、運営部では自分たちの部門の特性に合った、「ゲストとの積極的な会話から感動を生み出そう」と一歩踏み込んだ目標にし、アトラクションでは、「自分の施設のバックグラウンドストーリーを積極的にお伝えしよう」などと目標を決めていきます。

そして、その目標や活動方針を基準に、キャストが「素晴らしい!」と認める同僚キャストを選び、メッセージを記して投票することになります。

ただ、今では、東京リゾートの内外を問わず、すっかり有名になったこの表彰制度も、最初の頃は、現場のアルバイトのキャストにはなかなか浸透しませんでした。

現場に浸透しなければ、いくら最も素晴らしいキャストとして表彰しても、「彼(彼女)は、すごいね」で終わってしまい、表彰されたキャストのモチベーションだけが上がる効果しか期待できません。

そこで、次のような対策が講じられました。

表彰制度を浸透させた3つの対策

[対策1]正社員だけだった委員会にアルバイトを参加させた前述の選考基準となる目標や活動方針などを部レベルで決める委員会は、最初は正社員で占められていましたが、キャスト全体になかなか浸透しないので、その構成をスーパーバイザー(正社員)とアルバイト2~3人の構成に変えることから改善策がスタートしました。

アルバイトも参画したことで、彼らの関心も高まりました。

[対策2]トレーナーに朝礼でキャンペーン内容(選考基準)を発表させたさらに、それぞれの職場の朝礼で、施設の目標や活動方針にもとづいてつくったキャンペーンの内容を発表してもらいました。

キャンペーン内容は、ディズニートレーナー(アルバイト)が考えるケースが多かったようですが、トレーナーはアルバイトのリーダー格でもあるので、みんなトレーナーの言うことには熱心に耳を傾けるようになりました。

[対策3]マネジメントリーダーがフォローし続けたマネジメントリーダーも、先頭に立って雰囲気を盛り上げたり、委員に選ばれたアルバイトに対して時間を惜しむことなく送り出したりしました。

それが、素晴らしいキャストとして選ばれる、あるいは素晴らしいキャストを選ぶことへのアルバイトの関心やモチベーションを高める大きな力になりました。

このような過程を経て、ようやく、最も優秀なキャストが自分たちの職場から選出された場合には、朝礼で紹介し、全キャストでお祝いするようになったのです。

全キャストに、この表彰制度が浸透するまで3年くらいかかりましたが、私が在籍した当時には、約1カ月ほどの投票期間にもかかわらず、延べ投票数が10万通以上にまで達しました。

さらに年々増えていったと聞きます。

このことこそ、まさに全キャストに「スピリット・オブ・東京ディズニーリゾート」という表彰制度が浸透していった証拠といってもよいでしょう。

表彰制度をつくるときの注意点

表彰制度をつくるときに、マネジメントリーダーは、次の点に注意する必要があります。

●全員が対象となるような表彰制度であること●一般の従業員もプロジェクトに参加させ、できる限り任せること●選考過程の透明性を高めること(どのように選出されるか公開すること。

特に人気投票ではないことを理解させることが重要です)ここで注意したいのは、特定部署の社員だけを対象にした表彰制度では、社員全体のモチベーションは上がらないということです。

たとえば後輩社員への指導ぶりが素晴らしい、ほかの社員へのサポートぶりが素晴らしいなど、営業利益的な成果だけを対象にするのではなく、すべての社員に共通する視点に立って表彰制度をつくる必要があります。

いずれにしても、表彰制度が浸透するまでには時間がかかるので、すぐに効果が出ることを期待せず、継続させることを前提に取り組むことが大切です。

その意味では、マネジメントリーダーには忍耐力も必要です。

04疎外感を抱かせない「情報のしくみ」をつくる

トップ情報もアルバイトに伝える

組織において部下が疎外感を感じないような、また、全員が知識として持ちお客様に提供できるような情報のしくみをつくることが大切です。

ディズニーでは、毎日15分、朝礼と終礼を勤務時間中に行います。

いずれも、キャストが情報を共有する大切な役目を果たしています。

たとえば、ディズニーには、オップスワン(運営部)、サムワン(保安関係)と呼ばれる各部の当日の現場の最高責任者がいます。

ただ、責任者といっても「人」をいうのではなく、「役」といったほうが正しいでしょう。

各部のユニットマネージャーの1人が、当日の現場の最高責任者である「ワン」役を務めるのです。

ですから、たとえば、運営部のユニットマネージャーには、オップスワンを務める人が複数います。

この「ワン」たちが集合して行う全体朝礼で得た情報を、各部の「ワン」は自分が所属する部に持ち帰り、まずスーパーバイザーに伝えます。

そして、スーパーバイザーが、その情報を各施設のキャストに伝えます。

ディズニーでは、このように情報を流すしくみが整備されています。

また、情報を伝達する際は、情報を受け取る側に自前の手帳を用意させ、必ずメモをとらせます。

いうまでもなく、情報のすべてをきちんと把握し、忘れないようにするためです。

1人のアルバイトの現場情報を全員で共有する

1人のアルバイトキャストが現場で得た情報も、朝礼や終礼を利用して、すべてのキャストに伝えられます。

マネジメントリーダーが重要と判断した情報は、すぐに同僚、そして、さらに上のマネジメントリーダーへ伝えられ、情報によっては経営陣まで伝えられます。

朝礼や終礼以外においても、たとえば、オフィスにはキャストが自由に情報を書き込めるノートなどが置かれ、キャストが自由に目を通し、情報を共有できるようになっています。

また、ゲストからよくある質問情報に関しても、キャストに朝礼を通じて伝えられ、すべての施設のキャストが共有しています。

ディズニーに限らず、マネジメントリーダーには、すべての部下が情報を共有するしくみをつくることが求められます。

退職する仲間の労をねぎらうキャストたち

ディズニーには、たくさんの学生アルバイトがいます。

卒業シーズンになると、多くの学生アルバイトがディズニーを退職していきます。

そのため、このシーズンには、多くの職場で、退職していく学生アルバイトに手作りの〝卒業証書〟や寄せ書きの色紙を贈るシーンが見られます。

オンステージやバックステージでキャスト同士が写真を撮ることは禁止されているので、なかには、休み日のキャストがゲストとして入園し、退職するキャストが働いているところを写真に納め、色紙の中央に貼ったり、朝礼のときなどに手渡したりしているようです。

私のいたジャングルクルーズでは、毎年、1月か2月に居酒屋で〝卒業式〟を開くのが慣例になっています。

〝卒業式〟にはOBも駆けつけ、身も心も温まる〝卒業式〟がにぎやかに挙行されます。

ある年には、海外勤務の先輩卒業生が、「ビデオレター」で後輩の卒業生の労をねぎらったこともありました。

また、この〝卒業式〟では、入社してから2カ月程度で退職するキャストであっても、10年以上働いて卒業するキャストと同様に卒業生として送り出します。

短い期間であっても、素晴らしいディズニーの思い出として、そのキャストの記憶に残ることでしょう。

05部下を「癒すしくみ」をつくる

部下にサービスを提供する方法

「部下に対するサービスのしくみ」というと、組織レベルの福利厚生の問題ととらえがちですが、どのマネジメントリーダーレベルでも、十分部下にサービスを提供することができます。

たとえば、疲れていそうな部下に多めの休憩時間をとらせる、あるいは、同じ仕事ばかりでは飽きるので、ときには違った仕事を担当させるなど、いろいろな方法が考えられます。

マネジメントリーダーが自分なりに考えて部下へのサービスを提供すれば、部下の心と体にもよい影響を与え、部下に感謝され信頼感も増すでしょう。

また、職場の人間関係をよくすることにもつながるでしょう。

もちろん、職場への帰属意識も強まり、生産性がアップする可能性もあります。

厳しさが〝売り〟のマネジメントリーダーも、ときには大いにサービス精神を発揮してください。

06今すぐ職場状況をチェックしよう!

問題点があれば、今すぐ改善しよう

最後に、部下のモチベーションと特に関係の深い226ページ(※こちらを参照)の項目についてチェックしてみましょう。

あなたの職場はどのような状態にあるでしょうか。

問題が多い職場のマネジメントリーダーは、できることからでよいので、今すぐ改善のために行動しましょう。

もちろん、この本でご紹介した点を踏まえて部下をリードすれば、より大きな成果を得られると信じています。

おわりに

「最近の若者は、コミュニケーションが苦手」と言う人がいます。

ただし、その部分だけがクローズアップされすぎているようです。

私がディズニーでの体験や、現在のコンサルタントの仕事などを通して感じるのは、上司や仲間と力を合わせて、何かを成し遂げる(協働して成果を出す)ことに関しては、若者のほうが中高年世代よりも優れていることです。

ただ、その力を引き出してあげるためには、マネジメントリーダーが部下個人に働きかけたり、力を合わせる場を創っていくことが必要です。

私が30年以上、ディズニーを見て、さらには自ら体験して思うのは、ディズニーはこの協働して成果を出すことに長けていることです。

さまざまなリーダーシップの考え方がありますが、この本では、まさに協働して成果を生み出すチームワークをリーダーがどう創るのかを、ディズニーでの実話を折り込み書き綴っています。

お金は大事です。

権力や名誉が大切な人もいるでしょう。

私は、この本をお読みいただいた方が、そのお金や権力、名誉などを得るために、この本の内容を実践していこうとお考えになってもいいと思っています。

なぜなら、この本の内容を実践することで、人と人が力を合わせ生み出す成果を体験したリーダーは、部下から感謝の言葉をもらったり、部下の生き生きとした仕事ぶりを見て、いずれ真の喜びを手にすると思うからです。

つまり、人からの〝信頼〟という最も貴重な財産を手に入れたことに気づき、人から信頼されることに力を注ぐようになると予想されるからです。

マネジメントリーダーであれば、拙著・第2弾『9割がバイトでも最高の感動が生まれるディズニーのホスピタリティ』でもご紹介したように、フロントラインのキャスト(最前線で働いているキャスト)個人のホスピタリティ能力を引き上げることが要求されます。

それとともに、仲間を結集させ最大限の成果を生み出すことも要求されます。

組織というより、自分が真の喜びを感じるために、マネジメントリーダー力を高めてください。

それが、組織、職場を強くさせることを信じて。

そうなることを願いながら、本書のまとめとさせていただきます。

最後に、この本の執筆中、鹿児島県の医療法人三愛会の川村理事長をはじめ、三愛会の

皆様に応援・フォローしていただいたことに感謝いたします。

ありがとうございました。

2013年9月吉日福島文二郎

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