PROLOGUE東京ディズニーランドが28年間愛され続けている理由
CHAPTER1予想外の感動を生み出す「ホスピタリティ」とは何か
01ホスピタリティとサービスは、どこが違うのか?
ホスピタリティとは「思いやり」のマインド
サービスは「義務的な作業」でしかない
ホスピタリティからつくられた〝しくみ〟がサービス
ホスピタリティはマニュアル化できない
02ホスピタリティには「一生懸命」さが必要不可欠
キャストがゲストに渡した〝手づくりのレインコート〟
「一生懸命取り組むこと」がホスピタリティの原点
03相手に直接接しなくてもホスピタリティは通じる
お客様は「接する人」だけを見ているわけではない
便器に名前をつけて清掃するカストーディアル
04「行動+スキル」がなければ相手は感動しない
料理を落としたゲストを感動させたキャスト
ホスピタリティは「行動」しなければ通じない
ホスピタリティは「スキル」がなければ通じない
05「ゲスト以外の人」にもホスピタリティをもつ
先輩、同僚、後輩にもホスピタリティをもつ
外部関係者にもホスピタリティをもつ
地域の人たちにもホスピタリティをもつ
すべての「人」にハピネスを提供する
06ホスピタリティが信頼を生み、人脈をつくる
ホスピタリティが「お客様の信頼」を呼ぶ
お客様に信頼されれば、組織・会社からも信頼される
信頼は「人脈」をつくる
07ホスピタリティが自分を成長させる
「お客様をもっと喜ばせたい!」という気持ちが高まる
「知識や技術をもっと伸ばしたい!」という気持ちが高まる
自ら積極的に学ぶキャストたち
CHAPTER2どんどん進化するディズニーのホスピタリティ
01つねに「自分の役割」を意識するキャストたち
「自分の役割」をわかっているか?
「ショーに命を吹き込むのはキャストたち」
02ディズニーでは「できない」とは考えない
逆光での写真撮影に挑む
キャスト大雪でクローズ。
でも一部を無料開放「できない」ではなく「何ができるか」を考える
03キャスト全員に情報を共有させる
バイトのトレーナーがつくる「レッスンプラン」
キャストの「ホスピタリティ体験」を共有する
04キャストが互いにフィードバックし合う
ディズニーの上司・先輩は、後輩をよく見ている
「はじめ」と「終わり」が効果的
05問題点を指摘し改善するディズニーの「修正力」
キャストが問題点の慢性化を防ぐ
「初演の気持ちを思い出して」と訴えるキャスト
「ゲスト」として入園してチェックするキャスト
06既存のルールを超える
キャストたち落とした指輪を小箱に入れてお返ししたキャスト
オリジナルの「おもてなし」を加えて迷子に接する
CHAPTER3ホスピタリティを育てるディズニーの「しくみ」
01ミッションと行動指針がホスピタリティの〝基礎〟
すべての人にハピネスを提供する──ディズニーのミッション
ホスピタリティの基礎となる「行動指針」──SCSE
「駐車場」にも反映されるSCSE
02ミッションとSCSEをどうやって教えるのか
繰り返し繰り返し伝える
すべてのツールに「思い」を込める
バイト同士が「基礎」を確認し合う
03「」
なぜアルバイトを「ユニバーシティ・リーダー」に育てるのか
ユニバーシティ・リーダーが後輩の手本になる
04自社の商品に〝誇り〟をもたせる
ウォルト・ディズニーの哲学を体感するキャストたち
ディズニーも他と同じように〝商品〟を扱っている
企画・開発担当者の「思い」を伝える
05働きがいのある職場のつくり方
職場を笑顔でいっぱいにする
キャスト1人ひとりがリーダーになる
上司・先輩が積極的にフォローする
イベントにも教育的な意味が込められている
06従業員満足度(ES)を高める
ESが低ければ顧客満足度(CS)を高めることはできない
ESとCSは自転車の両輪
CHAPTER4ホスピタリティを「伝える」ためのスキル
01ホスピタリティを伝えるために必要な7つのスキル
ホームパーティを開くとしたら?
お客様を「笑顔」「挨拶」「アイコンタクト」で迎える
TPOに合わせた「身だしなみ」とは?
ポイントは「スマートな応対」
02人は相手を「第一印象」で決める
第一印象が悪いとホスピタリティが通じない
第一印象をよくする4つのポイント
03ディズニーでは「いらっしゃいませ」と言わない
「いらっしゃいませ」では会話にならない
挨拶を職場に根づかせる
04笑顔で接すれば笑顔が返ってくる
「つくり笑顔でも素晴らしい可能性を秘めている」
自分の「素の表情」を確認しておこう
05アイコンタクトには「相手の存在を認める」効果がある
アイコンタクトがないと、相手は「無視されている」と感じる
アイコンタクトが苦手な人は?
06相手に好印象を与える3つの「言葉」
言葉は「使う」のではなく「遣う」
ディズニーでは「知りません」「できません」はNGワード
「ていねい語」と「婉曲話法」が基本
07話すときに気をつけたい3つのポイント
相手が聞きやすい話し方
08言葉をフォローするボディランゲージ
「表情」で話す
無意識のしぐさ・クセに注意する
パーソナル・スペースに入るときは声をかける
ボディタッチするときは要注意!
EPILOGUEW・ディズニーがめざしたホスピタリティ
あとがき参考文献カバーデザイン吉村朋子カバーイラスト神林美生本文デザイン高橋明香(おかっぱ製作所)
東京ディズニーランドが28年間愛され続けている理由
「光の中をパレードしているようだった……」2011年3月11日、千年に一度ともいわれる大地震が、東日本を襲いました。
東京ディズニーリゾートも大きく揺れました。
電車もすべて止まりました。
震災当日の東京ディズニーランドについては、後日、テレビをはじめさまざまなメディアが取り上げました。
そのなかで、最も強く私の心に残ったのが次のエピソードです。
当日、東京ディズニーランド内に、2万~3万人のお客様がとどまることを余儀なくされたといいます。
当然、従業員は、お客様への応対や、施設・建物の安全を点検・確認する作業に奔走したことでしょう。
──夜7時頃。
東京ディズニーランド内の屋外にいた1000人以上のお客様に、安全点検・確認作業が終了した東京ディズニーシーの施設内で夜を過ごしていただくことになったといいます。
ディズニーでは、ディズニーランド内のことを「オンステージ」、つまり舞台と考え、オンステージ上のすべてを「ショー」としてとらえています。
そして、ショーにたずさわるすべての従業員を「キャスト」、つまり出演者として位置づけ、お客様を「ゲスト」と呼びます。
また、ディズニーでは、ゲストの夢を壊さないために、オンステージ以外のエリア、つまり「バックステージ」がゲストの目に触れることはタブーとされています。
普段はディズニーのキャストしか見ることのできないエリアです。
そのキャストにしても、携帯電話のカメラで撮影することも許されない、文字どおり非公開が徹底されているエリアです。
にもかかわらず、東京ディズニーランド内のゲストの安全を第一に考え、東京ディズニーシーに移動してもらうために、バックステージを利用してもらうことになったのです。
これは東京ディズニーランド・オープン以来初めての事態でした。
バックステージに入るゲートの前には、キャストの誘導で、ゲストがズラリと並んだことでしょう。
やがて、ゲートの扉が静かに開けられました。
その瞬間、ゲストたちが目にしたのは……。
なんと、両サイドにキャストたちがズラリと並び、ゲストを誘導する道をつくっていたというのです。
キャストたちは、細長いライトを手に持ち、ゲストを誘導したそうです。
東京ディズニーシーまでの距離を考えれば、その光景が数百メートルにわたって続いていたことでしょう。
それは、まさに、キャストによって繰り広げられたショーといってもよい光景だったのではないでしょうか。
前述したように、バックステージにゲストを誘導したのは、ゲストの安全を第一に考えたからです。
ただ、震災のような非常事態にあっても、いや、そういう事態だからこそ、よりいっそう強く「ゲストの夢を壊したくない」と、東京ディズニーランドのキャストたちは思ったのかもしれません。
同時に、自分たちの仕事に対する誇りもあったはずです。
そのような東京ディズニーランドのキャストの思いが、まずゲストの安全を最優先する、そのうえで、バックステージでもショーをゲストに提供する。
言葉を換えれば、バックステージにオンステージをつくるという行動となって表れたのではないでしょうか。
そんな東京ディズニーランドのキャストの思いが、ゲストの心に通じたことはいうまでもないでしょう。
「小さな感動」を提供し続ける東京ディズニーランド東京ディズニーランドの魅力は何でしょうか?ミッキーマウス、ミニーマウスなどのキャラクター。
ジャングルクルーズ、カリブの海賊などのアトラクション。
パレード、花火などのイベントショー。
いつも、ピカピカに清掃され、芝生が緑に保たれ、花が美しく咲いていること。
いつも、キャストが、笑顔で迎えてくれること。
いつも、キャストが、温かいお見送りの言葉をかけてくれること。
数えあげれば、きりがありません。
そのディズニーのキャストが目標にしていること、それは、「すべてのゲストにハピネスを提供する」ということです。
実は、これが東京ディズニーランドのミッションなのです。
大震災直後においても、キャストたちは、このミッションを忘れていなかった、それが冒頭のエピソードにつながったともいえるでしょう。
このミッションを実現するために、キャストがいつも心がけていることがあります。
それは、「小さな感動をたくさんつくる」ということです。
「小さな感動をたくさんつくる」とは、「フレンドリーな笑顔で〝私〟を迎えてくれる」「パーク内が、本当にきれいだ」「ジャングルクルーズのお兄さんは、いつも本当におもしろい」といった「ハピネス」につながる印象や思いを、ゲストに抱いてもらうことです。
そして、ディズニーのキャストは、「小さな感動をつくるためには、自分の役割をきちんと果たさなければいけない」──そのことを固く守り抜いて、実践し続けています。
その背景に、経営陣、上司・先輩の教育やサポートがあることはいうまでもありません。
たとえば、遊園地や公園の水飲み場の水を飲むと、「生ぬるい!まずい!」と感じることがよくあります。
私が東京ディズニーランドにいた当時は、そういうことがないようにオープン前に水を一度出しておくようにしていました。
最初に水を口にされたゲストに「この水、冷たい!」という小さな感動を提供するためです。
アトラクションの責任者は、味見もして確認していました。
もちろん、キャストが手を抜いて、それを怠れば、最初に水を口にしたゲストは、不快な思いをされることになります。
しかし、そういうことは、100パーセントないとはいいませんが、ほとんどありませんでした。
キャストが誰ひとり手を抜こうとはしなかったからです。
ディズニーのキャストの姿勢は、いまも変わることがありません。
全員が自分の役割をしっかりと果たしています。
だからこそ、東京ディズニーランドの魅力が、開園して28年経たいまも変わらず維持され続けているのです。
だからこそ、98パーセントという高いリピート率、年間約1500万人もの入園者数を記録し続けているのです。
東京ディズニーシーと合わせれば、入園者数は年間約2500万人にも達します。
言葉を換えれば、まさにキャストによって、東京ディズニーランドの利益が生み出されている、ということです。
しかも、前著『9割がバイトでも最高のスタッフに育つディズニーの教え方』(中経出版)のタイトルにもなっているとおり、現場で働くキャスト(約2万人)の9割はアルバイトなのです。
キャストの思いやりが「予想外の感動」を生み出す私が、東京ディズニーランドでさまざまなショーやアトラクションなどを満喫し、帰宅の途についたときのことです。
エントランスを抜け、最寄り駅に向かっていて、ふと自宅のカギを紛失していることに気づいたのです。
私は、「まいったな、どこで落としたのだろう?見つからなかったら、どうしようか」と不安にかられました。
すると、そのとき、近くにいたディズニーのキャストが、私の落ち着かない態度に気が
つき、「こんばんは、お客様どうかなさったんですか」と声をかけてきました。
私が「自宅のカギをディズニーランドに落としたかもしれない」と告げると、彼は、私の名前や、カギの形状、いつ、どのあたりで落とした可能性が高いかを確認し、「少々お待ちください」と言って、無線で関係部署に連絡をとり始めました。
連絡をすますと、私に時間があるかを確認し、「イーストゲート・レセプション」と呼ばれるパーク外の総合案内所まで、私を案内してくれました。
その途中、彼は、私に「大変ですよねぇ。
見つかるといいですね」と、心配そうな表情で語りかけてくれました。
イーストゲート・レセプションに着くと、担当キャストが状況のすべてを知っていました。
そして、「お待ちしておりました、福島様。
このたびはカギをなくされたそうですね。
見つかると、いいですよね。
パーク内の遺失物センターに問い合わせたところ、まだ同じ形状のカギは届けられていないようです。
ただ、蒸気船マークトウェイン号というアトラクションに、似た形状のカギが届けられているとのことです」と、私に状況を説明してくれました。
つまり、すでに確認・手配をしてくれていたのです。
遺失物センターまで届けられるには時間がかかるということなので、私は直接、カギが届けられているという蒸気船マークトウェイン号まで行くことにしました。
蒸気船マークトウェイン号に着くと、入り口で出迎えてくれたキャストが私に言いました。
「福島様、お待ちしておりました。
少々お待ちください」そして、キャストがもってきたカギを見ると、間違いなく私のものでした。
キャストが声をあげました。
「そうですかー。
よかったですねぇ!」私も、そのキャストに、満面の笑みを浮かべて、「ありがとう!」と叫んでしまいました。
私はディズニーに籍を置いていたので、遺失物に関する手順がマニュアルで決められていることは知っています。
しかし、あまりにも見事な連携、チームワークのよさに、「素晴らしいな」と感動せずにはいられませんでした。
ただ、それ以上に、私を感動させたものがありました。
それは、彼らが、まるで自分のことのように、「大変ですよねぇ」と心配したり、「見つかるといいですね」と励ましたり、「よかったですねぇ!」と喜んだりしてくれたことでした。
これらの〝声かけ〟は、ルールで決められたものではありません。
彼らがカギを紛失した私の身になり、私を思いやる気持ちをもってくれたために、彼らの口から主体的に、かつ自然に出てきた言葉です。
実は、この「相手に対する主体的な思いやり」こそ、本書でご紹介するホスピタリティにほかなりません。
私は、このようなルールに定められていない、キャストのホスピタリティから発せられた言動によって生まれる感動を「予想外の感動」と呼んでいます。
予想外の感動を生むのは、ゲストのことを思っての言動なので、当然、ゲストは感激します。
感動も、より深いものになります。
私も、カギを落とした体験を通じて、そのことを実感しました。
ちょっとしたひと言が、とても温かく私の心に響きました。
以上は、キャストのゲストを思いやる心、ホスピタリティが、予想外の感動を生み出した私自身の体験談です。
東京ディズニーリゾートが、年間約2500万人もの入園者数を記録しているのは、小さな感動に加えて、このような予想外の感動を味わうゲストが多いからともいえるでしょう。
予想外の感動は「口コミ」で広がる予想外の感動は、人の心により強く残る、と前述しました。
そんな感動体験をした人は、どういう行動をとるでしょうか。
人は、その感動体験を自分ひとりの心の中にしまっておくことができなくなります。
つまり、誰かに、その感動体験を伝えようとします。
いわゆる「口コミ」です。
『顧客「不満足」度のつかみ方新版』(武田哲男著・PHP研究所)によれば、感動体験をした人は、その話を1人で1年間にだいたい5、6人くらいの人に伝えるといいます。
ですから、仮に5人で計算すると、5年後には3000人以上に感動秘話が伝わることになります。
その間、マスコミなどで取り上げられることがあれば、その数はさらに大きくなるでしょう。
しかも口コミが広がるにつれ、感動の話がどんどん大きくなる、スケールアップされていく傾向があるといわれています。
一方、人が「大きな不満足」を感じた場合には、前掲書によれば、1人の人が1年間に40~45人に伝えるといいます。
しかも、伝わるたびに不満足の内容が大きくなるといわれています。
一度お客様の信頼を失うと、取り戻すのは容易ではないというわけです。
ホスピタリティをもつ従業員が多い会社ほど強いいま、多くの会社・組織が、人口減少などの背景もあって、カスタマー・ロイヤルティ(CL=顧客忠誠)を高めリピート率をアップさせることで、業績を伸ばそうとしています。
わかりやすくいえば「お客様を囲い込もう」ということです。
カスタマー・ロイヤルティを高めるためによく行われているのが、会員制サービス・ポイントカード制度でしょう。
ポイントカードとは、ショップや会社などが、自社の商品やサービスを利用するたびに、お客様に一定のポイントを与え、お客様は、その獲得したポイントに応じて、そのショップや会社の用意したポイント・サービスを利用できるというしくみです。
たしかに、手軽で有効かもしれませんが、すぐに競合他社にマネをされてしまうという欠点があります。
最初に発行した会社の優位性は否定しません。
しかし、ポイントカードをつくっても、他社との差別化をはかるまでにはいたらず、お客様をつなぎ止め続けるのはなかなかむずかしいといわざるを得ないでしょう。
では、このような厳しい状況を打開するにはどうすればいいのでしょうか。
私は、そのカギは「人」にあると考えています。
たとえば、東京ディズニーランドが、顧客満足度(CustomerSatisfaction、以下「CS」といいます)も高く、カスタマー・ロイヤルティも高いのは、前述したように、キャストが自分の役割をきちんと果たすことで、たくさんの小さな感動をつくり、さらにホスピタリティをもつことで予想外の感動を生み出しているからです。
それが高いCSやリピート率につながっているわけです。
つまり、キャストがゲストの心をつかんでいるのです。
ただし、ホスピタリティやそこから生まれる言動を、あらかじめマニュアルで決めておくということは不可能です。
ホスピタリティは、人によってすべて異なるからです。
表現方法も異なります。
しかし、だからこそ、ホスピタリティをもつ従業員が多い組織ほど強いのです。
なぜなら、ほかの組織がマネをすることができないからです。
このような意味で、ホスピタリティをもった人材を育てることこそ、他社との差別化をはかり、自社の強みを発揮する究極の〝切り札〟ということができるでしょう。
ディズニーも他の会社も、同じように〝商品〟を扱っている私が研修をしていて、「ディズニーランドはショービジネスだから、わが社とは違う」と言われることが少なくありません。
しかし、次のように考えれば、ディズニーもほかの業種と変わらないことがおわかりいただけるのではないでしょうか。
それは「東京ディズニーランドもまた、ひとつの商品である」ということです。
ショップで売っている商品はもちろん、パーク内の各エリアやすべてのアトラクション、さらにはキャストのゲストへの接し方も、すべて「商品」なのです。
そして、メーカーの社員が、より品質のよい商品を開発するために努力するのと同じように、東京ディズニーランドのキャストも、ディズニーランドという商品をゲストにどうお見せするか、ゲストとどう接するか、アフターケアをどうするかなどについて、一生懸命考え、取り組み続けているのです。
そうして生まれたのが、自分の役割をきちんと果たすことで小さな感動をつくり出し、ホスピタリティをもってゲストに接しようという考え方です。
では、どうすれば、ホスピタリティを身につけることができるのでしょうか。
本書では、ホスピタリティを身につけるために必要なディズニーの考え方やしくみ、技術などをできるだけわかりやすく解説しました。
もちろん、あなたの職場・会社にも取り入れることができるはずです。
本書を読んで、ぜひ、あなたの職場・会社をホスピタリティでいっぱいにしてください。
CHAPTER1予想外の感動を生み出す「ホスピタリティ」とは何かホスピタリティはお客様に感動を与えるだけでなく、自分の成長にもつながります。
ホスピタリティのポイントをおさえましょう。
CHAPTER1予想外の感動を生み出す「ホスピタリティ」とは何か
01ホスピタリティとサービスは、どこが違うのか?
ホスピタリティとは「思いやり」のマインド
「ホスピタリティ(hospitality)」の語源は、ラテン語の「hospice(ホスピス)」です。
ホスピスとは、「客を保護する」という意味で、寺院が旅人を積極的に保護していたことに由来するといわれています。
日本語には「おもてなし」という美しい言葉がありますが、ホスピタリティに近い言葉だと思います。
また、ホスピタリティを生み出す考え方のことをホスピタリティ・マインドといい、「おもてなしの心」と訳すケースもあります。
しかし、本書では、よりわかりやすいように、ホスピタリティを、そのマインドも含めて「相手に対する主体的な思いやり」と定義して話を進めていくことにします。
「相手に対する主体的な思いやり」を、もっと具体的にいえば、「自ら相手の気持ちになって、相手の立場に立って、共に考えてあげる気持ち・心」のことです。
サービスは「義務的な作業」でしかない
ホスピタリティと混同しやすいのが、いわゆる「サービス」です。
実際「サービスとは、どこが違うの?」という疑問をもたれた方も多いのではないでしょうか。
同じもののように感じられるかもしれませんが、実はサービスとホスピタリティは全然違うものなのです。
サービスは、ラテン語の「奴隷」を意味する言葉が語源で、「~しなければいけない」というような義務を含んでいます。
平たくいえば、お客様に対して必ず履行・提供しなければいけないのがサービスです。
たとえば、どこの会社でも、マニュアルには、接客の手順などが規定されています。
これは、必ず履行しなければいけない、いわゆる作業レベルに属し、サービスということになります。
もちろんサービスは、お客様が不快な思いや不満を抱くことを防ぐためにも必要です。
ただ、サービス、言葉を換えればマニュアルでは、お客様に予想外の感動を生み出すことはむずかしいでしょう。
小さな感動を与えることはできても、予想外の感動にまではいたらないということです。
では、予想外の感動はどういうときに生まれるのでしょうか?もうおわかりですよね。
サービスをきっちりこなし、そのうえにホスピタリティがプラスされたときに初めて、お客様に予想外の感動を与えることができるわけです。
ただし、後述するようにマニュアルレベルでも一生懸命に取り組むことによって、お客
様に予想外の感動を与えるケースもあります。
ホスピタリティからつくられた〝しくみ〟がサービス
サービスとホスピタリティは意味が違うものの、とても近い関係にあります。
そもそもサービスとは、お客様へのホスピタリティをもとにつくられたものだからです。
「こうしてさしあげれば、お客様に喜んでもらえる」ということをもとにつくった〝しくみ〟がサービスなのです。
ただ、いったんサービスに組み込まれたホスピタリティはサービスであり、ホスピタリティとはいえません。
日常的に、かつ義務的に行うことになるからです。
しかし、「お客様のために、このサービスはもっとこうすればいいのでは」というホスピタリティによってサービスを改訂すれば、サービスのレベルがさらにアップしていくことになります。
くわしくは後述しますが、ディズニーではその傾向が強く、サービスやルール(マニュアル)もどんどん改善・向上していきます。
ホスピタリティはマニュアル化できない
プロローグでもご紹介した、私が東京ディズニーランド内でカギを落としたときのキャストの対応について、もう一度触れてみましょう。
あのとき、私がパーク内にカギを落としたということを知ったキャストの連携やチームワークのよさは、ルールどおりに的確に行動した結果として生まれたものでしょう。
もちろん、自分の役割をルールどおりにきちんと果たせず、長時間、私を待たせるようなことがあれば、私は、カギが見つかったとしても、スッキリとした気分にはなれなかったかもしれません。
マニュアルとは、もともと「お客様に不満をもたせない」ためにつくられた必ず守らなければいけないルールです。
もちろん、マニュアルをしっかりと的確に実践するディズニーのキャストは素晴らしいとしかいいようがありません。
マニュアルどおりに動かない従業員をたくさん抱えている組織も少なくないはずですから。
ホスピタリティはマニュアルで規定することができません。
結局は、キャスト1人ひとりが自分のホスピタリティを自分なりに表現することになります。
といっても、それは、必ずしもむずかしいことではありません。
カギを失くしたとき、私を案内してくれたキャスト、待ってくれていたキャストがすべて自分のホスピタリティを発揮し、一緒になって心配し、見つかったときは一緒になって笑顔いっぱいで喜んでくれました。
「たいへんですよねぇ」「見つかるといいですね」「そうですかー。
それはよかったですね!」と、私に声をかけてくれました。
つまり、みんながみんな、カギを落とした私の立場に立って、共に心配してくれたり、励ましてくれたり、喜んでくれたりしたのです。
そのキャストたちの姿に、私は、まさに予想外の感動を覚えたのです。
何も大げさな言動をとる必要はありません。
自分なりの心のこもった自然で素直な言動に、お客様は予想外の感動を覚えるものです。
02ホスピタリティには「一生懸命」さが必要不可欠
キャストがゲストに渡した〝手づくりのレインコート〟
2011年3月11日、東日本は大地震に見舞われました。
東京ディズニーランドも激しく揺れました。
地震直後、パーク内の施設が安全かどうか、点検する必要に迫られました。
その間、ゲストには、施設外に出て待機してもらわなければいけませんでした。
しかしあいにく外は雨。
しかも気温は10度を切る寒さでした。
雨具を用意していないゲストのなかには、寒さに体を震わせている人もいました。
そこで、あるショップのキャストが機転を利かせました。
商品を包む大きめのビニールの包材を切って、「もしよかったら、これをレインコートがわりに着てください」と寒そうにしているゲストに差し出したのです。
包材をかぶるのですから、ゲストのなかには気に入らないと思う方もいたかもしれません。
しかし、大半のゲストは、「ありがとう」と言って、包材でできたレインコートを身にまとってくれたといいます。
それはゲストが、「キャストは、いまできる精いっぱいのことをしてくれている」「私たちのことを、一生懸命考えてくれている」と理解してくれたからにほかなりません。
つまり、キャストのホスピタリティがゲストに通じたということです。
包材のレインコートは決して格好よいものではなかったでしょうが、キャストのホスピタリティに、多くのゲストが感動したことは間違いないでしょう。
「一生懸命取り組むこと」がホスピタリティの原点
私が研修でよくするお話があります。
それは、私が友人の家を訪問したときのことです。
私が友人宅の玄関のチャイムを鳴らすと、待ちわびていたかのように、玄関のドアが開き、奥さんと4、5歳くらいの女の子が迎え入れてくれました。
友人は、家にある分だけでは足りないかもしれないと、新たにお酒を買いに出かけてい
るとのことでした。
私が応接間に通され、ソファに座って友人を待っていると、入り口のドアを開けて、先ほどの女の子がニュッと顔を出しました。
私が、にっこり微笑むとスッと顔を隠して、いなくなりました。
しばらくすると、その女の子が、胸で押すようにしてドアを開けて、応接間の中に入ってきました。
見ると、両手で1本のウイスキーボトルを重そうに抱きかかえているではありませんか。
女の子は、「はい」と言って、私の前にボトルを置きました。
そして、それ以上は何も言わずにスタスタと応接間から出ていきました。
しかし、私には、「このお酒、飲んでね」という彼女の気持ちが十分に伝わってきました。
お父さんがお友達とお酒を飲むことを、お父さんかお母さんから聞いて知っていたのでしょう。
私を歓迎する気持ちが、その一生懸命にウイスキーボトルを運んできた姿から読みとれました。
そのとき、私はホスピタリティの原点を見たと思いました。
たとえば、相手のためを思ってしたことが、相手のニーズに合わないことがあります。
そういうとき、相手は、あまりいい気はしないでしょう。
ただ、一生懸命さは、相手に必ずといってよいほど通じるものです。
一生懸命であれば、たとえニーズに合わないことでも、相手は、「一生懸命やってくれているんだ」と、好意的にとらえてくれるものです。
それは、自分のしたことは相手のニーズに合わなかったかもしれませんが、自分のホスピタリティは通じた、ということです。
相手も感動するはずです。
逆に、一生懸命でなければ、たとえニーズに合っていてもホスピタリティは通じないものです。
もっといえば、一生懸命になれなければ、ホスピタリティがあるとはいえないでしょう。
一生懸命であること──これこそ、ホスピタリティの原点です。
03相手に直接接しなくてもホスピタリティは通じる
お客様は「接する人」だけを見ているわけではない
自分のホスピタリティが相手に通じたとき、相手は予想外の感動を覚えます。
というと直接、相手と接するケースのように思いがちですが、決してそうではありません。
たとえば、東京ディズニーランドでは多くのゲストが、・芝生がいつも緑に保たれている・窓ガラスに一点の曇りもない・トイレがピカピカに保たれているといった光景を見て感動します。
仮に、これらが汚れていたり不潔であったりすれば、ゲストは「気持ちが悪い」とか「きたない。
いやだな」と不快感を抱いてしまうでしょう。
リピーターも激減するに違いありません。
しかし、東京ディズニーランドでは、ゲストに感動すら与えているわけです。
ここでわかるのは、お客様を感動させるのは接客する人間に限らないということです。
いくらホスピタリティをもってお客様に接しても、オンステージそのものが不潔で汚れていれば、お客様に感動を与えることはむずかしいでしょう。
逆に、オンステージがどこも美しく清潔で輝いていれば、お客様に言葉で説明しなくても、感動を与えることができます。
なぜなら、お客様に「きれい」「美しい」だけではなく、そういう状態を生み出している従業員、キャストの「一生懸命さ」が伝わるからです。
たとえ、お客様の目に触れないところで仕事をしていても、お客様にホスピタリティを伝えることは十分可能なのです。
お客様が見ていないからといって手を抜くことは許されません。
たとえば、青々とした芝生や美しい花がつねに維持されているのは、日の昇る前から芝生や花などの状態を確認し、枯れているとその部分だけを切りとり、新しいものに植え替え続けている、バックステージ(裏方)で働いているキャストたちがいればこそです。
また、28年以上もパークが清潔に保たれ続けているのは、夜の清掃を担当するナイト・カストーディアルのキャストがいるからです。
ポップコーンを床に落としてもつい拾って食べてしまえるぐらい清潔なのは、このキャストたちのおかげです。
東京ディズニーランドのオンステージのような大きな枠組みに限らず、たとえば街中のショップであっても、商品の陳列風景や飾りつけなどに気を配っていると、お客様に好印象を与えることができるわけです。
便器に名前をつけて清掃するカストーディアル
私が、ナイト・カストーディアルでトレーニングを受けていたときに聞いた話です。
ナイト・カストーディアルのキャストたちは、なんとトイレの便器1つひとつに、たとえば、「ナンシー」とか「キャシー」といった人の名前をつけて清掃をしているというのです。
もちろん、手鏡をもって便器の縁の裏側までしっかり洗うなど、小さな感動を生み出すためのルールが細かく定められています。
ナイト・カストーディアルのキャストたちは、そのルールをしっかりと守ったうえで、さらに自分たちで、「ナンシーはきれいだが、キャシーはきたない」といったことがないように、愛情をもって一生懸命清掃に取り組んでいたのです。
ゲストに少しでも気持ちよく利用していただきたいという、キャストのホスピタリティがあればこその行動といえるでしょう。
04「行動+スキル」がなければ相手は感動しない
料理を落としたゲストを感動させたキャスト
「あ、しまった……」「あ~、どうしよう……」こんな不安な状態に陥ったとき、誰かのサポートで、まったく期待もしていなかったほど事態が好転したとなれば、人は、大きな感動に包まれやすいものです。
それこそ、気持ちが180度変わってしまうのですから、当然といえば当然でしょう。
それを物語る東京ディズニーランドのレストランでのエピソードがあります。
このレストランでは、自分で好きな料理を選んでトレイにのせてから、会計するというシステムが採用されていました。
あるゲストが、トレイの料理の会計をすませてテーブル席に向かおうとした直後、あやまってトレイの料理をひっくり返してしまったのです。
そのゲストは、大あわてで落とした料理を片づけようとしました。
すると、すぐにキャストがやって来て、「大丈夫ですか。
おケガをされたり、服が汚れたりしていませんか」「大丈夫ですよ。
あとは、私たちが片づけますから」と言って、そのゲストを別の場所に案内し、きれいに片づけてくれたといいます。
それだけでもゲストは、ほっとしたでしょう。
ところが、レシートが落ちていることに気づいたキャストが、そのレシートを拾って、「このレシートをちょっとお借りしていいですか」と言うなり、さっと料理の並ぶエリアに向かいました。
そして数分後、そのキャストが、ゲストが落とした料理とまったく同じ料理をトレイにのせて運んできてくれたというのです。
ゲストも、自分が落とした料理と同じものをキャストが運んできてくれることまでは予想していなかったのではないでしょうか。
ゲストが大きな感動に包まれたことは間違いないでしょう。
ホスピタリティは「行動」しなければ通じない
前の例は、キャストのホスピタリティあふれる行動にゲストが感動した話です。
ここで確認したいのは、「行動しなければゲストにホスピタリティを伝えることはできない」ということです。
というのも、ホスピタリティとは、「相手に対する主体的な思いやり」です。
人は他人の心のなかを見ることはできません。
ですから、ホスピタリティをもっているだけでは相手に通じないし、相手を感動させることもできません。
ホスピタリティが相手に通じるためには、行動に移すことが必要です。
その行動を通じて、初めてホスピタリティが相手に伝わります。
前のエピソードに登場したレストランのキャストは、まさに見事な行動を示したといえるでしょう。
ホスピタリティは「スキル」がなければ通じない
もうひとつ必要なのが、いわゆるスキル(知識や技術を使う能力)です。
たとえば、接客スキルなどのことです。
というのも、基本的な身だしなみや接遇マナーがきちんとしていると、相手の受ける第一印象がよく、こちらの気持ちや行動を素直に受け止めてもらうことができ、ホスピタリティも通じやすくなるからです。
逆に、身だしなみや接遇マナーに問題があれば、相手は「何、この人!?」と不快な印象を抱いてしまいます。
そうなると、こちらが、どんなにホスピタリティをもって接しようとしても、相手は、素直に受け止めてくれません。
まず、相手によい印象を与えること、そのために必要なスキルを身につけること、これが必須となります。
くわしくは「CHAPTER4」でご紹介します。
05「ゲスト以外の人」にもホスピタリティをもつ
先輩、同僚、後輩にもホスピタリティをもつ
いま、多くの職場で問題になっていることがあります。
たとえば、・「おはよう」と挨拶しても誰も返事をしない・上司や先輩が直接話さず、メールで注意したり叱ったりする・同僚が重い荷物をもっているのに、誰も手伝おうとしないといったシーンに見られるように、人間関係が希薄でコミュニケーションがうまくとれていないのです。
ひと言でいうと、「ストレスが多くて働きにくい職場」が増えているのです。
こういった職場に決定的に欠けているのが、職場のスタッフ間におけるホスピタリティです。
こういう職場では、笑顔が少ない、挨拶もろくに交わさないといった特長が見られます。
「CHAPTER4」でくわしく述べますが、笑顔や挨拶は、ホスピタリティに絶対に欠かせない条件です。
笑顔や明るい挨拶が、ホスピタリティを生み出すカギといってもよいでしょう。
ですから、ディズニーでは、笑顔や挨拶を徹底的に教え込まれます。
とにかく、最初は、不自然でもいいから笑顔で明るく挨拶を交わすように、上司や先輩がリードしていくことです。
すると、いつのまにか職場の空気も変わって、風通しがよくなっていきます。
職場にホスピタリティが徐々に浸透していきます。
ホスピタリティが職場に根づいてくると、そこで働く人間のモチベーションも上がり、働きがいも生まれてきます。
その結果、職場の生産性も上がっていくのです。
外部関係者にもホスピタリティをもつ
たとえば、自社で、ある商品を取り扱うとき、消費者への販売はもちろん、消費者に対する事前調査、問屋や運送会社の担当者との取引・交渉など、さまざまな場面で人と接することになります。
このとき、ホスピタリティを発揮することで、顧客の獲得はもちろん、外部業者との信頼関係の醸成など、多くのメリットが生まれます。
逆に、商品の販売だけを重視して、そこにいたる過程で出会う人々への対応をおろそかにすると、悪評がたったり、流通がスムーズに展開できなかったり、ビジネス上の損失につながる可能性もあります。
地域の人たちにもホスピタリティをもつ
会社・組織の立地する地域の人たちに対しても、ホスピタリティをもって接することが大切です。
その姿勢が、地域の人たちの支持を高め、「私たちの地域の会社・組織」という評価もいただけることにつながります。
それは、結果的に、会社・組織の価値を高めることになります。
私が在籍していた当時、ディズニーのキャストは、ボランティアで定期的にパークのある浦安の道路や公園を清掃していました。
地域の人々に対する〝感謝の思い〟を行動で表していたのです。
すべての「人」にハピネスを提供する
「すべてのゲストにハピネスを提供する」は、東京ディズニーランドのミッションですが、おそらくすべての「人」がハピネスを求めているのではないでしょうか。
誰もみな、幸せになりたいと願っているはずです。
その意味において、「すべての『人』にハピネスを提供する」というミッションは、東京ディズニーランドに限らず、すべての業種・業態に共通するといえるでしょう。
そのミッションを実現するためには、すべての人にホスピタリティをもって接する必要があります。
お客様、外部関係者、職場の上司・同僚、地域の人々……どんな相手であってもホスピタリティをもって接する人材をたくさんもつ会社・組織は、間違いなく強みを発揮するはずです。
06ホスピタリティが信頼を生み、人脈をつくる
ホスピタリティが「お客様の信頼」を呼ぶ
ホスピタリティをもってお客様に接することにより、・顧客満足度が上がる・カスタマー・ロイヤルティが上がる・リピート率が上がると前述しました。
そのため、ホスピタリティは、お客様や会社にはメリットがあるが、自分には何もメリットがないと思ってはいませんか。
そんなことはありません。
ここでは、ホスピタリティをもって接した個人にとって、どういうメリットが生まれるか、見ていきましょう。
たとえば、あなたが、お客様にホスピタリティをもって接し、好印象、あるいは感動を与えることができると、お客様は、当然、あなたに感謝し、「この人は信頼できるな」という気持ちを抱きます。
同時に、お客様は、あなたの属する組織・会社に対しても、信頼感をもちます。
たとえば、「教育が行き届いている会社だな」「この会社のサービスはいいな」という言葉をよく耳にしますが、それは実際に接した個人を通して、その人間の属する組織や会社も同じように見ているということです。
それが、逆に、あなた個人がお客様に不快な思いをさせた場合には、「なんだ、この会社は、まるでしつけが行き届いていないじゃないか」「サービスの悪い会社だな」と組織や会社への不満となって表れます。
だから、組織・会社にとって人材教育が大事なのです。
お客様に信頼されれば、組織・会社からも信頼される
あなたを通じてお客様から組織や会社が信頼されると、今度は上司や先輩から、あなた自身が信頼されるようになり、評価も上がります。
給料が上がったり、昇進につながるケースもあるでしょう。
そうはならないケースが多いかもしれませんが、たとえ、そうならなくても、上司や先輩から、「おまえは、ほんとによくやってるな」「お客様がすごく喜んでたぞ」とほめられ、自分が組織・会社から信頼されていることを実感できるでしょう。
あなたがもし新人社員であれば、このような体験を通じて、ホスピタリティの大切さを
実感することになるでしょう。
ホスピタリティとはこういうものか、ということも理解できるはずです。
信頼は「人脈」をつくる
もうひとつ重要なことは、人から信頼されることは、自分のキャリア形成のなかで「人脈をつくっている」ということです。
いうまでもなく、人脈は、ビジネス、あるいは人生において成功する大きな力となります。
たとえば、自分を信頼してくれる上司が、自分のポジションを引き上げてくれることもあるでしょう。
自分が、独立してショップを開いたり、会社を始めようとしたりしたとき、自分を信頼してくれた人がサポートしてくれる可能性もあります。
お客様、上司あるいは先輩かもしれませんが、「あいつは信頼できる人間だ。
助けてやろう」という話がもち上がっても不思議はありません。
人の縁とはそういうものではないでしょうか。
ホスピタリティで人脈ができるというと意外な感じがしますが、人と人とのつながりは、やはり信頼によって築かれていくものです。
相手に対するホスピタリティを欠いていれば、人との信頼関係を築くのはむずかしいといわざるを得ないでしょう。
07ホスピタリティが自分を成長させる
「お客様をもっと喜ばせたい!」という気持ちが高まる
ディズニーのキャストは、ゲストの写真を撮る機会が多くあります。
ゲストから頼まれるケースもありますが、キャストから「写真をお撮りしましょうか」と声をかけるケースも多いのです。
ディズニーを辞めたあとも、そのクセが残って、行楽地で写真を撮ろうとする人を見かけると、自分でも気づかないうちに「写真をお撮りしましょうか」と声をかけているという元キャストも少なくありません。
私もその1人ですが……。
キャストが写真を撮れば、当然、ゲストから「ありがとう」と感謝されます。
その言葉を聞きたくて、そしてゲストにもっと喜んでいただきたい一心で、ディズニーのキャストたちは、どういう撮り方をすればベストか、自分たちで勉強をしているのです。
そして、たとえば、カップルのゲストであれば、「男性の方、女性の肩に手を置かれてはいかがでしょう」男女2人ずつのゲストであれば、「男性の方は両脇で、女性の方は真ん中のほうが、後ろの景色が入りますよ」というように、勉強の成果を実際の撮影に活かしています。
「知識や技術をもっと伸ばしたい!」という気持ちが高まる
お客様から「ありがとう」と感謝されたり、上司から「すごいじゃないか」とほめられたりすれば、誰でもうれしいものです。
すると、人間というのは不思議なもので、もっとお客様を喜ばせたい、上司や先輩から、もっとほめてもらいたいと思うようになります。
そして、「いまのままでは知識も技術も、まだまだ」「お客様を喜ばせるために、もっと敬語の使い方を勉強しなくちゃ」「話し方をもう少し工夫したほうがいいな」と、自分の知識や技術の足りない点に気づき、もっと勉強しようと思うようになります。
つまり、自分自身の成長に結びつくことになるのです。
ホスピタリティというと、「お客様のために」といった視点だけでとらえがちで、お客様のメリットにばかり目がいきがちですが、人から信頼される、人脈ができる、自分が成長するといったように、自分にとっても、メリットがあるのです。
だから、私は、「自分のためになるから」というような発想で、ホスピタリティを身につけていってもかまわないと思っています。
それは動機レベルにすぎず、実際にお客様に喜んでもらったり上司や先輩にほめられた
りという体験をすれば、「相手のために」というホスピタリティがどんどん身に染み込んでいきます。
結局、その結果として自分も成長していくことになるのです。
自ら積極的に学ぶキャストたち
ただ、従業員が個人的に自己啓発に取り組もうとしても、どうしたらよいかわからないケースや、お金や時間がかかってむずかしいといったケースもあるでしょう。
ですから、組織・会社が本人任せにしないで、サポートをしてあげることが必要です。
個人では限界があることが少なくないからです。
ただ残念ながら、従業員任せというところが多いようです。
ディズニーでは、語学や手話などのクラスを用意しています。
それらを多くのキャストが、勤務時間外の学習時間にもかかわらず勉強の場として利用しています。
このようにして、主体的・積極的に自己啓発に取り組むキャストは、どんどん自分を成長させていきます。
こういう人材の多い会社・組織ほど強いことはいうまでもないでしょう。
ディズニーのキャストたちはホスピタリティを進化させ続けています。
なぜそれが可能なのか、エピソードを中心に見ていきましょう。
CHAPTER2どんどん進化するディズニーのホスピタリティ
01つねに「自分の役割」を意識するキャストたち
「自分の役割」をわかっているか?
カストーディアルのキャストが、ゲストに、水たまりの水を使って、ほうきでミッキーマウスの絵を描いてみせるパフォーマンスが、マスコミにも取り上げられ、人気を呼んでいます。
その影響もあったのでしょう、一時、カストーディアルのキャストの間で、ディズニーのキャラクターを描くことがブームになったことがあります。
しかし、一部のキャストの間で、「これは、まずいのでは」という声がもち上がりました。
カストーディアルとは「管理する」「保護する」という意味で、パークを清潔に保つ以外にも、パーク内で困っているゲストに出会ったら、そのゲストを保護するというのが本来の役割であり仕事です。
一部のキャストは「このままでは、本来の役割を忘れ、ゲストにキャラクターの絵を描いてみせることが自分の仕事と勘違いするのではないか」と不安に思ったのです。
そこで、彼らは一計を案じました。
カストーディアルのキャストたちは、自分たちで清掃スキルに応じて段位を設けています。
そこで、ゲストにキャラクターの絵を描いてみせることのできるキャストを、高段位者のキャストに限定することにしたのです。
まずは、本来の自分たちの役割をきちんと果たす、その技術アップをはかろうというわけです。
「ショーに命を吹き込むのはキャストたち」
ディズニーでは、オンステージ上のすべてを「ショー」としてとらえています。
当然、キャストもショーを構成する重要な存在です。
ウォルト・ディズニーは、「ショーに命を吹き込むのは、キャストだ」とまで言っています。
ディズニーのキャストには、「ショーをつねに一定レベル以上に保つ」ことが求められています。
というと、ディズニーだけに通用する話ととらえられがちです。
しかし、ショーを「商品」と考え、商品の品質を一定レベル以上に保つと考えれば、どの会社・組織でも同じでしょう。
自分の役割をきちんと果たす、それにホスピタリティを加えるという考え方は、どのような業種・業態であっても、通用するものです。
たとえば、トイレがいつもピカピカであるためには、トイレを清掃するカストーディアルのキャストが、ルールに従ってトイレをきちんと清掃する必要があります。
つまり、自分の役割をきちんと果たすことが要求されます。
仮に、キャストが手を抜いてしまえば、トイレがピカピカではなくなる、つまり品質が低下することにつながってしまいます。
まず、自分に与えられた役割をきちんと果たすこと、これがディズニーの品質を保つうえで、最も大切なことなのです。
そのことをすべてのキャストが理解しています。
というのも、ディズニーの場合、基本を徹底的に教え込むための研修やトレーニングのしくみが整っています。
それに加えて、上司や先輩が、後輩と密にコミュニケーションをとり、ケアしていく風土があります。
だからこそ、すべてのキャストが自分の役割を一生懸命に果たす気持ちになっていくのです。
同時にキャスト自身がディズニーのショーの出演者です。
そして彼らには「すべてのゲストにハピネスを提供する」というミッションがあります。
そこで、自ずと求められるのが、ゲストに対するホスピタリティです。
キャストがホスピタリティをもってゲストに接することで、ゲストに予想外の感動を与える、文字どおりハピネスを実感していただくこともできます。
ホスピタリティは大切ですが、その前に、本来の自分の役割をきちんと果たさなければならないことを確認しておきましょう。
02ディズニーでは「できない」とは考えない
逆光での写真撮影に挑む
キャストディズニーのキャストは、ゲストに写真の撮影を頼まれる機会が少なくありません。
なかには、アトラクションを背景にしたいなどの理由で、逆光状態でもかまわず、「写真を撮ってください」と撮影を依頼してくるゲストもいます。
そういうときは、「逆光ですから、ちょっとこの方向はムリです」と言うのが普通ではないでしょうか。
しかし、ディズニーのキャストは、逆光のときは、どうすればよいのかと考え、勉強するのです。
そして、「逆光になりますが、いいですか」と問い、「いいです」という答えが返ってくれば、「じゃ、少しでも光が入らないように撮りますね」と言ってレンズの上に手をかざして撮る、あるいはフラッシュをたいて撮る、など工夫します。
場合によっては、キャストが木陰に入ってそこから撮るといった方法もとります。
大雪でクローズ。
でも一部を無料開放私が在任中、関東地方に記録的な大雪が降ったことがあります。
東京ディズニーランドにも大人の膝が埋まるほどの積雪でした。
夜中、早朝と、それこそ全キャストが雪かきにかり出されました。
ただ、雪は一向にやむ気配がなく、キャストたちは懸命に雪かきをしましたが、すべての通路を確保することはむずかしい状況でした。
そして、これでは危険だということで、クローズすることになりました。
そこで、ゲストにチケットの払い戻しが行われました。
ただ、雪にもかかわらず、せっかく足を運んでくれたゲストのために、ワールドバザールとカリブの海賊だけは屋内施設で安全性も確保できたので、無料開放されました。
ゲストは、残念そうな表情ではありましたが、それでもカリブの海賊を楽しみ、買い物やレストランでの食事を楽しんでいました。
「できない」ではなく「何ができるか」を考えるこれらのケースに見られるように、なぜ、ディズニーのキャストは、どんな場面でも「何かできることはないか」と考えようとするのでしょうか。
それは、キャストが、つねに「どうすればゲストにいちばん喜んでもらえるか」を第一に考えているからです。
そして、そのために一生懸命考え、勉強しているからです。
すると、何か答えが見えてくる、つまり、できてしまうことも少なくない、あるいは何
かしら代替案が見つかるものです。
そういうことが積み重なり、「ゲストのために何ができるか」と考えることが、ディズニーの風土として根づいているのです。
03キャスト全員に情報を共有させる
バイトのトレーナーがつくる「レッスンプラン」
ディズニーには、「トレーナー」と呼ばれるアルバイトの先輩キャストが、新人や後輩を指導するしくみがあります。
トレーナーが、新人や後輩にどのように教えるか、つまりレッスンのプランニングは、トレーナー個々に任されています。
トレーナーが現場のことをよく知っているからというのも、その理由ですが、キャストの自主性を重んじるディズニーならではの〝しくみ〟といえるでしょう。
レッスンプランには、たとえば、後輩キャストにレジ操作の指導をするとき、レジの正面に立つのではなく、後輩と同じ向きになってレジ側で指導するといった、指導の内容や方法などが含まれています。
ただ、レッスンのプランニングはトレーナー個々に任されていますが、プランを自分だけのものにしておかず、たとえば上司が「これは、みんなで共有したほうがいいな」と思った情報は、ミーティングなどでほかのトレーナーにも伝えられます。
こうして情報を共有化することで、当然、すべてのレッスンプランのレベルが上がっていくことになります。
キャストの「ホスピタリティ体験」を共有する
このような情報の共有化は、ホスピタリティに関しても同様です。
「これはいいな」という言動や方法は、ルールとして規定され、みんなで共有し、守ります。
ですから、ディズニーのルールは、キャストのホスピタリティ・レベルの進化に応じて、どんどん進化しています。
一例をあげましょう。
ディズニーのアトラクションによっては、身長制限があります。
そのために子どものゲストが乗れないとわかれば悲しい気持ちになってしまうでしょう。
キャストがそれを見て、「悲しそうだな」「がっかりしているな」と感じ、その気持ちを少しでも癒してあげたいと考え出したのが、カラフルなリストバンドをプレゼントすることです。
たとえば、身長制限にかかる子どものゲストに対して、「今回は乗れなかったね。
でも、このリストバンドをつけてあげるね。
次は乗ろうね。
待ってるからね」と言って、リストバンドをプレゼントするのです。
このリストバンドには、身長別に色分けをしてあるので、別のアトラクションに行って、また「身長何センチ?」とキャストから聞かれないというメリットもあります。
何度も同じ質問をされれば、子どものゲストもいやな思いがするでしょう。
そういう思
いもしないですみます。
このように、子どものゲストの心を完全に癒すことはできないかもしれませんが、少しでもアトラクションに乗れない悲しみを軽くできたらというキャストのホスピタリティによって生まれたのがリストバンドです。
それが、いまではルール化され、サービスとなって、当たり前のこととして子どものゲストに配られていますが、このホスピタリティを、キャストはつねに心のなかに抱いています。
04キャストが互いにフィードバックし合う
ディズニーの上司・先輩は、後輩をよく見ている
笑顔にしても、元気のいい挨拶にしても、自分ではしっかり実行しているつもりでも、他人からはそうは見えないことがあります。
身だしなみにしても、自分ではきっちり守っているつもりでも、ツメを切り忘れていたというようなケースもあり得ます。
どんなに注意しているつもりでも、人はミスをするものです。
ディズニーの上司・先輩は、そういうことがないよう後輩たちをよく見ています。
そして、気づいた点があれば、そのことを指摘します。
ちなみに、笑顔をつくるトレーニングとして、割り箸を口にくわえる方法などもあるようですが、ディズニーでは、そういうことはしていません。
笑顔が出ていなければ「笑顔が出ていなかったよ」と声をかけるだけです。
もちろん、しっかり守られていれば「笑顔がいいねえ」とか「元気のいい挨拶だね」とほめることも忘れません。
つまり、後輩たちへのフィードバックをつねに心がけているのです。
また、同僚キャスト同士でも、フィードバックが行われています。
このようなフィードバックを通じて、キャスト間のコミュニケーションが深まるというメリットも生んでいます。
「はじめ」と「終わり」が効果的
ディズニーでは、朝礼と終礼が必ず行われます。
朝礼のときは、ホスピタリティの基礎である身だしなみを必ずチェックします。
もちろん、たくさんあるチェック項目のすべてを朝礼でチェックすることはできませんが、とくに見落としやすい点、たとえば、前髪が目にかかっていないか、髪の長い女性キャストであれば髪を束ねているか、などについてチェックします。
終礼のときは、その日一日に起こったさまざまな出来事を報告・確認し合います。
その際、キャストにはメモをとることをすすめています。
「なるほど、こういうふうにすればゲストに喜ばれるんだ」と、そのときは思っても、時間がたてば忘れてしまうこともあります。
ですから、必要な情報は、必ずメモに記録しておこうというわけです。
05問題点を指摘し改善するディズニーの「修正力」
キャストが問題点の慢性化を防ぐ
「やさしい笑顔」「明るい挨拶」、きちんと相手の目を見て話す、いわゆる「アイコンタクト」「身だしなみ」の4つは、ディズニーのキャストにとって、ゲストに接するときの必要最低条件です。
まさにディズニー・接遇スキルの基礎中の基礎にほかなりません。
本書では、このような基礎的なスキルを身につけ、ホスピタリティを発揮することによって、ゲストに予想外の感動を与えることができる、と説明しています。
それが基本だからです。
しかし、実際にゲストが感動するかどうかは、結局のところ、ゲストの感じ方次第というところがあります。
ですから、キャストが、この基礎をきちんと実行するだけでも、ゲストによっては、大きな感動を抱かれるケースもあるでしょう。
とにかく、ショーの品質を一定レベル以上に保つうえで、この4つは、絶対に欠くことができません。
だからこそ、研修やトレーニングで繰り返し教えるのはもちろん、職場においても日々実行し、ふつうのこととして体に染みつくようにキャスト全員が心がけているわけです。
しかし、キャストも人間です。
ときには、この基礎を忘れてしまうキャストも出てきます。
あるいは、キャスト間(正社員とアルバイトの間)でコミュニケーションがうまくとれないような事態が生じることもあります。
ディズニーが素晴らしいのは、そういう状況が慢性化しないことです。
キャストの修正力が、慢性化に歯止めをかけるからです。
「初演の気持ちを思い出して」と訴えるキャスト
たとえば、1人のキャストが、ショーのレベルが低下していることに気づくと、そのキャストは朝礼で「ショーのレベルを維持しよう」と毎回のように同僚に語りかけます。
さらに、そのキャストは、ショーの考え方をみんなに忘れないでほしいという意味を込めて、たとえば各職場の手づくりの新聞などに、次のような文章をのせて、ほかのキャストに訴えかけるのです。
「最近、こんなキャストを見かけます。
・オンステージ上で、こわい顔をしている。
・ディズニールックに違反している。
あなたの目の前のゲストは、一生で一度の東京ディズニーランド体験かもしれません。
その夢をこわさないでください!いえ、それ以上に最高の思い出をつくるお手伝いをし
てください。
どうぞ、もう一度、初演の気持ちを思い出してください。
私たちは、ハピネスを提供するディズニー・キャストなのです」このような指摘が、アルバイトのキャストから出てくるのです。
上司やアルバイトのリーダーは、朝礼などの短い時間を利用して、「このような問題が指摘されている」と、職場のキャスト全員で考えるように伝えます。
すると、「これはいけない」と反省するキャストが増え、だんだんと修正されていくのです。
「ゲスト」として入園してチェックするキャスト
ゲストは、文字どおり「大切なお客様」です。
当然の話です。
ところが、キャストが「大切なお客様」に変身することがあります。
というのも、仕事の休日などを利用して、東京ディズニーランドを訪れるキャストが実に多いのです。
そのキャストたちが、レストランで味見をしたり、商品を買ってチェックしたりするのです。
もちろん、純粋に東京ディズニーランドを楽しむのが目的で入園しているのですが、自分たちが提供している商品やサービスの質をもっと高めたいという気持ちをつねにもっているのです。
そして、何か問題点があれば、後日、上司に報告します。
上司としては、率直な意見を聞けるので、たいへんありがたく、参考になります。
そういう意味で、キャストも「大切なお客様」というわけです。
ディズニーといえば、万事順調のように見えますが、ほかの会社・組織と変わらず、ときには問題も発生します。
人が集まる場所ですから当然です。
ただ、そういうとき、アルバイトのキャストたちが先頭を切って、問題解決をはかります。
キャストたちが修正力を身につけているからです。
それが、ディズニーのホスピタリティ・レベルを維持・進化させる大きな力のひとつとなっています。
落とした指輪を小箱に入れてお返ししたキャストこれは、同僚から聞いた話です。
婚約指輪を落とされたゲストがいたそうです。
そのゲストは、すぐに遺失物センターに出向きましたが、そのときは、まだ見つかっていませんでした。
数時間後に、そのゲストは、再び遺失物センターの窓口に行きました。
すると、担当キャストが、「これでございますか?」と言って、小箱を取り出しました。
ゲストは、小箱を落としたわけではなかったので、首をかしげながら、渡された小箱を開けました。
すると、落とした指輪が中に入っていたのです。
「わざわざ小箱を用意してくれたなんて……」落とした指輪だけを渡されると思っていたゲストは、たいへん感激されたそうです。
「指輪の落とし物は、小箱に入れてお渡しするように」というルールがあるわけではありません。
遺失物センターのキャストが、小箱に入れて渡せば、ゲストにもっと喜んでもらえるだろうと機転を利かし、それを実行に移したというわけです。
これを上司が聞いて「何やっているんだ。
ほかのゲストと平等にサービスしなければ苦情がくるだろう」などとは言いません。
上司は、まずそのキャストをほめ、そして「どうしたらほかのゲストにも同じようにサービスできるのか」を考えるのです。
だからこそ、ディズニーのサービスも、そしてホスピタリティも進化するのです。
オリジナルの「おもてなし」を加えて迷子に接する
オンステージでは、迷子になる小さなゲストもいます。
基本的に、迷子に接するときは、「迷子らしきゲストを見つけたら、声をかけること。
膝を折って、迷子のゲストと同じ目の高さで話すこと。
時間があれば、まわりにご家族がいないかしばらく捜す。
それで見つからなかったら、責任者に報告し、迷子センターに連れていく」といったことが決められています。
ただ、ホスピタリティのあるキャストは、基本をおさえつつ、さらに自分なりに配慮して、迷子のゲストに接します。
たとえば、そういうキャストは、「子どもだって、これ以上は近づいてほしくないというパーソナル・スペース(なわばり)をもっている。
他人にいきなりそこに入り込まれるのはいやに違いない。
まず距離をあけて話しかけたほうがいいな。
いきなりポンと肩をたたいたりするのはやめよう」といったことを、勉強して身につけています。
ですから、実際に迷子のゲストに接する場面では、膝を折って同じ高さの目線で、「どうしたの、ボク?」「ここで働いているお兄ちゃんだから、なんでも言ってごらん」とフレンドリーな声かけをして、まず元気づけてあげようとします。
それから、いくらか時間が経過したところで、「近づいてもいい?」「できれば手をつないで、まわりを捜してあげたいな」と話しかけます。
さらには、「抱っこはやめたほうがいいな。
親御さんは、下を向いて捜しているはずだから、こっちに気づきにくくなるから」
などといった判断を加えたりします。
これらはほんの一例にすぎませんが、ディズニーのキャストたちは、既存のルールを守ることはもちろん、もっといい行動をとることはできないかとつねに考え、主体的に勉強をしています。
それが、ディズニーのキャストのホスピタリティをどんどん進化させる大きな力となっています。
CHAPTER3ホスピタリティを育てるディズニーの「しくみ」
01ミッションと行動指針がホスピタリティの〝基礎〟
すべての人にハピネスを提供する──ディズニーのミッション
「ミッション」とは、その組織がめざすべき方向性のことで、組織の存在意義といってもよいでしょう。
ミッションがないと、従業員がそれぞれ別の価値観をもって仕事に取り組んでしまいます。
そのため、職場のチームワークが悪くなる、コミュニケーションが不足するといったことが起こります。
その結果、商品やサービスの品質が低下したり、生産性が落ちたりします。
当然、顧客満足度が低下し「お客様離れ」が進行するでしょう。
このような事態を避けるためにも、どのような会社・組織であれ、ミッションは絶対に必要です。
自分の組織に〝形〟のあるミッションがないのであれば、創業者の「思い」や現在の経営者の「思い」をミッションととらえればよいでしょう。
ディズニーのミッションは「すべてのゲストにハピネスを提供する」です。
これは、サービスと同じように、すべてのキャストが守るべきルールとして定着しているので、厳密にはホスピタリティとはいえないかもしれません。
ただし、このミッション自体、ディズニーの創始者ウォルト・ディズニーのゲストに対するホスピタリティから生まれたものです。
いうなれば、ディズニーのホスピタリティの原点といえるでしょう。
ディズニーでは、このミッションを繰り返しキャストに伝えていきます。
そのため、キャストに「ゲストのために」というホスピタリティが自然に芽生えていきます。
ところで、このミッションは、ディズニーだけではなく、すべての業種・業態にも当てはまります。
「ゲスト」を「お客様」あるいは「人」に置き換えれば、ビジネスシーンだけでなく、パーソナルシーンにおいても十分通用する考え方です。
前述したように「すべての人がハピネスを求めている」からです。
ホスピタリティの基礎となる「行動指針」──SCSE
ディズニーのすべてのキャストは、ミッションを達成するために自分の役割を果たしていくことになります。
そのとき、気をつけるべきことは何か、どういう優先順位で取り組んでいくべきかを表したのが行動指針です。
ディズニーは、行動指針として、優先すべき順に、①安全性(Safety)②礼儀正しさ(Courtesy)③ショー(Show)④効率(Efficiency)の4つ(SCSE)を定めています。
前著でもご紹介しましたが、それぞれのポイントをおさえておきましょう。
①安全性(Safety)まず、ゲストにハピネスを提供するために、何よりも大切なのは「安全」であることです。
私がディズニー研修の講師だったときは、「ハピネスの場を創る」もしくは「やすらぎの場を創る」という表現を用いて、安全性の重要性を伝えていました。
たとえば、もしゲストがケガをした場合、それまでの楽しい思い出を失います。
そして一緒に来園された恋人やご家族も心配したり、悲しんだりと、ハピネスを失います。
このようなことがないように、ディズニーでは、まず「キャストはゲストをよく見ること」を指導します。
そして、その人の気持ちになって思いをめぐらし、そのうえで行動するように教えます。
こうした教育を受けることで、キャストもゲストの安全を守れるようになるのです。
たとえば、雨上がりで床面が濡れているとします。
当然、通常よりも滑りやすくなります。
そういうなかで、キャストの目の前を子どものゲストがアトラクションに向かって走っているとします。
そのとき、キャストは、まずゲストの先の行動に思いをめぐらす(推測する)のです。
①路面が濡れている。
危険な状態だ②あの走っている子どものゲストは転ぶかもしれない③転んで頭を打つかもしれない④ケガをして、緊急車両で病院に運ばれるかもしれない⑤楽しい思い出がすべてなくなってしまうだろう⑥一緒に来たご両親もきっと悲しみ、楽しい思い出が苦い思い出になるだろう
次に、当然そうならないように行動に移します。
「ボク、ここから歩いていってね」そして、両手でストップをかけるかもしれません。
あるいは、そのとき、子どもはそのまま走り去るかもしれません。
しかし、この声かけで少しでも速度が遅くなる可能性があります。
また、足元に注意して走るかもしれません。
つまり、子どもがより安全に行動する可能性が高まります。
だからこそ、このようなキャストの言葉や行動が重要なのです。
そして、もうひとつ重要なことは、キャストの安全も確保するということです。
ハピネスを提供する側の安全が保たれていなければ、ハピネスを提供することができないからです。
ですから、バックステージでキャストが走っていると、同僚キャストから注意されます。
②礼儀正しさ(Courtesy)安全性の次に優先されるのが礼儀正しさで「すべてのゲストはVIPだと考え対応する」ことが求められます。
東京ディズニーランドのエントランスから中に足を踏み入れると、床面のタイルが赤色に染められています。
それは、大事なゲストを迎えるときにレッドカーペットを敷き詰める欧米の慣習に倣ったものです。
また、この礼儀正しさは、ゲストにホスピタリティを感じてもらうためには最も重要な行動指針にほかなりません。
ところで、ディズニーの礼儀正しさは、一流ホテルの礼儀正しさとは少し違います。
というのもディズニーでいう礼儀正しさは、一流ホテルのような高い格式を求めるものではなく、「親しみやすい礼儀正しさ」だからです。
具体的には、笑顔、挨拶、アイコンタクト(相手の目を見て対応する)、そして身だしなみの4つを実行することです。
これなら、もちろん研修やトレーニングも必要ですが、新人であっても身につけることができるはずです。
「CHAPTER2」でも述べたように、この4つは、ホスピタリティを相手に伝えるうえでとくに大切です。
「CHAPTER4」でくわしくご紹介します。
③ショー(Show)前述したように、ディズニーでは、園内を、ゲストに素晴らしい体験をしていただくための舞台と考え、園内のことを「オンステージ」と呼んでいます。
そして、オンステージ上のすべてを「ショー」としてとらえています。
身だしなみは、礼儀正しさの行動指針だけでなく、「ショー」の行動指針にも含まれます。
たとえば、コスチュームは、配属される施設の物語に沿ってつくられています。
そのコスチュームの意味を理解し、正しいサイズで、正しく身につけることが重要です。
そして、その役になりきることが求められます。
たとえば、ジャングルクルーズのキャストは、船長であり、水先案内人でもあります。
カリブの海賊のキャストは、海賊です。
ただ、役になりきろうとするあまり、リアリティを求めすぎてしまうと、問題が発生します。
カリブの海賊であれば、あごひげが生えていて、汗臭いぐらいのほうがリアルかもしれませんが、ゲストから「だらしない」「きたない」と思われるかもしれません。
そのように思われてしまう格好では、ハピネスを提供することはできません。
身だしなみに関するルールを「ディズニールック」と呼びますが、身だしなみの基準について、ディズニーでは細かくルールをつくり、厳しく運用しています。
ですから、「いま、この髪型がはやっているから」といって、いわゆる〝流行〟を取り入れるようなこともしません。
「夢の世界」に流行は必要ないからです。
④効率(Efficiency)行動指針の優先順位の最後に、効率がきます。
効率とは「チームワークを大切にし、ムダをはぶく」ことです。
「効率」は、行動指針のなかでは最後ですが、キャストがつねに意識していることでもあります。
たとえば、東京ディズニーランド自体、効率的にゲストが移動できるような設計になっていて、ほかのエリアに行くときほとんどまわり道をせずに行くことができます。
また、待ち時間は誰でもイヤなものです。
そこで、待ち時間をできるだけ長く感じさせない工夫もされています。
たとえば、ジャングルクルーズでは、ゲストの乗り降りをサポートするキャストを必ずつけて、少しでも乗降時間を短くする工夫をしたり、待っているゲストのためにユーモアを交えた放送を流し、楽しんでもらうことで、少しでも待ち時間を忘れてもらうよう工夫しています。
また、運営そのものの手順を変更することもあります。
このように、キャストはつねに効率が上がるように、少しでもムダがなくなるように工夫しています。
それがキャストのチームワークによって生み出されていることはいうまでもないでしょう。
新人研修の最後に、ディズニーの講師は、キャストに次のように伝えます。
「『安全』で『礼儀を守り』、『ショーを維持』すれば、自ずと『効率』も上がる」と。
ディズニーの行動指針もまた、ミッションと同じように、ゲストへのホスピタリティから生まれたものといえるでしょう。
ゲストに安全に、心地よくディズニーを楽しんでもらうことをふまえたものとなっています。
同時に、「礼儀正しさ」や「ディズニールック(身だしなみ)」に見られるように、ディズニー・キャストとしての接遇の基礎となる内容となっています。
この基礎がしっかりと身についていないと、東京ディズニーランドのキャストとしてデ
ビューできないのはもちろん、ゲストにホスピタリティを伝えることもできない、というのがディズニーの考え方です。
「駐車場」にも反映されるSCSE
ディズニーのミッションや行動指針は、キャストが守るべきルールとしてあるだけでなく、商品やアトラクションはもちろん、あらゆる施設の設計にも反映されています。
その好例が駐車場です。
──ゲストが東京ディズニーランドにクルマでやって来た場合、まず駐車場の料金所に向かいます。
〈①安全性〉まず最初に、料金所のキャストが「おはようございます!」と元気よく迎えてくれます。
そして、「東京ディズニーランドの駐車場内は、一方通行になっています。
運転には十分注意してくださいね」と必ず安全を重視する言葉をかけます。
一方通行になっているのは、対面通行よりも安全度が高いからです。
〈②礼儀正しさ〉料金所のキャストが、「おはようございます。
本日は、所沢からいらっしゃったんですか。
たくさん楽しんでくださいね」と声をかけます。
ゲストのクルマのナンバープレートを見て、親しみ・配慮のこもった声かけをするわけです。
また、一方通行になっているため、キャストも後ろを気にする必要がなく、ゲストの目を見ながら、安全にゲストを誘導できます。
〈③ショー〉ゲストのクルマを、ディズニーの人気キャラクターのイラストが描かれたポールの立つ駐車エリアへ誘導します。
ゲストがクルマのドアを開けると、ゆっくりと、そして静かにディズニーの音楽が流れてきて、「東京ディズニーランドに来たぞ」という雰囲気がだんだんと盛り上がっていきます。
その高揚した気持ちは、エントランスでキャラクターがお迎えしてくれている光景が目に飛び込んできたとき、最高潮に達するでしょう。
〈④効率〉クルマを止めるとき、一方通行で誘導するためバックして止める必要がなく、時間のロスが防げますし、安全に駐車できます。
また、到着時間によって駐車エリアが分けてあるので、キャストに到着時間を告げればすぐに駐車エリアを教えてもらうことができ、クルマを探しまわる必要がありません。
また、出口が1カ所なのも、ゲストが帰るとき、道に迷わないようにという配慮がされているからです。
このような施設設計により、キャストは、日常の仕事を通じて、ディズニーのミッションや行動指針を再確認しています。
同時に、このような施設設計は「会社は、口だけでなく行動指針をちゃんと実行している」という証明にもなり、キャストは、会社に対して信頼感を抱くようになります。
もちろん、それは、自分の仕事に対する誇りを高めることにもつながっていきます。
02ミッションとSCSEをどうやって教えるのか
繰り返し繰り返し伝える
ディズニーでは、何か特別な「ホスピタリティ教育」と銘打つ研修やトレーニングを行っているというわけではありません。
少なくとも私が在籍していた当時は、そうでした。
繰り返しになりますが、本来、ホスピタリティは人それぞれの心のなかで育っていくものですから、ホスピタリティ自体を、会社や組織が従業員に学ばせることはできません。
しかし、だからこそ、ほかからマネされることもないわけです。
ただ、ディズニーでは、ミッションと行動指針は徹底的に教え込みます。
前述したようにディズニーのミッションと行動指針には、ホスピタリティの大切さ、ホスピタリティを発揮するうえで欠かせない基礎が盛り込まれています。
ですから、この2つを徹底的に伝えることで、キャストはホスピタリティの大切さを認識し、その基礎を身につけていくことができるのです。
東京ディズニーランドの研修やトレーニングは、入社後6カ月間に集中しています。
もちろん、キャストは、何も知らない状態で入社してくるのですから、どうしても、その時期に研修やトレーニングが多くなりがちです。
もうひとつの理由は、入社直後は、キャストの心が揺れ動いている時期だということです。
たとえば、「いい先輩や同僚とめぐり合いたい」「きちんと仕事をしたい」と期待する一方、「いやな先輩がいたらどうしよう」「ちゃんと仕事ができるかな」というような不安もつのる時期です。
こういうときは、逆に「教えられることを吸収しやすい」という心理的な傾向があります。
ですから、覚えるべきルールなどの知識はもちろん、キャストとして必要な姿勢など幅広く身につけることが期待できるのです。
ところで、新人採用後に、導入・新人研修を行うものの、ただそれっきり、という組織・会社が多いようです。
だから、新人にミッションや行動指針が根づかないケースがよく見受けられます。
ディズニーでは、導入研修だけでなく、さまざまな研修やトレーニングを通じて、繰り返しミッションや行動指針が伝えられます。
すべてのツールに「思い」を込める
行動指針が駐車場にも反映されていると前述しました。
そのようなパークの施設設計に反映させるだけでなく、キャストの掲示板、社内報などのツールを通じても、ことあるごとにミッションや行動指針が伝えられます。
たとえば、社内報にのせるキャストの写真も笑顔であることが求められます。
もっとも、ディズニーのキャストの場合は、笑顔がすでに身についているので、誰かに言われなくても、笑顔で写真におさまります。
また、東京ディズニーランドのキャストがもつIDカード(身分証明カード)の写真は、すべて笑顔です。
撮影担当者が笑顔でないとカメラのシャッターを押してくれないのです。
たとえ社長であっても許してもらえません。
徹底しています。
バイト同士が「基礎」を確認し合う
ディズニーでは、同僚間や先輩・後輩間でも、積極的にミッションや行動指針を確認し合う風土が根づいていることも見逃せません。
たとえば、ゲストに対してだけでなく、職場の同僚や上司にも、笑顔、挨拶、アイコンタクトの3つを、日常的に行うように心がけています。
そのことで、職場においても、ホスピタリティが生まれ育ち、キャスト間のコミュニケーションも活発で、風通しのよい風土をつくり出しています。
ディズニーの継続的な教育に加え、このようなディズニーの風土が、キャストが基礎を自分のものにする大きな要因となっています。
自分の所属する組織や職場に、ディズニーのような風土をつくりたいとお考えの読者は、まず、自分の組織や職場で従業員同士が、挨拶や笑顔、アイコンタクトができているか確認してみてください。
そして、できていなければ、そこから始めることが風土を変え、ホスピタリティの精神を育てる第一歩となるはずです。
なぜアルバイトを「ユニバーシティ・リーダー」に育てるのか
ディズニーには、「ユニバーシティ・リーダー」というしくみがあります。
ユニバーシティ・リーダーは、新人キャストを対象とした導入研修や、後輩キャストの指導にあたる「トレーナー」と呼ばれるキャストを対象とした研修のインストラクターを務める役割を担っています。
つまり、先生の先生です。
東京ディズニーランド開業から13年間ぐらいは正社員から選ばれていましたが、その後は、現場のアルバイトに募集をかけ、選抜しています。
ユニバーシティ・リーダーに選ばれると、ディズニーの哲学・精神はもちろん、園内の施設やサービスに関する知識、インストラクターとしてのスキルなどを、それこそ1カ月間、カンヅメ状態で教え込まれます。
修了時には、その厳しい研修・トレーニングをやり遂げた達成感もあり、ほぼ全員が泣いてしまうほどです。
私も、第2期(1985年当時)ユニバーシティ・リーダーでしたが、とにかくたいへん厳しい研修・トレーニングが課せられました。
ただ、ユニバーシティ・リーダーとしてインストラクターを務める期間は、例外的なケースを除けば、だいたい1年間です。
その後、また元の職場に戻っていちキャストとして働くことになります。
「そんなに厳しい研修やトレーニングを受けたのに、任期はたったの1年間?」と思われる読者もいらっしゃるでしょう。
たしかに、ちょうどインストラクターとして成熟してきた時期に任期が終了してしまうのは残念な気がします。
しかし、もともとユニバーシティ・リーダーは、現場で働いていた先輩が研修を行うことによって、受講するキャストへの説得力を高めることに加えて、職場に戻って、ディズニーの哲学や精神を伝える伝道師を育成するという目的でつくられたしくみなのです。
言葉を換えれば〝ウォルト・ディズニー〟をつくり出すということです。
ですから、同じキャストを何年もユニバーシティ・リーダーにとどまらせるよりは、1年後にまた新しいユニバーシティ・リーダーを育成して、伝道師を増やしたほうがよいというわけです。
ユニバーシティ・リーダーが後輩の手本になる
職場に戻ったユニバーシティ・リーダー経験者は、当然、人に教えることを鍛えられて
いますから、後輩キャストたちに、いろいろなことをとても上手に教える存在になります。
同時に、自然とミッションや行動指針が守られているかどうかにも気を配るものです。
それは、いうまでもなくホスピタリティを発揮するための基礎を職場に徹底することにつながります。
仮に間違ってミッションを理解していたり、行動指針に問題があったりすれば、それを正すために積極的に行動します。
前著でもご紹介しましたが、私自身、同じ職場のキャストがミッションを間違えて理解していることに気づいて、最初は孤独な闘いでしたが、試行錯誤の末、なんとかキャスト全員がミッションを正しく理解するようになった、という経験があります。
これも、やはり、私が、ユニバーシティ・リーダーとしての研修・トレーニングで鍛えられていたからこその体験だったといえるでしょう。
「ディズニー精神の伝道師」となった私には、見過ごすことはできませんでした。
実は、このような先輩の存在を見て、「私も先輩のようになりたい」と思う後輩キャストが増えていきます。
そして、そのようなキャストは主体的かつ積極的に仕事に取り組むようになっていきます。
もちろん、ホスピタリティを発揮し、ゲストに予想外の感動を与えるケースも増えていくでしょう。
04自社の商品に〝誇り〟をもたせる
ウォルト・ディズニーの哲学を体感するキャストたち
1955年、ウォルト・ディズニーはより多くの人により大きなハピネスを感じてもらおうと、それまで手がけていた二次元のアニメーション映画の世界をそのまま三次元の世界に移すために、ディズニーランドをつくり上げました。
ディズニーのキャストは、さまざまな機会を通じて、なぜウォルトがディズニーランドをつくったのか、その存在意義、つまりミッションは何かについて繰り返し伝えられます。
その結果、ディズニーのキャストはみな、ディズニーのショーに誇りをもっています。
だからこそ、自分の役割をきちんと果たし、ホスピタリティをもってゲストに接することもできるわけです。
東京ディズニーランドでは、キャストを対象にした映画上映会が開かれることがあります。
それも16ミリ映写機を使った、どこか懐かしいニオイのする上映会です。
上映される映画も、ディズニー初期の頃のアニメーションがほとんどです。
驚くのは、映画が終了した直後です。
たとえば、「白雪姫」を見終えたあととしましょう。
突然、部屋が真っ暗になります。
数秒後、「パッ」とライトに照らし出された扉が開けられて、実物の白雪姫やドーピーが現れるのです。
当然、キャストは驚いて大歓声を上げます。
実は、このような演出もディズニーの教育の一環といえるでしょう。
キャストは全員、ウォルトが二次元の映画の世界を体現するためにディズニーランドという三次元の世界をつくったことを入社後の導入研修で伝えられているので、当時を思い出し、初心に帰ろう、「いつでも初演を忘れないようにしよう」というわけです。
同時に、その三次元の世界で働くことで、ゲストにハピネスを提供しているのだという誇りを忘れないようにしようという意味が込められています。
ディズニーも他と同じように〝商品〟を扱っている
「ディズニーのキャストは全員、自分の職場や仕事に誇りをもっている」と言うと、「それはディズニーだから可能なんだ」と反論する人がいます。
しかし、それは間違っているといわざるを得ません。
というのも、東京ディズニーランドもまた、ハピネスを提供するための〝商品〟にほかならないからです。
何もキャラクターグッズだけがディズニーの商品ではないのです。
さらに、東京ディズニーランド内の7つのテーマランドも、それぞれ商品と考えることができます。
もちろん、各アトラクションも商品です。
ディズニーの商品も、ほかの商品と同じように、一生懸命、調査・研究され、開発されたものです。
クルマやテレビ、パン屋のパン、レストランの料理と同じく、商品のひとつにほかなりません。
規模の大きさは関係ありません。
ディズニーが特別ということはありません。
あなたの会社・組織でも、すべての従業員が、自社・組織の商品に誇りをもつことは十分に可能なのです。
企画・開発担当者の「思い」を伝える
すべての従業員に、自社で取り扱う商品に誇りをもたせるためには、どうすればいいのでしょうか。
それには、たとえば、ディズニーが創始者ウォルト・ディズニーの哲学を徹底的にキャストに伝えているように、企画・開発担当者の商品への思いや苦心談などの情報を、会社・組織のすべての人間にきちんと伝えるということです。
すると、「そんな思いが込められているのか」「よし、みんなで一生懸命に売ろう」などと商品に対する愛着や誇りが生まれ、モチベーションも上がってくるものです。
企画・開発担当はもちろん、宣伝担当も営業担当も販売担当も、一致団結して商品の売り出しに一生懸命に取り組むでしょう。
それは、ホスピタリティをもってお客様に接することに必ずつながっていきます。
05働きがいのある職場のつくり方
職場を笑顔でいっぱいにする
ディズニーの行動指針は、ホスピタリティを発揮するための基礎です。
ただ、その基礎を守り、ホスピタリティを発揮するには、前提条件が満たされている必要があります。
前提条件とは、ひと言でいえば、「働きがい」です。
つまり、自分の会社・組織、職場で働きがいを見出しているかどうかが問題です。
働きがいももてない人に、ホスピタリティを発揮することなどできるはずがありません。
ちなみに、この働きがいを、私は「JS(JobSatisfaction)」と呼んでいます。
働きがいのある職場は、当然、従業員満足度(EmployeeSatisfaction、以下「ES」といいます)、つまり、従業員の自分の仕事や職場に対する満足度が高いということになります。
では、働きがいをもたせるには、何が必要なのでしょうか。
創始者を尊敬している、経営陣の言動が一致している、商品に誇りがもてるなど、働くモチベーションを高めるためには、さまざまなことが考えられます。
もう少し身近な例をあげましょう。
前述したように、ディズニーの職場で特長的なのは、キャスト同士が、笑顔で明るく挨拶を交わし合っていることです。
ディズニーの場合は、それが当たり前のこととして根づいていますが、それが根づいていないような職場でも、最初はぎこちなくても笑顔で明るく挨拶を交わしていると、自然にコミュニケーションもとりやすくなってきます。
そして、チームワークもよくなり、居心地のよい職場になっていきます。
当然、従業員の働く意欲も増してくるはずです。
キャスト1人ひとりがリーダーになる
東京ディズニーランドが東日本大震災に見舞われた際のキャストのホスピタリティあふれる行動が話題になりました。
たとえば、あるキャストたちが自発的に、商品のぬいぐるみを防災頭巾がわりに、ゲストに配ったといいます。
たとえば、「ミッキーが守ってくれるからね」というように、ゲスト1人ひとりに語りかけながら、ぬいぐるみを手渡したというのです。
ディズニーの行動指針で最優先しなければいけないのが「安全性」ですから、まさに行動指針を守ったうえでの行動といえるでしょう。
ただ、商品を無料で配るというのは、考えてみれば、ちょっと勇気のいる行動です。
ためらっても不思議はありません。
しかし、ゲストのために実践したわけです。
なぜ、それができたのか。
それはディズニーには、日頃からキャストの主体的・自主的な行動を許す風土があるからです。
キャストが普段から「ゲストに喜んでもらえる」ことを自主的に実践していたことが、今回の震災でも、活かされたといえるでしょう。
一方、自主性を規制するような傾向があまり強いようだと、従業員は、ホスピタリティを発揮しようにもなかなか発揮できないものです。
従業員は萎縮し、息苦しさをつのらせることになります。
やはり、人は誰でも、のびのびと働くことのできる職場に魅力を感じるものです。
上司・先輩が積極的にフォローする
ディズニーでは、上司・先輩が積極的に部下や後輩に声をかけます。
たとえば、「いまのゲストへの対応、よかったよ」とフィードバックしたり、「もっと、こうしたらよくなるよ」とアドバイスしたり、ことあるごとに声をかけます。
そのことによって後輩は、「あの先輩、自分のことを見てくれているんだ」「私の存在を認めてくれているんだ」という気持ちになり、「よし、頑張ろう」と、さらに主体的・自主的に仕事に取り組むようになります。
ちなみに、私がディズニー在籍当時、私の職場内で「日頃、上司・先輩から、何か間違えたことがあれば、ちゃんと指導されているかどうか」を聞いたところ、ほとんどのキャストが「イエス」と答えました。
ディズニーの上司・先輩が、日頃から、いかによくキャストを見ているか、そしてマメに声をかけているかを再確認することができました。
イベントにも教育的な意味が込められている
ディズニーのキャスト・イベントのひとつに、アルバイトのキャストが「商品開発」をするというものがあります。
キャストがアイデアを出し合い、プレゼンテーションをして、優秀者には賞品が出るだけの催しですが、出したアイデアが実際に商品としてショップに並ぶこともあるので、キャストにとっては参加しがいのある楽しいイベントです。
モチベーションアップにひと役買っています。
これ以外にも、キャストが職場単位でチームをつくって挑むカヌーレースなども開かれ
ています。
開演前の早朝に練習をするのですが、指定された時間に1人でも遅れたり、1人でも練習を休んだりすると、そのチームは練習をすることができません。
ですから、ほかのメンバーに迷惑をかけないためにも、時間を厳守する、練習をサボらないことが求められます。
つまり、レースを楽しむだけでなく、ルールを守ることの大切さを知り、責任感や連帯感、チームワークを高めるという教育的な意味も込められているのです。
このほかにも、ディズニーには、教育的な意味を込めたキャストのためのイベントがありますが、それらのイベントの名称も、ディズニーの精神や世界観を込めたものになっています。
そのための専門のネーミング・チームもあるくらいです。
このようなイベントを通じて、キャストは、文字どおり、楽しみつつ学習するわけです。
それは同時に、ディズニーで働くことの誇りを再確認することにもつながります。
当然、仕事に取り組むモチベーションも高まります。
06従業員満足度(ES)を高める
ESが低ければ顧客満足度(CS)を高めることはできない
会社の業績を伸ばすには、CS(顧客満足度)を高める必要があります。
では、そのCSをつくり出しているのは誰かといえば、フロントライン(最前線)で働く従業員です。
フロントラインには、表舞台で働く従業員だけでなく、裏方で働く従業員も含まれます。
実は、このCSは、ES(従業員満足度)と切っても切れない関係にあります。
というのも、ESの低い従業員は、必然的に仕事に対するモチベーションも低く、マニュアルに決められたルールを守ればよいほうで、ホスピタリティを発揮することも少ないといわざるを得ないでしょう。
当然、CSに対する意識も低いため、実際にCSも低くなるでしょう。
言葉を換えれば、ESが高くなければ、CSを高めることはできない、のです。
では、ESを高めるには、いったい何が必要なのでしょうか?給料が高い、休日が多いなど、さまざまなことが考えられます。
そのなかで、ディズニーが、最も大切にしているのは、キャストが「働きがい」をもって自分の仕事に取り組める環境をつくるということです(CHAPTER3LECTURE05参照)。
ESとCSは自転車の両輪
私は、よくESとCSを「自転車の両輪」にたとえます。
前輪がCSで、後輪がESです。
多くの自転車は後輪駆動です。
つまり、前述したように、ESが動かないことには、CSも動かないわけです。
会社・組織が、CSを高めようと思えば、まずESを高めることが必要だということです。
さらに、自転車には両輪だけでなく、それを支えるフレームやサドルやブレーキ、チェーンもあります。
会社でいえば、施設や設備、情報や制度、しくみ、ルールなど、人を除くすべてのものが該当します。
そして、両輪がスムーズに回転するように、きちんと設計されているのはもちろん、正しく運用されていかなければなりません。
もちろん、ペダルを漕ぐ人がいなければ自転車は動きません。
ペダルを漕ぐのは経営陣やマネージャークラスだけと勘違いしている人がいますが、ペダルを漕ぐのは、経営陣はもちろん、正社員、アルバイトなど会社内・組織内のすべての人であることを忘れないようにしましょう。
さて、その自転車は、どこに向かって進めばよいのでしょうか。
そこで必要になるのがミッション(CHAPTER3LECTURE01参照)です。
そうです、ミッションが自転車がめざすべき「方向」を決めることになります。
ディズニーではキャスト全員が「すべてのゲストにハピネスを提供する」ことをめざして、ペダルを漕いでいるわけです。
ときには速度が速すぎて転倒することもあるでしょう。
そのとき、自転車を起こして再び漕ぎ出そうとしても、ミッションがなければ各自の方向性がバラバラで、再び転倒し、二度と自転車に乗れない、自転車は動かないということになってしまいます。
そういうことがないよう、ミッションをもち、つねにみんなが同じ方向を向いている必要があるわけです。
また、ときにはパンクをして、みんなで修理しなければならなくなるでしょう。
ときには、みんなで自転車を担いで通り抜けなければならないような坂に遭遇することもあるでしょう。
こういうときでも、ミッションがあれば、迷わず同じ方向に向かって進むことができます。
このミッションを実際にどう達成するかを取り決めたものが「行動指針」ということになります。
CHAPTER4ホスピタリティを「伝える」ためのスキル
01ホスピタリティを伝えるために必要な7つのスキル
ホームパーティを開くとしたら?
ホスピタリティに必要なスキルとは何でしょうか。
あなたがホームパーティを開いたときのことを想像してみると、その答えが見えてきます。
まず、ホームパーティを成功させるための2つの前提条件をクリアしておくことが必要です。
ひとつは、どういったお客様が何人いらっしゃるのかを、家族全員に知らせておくことです。
家族全員に知らせておけば、子どもが対応するにしても、「吉田さんですね、父から聞いております」ときちんと挨拶をすることもできるし、お客様も「私のことを知ってるんだな」と好印象をもたれるはずです。
たとえば、職場でお客様を迎えるときでも、それこそ受付も含めて職場の全員が知っていれば、職場のスタッフ全員で温かくお迎えすることができます。
お客様にしても、会う約束をした人物以外から挨拶をされればうれしいものです。
逆に、「誰、この人?」みたいな対応をされれば、イヤな印象が残ります。
もうひとつは、相手に好印象をもたれるような準備をしておくということです。
整理整頓や飾りつけなどに注意を払うことも必要でしょう。
ただ、それも度がすぎないようにすることが大切です。
気どらず、ありのままの状態を見てもらうという姿勢が、お客様の好感を呼ぶものです。
お客様を「笑顔」「挨拶」「アイコンタクト」で迎える
さて、ホスピタリティを伝えるために必要なスキルの話に移りましょう。
まず、お客様を迎えるときは、笑顔で、お客様の目を見て、明るく挨拶をします。
ディズニーの行動指針の「礼儀正しさ」を思い出してください(CHAPTER3LECTURE01)。
①笑顔②挨拶③アイコンタクトといったスキルをしっかり実行することが大切です。
TPOに合わせた「身だしなみ」とは?
もうひとつ重要なのが、きちんとした「身だしなみ(④)」で、お客様を迎えているか
ということです。
基本は、●清潔であること●上品であること●控えめであることです。
また、次の2点にも気をつけましょう。
●機能的であること仕事がしやすい身だしなみを心がける●調和がとれていること職場内の同僚やお客様とバランスのとれた身だしなみを心がけるTPOをわきまえ、周囲の人から浮き上がってしまうことのない、お客様に好印象を与えるような身だしなみであることが大切です。
ポイントは「スマートな応対」
ホスピタリティで最も大切なことは「一生懸命さ」です。
ただ、できれば喜んでいただけることをさりげなく、スマートに実行に移すことができれば、お客様もより心地よく感じてくれるはずです。
スマートな応対とは、ひと言でいえば、「お客様とのコミュニケーションをスムーズに、かつ深めるような応対をする」ということです。
基本は、次の3つです。
⑤言葉⑥話し方⑦ボディランゲージ次に、それぞれのスキルについてくわしく見ていきましょう。
02人は相手を「第一印象」で決める
第一印象が悪いとホスピタリティが通じない
人には、物や人に対して最初にもった印象、つまり第一印象を心にとどめておく傾向があります。
心理学的にいうと、第一印象に強い影響を受けることを「初頭効果」といいます。
こんな実験結果があります。
人が、「10個の単語を覚えてください」と言われて10個の単語を聞かされたあと、いちばんよく覚えていたのは、最初に出てきた単語でした。
これと同じことです。
人は、第一印象を実によく覚えているものです。
そして、もうひとついえるのは、第一印象は時間がたつにつれて、だんだん強化されていく傾向があるということです。
たとえば、「服が汚れてるなぁ」という第一印象が、いつのまにか「この人は不潔」というように変化・強化されていってしまうのです。
ですから、よい第一印象を与えることは、人と接するうえで、とても大切です。
第一印象が悪いと、ホスピタリティを素直に受け止めてもらえない可能性も大いにあり得ます。
だから私は、もっと強い言い方をします。
「わざわざ相手から嫌われるような第一印象を、自らつくることはないでしょう」と。
第一印象をよくする4つのポイント
実は、人の第一印象を左右する大きな要素が、挨拶、笑顔、アイコンタクト、身だしなみ、の4つなのです。
この4つをしっかり守っていれば、どんな相手にも悪い印象を与えることはなく、よい印象を与えるはずです。
ホームパーティはもちろん、どんなビジネスシーンでも絶対に必要な「基礎スキル」です。
人の記憶に残りやすいのは第一印象ともうひとつ、最後の印象です。
ですから、お客様のお見送りの言葉も忘れないように心がけましょう。
ちなみに、最後に受けた印象に強く影響を受けることを、心理学では「新近(終末)効果」といいます。
03ディズニーでは「いらっしゃいませ」と言わない
「いらっしゃいませ」では会話にならない
挨拶に関してディズニーに特徴的なことがあります。
それは、ゲストに対して、「いらっしゃいませ」と挨拶しないということです。
というのも、「いらっしゃいませ」と挨拶した場合、それに対して、ゲストは笑顔を返すことはできるでしょうが、挨拶を返すことはむずかしいものです。
そのため、ゲストが無言で目の前を通りすぎてしまう確率が高くなります。
そこで、ディズニーのキャストは、「おはようございます」「こんにちは」「こんばんは」の3つを使い分けるようにしています。
なぜなら、この3つの挨拶に対しては、必ずといってよいほど、ゲストも挨拶を返してくるからです。
挨拶が返ってくれば、「何かお探しですか」「新しく出たプーさんのストラップをお探しですか」と言葉を重ねていくことができます。
つまり、挨拶がゲストとコミュニケーションをとるきっかけになるわけです。
挨拶を職場に根づかせる
前述したように、ディズニーではゲストに明るく挨拶をすることが行動指針に規定されています。
ただ、ディズニーでは、ゲストに対してだけでなく、上司・先輩、同僚たちとも、明るく挨拶を交わし合うことが当たり前になっています。
挨拶をしなかったり、元気のよい挨拶でなかったりすれば、「どうしたの?元気がないね」と上司・先輩が心配して声をかけるくらいです。
職場でも明るく挨拶を交わし合う──それは、ディズニーの場合、新人当時こそゲストに対して挨拶を行うためのトレーニングといえるでしょうが、しだいに当たり前のこととして身についていきます。
まわりのキャスト全員がそれを実行しているからです。
ディズ
ニーの風土となっているのです。
04笑顔で接すれば笑顔が返ってくる
「つくり笑顔でも素晴らしい可能性を秘めている」
笑顔も第一印象を左右する重要なスキルです。
笑顔の素晴らしいところは、笑顔で接すれば相手も笑顔を返してくるということです。
たとえば、東京ディズニーランドには年間約1500万人のゲストが訪れます。
東京ディズニーシーと合わせると、年間約2500万人にもなります。
極端な言い方をすると、ディズニーのキャストが、すべてのゲストに笑顔で接すれば、2500万人の笑顔が返ってくることになります。
その実現をめざして、さまざまな研修やトレーニングが組まれ、上司・先輩たちは部下や後輩キャストを指導・サポートし、後輩キャストたちも自己啓発に励んでいるといっても過言ではないでしょう。
もちろんキャストも人間ですから、プライベートでつらいときもあるはずです。
だから私は、「つくり笑顔でもいいんだよ。
つくり笑顔でも、『笑顔』という信号が脳に行って、今度は脳から体全体に『笑顔で楽しいんだぞ』という指令が行き渡るんだよ。
だから、つくり笑顔でも体にいいんだよ」「笑顔で表情筋を鍛えると、シワになりにくくなるんだよ」と、個人的につらいときでも、なんとか笑顔でオンステージに立つことができるように、キャストたちに話したものでした。
いみじくも、マザー・テレサが次のような言葉を残しています。
「笑顔は、たとえつくり笑顔でも、素晴らしい可能性を秘めている」もちろんディズニーに限らず、笑顔で接すれば相手に好印象を与えることができるはずです。
たとえば、スタッフルームなどに等身大の鏡を置いて、お客様と接する前に、笑顔の練習や身だしなみの確認をするのもよい方法でしょう。
自分の「素の表情」を確認しておこう
そうはいいつつも、人間、四六時中笑顔でいることは、さすがに不可能でしょう。
そこで必要なのが、笑顔でないときの自分の顔を鏡でチェックしておくことです。
というのも、人によっては笑顔よりも素の表情のほうを印象にとどめることがあるからです。
そういう人に素の表情を見られて「笑顔はやさしそうだけど本当は怖そう」という印象を一度もたれてしまうと、たとえ心からの笑顔を見せたとしても、そうとは受け止めても
ホームパーティを開くとしたら?ホスピタリティに必要なスキルとは何でしょうか。
あなたがホームパーティを開いたときのことを想像してみると、その答えが見えてきます。
まず、ホームパーティを成功させるための2つの前提条件をクリアしておくことが必要です。
ひとつは、どういったお客様が何人いらっしゃるのかを、家族全員に知らせておくことです。
家族全員に知らせておけば、子どもが対応するにしても、「吉田さんですね、父から聞いております」ときちんと挨拶をすることもできるし、お客様も「私のことを知ってるんだな」と好印象をもたれるはずです。
たとえば、職場でお客様を迎えるときでも、それこそ受付も含めて職場の全員が知っていれば、職場のスタッフ全員で温かくお迎えすることができます。
お客様にしても、会う約束をした人物以外から挨拶をされればうれしいものです。
逆に、「誰、この人?」みたいな対応をされれば、イヤな印象が残ります。
もうひとつは、相手に好印象をもたれるような準備をしておくということです。
整理整頓や飾りつけなどに注意を払うことも必要でしょう。
ただ、それも度がすぎないようにすることが大切です。
気どらず、ありのままの状態を見てもらうという姿勢が、お客様の好感を呼ぶものです。
お客様を「笑顔」「挨拶」「アイコンタクト」で迎えるさて、ホスピタリティを伝えるために必要なスキルの話に移りましょう。
まず、お客様を迎えるときは、笑顔で、お客様の目を見て、明るく挨拶をします。
ディズニーの行動指針の「礼儀正しさ」を思い出してください(CHAPTER3LECTURE01)。
①笑顔②挨拶③アイコンタクトといったスキルをしっかり実行することが大切です。
TPOに合わせた「身だしなみ」とは?もうひとつ重要なのが、きちんとした「身だしなみ(④)」で、お客様を迎えているか
「つくり笑顔でも素晴らしい可能性を秘めている」笑顔も第一印象を左右する重要なスキルです。
笑顔の素晴らしいところは、笑顔で接すれば相手も笑顔を返してくるということです。
たとえば、東京ディズニーランドには年間約1500万人のゲストが訪れます。
東京ディズニーシーと合わせると、年間約2500万人にもなります。
極端な言い方をすると、ディズニーのキャストが、すべてのゲストに笑顔で接すれば、2500万人の笑顔が返ってくることになります。
その実現をめざして、さまざまな研修やトレーニングが組まれ、上司・先輩たちは部下や後輩キャストを指導・サポートし、後輩キャストたちも自己啓発に励んでいるといっても過言ではないでしょう。
もちろんキャストも人間ですから、プライベートでつらいときもあるはずです。
だから私は、「つくり笑顔でもいいんだよ。
つくり笑顔でも、『笑顔』という信号が脳に行って、今度は脳から体全体に『笑顔で楽しいんだぞ』という指令が行き渡るんだよ。
だから、つくり笑顔でも体にいいんだよ」「笑顔で表情筋を鍛えると、シワになりにくくなるんだよ」と、個人的につらいときでも、なんとか笑顔でオンステージに立つことができるように、キャストたちに話したものでした。
いみじくも、マザー・テレサが次のような言葉を残しています。
「笑顔は、たとえつくり笑顔でも、素晴らしい可能性を秘めている」もちろんディズニーに限らず、笑顔で接すれば相手に好印象を与えることができるはずです。
たとえば、スタッフルームなどに等身大の鏡を置いて、お客様と接する前に、笑顔の練習や身だしなみの確認をするのもよい方法でしょう。
自分の「素の表情」を確認しておこうそうはいいつつも、人間、四六時中笑顔でいることは、さすがに不可能でしょう。
そこで必要なのが、笑顔でないときの自分の顔を鏡でチェックしておくことです。
というのも、人によっては笑顔よりも素の表情のほうを印象にとどめることがあるからです。
そういう人に素の表情を見られて「笑顔はやさしそうだけど本当は怖そう」という印象を一度もたれてしまうと、たとえ心からの笑顔を見せたとしても、そうとは受け止めても
ということです。
基本は、●清潔であること●上品であること●控えめであることです。
また、次の2点にも気をつけましょう。
●機能的であること仕事がしやすい身だしなみを心がける●調和がとれていること職場内の同僚やお客様とバランスのとれた身だしなみを心がけるTPOをわきまえ、周囲の人から浮き上がってしまうことのない、お客様に好印象を与えるような身だしなみであることが大切です。
ポイントは「スマートな応対」ホスピタリティで最も大切なことは「一生懸命さ」です。
ただ、できれば喜んでいただけることをさりげなく、スマートに実行に移すことができれば、お客様もより心地よく感じてくれるはずです。
スマートな応対とは、ひと言でいえば、「お客様とのコミュニケーションをスムーズに、かつ深めるような応対をする」ということです。
基本は、次の3つです。
⑤言葉⑥話し方⑦ボディランゲージ次に、それぞれのスキルについてくわしく見ていきましょう。
第一印象が悪いとホスピタリティが通じない人には、物や人に対して最初にもった印象、つまり第一印象を心にとどめておく傾向があります。
心理学的にいうと、第一印象に強い影響を受けることを「初頭効果」といいます。
こんな実験結果があります。
人が、「10個の単語を覚えてください」と言われて10個の単語を聞かされたあと、いちばんよく覚えていたのは、最初に出てきた単語でした。
これと同じことです。
人は、第一印象を実によく覚えているものです。
そして、もうひとついえるのは、第一印象は時間がたつにつれて、だんだん強化されていく傾向があるということです。
たとえば、「服が汚れてるなぁ」という第一印象が、いつのまにか「この人は不潔」というように変化・強化されていってしまうのです。
ですから、よい第一印象を与えることは、人と接するうえで、とても大切です。
第一印象が悪いと、ホスピタリティを素直に受け止めてもらえない可能性も大いにあり得ます。
だから私は、もっと強い言い方をします。
「わざわざ相手から嫌われるような第一印象を、自らつくることはないでしょう」と。
第一印象をよくする4つのポイント実は、人の第一印象を左右する大きな要素が、挨拶、笑顔、アイコンタクト、身だしなみ、の4つなのです。
この4つをしっかり守っていれば、どんな相手にも悪い印象を与えることはなく、よい印象を与えるはずです。
ホームパーティはもちろん、どんなビジネスシーンでも絶対に必要な「基礎スキル」です。
人の記憶に残りやすいのは第一印象ともうひとつ、最後の印象です。
ですから、お客様のお見送りの言葉も忘れないように心がけましょう。
ちなみに、最後に受けた印象に強く影響を受けることを、心理学では「新近(終末)効果」といいます。
「いらっしゃいませ」では会話にならない挨拶に関してディズニーに特徴的なことがあります。
それは、ゲストに対して、「いらっしゃいませ」と挨拶しないということです。
というのも、「いらっしゃいませ」と挨拶した場合、それに対して、ゲストは笑顔を返すことはできるでしょうが、挨拶を返すことはむずかしいものです。
そのため、ゲストが無言で目の前を通りすぎてしまう確率が高くなります。
そこで、ディズニーのキャストは、「おはようございます」「こんにちは」「こんばんは」の3つを使い分けるようにしています。
なぜなら、この3つの挨拶に対しては、必ずといってよいほど、ゲストも挨拶を返してくるからです。
挨拶が返ってくれば、「何かお探しですか」「新しく出たプーさんのストラップをお探しですか」と言葉を重ねていくことができます。
つまり、挨拶がゲストとコミュニケーションをとるきっかけになるわけです。
挨拶を職場に根づかせる前述したように、ディズニーではゲストに明るく挨拶をすることが行動指針に規定されています。
ただ、ディズニーでは、ゲストに対してだけでなく、上司・先輩、同僚たちとも、明るく挨拶を交わし合うことが当たり前になっています。
挨拶をしなかったり、元気のよい挨拶でなかったりすれば、「どうしたの?元気がないね」と上司・先輩が心配して声をかけるくらいです。
職場でも明るく挨拶を交わし合う──それは、ディズニーの場合、新人当時こそゲストに対して挨拶を行うためのトレーニングといえるでしょうが、しだいに当たり前のこととして身についていきます。
まわりのキャスト全員がそれを実行しているからです。
ディズ
ニーの風土となっているのです。
らえないものです。
もちろん、自分が悪いわけでもないのですが、自分の素の表情がどういうふうに見えるかを確認しておけば、「怖そうな顔なので誤解されがちなんですけど……」と先手を打って、文字どおり相手の誤解を避けることもできるでしょう。
05アイコンタクトには「相手の存在を認める」効果がある
アイコンタクトがないと、相手は「無視されている」と感じる
アイコンタクトとは、相手の目を見て話す、ということです。
たとえば、相手にそっぽを向いて話されると、どんな感じがするでしょうか。
もちろんイヤな感じがします。
なぜイヤな感じがするのでしょうか。
それは、相手が自分の存在を無視していると感じるからです。
逆にいうと、アイコンタクトには、相手の存在を認めるという効果があります。
「目は口ほどにものを言う」といいますが、文字どおり目を見ると、相手がどんな気持ちで自分に接しているかが、それこそすぐにわかるものです。
とくに、挨拶をするときは、きちんと相手の目を見ることが大切です。
これは、礼を欠くことになります。
第一印象が悪くなることはいうまでもありません。
もちろん、相手が子どもである場合は、膝を折るなどして、自分の目の高さを子どもの目の高さに合わせましょう。
アイコンタクトが苦手な人は?
日本人の場合「すだれ文化」と呼ばれることもあるように、ずっと相手の目を見て話すのは苦手という人が少なくありません。
そこで、私は、「挨拶は絶対アイコンタクトでしなければならないが、相手が話し始めたら、視線を合わせ続けなくてもいいから、耳をそばだてて一生懸命に聞きましょう」とすすめています。
そのとき、うなずきや相づちなどを入れることで、さらに好感度が高まります。
そして、相手の話が終わりそうになった時点でアイコンタクトをとり、相手の話が終わると、相手に許可を求め、今度は、自分のほうから話し始めるのです。
自分が話すときは、相手の目をしっかり見て話しましょう。
ただし、ずっと目を見ることができない人は、ときどき軽く上下に目線をはずしてもよいでしょう。
06相手に好印象を与える3つの「言葉」
言葉は「使う」のではなく「遣う」
言葉は、道具のように〝使う〟のではなく〝遣う〟のです。
つまり、相手に気持ちを遣る、相手の立場に立って言葉を遣うのです。
キャストの言葉に関して、ディズニーでよくいわれるのは、「言葉の心遣い」ということです。
つまり、相手に好印象を残すような言葉遣いを心がけようということです。
その目安として、①明るい言葉、②やさしい言葉、③美しい言葉の3つをあげています。
言葉の選び方ひとつで、相手に与える印象も大きく違ってきます。
たとえば、「トイレ」と言っても、いまはそれほど違和感を感じないでしょうが、それよりは「お手洗い」という言葉のほうが、上品で清潔感もあります。
また、「おことわりします」と言うよりは、「ご遠慮いただけますか」と言ったほうが、相手も受け入れやすいでしょう。
ちょっとしたことですが、相手とのコミニュケーションを深めるうえで大切なことです。
また、「てにをは」の遣い方次第で、相手の受け止め方が違うこともあるので、注意したいものです。
たとえば、「英語を話すのは上手だね」と言うのと、「英語を話すのも上手だね」では、意味もニュアンスも全然違ってきます。
言葉を遣うときは、気配り、心遣いが大切です。
ディズニーでは「知りません」「できません」はNGワード
ディズニーでは、ゲストから質問を受けたときなどに「できません」「知りません」という言葉は禁止ワードになっています。
そういうときは、「お調べいたします」「確認いたします」と答えます。
そして、その結果「できなかった」「わからなかった」ときは、「まことに申し訳ないことでございますが、その商品は在庫を切らしております。
現在入荷の予定も決まっておりません」
というように言い、「そのかわり、このような商品がございますが、いかがですか」というような代替案をゲストに提示します。
この言葉の流れには、「知りません」「わかりません」と言い切ってゲストにあきらめてもらうのではなく、なんとかゲストが納得できるような答えを出したいというディズニーのホスピタリティが込められています。
「ていねい語」と「婉曲話法」が基本
ディズニーでは、新人キャストに対して「ていねい語」と「婉曲話法」について、研修・トレーニングを行っています。
ていねい語とは、「すみません」「~でございます」という言葉に代表される、文字どおり、ていねいな言葉です。
「婉曲話法」とは、「クッション言葉」と「依頼形」の2つを足したものです。
クッション言葉とは、「申し訳ないことでございますが~」「お手数をおかけいたしますが~」「失礼ですが~」というような、話の頭につける言葉のことです。
依頼形とは、「~していただけますか」とお願いする場合に最後につける言葉のことです。
ディズニーでは、ていねい語と婉曲話法の2つだけは、キャスト任せにせず研修・トレーニングによってしっかりと身につけるよう指導しています。
実際、この2つを身につけておくと、ゲストからのキャスト応対に関する苦情が格段に少なくなります。
ただ、その後、もっとゲストに喜んでもらいたいというホスピタリティをもつことによって、自己啓発のひとつとして、尊敬語や謙譲語などを自主的に学習するキャストも少なくありません。
相手が聞きやすい話し方
〈ポイント①〉まず、大切なのは明るい話し方です。
電話応対などでも、笑顔で話さなければ明るい話し方はできません。
〈ポイント②〉また、相手に伝わる声の大きさで伝えなければいけません。
〈ポイント③〉さらに話す速度です。
話す速度が速すぎると、意味が通じないのはもちろんですが、「せわしい人だな」と思われます。
相手が聞きやすいようにゆっくりと話しましょう。
間も大切です。
たとえば、文章にした場合、句読点の入るような箇所は、しっかり間を空けて話しましょう。
参考になるのは、NHKのアナウンサーの話す速度や間です。
視聴者がいちばん理解しやすいスピードで話しているのです。
少し高度になりますが、アクセント(声の抑揚)やイントネーション(語調)、強調なども少しずつ身につけていくと、コミュニケーション能力が飛躍的に高まります。
それは、もちろん、ホスピタリティが高まっていくことにつながります。
「表情」で話す
私たちが言葉でコミュニケーションをとるとき、そのフォローやサポートの役目を担うのが、ボディランゲージ(身体言語)です。
「非言語コミュニケーション」という言い方をすることもあります。
ボディランゲージのなかでも、重要なのが「表情」です。
たとえば、・相手が楽しそうであれば、笑顔で応える・不安そうであれば、心配そうな表情をする・何かに怒っているときは、真剣な表情をするというように、相手の状況に合わせて表情も変えることが大切です。
もちろん、相手の心を思いやる言葉をかけるのが前提です。
それに表情を組み合わせれば、相手も、「本当に、自分のことを考えてくれている」と思うものです。
ホスピタリティが、より相手に伝わりやすくなります。
相手に合わせて表情が自然に出るようになるのが理想です。
無意識のしぐさ・クセに注意する
ちょっと気をつけたいのは、無意識のしぐさです。
笑顔なのに手を強く握りしめたりすると、相手に、「この人、本当は怒ってるんじゃないのかな」と思われるようなケースもあります。
たとえば、口に手をかざして話すと、相手に「何かを隠してるのかな」と思われる傾向があります。
また、手を体の後ろで組む人やポケットにつっ込んでいる人も同じように「何か隠しているのかな」と思われてしまいます。
人と接するときは、自分の出やすい悪いしぐさ・クセに気をつけましょう。
別の見方をすれば、身体には「表現する力がある」ということです。
これをよい方向にもっていく、つまり、自分が相手に一生懸命に話していることをフォローし、サポートするようなしぐさやジェスチャーで表現すれば、相手も好感をもって話を聞いてくれるはずです。
パーソナル・スペースに入るときは声をかける
相手とどのような距離で接するかも、心得ておきたいことのひとつです。
というのも人は、それぞれ「パーソナル・スペース」をもっているからです。
つまり、「ここは私のなわばりだ。
これ以上近づくな」というスペースがあるということです。
日本人が初対面の人に対してもつパーソナル・スペースは、握手ができるくらいの距離で、それ以上接近すると不快感をもつといわれています。
ただ、パーソナル・スペースにどうしても入らざるを得ないケースもあります。
たとえば、お客様の目の前を横切らざるを得ないようなケースもあるでしょう。
こういうときは、お客様に許可をとりましょう。
たとえば、「失礼いたしますが、ちょっと前を通らせていただいてよろしいですか」と、ひと声かけるのです。
そして、相手が「いいですよ」と許可してくれれば、相手の前を横切っても、相手も不快な気持ちにはならないはずです。
ボディタッチするときは要注意!
相手に直接触れる、タッチするケースについても考えてみましょう。
人は、まずは親との直接的な触れ合いを通して、心と体を成長させていきます。
幼児期に、このような触れ合いがなければ心も体も正常に育つことはできません。
ところが、人は大人になるに従って、他人に軽々しく体に触れられることを嫌うようになっていきます。
お客様にボディタッチするときは、十分注意しなければなりません。
たとえ、相手が子どもであってもです。
どうしてもボディタッチせざるを得ない、あるいはボディタッチすることで事態を好転させることができるような場合は、事前に、「お肩に触れさせていただいてもよろしいでしょうか」というように、許可を求めることが必要です。
職場などで、誰かの成功を祝して、「おめでとう」「やったね」などと言って、ハイタッチをしたり、ハグしたりする光景を目にしますが、もちろん、こういうケースは例外です。
むしろ、このようなシーンがよく出る職場ほどよい職場といえるでしょう。
以上、スキルについて述べてきましたが、大切なのは、「スキルは人をコントロールするためのものではない」ということです。
人をおだてたり、ごまかしたりするためのものではありません。
スキルは、ホスピタリティを伝えるためにあるのです。
そのことを再確認しましょう。
ウォルト・ディズニーのホスピタリティディズニーの創始者であるウォルト・ディズニーの願いは「すべての人に幸せ(ハピネス)を提供したい」ということでした。
彼は、その願いを実現するために、世界で初めてのフルカラーの長編アニメーション映画「白雪姫」を制作し、世界のスーパースター・ミッキーマウスを生み出しました。
そして、1955年には、カリフォルニアにディズニーランドをオープンさせました。
彼の抱くテーマは、ファンタジー(夢・空想)、アドベンチャー(冒険)、ノスタルジー(郷愁)、トゥモロー(未来・宇宙)の世界でした。
それは、彼の、すべての人にハピネスを提供するための原点ともいうべきものです。
彼は、人の無垢な心や好奇心をくすぐるような世界をつくり出せば、人々が喜んだり楽しんだりしてくれると考えたのでした。
ただし、それを実現させるためには、当然そのための手段や方法が必要になります。
すなわち、それがアニメーションであり、ディズニーランドというテーマパークであったわけです。
ウォルトが、人々に幸せを届けたいという願いをもち、それを実際に届けるために手段や方法を必要とした、つまりアニメーション映画やテーマパークを必要としたという構図は、本書でいうホスピタリティを相手に伝えるためには、スキルもテクニックも必要だという構図と似ています。
つまり、「相手に対する主体的な思いやり」であるホスピタリティは、対人コミュニケーション能力ということができ、その能力を発揮するには、さらに「接客能力」「接遇能力」と呼ばれるものを身につけることが必要だということです。
これらの能力を身につければ、ビジネス、パーソナルを問わず、どのような世界、シーンであろうとも通用すると私は思っています。
すべてを一度に習得することはむずかしいかもしれません。
少しずつでもよいので、それらを習得していって、思いやりの心、ホスピタリティを読者のみなさまに感じ、出会う人々に伝えていただくことができればと願っています。
日本人の原点「思いやり」の心を見直そう私が、かつて、京都の老舗旅館に宿泊したときのことです。
季節は冬でした。
私は、宿泊手続きの際、「あとで、ちょっと京の街を散策してきます」と、仲居さんに告げました。
そして、部屋でひと休憩した後、散策するために玄関で靴を履こうとして、私は驚いてしまいました。
なんと、靴が温められていたのです。
宿泊者に、底冷えのする京の街を少しでも温かい状態で散策していただきたいという、
旅館の心遣いです。
もしかすると、それはサービスレベルであったかもしれません。
しかし、なんというレベルの高さでしょう。
日本人のもつ細やかな「思いやり」が見事に実践されており、私は感激しました。
同時に、同じ日本人として誇りを覚えずにはいられませんでした。
ホスピタリティは、日本人の原点ともいえる「思いやり」の心です。
人との関係のなかで、よりよい人生を楽しむために、これをもう一度見つめ直しましょう。
あとがきまず、東日本大震災で被災されたみなさまに心よりお見舞い申し上げます。
また、本書を最後までお読みいただいた読者のみなさまに感謝いたします。
私が前著を出版したあと、数多くの出版社から「第2弾を」と依頼されましたが、すぐにはお受けしませんでした。
次に出版の機会があるときは、何をお伝えすべきかもっと深く考えてからと思っていたからです。
そんななか、3月11日の震災が起こりました。
私も、テレビを観ていて、自然のもつ破壊力に恐れを抱いた1人です。
それとともに震災後の東北の方々の他人を思いやる行動に感動を覚えました。
食料が運ばれてくると、整然と並び、お年寄りや子どもがいると率先して先を譲る、その光景は、今回テーマにしている「ホスピタリティ」そのものでした。
日本人のDNAには深くこの「ホスピタリティ」が根づいていると感じたのです。
それは、ディズニーで働くキャストの気持ちと似ていました。
この「ホスピタリティ」はどのようにキャストのなかに育っていくのだろうと私なりに考えついた結論が、シンプルではありますが、やさしい笑顔、親しみのある挨拶、相手の存在を認めるアイコンタクト、そして相手が不快に思わない身だしなみでした。
まず、基本があり、そこから「ホスピタリティ」が生まれると考えたのです。
当たり前のことを書いているという感覚もあるのですが、私の視点で書きました。
この視点に、もし共感を覚えていただければ、これに勝る幸せはありません。
最後に、東日本大震災時のディズニー・キャストのゲスト応対を誇りに思っています。
「夢の世界を守ってくれて、ありがとうございました」福島文二郎
●参考文献『顧客「不満足」度のつかみ方』(武田哲男著、PHP研究所)『ウォルト・ディズニー創造と冒険の生涯完全復刻版』(ボブ・トマス著、玉置悦子・能登路雅子訳、講談社)『ディズニーランドという聖地』(能登路雅子著、岩波書店)
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