PROLOGUE
人は育つ――なぜ、バイトが9割でも最高のサービスを提供できるのか?
CHAPTER1育てる前に教える側の「足場」を固める
01ディズニーが考える理想の上司・先輩とは?
理想の上司・先輩とは?
最悪の上司・先輩とは?
02「教える喜び」を感じないと後輩は育たない
ディズニーでは、熱意のある先輩が指導役に抜擢される
後輩を育てるときに欠かせない3つのポイントとは?
03自分が扱われたように、後輩は人を扱う
ディズニーでは、先輩がゲストと同じように後輩を迎える
先輩が笑顔で後輩に接するのは当たり前のこと
04「見て覚えろ」では後輩は育たない
後輩の「やる気」を引き出すディズニーの指導プログラム
育て方を間違えると、会社が損をする
05ミッションを正しく理解し、後輩に伝える
ディズニー・ミッション──すべてのゲストにハピネスを提供する
御社に「ミッション」はあるか?
すべての会社・組織に共通するミッション──人のためになる人材を育てる
上司・先輩は、ミッションをきっちり理解しておく
なぜディズニーでは、ミッションが社員全員に浸透しているのか
06行動指針をもち、優先順位をはっきりさせる
「行動指針」は飾りじゃない!
行動指針があれば「迷い」がなくなる
ディズニーの行動指針は、御社にも活用できる
CHAPTER2後輩との信頼関係を築く
01リーダーシップをもって後輩と接する
リーダーシップに必要な2条件とは?
02後輩に「いつも見てくれている」と意識させる
後輩が気がつくように、堂々と「見る」ことがポイント
「見る」ことで、後輩に公平感・納得感を抱かせる
「見る」ことが後輩のモチベーションを高める
03何か感じたら、すぐに「声をかける」
「声かけ」が「見てくれている」ことを実感させる
直接声をかけることができない場合は、メモを渡す
04仕事の成果だけに注目しない
成果ばかり気にしていると、後輩の信頼を損ねる
後輩の行為そのものを評価する
後輩の最善を尽くす姿勢を評価する
05間違った考えに染まった後輩を変える!
いったん根づいた風土を変えるのは容易ではないが……
本来のミッションが忘れられていた職場に赴任──
ゲストからクレームが入った!
孤独だった……「50対1の戦い」
正しいミッションが復活!「人は変わる」ことを実感
CHAPTER3後輩のコミュニケーション能力を高める
01後輩の〝存在〟を認める
「ストローク」こそ、良好な人間関係をつくる基本
フェイス・トゥ・フェイスで対応する
02後輩に、常に思いやりをもって行動させる
思いやりに行動がプラスされてはじめて、相手は感動する
キャストのホスピタリティ・マインドが奇跡を起こした!
思いやる気持ちを育てるためのルールをつくる
自分を成長させることに気づかせる
03価値観を共有する
より多くの価値観を共有すれば、人間関係がよくなる
積極的な情報「発信」と「収集」が重要
04後輩との面談・話し合いは、ここに要注意!
後輩と話し合うときのポイントは、2つ!
ポイント①後輩が安心して話せる場所を選ぶ
ポイント②後輩が、どういう状態であるかをつかむ
05後輩の状態に合わせて対応を変える
心身ともに充実した後輩──目標を設定させる
心身ともに疲労した後輩──徹底して傾聴する
CHAPTER4後輩のモチベーションを高める
01笑顔のあふれる職場をつくる
仕事のレベルの高い職場の共通点は何か
上司・先輩が職場の風土づくりのカギを握る
笑顔の多い職場は、仕事に対するモチベーションも高い
02仕事の重要性を認識させる
仕事の重要性を繰り返し繰り返し伝える
新人研修の1カ月をカストーディアル実習にあてる
今日は、社長がカストーディアル!
アルバイト自ら仕事のレベルアップをはかる
03「誇り」をもてる環境をつくる
「誇り」をもつディズニーのキャストたち
行動指針がパーク内の施設にも反映されている
言行不一致だと、後輩のモチベーションは下がる一方
04指示するときは、必ず「理由」も伝える
ディズニーでは意味・理由も伝えるのが常識
指示の意味・理由がわかれば、効率・生産性があがる
05後輩によい点を見出せば、すぐにほめる
ディズニーには、「キャストがキャストをほめる」しくみがある
最善を尽くす後輩の頑張りをほめる
CHAPTER5後輩の自立心・主体性を育てる
01後輩に自信をもたせる
フィードバックされることで、後輩は自信をつける
上司・先輩、同僚も、フィードバックすることが大切!
02後輩に「スモールステップ」をもたせる
大きな目標を立てても、失敗の可能性大!
身近な上司・先輩こそ、最適のサポート役
スモールステップに挑むディズニーのキャストたち
03後輩に自立のチャンスを与える
ディズニーの後輩を自立させる「しくみ」
ディズニーの後輩の自主性を尊重する「風土」
おわりに
カバーデザイン●吉村朋子本文デザイン●高橋明香(おかっぱ製作所)
ディズニーが長い年月をかけて築き上げた「人を育てる」メソッド集――
なぜ東京ディズニーランドは、いつも笑顔にあふれ、ピカピカなのか?東京ディズニーランドには、毎年1500万人ものゲスト(お客さま)が訪れます。
ディズニーのテーマパークは、東京の山手線内ほどの広さをもつフロリダのザ・ウォルト・ディズニーワールドをはじめ、カリフォルニア、パリ、香港など、世界中に存在します。
もちろん、ディズニー以外にも、テーマパークは存在します。
そのなかで、東京ディズニーランドの入園者数は、世界一を誇っています。
つまり、それだけ「顧客満足度」(Customersatisfaction.以下「CS」といいます)が高く、リピーターも非常に多いということです。
リピート率は、毎年98パーセント前後にも達するといわれています。
それを証明するかのように、たとえば、「東京ディズニーランドに行くと、社員がすごく元気で、親しみのこもった挨拶をしてくれる」「社員がいつも笑顔で迎えてくれて、とても気持ちがいい」といった声をよく耳にします。
言葉を換えれば、東京ディズニーランドで、多くの人が小さな感動を覚えているといえるでしょう。
それが、リピーターが多い大きな要因ともなっています。
また、同時に、次のような疑問・驚きを抱く人も多いのではないでしょうか。
「パーク(東京ディズニーランド)にゴミが放置されていないのは、なぜか」「いつ訪れても、パーク内のガラス窓にほこりや水アカが着いていないのは、なぜか」「冬でも芝生が青々としているのは、なぜか」「いつも、トイレがピカピカなのは、なぜか」「ジャングルクルーズのスキッパー(案内係・船長)は、同じナレーションなのに、なぜ、いつもあんなに一生懸命できるのか」「なぜ、雨のなかでも、屋外ステージショーのイスを拭くのか」「なぜ、ディズニーの社員は誰でも、子どもに対して、きちんと膝を折って話すことができるのか」
「アトラクションでゲストが落としたコンタクトレンズを社員が見つけたというが、どうしてそんなことが可能なのか」もちろん、これはほんの一例に過ぎません。
これら以外にも「どうして、このようなことが可能なのか」といった疑問や驚きをもたれる場面も多いはずです。
いったいどうして、多くのゲストが驚嘆するような高いクオリティを維持することができるのでしょうか。
社員1人ひとりが、リーダーシップをもっている!ひと言でいえば、誰も手抜きをしないからです。
社員1人ひとりが、ゲストの安全をまず第一に考え、最高のショーを提供するために働いています。
それが、前述のような、多くの人の疑問や驚きにつながっているのです。
では、どうして、誰も手を抜こうとしないのでしょうか。
ディズニーの上司や先輩は、後輩たちをよく見ています。
しかし、四六時中見ていることは不可能です。
ですから、手を抜こうと思えば、抜けるはずです。
しかし、誰も手を抜こうとはしません。
なぜでしょうか。
それは、社員1人ひとりが、リーダーシップをもっているからです。
リーダーシップについては本文でくわしくご紹介しますが、「リーダーシップをもつ」とは、端的にいうと、「ホスピタリティ・マインド」(思いやり)をもって、人の模範となるように行動することです。
ディズニーでは、日常的に、上司や先輩が、このようなリーダーシップをもって、後輩たちに接しています。
その結果、後輩たちも、「あの上司や先輩のようになりたい」と、上司や先輩を模範に行動するように育っています。
すなわち、社員1人ひとりが、上司や先輩と同じようにリーダーシップをもち、仕事に取り組んでいます。
だからこそ、日常の仕事で手抜きをしないのはもちろん、自ら積極的にゲストのニーズを理解しようと努めたり、「もっと、こうしたほうがいい」と積極的に提案も行っているわけです。
言葉を換えれば、主体的に、かつ積極的に仕事に対するこだわりをもち続けています。
それが、パークにいつ行ってもピッカピカの状態を、四半世紀にもわたって維持し続けることにつながっているのです。
そして驚くことに、パークで働く社員のほとんどはアルバイトなのです!ディズニーの考え方──「人は経験で変わる!育つ!」
リッツカールトンという有名な高級ホテルがあります。
お客さまに素晴らしいサービスを提供することでよく知られています。
この会社の従業員採用の特長は、会社の考え方に同調できない人はもちろん、サービス業に向いていないと判断した人は、絶対に採用しないということです。
アルバイトでも、徹底的に選抜が行われます。
つまり、自社の仕事に対して素養・素質があると見込まれる人しか採用しません。
もちろん、リッツカールトンの従業員採用に対する考え方が間違っているとは思いません。
ただ、ディズニーは「ウエルカム」、つまりアルバイト採用に応募してきた人は、基本的に全員採用する方向で対応しています。
年によって異なりますが、1年間で、約1万8000人いるアルバイトのうち半分近くの9000人くらいが退職していきます。
そのため、1年に3回くらい3000人近くのアルバイトを採用しなくてはなりませんが、推定で5万人以上の応募者が集まります。
もちろん、採用人数には限りがあります。
ですから、すべての人を採用することはできません。
しかし、基本的には「ウエルカム」というのがディズニーの姿勢です。
ただ、面接で、「笑顔を出すことができますか」という質問をしたとき、なかには、どうしても出せないという人がいます。
「笑顔が出せない」というのは、ゲストに不満足を与えることにつながるので、こういう人は採用が見送られます。
もちろん、人としての基本的な挨拶ができていなかったり、ディズニーの身だしなみのルールが守れないというような人は採用されません。
このほか、時間帯が合わないなど、いろいろな事情で辞退する人もいます。
たしかに、ディズニーには、テーマパークの運営上、大量採用しなければならないという事情があります。
しかし、ディズニーには「人は経験で変わる・育つ」という考え方があります。
人には変わる・育つ可能性があり、その可能性を実現することが、ディズニーの高いクオリティを維持していくことにつながると考えているのです。
そのために、この本でもご紹介するような研修、トレーニング、アルバイト・社員間での話し合いなど、さまざまなことが実践されています。
というと、「それは、ディズニーだから、できるんだ」という声をよく耳にします。
しかし、そんなことはありません。
なぜなら、ディズニーの教育研修やしくみの背景にある基本的な考え方は、規模や業種・業態を問わず、すべての会社・組織に共通するものだからです。
もちろん、そのまま活用できるものも、たくさんあります。
たとえば、ディズニーでよくいわれる「挨拶」や「笑顔」は、パークを訪れたゲストに対してだけではなく、アルバイトや社員間においても求められます。
その人としての基本的な所作が、実は職場の人間関係をよくし、アルバイト・社員個々の働きがいを育て、ゲストに感動を与えるという重要な役割を果たすからにほかなりません。
逆に、挨拶・笑顔の見られない職場では、社員相互の信頼関係も希薄で、社員が働きがいを感じることも少ないものです。
それが、CSの低下、会社の衰退に直結することはいうまでもないでしょう。
挨拶や笑顔を実行に移せない会社・組織はないはずです。
ディズニーの教育研修やしくみ・風土には、①社員、②顧客、③会社の信頼関係を築く、すなわち「3コンフィデンス」を実現するための考え方・メソッドが詰まっています。
後輩教育にあたる上司・先輩のみなさんは、それらの考え方・メソッドを、後輩の育成・自立のために大いに活用してください。
本書の構成本書は、次のように構成されています。
[CHAPTER1]育てる前に教える側の「足場」を固める
▼上司・先輩自身が、まず身につけておかなければいけない考え方・姿勢について[CHAPTER2]後輩との信頼関係を築く▼後輩とどう接すればよいのか、どうすれば後輩の信頼を得ることができるのか[CHAPTER3]後輩のコミュニケーション能力を高める▼どうすれば後輩は、顧客、上司・先輩、同僚と上手にコミュニケーションをとることができるようになるのか[CHAPTER4]後輩のモチベーションを高める▼どうすれば後輩は、やる気を出し、働きがいをもって仕事に取り組むようになるのか[CHAPTER5]後輩の自立心・主体性を育てる▼どうすれば後輩は、自主的・主体的に仕事に取り組むようになるのか
CHAPTER3後輩のコミュニケーション能力を高める
01後輩の〝存在〟を認める
「ストローク」こそ、良好な人間関係をつくる基本
私が職場で「50対1」の状態になったときの苦しみについて前述しましたが、たしかに、職場において、誰も仲間がいない状態というのは、耐え難いものです。
やはり良好な人間関係のなかで、活発なコミュニケーションを通じてこそ、後輩の仕事に対するモチベーションもあがり、集中もできます。
では、良好な人間関係をつくり、活発なコミュニケーションを実現するためには何が必要なのでしょうか。
ひと言でいえば、相手の存在を認めるということです。
そのために、前述したように、いつも見ている、マメに声をかける、といったことが必要になります。
このような相手の存在を認める行為を「ストローク」といいますが、ストロークこそ、良好な人間関係をつくり、人を育てる基本中の基本です。
たとえば、「話し相手がほしい」と思うのは自然な感情です。
それは、自らストロークの大切さを知り、自らストロークを求めているということでもあります。
人は、他人からのストロークがなければ、自分の存在を確認することができません。
自分で自分の存在を確認することができなければ、他人を信頼することも、自ら成長することも覚束なくなります。
こういう視点もふまえて、ディズニーの上司・先輩は、後輩たちへのストロークを常に心がけています。
フェイス・トゥ・フェイスで対応する
最近はメールでやりとりする機会も増えてきました。
このメールも、ストロークのひとつといえるでしょう。
といって、いつもメールですますというのは考えものです。
というのも、メールでは、相手の感情や気持ちをほんとうに知ることはできないからです。
逆に、自分のほんとうの気持ちや感情を伝えることもむずかしいものです。
いちばんよいのは、やはり、フェイス・トゥ・フェイスで対応することです。
フェイス・トゥ・フェイスであれば、相手の感情や気持ちを、その表情から汲みとることができます。
心の通うコミュニケーションをはかるには、フェイス・トゥ・フェイスがいちばんよい方法です。
02後輩に、常に思いやりをもって行動させる
思いやりに行動がプラスされてはじめて、相手は感動する
ディズニーでは、キャスト1人ひとりが、「ゲストに楽しんでいただきたい、幸せになっていただきたい」というホスピタリティ・マインドをもっています。
ただ、マインド、思いをもっているだけでは、相手に伝わりません。
それに、主体的な行動がプラスされることが必要です。
たとえば、困っているゲストがいれば、キャストのほうから、「何か、お困りですか」とひと言かけるといった行動に移してはじめて、ゲストは、「なんていい人なのかしら」と感じるものです。
つまり、実際の行動に移すことによって、キャストの思いが伝わり、ゲストの心に感動や信頼が生まれていくのです。
このように、「ホスピタリティ・マインド」+「行動」によって、顧客が社員個人に信頼を寄せる、顧客は、同時に、社員を教育している会社にも信頼を寄せていきます。
一方、会社も、上司・先輩がその社員を見ていますから、「彼は、頑張っているな」とその社員に信頼を寄せます。
つまり、社員、会社、顧客の間で、いうなれば「3コンフィデンス」ができあがります。
3者が信頼関係で結ばれることになります。
キャストのホスピタリティ・マインドが奇跡を起こした!
私が、「ホーンテッドマンション」というアトラクションの責任者をしていたときのお話です。
ホーンテッドマンションは〝西洋のお化け屋敷〟で、乗り物に乗って館内を回ると、いろいろな西洋のお化けに遭遇するというアトラクションです。
ある日、ホーンテッドマンションに来られた女性ゲストが、「館内でコンタクトレンズを落とした」と、キャストに告げられたのです。
館内は薄暗く、しかも乗り物が動いているので、すぐに探すわけにはいきません。
そこで、「閉園後に探してみて、結果は、後日、お知らせします」ということで、女性の了解を得ました。
さて、閉園後です。
といっても、1時間後には、ナイトカストーディアル(夜の清掃担当者)のキャストが清掃に来るので、探す時間はそれまでということになります。
私が、このことをキャストに話すと、「一緒に探しましょう」と言って20名くらいのキ
ャストが残って探してくれました。
しかし、探すのは、無色透明、しかも目に入れても痛くないほどの大きさです。
結局、見つかりませんでした。
「しようがないね。
今回は、あきらめよう」と私が言うと、キャストの1人が、「ナイトカストーディアルの人に頼んで、もう一度探しましょうよ」と言うのです。
そこで、ナイトカストーディアルのキャストにわけを話すと、ナイトカストーディアルのキャストも、「わかりました。
じゃあ、私たちも一緒に探しますよ」と言ってくれました。
――私の職場のキャストだけでなく、ほかの職場のキャストまで手伝ってくれる。
私は、「すごい(素晴らしい)ところで、自分は仕事をしてるんだな」と感激させられてしまいました。
2つの部署のキャスト合同による、夜のお化け屋敷の大探索が始まりました。
その結果、なんと、無色透明の小さな小さなコンタクトレンズが見つかったのです。
1人のゲストのことを思いやって、自ら進んで協力を申し出、力を合わせたキャストのあったかいハートが、奇跡を起こしました。
思いやる気持ちを育てるためのルールをつくる
ホスピタリティ・マインドと自主的行動は、顧客に対してだけ発揮されるというものではありません。
というよりも、会社内、職場内で身につけ、熟成させていればこそ、顧客に対しても、ホスピタリティ・マインドを抱き、自主的行動もとれるのです。
前述したように、上司・先輩の姿を見て、後輩が個人的に学びとることもあります。
しかし、それだけでなく、職場内においても、ホスピタリティ・マインドと自主的行動を育てるためのルールをつくっておくと効果的です。
たとえば、ディズニーでは、・明るく元気のいい挨拶・相手の存在を認めるアイコンタクト・職場全体を明るくする笑顔の3つを守ることが求められます。
つまり、CS向上のために欠かせない行動指針(親しみのある礼儀正しさ)がそっくりそのままキャスト間にもあてはめられているのです。
つまり、ホスピタリティ・マインドと自主的行動が、職場内で日常的にトレーニングされているようなものです。
こうした「親しみのある礼儀正しさ」は、相手を思いやる気持ちがあればこそ、起こすことのできる行動です。
そして、ディズニーの場合は、いまでは、それが当たり前のことになっています。
言葉を換えれば、自然に行えるほどキャストに浸透しているのです。
これに対して、次のような職場では、相手を思いやる気持ちが生まれるのはむずかしいといわざるを得ないでしょう。
当然、社員間のコミュニケーションも乏しくならざるを得ないはずです。
・隣にいるのにメールで用件を伝える職場・重い荷物を運んでいるのに手伝おうとしない職場・挨拶もろくに交わされない職場・笑顔のほとんど見られない職場・そっぽを向いて相手と話すことがふつうの職場もし、このような職場であれば、上司・先輩は、自ら率先して改善に乗り出すべきです。
いわば、後輩を育てるための土壌づくりのようなもので、これをないがしろにして、後輩を育てようとしても、よい結果は得られません。
自分を成長させることに気づかせる
ホスピタリティ・マインドをもち、自主的行動をすることで、相手の信頼を得ることができると前述しました。
このことは、相手から、自分の存在が認められていることにほかなりません。
つまり、自分にとっても大いにプラスとなって、はね返るということです。
とかく「ホスピタリティ・マインドをもて」と言うと、相手に対する一方的な気遣いだけのようにとらえられがちです。
しかし、それは自分の喜び、成長にもつながるものであることを、上司・先輩は、後輩にしっかりと伝えましょう。
03価値観を共有する
より多くの価値観を共有すれば、人間関係がよくなる
職場の人間関係がよければ、それだけ社員間のコミュニケーションも活発に行われ、チームワークもよくなります。
それが、仕事の効率や生産性をあげることはいうまでもないでしょう。
では、職場の人間関係をよくするためには、どうしたらよいでしょうか。
これまでも、そのヒントや方法に関していくつか述べてきましたが、ここでは、その有効な方法である「価値観を共有する」ということについてご説明しましょう。
心理学的にいうと、人の間には、「自己認識」と呼ばれる部分と「他者認識」と呼ばれる部分があります(図表)。
「自己認識」とは、「私は、よく笑う」「私は、野球が得意だ」というように、自分自身で感じている自分のことです。
「他者認識」とは、「○○くんは、おしゃべりだ」「○○くんは、走るのが速い」というように、他人が知っている自分のことです。
自己認識と他者認識が一致している部分を「自己理解」といいます。
つまり、価値観を共有している部分です。
当然、自己理解の部分が広ければ広いほど、人間関係がうまくいっていることになります。
職場の全員が、それぞれ広い自己理解の部分をもっていれば、人間関係がそれだけ良好で、いきいきと仕事ができる職場といえます。
これは、会社と社員の間にもあてはまる考え方です。
たとえば、会社の考えている認識と社員が考えている認識がより広く重なりあうほど、共通の価値観を多く有していることになり、組織力も高まります。
同じく、会社と顧客の間にもあてはまります。
たとえば、会社が提供している価値観や自社の魅力と、顧客が会社に対して感じる価値観、魅力が一致している部分が広いほど、会社と顧客の間にズレがないことになります。
そのとき、顧客が感じている自己理解部分のほうが広ければ、会社のねらい以上に、顧客が魅力を感じていると考えられます。
ただ、その場合は、その要因をリサーチし、的確に対応する必要があるでしょう。
理由がはっきりしないままにしておけば、自社の魅力を自ら見過ごすことになり、せっかくの組織成長をする機会を失う可能性があるからです。
積極的な情報「発信」と「収集」が重要
では、どうすれば、自己理解を広くする、つまり「価値観を共有する」部分を広げることができるのでしょうか。
その方法として、2つのことをあげることができます。
方法1自分の情報を自ら積極的に発信するひとつは、「私はこういう人間です」と自分をオープンにすることです。
そうしなければ、相手は、自分のことを知ることができません。
会社と社員間においても、たとえば、会社が、会社の考え方や情報を社員にオープンにしなければ、社員は知ることができません。
会社と顧客間においても同様です。
顧客に積極的に会社の情報を提供しなければ、顧客が会社をより広く理解することは困難です。
まずは、こちらの情報をオープンに、積極的に相手に伝えることです。
方法2相手の情報を積極的に収集するもうひとつは、相手の情報を積極的に収集することです。
上司・先輩と後輩の関係であれば、後輩の話に耳を傾ける、ときには上司・先輩が積極的に後輩の話を引き出すことも必要でしょう。
会社と社員の関係でいえば、会社は社員の意見に耳を傾ける姿勢をもつことが大切です。
会社と顧客の関係でいえば、顧客に対してアンケートやグループインタビューなどによ
って顧客の意見を集めます。
以上のような積み重ねが、価値観の共有部分を広げ、お互いの理解を深めることになります。
ディズニーの場合も、ふつうの会社と同じように、アンケートやインタビューを実施しています。
ただ、ディズニーの場合は、もうひとつ、顧客の情報収集については、強力なパーソンが存在します。
それは、フロントライン(前線)で働くアルバイトたちです。
彼らは、文字どおり、顧客と直接、接しており、顧客の変化やニーズなどについて、非常によく観察しています。
そして、何か気がついたことがあれば、すぐに上司・先輩に報告します。
同時に、「ここは、こうしたほうがいい」といった提案も積極的に行います。
もちろん、会社も、たとえばトイレにゲストが並ぶ人数や時間など、定期的に調査していますが、アルバイトは常に現場に張りついています。
「耳が多いほど、客の声がよく聞こえる」ではありませんが、ディズニーには、約1万8000人のアルバイトがいます。
アルバイトたちの日常の仕事を通じて、ディズニーでは、それこそリアルタイムで顧客情報が吸い上げられ、活かされています。
後輩と話し合うときのポイントは、2つ!
人事評価、改善点の伝達、約束事の確認、後輩からの申し出による相談……上司・先輩が後輩と話す機会は、さまざまです。
もちろん話の内容にもよりますが、上司・先輩は、どうすれば後輩が本音で向き合ってくれるか、どうすれば後輩の力になってやることができるかなどについて、後輩の立場に立って考える必要があります。
そういうことに無頓着な上司・先輩がいるとすれば、彼らが後輩の本音を聞き出すことは、むずかしいといわざるを得ないでしょう。
ディズニーの上司・先輩が、日頃、後輩と話す機会をもつとき注意しているポイントは、2つあります。
ポイント①――後輩が安心して話せる場所を選ぶ
ひとつは、「安心感」をつくり出すということです。
つまり、後輩や部下が、安心して話すことのできる環境をつくってあげることにディズニーの上司・先輩は、常に気を配っています。
たとえば、後輩が人に聞かれたくないような話をしなければいけないときは、人目につかない場所を選択します。
ケース・バイ・ケースですが、何も応接室で話す必要はありません。
人のあまり来ない倉庫の片隅で話し合うとか、とにかく、後輩や部下がよけいな心配や不安を感じないですむような場所を選ぶことが大切です。
ポイント②――後輩が、どういう状態であるかをつかむ
心身ともに疲労した状態か、心身ともに充実した状態かディズニーの上司・先輩が注意しているもうひとつのポイントは、後輩がどういう状態であるかを把握することです。
もっと具体的にいうと、後輩が、心身ともに疲労した状態であるか、それとも心身ともに充実した状態であるかをみるのです。
というのも、心身が疲労している状態のときに、
「頑張れよ」「もっと笑顔を出そうよ」と言っても、改善しないからです。
たとえば、恋人のことや、家庭内のことに原因がある場合には、いくら仕事の話をされても、そちらのほうが気になって、仕事のことに集中できないものです。
まず心の問題を解決しないかぎり、仕事上の問題は解決できません。
こういう場合は、カウンセリング(相談)的な対応が求められます。
一方、心身が充実している場合は、「今度、どういう目標でいく?」「ここまできたね。
よし、また頑張っていこう」と、さらなる飛躍を願って、コーチング(指導)的な対応をとることができます。
後輩の状態を知るにはどうすればよいか上司・先輩が話してみても、後輩の状態がよくわからないということも考えられます。
特に心に悩みなどがある場合は、後輩もすぐには話しづらいでしょう。
そこで、ご紹介したいのが、「関心度チェックシート」を活用することです(次ページ)。
シートには、次のようなチェック項目が記されています。
・職場・生活(職場・生活の場所や空間への関心)・仕事(現在、自分の担当している仕事や立場、キャリアなどへの関心)・対人関係(職場の人間関係などへの関心)・学習(学業、スキルアップなどへの関心)・お金(貯蓄、各種ローン、借金などへの関心)・家族・プライベート(親、兄弟、子ども、妻、恋人、友人などへの関心)・健康問題(健康への関心)・趣味(自分の趣味への関心)これらの項目のうち、いちばん関心があるものは10点、関心が全然ないものは0点として、自分の関心の高さに応じて点数を記入します。
ただし、シートに点数を記入してもらって、いきなり、こちらから「こういう傾向があるね」と切り出さないようにしましょう。
まずは「全体的に見て、どう思いますか」と感想を聞いてみます。
すると、たいていの場合は、自分のほうから気になることについて話してくれますから、心身が充実しているか、そうでないかが、よりはっきりします。
つまり、コーチング的対応をすべきか、カウンセリング的対応をすべきかがわかるわけです。
ただし、シートに正直に記入してもらうためには、後輩との間で信頼関係が築かれていることが前提となります。
まずは信頼関係をきっちりと築いておくことがカンジンです。
次節では、コーチング的対応とカウンセリング的対応について、それぞれ具体的にみていきましょう。
05後輩の状態に合わせて対応を変える
心身ともに充実した後輩――目標を設定させる
前述したように、心身ともに充実した後輩に対しては、コーチング的対応をすることになります。
コーチング的対応のいちばんのポイントは、目標を設定させることです。
本人が仕事に対して意欲を燃やしているので、力をアップさせるために目標をつくり、それを達成できるようサポートするのが、上司・先輩の役割ということになります。
そこで、次のような順で質問していきます。
①「「あなたが理想としているのは、どういうことですか」と質問します。
②「その理想に近づきたいと思いますか」と、本人の意思を確認します。
③「そのために、いつまでを目途に、何をしたいと思っていますか」と理想を実現するための第1歩目の目標を聞きます。
④「私は、こういうサポートができますが、サポートを受けますか」と上司・先輩のサポートをあおぐ意思があるかどうかを確認します。
こうして、目標や、上司・先輩のサポートを受けるかどうかが決まれば、あとは実践です。
そして、この目標が達成できれば、また、同じように対応して、第2歩目の目標を決めます。
このような対応・手順を繰り返すことで、後輩は、自分の理想に少しずつ近づいていくことになります。
目標を立てるとき注意しなければならないのは、あまり大きな目標をかかげないことです。
そういう場合は、たいてい失敗します。
まず「スモールステップ」として何を目標にするか、決めさせることが大切です。
その目標を達成するために後押しをするのが、コーチングにほかなりません。
心身ともに疲労した後輩――徹底して傾聴する
個室で、時間は長くても1時間心身ともに疲労した後輩の場合は、カウンセリング的対応をします。
カウンセリング的対応の場合は、人に聞かれたくないケースが多いので、個室で対応することになります。
時間は、長くても45分から1時間程度がのぞましいでしょう。
ケースによっては、上司・先輩のほうが疲れてしまったり、話に引きずり込まれて客観性を見失う可能性もあるので、あまり長時間にわたって面談すべきではありません。
また、相手が話し始めたら、途中でさえぎらずに話し終えるまで聞いてあげましょう。
また、「積極的な傾聴」といいますが、・うなずく・相づちを打つ・「そう、悲しい気持ちになったんだね」というように、相手の思ってる気持ちを代弁するつまり、共感性をもって聞いてあげると、相手も話しやすくなります。
また、人は自分の話を聞いてもらえるだけでも、心が癒されるものです。
同時に、相手が話しているときは、表情や使う「形容詞」にも注意を払いましょう。
たとえば、相手が、「私、毎日、遠いところから通ってるんです」と言ったとします。
そこで、相手が話し終えた後、「遠いってどれくらいなの?ずいぶん遠く感じたんだけど」と聞いてみます。
相手も、そう聞かれて、「何気なく遠いって言ったんだけど……」と思いつつ考えてみます。
そして、「そうかあ、通勤時間が長くていやだったんだなあ」と、心が晴れない、もやもやしている原因に自分で気づくようなケースもあるのです。
評価しない。
同情しない。
結論を急がないまた、カウンセリング的対応の場合は、相手の気持ちや事実を確認しても、自分の意見は極力言わないようにしましょう。
また、評価しない、同情しないことが必要です。
また、結論を急がないことも重要です。
1回の面談で、問題が解消することはほとんどありません。
「心がある程度落ち着くのを待とうよ」ということで、1週間くらい時間をあけて、再度面談するのもよいでしょう。
また、場合によっては、心に病を抱えているなど、深刻なケースも考えられます。
そういう場合は、専門医にみてもらうことをすすめましょう。
CHAPTER4後輩のモチベーションを高める
01笑顔のあふれる職場をつくる
仕事のレベルの高い職場の共通点は何か
同じ会社内でも、職場によって仕事の出来・不出来に差が出ることがあります。
どうして、そういうことが起こるのでしょうか。
私が、ディズニーの商品部教育を担当していた当時、調査した興味深い話があるので、ご紹介しましょう。
東京ディズニーリゾート内には、120以上のショップがあります。
5000~6000人のキャストが、4店舗程度を1つとするユニットに分かれて、各ショップの管理・運営にあたっています。
私がいた当時、ディズニーでは、それぞれのショップのサービスの維持・向上をはかる目的で、年数回、1カ月ほどかけて、ミステリーショッパー(覆面調査)を行っていました。
ディズニーの行動指針であるSCSEにもとづいて、100くらいの項目についてチェックされます。
たとえば、・買い物かごが、腰より高く積まれていないか(倒れる危険性があるので)・雨が降ると、すぐにレインマットを敷いているか・笑顔は、ちゃんと出ているか・挨拶を、ちゃんとしているか・商品陳列を間違えていないか(キャラクターの陳列順序など)・基準どおりにコスチュームを着ているか・レジに時間がかかりすぎていないかといったことが調査され、点数化されるのです。
そして、得点の高い順にランキング表示されます。
私が、ランキング表示を見て気づいたのは、上位5位くらいまでは、いつも同じユニットが並ぶということです。
私は、「何か共通するものがあるのだろうか」とそれらのユニットを観察してみました。
そして、気づいたのは、それらのユニットは、バックステージでも、キャスト間の人間関係がすごく良好に保たれているということでした。
いつも①笑顔で、②互いにアイコンタクトをとって、③挨拶を交わし合っているのです。
この3つがきちんとできているところは、オンステージでも仕事のレベルが高かったのです。
逆にいえば、ランキング下位の職場は、人間関係が良好とはいえ、ランキング上位ほどではありませんでした。
上司・先輩が職場の風土づくりのカギを握る
なぜ、前述の上位ランキングのような人間関係が非常によい職場ができあがったのでしょうか。
ひとつの職場の例をご紹介しましょう。
その職場では、いちばん最初の責任者が、トレーナーたちに、「このユニットをよくするには、どうしたらよいか」を自分たちで考えさせ、行動させたといいます。
トレーナーやキャストたちでできることは、できるだけ彼らに自主的に考え、行動するようにし向けたといいます。
この責任者の対応が、職場の風土をよくする大きなきっかけとなりました。
責任者がつくってくれたそのような環境のもとで、トレーナーたちは、「朝礼のとき、必ず笑顔で挨拶するようにしよう」「新人が入ってきたら、必ずみんなに挨拶をさせよう」「新人の写真を飾ろう」といろいろなアイデアを出し合いました。
そして、上司の承認を受けると、すぐに実行に移していきました。
その結果、笑顔やアイコンタクト、挨拶が職場の風土として根づいたというのです。
一度根づいた風土は、責任者が異動していっても、なかなか変わるものではありません。
よい風土をもつユニットが、毎回、ミステリーショッパーによるランキングの上位に名を連ねることが、それを証明しています。
いずれにしても、職場の風土は、先輩や上司のリーダーシップいかんによって、よくなれば悪くもなります。
先輩や上司の責任は、それだけ重いということです。
笑顔の多い職場は、仕事に対するモチベーションも高い
よい職場の風土とは、いままで述べてきたことからもおわかりのように、上司・先輩が
後輩のことをいつも見ていて、マメに声をかける、上司・先輩と後輩ができるだけ多くの価値観を共有し、信頼し合う仲間がいてチームワークもいい……など、いろいろな条件が満たされた職場といえるでしょう。
ただ、そのベースとなるのは、やはり「笑顔」です。
相手に対して、笑顔で明るく挨拶を交わす、笑顔でアイコンタクトをとり、言葉を交わす──これこそ、職場の風土をよくする絶対必要条件です。
よい職場には笑顔が根づいています。
笑顔の多い職場ほど人間関係も良好です。
社員の仕事に対するモチベーションが高いことはいうまでもありません。
また、人間関係がいいからこそ、後輩が間違いを起こせば、上司・先輩もためらうことなく、注意する、叱ることもできるのです。
02仕事の重要性を認識させる
仕事の重要性を繰り返し繰り返し伝える
誰しも、自分の希望する職場・仕事があるでしょう。
しかし、実際には、希望どおりの職場・仕事の部署に配属されるとは限りません。
希望しない部署、ここだけは避けたいと思っていたような部署に配属された社員のモチベーションは、どうしても下がりがちなものです。
オープンして数年間、東京ディズニーランドで最も不人気なのがカストーディアルという部署でした。
カストーディアルといえば、1日中パークの清掃をする「きつい、きたない」の2K職場とみなされて、アルバイトを募集しても、ほとんど集まりませんでした。
いったん仕事を始めても、途中でやめる人が少なくありませんでした。
それはアルバイトに限った話ではありませんでした。
人事部長から、「カストーディアル課勤務を命ずる」と配属先を告げられた新入社員のなかには、泣き出す者もいました。
私は、そういう社員の1人に「どうして?いやなの?」と聞いたことがあります。
すると、その社員は、「どうして、私が清掃をしなければいけないんですか。
清掃を担当しているなんて、友達にも言えません」と言うのです。
父親から、「娘に掃除をやらせる気か」とクレームが入ったという話も聞きました。
とにかくカストーディアルは、まったく人気がなかったのです。
それが数年後には、カストーディアルは、逆に人気職種になりました。
アルバイトの採用募集にも、人が大勢つめかけるようになりました。
正社員からも、カストーディアル課勤務を命ぜられて泣くような人は出なくなりました。
私も、カストーディアル課に配属が決まった新人から、「カストーディアルの仕事に決まりました。
教育担当の福島さんにいろいろ聞きたいことがあるので、よろしくお願いします」と笑顔で言われたことがあります。
数年前には考えられないことでした。
なぜ、このような変化が生まれたのでしょうか。
その最も大きな力となったのは、上司・先輩が、後輩たちにカストーディアルの重要性を繰り返し繰り返し伝えたことです。
「カストーディアルというのは『清掃担当』という意味じゃないんだ。
カストーディアルには、『管理する』とか『保護する』という意味があるんだ。
カストーディアルは、自由にパーク内を動きまわることができるでしょ。
だから、当然、困っているゲストを見つける機会も多くなる。
そういうとき、そのゲストに声をかけて、困っていることを解消してあげる大切な役割を担っているんだ。
清掃だけじゃないんだよ。
つまり、カストーディアルには、パークを清潔に管理する、ゲストを保護するという意味が込められているんだよ」こうして仕事の重要性について、上司や先輩が繰り返し、後輩や新人に伝えていると、しだいに、後輩たちの気持ちも変わっていきました。
自分たちの仕事に誇りをもつようになっていったのです。
新人研修の1カ月をカストーディアル実習にあてる
職場の上司・先輩任せにするのではなく、会社自体も、カストーディアルの仕事の重要性を伝えることに積極的でした。
たとえば、正社員として入社すると、新人研修が3カ月以上にわたって行われます。
そのうちの1カ月を、カストーディアルの実習にあてました。
これは、正社員だけでなくアルバイトにも、好影響を与えました。
「新入正社員も、一生懸命カストーディアルの実習をしなければいけないほど、重要な仕事なんだなあ」という気持ちを、多くのアルバイトが抱いたはずです。
正社員のカストーディアル実習が、カストーディアルの仕事の重要性を伝える〝無言のメッセージ〟になったのです。
今日は、社長がカストーディアル!
ディズニーランドでは、年に一度、「アルバイト感謝デー」が開かれます。
アルバイト感謝デーとは、パークにアルバイトをゲストとして呼んで、おもてなしをする日のことです。
だれがおもてなしをするかというと、正社員です。
もちろん、社長もおもてなしをする側で参加します。
どんな役割を担当するかというと、歴代の社長はすべて、カストーディアル。
カストーディアルのコスチュームに身を包んで、アルバイトをもてなします。
こうした社長の姿から、カストーディアルの仕事の重要性、そして社長として、その仕事を担ってくれているキャストに感謝していることが、アルバイトに伝わっていきました。
アルバイト自ら仕事のレベルアップをはかる
いまでは、カストーディアルは人気職種のひとつです。
いうまでもなく、アルバイトは、カストーディアルの仕事に誇りをもっています。
であればこそ、自ら、自分たちの仕事の〝幅〟を広げているのでしょう。
たとえば、ゲストに楽しんでもらうために、落ち葉でミッキーマウスの顔をつくってみせたり、ローラーブレードで清掃するなど、ショーアップ化をはかっています。
また、仕事のスキルに応じて「段位」を設けて、仕事に対する意欲を向上させるようなアイデアを出し、実行していると聞いています。
実は、これらは、ほとんどアルバイトたちが考え出したことなのです。
このようなカストーディアルのパフォーマンスは、メディアにも取り上げられ、カストーディアル人気をさらに高めています。
03「誇り」をもてる環境をつくる
「誇り」をもつディズニーのキャストたち
ここでは、誇りをもっていることを物語るディズニーのキャストの事例をご紹介しましょう。
そういうキャストの仕事に対するモチベーションが高いことはいうまでもありません。
事例1電車の中で、上司に注意するアルバイトこれは、私自身の体験談です。
私が40歳を超えたころでしたでしょうか。
仕事帰りの電車の中で起きた〝事件〟です。
ディズニーのキャストは、ディズニーのバックステージの話はもちろん、ディズニーでの仕事に関する話を、公の場では慎むことが求められます。
仮に、外部でそういう話をするときは、人に聞かれることがないようにしなければなりません。
どこにゲストとしてパークを訪れる人がいるかもしれません。
そういう人の夢をこわさないためです。
ところが、そのとき、私と友人は、電車の中でディズニー研修のインストラクターに関する話をしてしまったのです。
すると、20代の女性がやってきて、「すみません、ディズニーのキャストの方ですか。
2人のお話がまわりの人に聞こえちゃってるんですけど。
やめていただけませんか」ときっぱり言うのです。
その女性は、アルバイトのキャストでした。
さすがに、私も身の縮む思いをしました。
そして、彼女なら、相手が社長であっても、きっと注意するだろうなと思いました。
私にとってはキツーイ体験でした。
反省しました。
しかし、同時に、ディズニーの仕事に誇りをもっているキャストがいることを実感でき、内心うれしくもありました。
事例2「ショーのクォリティが落ちる」と怒るキャストバックステージで工事をしていることがあります。
その様子や、働いている人が一服している様子が、オンステージからちょっとでも見えたら、たいへんです。
キャストが、「こんな状態でいいのか!」と怒り出すのです。
もちろんいいはずがありません。
すぐに改善策がとられます。
とにかく、ディズニーのキャストは、ショーのクオリティを下げるようなことに非常に敏感に反応するのです。
事例3「王女さまでも許せない!」ある国の王女が、パークを訪れ、蒸気船マークトゥイン号に乗船したときのことです。
その王女さまが、なんと船上でソフトクリームを食べていたからたいへんです。
乗船中、飲食は禁止されているのです。
その様子を見た運営部のキャストたちは、みな怒り心頭で、「あんなことがあって、いいのですか。
王女さまでも許せない!」と、職場の責任者に食ってかかりました。
こういうことがあるので、ディズニーの上司・先輩は、うっかり手を抜くことはできません。
東京ディズニーランドが開園してから四半世紀以上たちますが、開園時と同じ清潔さが維持されています。
これもキャストのクオリティを高く保ちたいという気持ちと行動があるからです。
これは、ほとんど奇跡といってよいでしょう。
これは、もちろん、研修やトレーニングをはじめ、多重継続的な上司・先輩による教育の成果でもあります。
同時に、キャスト1人ひとりが、ディズニーの仕事に誇りをもち、高いモチベーションを維持していることも見逃せません。
行動指針がパーク内の施設にも反映されている
なぜディズニーのキャストたちは、誇りをもって仕事に取り組むことができるのでしょうか。
たとえば、ディズニーの行動指針のなかに「安全性」というのがあります。
これは、ゲストに事故や危険がないようにする、ということです。
すべてのゲストにハピネスを提供するためには、必要不可欠なことです。
そのためにパーク内の施設は、万全を期してあります。
たとえば、鉄製の扉でも、ゲストが触れやすい部分は、ゴム製になっています。
私は研修で、入社したばかりの後輩キャストを連れてパークに行ったときは、そのゴム部分をさわってもらっていました。
ディズニーの行動指針・SCSEのなかでも優先順位がいちばん高いS=「安全性」をいかに大事に考えているかを実感してもらうためです。
「安全性が大事と教えられたけど、ほんとうなんだ」
「行動指針が単なる〝紙上の約束事〟ではなく、実際に現場に活かされているんだ」と気づくでしょう。
同時に、こういう会社で、仕事をすることに誇りや喜びも見出すはずです。
言行不一致だと、後輩のモチベーションは下がる一方
前でパーク内の建造物を例にあげました。
たしかに、社員に誇りをもたせるだけの環境をつくるためには、コストがかかります。
しかし、日常のなかですぐにでも取り組むことのできる環境づくりもあるはずです。
たとえば、「5S」という言葉をよく耳にします。
整理(Seiri)、整頓(Seiton)、清掃(Seiso)、清潔(Seiketsu)、しつけ(Shitsuke)の頭文字をとったもので、職場環境を改善するために、多くの会社や職場で取り入れられている考え方です。
しかし、上司や先輩が「5Sを守れ」と言うものの、実際の職場の状態を見ると、机や書類棚も、整理整頓するには最悪の配置になっている。
おまけに、上司や先輩の机の上は書類の山というようでは、社員も積極的に5Sに取り組もうという気にはなれないでしょう。
「なんだ、言ってることと、やってることが違うじゃないか」と思わざるを得ないからです。
こういう職場の風土では、仕事に誇りをもつこともむずかしく、社員のモチベーションもあがりません。
また、整理整頓以外にも、社員同士で挨拶をきちんとする、といったことも職場の環境づくりのひとつといってよいでしょう。
上司・先輩は、そのようなさまざまなシーンで、自ら先頭に立って、後輩にお手本を示す必要があります。
そういう上司・先輩がいればこそ、後輩も「上司・先輩のようになりたい。
上司・先輩に続け」と、仕事に対するモチベーションもあがることになります。
04指示するときは、必ず「理由」も伝える
ディズニーでは意味・理由も伝えるのが常識
ディズニーでは、何かの行動をするときは、なぜそのような行動をするのか、その意味や理由も必ず伝えています。
私がカストーディアルのトレーニングを受けたときのお話をしましょう。
たとえば、カストーディアルでは、次のような教え方をします。
「特別なケースを除き、肩・腰・膝・くるぶしが一直線になるように立ちましょう。
――そのほうが体に負担がかからないんだよ」「ダストパン(チリトリ)をもつときは、必ずとってのところをもって、腰骨のあたりにつけてもちましょう。
ほうきは、ちょっと前のほうにもちましょう。
――ゲストに当たったら、たいへんだよね」「ゴミはほうきで掃くのではなく、はじくようにとりましょう。
――そのほうが、早いよね。
見た目もきれいだよね」「汚物があった場合は、すぐに白いペーパータオルでおおいましょう。
――ほかのゲストが見ちゃうと気分がよくないよね。
白いペーパータオルは目立つから、ゲストが踏んづけたりしちゃうことはないよね」このように、ディズニーでは、行動と理由とをセットにして、しかもアルバイトたちの頭にスムーズに入りやすいように親しみを込めた言葉遣いで伝えられます。
指示の意味・理由がわかれば、効率・生産性があがる
ディズニーの例とは逆に、後輩に指示を出すとき、指示だけを伝えて、なぜ、どういう目的でその指示を出しているかについては、何も伝えないという上司・先輩はいないでしょうか。
それでは部下は納得しないでしょう。
反発するケースも考えられます。
なぜなら、後輩の存在を軽んじているからです。
このような上司・先輩であれば、たとえ後輩が指示どおりに動いたとしても、本気で取り組んでいるとはいい難いでしょう。
「指示どおりに動けばいいんだ!」と言い放つ上司・先輩であってはなりません。
また、目的や意味がわかっていれば、後輩が自分で工夫して、より効率よく、効果的に
指示されたことをやり遂げることもできるでしょう。
生産性もあがるはずです。
会社にとっても十分メリットがあるのです。
繰り返しますが、理由がすぐにのみ込めるような場合は別にしても、指示するだけでは、後輩に不快な気分を抱かせることになってしまいます。
もちろん、モチベーションがあがることもありません。
たとえ多忙であっても、後輩へのホスピタリティ・マインドを忘れないようにしたいものです。
05後輩によい点を見出せば、すぐにほめる
ディズニーには、「キャストがキャストをほめる」しくみがある
社員表彰制度は、どこの会社にもありますが、ディズニーにも、ユニークな社員の表彰制度があります。
それは、キャストが、「すべてのゲストにハピネスを提供している」と感じたキャストを選ぶというものですユニークなのは、投票用紙の原紙が、名前を書かれた本人の職場にまわされ、最終的には本人に手渡されるということです(図参照)。
職場にその用紙がまわってくると、職場の責任者は、職場のキャストのモチベーションをあげるために、朝礼などでキャスト全員に伝えます。
「みなさん、喜んでください!この職場で投票を受けた方がいらっしゃいます。
○○さんでーす!みんなー、拍手!」とやるわけです。
すると、キャスト全員から「ワー、おめでとう!」と声があがり、拍手の渦が巻き起こります。
同僚に祝福されて、投票を受けた本人もうれしくないはずがありません。
投票者の名前は無記名なので、誰が投票してくれたのか、わかりません。
無記名だからこそ、「こういうところを見てくれている人がいるんだ。
自分のやっていることは間違ってなかったんだ」という気持ちも強まるはずです。
キャストによるディズニー表彰制度は、職場を明るく活性化し、キャストのモチベーションアップにひと役買っています。
ちなみに、年間総投票数は、10万票を超えます。
それほど、キャストがキャストをよく見ている、またレベルの高いキャストが多いといえるでしょう。
最善を尽くす後輩の頑張りをほめる
ディズニーのような表彰制度を取り入れることは、どこの職場でもできるというわけにはいかないかもしれません。
ただ、大切なことは、頑張っている後輩がいれば、「頑張ってるね」とひと声かけてあげることです。
また、頑張っている点を市販のカードに記入して、後輩に渡してあげれば喜んでくれるはずです。
前述したように、成果をあげたときに限らず、後輩なりにベストを尽くしている姿を見れば、率直にその頑張りをほめてあげましょう。
そのとき、後輩は、「上司・先輩は、自分のことをちゃんと見てくれている」と感じ、自分の存在が認められたと思うでしょう。
それは、「もっと頑張ろう」という後輩のモチベーションアップに必ずつながります。
CHAPTER5後輩の自立心・主体性を育てる
01後輩に自信をもたせる
フィードバックされることで、後輩は自信をつける
上司・先輩は、後輩に自信をもって仕事に取り組んでほしいと願っています。
そのために、トレーニングしているといっても過言ではないでしょう。
しかし、必要なマインドやスキルをトレーニングで伝えれば、すぐに後輩が自信をもって仕事に取り組めるようになるかというと、そういうわけにもいかないようです。
後輩たちが自信をもって仕事に取り組めるようにするには、トレーニングを行うこと以外に、何が必要なのでしょうか。
その答えのひとつとして、私は「フィードバック」をあげたいと思います。
たとえば、ディズニーの場合であれば、パークで、自分の行動に対して、ゲストから笑顔が返されたとき、あるいは「ありがとう」とお礼を言われることによって、「私のやったことで、ゲストに喜んでいただくことができた。
私は正しかったんだ」と、自分の仕事に対して自信をもつことができます。
これは、ゲストからのフィードバックによる効果です。
つまり、自分の仕事に対してよい反応が返ってきたとき、自分の仕事の正しさを実感することができたとき、後輩たちは自信をもつことができます。
それが、後輩のさらなる成長につながることはいうまでもありません。
上司・先輩、同僚も、フィードバックすることが大切!
一方、ゲストと接することのないキャストの場合はどうでしょうか。
たとえば、コスチュームを保管し、貸し出すキャストは、バックステージが仕事場です。
整備部のキャストがボートなどの点検をするのは、閉園後ですから、ゲストからの反応はありません。
夜間清掃を担当するナイト・カストーディアルのキャストも、同様です。
いずれもゲストと接する機会はなく、ゲストの反応に期待することはできません。
では、彼らは、どうして自信を得ることができるのでしょうか。
それは、上司や先輩、あるいはオンステージで働くキャストたちが、フィードバックしてくれるからです。
「コスチュームをきれいにしてくれて、ありがとう」「おまえ、最近頑張ってるね。
すごいよ」こういう反応を返してもらうことで、バックステージのキャストも自信をもつようになっていきます。
もちろん、フィードバックが、いつも「ほめ讃える」ような内容のものばかりとは限りません。
しかし、上司・先輩が、「頑張ってるね。
でも、ここはもう少し改善しよう。
それができればバッチリだよ」とフォローすれば、「見てくれている」という気持ちが働くので、後輩のモチベーションが下がることはありません。
自信をつけるのが少し先になるだけの話です。
とにかくマメにフィードバックすることが後輩の自信につながります。
02後輩に「スモールステップ」をもたせる
大きな目標を立てても、失敗の可能性大!
たとえば、子ども時代に、「イチローみたいになるんだ」というように高い目標をもつことは、とてもよいことです。
はじめから無理と決め込んでしまえば、可能性の芽を摘むことになります。
しかし、後輩たちが現にいま取り組んでいる仕事の場合は、あまり高い目標を立てても、「目標倒れ」に終わる公算が大です。
もちろん、高い目標や理想は必要でしょうが、「それを実現するためには、いま何を目標にして頑張ればよいのか」を考えることが大切です。
第3章でもふれましたが、実現可能な小さな目標、つまり「スモールステップ」を立て、それを達成していく――それを積み重ねていくことこそ、後輩を成長させる〝近道〟にほかなりません。
身近な上司・先輩こそ、最適のサポート役
たとえば、はるかに高い地位の上司、あるいは抜きんでた実力をもつ先輩から、何かを教えられても、「ちょっと理解しづらいなあ……この人だからできるんだろうな」という思いが先に立つ可能性があります。
その人を超えてやろうなどという気には、とうていなれません。
また、そういう存在が、はたして教えられる側のことをどれだけ理解しているかも疑問です。
その点、身近な先輩や上司は、後輩自身のことも、後輩が取り組んでいる仕事のこともよく理解しています。
ですから、後輩たちも教えられることがスムーズに頭に入ってきます。
「この人のようになりたい」という気も起こります。
ディズニーのトレーナーのほとんどがアルバイトという理由のひとつは、そういうところにあります。
職場の上司・先輩のアドバイスは、後輩にとって説得力があるものです。
後輩が目標を立てて仕事に取り組むときは、積極的に後輩をサポートしましょう。
ただ、後輩の自立を妨げるような行動は慎まなければなりません。
ときには、あたたかく見守るという姿勢も必要になるでしょう。
ですから、サポートが必要かどうか、事前に確認することも大切です。
スモールステップに挑むディズニーのキャストたち
ディズニーのキャストたちは、職場のなかでユニークなスモールステップをつくってチャレンジしています。
▼たとえば、かつて、カヌー探険のキャストたちは、アメリカ河をどれだけ速く回ることができるかを競う「カヌーレース」を行っていました。
それで自分たちの操舵技術を高めていました。
▼劇場型のアトラクションのキャストは、いかに滑舌よく時間どおりにナレーションを入れることができるかを競い合っています。
▼カストーディアルのキャストたちは、ゴミをとるという単純作業でも、より安全性を高め、美しく、速くという技術を進化させるためのステップアップにチャレンジしています。
驚きなのは、これらのスモールステップは、いずれも、トレーナーをはじめとするアルバイトのキャストたちによってつくられたものだということです。
彼らの高いモチベーションが、自発的な〝しかけ〟をつくることにつながっているのです。
03後輩に自立のチャンスを与える
ディズニーの後輩を自立させる「しくみ」
後輩に向かって「早く自立してくれよ」と切望する上司・先輩も多いことでしょう。
ところが、そういう上司・先輩に限って、後輩にあれこれと口出しをして、自ら後輩の自立の芽を摘みとっているケースもあるようです。
後輩を自立させるには、上司・先輩が後輩の自主性を尊重する姿勢・器量をもつことが必要です。
ディズニーでは、前述したように、現場の先輩アルバイトが、後輩アルバイトの研修やトレーニング、指導にあたるというしくみがあります。
このしくみがつくられた理由として、次の2つをあげることができます。
ひとつは、先輩アルバイトは、現場の仕事についてはもちろん、後輩についても、よく知っているということです。
ですから、現場のいろいろな「生の情報」を後輩に伝えることができます。
また、後輩にしても、同じ現場の先輩ということもあり、より真実みをもって話を聞くことができます。
もうひとつは、ディズニーには、トレーナーなどの仕事をしてみたいという人材が多い、ということです。
以上の点をふまえて、会社も、アルバイトがアルバイトを指導するという、ほかではあまり見られないユニークなしくみを採用しています。
特に、導入研修――新人研修を、現場の先輩キャスト、それもアルバイトが担当するようなしくみは、ほかでは見られないのではないでしょうか。
この導入研修を担当する現場のキャストを「ユニバーシティ・リーダー」と呼びますが、その自立している先輩を見て、「先輩のようにユニバーシティ・リーダーになりたい」と思う後輩も少なくありません。
つまり、このしくみが後輩の自立をうながす面でも、効果を発揮しているわけです。
ディズニーの後輩の自主性を尊重する「風土」
トレーナーの自立、主体性に関して、もうひとつ例をあげてみましょう。
トレーナーの大きな役割として、後輩キャストのトレーニングがあります。
トレーニングを行うには、当然きちんとトレーニング・カリキュラムを組んで行う必要があります。
実は、このカリキュラムを組んでいるのも、トレーナーなのです。
自分たちでパソコンを活用して、カリキュラムをつくって、それに従ってトレーニングを行っているのです。
また、トレーニングを行う際には、補助教材としてマニュアルを用います。
このマニュアルにも、トレーナーの意見が反映されています。
つまり、「ここは、こう変えたほうがいい」というトレーナーの意見によって、マニュアルも改訂されていきます。
なぜ、このようなことが可能かというと、会社はもちろん、上司や先輩が、トレーナーたちの自主性を尊重し、自由に考え行動できる裁量を与えているからです。
もちろん、採用されない、認められないケースもありますが、細かいことにいちいち口を出すことはほとんどありません。
実際のところ、このような風土でなければ、社員も自立し、成長することはできないでしょう。
ただ、上司・先輩も、基本的な方向性やルールについては、しっかり見ています。
たとえば、行動方針や行動指針を守っていないようだと、カミナリを落とします。
その後、すぐにまた、やさしい上司・先輩に戻るのですが……。
いずれにしても、ディズニーの強み・素晴らしさは、アルバイト1人ひとりに至るまで、リーダーシップをもち、自主的・主体的に仕事に取り組んでいることにあります。
そして、それは、会社や上司・先輩が、ホスピタリティ・マインドをもち、後輩を上手に指導し育てたからこそ、実現したということができるでしょう。
上司・先輩が、この本でご紹介したように後輩に対応すれば、間違いなく「後輩は変わる。
後輩は育つ」のです。
おわりに
私のディズニーでの最初の仕事は、東京ディズニーランドのアトラクション「ジャングルクルーズ」でした。
32名乗りの船の船長に就任したわけです。
そして、開業2年後にユニバーシティ・リーダーを1年間務め、5年後にはユニバーシティ課に異動し、今度はユニバーシティ・リーダーを育成する立場になりました。
それ以外にも、さまざまな経験をして、どんどん自分が成長していったような気がします。
また、ディズニーで働くことに誇り・働きがいをもったキャストも増えていきました。
とくにアルバイトは、ただ単にディズニーが好きだからではなく、働きがいをもち、主体的・積極的に自分の役割を果たすようになりました。
このような姿勢をアルバイトが身につけることができたのは、上司・先輩一人ひとりが忍耐強く、一貫性をもち、継続して彼らを育成してきたからです。
本書では、ディズニーの考え方や上司・先輩にスポットをあてた指導方法の一端をご紹介してきました。
また、本書は、大きな意味で「CS(顧客満足)」を扱っています。
そしてCSを提供する「人材教育」、人材を育成する職場の「風土」や「文化」をいかにつくり、醸成させるかについても述べています。
人材育成も職場の風土づくりも時間がかかり、変化がなかなか見えてこないかもしれません。
しかし、上司・先輩の誰かが勇気をもって一歩を踏み出し、自信をもって続けなければなりません。
それが、後輩はもちろん、上司・先輩ご自身をも成長させると同時に、強い組織をつくり上げることにつながると思うからです。
最後に、私を育ててくれたディズニーとオリエンタルランド、元上司や先輩、後輩に感謝し、筆を置きたいと思います。
2010年11月吉日福島文二郎
コメント