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7章 ニューノーマル時代の経営

コロナショックで世の中が変わろうとしています。新しい時代環境においても、利益を出し続けるにはどのような考え方が必要なのかを、最後の章では考えていきます。

ロックダウンなどにより、世界の人々が自宅での生活を余儀なくされました。その結果、当然ながらインターネットでモノを買う習慣が一気に浸透しました。

日本は比較的、駅前消費型でリアル店舗がたくさんあるため、ネット通販の伸びが世界に比べて遅れていましたが、一気に広がりました。

アイリスでは日本だけでなく、米国、欧州、中国、韓国でもネット通販を展開していますが、2020年のネット販売の売り上げは各国とも、前年の2倍を超える勢いで推移しています。

目次

急加速するネットシフト

では、コロナ感染が終息すれば、ネット消費からリアル消費にまた戻るのでしょうかもちろんある程度は戻るでしょうが、すべてが戻ることはないでしょう。

理由の1つは、一歩も外に出ないで購入できるネット消費は利便性が高いからです。

リアル店舗にはエンターテインメント性などの強みがありますが、欲しい物が決まっている場合はエンタメ性は要りません。

ならば、便利なネットで購入しようという行動になります。

もう1つの理由は価格です。

日本は昔から、良い物を高く売る傾向が強いのですが、これは、流通の事情も大きく影響しています。

10万円のテレビを売るより、20万円のテレビを売ったほうが多くの利益が得られるからです。これはマーケットのニーズですが、ユーザーのニーズとはずれています。

ユーザーは良い物を適正な値段で売ってほしいのです。

メーカーや問屋、小売店のほうも、単純に高くするのではなく、「この機能は良いですよ。この機能が付いていることを考えれば、割安です」と必死に説得力を持たせますが、本当に良い機能と、ありがた迷惑の機能が混在しています。

家電製品が典型例です。

ユーザーが本当に求めているものを明確にし、適正な値段で提供するということが、日本の流通構造の中ではとてもやりにくかったのです。それがネット通販では、メーカーと消費するユーザーが直接つながる。

中間流通を省けるので合理化が図れるのもメリットですが、それ以上にユーザーが求めるものを、流通の余計な思惑が介入することなく、素直に提供できるメリットのほうが大きい。

逆にいえばネット通販では、いやが応でもユーザーインの経営に転換しなければならないということです。

価格はネット通販のほうが下げやすいので、今後、リアル店舗の価格とネット通販の価格がかい離していくことになる。

中国ではリアル店舗が充実する前にアリババが市場をつくってしまったので、ネット通販が早くから主流を占めていますが、日本でもコロナを機に、消費者がネットにシフトしていくのではないかと思います。

2001年からネット通販に注力アイリスは、日本のネット通販の世界ではトップクラスの成功例と自負しています。

事業をスタートしたのは2001年です。当時、アイリスのメイン取引先はホームセンターでした。その頃の製品点数は約7000点と既に多かった。

当たり前ですが、店舗の売り場には限りがあり、すべての製品が陳列されているわけではありません。

また、全国のほぼすべてのホームセンターと取引していたため、他社チェーンと製品を差別化したいというホームセンター側のニーズに応え、機能やデザインを少し変えた製品を多数開発していました。

その結果、ユーザーから「この製品はどこに行けば買えるのか」といった問い合わせをたびたび受けるようになっていたのです。ご要望に応えるために、電話注文の仕組みは設けていました。

そんな折、インターネットが普及し始めたことを受け、2001年という比較的早い時期からネット通販事業に注力していったのです。

仙台市内にあったアンテナショップの一角、わずか5人のスタッフでネット事業を始めました。

製品に関するお問い合わせの電話を下さった方や、アンテナショップにお越しになった方へ通販サイトのサービスをご案内し、お客様になっていただきました。

同時に、数千にも及ぶアイリス製品の画像やスペックの登録を地道に積み重ねていったのです。

これほどネット上で買い物をすることが当たり前の時代になっても、ネット通販サイトを自社で運営し、十分な利益が出ている会社はまだ少ない。

サイトを作って、倉庫に預けて、配送をしてとなると、1億円くらい売っても人件費分にもならないからです。年間3億円ぐらい売らないとペイしないでしょう。

ネット通販で3億円を売っているところがどれだけあるのかと考えれば、利益が出ている会社の数がなんとなく想像できると思います。

どの会社も最初は手探りで、アマゾンや楽天などのECプラットフォームで売りますが、大抵の場合、リアル店舗に比べれば利益は少ない。

それならばと自社サイトを作って本格的に始めてみると、ことごとく大赤字に陥ります。多くの場合、会社全体に占めるネット販売の比率は1ケタ。10%を超えている会社はほぼないと見ています。

ネット通販と相性がいいのはなぜか

では、アイリスのネット事業の成功要因は何かというと2つあります。1つは2万5000アイテムという製品点数です。

いかなる時代環境でも利益を出す仕組みをつくるために、業界の枠を越えて多種多様な製品開発を進めた。

とりわけ、流通で主導権を握るために、問屋機能を取り込んだメーカーベンダーという独自の業態を選択したことで、アイリスの製品点数は広がりました。

それは一般的なメーカーからすると「非常識な製品点数」かもしれませんが、いずれもプレゼン会議を通して生まれたユーザーニーズに合った製品であり、月次会議で緻密な原価管理をすることで赤字商品がほぼ皆無という状態です。

製品点数の多さはアイリスにとっての永続戦略であるわけですが、これがネット通販事業ととても相性がいい。

メーカーが自社サイトを作る例は山ほどありますが、そこに掲載してある商品が特定ジャンルで種類も少ないため、ユーザーが頻繁に来店するには物足りない。

そのためどうしても、アマゾンや楽天のサイトに頼らざるを得ないのですが、かたやアイリスの通販サイト「アイリスプラザ」には月間3500万人が訪れます。

ネット通販成功のもう1つの理由は、物流に力を入れてきたことです。かつての主力製品であるプラスチックの収納ケースは運賃効率が悪い製品でした。中は空洞で軽いけれど、体積は大きい。しかも単価は高くない。

これをホームセンターなどの小売店までどのように運べばいいのか、物流の課題解決には試行錯誤してきました。

そのため、運賃については以前からシビアに管理していました。

一般的に運賃や保管費は販管費として計上されますが、アイリスの単品商品管理では、運賃を製造原価に加えて利益計算をしています。

原材料費、人件費、設備費などの製造費用、運賃や保管費などの物流費用を細かく計算。製造原価は黒字、しかし納品してみたら赤字という事態を防いでいます。

北海道から佐賀県まで9カ所に、工場兼物流拠点を設けているのは、天災など外的環境の変化に対するリスク回避のためでもあり、製造地から小売店までの配送距離をできるだけ短くするためでもあるというのは、前述の通りです。

この分散戦略がネット通販事業においても効果的に働いているのです。

アマゾンの巨大物流倉庫を報道で見た人もいるでしょうが、ネット通販事業とは究極的には物流事業です。

魅力的なサイトで買い物を楽しんでもらい、注文があった製品を迅速に届ける。

この2つに尽きます。

アイリスの通販商品は注文主の住所によって、どの拠点から出荷するかを自動で差配し、提携している最寄りの宅配便会社の配送センターに届けます。

いかなる時代環境でも利益を出すアイリスの仕組みが、そのままネット事業の体制として生かせているのは、偶然ではありません。

ネット事業とは、自宅にいながら、多様な製品を割安な価格で買いたいというユーザーの欲求で伸びてきた販路です。

アイリスもまた、ユーザーが求める多様な製品を、ユーザーが求める価格で提供するために、数々の仕組みをつくってきた会社です。

両者が符合するのは当然なのです。

もちろん、アイリスはホームセンターやスーパー、コンビニエンスストア、家電量販店などと取引があり、これらをなくすわけではありません。

リアル店舗の売り場作りもしっかり提案しており、今後も全方位に力を注いで売っていきます。ネット通販市場も絶対ではない。時代環境の変化に対応するには、複数の販路が重要です。

消費者がどの店で買うのかは消費者自身が決めるので、全方位の売り場で製品を提供するのがユーザーイン発想です。作り手と使い手がダイレクトにつながるネット通販ではダイレクトにユーザーに販売できます。

流通の思惑で不要な機能が付くこともなくなりますから、ユーザーは欲しい製品がより手に入りやすくなります。しかも、製品は無限に並べられる。ニッチ分野のロングテール商品も排除されない。

「作り手」と「使い手」がつながる結果、作り手の製品をいかに効率的に使い手に届けるかという物流が注目されるというわけです。

そこで重要になるのが分散戦略による物流コストの削減。加えて、需要予測も大切です。通常、企業規模が拡大すると、製品数が増え、在庫管理や販売予測が複雑化し、難易度が上がります。

アイリスでは販売店であるホームセンターなどと、各工場の在庫を管理するホストコンピューターをつなぎ、注文と同時に、近隣の工場の在庫を引き落とします。

適正在庫を割ったら自動的に補充され、将来予測が修正されて生産指示を出す。受注から生産、配達指示もすべてこのコンピューターがコントロールしています。

これで受注から発送までのリードタイムが短縮されますし、小ロットで多品種の納品も可能になります。

メーカーにはブランド力も求められます。店なら目の前で製品が見られるから、初めての店でも納得して購入することができます。

かたやネット通販の場合は、どういう会社なのか、どんな人が売っている製品なのかが、分かりにくい。製品そのものも手に取ることができない。その分、共感度、信頼度の高さがものを言う。

アイリスの家電が売れ出したのは、実はネットでアイリスの収納用品やペット用品を買ってくれ、アイリス製品に関して相応の満足度を感じた人たちが、「アイリスの家電だから大丈夫だろう」と信頼しているからです。

業界の垣根も低くなります。既存の流通は、業界ごとに流通網ができている。生活雑貨なら、メーカーから日用品を扱う問屋を経由し、スーパーやホームセンターに流れる。

加工食品ならば、メーカーから食品を扱う問屋を経由し、スーパーやコンビニに流れる。業界ごとのルートが整然と出来上がっているのです。

しかも、これまで取引のない業界に参入することを「口座をつくる」という言い方をしますが、あまりブランド力のない中堅中小企業にとっては、とてもハードルが高い。

その流通形態は大量生産・大量消費時代には合っていましたが、業界にこだわらず、もっと自由に製品を開発したいと作り手が考える時代においては制約になります。ネット通販ならば、その慣習から解放されます。

例えば、サントリーがネットでサプリメントを販売していますが、そういうことが自由にできる。業種・業界をあまり気にする必要がなくなるのです。家電を買うなら日立や東芝、という感覚は以前より薄れています。

個人がデザイン性などに優れた家電を企画し、それを協力工場に発注し作り、ネットで販売する。そんな「一人家電メーカー」が人気を呼ぶような時代なのです。

特徴のある中小企業に脚光ユーザーにとってアイリスはどんなイメージでしょうか。いろいろな生活用品を取り扱っており、最近は独自性のある家電も出している。

マスクの大量供給をして社会への貢献度も高い。

「何屋さん」なのかはよく分からないけれど、頑張っているから一度サイトを見てみよう──。こんな感じでしょうか。

そして実際に、例えば家電を買ってみて満足度が高ければ、家電の次はコメ、コメの次は園芸用品と、ユーザーはジャンルを気にせず、商品を買いに来てくれます。

アイリスが何の業界に属している会社かは気にしていません。その代わり、会社に対する共感度・信頼度が必要です。

単に高い知名度を持っているということよりも、この会社は安心できる、この会社の理念に共感できるといったことのほうが重要です。これが何をもたらすか。

特徴がある地方の中小企業に活路が開けるのです。

北海道のタラバガニや毛ガニをサイトでただ並べるだけでは売れませんが、そこにストーリーやこだわりがあれば、共感する人が大勢集まります。

規模が小さなうちは、注文を受けた商品を宅配便会社に取りに来てもらえばいいので、特別な物流体制を組む必要もありません。これも結局、効率論の誤謬です。

地方にはそれぞれの良さがありますが、大量生産・大量消費時代には画一性が求められるため、地方の良い商品を全国流通網に乗せることができなかった。

そしてバブル崩壊後、物不足から物余りの時代に変わりましたが、ほとんどの会社はプロダクトアウトの経営を続けたのです。

アイリスは1990年代、ガーデニングブームを仕掛けました。

当時、園芸というのは一部のマニアのものでしたが、「育てる園芸」から「飾る園芸」へ、というコンセプトで、ホームセンターにおしゃれな園芸用品を投入したのです。すると、何が起きたか。

育てる園芸の世界では「100円のプランター」と「500円のプランター」に機能の違いがなければ安いほうがいい。

けれど屋内などにも飾るとなったら、全然違う。デザイン性がよければ500円のプランターを買うのです。

アイリスは提案型の製品によって潜在需要を顕在化させ、価格競争と距離を置いて拡販に成功したのです。

大量生産・大量流通を今も引きずっている会社は、週に数えるほどしか売れないような商品は切り捨てる。全部、効率論です。

時代変化に合わせて経営を変えなければいけなかったのに、なかなか変えることができなかった会社は少なくありません。

それが、コロナショックを機にネットシフトが進むことで、いよいよ変わります。

業界の垣根を飛び越える一方の店舗はどうなるかというと、売れ筋を棚に並べる経営から、長く滞在してもらうための楽しさなどをこれまで以上に追求するようになるでしょう。

店で買う意味が問われてくる。これまでの常識に固執していては、店舗の存在意義はなくなります。それは小売店以外にも当てはまります。

例えばクリーニング業界では、衣服を洗うだけでなく、衣服を保管するサービスを取り入れる企業が相次いでいます。

消費者にとっては、冬場のコートがクリーニング店からきれいになって戻ってきても、翌シーズンまでクローゼットの奥にしまっておくだけです。

ならば、洗ってそのまま預かってくれればありがたい。このモデルでは、土地が安い地方のクリーニング店のほうが倉庫を広大に取れるので、有利です。

実際、保管サービスを付加した地方のクリーニング店がネットで全国から顧客を集めています。このビジネスモデルを採用しているクリーニング店は、クリーニング業界なのか、倉庫業界なのか、もはや判然としません。

私はユーザーインのイノベーションの多くは、このように業界の枠を超えるものであると考えています。

狭い視野ではユーザーの表面的なニーズしかつかむことができませんが、業界にとらわれず、広い視野で眺めれば本質的なニーズをすくい上げることができるからです。

それは、製造業にもサービス業にも同じように当てはまり、そしていずれの場合もネットを使いこなすことが鍵になります。

業界の仲間同士で愚痴を言い合う暇があるならば、業界の枠を飛び出す事業プランを一刻も早く考えることが求められます。

業界の垣根がなくなるだけでなく、都市と地方の垣根もなくなっていくと思います。在宅勤務がノーマルな働き方になると、東京の一極集中も緩和されます。東京の人口は約1400万人。市場が巨大ですから企業も経済効率を求め、東京に集まりました。

通勤に往復で2時間も3時間もかかる東京は、生活者にとっては不便です。物価も高い。それは分かっているけれど、これまでは地方に働き口が少なかったから若者は都市に出ました。

その流れを変えつつあるのが、人口減少です。団塊世代が生まれた頃に約270万人だった出生数は年々減少して今や約90万人。当然、人手不足になる。そこで地方都市に企業が拠点を増やしており、宮城県でも引く手あまたです。

東京で年収600万円の人と、地方で年収500万円の人を比べれば、収入が低くても、物価が安くて土地も広い地方のほうが豊かに暮らせますから、地元で就職したいと思う人が増えるのは自然でしょう。

「地方の時代」が始まる企業が地方から東京に人を呼ぶのではなく、企業が地方に行き、そこで採用する動きが始まっています。

経営は、企業優先から働く人優先に変わる。働く人が快適に暮らしやすい場所に、企業が行かなければならない。まさしく地方の時代です。米国では、早くから地方に目が向いています。

例えばシアトルにはボーイング、マイクロソフト、アマゾン、コストコ、スターバックスなどの本社・本拠がある。

カナダの南に位置するシアトルは、マーケットとしては最悪の場所です。なぜ、そんな田舎町に本拠を置くのかというと、生活が快適で、優秀な人材が集まるからです。市場の大きさではないのです。

そして、地方シフトのもう一つの流れが、コロナショックです。会社に出勤しなくてもいい。家にいながら働ける。ならば、地方に住もうとなるのは自然です。

しかしながら、人口が少ない地方はそれだけ需要も少ない。そこで地方企業に必要になるのが、自ら需要を創造することです。

世の中にあるものを後追いするキャッチアップ型の経営では、東京の会社に勝つことはできない。キャッチアップ型の製品を売りたいなら、やはり東京に出たほうがいいでしょう。

地方なら10万人しか住んでいない町もたくさんありますが、東京は1400万人もいます。市場の大きさは全然違います。

アイリスが仙台から発展したのも、キャッチアップ型ではなく、需要創造型だったからです。

仙台工場を竣工した約40年前は小さな会社でしたが、新しい園芸用品、ペット用品などで需要をつくり上げてきました。

実は地方に住んでいると需要を創造しやすい。

地方の人々はアフターファイブを楽しむ時間が十分にあるので、生活者の視点に立って物事を考えるという点では、満員電車に揺られて夜遅くに帰る東京の人より有利です。

また、東京は市場が大きいから、アイデアが良ければすぐにそれなりの事業規模になる。地方は市場が小さいから、どうすれば売れるかと考えざるを得ない。

東京は市場にポンと製品を投げればいいが、地方では特定の人を思い浮かべて「こういう人のために、こんな製品を作ろう」と考える。

つまりユーザーインの発想です。市場が小さいので、個々の消費者のことを考えた製品を出さなければ、事業が成り立たない。だからこそ、新しい需要を創造できる。

「ユニクロ」のファーストリテイリングは山口県宇部市から、ニトリは札幌市から始まった。みんな、最初は地方で事業を始め、その成功モデルを全国に広げたのです。

IT企業を除けば、ベンチャー企業の大半は地方から生まれています。それに地方は事業コストが安い。東京は家賃も人件費も高いので、最初から相応の収益が求められますが、地方は家賃も人件費も安いので、失敗できる。

製造業だけでなく地方のサービス業も、ユーザーインの発想をすれば需要をつくれます。

こだわりのレストランや旅館をつくり、東京からも集客しているという例はよく耳にするでしょう。それは目の前のお客様をとことん満足させようと考え、新しいタイプのレストランや旅館を創造したからです。

それができれば、全国のお客様を相手にできます。ネットでモノを買い、ネットを使って遠くのレストランや旅館を探す時代です。

ネットでは企業とユーザーが直接つながり、製品やサービスのレビュー(評価)も書いてくれる。

ネット社会の到来は、地方の企業にとって歓迎すべきことですし、あらゆる企業にユーザーインの考え方へ転換することを迫る要因にもなるのです。

経済のブロック化で進む分散戦略コロナショックにより、サプライチェーンはいよいよ見直しがかかっています。

ただでさえ保護主義の台頭により経済のブロック化が進んでいたところに、コロナショックで国境がほぼ閉鎖されてしまった。

東日本大震災のときにも、長いサプライチェーンの見直し議論が湧き上がりましたが、結局、目先のコスト低減を優先してしまった。

しかし、新型コロナは世界規模で企業に影響を与えています。

何十円かの部品が海外から調達できないために、何万円の製品を作ることができないという事態が起きました。

部品メーカーの下請けの、さらに下請け、つまり孫請けが大切な部品生産を担っていたのが現実です。

もはやサプライチェーンの再構築は待ったなしです。

目先の効率で原材料メーカーや生産拠点を絞るのではなく、消費地に近い場所で分散生産し、配送することでビジネスチャンスを確実に捉えられます。

今後は、そうした分散戦略の構築が当たり前になるでしょう。大きくいえば、中国を中心にしたブロック経済、欧州のブロック経済、そして米国のブロック経済。この三極に分かれます。

日本は地政学的にも中国ブロックの中に入ることになる。完成品メーカーにとっては、部品メーカーの孫請けまではコントロールが利かない。

海外まで連れて行くこともできない。ならば、ある程度リスクを取っても、部品生産に取り組むことが必要になります。

一方、孫請けのほうも、後継者がいる会社は少ないので、廃業が進むでしょう。つまり一次、二次はつながりますが、三次以下は切れると思います。

欧米のサプライチェーンを見ても、三次まではつながっていません。もちろん、専門技術を持った中小工場は欧米にもたくさんあります。しかし、歯車やばねはメーカーが作っています。

日本は明治維新以降、産業振興で部品工場を育ててきました。国民の気質なのか下請けで我慢する人も多い。

けれど、これからは一次部品メーカーや完成品メーカーにおける内製化が進み、ニューノーマル時代には、下請け企業はかなり廃業が進むと見ています。

では、三次以下の下請け工場はどうすればいいか。

アイリスオーヤマと同じように自社製品を作ることから始めてください。

大山ブロー工業所は、最初に書いたように孫請けでした。そこから養殖用のブイを作り、脱下請けを図ったのです。その後のことは本書で見ていただいた通りです。私にできて、皆さんにできないわけがない。

一次メーカー、完成品メーカーではロボットによる自動生産が加速するでしょう。その場合、専用機を購入していたら割に合わないかもしれない。

いろいろな部品を作ることができるように、自動化ラインの専門家の確保と育成が喫緊の課題です。倉庫の自動化も避けては通れない。生産から出荷までをいかに自動化していくか。

その仕組みを構築することが、ニューノーマル時代の経営の重要なテーマになります。

効率をどの次元で見るか

「選択と集中」は、ニューノーマル時代には合わないことが理解できたでしょうか。国内外から安く作ってくれる下請けを探し、そこに丸投げすればいい時代は終わったのです。

それは目先の効率を高めるかもしれませんが、あまりにもリスキーです。これから起きるのは、自前主義への揺り戻しです。

そして、ネット通販で十分な利益を出すには、品ぞろえを強化し、物流体制を整備しなければならない。それは、自社の強みにこだわっていればいいという経営とは対立するものです。

選択と集中はリストラを正当化するなど、経営陣には都合のよいものでしたが、あくまで短期的な利益を出す経営にすぎず、ひとたび環境が変化すると脆弱でした。

本書を通して、私が最も言いたいことは、経営の効率をどの次元で見るか、ということです。目先の効率ではなく、本質的な効率は何か。

ニューノーマル時代の経営では、そのことがますます避けては通れない「大命題」として俎上にあがるでしょう。

このようにニューノーマル時代を勝ち抜くには「改革」が必要です。

求められるのは、過去の根拠に基づいて考える人ではなく、未来のあるべき姿に基づいて考えることができる人です。

いかなる時代環境でも利益を出す仕組みづくりには、起業家精神を持つ改革者が必要なのです。

本書を締めくくるにあたり、メンタリティーの観点を整理します。

アイリスオーヤマの経営理念は次の5つです。

  1. 1.会社の目的は永遠に存続すること。いかなる時代環境においても利益の出せる仕組みを確立すること。
  2. 2.健全な成長を続けることにより社会貢献し、利益の還元と循環を図る。
  3. 3.働く社員にとって良い会社を目指し、会社が良くなると社員が良くなり、社員が良くなると会社が良くなる仕組みづくり。
  4. 4.顧客の創造なくして企業の発展はない。生活提案型企業として市場を創造する。
  5. 5.常に高い志を持ち、常に未完成であることを認識し、革新成長する生命力に満ちた組織体をつくる。

本書では、経営理念の1番目にある「いかなる時代環境においても利益の出せる仕組み」を深く掘り下げてきたわけですが、2、3、4は1を実現するための考え方として、折に触れて説明してきました。

そして1から4は、いずれも「仕組み」です。これらの仕組みの土台になるのが、第5条の「常に高い志を持つこと」です。それは起業家精神とほぼイコールです。

起業家精神の核を成す「構想力」

私は、起業家精神には4つの資質が必要だと考えています。

1つ目は「構想力」。端的に言えば、どんな会社をつくるか。何を目的に、どのような事業で世の中に貢献するのかを考える力です。

2つ目は「説得力」。事業の構想を社員と共有し、巻き込むために必要な力です。話し方が上手か、下手かは関係ありません。トップとして一生懸命に走り、範を示せば周囲は付いてきてくれます。

3つ目は「実践力」。考えるだけなら、学者でもできる。起業家に必要なのは実践です。口で言うだけでは経営はできません。

4つ目は「結果責任」。事業を始めたら、会社のあらゆる物事はトップの責任になる。責任を取り切る覚悟があるかどうか。

これら4つの条件の中で最も重要で、あらゆる資質のベースになるのが、構想力です。そしてこれが「高い志」にも関わってくるのです。

構想力とは「どんな会社をつくるか」だと言いました。ここで大切なのは「何を扱う会社か」ではなく、「何が目的の会社か」という視点です。

起業家の中には、「金儲けがしたい」「人の役に立ちたい」といったことを目的にする人がいます。

私も最初は家族を養うためでした。ただ、それでは構想とは呼べません。願望にすぎないのです。

願望を持つことは否定しませんが、願望のレベルにとどまっている限り、会社を発展させられません。なぜなら、事業は1人ではできないからです。

共に喜び、共に涙を流す仲間を最初は1人でも2人でもいいから持つ。それによって企業は走り出します。そうした仲間を得るためには、「この人に付いていこう」と思ってもらわなければならない。

自分の金儲けが目的というトップには、誰も協力しません。

だから起業家には、自己の利益に根差した願望ではなく、市場に何を提供し、社員と共にどう成長し、社会に貢献するかという構想が必要なのです。

結婚している男性の皆さんは、かつて奥さんの心に火をつけたから、婚約に至ったはずです。自分の幸せだけを求める男と結婚してくれる女性などいないでしょう。

社員に惚れられるようなリーダーでないと、経営者は務まらないと思います。ビジネスモデルがどんなに秀逸でも、それだけでは会社は経営できないのです。構想と空想の違いは、使命感の有無構想は空想とも違います。

本を読んだり、人の話を聞いたりして「こんな事業が儲かりそうだ」と考えるのは空想です。一方の構想は、生活や仕事などの人生経験を通じ「こんな会社をつくらなければ」と、起業家の体内から湧き出るものです。

大人になってからの体験はもちろん、子供の頃の出来事が関係することもあります。実体験に基づかない空想は「こんな会社ができればいいな」という机上の空論にすぎないので、事業にかけるエネルギーも弱い。

これに対し、自身の生きざまと結びついた構想は「こんな会社をつくらなければいけない」という使命感を帯びるのです。

そのエネルギーの強さが、仲間を集める説得力にもつながります。多くの起業家は「この製品で儲けている人がいる。よし、俺も」と安易に事業化する。それでは周囲の共感を得られません。また、安易に起業すると粘りがない。

環境が変化し、その製品が売れなくなったとき、早々に音を上げてしまう。経営は山と谷の連続ですから、「絶対に生き延びてみせる」と踏みとどまることができない起業家は無理です。

「うちの会社には歴史があり、いい得意先があり、独自技術もある。構想力などというややこしいものは関係ない」という人もいるでしょう。

確かに、独自技術があれば、特定の業界では優位に立てるかもしれません。しかしその業界がいつまでも安泰であるという保証はない。

だから「何を扱う会社か」でなく、「何が目的の会社か」なのです。

会社を発展させるにしても、環境変化に負けない会社をつくるにしても、「誰のために、どんな事業をするのか」という構想力が問われます。

私の場合、オイルショック後に経営者としての自分を猛省する中で、生活者のために、その不満を解消する事業を展開するという方針を明確にしました。

そこから園芸用品やペット用品、クリア収納用品が出てきたのです。

家電やコメを作るなど事業領域をどんどん広げているので「アイリスオーヤマの本業は何なのか」と尋ねてくる人がいますが、私た

ちの中では「生活提案型企業」という軸で首尾一貫しています。このように考えてみると、起業家には「本質的に考える」という作業がとても大切だと分かります。

本質的に考えるという意味では、避けて通ることができないのが「そもそも企業とは何のか」という問いです。皆さんなら、この問いにどう答えますか。

私は、企業とは第一に「企業理念を共有している組織」だと捉えています。単に人が集まっているだけの集合体でなく、ある使命を共有した組織。家族とも学校とも違います。

企業が企業である理由を突き詰めれば、それは理念の共有なのです。たとえ社員が1人でも、一心同体になるためには、明確な言葉で示された理念が不可欠。私の場合も企業理念を明確にしたから、会社を再生できました。

第二に、「非効率な作業や仕組みを、効率的な事業や取引に変えること」。今あるマーケット、今あるこの製品、今ある仕組みが完璧なものであれば、新規参入する必要はありません。

しかし現実には、この世に完璧なものなどなく、非効率な作業や無駄な仕組みだらけなのです。それを効率的にすれば、ユーザーが喜びます。目先の利益を追ってコストダウンしてばかりで、他社でも代替が利く製品しか作っていない。

そんな企業に永続性はありません。自社にしかできない事業を見つけ、そこに切り込むのです。アイリスの炊飯器はよく売れています。

価格は3万円です。他社は同等の機能で10万円もする。勝負は火を見るより明らかです。他社とは製造方法や流通方法が異なるからです。

日本企業は既存製品をブラッシュアップすることは得意でも、仕組みを変えるのは苦手です。アイリスは生活者のための企業を目指してきました。だから、自社で問屋機能を抱えるメーカーベンダーという業態も確立できた。

業界の慣習や過去の常識に縛られず、ユーザーにとってベストな経営は何か。ユーザーイン経営で本質を突いたことで、会社は発展しました。

第三に、「経営資源の集合体を社会の変化に対応させること」です。企業の構成要素は、資本、人材、技術、ブランドなどです。これらを社会の変化に対応させるのです。

資本についてはトップの判断で移動できても、社員の意識を変えたり、先を見通して技術を育てたりするのは容易ではありません。集合体をどう動かすか。ややもすると、企業規模が大きくなり、組織が複雑になると、組織の理論が優先しがちです。

ここに経営の難しさと醍醐味があるのです。

「できるかできないか」の勝負

経営の現場では毎日いろいろな判断を迫られますが、このように本質的に考えるようにすれば、間違うことはまずありません。あとは動くかどうかです。

欧米にキャッチアップしようとしていた頃の日本であれば、詰め込み型の知識教育にも意味はありました。

方向性は欧米企業が示しており、そこにどれだけ効率的に近づけるかが日本企業に求められていたからです。リスクの所在を知り、失敗の確率を下げることで企業は成長した。

しかし、今の時代にその教育は合っていません。知っているか知っていないかではなく、できるかできないかが問われます。

イニシアチブ(主体性)とマネジメントは別物です。リーダーがビジョンを示し、確固たる意志を持って、周囲を率先して行動するのが、イニシアチブ。

一方のマネジメントは、与えられた環境下でアウトプットを最大化するため、組織や部下を機能的に動かすスキルです。

これまでのトップにはマネジメントスキルが求められましたが、これからはイニシアチブが要る。イニシアチブのベースになるのが、「こんな会社をつくりたい」という強い構想力です。

社員にロマンを語ることも大切です。マネジメントとは質が異なるのです。マネジメントは優秀な部下に任せられますが、イニシアチブはトップにしか務まりません。

この違いを理解していない経営者がとても多い。マネジメントでは、イノベーションは起こせない。起業家精神に必要なのはイニシアチブです。

自分の考えをきちんと持ち、主体的にそれを社会に、また社員に伝える。そして自ら実践し、結果責任を取るのです。

ぜひ皆さんも、自分で「こんな会社をつくりたい」という志をしっかり定め、イニシアチブを持ち、組織を引っ張ってください。

他人の目や過去の常識はあまり気にしないほうがいいと思います。業界の慣習を守ることは必要ですか。今いる市場にこだわりすぎていませんか。納入先の顔色ばかりをうかがい、その先の消費者から目を背けていませんか。誰のために何をしていくのか、いま一度考えてみてはどうでしょうか。

父が急死して、19歳で社長になった私は、眼前にそびえる大きな壁を手探りで乗り越えるしかありませんでしたが、その分、真っ白なキャンバスに自らの手で自由自在に絵を描けました。

あの頃は苦しかったけれど、今から振り返れば、恵まれていたと思います。

しかし、これで完成ではありません。この世の物事はすべて未完成です。完成したと思った時点で衰退に向かうのです。

売上高や利益がどんなに増えても、それはプロセスにすぎません。アイリスはこれからも前に進みます。そして、自らの意志で前に進むあなたのことも、私は全力で応援しています。

あとがき本書を執筆している時点でも、世界中で猛威を振るっている新型コロナウイルスは、私の予想を超える環境変化です。

私たちが暮らしているこの世の中は、何が起きるか分からないということを改めて思い知らされました。

人々の移動が制限され、首都東京では朝の通勤時間帯でも満員電車を見かけなくなり、在宅勤務が急速に広がっています。

観光、宿泊、運輸、外食、イベントなどの業界では、需要が瞬時に蒸発し、回復の先行きは見通せません。個々の企業努力でどうにかなるレベルを超えており、国の支援は不可欠です。

そしてポストコロナに向け、各社はグローバルサプライチェーンの見直しを迫られています。

米国では自国優先の保護主義と所得格差是正のため、製造業の国内回帰を進めざるを得ません。

日本では、輸出主導型から現地生産型に転換していくでしょう。

また、「ソサエティ5・0(サイバー空間とフィジカル空間が高度に融合した社会)」への対応も、ポストコロナでは加速するはずです。

もはや、過去の延長の経営環境ではありません。ただし、こうした大きな環境変化は今後、頻発すると考えられます。

パンデミックや自然災害にとどまらず、英国のEU離脱、米中貿易摩擦に見るように、経済のあり方も根本から問われ始めています。

従来の政治・経済・社会の枠組みが、がらがらと音を立てて崩れる中では、どんな環境変化が起きても不思議ではありません。

加えて、日本は本格的な人口減少時代に突入しました。生産年齢人口の減少がスピードを増して進んでいます。

これまで日本を支えてきた市場であっても、あっという間に縮むようなことが、これからは当たり前に起きてくるでしょう。

そう考えれば、コロナショックによる経済環境の変化は、将来起きることが前倒しになっただけともいえます。

景気が良いときは業績が伸び、景気が悪いときは業績が落ちる。そうした景気連動型の経営では、ポストコロナの世界では生き残れないのです。

ニューノーマル時代の新しい経営とは何か。いかに、日本型経営を進めていくのか。私たちは経営の本質を捉え直すことが必要でしょう。

そして、時代環境に合った新事業を立ち上げる経営者、ベンチャービジネスを興す起業家を輩出していかなければなりません。

私は19歳で経営者となり、56年がたちました。56年間を振り返り、本書を書きまとめました。

経営者としてのスタート時は、いかに売り上げを伸ばし、利益を出すかだけを考え、日夜、新製品開発に没頭していました。そして新製品開発で売り上げを上げた結果、利益が出ました。仕組みやマネジメントよりも、営業優先の経営。

すなわち、B/S(貸借対照表)より、P/L(損益計算書)を重視した経営を優先しました。20代で、第一次産業の消費の中心である宮城県に新工場を立ち上げました。

オイルショックのときもシェア第一主義の経営を進めた結果、オイルショックのリバウンドで倒産寸前にまで追い込まれ、市場経済の厳しさによって、まさに死ぬ思いをしました。

自社の強みを生かした経営を優先することは、想定外の環境変化にはダメージが大きいことを学びました。

常に、想定外は起きる。そのときに赤字を出さないためには、何をしなければならないか。

好不況の波に左右されにくい市場創造型のビジネスモデルを確立すべく、私はモノ作り中心の組織づくりから、マーケティング中心の組織づくりへと経営を変えていったのです。

「企業とは生活者を豊かにするためにある」との信念で、企業経営の本質を多面的に捉え、マネジメントの仕組みを毎月、毎月、ブラッシュアップし続けてきました。

すべてがオリジナルでした。

企業理念の第1条は、「会社の目的は永遠に存続すること。いかなる時代環境においても利益の出せる仕組みを確立すること」と制定。

好況のときばかり儲けるのではなく、不況のときでも利益を出し続けるという強い意志を込めています。

私の経営が唯一の正解だとは全く思っていません。今現在の「仮説」にすぎません。環境変化によって経営も進化してしかるべきです。

しかし断言できるのは、金融資本主義のように、あまりにも目先の効率を考えることは時代にそぐわなくなったということです。

コロナ下のマスク供給にしても、これほど国民が求めているなら、それをすぐに提供するのが企業の役割です。それができないのはなぜかという点に、効率論の限界が見て取れます。経営者としての私がしてきたことは、決して難しいことではありません。

製品開発に自ら参加して、「本当にお客様の満足という視点に立った製品作りができているか」をつぶさに、誰よりも厳しく見てきました。

担当者がいくら優れた製品だと主張しても、私は必ず「おまえの嫁さんなら、この製品を買うか」と聞きます。それで返事に困るような製品は、市場に出しても十分な満足感が得られる製品ではないからです。

「新しい価値を創造して、潜在的なニーズに応えるからこそ、利幅が確保できる。それができない製品は提案するな」と社員に言い続けています。

多くの経営者はこんなとき、「他社と比較してどうか」という物差しで評価しがちです。目先の効率を追求するなら、その質問は正しいでしょう。

しかしそれでは、これからの厳しい時代に売れる製品は作れません。このような時代の大きな変わり目だからこそ、お客様が今どんな不満を持っているかを常に考えるべきです。

そうすれば、新しいヒット商品の鉱脈を必ず発見できます。これからのアイリスオーヤマは、国内外でこれまで以上に幅広く事業を展開していくことになるでしょう。

国内では、例えば企業向けのBtoBの市場に注力しています。法人向けのLED照明は、オフィス、商業施設、公共施設、工場などでたくさん使われています。

照明以外にも、建築用の床材・壁材、店舗用の什器、AI(人工知能)カメラ、スポーツスタジアムの人工芝や観客席、といったものまで手掛けています。

それらはいずれも生活者向けの製品で培った製造ノウハウを活用したものです。売り先は法人になっても、経営の根幹はユーザーインのダイレクトマーケティング。

消費者向けの生活用品で培ったマネジメント手法で、どこまで事業を展開できるかが楽しみです。また、グローバル展開では、台湾、そして東南アジアにも積極的に拠点を出し始めています。

2018年にベトナム、2020年にはタイに現地法人を設立しました。東南アジアは日本の生活様式に近いため、特に家電製品のビジネスチャンスが大きいと見ています。

グローバル時代においても、アイリスの経営手法がどこまで有効か。いかなる時代環境でも利益を出すため、今後もマネジメントの仮説と検証を繰り返していきます。

本書は月刊経営誌「日経トップリーダー」での連載記事などを核にし、そこに大幅な肉付けをして一冊にまとめました。

冒頭に書いたように、アイリスの成功物語ではなく、ユーザーである読者の皆さんの視点から、アイリスの経営の全体像をまとめたつもりです。

私のやり方を押しつけるつもりはありませんし、アイリスの経営をそのままコピーしても機能しないと思います。

最適な経営は個々の会社の歴史、風土などによって違うからです。私は高校時代、たくさんの映画を見ました。ちょうど時代はヌーベルバーグでした。

商業主義に反旗を翻し、ヨーロッパの自由な発想で作られた映画は、とても刺激的でした。人の内面をえぐり出すような映画は、自分の生き方を考えるきっかけにもなりました。

そんな中、19歳で経営者の道に入った私は、常に自分自身の内面と向き合ってきました。どうすれば自分が納得できるか。そのためには何をすべきか。「なぜ」「どうして」「どうすれば」と常に考え続けました。

あの頃は高度経済成長期でしたから、世の中の流れに身を任せていれば、食べる分には何とかなったでしょう。けれど、私はもっと主体的に人生を歩みたかった。

一人の人間としてどのように生きれば、この社会と本当の意味でつながることができるのかを、常に自分に問いかけていたような気がします。

だからこそ、自分たちが作ったものでお客様に喜んでもらいたいと思った。

社員には、「この会社で働いて、やりがいのある人生が送れた」と思ってほしいと心底願った。

アイリスオーヤマは、生活者を豊かにする会社でありたい。そして、私にとっても社員にとっても、有意義な人生を送れる場所にしたい。ニューノーマル時代はどんな世界になるのか、誰も正解は分かりません。

でも、いかなる時代環境であっても可能性に満ちています。どのように経営すれば、社会に、社員に喜ばれるのか。そして経営者である自分も楽しいのか。ぜひ、皆さんもご自身で考えてください。ビッグチェンジがビッグチャンスといえる企業経営を目指しましょう。

2020年8月大山健太郎

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