成熟期は、企業の成長における第三段階にあたる。このレベルにある会社の例としては、マクドナルド、フェデラルエクスプレス、ウオルト・ディズニーなどの優良企業があげられる。
しかし、これらの企業は、幼年期や青年期を無事に通り過ぎたからといって、成熟期に到達したわけではない。
ましてや歴史がある会社だから成熟企業と呼んでいるわけでもない。
ここにあげたような企業では、スモールビジネスのころから成熟期の企業のような方法で経営されていた。
つまり、成熟企業の創業者は、事業に対して普通とは全く異なる視点をもっていたのである。
とはいっても、成熟期の企業のような視点で立ち上げられた会社も、幼年期と青年期を通り抜けなければならない。
しかし、彼らは全く違う方法で通り抜けようとする。これこそが、起業家の視点なのである。
IBMを成功させたトム・ワトツンの視点
IBMの創業者であるトム・ワトソンは、IBMを成功させた理由について開かれたとき、次のように答えたといわれている。IBMが今日の姿に成長したのには、三つの特別な理由があります。
最初の理由は、事業を立ち上げてまもないころから、はつきりと会社の将来像を描いていたことです。
言い換えれば、私の夢やビジョンが実現したときに、会社がどんな姿になっているのかを想像する能力をもっていたということでしょう。
二番目の理由は、会社の将来像を決めた後に、そのような会社ならどんな行動をするべきだろうか?・と自分に問いかけてみたことです。
これを繰り返すことで、私は成長を遂げた後のIBMがどのような企業活動をしているのかについて、明確なイメージをつくりあげていきました。
そして、三番目の理由は、私がIBMを立ち上げてまもないころから、優良企業の経営者と同じくらいの厳しい基準をもって経営しようと心がけたことです。
なぜなら、平凡な会社が突然、優良企業に変身することはできません。優良企業になるためには、会社を立ち上げたときから、優良企業のようなしっかりとした経営をしなければならないのです。
IBMでは創業当初から、将来のIBM像という青写真がありました。そして毎日毎日、その将来像に近づけるような努力を重ねてきたのです。毎日、仕事が終わったときには、その作業がどれくらい進んだのかを確認していました。
そして現在の姿と現在あるべき姿にギャップがある場合には、そのギャップを埋める仕事が翌日の課題となったのです。
私はIBMで商売をしていたのではありません。事業を成長させることに精力を注いでいたのです。
IBMでは事業を経営していたのではなく、事業を創り出していたのです。大先輩であるトム・ワトソンがIBMの成功について語ってから、すでに三十年以上がたつ。
私にワトソンの話を聞かせてくれた人は、彼の言葉をひとつひとつ暗記していたわけではないだろう。
それにもかかわらず、彼の話は示唆に富んでおり、優良企業が優良企業である理由、そして景気が悪くなると平凡な企業が生き残れなくなる理由を知るヒントになる。
また、本当に優れた企業は、優れたビジネスモデルに基づいてつくられてきたこともわかる。
重要なのは商品やサービス自体ではなく、起業家の視点をもって経営することであり、優れたビジネスモデルをつくることなのである。
トム・ワトソンは、起業そのものに情熱をもっていたといわれているが、残念なことに事業を起こす人の大半はそうではない。
彼らの大半は収益の上がるビジネスモデルをもたないまま、ただ毎日、仕事をこなしているだけなのである。
起業家の視点と職人の視点との違い
起業家は「事業が成功するにはどうするべきか?」を考え、職人は「何の仕事をするべきか?」を考えている。
・起業家にとって、会社とは顧客に価値を提供する場所である。その結果、利益がもたらされる。職人にとって、会社とは自己満足のために好きな仕事をする場所である。その結果として、収入がもたらされる。
・起業家は、最初に会社の将来像を確立したうえで、それに近づくために、現状を変えようとする。一方で職人は、不確実な将来に不安を抱きながらも、現状が維持されることをただ願うばかりである。
・起業家は、まず事業の全体像を考えてから、それを構成する部品を考える。しかし、職人は、事業を構成する部品を考えることから始まり、最後に全体像がつくられる。
・起業家は全体を見渡すような視点をもっているが、職人の視点は細部にこだわりがちである。
・起業家は自分の描く将来像から逆算して現在の自分の姿を決めるが、職人は現在の自分を基準に将来の自分の姿を決めてしまう。
優れた事業をつくるには、起業家の視点が必要であり、それが職人の視点とは正反対であることがおわかりいただけただろうか。
起業家の視点では、事業とはさまざまな部品が組み合わされたネットワークだと考える。部品が集まったグループが自律的に収益を上げる。事業とはこのように組織化されたものなのである。
そして、事業が成長する様子を、きつちりと測ることができなければならない。量として測ることが無理でも、質として測らなければならない。
また、事業には基本となる理念も必要だ。その理念にしたがえば、今日どんな仕事をやるべきなのかがはっきりするだろう。
そのため事業は、誰にでもわかるような明文化されたルールにしたがつて運営されなければならない。
一方で職人タイプの経営者は、長期的な展望をもたないまま、日の前の仕事ばかりに気をとられがちである。
このタイプの会社では、ある仕事が終わったからといつて、次の段階に進めるわけではない。同じような仕事を何度も繰り返すだけなのである。
あたかも日の前の仕事をこなすことだけが目的となつてしまい、長期的な目標をもつていたことなど忘れてしまうのである。
事業の将来像を描く、起業家の視点とは
職人には見えないような遠い将来を、起業家はどうして見ることができるのだろうか?起業家の視点についてもう少しくわしく見てみよう。
起業家は、特定の顧客層がもっているニーズを敏感に感じ取り、斬新な方法で満たそうとする。起業家は、事業を商品だと見なしている。
つまり、自分の会社は競合商品と一緒の棚に並べられているので,隣の商品よりも顧客の目を引きつけなければならない。
起業家にとって大切なことは、その事業で何を提供するか(ヨF一)ではなく、どのようにして提供するか(国o薫)である。
商品よりも、それを提供する方法が重要なのだ。起業家がビジネスモデルをつくる際には、十分な調査を行い、ビジネスチャンスを探そうとする。
そして、そのチャンスが見つかれば、顧客が抱えている不満を解決するような方法を考える。その方法は具体的なものでなければならないし、顧客の立場から考えなければならない。
「顧客は私の事業をどう思っているのだろうか?・私の事業は競争相手と比べて、どれくらい差別化できているのだろうか?」という問題意識を起業家は常にもっている。
このようにして起業家の視点は、まず顧客像を明らかにするところからスタートする。はっきりとした顧客像をもたないかぎりは、どんな事業でも成功しないのである。
反対に職人は、自分にできることを決めたうえで、その売り方を考える。結果として、誰にどのようにして売るのかという問題は深く考えられないままになってしまう。
こんな事業は、顧客を満足させるためではなく、職人の自己満足のために存在するようなものである。
起業家にとっては、事業そのものが商品である。職人にとっては、商品とは顧客に手渡すものである。起業家にとっては、顧客は常にチャンスである。
なぜなら、顧客のニーズはたえず変化し続けることを知っているからである。そのために起業家は、顧客が現在や将来に欲しがるものを探し続けなければならない。
職人にとっては、顧客は常に面倒な存在である。なぜなら、職人がせっかく商品を提供しても、欲しがらないように見えるからである。
起業家にとっては、事業とは宝探しのようなもので、毎日が驚きの連続である。しかし職人にとっては、やりたいことができない場所になってしまう。
そればかりか、自分の努力が褒められたり、仕事が評価されたりすることはめったにない。職人から見れば、社会は自分がつくれないものばかりを欲しがっているように見えるのである。
ここまで読んだあなたは、「職人タイプの経営者にも、起業家の視点はもてないのか?」と思っていないだろうか?・残念なことに、その答えはノーである。
職人は顧客のニーズなどに興味をもたないだろうし、ほかにもやるべき仕事は多いのである。しかし、違う方法もある。
それは、私たちの内側で十分に開発されてこなかった起業家の人格に「ある情報」を与えることである。そうすることで、職人にも「手ごろなサイズ」を超えて成功する事業の将来像を描けるようになるのである。
そして「ある情報」こそが、あとで紹介する「事業発展プログラム」なのである。
これがきっかけとなり、私たちの中にある起業家の人格――私たちの革新的な一面―を刺激して、職人の人格という足かせから解放してくれるのだ。
そのために、すぐにでも私たちの中にある起業家の人格に刺激を与えなければならない。
職人の人格が日を覚ます前に、起業家の人格が事業を軌道に乗せてしまうのだ。
先の話になるが、もし起業家の人格が日覚めて、起業家の視点をもちはじめたら、マネジャーと職人にもそれぞれの役割が必要になる。
なぜなら、起業家が走りはじめれば、マネジャーは走り続けるための燃料があるかを確認しなければならないし、職人は大好きなボルトとナツトを手に修理の仕事に走り回ることになるからだ。
要するに、成功する事業には、起業家とマネジャーと職人のそれぞれに持ち場があり、それぞれの強みが発揮できるような、バランスのとれたものなのだ。
そのようなビジネスモデルを見つけるために、ある画期的な出来事が参考になる。私はこれを「事業のパッケージ化」と呼んでいる。
これを境にして、米国のスモールビジネスは、驚くような変化を遂げたのである。
サラがお店を開く時間になつた。そして私たちはまだたくさん仕事があった。「今晩また来るよ」私は言った。
「何か言いたいことはある?」「ええ」サラは笑った。「早く話の続きが聞きたいわ」
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