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6章「仮説・実証・参入」の型で事業の勝ち筋を確立する

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最小の投資で儲かる事業をつくる3ステップ
どうすれば再現性高く事業を立ち上げられるか

「必ず、自社の収益の柱になる事業を生み出す」という目的を達成するために、事業開発のプロセスにも型がある。それは、「仮説、実証、参入」という3ステップを踏むことだ。

3章でも少し述べたが、起業専業企業エムアウト時代に、オーナーの田口弘さんから、「当たるか当たらないかわからないのはやめてくれ。仕組み化してくれ」というオーダーを受け、「まず小さく試した後、勝ち筋が見つかったら一気に資金を投入して参入する。それまでの工程でやるべきことはコレコレだ」と考えたのが「仮説、実証、参入」という手順の型である。

新規事業は検討に検討を重ねたうえでもなお、 一定程度の失敗は避けられない。そこで生存確率を前提に、できるかぎり投資リスクを最小に抑えるべく、「参入」の前に事業の不確実要素をつぶしておくのだ。

そのため、「参入」フェーズの前に「仮説」と「実証」という2つのフェーズを設けている。まず「仮説」は、どんな事業をつくるかを、机上で可能なかぎり、検討を重ねる段階である。

たくさんある事業アイデアから自社のモノサシに合うもので、かつ「これこそ自社が解決すべき社会課題だ!」と強く共感できるものを選び、想定顧客にインタビューをおこない、これを事業計画の原型として落とし込んでみる。つまり、最初の最初、アタリをつけるフェーズである。

5章「マーケットアウトの型」で述べたとおり、この段階では「事業コンセプトがマーケットアウトか」が、次のフェーズに進む条件となる。

事業コンセプトとは「誰の、どんな課題を、どのように解決するか」という夕事業の肝クを端的に文章化したものだ。この事業コンセプトが、顧客ニーズを起点にしていて、かつ顧客の利便性を劇的に高めるカタチで市場を再定義できるものなら、新規事業の成功確率は高まる。

ちなみに、エムアウトにおいて「仮説」に与えられる時間軸は2か月としていた。これ以下だとあまりにも詰めが甘く、これ以上の時間をかけても大きな進化が見込めない分岐点が2か月だったからである。

もちろん事業によって、時間軸も予算軸も、それぞれの企業の目指すところ、事業の特性や現実の制約条件などを勘案して定義していただきたい。エムアウトにおいても、あくまで「当時」の目安であることを強調しておく。

なお、仮説段階では1つの事業アイデアに対して複数の事業計画を立ててもいい。なぜなら、どこまで考えても机上は机上なので、仮説が1つに絞れないのであれば、2つのストーリーをつくっても構わないからだ。

だからこそなのだが、仮説のあとに「実証」というフェーズを置く。実証は、仮説フェーズで可能なかぎり詰めた事業ストーリーを、少額でマーケットに出してみるプロセスだ。要するに、実際に試す実証実験の場である。

たとえば、想定した営業で集客し、サプライチェーンを回してみて、事業が軌道に乗ったことを前提とした価格付けやサービスレベルを、一定予算の限りで、赤字を出してでも試す。

そして、「最終的に投資が回収でき、儲かる、実証実験結果に基づいたシナリオを立てることができるか」を検証するのだ。

エムアウトにおいて実証フェーズに与えられる時間は6か月、予算は5千万円としていた。

もし、このフェーズで「勝ち筋」の確立に至らなかった場合は、何かしらのピボット(方向転換)を検討するか、もしくは事業を終わらせることとなる。

ここで大事なことは売上利益を出すことではない。繰り返しになるが、目的はあくまで、再現性のある「勝ち筋」をなんとしてでも見つけることにある。

こうして一連のビジネスを回してみることで、仮説フェーズでの「うまくいくはず」「顧客は好反応するはず」から、実証実験を経たうえで「実際はこうだった」という事実を反映した事業計画へと、確度を高めることができる。

そして、事実に基づいた確信がもてれば、 一気に投資して広げていくことができる。これが「参入」のフェーズである。

参入フェーズでは、この勝ち筋を磨き上げて「ユニットエコノミクス」を健全化する。さらにいえば、顧客のニーズは常に変容していくので、勝ち筋もそれに合わせて少しずつ進化させていかなければならない。すなわち、顧客のニーズを集めながら、勝ち筋を磨き続ける。このサイクルで事業を強く、大きくしていくのである。

事業拡大に必要な2つの要素

ここで、資金を入れて事業を拡大できるか否かを判断する、「勝ち筋」と「ユニットエコノミクス」について解説しておく。まず「勝ち筋」は、その事業が成長、成功するための戦略ストーリーを文章と数字で表したものである。

要するに、「誰に対して、どんな価値を、どうやって届けると、買ってもらえ、かつ儲かるのか」といってもいい。

たとえば、3章で登場した「訪問診療による日腔機能回復サービス」の事業でいうと、当時私は、仮説と実証を経てこんな勝ち筋を描き、参入にこぎつけた。

忘れてしまった読者の方に、事業の概要から簡単に説明するとこうなる。まず顧客は、歯科医院に頻繁に通うことが困難な要介護高齢者である。

高齢者は飲み込みが悪くなって誤鳴性肺炎を起こしてしまうことが多く、その予防策として定期的な口腔ケアが必要となる。

高齢化が進むわが国では、高齢者の誤廉性肺炎を減らすことで医療費を抑えたく、日腔ケア事業に参入する歯科医を増やそうと診療報酬点数を高くしていた。

しかし、首都圏では数件の歯科医院が口腔ケアサービスを提供しているものの、歯科医師が主体のため往診(通院できない患者の要請を受けて、突発的な病状の変化に対しておこなう、都度対応の医療)が主体であった。

そこで、競合とはまったく違うコンセプトとして、「歯科衛生士が主体となり、定期的かつ計画的に訪問し、診療をおこなう専門的な口腔ケアサービス事業」を立ち上げて全国展開しよう、というのが事業の概要である。

この事業には、本格的に展開して実績を上げていた東京郊外のB歯科医院が協力してくれたおかげで、「力強い事実の数字」がいくつもあった。

たとえば、ある介護施設でテスト的に歯科検診をおこなった結果、要介護高齢者のうち口腔内に問題のあった人は8割にものぼった。そして、施設と家族あてに検診報告書を送付したところ、8割(母数換算6割)が口腔ケアサービスを受診してくれた。非常に高いコンバージョン率(=顧客獲得)である。

さらに、「死ぬまで日から食べたい」という高齢者のニーズは臨終まで継続するため、LTV(顧客が生涯にわたって会社にもたらしてくれる収益)も非常に高い。

つまり、100名入居者がいる施設に営業をかければ、60名強の新規顧客を獲得でき、月4回の診療で月額売上単価2万5千円が数年続く、と見込まれるわけだ。類いまれな驚くほどの数字である。この数字から、私は事業拡大の物語をこう描いた。

まず、個人の開業医では不可能な圧倒的資金を投入し、日星をつけた地域でしらみつぶしにローラーで介護施設に営業をかけ、無償で歯科検診を実施。コンバージョン率6割で一気呵成に新規顧客を大量に獲得する。

最初に施設から攻めていく理由は、ターゲット顧客のいる居宅と高齢者介護施設だと、施設のほうがターゲットの居場所を特定しやすいためだ。そこで、要介護認定者数が多く、面積に対する密度の高いエリアを首都圏でピックアップし、順番に攻めていくと決めた。

そして施設での無料検診の後、施設と入居者の家族に検診報告書を送る。狙いは、「口腔機能に問題あり」と指摘を受けた8割の家族は、当然、介護施設に訪問歯科診療の希望を出してくれるからである。入居者の家族を味方に引き込む、という作戦である。

また、診療費2万5千円は高額だが、健康保険制度がきくため、施設も家族も新たな費用が発生しない。ゆえに、訪問診療を阻む要因は、ほぼ無い。

さらに、現在および後発の競合に勝つべく、医療現場スタッフが訪問診療と業務改善に注力できるよう、営業は専門部隊を用意して新規顧客の開拓をおこなうと同時に、既存顧客に対しては満たされていないニーズの把握に専心してもらう。また、バックオフィス業務は本部に一括集約し、IT化することで効率化を図った。

事業の核心を担う医療現場スタッフは、日々の訪問診療によって口腔機能向上の施術経験を蓄積して研修などを充実させ、サービスを磨くことに注力してもらった。こうして、個人の開業医ではありえない拡大スピードと、サービス品質向上や生産効率改善のサイクルを高速で回し、圧倒的な競争優位を築くのだ。これが、私が描いた口腔機能回復サービス事業の勝ち筋である。

ュニットエコノミクスは健全か

もうひとつ、「ユニットエコノミクス」についても述べておこう。ユニットエコノミクスとは、「顧客1人あたりの採算性」を表す指標である。

第17図に計算式を記したとおり、顧客が生涯にわたって会社にもたらしてくれる収益(LTV= r串①ゴ日のくLc①)を分子に、その顧客を獲得するためのコスト(CAC= 〇“∽一o日①『>8〓∽〓8 0o∽←を分母として求めればよい。

このユニットエコノミクスが「1」以上ならば、ユニットエコノミクスは成立していることになり、逆に「1」以下なら、顧客が増えれば増えるほど赤字が増えてしまう。

たとえば、CACが10万円でLTVが1万円、つまり「10万円かけて獲得した顧客が将来的に合計1万円しか払ってくれない」だったら、顧客が1人増えるごとに9万円を失うことになる。

逆に、CACが1万円でLTVが10万円の場合は、「将来的に合計10万円払ってくれる顧客を1万円で獲得できる」といえるため、顧客獲得の効率性が高く、ユニットエコノミクスが成立している状態であると判断できる。したがって、 一気呵成で資金を入れて事業を拡大する前には、必ずユニットエコノミクスがプラスになっていなければならないのである。

ところで、なぜユニットエコノミクスが新規事業の将来性や成功を判断するのに有効な指標といわれているかというと、初期の事業のP/Lは多くの場合に赤字で、それだけで事業性を判断すると見誤ってしまうからだ。

従来の売り切り型モデルの事業であれば、売れた瞬間に製造原価と販売コストを回収する

が、とくに、いま主流となっているサブスクリプション型(継続課金型)ビジネスの場合は、顧客に継続的に利用してもらうことでコストを回収するため、損益分岐点に達するまでに多くの時間がかかる。

そこで、LTVつまり生涯顧客価値という概念を取り入れたユニットエコノミクスで採算性を測り、これが成立しているならば事業の将来性があると判断できるわけだ。

たとえば、2000年ごろにソフトバンクがヤフIBBというインターネット通信サービスのモデムを街角で無料配布していたが、これはまさに「LTV■CAC」の観点からの施策である。

無料で配っているので「1製品あたりの採算性」という限界利益の評価では、当然大赤字となる。しかし、モデムを配られた消費者がそこからヤフIBBに加入し、 一定期間使い続けることで得られるLTVを加味したユニットエコノミクスで見れば、採算がとれる。

製造業の時代は、製品あたりの採算性が事業の成否を判断する指標の主流であったが、サブスクリプション型ビジネスの台頭により、「ユーザーにどれくらい継続的に使ってもらえるか」の概念がより重要になり、そのような経緯からユニットエコノミクスが広く使われているのだ。

ちなみに、ユニットエコノミクスの理想値は3〜5、つまり、かけた顧客獲得コスト(CAC)よりも収益(LTV)が3倍から5倍大きければ健全性が高いとされている。とはいえ、立ち上げたサービスが収益になるまでには、 一般的には6か月から12か月くらいはかかるので、初期段階ではLTVは低い。

この状況で一気に顧客獲得しようとしてマーケティングコストを大きく投下すると、顧客の目に触れる機会は増える一方で、どうしても獲得効率は悪くなり、ユニットエコノミクスも悪化する。

ただ、効率ばかり考えていると、いつまでたってもスケールしないため、初期のフェーズではュニットエコノミクスが3を下回ったとしても、顧客獲得を優先して資金を投じる必要がある。

事業拡大のタイミングを逃さないためにも、まずはユニットエコノミクスを成立させることに注力し、成立した段階からはLTVとCACのバランスを取りながらユニットエコノミクスを3に近づけるよう、中長期的な事業計画を練っていけばよい。

なお、事業の成長にしたがって、競合が登場し、顧客の期待値は上がり、ニーズも変化するため、ユニットエコノミクスは常に変動する。

そのため、いかに効率的に新規顧客を獲得してCACを下げ、その顧客にいかに定着してもらってLTVを上げるか、勝ち筋を磨き続けていく施策も、早い段階から考えておく必要がある。

2。「勝ち筋」のつくり方と磨き方

以上が、新規事業の進め方の型、「仮説、実証、参入」の基本的な概要である。とくに、「実証」フェーズで実証実験をおこない、いかに確実な勝ち筋にたどり着くかが、事業開発における難所のひとつであり、幾多の試行錯誤がここにある。

そこで、皆さんの新規事業においてこの難所を乗りきるための施策を練っていただくべく、印刷EC事業の「ラクスル」の勝ち筋構築までの取り組みと、適切なピボット(軌道修正・方向転換)によって行き詰まりを打破した「ミライスピーカー」「ドクターメイト」の事業を事例に、勝ち筋構築までのポイントを詳述していく。

(1)創業から9年で上場したラクスルの勝ち筋

「刷って配る」で顧客単価10倍に

ラクスル創業期の勝ち筋は、「印刷会社を束ねるシェアリングエコノミーから、印刷会社に加えて配布会社(新聞折込ポスティング)も束ねるシェアリングエコノミーヘの進化」である。

顧客への提供価値を「刷る」だけでなく、「刷って配る」という顧客の一区切りに合わせて商売範囲を拡張したことによって、印刷単価1円のチラシが、「印刷配布単価」10円、つまり客単価が一気に10倍になる、という戦略ストーリーである。

この「刷って配るで単価10倍」の再現性を高めるために、我々は次のような戦略ストーリーを立てた。

まず、ラクスルのメリットである「小ロットでも安い」を伝えるために、100枚わずか500円のワンコイン名刺と銘打った「引き」をつくり、当時としては破格の価格を提示した。

もちろん、その顧客がワンコイン名刺だけの注文を繰り返すと採算が難しい。しかし、リピーターになると、多くの場合はチラシ印刷も発注してくれるようになる。そのときに「印刷だけではなく、配布も格安でできますよ」と売り込みをかけるのだ。

統計を見ると、当時のリピート率は、初月100人からの注文が入ると、そのうち翌月に再注文をするのは30人、翌々月以降は20人…となっていて、1年間のトータルでのリピート率は7割。年間のリピート回数は約7回で、うち初月だけで2.5回を占め、3回目の購入が継続利用の大きな分かれ日であった。

つまり、2回目と3回目の注文の間にいわゆる「死の谷」があるので、2回目の客に3回目を頼んでもらえる施策を厚くしたのである。

たとえば、サイト上で価格表を見て注文を止めてしまうユーザーがいたら、それは金額がネックになっているので、再度価格表に戻ってきた際に500円の割引券を画面上に自動表示する、というようなプログラムを組むなど、ありとあらゆる努力をおこなったのだ。そうすることでリピート率を高め、繰り返し注文をいただくチラシ印刷の中で、たとえばチラシ印刷5千枚以上の大量注文が入ったら、すかさず「印刷だけではなく、配布も格安でできますよ」と売り込みをかけることで、「刷って配る」の顧客を増やしていったのである。

多くの数字が非公開であり、また、これらの数字はすべて過去のもので現状とは乖離がある関係上、これ以上の詳細な数字は公開できずに申し訳ないのだが、いずれにしても、こうした再現可能な勝ち筋を構築した段階で資金調達に成功し、前月比130%というものすごい勢いで成長する時期を経て、ラクスルは上場へと突き進んでいったのである。では、資本金200万円からのスタートで、いかにこの「勝ち筋」に至ったのか、「仮説、実証、参入」のプロセスを使いながら、実務のポイントを述べていこう。

ECサイトか、比較サイトか

ラクスルが勝ち筋にたどり着くまでのスタートは、仮説フェーズにおいて「現状の原型となるECサイトか、印刷会社向けのECシステムの提供か、価格比較サイトか」という3つの事業構想仮説から始まった。

当初、全国の小さな印刷会社を束ねて顧客の間に立つプラットフォームをつくることは決めていたが、双方を取引で結びつけるのか(EC)、情報で結びつけるのか(価格比較および一括見積もリサイト)、当時は2つの方向性を考えた。

そこで、サービス案を決めるにあたっては、最初から1つのアイデアに絞るのではなく、価格比較サイトとEコマースサービス(含む印刷会社向けECシステム提供)を同時に小さくローンチ(立ち上げ。公開)し、検証してみたのである。

結果、より売れたのは価格比較サイトだった。そこで創業翌年、印刷会社を数多く回ってプラットフォームをつくり、印刷をしたい人と仕事を受けたい印刷会社をつなげる「印刷比較ドットコム」というシンプルなサイトをつくった。

価格比較サイトからスタートした理由としては、資金的な問題もあった。ECで強い事業をつくるには、何億、何十億レベルの資金がないと難しい。

アスクルは広告費だけで最初の5年間に75億円、アマゾンジャパンの立ち上げも2年で120億円を使ったという情報を得て、我々は、「多重下請けを解消するようなEC事業を展開するには、いまの資本ではまったく足りない。インパクトが出せない」と実感していた。

当時は、ベンチャーキャピタルなどの投資家からスタートアップヘ流れるリスクマネーが、ほとんどない時代だった。そのため、大きな資本がなくても始められる価格比較サイトからスタートするほうが、理にもかなっていたのだ。

比較サイトは初月から100万円ほどの広告収入を得て、規模は小さいながらも顧客に対して価値を提供できていた。

ただ、じつは創業者の松本さんも私も、比較サイトモデルでは継続的な成長が難しいので、資金調達の潮目が変わった段階で、速やかにECモデルヘと移行したいと考え始めていた。

というのも、比較サイトではラクスルが直接流通に入るわけではないため、商売の品質コントロールを担保できないからだ。

そのため、取引件数が増えるに伴って、印刷会社からは「お金を払ってもらえなかった」「債権が焦げついた」といった話が出てきたり、ユーザーからは「頼んだけど酷い印刷だった」など、クオリティのコントロールが効かないという課題に直面するようになっていたのである。

規模が出れば出るほどクオリティコントロールが効かなくなるマッチングサイトでは、世の中にとって悪になってしまう。そう判断した我々は、以前から温めていた印刷シェアリングプラットフォームモデルヘと転換することを決断したのである。

幸い、比較サイト構築・運営の過程で、「印刷会社には得意不得意分野があり、なんでも一社で刷れるわけではない」というような業界の基本的な知見や、「顧客と印刷会社の間でトラブルが起きやすいのはこの部分」といった取引上の情報など、 一定の市場理解、顧客理解はすでにできていた。

サイトには1000社のサプライヤーもいるし、価格比較をおこなうユーザー、つまり買う寸前のユーザーも月に20万いる。そこで我々は満を持して、ECモデル事業の確度を上げるべく、「試して試して試しまくる」実証のフェーズヘと進んだのである。

2段階の実証実験で勝ち筋をつかむ

実証フェーズでは、2段階の実証実験をやった。まず実証①は、基本構造の確認だ。ラクスルの印刷事業は、「インターネットの力で世の中に分散している印刷会社をまとめ上げ、仮想的に巨大な印刷工場という一つのアセットとして見なすことで、大きな価値を生む」という発想が原点にある。

したがって、このビジネスは顧客の注文を印刷会社に流すだけでは価値が出せない。「顧客のオーダーに合わせて、たとえ小部数の印刷でも高品質・低価格・短納期で提供し、利益をきちっと出す」ビジネスにするためのスキームを構築し、実際にそれを回す必要があるのだ。その実現のためには、当然、パートナーとなってくれる印刷会社の協力が必要となる。しかしながら、マッチングの実績はあれどECとしての実績はゼロである我々のパートナーとなってくれる印刷会社は、果たしてあるのだろうか。

また、我々が価値だと思っている「小部数の印刷でも高品質・低価格・短納期」などの価値を、顧客は本当に評価してくれるのだろうか。

こうしたソモソモ論ともいえる事業の骨格レベルをきちんとつくり込み、そして実際に「受注して。印刷して。納品して・代金を回収する」というビジネスの一連を回すことができるのかを、 一定の価値が保証できる体制を築くまで、いろいると実験して仮説検証を繰り返すのである。

この段階でのポイントは3つある。1つ目は、限界までシステム化してはいけないということだ。実証実験の初期段階でエンジエアに頼んでシステムをつくり込んでも、つくっていという発想が原点にある。

したがって、このビジネスは顧客の注文を印刷会社に流すだけでは価値が出せない。「顧客のオーダーに合わせて、たとえ小部数の印刷でも高品質・低価格・短納期で提供し、利益をきちっと出す」ビジネスにするためのスキームを構築し、実際にそれを回す必要があるのだ。

その実現のためには、当然、パートナーとなってくれる印刷会社の協力が必要となる。しかしながら、マッチングの実績はあれどECとしての実績はゼロである我々のパートナーとなってくれる印刷会社は、果たしてあるのだろうか。

また、我々が価値だと思っている「小部数の印刷でも高品質・低価格・短納期」などの価値を、顧客は本当に評価してくれるのだろうか。

こうしたソモソモ論ともいえる事業の骨格レベルをきちんとつくり込み、そして実際に「受注して。印刷して。納品して・代金を回収する」というビジネスの一連を回すことができるのかを、 一定の価値が保証できる体制を築くまで、いろいると実験して仮説検証を繰り返すのである。

この段階でのポイントは3つある。1つ目は、限界までシステム化してはいけないということだ。実証実験の初期段階でエンジエアに頼んでシステムをつくり込んでも、つくってい

とにかく新規事業では、ビジネスが固まってきて「もう、さすがにシステムを組んだほうが効率的だな」という段階になってから、初めて本格的な仕組みをつくればいい。それまでは手動でやるのが賢明だ。

実証実験のポイントの2つ目は、不特定多数の縁もゆかりもない顧客を対象におこなうよりも、特定少数の「ティーチャーカスタマー」に習うように進めたほうがよい。

新規事業の専門用語では、これを「クローズド・ベータテスト」(開発中のベータ版製品を調整する目的で実施されるテストのうち、特定の団体やユーザーに限定して、試用してもらうテスト)というのだが、ラクスルの場合も、私がほかの事業で役員を務めている会社の印刷をすべてラクスルに切り替えてもらい、発注してもらった。

そして、文字どおリティーチャー足り得るほど、顧客としての意見を詳細に教えてもらい、そのフィードバックを得て改善を繰り返したのである。

どこに魔物が潜んでいるか

続いて、実証実験のポイントの3つ目は、事前に実験すべきク事業の肝″を理解したうえで、「このポイントがこの値になったらクリア」というように、想定項目と検証の値を決めてから臨むということだ。

たとえばラクスルの事業ならば、「ラクスルが営業して← ユーザーがサイトで注文して←ラクスルが受注処理すると←システムが最適な印刷工場へと振り分けて←注文データに従って印刷がおこなわれて←納期に合わせて印刷工場から出荷され←注文条件どおりの商品を顧客が受け取り←請求どおりに入金が確認され←アフターフォローをして←リピート受注が入って…」と、ビジネスの一連の流れを一枚の紙に書き出してみる。

イメージでいうと、第19図のように、左から右へ時間が流れていて、ビジネスフローを矢印で表すようにフロー図を書いてみるのだ。

ちなみに、この図はあくまでもイメージ図なので、実際に皆さんの事業全体を図式化すると、もっと格段に複雑なフローになると思う。

この全体図を俯轍して、フローの矢印が込み合っているところにはだいたい魔物がいて、机上の想定どおりにいかないことが多いというのが私の経験則だ。

そこで、この図から、「ここら辺は怪しい、きっと思い描いているとおりにはいかないぞ」と、いくつかアタリをつけて、想定外が起こりそうなことを最初に想定しておくのである。

こういう想定をもって実証実験をやらないと、実際に顧客対応している中でトラブルがあると、どうしても「しのぐ」ことに意識が向いてしまい、「検証する」という本来の目的が飛んでしまう。

現実問題として一定程度は仕方がないものだとは思っているが、しのぎ終わったあと、「結局、思ったとおりに事業は進むのだろうか」という不安が残るようでは、実証実験をした意味がない。スフローを矢印で表すようにフロー図を書いてみるのだ。

ちなみに、この図はあくまでもイメージ図なので、実際に皆さんの事業全体を図式化すると、もっと格段に複雑なフローになると思う。

この全体図を俯轍して、フローの矢印が込み合っているところにはだいたい魔物がいて、机上の想定どおりにいかないことが多いというのが私の経験則だ。

そこで、この図から、「ここら辺は怪しい、きっと思い描いているとおりにはいかないぞ」と、いくつかアタリをつけて、想定外が起こりそうなことを最初に想定しておくのである。こういう想定をもって実証実験をやらないと、実際に顧客対応している中でトラブルがあると、どうしても「しのぐ」ことに意識が向いてしまい、「検証する」という本来の目的が飛んでしまう。

現実問題として一定程度は仕方がないものだとは思っているが、しのぎ終わったあと、「結局、思ったとおりに事業は進むのだろうか」という不安が残るようでは、実証実験をした意うなったら合格とするか、といった予習をしておく。

そうすれば、実際に何かの現象が起きたときに、きちんと意味のある検証ができるのである。

こちらもイメージ図として捉えていただければ十分なのだが、第20図のように、たとえば「営業効率の検証」とか「生産効率、品質の検証」、「価格の検証」、「リピート率の検証」と、事業のプロセスごとにカテゴリーを設けて、各カテゴリーの実証ポイントと、「結果がこのレベルより上なら合格」というように合否を事前設定してから実証実験に臨むと、仮説検証のサイクルを冷静に回せるようになる。

ちなみに、私は30年も新規事業だけをやっているので、もう全体像を紙に書き出さなくてもアタマの中でこの作業ができる。ただ、「初見でも、だいたい事業の肝となる部分の見当がつく」くらい新規事業に慣れるまでは、このやり方をおすすめしている。

大口顧客獲得から勝ち筋を発見

こうして基本構造を粗方確認できた段階で、次は勝ち筋を見つけるべく、自然流入でサイトヘ来てくれたユーザーを相手にA/Bテストを繰り返した。これが実証②である。A/Bテストとは、特定の要素を変更したAパターンとBパターンを作成し、ランダムにユーザーに表示し、それぞれの成果を比較することで、より高い成果を得られるパターンを見つけることだ。

たとえば、サイト上の「注文」というボタンはオレンジとグリーンのどちらがいいかというA/Bテストをしたところ、結果はオレンジにするだけで1.3倍も増えることがわかった。他にも、印刷のメニューとして「名刺」「チラシ」「冊子」といった項目を並べているにも関わらず、「冊子印刷はないんですか?」という質問が複数寄せられることに気がついた。

そこで、「ユーザーは言葉で書いてあっても読まないものなんだ」とわかったので、「名刺」の項目の隣に名刺のイラストを載せ、「チラシ」の項目の横にチラシのイラストを載せ、「冊子」の項目の横に冊子のイラストを載せてみると問い合わせがなくなり、スムーズな注文につながった。

こうした地道かつ膨大な量のA/Bテストをやった。この間、利益は出ていない。とにかく、勝ち筋を見つけるまでは売上利益を上げることが目的ではなく、再現性のある勝ち筋を見つけるために、試すことが目的だからだ。

こうして膨大な実証実験を繰り返したのち、我々はやっと、前述の「刷って配るで単価10倍」という勝ち筋にたどり着いたのである。

そのきっかけは、ある大口顧客を獲得しようと画策していたときだった。当時、私たちはECサイトの価値を高めるために多くの印刷会社にサプライヤーとなってもらうべく、大口の注文を獲ってこなければと奮闘していた。

ラクスルのようなマーケットプレイス型のビジネスは、より多くの人が参加するネットワーク効果を高めることが、付加価値を高めるキーとなる。

買い手(ユーザー)は売り手(サプライヤー)の参加が増えると商品の選択肢が増えるため、このマーケットプレイスに大きな価値を感じて定着率が上がる。つまりLTVが向上し、ユニットエコノミクスの健全化につながる。

一方の売り手側も買い手が多いと取引が増えるので、このマーケットプレイスに参加する

インセンティブ(報酬・動機)が高まる。

やがてマーケットプレイスが活性化し知名度が上がると、それが魅力となって売り手も買い手もどんどん引き寄せられていくのだが、この好循環を獲得するまでは売り手が集まらないと買い手も増えないし、買い手が集まらないと売り手も集まらないという、「卵が先か、ニワトリが先か」のジレンマがある。

当時のラクスルも同様に、印刷会社に、「私たちはこんなプラットフォームをつくりたいと考えているので、ウチの指定したとおりにシステム連携して、刷ってください」と話しにいっても、「で、どれくらい注文があるの?」と言われるのがオチだった。

これは印刷会社からすれば当然の反応で、未知のシステムを導入して手間をかけるなら、相応のリターンがなければ応じる気にはなれない。そこで、私が大量の注文を獲ってこようと狙いを定めたのが、とある大手の新築住宅販売会社A社である。

売り物が住宅であるということは、A社にはチラシ広告の大きな需要が確実にある。ただし、単にチラシ印刷の注文をお願いしても、他社との価格競争で負けてしまう。

そこで考えたのが、当時の勝ち筋につながる「ラクスルでチラシを刷ってくれたら、家を買ってくれそうな人の家にだけポスティングできますよ」という提案だった、というわけだ。

実際に、A社は刷ったチラシのポスティング業者も探していた。そして刷ったチラシをポスティング手配するのが手間だ、という声を聞いていた。

そこで私は、まだできてもいないサービスをパワーポイント上につくりあげ、次のような売り込みをA社にかけてみたのだ。

「ラクスルには、町丁目別に世帯年収のデータがあるので、販売する住宅に応じた世帯収入が多いところだけにポスティングすることができます」

「細かく配布エリアを限定することで、予算を抑えることができます」

「しかも、チラシの印刷から配布まで一気通貫で対応します」

「多くのポスティング業者はまだデジタル化が進んでいませんが、ラクスルの提携先であれば配布データを取ることができます」

…と、A社にとって魅力と映りそうなサービスを考えて提案をした。

結果、めでたくA社から大国の注文を獲得することとなり、同時に、「刷って配る」というラクスル初期の勝ち筋を発見できたのである(ちなみに、このポスティングシステムも実際にはデジタルシステムを組まずに、勝ち筋が確立するまでは入力でやっていた)。

これが、初期のラクスルの勝ち筋を見つけるまでにやった試行錯誤の一部である。最初の資本金は200万円で、そこから「仮説、実証、参入」のプロセスを経て少しずつ事業の確度を上げていき、資金を調達してさらにビジネスモデルを磨いていくという繰り返しで、ついにラクスルは創業9年目に上場を果たし、2022年には累計のユーザー数200万を超すまでにスケールしたのである。乙イテき言吉まつたときにどつピボ ツトするか

ピボットの2大鉄則

本章の最後に、勝ち筋が見つからず投資回収のメドが立たない、事業がなかなか黒字化しないなど、事業が停滞した場合の、「ピボット」についても言及しておきたい。

ピボットとは、方向転換や路線変更という意味だ。まだ見ぬ市場を取りにいく新規事業においては、顧客のニーズやソリューション(顧客課題の解決)の提供方法、ビジネスとして成立させるための見極めが正しくなかったといったことは頻繁に起こり得ることで、そのときには、当初描いたビジネスモデル全体を見直して軌道修正を図る必要がある。

実際に動いてみなければ、また、みずからのアイデアを製品やサービスとして世に問うてみなければ、市場とのズレの大小に気づくこともできない。

その意味で失敗はけっしてムダではなく、むしろ動かないこと、方向を転換して可能性を探ってみないことのほうが、リスクとしては大きいといえる。近年、ピボットをどれだけすばやく、数多くできるかがスタートアップ成功の秘訣といわれるのも、このためである。

ただし、ピボットには悪いピボット、つまり「やってはいけないピボット」が2つある。

ひとつは、「間違った検証結果によるピボット」だ。「仮説が甘いから検証も甘い」という、そもそも検証になっていない検証結果で判断したり、「なんとしてでも結果を出すのだ」と頑張りすぎて、再現性のない検証結果で判断するのは、時間もカネもいたずらにムダにする可能性が高く、やるべきではない。

もうひとつは、「やりきっていないピボット」だ。「もっと良いアイデアを思いついた」というように、検証しきる前にフラフラとピボットしてしまったり、スピードが大事という大義のもと、単にこらえ性がなくピボットして、結局、また同じ失敗を繰り返してしまうことは、方向感覚のない迷走でしかない。

ピボットを現実逃避や迷走で終わらせないためには、問題が生じた理由の仮説を立てて、解決策や新たな展開方法を実行する。

そして、仮説と実行の結果を徹底的に検証する必要があるということを、最初に覚えておいていただきたい。

ピボットピラミッドで決断する

では、どうすれば適切なピボットができるのか。もちろんそれは事業によって違うのだが、やってはいけないピボットをやってしまわないために、2つのツールと実際の事例をここでは紹介しておく。

まず1つ目のツールは、「ピボットピラミッド」(第21図)である。

ピボットピラミッドは、ピボットの対象を「顧客」「課題」「解決方法」「テクノロジー(技術)」「グロース(成長戦略)」の5つに絞り、これを階層化したものだ。

なぜ階層で示しているかというと、もし下の階層をピボットした場合、それよりも上の階層を構成しているものすべてが崩れ落ちてしまい、結果的にこれらにも変更を加えなければならないことから、ピラミッドで示されているのである。

このピボットピラミッドを知っていると、どの段階からやり直す必要があるかが把握できるため、1回のピボットでどれくらいの資金が必要になるかを事前に概算できる。

ちなみに、経営者のみならず担当者であっても、新規事業における1か月の実質コストを示す「(ネット)バーンレート」、そして、資金余力を示す「ランウェイ」くらいは把握しておいていただきたい。

バーンレートとは、会社経営のために必要とする1か月あたりの資金のことで、要するに、会社から出ていくおカネがいくらか、ということだ。

なお、バーンレートはコストの合計額「グロスバーンレート」と、グロスバーンレートから収入を引いた額、つまり、「入りと出を相殺した月間の差額」である「ネットバーンレート」の2種類あるが、 一般的によく使われているのは後者のネットバーンレートである。

たとえば、12か月で総コストが240万円、売上が120万円だったとすると、「(総コストー売上)■12か月」で、ネットバーンレートは10万円となる。

そしてランウェイとは、資金を使いきるまでの期間のことで、「残りの資金÷バーンレート」で算出する。たとえば、残りの資金が40万円でバーンレートが10万円の事業の場合、ランウェイ4か月ということだ。

そのため、この事業は、残り4か月の期間でコスト削減や収益向上のための経営戦略を練り直し、事業を継続する資金を調達しなければならないということになる。

もちろん、本書の読者である社長にとっては、会社全体のこうした数字は当たり前に把握しているだろうが、新規事業においては、イチ社員である担当者も、新規事業のバーンレートとランウェイは把握させておくべきだ。

。どの施策にどれだけのコストがかかるか

。新規事業予算が枯渇するまで残り何か月あるか

。その中であと何回ピボットができるか

など、数字を把握しているかいないかで、ピボットの決断のしやすさが変わってくるし、担当者が資金の重要性に改めて気づくことにもなるからだ。

こうしたことをアタマに入れながら、ピボットピラミッドの5つの階層を簡単に説明しておこう。

1.ターゲット顧客

まず、 一番下は「顧客のピボット」である。「誰の課題を解決するのか」という部分で、マーケットアウトの起点となるため、ここが変わると他のすべてが変わってくる。

ターゲット顧客のピボット、および課題のピボットは、事業にもたらす影響力(手戻りの大きさ)が大きい。そのため、ピボットの決断も大きいものとなると心得ておいてほしい。

2.課題

2層目は、「課題のピボット」だ。

顧客へのヒアリングをおこなったり、利用動向を探ったときに、じつは当初課題だと思っていたことがそれほど大きな課題ではなく、むしろ課題は別のところにあったことに気がつく場合がある。課題のピボットとは、こうしたケースにおいて、ターゲットとする顧客はそのままに、取り組む課題を変えることを意味する。

3.解決方法

3層目は、「解決方法のピボット」だ。課題を把握できたとしても、提供するプロダクトが課題解決に結びつく十分な機能や品質をもつものでなければ、ユーザーに受け入れられない。

顧客を獲得することが非常に困難であったり、せっかく獲得した顧客もすぐに離脱してしまったり、解決方法が的を射ていないがために、事業の成長が見込めないことがある。そうした場合、ターゲットと課題の把握について問題がないのであれば、解決方法を変えてみる必要がある。

4.テクノロジー

4層日は、「テクノロジーのピボット」だ。新たなテクノロジーを取り入れることは課題解決のスピードとコスト、ボリュームを大幅に改善する可能性が生まれる。そのためのピボットは積極的におこなうべきであり、最新の技術にキャッチアップしておくことが必要だ。

テクノロジーの選択を誤るとグロースが遅れる恐れがあったり、最新の技術で追いかけてきた後発企業に、あっさり抜かれてしまう危険をはらんでしまう。

5.グロース

下層のフェーズについてある程度の確信を得られた段階では、ピボットピラミッドの最上層に位置する「グロース戦略のピボット」つまり、どのように事業を伸ばしていくのかという部分のピボットが考えられる。

ここでグロースのきっかけを見つけることができれば、ビジネスを安定成長の軌道に乗せることができる。たとえば、ラクスルはデジタルマーケティングで成長の天丼を迎えてしまったのちに、テレビCMを導入したところ爆発的な再成長を始めた。

この段階の試行錯誤でどうしても結果が得られなければ、下層部に問題を残している可能性を改めて検証する必要が出てくる。

ピボットの10の型

以上が、ピボットピラミッドである。事業の特性によってはピボットピラミッドの理論を適用できない事業もあるが、ピボットを検討するときには有効な考え方といえるだろう。

さらに、ピボットピラミッドの構造をアタマに入れたうえで、具体的なピボットを考えていく際には、2つ目のツール「ピボットの10の型」を参考にしていただくとよい。

この「ピボットの10の型」は、アメリカの起業家エリック・リース氏によって提唱されたもので、新規事業のバイブルといわれた著書『リーン・スタートアップ』(日経BP刊)にも掲載されている。

第22図に一覧しておくが、簡単に解説すると、ピボットは次の10の型に分かれるといわれている。

1.ズームイン型ピボット

ズームイン型ピボットは、製品の機能の一部をメインプロダクトに変更する手法だ。たとえば、画像系ソーシャルメディアとして大人気の「F∽ご∞Eヨ」は、最初は画像共有機能付きのチェックインアプリとしてローンチ(立ち上げ。公開)したが、画像共有機能の継続利用率が他の機能に比べて飛び抜けて高いことを発見したことから、画像共有専門のソーシャルメディアに変化を遂げた。

2.ズームアウト型ピボット

ズームインの反対で、市場ニーズに応じて、これまで開発してきた機能を強化・拡大し、製品全体における主要機能に変更する方法だ。

ひとつの価値提案だけではユーザーの課題解決に結びつかない場合、より高度なソリューションが求められる場合に考えるべき視点といえる。

たとえば「〇圏置∽〓∽一」は、ローンチ当初でこそローカルイベントに特化したクラシファイド(目的や地域によって分類された募集広告や告知を、 一覧形式で掲載する広告媒体)だったが、その後、モノの売買や就職情報にまでズームアウトした結果、月間200億PVを超える世界最大級のクラシファイドに成長した。

3.顧客セグメント型ピボット

製品を変えるのではなく、ターゲットとするユーザーが定まった場合に、対象顧客のセグメントを変更する手法だ。

たとえば、世界中で一世を風靡したクーポンサイト「08ξ8」は、もともと「一定人数からの支援が集まった場合にのみ、指定の社会貢献活動が動き出す」という、社会貢献の意味合いが強いウェブサービスだった。

しかし、まったく同じ機能を「一定の人数が集まった場合のみクーポンの配布が決定する」というサービスに当てはめ、カスタマーセグメントを社会貢献活動家から一般消費者にピボットしたことで大躍進した。

4.顧客ニーズ型ピボット

製品・サービスが想定するソリューションが、ユーザーがもつ本来の課題とずれている場合、顧客そのものを見直すことで、サービスの課題を再検証する手法だ。

たとえば、もともとはビデオを使った出会い系サイトとして始まった「く8日cげ①」は、なかなか人気に火が付かない中、創業者が「ジャネット・ジャクソンのポロリ映像がネットで見つからない」という経験をきっかけに、動画投稿プラットフォームを生み出した。

5.プラットフォーム型ピボット

アプリケーションをプラットフォーム化するか、もしくはその逆をおこなう手法である。

多くの場合、プラットフォームそのものはソリューションにはならず、単一のアプリケーションのみがソリューションになり得る。そのため、まずキラーアプリケーションを生み出し、その周辺のビジネスをプラットフォーム化するというものだ。

また、逆にプラットフォームを志向していたが、たとえばその領域で圧倒的に強い他のプラットフォームが出現してしまった場合に、自社のプラットフォームを捨て、自らを単一アプリケーションとしてそのプラットフォームヘ展開することも指す。

たとえば、フィーチャーフォンでゲーム・プラットフォームとして一時代を築いた「o”国国」や「∪①z>」は、時代の潮流にあわせて単一アプリヘと方向性を徐々にシフトしていった。

6.ビジネスモデル型ピボット

ビジネスモデルを「高利益。低ボリューム」から「低利益。高ボリューム」に変更するか、もしくはその逆をおこなう手法である。

多くの場合、利益とボリュームを同時に追求することは難しいため、 一方から他方に移行することで成功する例が常である。

たとえば、「∪『8ぴox」はもともとは個人向けストレージサービスだったが、法人向けサービスに収益化のフォーカスを移すことで、「低利益。高ボリューム」から「高利益・低ボリューム」ヘピボットした。

7.収益モデル型ピボット

ビジネスモデルの中でキャッシュポイントを変更する手法だ。手数料、広告収益、従量課金などの方法の選択と組み合わせが考えられ、類似サービスとの比較など戦略的な検討が必要だ。

たとぇば、「〇日L」はもともとは法人アカウントを対象としたフリーミアムモデルだったが、広告による収益ヘピボット。その後、法人アカウントの収益自体も拡大している。

8.成長エンジン型ピボット

成長に貢献する施策の何に重点を置くかについて検討し、変更する手法である。成長エンジン型ピボットは3種類に分けられ、それぞれの特徴は以下のとおりだ。

①粘着型成長エンジン(アマゾンの成長タイプ)

粘着型成長エンジンを使う事業は、顧客の高い定着率(または低い解約率)に依存する。たとえば電話やインターネットのプロバイダ、サブスク・サービスなどだ。新規顧客獲得率が解約率を上回ればビジネスが成長する可能性がある

②ウィルス型成長エンジン(フェイスブックの成長タイプ)

ウィルス型成長エンジンを使う事業は、顧客の紹介に依存する。SNSなど、製品の機能に顧客紹介の機能が組み込まれていることが多い。

また、顧客1人あたりの紹介数をウィルス係数と呼び「ウィルス係数∨ 1」であれば、指数関数的にビジネスが成長する可能性がある。

③支出型成長エンジン(アップルの成長タイプ)

支出型成長エンジンを使う事業は、顧客からの収益(LTV)の一部を広告・店舗販売。人的営業などの顧客獲得活動(CAC)に再投資することに依存する。LTVがCACを上回ればビジネスが成長する可能性がある。

9.チャネル型ピボット

顧客の手に届くまでの流通チャネルを変える手法だ。

たとえば、長きにわたって店舗中心にレンタルビデオビジネスを展開してきた可∽c↓>く>」が、店舗展開からネット通販及び映像配信事業にシフトを始めたのも、時代の潮流に合わせたチャネル型ピボットの例といえる。

10.テクノロジー型ピボット

同じ目的(問題に対する解決方法)を、異なる技術で顧客の手に届ける試みをテクノロジー型ピボットと呼ぶ。新しいテクノロジーを採用することで、ソリューションのコストやパフォーマンスを改善できる。

たとえば、もともとカードゲームを提供していた任天堂が、「常に新しい楽しさと面白さをもった商品を提供する」という目的を変えずに、カードゲームからニンテンド1 64やヨ〓と

いったコンソールゲームに進化したのがテクノロジー型ピボットの例といえる。以上、長くなったが、「ピボットピラミッド」と「ピボットの10の型」という、ピボットの決断に有効な2つのツールを紹介させてもらった。

とはいえ、実際に勝ち筋を見つけるまでの試行錯誤は精神的にも資金的にも相当きつく、ピボットを乗り越えるには、ノウハウや知見以上に情熱や意志というものに大きく左右される

そこで、B2BからB2Cへと事業構造をピボットすることで停滞を乗りきった「ミライスピーカー」、そして9回ものピボットを経て勝ち筋を得た「ドクターメイト」という2つの事業を紹介し、修羅場の中で何が大切なのか、その勘所を皆さんにもつかんでいただきたいと思う。

個人市場へのビボットで飛躍した「ミライスピーカー」

「ミライスピーカー」は、サウンドファンというベンチャー企業が開発し、2022年12月の段階で累計約14万台を出荷している大ヒット商品だ。

その絶対的な価値は、「聴こえなかった人が、聴こえるようになる」である。この画期的事業アイデアのきっかけは、創業者の佐藤和則さんが、父親の難聴をなんとかして解決してあげたいと考えたところから始まった。

佐藤さんは情報を集める中で、とある大学教授が「耳の遠い高齢者の方でも蓄音機の音は聴きやすい」と言っている新聞記事を目にし、試行錯誤を繰り返した結果、耳の遠い方でも聴き取りやすいスピーカーを開発した。

私がサウンドファンを知ったのは、創業翌年、知人の紹介の縁だった。その技術を知り、私は瞬時に大きな可能性を感じた。

というのも、スピーカーは、いわゆる単体で販売されているだけではない。パソコンやスマートフォンにもスピーカーが搭載されているし、地域やビルの非常用警報、「お風呂が沸きました」という給湯音、「左に曲がります」などのトラック警告音など、活用のシーンはあふれている。それらがすべてミライスピーカーの構造に置き換われば、音のバリアフリーが実現できる。

難聴の人は日本に約1400万人もいるといわれており、じつに9人に1人という状況だ。高齢化で難聴者が増えており、65歳以上では3人に1人が難聴という現状である。

また、最近ではスマートフォンにイヤフォンを接続して、大音量で音楽を聴く人も増えたことから、若年層の難聴も増加しており、世界の難聴者数5億人は、2050年までにはさらに倍増するともいわれている。

こうした中で、音質が良くなったとか省電力になったというレベルではなく、「聴こえなかった人が聴こえる」という、革命的な変化をもたらしたミライスピーカーは、社会のインフラになると考えたのだ。

法人市場での低迷

当初、ミライスピーカーは法人向けの代理店販売のビジネスモデルで、空港や銀行、証券会社、講演会場などの大型施設に売り込みをかけた。

10万円という高額商品のため、個人向けで一気にスケールするのは難しいこと。また、全国各地に営業人員を張れるほど企業体力がなかったからだ。

最初に導入してくれたのは、空港だった。空港ではさまざまなアナウンスが流れている。発着情報や呼び出しなど重要なものも少なくないため、空港利用者にはきちんと聞こえるようにしておかねばならない。

しかし、空港ターミナルビルは建物の中でも最大級に広く、床が石で天丼がガラスであつたりするので、音が反響し、音量を上げるとかえって聞き取りにくくなる。そこで、音量を絞りながら、いかに耳の不自由な方のためのアナウンスができるかという課題があったのだ。

ミライスピーカーの音は、小さなボリュームでも難聴者や高齢者が聞き取ることができるため、この課題解決にうってつけだ。そこで、最初に羽田空港内の施設に導入され、効果が立証されると、その後は全国の空港に広がっていくこととなった。

さらに、当時改正された「障害者差別解消法」の後押しもあり、銀行もミライスピーカーを導入。工事も必要なく、イヤホンジャックにつなぐだけで、「聞こえない」を解消できるということで各銀行に広がり、その後は証券会社や講演会場などにも導入が進んでいった。

しかし、この躍進は長くは続かなかった。売上が頭打ちになったのだ。その背景には、ミライスピーカーの値段が関係していた。駆け出しの我々はミライスピーカーの量産ができず、割高となっていた。1台約10万円のミライスピーカーは、良いモノではあるが、購入の意思決定のハードルはそれなりに高い。

また、法人対象であるがゆえに、取引の条件面で資金的な困難があった。ビルの天丼に埋め込まれているシーリングスピーカーにするならば、基準に合わせたあらゆる調整が必要であるし、自動車のスピーカーにしても条件のすり合わせが欠かせない。

これらはあらゆるチェックを経て、基準に合格しなければ採用には至らない。企画から実際の量産まで数年かかるうえ、いざ採用されるとなったら、数十万、数百万台という生産の量と質を保証しなければならない。

資金的な体力のないベンチャーの呑める条件ではないことから、B2Bで思うように売上を伸ばすことができず、次第に社内のメンバーも疲弊していくこととなる。

事業承継を機にピボットで飛躍

しかし、3年ほど苦しんだのち、ついに転機が訪れた。創業者の佐藤さんから事業を承継し、二代目の社長として山地浩さんが就任をしたことを契機に、これまで勝負をしていたB2Bから、B2Cに市場を変えるピボットを決断したのである。

山地さんはもともとデータマーケティングやソフトウェアに強いカルチュア・コンビニエンス・クラブグループで代表取締役を務めたプロ経営者であったため、個人消費者向けのデジタルマーケティングの知見が豊富だった。

ユニークなオリジナル技術で同じ製品が他になく、特許を押さえているため値下げ競争にならない。そして、間違いなく世の中のためになる。これらを兼ね備えた製品を生み出せる企業はなかなかない。

あとはこれをどうマーケティングするかというステージにいると感じた山地さんは、「ミライスピーカーは、思いきって個人向け市場にチャレンジしたほうがいいのではないか」と考えたのである。

たとえば、家族の誰かが難聴者の場合、通常の音量では聞こえないためにテレビの音がものすごく大きくなり、家族や近所との間で深刻なトラブルに発展することがあった。このテレビの大音量問題を解決するための策として、ミライスピーカーを売り込めば、イケるはずだと仮説を立てたのだ。

このニーズ仮説の有力性は、人気テレビ番組でミライスピーカーの特集が組まれた際に、10万円という高価格帯ながら、「小型機の発売はまだですか?」「もっと安かったら買いたいのに」といった電話やメールが千件以上も寄せられたことで証明された。

テレビでの反響に勇気をもらうことができた我々は、B2Cへのピボットを決断し、売りモノと売り方をイチから練り直していったのである。

成功の決定打は、大型で10万円していた商品を、小型で3万円を切って販売できる「ミライスピーカーホーム」にまで劇的に進化できたことによる。

こうして2020年5月から、インターネットで個人向けの商品を発売したところ、販売初月からなんと300台以上を売り上げ、1年で3千台以上を売り上げる大ヒット商品となったのだ。

さらに、テレビCMも功を奏した。まずテストマーケティングとして北海道限定でCMを打ったところ売上8倍、続いて同じCMを静岡でも実証実験して同様の結果を得たところで資金調達を実施。

2013年の創業以来続いていた赤字経営を脱し、ついにサウンドファンは、圧倒的な勝ち筋をつかみ取ったのである。

8転び9起きで勝ち筋をつかんだ「ドクターメイト」

5章でもご紹介したドクターメイトは、創業から3年あまりで全国550施設へ導入され、継続率97%となるまでには、じつは長期にわたり受注がとれず、9回ものピボットを経てやっと勝ち筋を見つけることができた。

創業者の青柳直樹さんは、起業の前段階で協力してくれる介護施設を募り、1年ほどSNS(交流サイト)のLINEという無料アプリケーションを使って医療相談をやり取りする実証実験を繰り返した。そして、十分に効果が出るめどが立ったうえで起業に踏みきっている。だから、実証で現場のニーズはあることはわかっていたのだが、ローラー作戦で介護施設に営業をかけても、2年にわたってまったく売上が立たなかったのである。

創業時の事業の柱は「オンラインによる日中の医療相談」一本だったが、このサービスだけでは現場のニーズはあっても、サービス導入の決裁をする施設の経営陣には、コストをかけてまで導入するメリットが少ないと思われてしまったのだ。

施設の経営陣としては、「日々、こまごましたことで医療的なことが聞けず、適切なケアができているか不安だ」「とはいえ、病院に連れていくのは入居者も施設職員も一日がかりの大仕事で大変だ」という介護現場で働く人たちの物理的。心理的負担はわかっても、「でも、それが介護施設の仕事だから、がんばってよ」と、なかなか契約には至らなかったのである。

たしかに、通院数が減る定量的な効果はあるものの、新しいサービスなのでどの科日で予算を組めばいいのかがわからない。金額の妥当性含めて相場が不明瞭といった壁もあった。

それでもあきらめずに営業をかけ続けるものの、資金はどんどん減っていく。ほぼ決まっていた銀行融資が担当者変更によって白紙に戻り、 一時は会社の口座残高が30万円と、キャッシュアウトロ前まで追いつめられたほどだ。

私としては事業のコンセプトやビジョン、なにより青柳さんはじめメンバーたちの熱意に、「この人たちならやり抜くことができる」「方向性は間違っていないから、なんとかなるはず」と確信していたため、この危機を乗りきるために個人的に融資させてもらったが、窮地を逃れたあとも、営業ではほとんど成果が出ない状態が続くこととなる。

暗闇の海の中を泳ぐ

それでもメンバーは前向きだった。創業時のメンバーは、青柳さん以下、医師や弁護士、ITコンサルタント、介護施設長経験者、看護師と、誰ひとリマーケティングや営業経験がなかったが、全員が「どうすれば、このサービスを受け入れてもらえるのか」を必死で模索し、現場に通い続けたのである。

この間、気づけば数か月で9回も方針を変えていて、 一番ニーズの高い皮膚科に特化してみたり、介護で役立つ動画を配信するコンテンツマーケティングによって見込み客を集めようとしてみたり、医師の出張研修とセット販売にしてみたり、果ては、価格を5分の1へと大幅に値下げしてみたりと、とにかく資金が尽きぬうちに施策を試しまくろうと必死だった。余談になるが、勝ち筋を見つけて事業をスケールするまでのチームメンバーはごく少数に抑える必要があるため、1人で2役、3役をこなすことが求められる。

一般的に、会社における本業では、高度な専門性をもつ人材が役割分担することで仕事の効率性を極限まで高めようとするが、「どうすれば、この事業が顧客に受け入れられるか」を模索する段階では、「自分は技術のことが専門だから、営業はやらない」とか、「マーケティングはわかるけど、技術のことはまったくわからない」ではなく、全員が1人2役も3役も兼ねて、全員で勝ち筋構築に向けて仮説と検証を繰り返す必要がある。

では、どうすればメンバー全員が1人で2役も3役も兼ねながら、あきらめずにトライ&エラーを繰り返してくれるかというと、それは事業のビジョンや目的への強い共感にほかならない。

ドクターメイトの創業時のメンバーも皆、青柳さんが掲げる、「医療者がどこにいても医療を提供できる未来、すべての人が安心して医療にアクセスできる未来、社会全体が無理なく、持続的に支え合える未来」というビジョンと、そのためのドクターメイトという事業に心から共感し、完全に自分ごととしていた。

当時を振り返り、青柳さんは、「じつは、この時期、メンバーはほぼ無給で活動していたのです。誰も正解がわからない中、暗闇の海の中を泳いでるみたいだと言うメンバーもいたが、それでも誰一人、事業から離れていかなかったんです」と語っている。

そして、2019年の末、ついに突破口を見つけることとなる。それが、夜間に看護師に相談できる「夜間オンコール代行」サービスだ。

介護施設では日中、看護師が常駐して医療的な行為を担当するが、夜間は帰宅する。しかし、夜間に医療的なトラブルがあり、施設の職員から電話があった場合は対応しなければならない

こうした勤務時間外の緊急対応をオンコールと呼ぶのだが、看護師からすると、いつ電話がかかってくるのかわからないので、家に帰っても気が休まる暇がない。

携帯電話を肌身離さず持っていなくてはならないほどで、その負担が大きいために看護師が離職してしまうことが多く、そもそも採用の時点でオンコールがあると人が集まらないという施設経営者の悩みから、青柳さんはこのサービスを着想したのだ。

メンバーたちは半信半疑でテストマーケティングに挑み、首都圏1都3県の施設に夜問対応の案内をリリースしたところ、問い合わせが殺到。1日で30件以上の問い合わせに、膨大なニーズがあることを確信した。

施設の経営者にとって、人材採用は大きな悩みのタネだ。ドクターメイトの導入コストは平均10万円弱だが、24時間365日対応できる看護師や医師を採用するコストに比べれば、費用は非常に安く済む。

さらに介護現場で働く人たちの物理的。心理的負担も軽減できることで、介護職人材の離職率も下げられるため、夜間オンコール代行サービスは大きな経営インパクトに繋がるものだったのである。らない

こうした勤務時間外の緊急対応をオンコールと呼ぶのだが、看護師からすると、いつ電話がかかってくるのかわからないので、家に帰っても気が休まる暇がない。

携帯電話を肌身離さず持っていなくてはならないほどで、その負担が大きいために看護師が離職してしまうことが多く、そもそも採用の時点でオンコールがあると人が集まらないという施設経営者の悩みから、青柳さんはこのサービスを着想したのだ。

メンバーたちは半信半疑でテストマーケティングに挑み、首都圏1都3県の施設に夜問対応の案内をリリースしたところ、問い合わせが殺到。1日で30件以上の問い合わせに、膨大なニーズがあることを確信した。

施設の経営者にとって、人材採用は大きな悩みのタネだ。ドクターメイトの導入コストは平均10万円弱だが、24時間365日対応できる看護師や医師を採用するコストに比べれば、費用は非常に安く済む。

さらに介護現場で働く人たちの物理的。心理的負担も軽減できることで、介護職人材の離職率も下げられるため、夜間オンコール代行サービスは大きな経営インパクトに繋がるものだったのである。

■コラム■ ヒアリング例「7選」

「顧客ヒアリング、どうやったらイイですか?」という質問をもらうことが多々ある。ちょうど先日も、「ローンチ(新しい自社商品や自社サービスを発売したり、サービスの提供を開始したりすること)はしたものの、まだPMF(「8錫g一〓”キ①一『〓=商品やサービスが市場に適切に受け入れられている状態)に至っておらず。だから顧客にヒアリングをかけたいが、誰に、何を、どのように聞けばよいのかわからない」という質問を受けた。

そういうときに私がお教えしている回答(ヒアリング例)を、参考までに本書の読者と共有しておきたい。

ヒアリング①

弊社への発注シーンについて教えてください。具体的にどういう流れで弊社サービスを使うことになったのか、そのときの手順など詳しく教えてください。

この質問の意味合いは「顧客にとって、何が重要かを教えてくれる」である。

ヒアリング②

もし○○○(当該サービスの対象領域。たとえば、人材教育、広告宣伝、資材調達など)について、なんでもできたとしたら何をしますか?できるできないは気にしないでください。なんでも構いません。

意味合いは「顧客にとって、最大の課題を教えてくれる」である。

ヒアリング③

もし弊社サービスが使えなかったとしたら、どういう業務フローになりますか?意味合いは「競合、予算、権限を教えてくれる」である。

ヒアリング④
もし弊社サービスを誰かにおススメするとしたら、なんと言いますか?意味合いは「セールスメッセージを教えてくれる」である。

ヒアリング⑤
同じ課題に直面している方は、他にもますかつ意味合いは「ターゲットを教えてくれる」である。

ヒアリング⑥
弊社サービスがなくなったら、「非常に残念」「少し残念」「仕方がない」のどれですか?意味合いは「PMFの達成度合いを教えてくれる」だ。ただし、この質問については、ヒアリングというよりは、非対面、多数への一斉アンケートが吉である。なぜなら、対面少数だと義理と人情で回答精度が著しく歪むからだ。

ヒアリング⑦

みずからへの質問。「自分は、本当に知りたい、と思っているか?」

顧客の解像度を上げるための質問としては、これがもっとも大事。⑦がヒアリングの一番必要なもので、①〜⑥は⑦次第だ。

顧客ヒアリングにとって大事なことは、ノウハウ本にあるような「ヒアリングテクニック」ではない。心の底から顧客を知りたいなら、いくらでも質問は湧いて出るはずだし、まったく何を聞いていいかわからないという重篤な状況だったとしたら、そもそも自分ごととして本当にその事業をやりたいのかさえ、あやしいのではないかと思ってしまう。

だから、ヒアリングの事例をいくつか挙げたが、結局のところ、 一番大事なことは、「自分自身が本当に顧客のことを知りたいと思っているか」なのだ。

それともうひとつ、顧客の解像度を上げたいなら、話を聞くよりも現場を見ること、実際に体験することだ。百聞は一見にしかずではないが、実際に作業着を借りて現場で作業をしてみることで、得られる気づきがかなりある。

私としては、「解像度は現場以外では培われない」と思っているので、さまざまな現場でそれを1回ではなく10回、20回と重ねていってほしい。

そうすると、やがて、「聞かなくてもわかる」ようになる。最初のうちは、トコトン顧客に聞かないとわからない。もしくは、トコトン聞いても、なおそれでもわからないことがある。誤解して理解してしまうことがある。

でもやがて、7割わかれば、残りの3割を想像できるようになる。さらには、5割わかれば残りの5割もわかるようになり、3割わかれば残りの7割の想像がつくようになる。

つまり「顧客感覚が身につく」ということだ。そうすることで、事業のスピードをどんどん上げていくことができる。

顧客視点でビジネスを考えるには、顧客のことを顧客以上に理解しなければならない。そうして初めて、意見や不満の裏側にある「真のニーズ」が見えてくるのである。

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