5S活動と人材育成
5s活動の仕組みができあがったとしても、それが継続できないという組織は少なく ありません。理由は大きく分けて3つです。 ひとつめは、活動の目的が明確ではないので大掃除や片付け程度で終わってしまったと いうケースです。不要だと思うものを各々がバラバラに捨てて掃除をして終わるので、翌 日から不要なものが増え始め、 2〜3カ月たったら元の状態に戻ってしまったという事例 はたくさんあります。目的が明確でなかったときは活動のレベルも低く、精度も低いので 継続は難しくなります。 ふたつめは、利益と連動していない5S活動です。活動の目的にも関わることですが、 組織の利益と連動していない5S活動は単なる理念やお題日で終わりがちです。何より も5S活動の成果が目に見えないので、5S活動の精度や課題が起きてからの改善活動 へとつながっていないのです。時代や社会が大きく動いているときに、お題目を唱えてい るだけでは取り残されてしまいます。組織の存続と発展の鍵となる絶対利益の確保と連動 させなければ、利益貢献要因や利益阻害要因という次を見据えた活動にはたどう着けません。 最後が教育訓練です。5s活動はシステムなので、システム構築時や実際の活動のと きにさまざまな組織課題が噴出します。そのときに適切な教育訓練を行わなければ、社員 の意識は変わりません。全員で適切な時期に行うことにより、意識改革や個人の著しい成 長を促します。大手企業では、そうした教育のカリキュラムやシステムができあがってい るのですが、中小企業の場合はなかなかできていないことが多いようです。
5S活動は資質のリトマス紙
5s活動を組織の中で展開していくと、業務からだけではわからなかった個人の資質 が見えてきます。積極的に参加する人、無関心な人、反発する人など、5S活動が業務 から少し離れた場所にあるので、それぞれの資質が顕著に出てきます。それは、職位も性 別も世代も越えた形で見えてきます。 活動を引って行くタイプ、活動を支えるタイプ、提案ができるタイプ、決め事を守れる タイプなどそれぞれが活動に関わる中で個性を示し始めます。当然、全社一九の活動であるにもかかわらず、反発を示す人、協力的でない人、陰口を言う人、活動の足を引っ張る 人も出てきます。そうした5S活動のプロセスで現れてくる風景は、組織の将来を考え るときに得難い経営資源の再掘削につながります。 業務は経験や経歴、資格という外枠が必要ですが、5S活動は自社の活動なので自分 たちの判断で行動することができます。世代や性別を越えてリーダーやメンバーが活躍で きるので、活動のスペースを与えられた人たちは今までと違った資質を見せ始めます。 多くの取組企業の経営者からこんな言葉を聞きました。 「あの人がここまで組織を引っ張るとは思わなかった」 「案外うちには人材がいるということに気づきました」 「意外にも役職者たちに能力がないなぁ。見かけ倒しだった」 「パートのおばちゃんたちのパワーに圧倒されました」 「ベテランだから高をくくっていたんだけれど、彼らも変化を待っていたんですね」 5s活動は資質のリトマス紙です。業務からは見えなかった組織の原石と言うべき人 材の可能性再発見の場にもなるのです。
「幹部の木」からそれぞれの役割を自覚させる
「幹部の本」とは、組織を樹木に例えてみたものです。それぞれの役目を見ていきましょ う 。 ・葉 一般社員やアルバイト・パートに相当する部分です。葉が光合成や湿度対応をするよう に、組織の最前線で加工、施工、販売などの業務を行います。風が吹くと葉が揺れます。 そして、風の強さによって葉の揺れ方は違います。そよ風のときはゆったうと、台風のと きにはちぎれんばかりの激しさで動きます。つまり、 一般社員やアルバイト・パートは状 況によって文句を言うのが当たり前なのです。 ・枝 主任や係長にあたる部分です。葉に相当する一般社員などを統率する役目を持っていま すが、もっとも重要な役割は葉が激しく揺れたときに「一緒に揺れてあげる」という行動です。つまり、 一般社員などが組織に対して 不平不満を漏らしたときに、現場の最前線を 知っている人間としてその声に耳を傾け、 一 緒にその動きに合わせてあげることが大切で す。強風の中で葉が激しく揺れているとき、 枝がピクリとも動かなかったとしたら葉はど うなるでしょう。ちぎれる以外に道はありま せん。離職者があとを絶たない組織では、こ うした機能が失われているからなのです。 ・幹 「幹」に「部」をつけて幹部と呼びます。通 常の企業であれば課長や部長が担当します。 幹の役割は枝とはずいぶん違い、どんな強風 が吹いたとしても微動もしてはなりません。 風が強いのですから枝と同じように動きたい

のですが、幹が動いた瞬間に根が持ち上がりその樹木の生命は終わってしまいます。それ から、幹は根が集めてくる養分や水分を重力に逆らって枝や葉に届けるという役割を担い ます。重力に逆らうのはとてもつらいことですが、組織の誰かがそれを負わなければ生命 体としての機能を維持できません。そして最後に幹の重要な役割は、強風が吹いて枝が耐 えられなくなったときに「折れることを許可する」ことです。もちろん、葉を失い枝もも ぎ取られることは樹木にとっても組織にとってもつらいことです。しかし、幹はその枝が なくなったあとを自分が補うと、翌年の春にはその折れた部分からは新しい枝を見せます。 そして、数年後には以前と同じような姿を見せているはずです。樹木の中でもっとも過酷 な役割を担うのが幹です。だから、「幹部」と呼ばれているのです。 ・根 当たり前のことですが、組織では経営者のことです。根は誰も見ていない土の中で樹木 (組織)に必要な養分や水分を探し求めています。土が柔らかければどこまでも深く、岩 場であればどこまでも広く樹木を支えるために根を張う続けます。これほど孤独な役割は ありませんが、それが根(経営者)に与えられた使命です。このつらさはその立場に立っ たことのある人間にしかわかりませんが、大事な部分です。組織にはさまざま教育が必要ですが、この役割を自覚させる教育はとても重要なことで す。このことが組織で理解されていないと、係長みたいな部長や主任程度の課長が出現す るのです。もっとも悪いのは、根に相当する経営者の役割を幹部たちが理解していないと 一般社員と一緒になって不平不満を漏らしたり、社長の悪口を外部で言ったりすることで す。 5s活動で噴出する組織課題の根源にあるものが、自分の役割を自党していない人の 存在です。5S活動の進捗とともに、個人の資質を見極めた役割教育が必要です。
ラインとスタッフ
「ラインとスタッフ」とは、近代国家成立の過程において大きな役割を果たしたナポレオ ンの軍隊において確立されたひとつの組織論です。 一般的に組織は、業務(通常任務)を 遂行し、成果(業績)を上げることを目的としています。ナポレオン以前の戦争は個人が 優先され、組織的な機動性や機能性ようも個人の資質や勇気などが重視されました。特に 戦上手なIの元で兵士は働きたがり、同時に勇敢で戦に強い国が栄えました。それに対抗する形で新たな仕組みが組織の中で芽吹いたために、ナポレオンは皇帝になることができ たのでした(出典一『兵法ナポレオン』大橋武夫著、マネジメント社)。 組織には、ふたつの大きな流れがあります。 ひとつは「スタッフ」という流れで、組織の方向性やそれに基づいた計画を立て、実行 の進捗を監視して達成度や慎重度を見つめる流れです。実務とは少し距離を置いた活動で、 「こんな組織になりたいので社員にこんな資格を取らせる」などというのはスタッフの流 れです。 そのほかに、「事業計画を立てる」「企画を立てる」「採用計画を練る」「ロスやミスの発 生率を監視する」「教育訓練計画を立てる」「組織の中からアイディアを募り実行させる」 などがあります。 もうひとつが「ライン」という流れです。「受注」から「資材調達」「製作」「製造」「販 売」「施工」「配達」などの活動、あるいはそうした活動を支えるために「契約」「請求」 「集金」「財務」などという活動もこれに含まれます。おおむぬ組織は、こちらの活動を 中心にして組織を構成します。「部門・部署」という名称はこの機能を効率的に行うため に設けられています。当然、日に見える形での利益はここから生まれているように見えますから、組織はここに力を入れます。当然組織はピラミッド型にならぎるを得ず、中で示 される言葉は命令ということになります。 こうした考え方は前述したように、もともとは軍隊運営から出てきた考え方です。ライ ンが実際の戦闘行為を行う部門とすれば、スタッフは参謀の位置づけです。長所は、指揮 官の負担を軽減するとともに専門性の高い視点からアドバイスをもらえるということです。 短所は、ラインとスタッフのバランスが難しく、互いの職能への介入や対立を招きやすい などがあります。 中小企業の弱点は、スタッフという概念が欠如しがちであるということです。多くの組 織がスタッフ活動を個人の技量の上に乗せてしまい、そうしたことができる人がいる組織 はある程度が成果を出していますが、処理できない組織は経営者が苦労しています。そし て、組織の課題や問題の多くは、このふたつの流れの滞留にあります。逆に、伸びている 組織は特徴のひとつとして、こうした機能を意識して切り分けて考える人材を確保してい ます。 5S活動は、明らかにスタッフの仕事です。リーダーやメンバーはその活動を通して スタッフとしての能力を高めます。自社の5S活動を進める中で、このスタッフという考え方を強化して、5S活動だけではなく品質や安全などの組織の質の強化までできる ようになります。そして、組織の存続と発展という組織の最終的な日的への人的供給源を 作ることができるのです。
「29200」という数字を教える
「292oo」という数字は、そんなに大きな数字ではありません。金額にすれば3万円 以下、プロ野球やサッカーの試合では普通の観客数程度の数字です。しかし、この数字に は深い意味が含まれています。 現在、日本人の平均年齢は約84歳です(女性は約86歳、男性は約8o 歳)。わかりやすく80 歳 まで生きるとすると、「80 年×365日=29200日」となり、80 年生きた場合の生存 日数になります。そして今まで生きてきた年数は消費しているので「消費日数=現在の年 齢×365日」で計算できます。日本の国での定年年齢は平均65歳なので「定年後の日数 = 5年×365日=54 75日」となります。そのことを理解して一あと何日働ける か?」を考えるとこんな数式が出てきます。
残存社会人活動日数=292001(消費日数)15475日 若手向けの研修会やベテラン向けの研修会では、必ずこの計算を参加者にしてもらって から自分の役割についての話をします。大まかな数字を挙げておきます。 2o歳職員 3o歳職員 4o歳職員 知歳職員 6o歳職員 1 6 4 2 5 日 1 2 7 7 5 日 9 1 2 5 日 5 4 7 5 日 1 8 2 5 日 多くの組織で人が育たなかったり、意欲の向上が見られないと経営者が感じてしまうの は、実はこうした大枠の数字をきちんと社員たちに伝えていないからです。残された日数 への理解が不足していれば、いくら熱く経営者が語っても、将来への展望すらぼんやりと したものになってしまいます。結果、若い人たちはやりたいことだけに熱中してやるべき
ことを忘れています。ベテランは残りの日数を考えたこともないので、本来自分が果たす べき技術の伝承や経験の伝承を忘れ、ひたすら決められたことだけをやっているのです。 2ol3年の統計では、倒産した企業の平均創業年数は% ・6年でした(『東京商エリサ ーチ調査』より)O 「2o 歳の人は、少なくともこれからどこかでも年間は働かなければなりません。そうなる と、多くの人は2回から3回は転職をする可能性があります。そのときに自分のスキルを 上げておかなければ、自分の納得のいく職場に入ることができるでしょうか?」 「40歳の人ですら、あと1回は転職しなければならない可能性があることに気づいていま すか?」 セミナーなどの冒頭で私が必ずする話です。こうした自分のライフプランと密接に結び ついた大枠の話をしておかないと、参加者は真剣に話を聞こうとはしません。逆に、その ことを理解してから始まったセミナーや研修会のアンケート内容はとても意識の高いもの になっています。特に、子育て中のパートの女性たちは、自分の子どもたちにまず教える ことだと感想を書いています。 組織には、さまざまな価値観が混在しています。経験も世代も性別も違うのですから当たり前のことなのですが、組織をある一定の枠内に納め、共通の価値観を持たせなければ 過酷な競争の中で戦っていくことはできません。 5S活動を単なる大掃除や片付けで終わらせないために、自分たちのライフプランと 自社のさまざまな活動が、密接に結びついていることを教えなくてはなりません。こうし た教育を組織の全構成員に伝えることにより、5S活動はよう精度の高いものになって いきます。
業務と仕事
多くの組織で仕事が「忙しい」という言葉を使います。確かに日常にはさまざまな用件 があって、それが次から次へと押し寄せてその処理に追われます。何ようも「営業―販 売・製作―納品―請求―会計処理」という、利益の元となる日常の流れを切るわけにはい きませんからいつも忙しいのです。 ある日、ある企業で絶対利益の金額算出手順の打ち合わせをしたのですが、 2週間後に 訪間をしたところ、経営者が何もしていなかったことがありました。経営者ですから忙しいのは当たり前なのですが、準備ができなかった理由を聞くと経営者がこう答えました。 「いやぁ申し訳ない。仕事が忙しくて準備ができなかった」 と言うのです。そこでどのように忙しかったのかを尋ねると、注文が増えて配達する人間 が足りなくなったので毎日配達をしていた、と応えました。慢性的な人手不足に悩む実際 の企業現場ではよく見かける風景です。たとえ社長であっても現場に立ち続けなければな りません。 「しかし社長、それは仕事が忙しいのではなくて業務が忙しいのですね。業務と仕事は切 り分けて理解しなければなりませんよ」 すると、社長は怪諸な顔をされました。業務も仕事も同じことじゃないか、と言うので す。しかし、これは違います。「業務」は誰かに代わってもらえることで、「仕事」はその 人にしかできないことです。 このことは組織の中でよく理解されていないようで、組織の中の混乱の原因になってい ます。 例えば、営業マンが担当した案件の見積書を作るのは仕事ですが、部長がそれを作るの は業務です。営業マンならば自ら計算し提出すべき見積を上司の許可を得るというプロセ スはその人にとっての仕事になりますが、部長の場合にはそれは業務、すなわち誰かに代わってもらえるものになります。手書きで見積書を書いてそれを誰かに清書させ、最後に 確認だけすればいいのです。 部長の仕事は次のような内容が主なもので、決して見積書を作ることが仕事ではありま せん。 《部長の仕事の一例》 ・部内の人間が働きやすいように各部署間の調整を行う 。部内の進捗や問題点を把握する 。課長たちのスキル把握を行う 。必要に応じて部内の教育訓練計画を立てる 。事業計画を立てるにあたう正確な見通しを立てる 。幹部会で部門の責任者としての発言を行う 。絶えず経営者と意思疎通を図う全体像を経営者と共有しておく 同様に、社長の仕事も次のような内容が主なので、決して配達の加勢をすることではあ りません。
《社長の仕事の一例》 。経営方針を立てる 。事業計画を立てる 。必要な人材やインフラを確保する ・業界やライバル情報を絶えず収集する 。会社の全体像を細部にわたって把握する 。適切な指示を幹部たちに与える 。組織の将来に対して全責任を持つ しかし、多くの社長や部長は何かが忙しいときに、すぐ「仕事が忙しい」と言ってしま うのです。それは単に業務が忙しいだけのことで、人手不足を予測できなかった自分の仕 事に対する不始末の尻拭いをしていることにもなうかねません。 この業務と仕事の区別ができていない経営者や幹部がいる組織は、なかなか変化しませ ん。いつまでも業務に追われ、 一年中「忙しい」と言い訳ばかりをしています。 この話をある外食系の女性経営者にしたところ、彼女は瞬時に、 「それは、それぞれの『お役日』ですね。それぞれが自分の役目を自覚して日常業務の中できちんと果たせ、ということですね」 と言いました。2週間後に訪問したところ、「お役目検討表」という様式を作っていまし た。左側に業務、右側に仕事という欄を設け、各役職者にそれぞれを記入させていました。 そして、女性経営者から次のようなお話を伺えました。 「書かせてみてわかったんですが、役職者が自分の仕事をわかっていませんね。板長と板 前は違う役割があるはずなのに、板長が板前程度のことしか書けませんでした。料理長と 料理人も同様ですし、店長とホール長もそうです。それぞれが自分のお役目を理解してい ないのだから、前に進めないはずです。今からの課題は、この現状からそれぞれにどう自 覚させるかにあるような気がします。そして、 一番それがわかっていないのが自分だと気 づきました。業務のことはスラスラと出てくるのに、最初は資金繰りくらいしか頭に浮か びませんでした。少し頭を切り替えないと、前には進みませんね」 5S活動は組織において、業務ではなくて仕事の部分に属します。当然リーダーやメ ンバーは、日常業務を遂行しながら新しいプロジェクトとして活動を行いますから、彼ら にとっては仕事です。たとえどんな形で選ばれた人たちであろうと、そのことを経営者は 理解して活動を見守らなくてはなりません。同時に、現在の役職者にその業務と仕事の違いを理解させる、最良の機会も5S活動の中にはあります。
習得と体得
組織の経営者や幹部が、経営上常識として持っておかなければならないものが「習得」 と「体得」ということです。組織の人たちを育成する役割を担う人たちは、こうした考え 方を理解しているでしようか。 剣術の世界で、竹刀、本刀、真剣では意味が決定的に違います。 竹刀は訓練のために用います。初心者が剣術を学ぶための入り日として、ある意味本番 を迎えるための準備として使います。太刀さばき、体さばきなどの体の動きや、勝負に臨 む問合いを学びます。最初から真剣を使って練習をすると命がいくつあっても足りません。 木刀は竹刀と平行して用いられますが、剣術の型を学ぶと同時に真剣勝負の模擬戦とし て使います。竹刀だけでは実際の勝負の機微は学べません。達人にとっては真剣とほとん ど変わりなく、もちろん簡単に相手を殺すことができます。
真剣とは、文字通りまがい物ではなく日本刀のことで、命のやりとりをするものですc 触れれば皮膚は切れ、当たりどころによっては骨を断ち、究極は相手の命を奪います。ま さに、命を懸けた戦いは真剣で行います。 物事を教えたり学んだりするときには順序があります。始めるときにその事柄に対する 概論や歴史や意味を知って学ぶ対象のイメージを知るということは、学びの入り口では非 常に重要なことです。これを「習得」と言います。 そして、その後あるいはそれと平行して、実際に活動を行い新たなものを獲得していき ます。現場に出かけたり実際の対象物や対象者に会ったりして新たな発見や気付きを得て、 深く理解することができるようになります。これを「体得」と言います。 例えば、英会話を考えてみましょう。英語を母国語としない人々は、まったく何の知識 もなく、英会話をはじめることができません。最低限の単語といくつかの構文を学ばなけ れば、スタートラインにすら立てないのです。同時に、いくら単語を覚えて構文を覚えた としても、英会話ができるとは言えません。単語や構文を覚えながら英会話を実際に行わ なければ、本当の意味がつかめません。つまり、習得が単語を覚えたり構文を覚えたりす ることであり、体得が実際に外人と会話を始めることなのです。ある経営者から、会社の改善をしてくれという依頼を受けました。何回か企業訪間をし て、幹部たちに改善のやり方を教えて改善をしてほしいとのことです。 私はその経営者に習得と体得の話をしたのですが、どうもそのふたつの差がよくわから ないようで、「習得も体得も同じではないか」と言われてしまいました。手元に竹刀と木 刀と真剣があったら、日の前に突きつけて違いをわからせることができたのですが、なか なかそのあたりのニュアンスの違いを言葉で理解してもらうのは難しいようです。ちなみ に、その経営者の部屋の本棚には、びっしうとハウツウ本が並べられていました。気をつ けなければ、習得と体得の違いを忘れてしまっている組織があります。特に情報化社会で 膨大な情報が自分の周辺にあふれかえっているので、読んだだけ、見ただけ、聞いただけ で、なるほどと納得してしまっていることは少なくありません。 よく研修会で申し上げることですが、赤ん坊は転んで歩き方を覚えます。幼稚園生は膝 小僧を擦うむいて走り方を覚え、小学生は鉄棒から落ちて逆上がりを覚えます。最初から 歩ける赤ん坊も、全力で走れる幼稚園生もいません。これが体得という意味ですo言葉を 変えれば「プロセスを踏む」ということです。5S活動を行っていると、進捗が思わしくない状況に陥ることがあるかもしれません。 他の人に任せるよう自分がやったほうが早いと感じる経営者や幹部もいます。しかし、そ こで日や手を出してしまって、せっかくり―ダーやメンバーが育とうとしている芽を潰し てはなりません。大怪我をしない程度に転ばせてあげることも、経営者や幹部の仕事でも あります。 この習得と体得の意味は、早い段階で経営者と幹部で共有しておかなければならない大 切な経営知識です。
「社会人」と「組織人」の再定義
社会の中で価値観が多様化しているために、組織にもさまざまな価値観があふれていま す。組織は、共通の目的や目標を達成するための機能を必要としますが、価値観がバラバ ラではそれもかないません。特に、昨今の中小企業では世代間の価値観の違いが顕在化し ていて、さまざまなシーンで離職者の原因となったリコミュニケーションの阻害要因にな ったりしています。若い世代を簡単に「ゆとり世代」などと椰楡している40代の人たちに一般的な常識が大きく欠けている風景も日にしてしまいます。 社会人とは、社会に参加し、その中で自身の役割を担い生きる人のことで、 一般的には 学生は除外されています。当たり前のことですが、実態として多くの中小企業の現場でお かしいとしか言いようのない現象が起きています。 例えば、次のようなことが社内で見られます。 ・社員同士のあいさつができていない 。外来者に対するあいさつができない 。電話で会社の名前すら言わない 。初対面で名刺を出されても片手で受け取り、自分の名刺は出さない 。喫煙所から外来者を呪みつける ・駐車場に空き缶が落ちていたり車の灰皿の中の物が散らばっている 。電話応対をしている社員のすぐ横でグラグラと笑い声を上げる 大げさなことに見えますが、これに類したことはどこの組織でも大なり小なり起こっています。 以前、九州を出発し東京で1泊をして新幹線で東北に向かい、そこからバスと電車を乗 り継いで企業訪間をしたときのことです。企業の玄関を開け、声をかけてあいさつをした ところ、事務所にいた十数人の方が一斉に私の方を向きました。しかし、自分の客でない とわかると全員が自分の作業に戻って、誰も相手をしてくれませんでした。名刺を片手に しばらく玄関に立っていると、 一番手前にいた事務員さんが舌打ちをして立ち上がり、私 の用件を聞いてくれました。何日も前から経営者と打ち合わせをしてからの訪問なのです が、社内には伝わっていなかったようで、玄関先で相当待たされました。 私はコンサルタントなのでそうした風景は職業的に冷静に見られますが、取引先だった らどうなったでしょうか。どんなにきれいごとを言っても、当初その組織の社会人として のレベルは最低でした。気をつけておかないと、本社だけではなく出先や客先で同様のこ とが起こっているかもしれません。 同時に、組織人としての教育がまったくされていない組織も少なくありません。組織人 とは所属する組織の目的や日標を共有し、自分の役割を自覚して行動する人のことです。 しかしながら、次のような人たちが少なくありません。
・会社の会議に遅刻する人がたくさんいる 。会社の定める提出物が期日に出てこない 。会議中に平気で携帯電話にかかってきた電話に出る 。会議中に総務系が平気で外来の電話を会議室に回す 。会社で決めたルールが守られない 。会議では何も発言しないが喫煙所では上司や発言者の悪口を平気で言う 。役職者が部下の悪口を言う 。取引先で自社の悪口を言う 大手企業ならば、新入社員教育や初任者研修で徹底的に仕込まれる組織人としての常識 が、中小企業ではなかなか浸透できていないのが現状です。 業務に必要な資格やスキルについてはどの組織でも対応しますが、それ以前の社会人教 育や組織人教育は手薄です。そこで、5S活動を行う中で再度自社の目的に照らし合わ せて再定義をしてみてください。特に世代間の価値観の違いや学校や社会が教えなかった 常識を教える機会はなかなかありません。これから生き残っていく組織で大切なことは、他者の真似ではなく「うちの会社で は―」という強い意志をどれだけ社員に植えつけられるかにかかっています。いきなり観 念的な話をしたリルールを組織に押しつけても、なかなか個人の意識は変わりません。 5S活動という全社活動を通して、必ず行っていただきたいことです。
学校では教えないこと
さて、あいさつの仕方や電話対応の仕方はどこで教わったでしょうか。 学校ではあいさつの仕方や電話対応を教えていません。歩き方や立ち方、正しい服装も 教えません。どこでも学んでいないので、組織できちんと対応できていないということに お気づきでしょうか。 5S活動の最後に「躾」が入っているのは意味があります。昔なら、家庭や社会が教 えていた躾というものが、現代社会では消えかけているのです。知識ばかりを教える学校 では、人生で必要な知恵を教えていません。まず、教えるべき教員たちに社会人としての 常識がないのですから、教えられるはずもありません。おまけに社会が自由や個性に関して誤った情報を発信しているので、組織の中に混乱が起きています。躾は接客接遇を含め 技術訓練が必要です。 例えば、最近の若い世代ではおしゃれと身だしなみの区別すらできていない場合があり ます。おしゃれとは自分の個性を発揮するものですが、身だしなみとは相手の目線を意識 した社会人としての常識です。ところが、それをきちんと教えていないので、採用試験に 私服でOKですと出したところ、短パンに半ズボンやミニスカートに高いヒールを履い てやって来たという、漫画のような信じられない風景を生み出しています。 5S活動には手順が必要です。目に見える変化を4S活動で組織が体験して初めて、 躾の意味が見えてきます。理念や言葉だけで躾けられた組織は生まれません。なぜ、躾が 5S活動の最後なのか、その意味を組織の幹部が理解して組織に落とし込みましよう。 企業の設備投資にはコストがつきますが、接客や接遇にはコストがかかりません。組織 の構成員の意識が変われば、その瞬間から接客や接遇の効果を発揮します。そのためには 技術訓練が不可欠です。立ち方、座り方、歩き方、お辞儀の仕方、あいさつ、電話対応、 謝り方……。多くの中小企業の社員は、このような重要なことを学んだことがありません。 大手企業はそうした訓練に関して手を抜きませんので、企業の大小にかかわらず、こうし た取り組みが必要です。では、躾とは何でしょうか。これは、組織の全員が決められたルールを守っている状態 です。 例えば、駐車場の車が決められたとおりになっている、電話の応対が決められたとおり にできている、苦情処理をばらつきなく行えるというようなことができていることが、躾 ができているということです。ですので、 一度自分たちで正しい躾を幹部・活動リーダ ー・メンバーで話し合う必要があります。そしてそれをノレールに落とし込み、教育訓練し なければなりません。 「社長、お宅の社員さんたちは、よくしつけられていますね」という顧客や取引先の言葉 は、最大の組織に対するほめ言葉です。マーケティングの根底にはこの躾までたどう着い た状態が必要なのですが、これに気づいている組織や経営者は案外少ないのです。 大手企業や他社の素晴らしさをうらやむだけではなく、自社のあるべき姿を、5S活 動を通してもう一度考え、活動を通して人材の育成を図りましょう。
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