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5章相手の心を和ませ好感を抱かせる言葉づかい

5章相手の心を和ませ好感を抱かせる言葉づかい

相手に言葉をかける前に、ひと言添えると、あとに続く言葉の響きがずっとやわらかくなる。そうした言葉を「クッション言葉」と呼びたい。日本語は多様なクッション言葉を使いこなし、相手の気持ちをほぐしながら、本当にいいたいことを伝えることに長けている。職場などでよい人間関係を保っている人は、たいてい、こうしたプラスひと言をじょうずに使いこなしているものだ。クッション言葉の特長は、長い間に暮らしのなかで使われ、磨きあげられた上質な表現であることだ。響きもよいので、はたで聞いていても心地よい。同じ話しかけるのでも、いかにも品よく、見識のある人だという印象を与え、あなたの好感度は間違いなく、ワンランクアップする。会話だけではなく、手紙やメールに使える表現も多いので、日ごろから、積極的に使いこなしたい。

おさしつかえなければ──◉このひと言で強引さが薄れるアポイントメントをとるときなど、先方に「こちらと会う積極的な気持ちがあれば」「事情が許せば」という気づかいを伝えたい。そんなときにつけ加えたい言葉。「さしつかえ」とは障害のこと。平たくいえば、「もし、できるならば」「ご無理でなければ」というような意味合いになる。相手に会いたい、訪問したいというような場合、「ぜひ、お目にかかりたいのですが」「こちらから、御社にお伺いいたしますので……」などと、相手の気持ちも推しはからず、一方的に自分の思いを伝える人が少なくない。熱い気持ち、積極的な姿勢を見せることがベストだと思い込んでいるのだろうが、相手によっては、こうした押しの強い攻め方に辟易したり、逆に引いてしまったりすることも少なくない。こんなとき、「おさしつかえなければ」とひと言添えると、それだけで強引な印象が和らぐから不思議なものだ。この言葉には、相手の気持ちを十分汲んだうえで、「もし、できるならば……」というニュアンスが込められている。したがって、頼まれたほうも、気持ちよくその思いを受け入れることができるのである。「おさしつかえなければ」と同じように使われる言葉に、「ご都合がよろしければ」がある。とくに、時間、場所などをこちらから指定する場合には必ず使いたい言葉だ。名刺を交換するときに、「おさしつかえなければ、お名刺を頂戴できますか?」と使う人があるが、この使い方は考えものだ。へりくだったつもりなのだろうが、これでは、暗に相手が名刺を差し出すことをためらっているといっているようなものだからだ。結果的には、かなり失礼な言い方になってしまう。「お名刺を頂戴できますでしょうか」というほうが、ずっと感じがよい。お聞きおよびのこと(とは存じますが)──◉事情はお察しのはず相手に何かを報告するとき、すでにおよその話は耳に入っていると推察できるなら、こう切り出すと話がなめらかに進む。とくに失態や窮状などを告げるときには必須。最近は口コミの効果が再認識されている。ネット情報全盛の感があるが、じつは、人を介した情報伝播のほうがより早く、信頼性も高い。当然、影響力も大きいというわけだ。転勤の辞令を受けて取引先に挨拶に行く。だが、自分が転勤することは、すでに相手の耳にも届いていると推察される。そんなときは、「すでにお聞きおよびのこととは存じますが、私、このたび……」と挨拶を始めると、相手も「ええ、御社のIさんからちらっとお噂は伺いました。ニューヨーク支社だそうで、ご栄転ですね」などと受け答えしやすい。とくに失態や窮状を告げるときには、このひと言があると、相手も話を受け止めやすくなり、気持ちの負担を軽減できる。反対に、こちらが相手の事情を多少は知っていますよ、ということを伝えるには、「そちらさまのご事情は拝察申し上げております」「御社のご事情はおおよそ理解しているつもりでおりますが……」というとよい。折り入って──◉「切に」「ぜひ」に代わる言葉何かを依頼するとき、「ぜひ」「どうか」のくり返しでは説得力がない。「折り入って…」と切り出すと、相手はよほど差し迫った頼み事なのだと心準備をしてくれる。仕事も人生もチームワーク。人の協力がなければ前に進むことも、大きく伸ばすこともできないことがほとんどだ。周囲の人に快く協力してもらえるかどうかは、頼み方ひとつで大きく変わってくる。コミュニケーション力が衰えてきている最近では、「力を貸してほしい」とうまく相手に伝えられず、一人で悪戦苦闘している人も増えている。「あのぉー」といったまま下を向いてもじもじしたり、藪から棒に、「ちょっと手伝ってくれないか」と切り出す。これでは相手が、「なんだよ、いきなり」と反発したくなるのも無理はない。人にものを頼むなら、丁重に、心を込めて頼むのが礼儀というもの。「折り入って」は、そんなときに使いたい言葉である。「折り入って」は、「特別な」という意味をもっている。頼み事をする前に、「折り入って」とつけることで、「切なるお願い事」「どうしても聞き届けてもらいたい特別なお願い事」という懸命な思いが伝わり、相手は断りにくくなってしまうのだ。「折り入って」は願い事の場合だけでなく、「折り入ってお話があります」とも使う。この場合は、「ぜひとも聞いていただきたい特別な話がある」という意味になる。たいていは深刻な話であり、めでたい話の場合には使わない。逆にいえば、「折り入って」は、相手にある程度の気持ちの負担を与えることになるので、むやみに使うべきではなく、簡単な願い事ならば、「じつはお願いがあるのですが……」「ちょっとお話があるのですが……」のほうがよい。このほうがあっさりしていて、相手も気軽に話を聞いてくれるはずだ。無理を承知で…──◉相手の自尊心をくすぐるひと言やむをえず、厚かましいと思われかねない願い事をしたい。そんなときにこの言葉を使うと、相手はそう悪い気はせず、あんがい、受け入れてもらえることが多い。得意先や目上の人に、少々込み入った、あるいはかなりたいへんな願い事をする場合には、「無理を承知でお願いに上がりました」というとよい。この言葉には、「普通ならば無理なのでしょうが、力のあるあなた(御社)なら、きっとおできになると思っております」というニュアンスが込められている。このニュアンスが相手の自尊心をくすぐることになり、相手は柔軟な態度をとってくれる可能性が高い。

納期を延ばしてもらいたい。予算を増やしてもらいたいという場合など、ビジネス上の交渉シーンでもよく使われる。こういって、申し入れた願い事が聞き届けられた場合は、「ご無理を申しましたのにお力添え(ご配慮)いただき、本当にありがとうございました」と丁重に礼を述べる。「お力添え(ご配慮)をいただかなければ、とうてい成し遂げられなかったと存じます」などという言葉も添え、相手の助力や配慮があって、はじめて仕事をやり遂げることができたのだと強調しておくとさらによい。お聞き届けいただけますでしょうか──◉頼み事をするときも確認は大事ミスの原因の多くは確認不足。頼み事をした場合、「まあ、なんとかできるかもしれません」という返事では心もとない。厚かましい印象を与えない確認の言葉は?「……というわけで、ぜひ、お力添えいただきたいのですが」とすっかり話が終わったのに、相手は「うーん」とか、「話はわかりました」としかいってくれない。だからといって、「いかがでしょうか。なんとかご助力いただけますでしょうか」などとたたみかけるのも、あまりに自分本位な気がする。そんな場合には、「いかがでしょうか。お聞き届けいただけますでしょうか」と尋ねてみよう。ここまでいわれれば、相手は「イエス」か「ノー」かをはっきりさせなければならなくなる。だが、「……でしょうか」と質問形をとっているため、答えを強要されたという印象になりにくく、結果的に、よい返事を引き出しやすくなるのである。お言葉を返すようですが──◉相手に反論するときにはこのひと言を相手に反論したいとき、いきなり自論を展開すると不快感を与えやすい。反論の前に、ひと言この言葉をはさむと、心の準備ができて反論も耳に届きやすくなる。おたがい、自分の意見は堂々と述べ合える関係でいたいものだ。そうは思っていても、自論を否定されたり、反論されたりすることは、だれだって内心面白くない。そうした気持ちを察して、反論するときにはその前に、「お言葉を返すようですが」というひと言を忘れないようにしよう。この言葉があれば、聞き手は「これから反論してくるのだな」と心の準備ができる。そのためか、同じ反論を展開されても、ずっと受け入れやすくなるのである。たとえば、上司や取引先などから意見されたとき。諄々と諭す言葉はありがたく身にしみる。こういうときは黙って話を聞いているのがベストなのだが、ときに、あまりにも一方的な指摘だったり、とんでもない勘違いだったりして、どうしてもひと言いいたい気持ちを抑えられなくなることがある。そんなときも、「お言葉を返すようですが」と前置きしてから、「じつは、現場の状況はこんな具合でして……」と自分の主張を述べると、ぐんとやわらかな雰囲気になり、こちらの言い分にも耳を傾けてもらいやすい。「お言葉を返すようですが」という言葉は、「これから、相手は自分とは異なる意見を述べるのだ」と心の準備をうながし、感情的になってしまった相手にも冷静さを取り戻させる不思議な力を秘めているのだ。「お言葉を返すようですが」といったとたんに血相を変え、「なにぃ、お前ごときが私に意見するなんて百年早い」などと大きな声を出すような上司なら、何をいわれても右の耳から左の耳へと聞き流し、気にしないことがいちばんの対応だといえそうだ。あいにく──◉相手の願うとおりにならないときにたまたまタイミングが悪くて、相手の意向に応えられないというとき、このひと言をつけ加えれば、申し訳ないという気持ちが伝わり、当たりがやわらかくなる。「開発課のE課長に、お目にかかりたいのですが」と訪問者。「お約束はしていないのですが、たまたま別件で御社に伺いましたので、もし、ご在席ならば……」という。だが、開発課につないでみると、E課長は昨日から地方工場へ出張中だった。こんなとき、よく、「すみません。Eは出張中で、明後日から出社の予定だそうです」と答える人がいるが、約束があったわけではないので、こちらが謝る必要はない。代わって、使いたいのが「あいにく」である。「あいにく、Eは出張中で……」といえば、わざわざ訪ねてきてくれた訪問者の労をねぎらう気持ちはきちんと伝えられる。「あいにく(生憎)」は本来、「あやにく」という言葉だった。「あや」は、「ああ」「あら」などと同じような感嘆詞。つまり、「あいにく」とは「ああ、憎らしい」という意味であり、思うようにいかないことを示しているのだ。したがって、さまざまな状況に使える言葉といえる。たとえば、今日は彼女とデートというときに、雨が降ってきた。こんなときにも、「あいにくの空模様」などと使う。こうした用法からさらに発展し、相手の期待に応える返事ができないときなど、「あいにく外出しております」のように、使われるようになったのである。「おあいにくさまですが」ということもあるが、聞きようによっては、相手をからかっているようなニュアンスになるので、使う相手や言葉の調子には十分気をつけたい。お気を悪くなさらないでください──◉相手の申し出を受け入れられないなら人間関係では、とくに「ノー」の言い方が大事である。相手の申し出を断るときには、この言葉を加えると、すんなり「ノー」を受け入れてもらいやすい。相手の申し出や、依頼を断らなければならないケースは意外に多い。だが、問題はその答え方だ。「できません」「お受けしかねます」とストレートにいわれると、取りつくしまもないという印象を持たれ、人間関係がぎくしゃくしてしまう。「お気を悪くなさらないでください」は、「ノー」といわれてしまった相手の心情を、思いやる気持ちにあふれた言葉である。「今回はお力になれず、ごめんなさい。お気を悪くなさらないでくださいね」といわれると、「だれにでも事情があるのだから、今回は仕方がない」と素直に思

えてきて、「ノー」をすんなり受け入れやすいのだ。この言葉は、あえて厳しい意見や批判をいう場合にもよく使われる。「今日は、君の仕事の姿勢について徹底的に意見させてもらうよ。気を悪くしないで聞いてほしい」。こういう意見こそ、自分を育ててくれるありがたいものである。気を悪くするどころか、苦言を呈してくれる相手に深く感謝しながら、全身を耳にして、貴重な意見を受け止めるようにしよう。お気持ちはわかりますが──◉どこまで相手の立場に立てるかクレーマーに対応するときなどは、まずはこういって、相手の気持ちをなだめよう。最初から「いい加減なことをおっしゃらないで…」では、火に油を注ぐ結果になる。人前で怒りをあらわにしたり、諍いを起こした人をなだめるとき、「お気持ちはわかりますが、まあ、ここは私に免じて……」などととりなすことがある。こういわれれば、相手も、いきなり激昂してしまった自分も悪かったと思いいたり、しだいに冷静さが戻ってくるからだ。ただし、安易に「お気持ちはわかりますが」といえば、「口先だけでそんなこといったって」と、かえって反感を買う結果になってしまうこともある。本当に相手に共感できるときは、「お気持ちはわかります。私にも同じような経験がありますから」などとつけ加えて、単に、言葉の上だけでそういっているのではないことを伝えるようにしよう。同じように使える言葉に「お察しいたします」がある。お使いだてして申し訳ありませんが──◉こういえば快く引き受けてもらえる同じ人に何かを頼む場合、相手がイヤイヤやるのと気持ちよくやるのでは、双方の気分が大きく違う。快く引き受けてもらうために必ずつけ加えたい言葉とは?人を頼りすぎるのはいけないが、かといって、なんでも自分一人でやると突っ張るのもけっしてよい印象ではない。ほどよく人の力を借り、自分も相手のために役に立つ。こうした、相身たがいの助け合いが自然に、そして円滑にできるかどうか。それが、よい人間関係、よい組織であるかどうかをはかる目安になるのではないか。こうした関係をつくるカギは、相手が気持ちよく引き受けてくれるものの頼み方、心を開くひと言を知っているかどうかである。「お使いだてして申し訳ありませんが」は、そんなひと言のひとつ。部下などにものを頼む場合でも、「使いだてしてすまないが、ひとっ走り、使いに行ってきてくれないか」というのと、「ちょっと使いに行ってきてくれ」というのとでは、印象はがらっと変わる。同じような言葉に、「お手をおわずらわせいたしますが」「お手数(ご面倒)をおかけいたしますが」がある。「お手をおわずらわせいたしますが」は目上の人に何かの世話や仲介を頼むときなどに、「お手数をおかけいたしますが」はさまざまなケースに幅広く使え、もっとも一般的に使われる言葉といえる。では、「お手数をおかけします」といわれたら、どう返したらいいのだろうか。英語には「Withpleasure.」(喜んで)という絶妙な言葉があるが、日本語で「喜んで」は、正直なところ、ちょっと浮く。年配の人のなかには、「いえ、造作もないことで」と返す人もあるが、普通は「いいえ、たやすいご用です」といって、すぐに行動を起こすことで「Withpleasure.」であることを態度で示すようにする。だが、上司に「使いだてしてすまないが……」といわれた場合は、「たやすいご用……」はちょっと場違い。こういうときは、元気よく「はい。いますぐ行ってきます」と答えて「Withpleasure.」という気持ちを伝えよう。お手すきの折にでも──◉時間の余裕がある依頼をするとき急いで処理しなければならないことではないのだが…と伝える場合に使う常套句。こういわれると気持ちの負担が軽くなるので、依頼を受けてもらいやすい。「お手すきの折にでも」は、手がすいているときにやっていただければ十分ですよ、という意味で、頼み事をするときによく使われる。「お暇な折にでも」という人があるが、これでは相手を〝暇人〟といっているようなもので、かえって失礼になる。とくに目上の人には禁句なので、くれぐれも注意したい。依頼を受けたほうは、「お手すきの折にでも」といわれたからといって、この言葉を真に受けてはいけない。「忙しくて、なかなか手がすかなくて」と言葉どおりの対応をし、いつまでも放っておくようでは、相手の気持ちを汲んだ対応とはいえない。そう無理をする必要はないが、やはり、できるだけ迅速に対処するのがマナーだろう。このあたりの阿吽の呼吸が日本語のむずかしいところだが、日本語の妙ともいえよう。お手やわらかに──◉「あなたのほうが力は上」だとさりげなく伝える勝負に際し、「あなたのほうが力は上なのですから、やさしくしてくださいね」という気持ちを伝える言葉。相手への敬意を示し、自分の力を謙遜した表現になる。スポーツ、ゲーム、囲碁、将棋……など、なんであれ、勝敗争いを開始するときに「絶対、負けないからね」「ボコボコにしてやるぞ」などと自分の力を誇示するのが、前向き、ポジティブがいちばんの現代風なのかもしれない。だが、勝負の相手が目上の人や年長者である場合には、こうした言い方はちょっと大人げない。むしろ、ひと言、「お手やわらかに」というとよい。「お手やわらかに」は、「力を加減して、やわらかく(やさしく)してくださいね」という思いを伝える言葉。つまり、暗黙のうちに、相手は自分より力が上だといっていることになる。こういわれて、悪い気持ちになる人はいないだろう。転じて、はじめて戦う相手で、その力がよくわからないというときにも、「お手やわらかに」というようになり、試合を始める前の挨拶のひとつにもなっている。ビジネスシーンでも、コンペの競合相手にばったり出会った場合などには、「今度のキャンペーン、うちとお宅のコンペらしいね。お手やわらかにお願いしま

すよ」とか、成績の査定のための面談を受ける場合など、直属の上司に向かって、「お手やわらかにお願いいたします」と使ったりする。お呼び止めいたしまして──◉知人に偶然出会い、思わず声をかけたとき忙しい世の中だから、つい、メールのやりとりですませてしまう。だが、やはり、生身の触れ合いに勝るものはない。偶然出会ったら、積極的に声をかけてみよう。業界の会合やフェアなどでは、知った顔に出会うことも多い。そんなとき、積極的に声をかけて、ほんの数分でも立ち話をすることは、想像以上に人間関係を強化するものだ。相手も忙しいに違いないと、声をかけるのを遠慮する気持ちがあるなら、「お呼び止めいたしまして失礼いたします。少し、お話しさせていただけますか?」といってみよう。よほど切迫した用事がある場合以外は、「いやあ、こんなところでお目にかかるなんて奇遇ですね。あまり時間はないんですが、お茶一杯ぐらいなら……」と相手も出会いを喜んで、ひととき、話にハナが咲くこともある。最近は、企業内の電話連絡も専用携帯で、というところが増えてきた。だが、セクション内の電話にかけ、相手を呼んでもらったときは、「お忙しいところ、お呼び立てして申し訳ありません」とひと言いってから用談に入ると、話をスムーズに進めやすい。「呼び止める」「呼び立てる」の使い分けをしっかり身につけておこう。ふつつかではございますが──◉いたらない人間であると、謙虚に挨拶初対面の席で、自分をへりくだっていうときの常套句。少々古くさいようだが、年長者には、今も、こうした言葉づかいを喜ぶ人が多い。「ふつつかではございますが、よろしくお願いいたします」。昔は、結婚式を終えたあと、新婦は婚家の両親や夫に、こんなふうに挨拶したものだった。「ふつつか」を漢字で書くと「不束」。稲の束の形がきれいに整っていない様子から生じた言葉で、やがて、行き届かない、気がきかないという意味に使われるようになった。「ふつつかではございますが」とは「不出来ではありますが」「いたりませんが」という意味になり、自分をへりくだり、相手に教えを請う気持ちが込められている。さらに上代にさかのぼると、「不束」は「太束」、つまり、「太い(稲の)束」を指す言葉だった。太く、しっかり束ねられた稲は、はじめはほめ言葉だった。しかし、平安時代のころ、貴族社会ではか弱く繊細であることが好まれるようになり、太い=風流でない→不格好でみっともないということから、不出来、神経が行き届かない人、を指すようになったと伝えられる。「ふつつか」は女性の場合に使われることが多い。少々古風な、年配の役員の秘書などを務めるような場合なら、「ふつつかではございますが、一生懸命、務めさせていただきます」と挨拶すると、好感度が増すのではないだろうか。男性は、「未熟者ですが、誠心誠意、務めさせていただきます」などと挨拶するとよい。お誘い合わせのうえ──◉多くの人に参加してもらいたいときに「一人でも多くの人に集まってもらいたい」という気持ちをソフトに、だが、確実に伝える決まり文句。「みなさんでいらしてください」に、ひと言加えてもよい。後援会や発表会、イベントなどを開催するときには、一人でも多くの参加者に集まってほしい。そんなとき、「みんなに声をかけて、できるだけ大勢で来てね」という表現が許されるのは、学生のうちだけ、あるいは学生時代の仲間に対してだけだと思っていたほうがよい。社会人として礼にかなった言い方は、「皆さま、お誘い合わせのうえ、お出かけください」。こういえば、一人前の言葉づかいを知っているなと、あなたの評価も高くなる。招待状や案内状が届いた場合、「皆さま、お誘い合わせのうえ……」と書かれていたら、相手はできるだけたくさんの人を集めたいのだなと解釈してかまわない。そして、その意を汲んで、知り合いや友人に声をかけて、大勢で行くと喜ばれる。逆にいえば、そう書いていない場合は、招待状の宛て名に書かれていない人まで同行するのはマナー違反だということだ。どうしても同行したい人がある場合は、「部下の鈴木を連れて伺ってもよろしいでしょうか。この機会にぜひ、御社について勉強させておきたいのですが」などと、あらかじめ、先方や主催者の了解を得るようにする。会場の都合などで、参加者の人数を限っていることもあるからだ。十分いただきました──◉「もういりません」では、ぶっきらぼう食事をご馳走になったり、お店や旅館で追加注文は、と聞かれたりしたとき、場の雰囲気を壊さないスマートな断り方を知っておきたい。たとえば…。知人宅に招かれて食事をご馳走になった。そんなとき、「お代わりはいかがですか?」とすすめられた。だが、もうお腹はいっぱい。こういう場合は、どういって断ればよいのだろうか。せっかくすすめてくれたのだから、断ったら悪いのではないか、と思う人もあるようだが、無理をする必要はない。こんなときは、「もう、十分いただきました」といって、軽く頭を下げればよいのである。場合によっては、手のひらを立てながらこういえば、「これ以上はけっこうです」という思いを感じよく伝えることができる。親しい仲なら、「もう十分すぎるぐらいだ。あんまりおいしいんで、つい、食べすぎてしまったよ」といえば、どれほど食事に満足し、堪能したかをユーモラスに伝えられる。レストランなどで、「追加注文はございますか?ラストオーダーになりますが……」といわれた場合も、「もう、けっこうです」ではぶっきらぼう。聞きようによっては、きつい印象になってしまう。「もう十分いただきました」がベストだろう。不調法なので

──◉酒が飲めないことをわかってもらいたい得意先や目上の人から酒を強くすすめられた。こんなとき、「お酒は飲めない体質なんです」と大きな声を出すのも大人げない。では、どういえばいいか?酒好きにはなかなか理解してもらえないのが、飲めないお酒を強要される苦しさ。得意先との席や目上の人との席で、相手からお酌を申し出られた場合など、無下に断ると場の雰囲気がぶち壊しになりそうなこともある。そんなときには、「不調法なので」といえば、それ以上、迫られることはないはずだ。「不調法」とは、行き届かないとか考え違いという意味。転じて、芸事などのたしなみがないことをいうようになり、さらに転じて、「酒」を飲まない、あるいは体質的に飲めないことを指すようになった。宴席などで、招いた側が徳利やビール瓶を持って酌をして回ることがある。そんなとき、いくら飲めないからといって、はじめから、杯やコップをテーブルに伏せてしまうと、せっかく盛り上がっている場の雰囲気を損なう恐れがある。こうした場合は、杯やコップはそのままにしておき、酌をする人が回ってきたら、杯やコップに手でふたをするしぐさをしながら、「不調法なもので」と断ると、スマートだ。同じく苦手だと伝えたい場合でも、青魚が嫌いだとか、体質的に食べられないという場合には「不調法」は使わない。こうした場合には、ごくふつうに「ごめんなさい。私、青魚がちょっと苦手で……」のようにいう。

 

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