「尊重のアンテナ」を持っている人は、接する相手に「居心地がよい」と思わせる達人です。それは、「この人は敵ではない」「自分のことを認めてくれている」「自分の考えや人格を尊重してくれている」と、相手に自然に感じさせるということです。その具体的な方法を、いくつか紹介しましょう。誰でも「特別に扱われている」と思うと、気持ちがいい人は、自分が特別に扱われている、大切にされていると思うと居心地がよいと感じるものです。会話の中に「○○さん」と相手の名前を意識して入れると、相手は「この人は自分に関心がある」「尊重してくれている」と感じ、互いの距離が縮みます。「この件について、意見を出してくれない?」「この企画書、どう思う?」と言われるよりも、「この件について、○○さんの意見を聞かせてくれない?」「この企画書、○○さんはどう思う?」と言われるほうが、自分の意見が求められているんだと感じますし、できるだけよい意見を出して役立ちたいという気持ちにさせられますよね。挨拶に、もうひと言プラスする挨拶は人間関係の基本ですが、挨拶だけで終わらせるのはもったいない。気くばり上手は、挨拶にひと言プラスしています。たとえば朝、出社したとき、同僚に対して、「○○さん、おはようございます。昨日は遅くまでお疲れさまでした」「○○さん、おはようございます。今日の会議、スムーズに進むといいですね」そんなふうに声をかけます。すると、言われたほうは自分のことを気にかけてくれていると感じ、より親近感を抱きやすくなります。「名刺」は相手の分身のように扱ういただいた名刺は、相手の分身です。大切に受け取ったうえで、もし、相手の名刺のデザインがユニークだったり、珍しい苗字や名前だったりしたら、それについて、感じのよいひと言を言えるといいですね。そしてどんなに感じがいい人でも、自分の名刺をぞんざいに扱われると、不快感を抱きます。打合せをしていて、机の上に散らばった資料と、渡した名刺が重なっていても、気にも留めない人がいますが、なんとなく嫌なものです。相手と話している間は、〝名刺の座布団〟である名刺入れの上に、きちんと置いておきましょう。「あなたを大事にしている」とさりげなく発信
誰でも「自分に関心を持ってくれる人」には好感を持つものです。ですから、仕事で名刺交換をしたとき、その人の情報を忘れないように、名刺の裏などに、会った日時、用件、特徴などをメモしておくことは基本です。さらにワンランク上の人がやっているのが、ノートに整理してまとめておくこと。営業マンなら、ぜひやっていただきたいことです。人と会ったらその日のうちに、というよりも会話をした直後に、その人の情報をメモしましょう。書く内容は「出身地」「雰囲気」「年齢」「家族構成」「好きな食べ物」「好みの色」など、なんでも構いません。次に会ったときに必ず役立ちます。私も以前はノートにメモをしていましたが、今はスマートフォンにメモをするようにしています。自分のやりやすい方法でいいでしょう。「尊重のアンテナ」の感度が高い人は、さりげない気くばりの達人です。それは、会った人の情報を忘れないようにメモしておくなど、地味な作業をコツコツと続けているからなのです。2回目以降で〝相手との距離〟を一気に縮める方法会った人の情報をメモしておくことのメリットは、2回目以降に会ったときにあります。せっかく初対面で好印象を持ってもらえても、2回目に会ったときにまるで「はじめまして」の状態に戻ってしまっては、もったいないですよね。2回目で1回目より距離をしっかり縮めるために、その人の情報を覚えておくのです。そして次に会ったときは、必ず初めて会ったときの話題に触れるのがポイントです。たとえば、こんな感じです。「前回お会いしたときに教えていただいた本、読んでみました。素晴らしい本でした!最近、ベストセラーばかり読んでいたので、教えていただかなければ絶対に出会えない本でした。教えていただいてよかったです。ありがとうございました」「この前、教えていただいた店に行ってみました。相手の方もとても喜んでいて、おかげで仕事がスムーズに進みました。またいい店がありましたら、ぜひ教えてください!」もしかしたら、話した本人は、忘れてしまっていることかもしれません。
それでも、話した相手が喜んでいて、感謝をされたら、悪い気はしないものです。こうして確実に、相手との距離を縮めることができるのです。何度か同じ店で食事を共にした男性と、またその店に入ったときのことです。彼は店に入るなり、「安田さんは、ここの席が好きでしたよね」と言って、サッとその席に案内してくれたことがあります。感動しましたね。どうということもないことですが、「覚えていてくれたのだ」と、うれしくなります。こんなさりげない気くばりができるのが、「尊重のアンテナ」を持っている人です。ちなみに、このタイプの人に、ウイスキーの水割りを作ってもらうと、おいしいです(笑)。なぜなら、私の好みの配分を覚えていてくれるからです。また、プレゼントをくださるとき、私の好きな色を覚えていて、リボンをその色にしてくれるなど、他の人が気づかないような気くばりをしてくれる人もいます。「尊重のアンテナ」の感度が高い人は、なぜこのようなことができるのでしょうか。それは、〝会った人の情報を蓄積している〟からにほかなりません。いい意味で、「安全・安心」であることを重視するタイプですから、周囲の情報をしっかり頭に入れておこうとするのです。つまり、「この人はこういうことは好まない」「こういうことを言ったら喜ぶ」という情報を、習慣的にインプットしているのです。会った人の情報を持っていれば、相手に合わせて気くばりの仕方を変えられるのです。これは、できそうで、なかなかできることではありません。だからこそ、できたら他の人と大きな差がつきます。「覚えておく」だけで気くばりの幅が広がる
「尊重のアンテナ」を持っている人は、ある意味、とても素直な人です。相手の言うことも、とても素直に受け入れます。相手の言うことを素直に聞けることは、この上ない長所になります。たとえば、あなたがとても忙しくしているのに、上司に頼まれごとをされたときの状況を思い浮かべてください。上司:「○○君、悪いんだけどこの企画書、明日までに作っておいてくれないかな」あなた:「えー、明日までですか?はぁ……(困ったなぁ。今、仕事が立て込んでいて忙しいんだよな……)」カッコの中の言葉はもちろん、心の中で思っていることです。いかがですか?「あるある」でしょう?でも、なかには、「はい、企画書を明日までですね。わかりました。今の仕事が済んだらすぐに取りかかります」と答える人もいます。「尊重のアンテナ」を持つ人は、間違いなくこのように答えるでしょう。人から頼まれたことに対して、抵抗も反論も嫌な顔もせずに、素直に引き受ける特性があるからです。そんなことは理想論でしょうか?でも、考えてみてください。どっちにしても、頼まれた仕事は受けるのです。それならば、気持ちよく受けたほうが、お互い気分がいいと思いませんか?文句を言いながら仕事をしても、いいことは何もありません。そして、頼まれたことは、できるだけすぐやるのが気くばりです。「わかりました」と引き受けたなら、相手を待たせないこと。何度も言いますが、スピーディであることは気くばりそのものです。その速さに、相手は誠意を感じて感動するのです。私の知っている企業のトップなどの一流の方々は、非常に忙しいにもかかわらず、人を待たせません。忙しいことは、仕事をやらない理由にはならないのです。ただし、本当にできないことは、安易に引き受けてはいけません。曖昧な返事をして、誤解を受けることのないように注意しましょう。変な「見栄」は持たないに限るまた、わからないことはわからないままにしておかないことも大切です。「尊重のアンテナ」を持っている人は、わからないことも「素直に聞く」姿勢を持っています。見栄を張らず、知ったかぶりをせず、素直に聞くことも気くばりです。わからないままに進めると、仕事を頼んだ人やその関係者を困らせることになりかねません。後からやり直すことになれば、時間も労力も余計に費やすことになります。わからないことは恥ずかしいことではありません。恥ずかしいのはむしろ、知ったかぶり、わかったふりをすることです。わからないことはわからないと伝え、「教えてください」ときちんとお願いすることが、あなたにとっても、仕事を頼んだ側にとっても一番いいのです。「でも」「いいえ」を封印するでは、自分の作った資料や企画書などについて、同僚や上司から「もっとこうしたら?」「これはイマイチじゃない?」といった指摘やダメ出しをされたり、あるいは、打合せなどで自分と真逆の意見を言われたりしたときは、どうでしょうか。「でも、私はこう考えて、これを作ったんです」「いいえ、そういうことではなくて……」と、反論したくなるでしょう。それでも、まずは一度、いっさいの反論を封印して、相手の指摘を受け入れてみることです。なぜなら相手も、「あなたに対して意見する」という勇気を払い時間も費やして、わざわざ指摘をしてくれたわけです。それだけでも、よく考え直す価値があるでしょう。あなたの視野が狭かったという可能性も考えられます。ですから素直に、相手の指摘に感謝するのです。「確かに、そういう面もあるかもしれませんね。ご指摘ありがとうございます。もう一度、検討してみます」と言って、いったん引き取る。そのうえで、よく検討して、「やっぱり、自分が最初に考えた通りにしたい」と思ったなら、そう伝え直すだけの根拠を用意して、もう一度提案すればいいのです。「素直」にまさる宝なし
聞き上手であること、またうなずくことの大切さについては、前章ですでにお話ししましたが、「尊重のアンテナ」の感度が高い人は、別の意味で「聞く力」があります。まず、相手の話を真剣に一生懸命聞く姿勢に、飛び抜けて秀でています。首が痛くなるほど大げさにうなずくことも、もちろん気くばりですが、相手が深刻な話をしているときや、じっくり話を聞いてほしいときは、オーバーなリアクションがときに邪魔になることがあります。「尊重のアンテナ」を持っている人は、どういったときにうなずき、どういったときに静かに耳を傾けるべきかを的確に判断できるのです。何より、人の話していることをよく理解しようとします。共感については、すでにお話ししましたが、このタイプの人は、自分の価値基準の中ではなく、あくまで相手の価値基準の中で共感できます。つまり、本当に相手の痛みを感じるかのように話を聞き、共感できるのです。相手の言葉を〝じっと待つ〟力繰り返しになりますが、話を聞くときは、大きくうなずいたほうが、話すほうも話しやすいものです。ただ、黙っていることが大切になるときもあります。それは、相手が熟考しているときです。よく、沈黙に耐えきれなくなって口を出す人がいますが、それは考えものです。たとえば商談の席で、相手が真剣に考えているときに、沈黙に耐えきれず「いかがですか?」などと口を挟んだら、うまくいくものもいかなくなってしまいます。こうした、「相手の言葉を待つ力」を持っている人は、人から信頼されます。何よりも大切なのは、言葉を待っているときの表情です。「あなたのお返事がどのような内容でも、私は大丈夫ですよ」「あなたのお考えがまとまるまで、いくらでも私は待てますよ」という慈愛に満ちた表情で待つことです。わかりやすく言い換えれば、やさしく見守るような表情です。このとき、焦ってはいけません。「早く答えてくれよ」などと心の中で思っていると、それが表情に出てしまうもの。せっかちな人ほど、意識して慈愛の表情をするようにしてください。「あなたの返事を待つのも、有意義なことです」といった、ゆったりした気持ちで待てばいいのです。「傾聴」ができる人の存在感このように、自分の気持ちを抑えて、相手のペースに合わせることができる力が身につくと、ビジネスパーソンとしてワンランクアップします。「傾聴」という言葉をご存じでしょうか。カウンセリングなどでいわれるコミュニケーションスキルの1つで、文字通り、耳を傾けて相手の話を熱心に聞くことを指します。ビジネスにおいても、この傾聴力のある人が求められています。傾聴とは、相手の話をただ「音声」として聞くのではなく、相手の言葉を理解し、その真意や感情までも受け止め、寄り添って共感する聞き方です。もっと具体的に言うと──人の話を遮らずに聞く。どんなに話が長い相手でも、途中で遮ったり話の腰を折ったりせずに、誠実に耳を傾ける。話を聞いている最中も、アイコンタクトやうなずきで、「あなたの話に関心を持っています」「話の続きを待っています」と伝える。姿勢は、座っているときなら、両手は机の上に重ねておくなど、姿勢でも「あなたの話を真剣に聞いている」ことを示す(逆に、腕組みをして話を聞くのは、相手に威圧的な印象を与えるのでNGです)。意見を求められたときには、押しつけがましくならないよう、自分の考えを話す。こんな話の聞き方ができる人は、傾聴力のある人です。「尊重のアンテナ」の感度が高い人に、文字通り傾聴力が高い人が多いのは、人と対立することを嫌い、人の和を大事にする傾向があるからでしょう。ズルいようですが、話をするよりも、聞くことに徹しているほうが、人との対立を避けられ、コミュニケーションの失敗も少なくなります。
傾聴ができていると、勘違いや誤解が減り、ビジネス上でも相手が考えていることや指示の内容をしっかり理解できます。「肯定のあいづち」を打つまた、相手の考えや意見を尊重していることを伝える、「肯定のあいづち」を打つことも、相手を心地よくさせることにつながります。「おっしゃる通りです」「ええ、〇〇さんのおっしゃることはよくわかります」「そのお気持ち、よくわかります」「まったく同感です」「その通りですね」このようなあいづちは、相手への深い理解や忠誠心を示すことになり、言われたほうは非常に心強いものです。特に自分の意見に従ってほしいと強く望むリーダータイプにとっては、このようなあいづちを打ってくれる人は心強い味方となり、決して手放せない存在でしょう。肯定のあいづちをするだけで、決して裏切ったりだましたりしないという、特別な誠実さをアピールできるのです。「おっしゃる通りです」のひと言で、誠実さをアピール
私はかねがね、若い人たちに「飲み会に出たら、面白いことをひとつは言え」と言っています。なぜなら、その人1人が面白くないために、「場の空気」が死んでしまうことがあるからです。何も、飲み会を盛り上げる方法をここで述べたいわけではありません。その場の空気を敏感に察知して、そこにいかに自分を合わせるか。これが重要なのです。自覚なく、まわりに気を遣わせている人その場に自分が存在することによって、何かマイナスの現象が起きていないかをチェックすることは、立派な気くばりと言えるでしょう。たとえば職場仲間4、5人で一緒にお弁当を食べていたとしましょう。自分がそこに入っていったら、なんとなく場が沈んでしまった──それに対して、「なんでだろう?」と考える人と、まったく気づかない人がいます。あるいは、会社で○周年記念のパーティの席上、何人かでなごやかに談笑をしているところに、ある男性が入ってきたのですが、ひと言もしゃべりません。それどころか、自分がマイナスオーラ全開であることに気づいているにもかかわらず、「僕は、こういうキャラクターですから」という顔をして佇んでいる──こういう人、いませんか?「それが僕の特徴ですから、もう直せません」と開き直っている感じです。人気俳優でミュージシャン、エッセイストでもある星野源さんが、テレビのインタビューでこのようなことを言っていました。「以前はよく『僕は人見知りなんで……』と言っていました。でも数年前から、それがすごく恥ずかしいことに思えてきたので、言うのをやめました。なぜかというと、自分は人見知りなのだ、と言うことで、周囲の人に『だから気を遣ってくださいね』と言っているのと一緒だと思ったのです。それはすごく失礼なことだし、自分は何様なんだ、と思ったのです」その通りだと思います。この本の読者のみなさんには、人に気を遣わせたり、必要以上に「気くばりされる」人にはなってほしくありません。最速で「その場の空気」に自分をなじませるには?では、場の空気に素早く自分を合わせるには、どうすればいいのでしょうか。そのために、いつもテンションを高くしている必要はありません。逆に、高すぎるテンションでふるまうと、空回りしてしまうことにもなりかねません。沈黙を恐れて、話を盛り上げようと必要以上に1人でしゃべっても、痛い人になってしまいかねません。大切なのは、最初の段階で、その場をしっかり観察することです。具体的には、その場にいる人たちは、どういう関係なのかその中で中心となっている、キーパーソンは誰かそのキーパーソンが好んでいる雰囲気はどのようなものかなどです。たとえば飲み会などでも、その場の全体の雰囲気は、そこに何人の人がいようとも、必ずキーパーソンの好む雰囲気に合わせられているはずです。楽しい飲み会なら、明るくお酒を飲んで、酔っ払って多少騒ぐくらいでちょうどいいかもしれません。逆に、堅い人たちの集まっている静かな飲み会なら、決してハジけたりせず、静かに飲めばいいのです。私も大阪でお酒を飲むときは、普段以上にノリよく、親父ギャグを連発します。大阪の人は、笑わせてナンボ、笑いをとるのが正しい飲み方だからです。相手にとっての「快適」を探すまずは観察すること。場のテンションや、そこにいる人たちにとっての「快適」は何かを探りながら合わせていきましょう。たとえば私の場合、日本全国で講演会やセミナーを行なっていますが、その土地柄に合わせて、話す内容を少しずつ変えることを意識しています。リアクションが大きく、打てば響くような反応が返ってくるお客様の場合は、随所にユーモアを交え、笑いをとります。逆に、身動きひとつせず、うなずきもせず、シーンとしているけれど真剣に聞いてくれている場合もあります。そこでは、決して笑いをとろうとはしません。心穏やかにゆっくり話します。話の聞き方も、相手に合わせること。大きくうなずきながら、快活に話を聞くのがいいのか。うなずきは控えめにして、真剣に話を聞き、メモをとるのがいいのか──。
全員がワインが好きなテーブルについて、「とりあえずビール!」とは言えないのと同じです。相手が考えている「快適」をつかめたら、しめたもの。「あの人は気くばりができる人だ」「あの人といるとなぜか、話しすぎてしまう」と言われるようになるでしょう。その場のキーパーソンにとっての「快適」を見極める
「相手の不安を取り除く」ことが、気くばりにおいてはとても重要であることは、本書で何度も触れてきました。たとえばもう30年近く、私は日本全国を講演会やセミナーで回っていますが、一度も遅刻をしたことがありません。会場には開始時間の1時間半前に着くようにしています。「1時間半も前に行くなんて……」と思われる人もいるかもしれませんね。通常は、そうしたセミナーの講師は1時間前くらいに着くのが一般的なのでしょう。なかには、ギリギリに到着して主催者をハラハラさせる人もいます。しかし、これまでの経験上、30分前になっても講師が来ていないと、主催者はいてもたってもいられなくなるようです。私が1時間半前に着くようにしているのは、「逆算して考えることが、仕事のなかでいかに重要か」を知っているからです。会場には各地から、みなさんが交通費や宿泊費をかけて集まってくださっています。それを考えたら、決して遅刻はできません。どんな交通機関でも遅れることがありますし、道が渋滞することもある。もし車を運転しているとしたら、事故に遭ってしまう可能性もないとは言えません。一度でも遅刻をしたら、信用を失います。逆に言えば、1時間半前到着をルール化したことで、私は信用を得てきたとも言えます。「人をハラハラさせない」ことは、気くばりの重要なポイントです。相手の時間を1秒でもムダにしない・奪わない通常の商談、打合せなら、余裕を見て20分前には現地に到着しておくべきでしょう。早く着けば、相手が来るまでの間、準備や確認をすることができます。ただし、相手先の会社を訪問する場合は、先方の受付に入るのは、約束の時刻の5分前にすること(早く訪問しすぎても、相手の時間を奪うので迷惑になります)。近くの適当な場所で、適当な時間になるのを待ちましょう。大事なのは、絶対に遅れずに、相手より先に到着していること。もし遅刻をしてしまったら、第一声は「申し訳ありません」になりますよね。ビジネスにおいて、謝罪からスタートするのは、大きなマイナスです。会議であろうと商談であろうと、遅れた人は分が悪くなり、言いたいことも言えなくなってしまいます。焦る気持ちが先立って、平常心も保ちにくくなります。「いつでも先に来ている人」でいること。それをルール化してしまえば、なんのことはありません。また、約束をしてから当日までに期間が空いた場合は、前日に、「明日、よろしくお願いします」とリマインドのメールを送ることも、信頼につながる気くばりですね。絶対に相手に「待たせない」
「謙譲」という言葉はご存じでしょう。その意味は辞書によると、「へりくだること、控えめなこと、自分を低めることによって相手を高めること、謙遜」などとあります。これこそまさに、「尊重のアンテナ」力が高い人の特徴です。ほめられてもそれを人に自慢することなく、「いえ、そんなことはありません」と謙遜します。あくまで、相手を立てることを第一にするのです。相手に花を持たせなければならないときは、喜んで黒子に徹することができ、また、慢心することも決してありません。むしろ、自分を過小評価してしまうきらいがあるほどです。「分をわきまえる」という言葉がぴったり当てはまるタイプなのです。分をわきまえない発言は、それが思いやりからであっても、ときとして人をイラつかせます。「自分が、自分が」というタイプの人や、目立つことが好きな人は、この分をわきまえた控えめな気くばり力を、ぜひ意識してみましょう。人の功績を尊重するたとえば、チームでやり遂げた仕事を、上司からほめられたとします。そして、上司が、そのチームメンバー全員がそろっている前で、「この提案書の、ここのところが特によくできていたよね」などと言ったとします。そんなとき、「尊重のアンテナ」の感度が高い人は、すかさず、「はい。その部分は、○○さんが考えてくれたんですよ」とさりげなく言います。すると、チームメンバー全員の前で、○○さんは間接的にほめられている状態になるわけですから、当然、その人はとてもうれしく思うでしょう。自分だって、その仕事で大きな役割を果たしているはずなのに、まわりに花を持たせることができる、仲間の功績のほうを尊重することができる。「自分が、自分が」ではなく、まわりを立てることができる。──そんな人は、ごく自然に尊敬と信頼を集めていきます。「謙虚な姿勢」は、美しいあるいは、こんなシチュエーションだったら、どうでしょうか。職場で先輩が、あなたの知らなかったことを教えてくれました。それに対して、「なるほど、そうなんですね」と答える。「このやりとりの何が悪いの?」と思っている人、いませんか?「尊重のアンテナ」の感度が高い人なら、助言してくれた相手に対して、「初めて知りました。ありがとうございます。勉強になりました」と答えるでしょう。先輩や上司など目上の人に対しては、つねに「教えていただく姿勢」を貫くことが大切です。知識や情報を提供してもらったことにお礼を言える人は、実はそう多くはありません。だからこそ、きちんとお礼を言うことで、教えたほうはまた教えてあげたいという気持ちになるのです。助言するときは「断言」を避ける逆に、自分が助言をする立場だったらどうでしょうか。私は趣味でテニスをやっていますが、私がテニスコートに行くと、「あ、安田さんが来たからコートを空けよう」という雰囲気になってしまいます。私がそのテニスクラブで一番古いメンバーなので、気を遣ってくれているのです。ですから私は、どこまで存在感を出すのか、どういう態度をとるべきかを考えてふるまっています。あまり偉そうにしてもいけませんし、腰が低すぎてもいけない。このさじ加減が難しいのです。今、テニスでペアを組んでいるのは27歳のS君です。自分の子どもと言ってもおかしくないほど年齢に差があります。そのS君が先日、会社を起こしました。私も会社を起こしたという意味では先輩ですから、何かアドバイスをしてあげたい。でも、テニス仲間に対して偉そうに説教は垂れたくない。そんなケースでは、言い方に気をくばらなくてはなりません。たとえば、「起業してから3年以上存続している会社は10社のうち1社くらいしかない」ということを教えてあげたいとします。そんなときはこう言います。「S君、深手を負う前に見切りをつけるというのも、大切なことかもしれないよ」と。「○○かもしれない」という言い方で、断言しない。そこが、私なりの気くばりです。あるいは、「〇〇ということがあるのかもね」「〇〇という可能性も、ちょっと頭に入れておいたらどう?」
という言い方をします。私の経験値のほうが圧倒的に高いわけですから、断言はせず、自分の発言をあえて矮小化するわけです。ちなみに、人にはリスクを好むタイプ(リスクラビング)と、リスクを回避したいタイプ(リスクアバージョン)がいます。車のセールストークでたとえると、リスクラビングのタイプは、派手で目立つことが好き。ですから、「ロールスロイスはいいですよ。サハラ砂漠の真ん中でエンストしても、ヘリコプターが救助に来ますから」と言ってお客様を口説きます。一方のリスクアバージョンのタイプは慎重派ですから、「カローラがおすすめですよ。なぜならサハラ砂漠の真ん中でも絶対故障しませんから」などと語りかけるのです。これほど、人のメンタリティは違うという一例です。相手に合わせて気くばりの仕方を変えるには、これほど気を遣わなければなりません。人にアドバイスをするときも、相手の特性を読み間違えないことが、とても大切になるのです。相手を立てられる人は、みんなからひそかにリスペクトされている
安田正(やすだ・ただし)株式会社パンネーションズ・コンサルティング・グループ代表取締役。対人対応トレーニング、交渉術、ロジカルコミュニケーション、プレゼンテーションなどのビジネスコミュニケーションの領域で、官公庁、上場企業を中心に1700の団体での講師、コンサルタントとして指導実績を持つ。また、早稲田大学グローバルエデュケーションセンター客員教授の他、東京大学、京都大学、一橋大学などでも教鞭をとる。オスカープロモーション所属。あらゆる仕事において「成果と評価を得るために、もっとも必要な能力」である「気くばり」を、「使えるビジネススキル」として、初めて体系的かつ実践的にまとめたのが本書である。著書に、累計64万部を超える大ベストセラー『超一流の雑談力』(文響社)シリーズの他、『英語は「インド式」で学べ!』(ダイヤモンド社)『一流役員が実践している仕事の哲学』(クロスメディア・パブリッシング)などがある。
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