5章その他上級編
5章で学ぶことNo.46MFTフレームNo.47イノベーションのジレンマNo.48サービス・プロフィット・チェーンNo.49CAGENo.50BATNAとZOPAおわりに参考文献
5章で学ぶこと本章では、これまでのベーシックな領域には収まりきらなかったフレームワークをご紹介します。
MBAの科目で言えば、2年次に学ぶような応用科目、展開科目に含まれるものばかりです。
まず、MFTフレームですが、これはテクノロジー・マネジメントの有名フレームワークです。
テクノロジー企業には、サービス企業にはない独自の難しさがあります。
組織に多様な人材がおり、そのコミュニケーションが必ずしもうまくはいきにくいという現実もあります。
そうした中で、市場のニーズと企業サイドの技術をうまく接続し、製品開発のヒントを得たりするのがこのフレームワークです。
イノベーションのジレンマもテクノロジー・マネジメントのフレームワークですが、これは単にテクノロジーの領域にとどまらず、戦略論そのものとも関連する重要フレームワークです。
事実、1990年代に発見された最も重要な戦略フレームワークという人もいます。
新しい代替技術が業界構造そのものを破壊してしまう可能性の怖さを感じ取ってください。
また逆に、強大な王者を倒すヒントも含まれる、奥の深いフレームワークです。
サービス・プロフィット・チェーンはサービス・マネジメントの包括的なフレームワークです。
昨今のMBAのサービス・マネジメントのプログラムは、概ねこのフレームワークを踏襲しています。
それだけ汎用性が高いということでもありますので、しっかりマスターしていただければと思います。
CAGEはグローバル経営の有名な分析フレームワークです。
ビジネスがグローバル化する中で、ビジネスチャンスを見出す上で非常に効果的です。
最後のBATNAとZOPAは交渉術(ネゴシエーション)のフレームワークとなります。
ビジネスで成功を収めるためには、個別の交渉でよい妥結点を引き出し、また多くの人を説得しながら巻き込んでいかなくてはなりません。
交渉術は日本では勘と度胸によるところが多いように錯覚されていますが、そこにも当然経営のサイエンスがあります。
その基本フレームワークがBATNAとZOPAですので、これもしっかりマスターしてください。
本書もいよいよ本章で最後となりますが、紹介したいビジネスフレームワークはまだまだあります。
皆さんも「もっと学びたい」という方が多いでしょう。
しかし、あまり手を広げる前に、まずは基本的なものを使えるようにすることの方が効果は大です。
そうしたことも意識しながら、最後の5つを読み進めてください。
46MFTフレーム要素技術と市場ニーズの間に、「ファンクション」(機能・効用)という概念をおくことで、製品化や事業化のイメージを容易にすることを意図したフレームワーク。
MはMarket、FはFunction、TはTechnologyの頭文字をとっている。
アーサー・D・リトル社が提唱。
基礎を学ぶ用いる場面
●新製品開発のヒントとする●ある技術シーズを他の使い方ができないか検討する●製品開発に当たって、その技術を自社で賄うか買ってくるかの判断を行う●技術の変化がどのように業界を変えてしまうか予測する●技術ポートフォリオの最適化を図るためのヒントにする考え方技術者は往々にして自分の技術を「技術の言葉」で語ってしまう傾向があります。
それでは、一般の人にはその技術がどのような「価値」を生み出しうるのか想像がつきません。
そうした陥穽を避けるべく、コンサルティング会社のアーサー・D・リトル社が提唱したのがMFTフレームです。
MFTフレームでは技術(T)は提供機能・効用(F)を通じて市場(M)に届けられなければ意味がないと考えます。
ポイントは、技術(T)と市場(M)の間に機能・効用(F)というワンクッションを入れたことです。
これによって、「顧客にどのような嬉しいことを届けられるのか」という発想がしやすくなります。
スマートフォンであれば耐水性や起動の速さ、見やすさなどがそれに相当します。
それをどのような技術で実現するか考えるのです。
MFTを活用すると、ある技術シーズがあった時に、その技術特性の中で、いままで着目されなかった機能を活かして商品化するという発想も出てきます。
たとえば、爆薬は、通常思い浮かぶ機能は「モノの破壊」でしょう。
せいぜい、「大きな音が出る」といったところかもしれません。
しかし、よくよく考えてみると、爆薬には、「急速に気体を膨らませることができる」という機能もあります。
これを何かに使うことはできないでしょうか?実は、この特性はエアバッグに応用されました。
エアバッグは運転中にトラブルが発生するとすぐに開かなくてはなりません。
それを実現する上で、爆薬のこの特性は非常に有効だったのです。
別の例では、ノーベル賞受賞にもつながった、DNAの高速複製技術のPCR法というものがあります。
ここに使われているのが、温泉などの高温下で生きている細菌の酵素です。
普通は「珍しい生物がいるものだ」で終わりそうですが、PCRの発明者はこの細菌の酵素を使えば、高温化で酵素反応を起こすことが可能となり、効果的にDNAを複製できることに気がついたのです。
MFTフレームは、競争ルールの変化を理解する際にも有効です。
人々が求めるFは、製品ライフサイクルが進むに従ってどんどん変わっていくからです。
例えば時計は、1970年代までは時間の正確さを争うビジネスであり、クオーツの軽量化、コストダウンが非常に重要ポイントでした。
その勝者はセイコーです。
しかし、そこから競争ルールは大きく変わってしまい、人々は時計に「時間の正確さ」以上に、ファッション性を求めるようになっていきました。
これにうまく対応したのがスウォッチであり、彼らはある程度の安いコストでファッショナブルな時計を提供できるように、技術のみならずビジネスモデルを構築することで一時代を築いていったのです。
事例で確認図表462は、日本ゼオンの例です。
同社は、自社の要素技術はガラスレンズに求められる「透明」「高屈折率」の機能を実現できることであると理解し、これをCOP(シクロオレフィンポリマー樹脂)の光学レンズに活かしました。
全く別の事例では、刑務所の重要書類印刷請負があります。
刑務所は受刑者を収容しておく場所ですが、そこに「高いセキュリティ」「外部との連絡がとりにくい」さらには「安い人件費が豊富に手に入る」という特性が付随してきます。
実はこれは機密書類(例:入試の問題用紙)などの印刷にとっては非常に好都合だったのです。
コツ・留意点1MFTフレームをうまく使い、市場に価値を届けるためには、社内のコミュニケーションを活性化してバリューチェーン間の連携を高める必要があります。
一般に製造業では、顧客にモノを売る人間と、製品開発を行う人間、さらには基礎研究を行う人間は別々です。
彼らがコミュニケーションなく自分の仕事に没頭していては、せっかくの技術も宝の持ち腐れになりかねません。
MとFとTの連携を適切にとるための工夫やマインドセットが必要です。
それを活性化する1つの方法が大部屋主義です。
また、ある企業では、技術者が営業の仕事を定期的に行うような人事ローテーションを組むことで、技術者にマーケット視点を植え付ける工夫をしています。
2MFTの鍵はFにありますが、本当に顧客視点でFを考えるのは、意外に難しいものです。
そこでグロービスでは、より「顧客にとっての価値」を意識づけるため、V(Value)を追加することでMVFTというフレームワークも提唱しています。
技術の機能・効用と顧客にとっての価値をより細かく考えていこうという発想です。
47イノベーションのジレンマ業界上位の企業が、顧客の意見に耳を傾け、さらに高品質の製品サービスを提供することで破壊的イノベーションに市場を奪われ、失敗を招くという考え方。
真面目に経営をすることが失敗をもたらすという逆説を含む。
クレイトン・クリステンセン教授が提唱。
基礎を学ぶ
用いる場面●自社が過剰スペックに落ちいっていないか確認する●自分たちを代替しうるローエンド技術に備える考え方破壊的イノベーションは、多くの場合、既存製品よりも性能面は劣るものの、低価格や簡単操作、小型といった特徴を持つ技術を指します(ローエンド型の破壊的技術)。
既存のメイン顧客とは別の顧客から支持されるかたちで普及することが一般的です。
そしてしばしば、いつの間にかそれがメインストリームになり、隆盛を誇った技術を追いやることになります。
たとえば、PCはよりコンパクトで安価なタブレットに市場を大きく食われています。
ハーバード・ビジネススクールのクレイトン・クリステンセン教授は、ローエンド型の破壊的技術が市場を席巻していく現象を詳細に分析しました。
彼は著書、『イノベーションのジレンマ』において、「偉大な企業はすべてを正しく行うがゆえに失敗する」という、驚くべき見解を示しました。
そのメカニズムを簡潔にまとめると、以下のようになります。
・優良企業は、顧客、特に先進的な顧客の意見に耳を傾け、彼らが求める製品やサービスを開発・提供し、そのサービスを改良するために新技術(持続的技術)に積極的に投資を行います。
そこでは、優良企業は競争優位性を発揮し、成長を続けます。
一方で、時としてローエンドの「破壊的技術」が現れてきます(ローエンド型以外の「ゲームのルールを変える」ような破壊的イノベーションが生まれることもあります。
アップルのiPodやスマートフォンなど。
図表472参照)。
・主流顧客は、性能の高い技術を評価するがゆえに、破壊的技術に対して、当初は見向きもしません。
したがって、その主流顧客を相手にする優良企業も、その技術を導入しようとは考えません。
破壊的技術は通常、低性能、低価格という特徴を有するために利益率も低く、優良企業にとってその技術を取り込むインセンティブは短期的には見当たらないからです。
しかし、そうした技術を好むローエンド顧客は一定数いるため、いつの間にかそうした技術が一定の地位を占めるようになるのです。
・時として技術進歩のペースは、主流顧客が求める性能向上のペースを上回ります。
そうなったとき、破壊的技術は主流市場の中心に躍り出て、競争力やシェアを持つようになります。
既存の持続的技術で成長を重ねてきた優良企業が、その破壊的技術の脅威に気づき、投資を始めるころには、すでに手遅れになっています。
また、メンタル的にそうした技術を下に見る傾向が強いことから、有効な打ち手を講じることもなかなかできないのです。
事例で確認イノベーションのジレンマはさまざまな場所で観察されます。
古くは、蒸気船に代替された帆船の例があります。
今となっては蒸気船の方がはるかに性能が良かったのではと思いがちですが、当初はエネルギー効率も悪く、スピードも遅かったことから、帆船を扱う事業主たちは蒸気船のことを低く見ていました。
しかし、蒸気船はその後性能を上げ、帆船をほぼ駆逐していったのです。
デパート(百貨店)の衰退もイノベーションのジレンマで説明できます。
数十年前までは、小売の王者はデパートでした。
しかし、デパートはどんどん過剰品質となり、その隙をついて市場を伸ばしたのが、当初はヨーカ堂などのGMS、そして近年ではディスカウントストアです。
小売業界には「小売の輪」という有名な概念がありますが、既存プレーヤーは一般的に、どんどんサービスレベルを(平均的な顧客の要望以上に)向上させていきます。
そうすると必ずそれよりもコストが安い新しいディスカウンターが現れるのです。
コツ・留意点1既存の持続的技術は、その勝ちパターンが、顧客との関係性や、組織内部の仕組み、あるいは経営者や現場で顧客と相対する技術者や営業担当者のメンタリティにまで浸透しているため、それを変えることはきわめて困難です。
また、当面の業績を上げるプレッシャーも既存技術に目を行かせがちです。
クリステンセン教授は、既存技術の方法でそれに対応するのではなく、ゼロベースで新しい組織や新しいやり方を模索するほうが有効だと主張しています。
2特に日本企業は「品質」や「改善」といったものへのこだわりが強く、「品質至上主義」の企業も少なくありません。
品質に拘ることそれ自体は必ずしも悪い話ではないのですが、往々にしてコスト度外視になりがちですし、イノベーションのジレンマに陥る素地となります。
実際に、最も厳しい顧客のニーズにばかり目が行き、イノベーションのジレンマに陥った企業は少なくありません。
品質に目が行きがちな日本企業にとっては、他の国の企業以上に、顧客ニーズを正しく把握し、彼らがどのような品質のものを欲しているのか理解しておくことが必要と言えそうです。
48サービス・プロフィット・チェーンサービス業に関して、さまざまな経営指標の間の因果関係を明らかにしてモデル化したもの。
ハーバード・ビジネススクール教授のジェームズ・ヘスケット教授らが提唱。
基礎を学ぶ用いる場面
●新サービスの運営に活かす●自社のサービスの現状を把握し、改善する●どこが好循環を回す上でのボトルネックになっているかを把握し、問題解決に活かす●優れた企業をベンチマークすることで好循環を回すヒントを得る●従業員に構造を示すことで、当事者意識を喚起する考え方No.34で紹介したサティスファクション・ミラーからも分かるように、サービス業では顧客と提供者側の従業員の距離が近いこともあり、さまざまな指標が非常に密接して絡み合う傾向があります。
その流れを、実際にサービス企業を詳細に分析することで体系化したのが、サービス・プロフィット・チェーンです。
サティスファクション・ミラー同様、ここでも中心となるのは、従業員満足度と顧客満足度です。
それらを含む好循環を描くメカニズムを構築することが、売上げやその成長、さらには高利益につながると考えます。
ヘスケットらは、サービス・プロフィット・チェーンのベースとなる因果関係として次の7つを挙げています。
①サービス企業の社内サービスの質が、従業員満足に影響を与える②高い従業員満足が、高い従業員ロイヤルティを生む③高い従業員ロイヤルティが、従業員の生産性を高める④高い生産性が、サービスの価値を高める⑤高いサービス価値が、高い顧客満足を生む⑥高い顧客満足が、顧客ロイヤルティを高める⑦高い顧客ロイヤルティが、企業の業績向上(成長や高い利益率)につながるこのように好循環構造が明確になることで、経営者はさまざまなヒントを得ることができるようになったのです。
事例で確認サービス・プロフィット・チェーンが効果的に回っている企業例に、優れたサービス企業の代表とも言えるサウスウエスト航空があります。
同社の状況をまとめたのが図表482です。
テキサス州で開業したサウスウエスト航空は、よく知られるように元祖LCC(低コストエアライン)とでも言うべき存在です。
サウスウエスト航空をベンチマークにする企業は、LCCやエアラインにとどまらず、あらゆる業界に広がっています。
同社のオペレーションや提供サービスは非常にユニークなものですが(例:従業員が即興で歌を歌ったり芸を披露したりして、顧客を楽しませるなど)、それ以上にユニークなのは社内のさまざまな人事施策でしょう。
初期の頃はたとえばCAはテキサス州らしく元チアリーダーを採用したと言います。
ホスピタリティが高く、かつ楽しければハードワークもいとわない人々だからです(容姿端麗な方が多いという理由もあったようですが)。
意外なようですが、サウスウエストの給与水準は業界平均に比べて特段高いわけではありません。
しかし、それ以上に同社で働くことを楽しみ、また与えられる社内サービス(例:教育訓練など)に満足する従業員が多いことから、従業員満足は非常に高いレベルで安定しています。
同社の経営理念をしっかり定め、それを実現できるように人を選び、さまざまな施策を講じていることが、従業員のロイヤルティを高め、安定したサービス、そして業績につながっているのです。
まさにサービス・プロフィット・チェーンの好循環を体現している企業と言えるでしょう。
コツ・留意点1顧客ロイヤルティは、リピート率のみで見るとしばしば意思決定を誤ります。
なぜなら、もし利用可能な代替サービスがなければ、顧客は多少不満を覚えていてもそのサービスを利用せざるを得ないからです。
顧客ロイヤルティが真のロイヤルティなのか見せかけのロイヤルティなのかを峻別することが正しい意思決定のためには必要です。
それを峻別するための方法論として、顧客の口コミの意向を同時に調べるという方法があります。
よく用いられるのはNPS(ネット・プロモーター・スコア)で、これはそのサービスを友人などにどのくらい勧めたいかという指標です。
2本文中にもコメントしましたが、従業員の満足度やロイヤルティはハードな仕組みだけで実現できるものではありません。
最も効いてくるのはその会社の経営理念であり組織文化です。
経営理念に共感できることや、良き組織文化と感じられることが何よりも重要です。
そしてこれらを作る上で、最も鍵を握るのは経営者です。
経営者の意識やコミュニケーション力こそが、サービス・プロフィット・チェーンの効果を大きく左右するのです。
49CAGEグローバル経営において、地域の固有性や他地域との隔たりを理解するためのフレームワーク。
文化的(Cultural)、政治的(Administrative)、地理的(Geographical)、経済的(Economical)の頭文字をとっている。
パンカジュ・ゲマワット教授が提唱。
基礎を学ぶ
用いる場面●グローバルに事業を展開する上で、国ごとの留意点やビジネスチャンスを検討する●日本でのやり方がどこまでそのまま使えるかを検討する●どの国とどの国は同じマネジャーに任せられるかなど、管理上のヒントを得る●グローバル化に当たり、どこの国から拠点を作っていくか、展開上のヒントを得る考え方一般的なマクロ環境分析としては、No.8で紹介したPEST分析があります。
ただし、PEST分析は、企業がどんどんグローバル化し、さまざまな国でオペレーションを展開する中で、詳細な分析を行う上ではやや使い勝手が悪い点は否めません。
CAGEは、パンカジュ・ゲマワット教授が提唱したフレームワークで、各国の状況を特に自国と対比させながら図表491に示したように4つの視点から分析し、国ごとに詳細な分析を行うことを可能にするものです。
一般論で言えば、自国との差異が少ない国ではビジネスがしやすくなります。
たとえば、スペインという国を考えてみましょう。
同国は、EUに加盟しているので、まずEU内の国々との交流は比較的容易です。
また、スペインの武器は、スペイン語という自国語が、特に南米を中心に公用語として使われている点です。
スペインのSPAであるインディテクス社(ZARAブランドで有名)は、そうした特徴を活かし、メキシコ(大西洋の反対側で、意外に距離も近い)をはじめとするスペイン語圏の国々に多くの出店をしています。
これらの国々は経済的な差もそれほど大きくはなく、そもそも文化的、人種的にもスペイン人の血をひいていますから、インディテクス社としては、展開がしやすいわけです。
事例で確認日本から見た各国との隔たりを見てみましょう。
ここでは典型的な製造業から見たケースを例にとります。
まずアメリカについてですが、図表492からも分かるように、本来は遠い国なのでギャップは大きかったのですが、第二次大戦後、アメリカの文化や制度が日本に殺到し、また日本の経済力が上がった結果、文化的な隔たり、政治的な隔たり、経済的な隔たりはかなり小さなものになっています。
先進国の中ではかなり共通の価値観を持てる国と言えるでしょう。
CAGEの中では、地理的にはかなり隔たっていますが、近年では航空便も多く、人々の行き来はかなり活発です。
製造業の立場からすれば、先進国としてほぼ同様のニーズを抱えていることが多いので(特に生産財の場合)、市場としては攻めやすいと言えます。
ただし、安価な製品(例:アパレルや製缶など)の「製造工場」としては輸送費がかさみ過ぎること、人件費が高すぎることから向いていないことが分かります。
また、雇用慣行などは日本とは差異がありますので(新卒重視か否かなど)、現地で優秀な人間を採用するのは難しい面もあります。
次に中国ですが、今度は逆に日本からの距離が近いため、「製造工場」としては魅力的と言えます(ただし、最近は人件費も上がっているので、ベトナムなどとの競争になります)。
また、特に沿岸部の裕福な地域は日本企業にとっても魅力的な市場と言えるでしょう。
難しいのは、政治的体制が世界でもやや特殊で日本の慣行がそのままでは通用しないこと、そして歴史的な経緯などによる対立でしょう。
現実には経済交流の分野ではそれほどの対立はないという意見もありますが、政治的な緊張は続いており、ビジネスを展開する上では、アメリカよりもリスクが高いことが分かります。
コツ・留意点1CAGE分析では、一般論としての分析以上に自社の経営環境や経営課題を踏まえた分析が必要となります。
たとえば図表492は製造業を意識した分析でしたが、日本の観光業者などから見れば、彼らを日本に呼び込むためにまた別の分析が必要になるかもしれません。
たとえば文化の隔たりはもっと深く掘り下げる必要があるかもしれませんし(例:中国人の好む食事など)、政治的な隔たりについては、渡航に関するルールなどをさらに詳細に分析する必要があるでしょう。
2日本企業にとって、今後より精緻なCAGE分析をしたいのは新興国でしょう。
新興国は人口が多い国や国土が広い国も多いので、単純に1国として扱うのが難しい場合も少なくありません。
その典型がインドです。
インドは言語も宗教も多岐にわたっており、貧富の差も大きいため、ある程度ブレークダウンしてみていかないと、意味のある示唆は出てきません。
ブラジルやロシアもそうした傾向は強いと言えます。
アクションをとる上で意味のあるレベルまで掘り下げて分析を行うことが肝要です。
50BATNAとZOPA交渉の妥結範囲がZOPA(ZoneofPossibleAgreement)であり、それを規定するのがBATNA(BestAlternativetoNegotiatedAgreement:最も望ましい他の選択肢)という関係にある。
基礎を学ぶ用いる場面
●交渉をしっかり妥結させる●交渉を有利に運ぶ●一見、妥結しそうにない交渉でWinWinの妥結点を探る考え方交渉構造を理解する上で、最もベーシックな概念がBATNA、そしてZOPAです。
BATNAはBestAlternativetoNegotiatedAgreementの頭文字をとったもので、交渉相手との交渉以外に存在する最善の代替オプションです。
たとえば、大手家電量販店で家電を買う場合、ネットの比較サイトで10万円の最低価格で買えるのが分かっていたら、それ以下の値段にするように交渉をすることになるでしょう。
BATNAは往々にして、限界値(「交渉上、これ以上は譲れない」という値)となります。
一方で、売り手の家電量販店とすれば、原価以下で売ると赤字が出ます。
もし仕入れ原価が8万円なら、これは1つの限界値となるでしょう。
このように見てくると、買い手としてはBATNAである10万円が限界値となりますし、売り手としては仕入れ原価である8万円が限界値となります。
この間の交渉妥結範囲がZOPA(ZoneofPossibleAgreement)となります。
なお、売れ残るくらいなら1万円でもいいから売ろうと考えるケースもあるかもしれませんが、ここではしっかり利益は確保するものとします。
このように、限界値は考えようによって変化しうることは理解しておいてください。
このケースでは、量産品を対象としているので売り手のBATNAは考慮しませんでしたが、仮に最後に残ったラストの商品で、他に9万5千円で買ってくれる顧客の当てがあるなら、それがBATNA、そして限界値となります。
一般にはBATNAをしっかり確保しておくと、交渉にも強い態度で臨めます。
なお、一見するとZOPAが存在しないように見えるところでも、他の条件をうまくバーターすることでZOPAを作り出し、そこでWinWinの妥結を行うのが最善の交渉とされています。
ある意味、両者が勝者となれるような交渉です。
次の事例で見てみましょう。
事例で確認ここではプロスポーツ球団と選手の年俸交渉を検討します。
ベテランA選手は9000万円以上の年俸を要求しているのに対し、B球団は8000万円以上は絶対に出せないという状況とします。
このままではZOPAが存在しませんから、交渉は決裂し、A選手は退団となってしまいます。
この状況をうまく回避できないでしょうか。
そこでB球団が着目したのが複数年契約です。
B球団としては、人気選手で将来の幹部候補でもあるA選手を長期間確保できることには魅力があります。
ライバルの戦力となってしまうことも避けられます。
また、同じ年俸で数年契約できるのであれば、年俸の高騰を避けられるというメリットもあります。
A選手の方は、年俸が固定されると大活躍したとしても交渉の余地はなくなりますが、選手としてのピークは去り、現状維持が精いっぱいかなと心中では思っています。
となると、A選手にとっても複数年契約は悪い話ではありません。
ポイントは、両者の、複数年契約に関する価値の感じ方が異なるという点です。
それが図表502の傾きの差に表れています。
このケースではいずれにせよ、契約年数を長くできるほど、そこにZOPAが生まれてくるのです。
この交渉では、結局3年契約、8000万円の年俸で落ち着きました。
B球団としては将来の年俸高騰を避けられましたし、A選手としても、逆に成績が落ちたときのリスクを回避できたのです。
コツ・留意点1図表502の例はかなり単純化したケースですが、実際にはありとあらゆる条件を俎上に載せて、「自分にとっては価値がないけど、相手にとっては価値があること」を交換していきます。
これを繰り返すことで、単一の条件(こうした条件を争点と言います)だけではZOPAが存在しないようなケースでも、ZOPAの創出が可能となり、お互いがハッピーに感じられる妥結点が生まれるのです。
2タクティクスとして、最初に極端な言い値(最初の提示額をアンカーと言います)を出すこともありますが、下手をすると交渉を壊しかねないので注意が必要です。
たとえば、図表501のケースで、もし買い手が「サイトでの最安値は7万5千円」と言って、それを売り手側が真に受けてしまうと、「じゃあ、売れません」ということで交渉が決裂してしまう可能性もあります。
本来まとまるはずの交渉をいたずらに流してしまうのは長い目で見て得策とは言えません。
相手のBATNAや限界値をしっかり想定しつつ(当然、自分のBATNAや限界値は把握しておく)、最終的な落とし所をイメージしながら交渉を進めるのが現実的です。
おわりにみなさん、本書を一読されてどのような感想を持たれたでしょうか?「だいたいは何となく知っていた」という方もいれば、「知らないものが多かった。
もっと勉強したい」と思われた方もいらっしゃるでしょう。
百人百様の感想があるかと思いますが、本書をきっかけに勉強意欲が湧かれた方は、ぜひさらに経営学の勉強をしてみてください。
また、「何となくは知っているものが多かったけれど、実務ではなかなか使わないなあ」と思われた方は、ぜひ実務で使ってみてください。
明日からすべてを使うのは難しいかもしれませんが、使えるところからでいいので実際に使ってみることが、ビジネス能力を高めることは間違いありません。
担当されている業務の要請や、常日頃自社や事業に対して抱いている問題意識に応じつつ、ぜひ積極的にビジネスフレームワークというものを使い始めていただければと思います。
最初はつまずくことがあるかもしれませんし、上司に見せて「それで、結局何が言えるの?」と言われることもあるかもしれません。
しかし、多くの人はそこからスタートしています。
壁にぶつかったら、ぜひもう一度自分なりに学習を深めた上で、どんどん使ってみることをお勧めします。
向上心と自省する意識さえあれば、必ずそのうちに使いこなせるようになるはずです。
本書を書き始めたきっかけは、忙しいビジネスパーソン、特に初学者や中級者の方向けに、ハンドブックや手引書になるようなビジネスフレームワークの解説書があったら役に立つのではないかということでした。
経営大学院や研修のクラスなどで、「ビジネスフレームワークの取扱説明書があればいいのに」という声があったことや、弊社のWEB・アプリのナレッジライブラリー(GLOBIS知見録)などでも、フレームワークについて解説したものがよく読まれているということも、本書のような書籍に対するニーズがあることを確信させてくれました。
フレームワークを集めた書籍はなくはないのですが、事例が少なかったり、ある特定の分野に偏ったものがほとんどでした。
そこで、経営大学院で学ぶ基本的内容に関して、満遍なく、著名かつ使用頻度が高いものを集めたのが本書です。
執筆に当たっては、「はじめに」でも触れたように、使用シーンや難易度を示した上で、事例や図表を豊富に交え、また「コツ・留意点」も必ず書くことで、読みやすさや使いやすさを図ったつもりです。
その効果がどこまで出たかは読者の皆さんの判断に委ねるしかありませんが、これは便利だ、分かりやすいと思われた方が多ければ幸いです。
さて、本書は正しく用いればきっと皆さんのお役に立つはずですが、ビジネスや経営学は非常に奥の深い領域です。
フレームワークは極めて有効なツールではありますが、ある「断面」を切り取ったに過ぎないという部分もあります。
より経営学を体系的に勉強されたい方は、ぜひ、ダイヤモンド社より発行されている「グロービスMBAシリーズ」を読まれ、さらに理解を深められることをお勧めします。
これは、計18タイトルで累計150万部が発行された、我が国を代表する経営学の定番教科書です。
それでもさらに学びたいという方は、オンラインプログラムを利用されたり、実際に経営大学院に通われてみるのもいいでしょう。
幸いなことに、近年は、さまざまな学びの機会があります。
ぜひそうした機会を活用してビジネス能力を高められることにチャレンジいただければと思います。
繰り返しにはなりますが、多くの方が本書を手引きとされ、日々の仕事の一助にされることを切に願っています。
グロービス出版局長嶋田毅
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