危機から逃げないで立ち向かう。そしてくぐり抜ける。そうするとすべてが正常に戻る。一歩ずつしっかりと正しく歩むことで、道はおのずとついてくる。
――〝ヒト・モノ・カネ〟すべてに劣る中小企業。きょうを維持するのにせいいっぱいだったところに不況による競争の激化で、われわれの経営はどうしようもないところにまで追いつめられています。
このようななか、われわれ中小企業はこれからどのように戦っていけばよいのでしょうか。
松下 何をもって不利と感ずるかですわな。
元手の足りないことを嘆いておられるのか、店の大小、場所の良否に不足を言われているのか。
どんな商売でも条件が一〇〇パーセント満たされて進められるということは、まずありえませんわな。不足を探したらどこにでもあり、きりがありませんでしょうな。しかも、そうした表に出てくる不足などは、実は商売の足を引っ張るような大きな問題やない。
「店の大小よりは場所の良否、場所の良否よりも品のいかん」やし、「資金の少なきを憂うるのでなく、信用の足らざるを憂うべし」ということですわ。
それよりも、「自分の行う販売がなければ社会は運転しない」という自信をもつことであり、「それだけの大きな責任を感ぜよ」ということが、しっかりした商売ができるかどうかの基本になりますな。
景気がいいとか悪いとか、競争が激しくなったとか、あまり一つひとつの条件にふり回されてはいかんです。
ぼくの考えでは、どんなに不景気のときにでも進出していく道はありますよ。むしろ不景気のときのほうが面白いとさえいえる。気を引き締めて真剣になるから、道もみつかるんですな。
だからその意味では、十年も順調に伸びている会社があるとしたら、そのほうが危険ですよ。十年うまくいったら、その会社は必ずどこかゆるんでいますわ。
それでもゆるんでないところもありますよ。それはよほど指導者が油断をせずに、勝って兜の緒を締めさせているところですわ。しかしながら、そんなところは十社に一社ぐらいでしょうな。あとの九社は社長はじめ皆の心がゆるんでいますよ。
どんな人でも毎日うまいものを食べているとありがたみが分かりまへんわな。それと一緒で、うまくいっていると安易になるんですな。人間の弱いところですわ。それに気づく人は少ない。
なんとなく心がゆるんでしまい、そこにパッと不景気が来てガタンとなるわけです。
だから三年に一ぺんぐらいちょっとした不景気が来る、十年に一ぺんぐらいポンと大きな不景気が来るということは、かえって身のためだと思いますな。会社のためですよ。
ほんとうは〝好況のときにどうしていたか〟が不況になって生きてくるんだけれど、なかなかそうはいきませんから。やっぱり人間というものはどんなに賢い人でも、事にあたって多少つまずかんと身に入りませんわ。
今ちょうどそういった時局ですから、逃げないでこれに立ち向かう。
かりに自分のところはどうということなくても、友人とか親戚とか、そんな人で行きづまる人があると、身にしみるわけですな。
今がいちばん勉強するのにもってこいですよ。こういうときには、勉強もよけい身が入る。ここをくぐり抜けないといけません。
そしてここからすべてが正常になりますよ。心配ないですよ。日本人は賢いから、すぐに気がつきますわ。
「無理に売るな。客の好むものも売るな。客のためになるものを売れ」「店先をにぎやかにせよ。元気よく立ち働け。活気ある店に客は集まる」といった具合ですわ。
商売の本道をふまえて、力強くがんばる、オロオロしない。一つひとつをキチンキチンと正しくやれば、おのずと道がついてくるんです。
〔一九七六〕
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