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4章 会計・ファイナンス編

4章会計・ファイナンス編

4章で学ぶことNo.37損益分岐点分析No.38ABC(活動基準原価計算)No.39バランススコアカード(BSC)No.40NPV(ネットプレゼントバリュー、正味現在価値)No.41フリーキャッシュフローNo.42WACC(加重平均資本コスト)No.43CAPMNo.44EVANo.45リアルオプション

4章で学ぶこと本章では、主におカネと関連する分野である、会計(特に管理会計)、そしてファイナンスのフレームワークを学んでいきます。

これらを学ぶことのメリットその1は、より客観的な意思決定が下せるようになるということです。

たとえばマーケティングの価格戦略を考える際に正確なコストが分からないというのではお話になりません。

また、ある戦略が実行された際に結局はどのくらいのリターンがあるのかを見積もることができなければ、その戦略にGOサインを出していいのかよくないのかの判断もできません。

客観的な意思決定のベースとして、おカネの側面からその裏付けを得ることは非常に重要なのです。

管理会計やファイナンスを理解することのメリットその2は、戦略だけでは生み出せない価値を創出できるということです。

たとえばバランススコアカードをうまく活用できれば、組織のモチベーションも上がりますし、PDCAもより効果的に回せるようになります。

あるいは、WACCの考え方を理解していれば、資本構成を最適に保つことで、より資金を効果的に活用し、企業の価値を高めることができます。

企業や事業の評価は、最後は生み出したおカネです。

おカネのフレームワークをしっかり知っておくことが、より効果的に企業の価値を高めることにつながるのです。

まず管理会計に関しては、損益分岐点分析、ABC、バランススコアカードの3つを紹介します。

どれもMBAでは超重要コンセプトです。

損益分岐点分析はまさに経営のイロハですし、ABC、バランススコアカードは管理会計の3大発明のうちにカウントされるものです。

これらを適切に用いることで、正しい意思決定を下したり、戦略を組織に効果的に落とし込むことができるようになります。

ファイナンスに関しては、まず企業財務の基本中の基本としてNPV、フリーキャッシュフロー、WACC、CAPMを紹介します。

ファイナンスの考え方は、特にアメリカなどでは経営管理者の常識になっており、特にこの4つは必須知識です。

この理解なくして、グローバルでビジネスはできないと考えていただいても構いません。

EVAはファイナンスと管理会計の中間的な領域の考え方で、これも管理会計の3大発明のうちにカウントされています。

決して簡単なコンセプトではありませんが、これを用いて企業価値を増大させた企業はかなりの数に上ります。

そのエッセンスをぜひ感じ取ってください。

最後のリアルオプションは、比較的近年に提唱された投資評価の方法です。

金融商品に関する考え方を実際のビジネスの価値の評価に転用したという意味で、非常にユニークです。

これも容易な考え方ではありませんが、現代のビジネスシーンで知らないわけにもいきませんので、しっかりエッセンスを理解してください。

3章で、強い組織は組織マネジメントなどもしっかりしていると書きましたが、強い会社では同時に、おカネに関する判断や、その経営への応用も長けたものがあります。

他の経営領域に比べると、数学的要素が入る分、やや取り付きにくい感じを受けられる方も多いと思いますが、経営の重要フレームワークとしてぜひしっかり学習していただければと思います。

37損益分岐点分析費用を固定費と変動費に分類した上で、損失と利益が分岐する点、つまり利益がゼロとなる売上レベルを求める分析。

基礎を学ぶ用いる場面●費用構造を理解した上で、利益目標を実現する上で必要な売上高を求める

●価格設定やコストダウン施策などのヒントにする●環境変化や稼働率の変化が収益に与える影響を知る●どこまでリストラを行えば黒字化するか試算する●新しい設備投資などを行う際に、そのリスクを分析する考え方事業を行う上では、固定費、つまり、仮にその期間売上げがゼロだったとしても支払う必要のある費用が発生します。

そしてもし実際に売上げがゼロであれば、その固定費の分がそのまま赤字になります。

ただし、売上げを上げることができれば、徐々に赤字額は減り、どこかの段階で固定費をカバーし、それ以降は利益となって行きます。

利益額がちょうどゼロとなる売上高のポイントを損益分岐点と呼び、それを求める分析を損益分岐点分析と言います。

損益分岐点を計算するためには、まずすべての費用をいったん変動費と固定費に分けます。

変動費とは一定の生産能力や販売能力の下で売上げに比例して発生する費用です。

仕入原価や輸送費などがこれに該当します。

固定費は、正社員の人件費や賃料、減価償却費(過去の設備投資を徐々に費用化していく項目)などが該当します。

変動費と固定費を用いると、利益は以下のように算出されます。

売上高-変動費-固定費=利益もしくは限界利益-固定費=利益(ただし、限界利益=売上高-変動費)損益分岐点ではちょうど利益がゼロになりますから、限界利益と固定費は同じになります。

それゆえ、以下の式が成り立ちます。

損益分岐点売上高=固定費÷限界利益率(ただし、限界利益率=限界利益÷売上高)損益分岐点分析は単純な分析ですが、その応用範囲は極めて広く、あらゆるビジネスパーソンが多種多様な場面で使うことが可能です。

事例で確認同じ業界にA社とB社という企業があったとします。

A社は基本的に正社員を雇い、あらゆる業務を社内でこなしているのに対し、B社は可能な限りアウトソーシングを行い、コア業務のみ固定費をかけて行っているものとします。

この時、A社とB社の固定費、変動費、売上げの関係を表すと図表372のようになります。

一般に、B社のような変動費型のビジネスにすることで、損益分岐点は低くなり(変動費率が高い場合はその限りではありませんが)、赤字を回避しやすくなると言えます。

では、B社の方が優れたビジネス形態と言えるでしょうか?実は当然ながらデメリットもあります。

変動費型ビジネスの弱点は、赤字幅が大きくはならない一方で、大きな売上げを上げてもそれほど利益が大きくはならないという点です。

それに対して、A社は損益分岐点を超えないと多額の赤字を計上してしまう可能性がありますが、一旦損益分岐点売上高を超えると莫大な利益を手にすることが可能です。

変動費型ビジネスはまた、ノウハウが社内にたまりにくいという問題もあります。

操業度の低迷に苦しむメーカーが固定費削減をしてアウトソースに切り替えた途端にノウハウが流出したというのはよくあるケースです。

そのメリット、デメリットを勘案した上で事業の組み立てを考える必要があるのです。

コツ・留意点1損益分岐点に関してよく出てくる疑問に、「固定費、変動費を正確に求めるのが難しく、正確な計算ができない」というものがあります。

これはその通りではあるのですが、木を見て森を見ずの典型です。

そもそも変動費や固定費という概念や損益分岐点のモデルはかなり「乱暴」な前提に基づくものです。

しかしながら、そこから得られる示唆には深いものがあるというのがこのフレームワークの良いところです。

計算は、自分なりに前提がしっかりしていれば、多少ラフでも構いません。

そこから出てきた結果の解釈に、より意を用いるべきなのです。

2固定費は、数年単位の長い目で見れば売上げに応じて増加していくため、変動費的に振る舞います。

損益分岐点分析において、固定費は、あくまで短期間のマネジメントサイクルの中で一定の額となる費用と考えてください。

通常の企業は年単位で考えれば十分だと思われますが、成長途上のベンチャーなどはより短いマネジメントサイクルで損益分岐を考え、過剰な固定費を抱え込まないよう注意することが必要です。

38ABC(活動基準原価計算)特定の製品やサービスとの関連が曖昧な間接費を、それぞれの製品やサービスのコストとしてできるだけ正確に配賦することによって、コストを正確に把握しようという考え方。

ロバート・キャプラン教授らが提唱。

ABCはActivityBasedCostingの略。

基礎を学ぶ

用いる場面●ある製品や、顧客にかかっているコストを正確に把握したいとき●そのデータに基づき、正しい価格設定やリソース配分などに活かしたいとき●正しい間接費配賦をすることで、部門ごとの業績評価を正しく行いたいとき●リエンジニアリングによって会社の活動やプロセスそのものを合理化したいとき考え方どの製品やサービスのために発生したのかがわかりにくい間接費を、それぞれの製品やサービスのコストとしてできるだけ正確に配賦することによって、生産や販売活動などのコストを正確に把握していこうという考え方がABCです。

ABCの考え方が生まれた背景には、顧客ニーズの多様化に伴い、多品種少量となった結果、相対的に間接費の割合が増大し、その配分(これを配賦と言います)によって、コスト計算結果が大きく異なってしまうという問題がありました。

伝統的な原価計算では、例えば売上高に比例させて各製品に間接費を配賦するというやり方をすることが多かったです。

しかし、手離れのいい製品と、カスタマイズなど手間暇のかかる製品を売上高に比例させて配賦していては、後者が実際には費用がかかっている(リソースを消費している)にもかかわらず、利益が出ているように見えてしまいます。

そこでキャプランらは、図表381に示したコスト配賦対象(製品や顧客、チャネルなど)がどのくらいの活動を消費しているか、さらにはリソース(言い換えればコスト)を消費しているのかを正しく追跡し、適切に配賦することでコストの実態に迫ろうと考えたのです。

リソース・コストプールのコストをアクティビティに割り振る変数をリソース・ドライバー、アクティビティに割り振られたコストを各コスト配賦対象に割り振る変数をアクティビティ・ドライバーまたはコスト・ドライバーと呼びます。

なお、正式版のABCでは図表381に示したように、リソース・コストプール(例:管理部門の人件費、管理部門のための賃料など)をいったんさまざまなアクティビティに振り分け、それをさらにコスト配賦対象に配賦します。

ただ、実務では、簡便版として、リソース・コストプールの費用を直接何らかの配賦基準でコスト配賦対象に振り分けることも少なくありません。

事例で確認図表382は、採用という活動について、各部門に正しく間接費を割り振ろうというケースです。

一見、各部門の採用人数をアクティビティ・ドライバーとして用い、A部門に500万円、B部門にはゼロ、C部門に1000万円を配賦すればよさそうに思えますが、本当にそうでしょうか?仮に、A部門の採用者が全員中途の管理職採用で、C部門は新卒採用だとしたらどうでしょうか。

中途の管理職採用の方が手間がかかるでしょうから、この場合は単に人数のみで配賦するとC部門が不利になってしまいます。

また、B部門は結果としては採用はゼロですが、もし15人は採用したいというリクエストを出していたとしたら、人事もそれなりに活動したでしょうから、そこでも問題が生じます。

公平を期するなら、各部門の採用にかけた時間などを用いる方が公平かもしれません。

ただ、そうなると、部門ごとの採用の時間を測定しておかないといけませんから、それはそれで手間暇がかかることになってしまいます。

このように、一見単純に見える間接費の配賦ですら、いざ正確かつ公平感を持ってやろうとすると簡単ではないのです。

コツ・留意点1筆者もかつてABCに近いことをやったことがあります。

そこでよく陥る罠は、正確を期そうとしてあまりにリソース・コストプールやアクティビティを細分化してしまい、傍目にはよくわからなくなってしまうことです。

例えば本文事例の採用のケースでは、採用という活動を「募集」「面談」「アフターフォロー」のようにさらに細分化してしまうのです。

分析者の典型的な心理とも言えます。

しかし、どのような前提を置いたところで、あらゆる人間の活動を正確に測定することはできませんから、どこかに多少のズレは生じるものです。

完璧を期するのではなく、「GoodEnough」のレベル感を目指すのが現実的です。

業務運営上不都合がない程度の支持が得られれば十分くらいに割り切りましょう。

2上記とも絡みますが、正確なコストを出そうとすると、そのために追加の人件費や機会費用(別の価値ある活動ができなかった損失)が生じてしまいます。

コストを知るために会社全体のコストがいたずらに増えてしまうのでは本末転倒です。

ここでも、どの程度までのこだわりが最も費用対効果が高いかを考える必要があります。

39バランススコアカード(BSC)「財務」「顧客」「社内(ビジネス)プロセス」「学習と成長」の4つの視点で業績管理指標をバランスよく組み合わせ、戦略実行や業績評価を行うためのツール。

ロバート・キャプラン教授とD.P.ノートン氏が提唱。

基礎を学ぶ用いる場面

●(特に大企業において)戦略を効率的に組織に落とし込む●組織変革のツールとして用いる●組織学習を加速する考え方BSCの策定に当たっては、まず企業のビジョン、戦略から重要な成功要因を設定し、それを戦略マップ(後述)の作成を通して整理します。

そして最終的に重要業績評価指標(KPI:KeyPerformanceIndicator)を選択し、それらを日常の活動の中でモニタリングすることで、戦略の組織への落とし込み、戦略目的の達成を図ります。

BSCは通常、合計20〜30程度のKPIで構成されており、それぞれが次の4つの視点のどれかに分けられています。

「財務の視点」:戦略達成に関して重要な財務数値データ。

「顧客の視点」:顧客や市場との関係を表す数値データ。

「社内プロセスの視点」:ビジネスの仕組みやその状態を表す数値データ。

「学習と成長の視点」:イノベーションや改善能力を表す数値データ。

この4つの視点は並列ではなく、後者の方ほど時間的には早い先行指標となります。

それに対して財務の視点は遅行指標であり、他の指標の数字が良かったからと言って、それがイコール財務成績の良さを意味しない点には注意が必要です。

特に一度事業が停滞した変革途上の企業などではそうした傾向が出やすいと言えるでしょう。

なお、「社内プロセスの視点」は、時期や出典によって、それぞれ「オペレーションの視点」「内部の視点」などと表記されることもあります。

また、「学習と成長の視点」も同様に「学習の視点」などと表記されることもあります。

4つの視点に整理されたKPIは、先述のように、図表392のような「戦略マップ」と呼ばれるものに紐付けられます。

BSCを作る前に戦略マップを作成する意義は、4つの視点ごとに設定される要素や戦略目標、KPIなどの関係性を視覚化することで、企業のビジョン・戦略の全体像、ならびにその中における自分の意味や位置づけを、多くの人間が理解できるようにすることにあります。

いわば戦略と目標、KPIの同時的「見える化」です。

「我が社はこういう戦略を取っており、そのためにこれらのKPIを測定している」と言われてもピンと来ないものが、戦略マップで視覚化することで現場の人間でも容易に理解できるようになるのです。

事例で確認BSCは、アメリカなどでは非常に多くの企業に導入されており、またフレームワークが提案されてから四半世紀程度たったということで、その効果の実証研究も盛んになされています。

「正しく使えば間違いなく効果は出る」という意見が優勢です。

図表392に示したのは、BSC開発初期にキャプランらが直接関わったアメリカの小売業ストア24の戦略マップとKPIです。

戦略マップからは、主に顧客視点に立って、彼らに新しい価値と快適さを提供すること、そしてオペレーションを改善することで資産効率や回転率を向上させていこうという意図が読み取れます。

これを見れば、従業員は会社がどのような方針のもとに業績を向上させようとしているかが比較的容易に把握できるでしょう。

KPIは、全体で18個となっています。

顧客の視点にKPIがないのがやや異色ですが、財務の視点の箇所に、通常なら顧客の視点のKPIも入っているので、全体としてはバランスがとれています。

内部の視点の箇所では、5つのKPIのうち3つがオペレーション関係ということで、オペレーション改善にかける意気込みが伝わってきます。

コツ・留意点1BSCは非常に有効なツールではありますが、中途半端に用いるとかえって逆効果です。

BSCの導入に失敗する典型的な原因としては、①トップのコミットメントがない、②業績評価の観点での最適化されており、肝心の戦略への反映がない、③ITシステムへの連携や落とし込みが適切になされていない、④テスト→ロールアウトの設計が不適切、などがあります。

2BSCはPDCAと適切に結びつけることが求められます。

経営環境の変化を察知したら、戦略そのものを見直すことも必要です。

戦略はあくまでその時々の仮説に過ぎず、適切に対応して進化させることが必要だからです。

とは言え、戦略マップを都度書き換えるのは非常にエネルギーのいる仕事です。

BSCや戦略マップはあくまでツールであり目的ではありません。

ツールに振り回されないよう、うまく活用したいものです。

40NPV(ネットプレゼントバリュー、正味現在価値)投資する対象の事業、プロジェクトが生み出す将来のキャッシュフローの現在価値合計から初期投資額を引いたもの。

投資を決定するための評価指標の1つ。

基礎を学ぶ用いる場面

●新しいプロジェクトを始める際に、その可否を定量的側面から精査する●社内外のあらゆる資産の価値をファイナンス的な観点から試算し、実際の取引価格との差異を見極め、売却や購入のヒントにする●企業買収や資本参加に当たって、被買収企業や投資先企業の定量的価値を見積もる考え方プロジェクトや事業の評価には様々な方法がありますが、経営学の世界で最も標準的とされているのがこのNPV(NetPresentValue:正味現在価値)の考え方です。

NPVの根底にある考え方は、未来に生まれてくる価値は、リスクや時間的価値を考慮して割り引かなくては現在の価値と同じ土俵では評価できないというものです。

NPVを求めるには、図表401で示したように、各年のフリーキャッシュフロー(FCF:No.41参照)と割引率に相当するWACC(加重平均資本コスト:No.42参照)を求める必要があります。

NPVを求める式は図表401に書いてあるように比較的シンプルな複利計算を用いた式なのですが、実務的には、分子に乗ってくる各年度のFCFと、分母に出てくるWACCを求めるのに数多くの前提が必要となってきます。

現実には、皆が納得するような前提やその根拠を適切に示すことが非常に大事になってきます。

投資評価としては、NPVがプラスのものは企業価値の向上につながるのでやるべきであり、逆にマイナスのものは企業価値を下げるのでやるべきではないということになります。

NPVは投資評価の手法としては「最強」とも言えるものですが、現実にそれだけで意思決定を行うわけではありません。

ファイナンスでよく併用される他の評価手法としては、IRR法(内部収益率法)があります。

IRRとは、NPVの定義式でNPV=0となる割引率の値で、これがWACCを上回れば投資案件はGOとなります。

NPVが金額で見るのに対し、IRRは率で比較するものです。

また、批判は大きいものの、いまだによく用いられているプロジェクト評価手法にペイバック法(投資期間回収法)があります。

これは初期投資が何年で回収できるかをシンプルな四則演算で求めるものです。

リスクや金銭の時間的価値を考慮してはいないという欠点はあるものの、分かりやすさは抜群です。

事例で確認図表402に実際のNPVの計算例を載せました。

0年度に8000万円の投資が必要で、その後は1年度から10年度まで毎年1000万円のフリーキャッシュフローが生まれるという非常にシンプルな前提です。

話を単純化するため、11年度以降はFCFは発生せず、また10年度の残存価値もゼロとしました。

残存価値とは、NPVを計算する最後の年度に残る資産やプロジェクトの価値のことです。

これには様々な求め方があり(No.41参照)、現実には適切に設定するのが難しいのですが、ここではいったん捨象します。

割引率となるWACCは5%としました。

つまり、今年の100円と来年の105円、再来年の110.25円(100円×1.052)が等価ということです。

額面では総額1億円を生むプロジェクト(割引率を考慮しなければ2000万のプラスを生むプロジェクト)ですが、NPVの計算ではおよそ722万円となっています。

これが複利計算で効いてくる割引率の効果と言えます。

とは言え、NPVはプラスですから、プロジェクトは他の特殊要因がない限りGOと判断されます。

ちなみに、このプロジェクトの利回りに当たるIRRは5.7%となっており、割引率であるWACCの5%を超えていますから、この観点でもプロジェクトはGOで構いません。

コツ・留意点1これはNPVに限った話ではありませんが、往々にしてプロジェクトを推進したいがあまり、NPVがプラスになるように前提の数字を「作る」ということが現実には生じます。

ただ、これは長い目で見ると禍根を生じます。

NPVの計算は机上の空論ではなく、現実のプロジェクトを反映するものでなくてはなりません。

プロジェクトの特質や、その前提となる企業の戦略なども理解した上で、納得感のある前提を置く必要があります。

その結果、NPVがマイナスならば、潔く諦めるか、戦略やプロジェクトの中身そのものを見直すのが筋というものです。

2NPVの計算の1つの大前提として、割引率であるWACCが期間中変わらないということがあります。

ただし、大きなプロジェクトなどでは借り入れや増資を行う結果、資本構成が変わり、WACCが変化するということが起こりえます。

その際には、APV(修正現在価値)という手法を用いる必要性が生じます。

NPVは非常に有効ですが、さまざまな前提の上に成り立っているという点は意識してください。

41フリーキャッシュフロー事業やプロジェクトの経済的価値を計算・評価する際に、各年に生み出されるキャッシュフローとして用いる。

「フリー」は資金提供者である株主や債権者に企業が自由に配分できるという意味。

基礎を学ぶ用いる場面

●NPVやIRRの計算に用いる●社外取締役などが、評価指標の1つとして用い経営陣の評価を行う●投資家等が、財務指標の1つとしてその会社の収益力を見る考え方No.40のNPVの項目でも触れた通り、事業やプロジェクトの経済的価値を評価する際、将来得られるキャッシュフローを適切な割引率で割引き、現在価値を求めるというのが通常の考え方です。

そうした経済的価値の評価をする際に用いるキャッシュフローがフリーキャッシュフロー(FCF)です。

FCFは、投資家(債権者および株主)に対して利払いや配当などにあてることのできる、債権者と株主に帰属するキャッシュフローです。

その定義式は図表411に示した通りとなります。

利払い前の営業利益を用いているこの定義式からもわかるように、FCFは利子費用をいったん無視し、無借金を仮定した場合のキャッシュフローと捉えることも出来ます。

無借金を仮定するのは、プロジェクトのリターン(NPVの計算式の分子)を、いったん資金調達のやり方から切り離して見るためです。

資金調達法はどこで勘案するかというと、割引率となるWACCに反映させています。

つまり、貸借対照表(B/S)の左側が生み出すキャッシュフロー(NPVの計算式の分子)はB/Sの右側の資金調達方法によらないものと考え、それはNPVの計算式の分母に集約して考えるのです。

さて、FCFの定義式で、多くの人が悩まれるのは、WC(ワーキングキャピタル:運転資本)とは何かということでしょう。

しかも単年度のWCではなく、前年度からの増分を用いる意味は何でしょうか?ビジネスでは、モノが売れたからといってすぐにはキャッシュは入ってきません。

売掛金を回収して初めてキャッシュは入ってきます。

その間をつなぐ資金が必要なのです。

また、モノを売るためには在庫(たな卸資産)も必要になります。

たとえば小売店の陳列棚に並んでいる在庫を準備するにはキャッシュが必要ですが、その資金も手当てしなくてはならないのです。

結局、日々のオペレーションを回していくためには、WC=売掛金+たな卸資産-買掛金分のキャッシュが必要になります。

ただし、もし前年と同じだけのWCのレベルであれば、追加のキャッシュは必要ありません。

キャッシュが必要になるのは、あくまで前年よりWCが増えたときです。

そこで、ΔWCを「日々のオペレーションに必要な投資」として差し引くのです。

事例で確認実際にあるプロジェクトのFCFを、ある前提のもとに10年度まで計算したのが図表412です。

売上げの予想は難しいものがありますが、ここでは単純に毎年10%ずつ増えていくものとしました。

コストに関しては、売上原価は変わらないものの、認知度が高まることで販売管理費が6年度から下がるという前提を置いています。

コストの予測は通常はこのようにそれ単独で予測するのではなく、売上げの○○%になると置くのが一般的です。

なお、11年度以降の予測についてあえて示さなかったのには理由があります。

それは、(事業にもよりますが)10年を超えるFCFの予測は難しいことが多く、であれば適当な前提を置いて残存価値として処理する方が現実的だからです。

残存価値については、最終年度以降は一定のFCFが続く、あるいは、最終年度でWCをキャッシュ化できるものとするなど、さまざまな計算方式がありますが、いずれにせよ、納得感のあるものを選ぶ必要があります。

コツ・留意点1FCFの式を見ると、損益計算書(P/L)から導かれる項目と、B/Sから導かれる項目の両方が入っていることが分かります。

したがって、将来のFCFを計算するためには、厳密には、NPVを計算する期間にわたって、予測P/Lと予測B/Sの両者を作成することが必要となってきます。

ただし実務では、2、3年程度であればともかく、5年以上の期間にわたる予測B/Sを作成することは容易ではありません。

そこで、本文中の事例でも示したように、WCも売上げの一定比率とするなどの工夫をすることで、予測のP/Lさえ作れればFCFが計算できるような簡便法を用いるのが一般的です。

予測P/Lについても、先になればなるほど正確な予測はできなくなるので、「○○年以降は一定の売上成長率」などとするのが一般的です。

2FCFは経営者の評価指標としても使えますが、実際にキャッシュフロー計算書に出てくる数字とは差異が生じることは理解しておいてください。

あくまでメインの目的は投資やプロジェクト評価のための数字と認識しておく方が無難です。

42WACC(加重平均資本コスト)借入にかかるコストと株式調達にかかるコストを加重平均して求めた資本コスト。

WeightedAverageCostofCapitalの略。

基礎を学ぶ用いる場面

●NPVを計算するための割引率として用いる●自社や自事業がどのくらいのリターンを上げなくてはならないのかの目途とする(ハードルレート)●財務担当者が資金調達のバランスを再検討する考え方企業活動において、資金はただで手に入るわけではありません。

債権者(特に銀行)は利息の支払いを求めますし、株主も株価アップや配当といったリターンを求めます。

そうした彼らの期待利回りに応えられないと、企業は資金調達が難しくなり、下手をすると倒産に至ってしまう可能性もあります。

WACC(WeightedAverageCostofCapital:加重平均資本コスト)とは、企業が1円を調達するのにいくらのコストがかかっているかを示すもので、債権者と株主の利回り期待を加重平均したものとなります。

言い換えれば、企業がWACC以上の利回りをあげることができれば、負債コストと株主資本コストの両方をカバーし、債権者と株主を共に満足させることができるのです。

こうしたことから、WACCを「ハードルレート」と呼ぶこともあります。

WACCは図表421に示した式により求めることができます。

ここで注意すべき点をいくつか挙げましょう。

・WACCを求める際、負債コストには(1-税率)を掛けます。

これは、負債コストには節税効果(金利費用が税控除されることによるコスト低減効果)があるためです。

・負債としては、WCに関わる負債は考慮せず、有利子負債のみを用います。

つまり、オペレーショナルな短期の負債(買掛金など)は除くわけです(なお、英語では有利子負債と株主資本を足したものをCapitalEmployed、もしくは単にCapitalと呼びます)。

会社の骨格となる負債のみを考慮するわけです。

・WACCは加重平均ですから、有利子負債と株主資本の額で重みをつける必要があります。

有利子負債の額は、特殊な事情がない限り、B/Sの項目をそのまま用いて構いません。

一方、株主資本については、株価×株式数で考えるのが一般的です。

ただし、株価は日々変動しますので、恣意的に高い株価や低い株価を採用するのは好ましくありません。

通常は、過去3カ月あるいは半年の平均を用います。

・有利子負債のコストはそのまま銀行からの借入金利や社債の利回りを用いて構いません。

株主資本コストを求める際には、No.43で紹介するCAPMの考え方を用います。

事例で確認図表422にある会社の資本構成の例を示しました。

このケースで具体的にWACCを求めてみましょう。

新規借り入れをする前(A)の状況のWACC(A)と、借り入れ後(B)のWACC(B)は、それぞれ以下のように計算されます。

WACC(A)=500億/(500億+400億)×5%×(1-40%)+400億/(500億+400億)×10%=6.1%WACC(B)=1000億/(1000億+400億)×5.5%×(1-40%)+400億/(1000億+400億)×10%=5.2%この計算結果からも分かるように、新規の借り入れをそれまでより高い金利で行ったにもかかわらず、よりコストの高い株主資本の比重が下がったことから、WACCは0.9ポイント低下しました。

株主資本コストはリスクが高い分、負債コストより高いのが通常ですので、借入を増すことで、企業のWACCは下がるのです。

コツ・留意点1日本では昔から無借金経営を良しとする企業が少なくありませんでしたし、シマノなど、今でもそうした企業は存在します。

ただし、ファイナンスの観点から見れば、適切にコストの安い負債で資金を調達する方が、株主の資金を有効に使っていると見なされるのです。

ただし、あまりに有利子負債が増えると、今度は倒産リスクも高まります。

キャッシュ創出力に見あう範囲での負債活用を意識する必要があります。

2負債の額やコストは、基本的には額面を見たり銀行からの借入金利を調べたりすることで比較的容易に把握できます。

ただし、仮に銀行に預金を拘束されているような場合には、それを差し引く必要があります。

また、特殊な社債を発行している場合にはコストの計算にも若干の修正を加える必要があるなど、厳密を期そうとするのであれば多少の調整が必要となります。

また、株主資本の額は株価を用いて計算しますが、現実の株価は様々な要因で変動します。

需給関係で実態より値が上がっている株も少なからず存在します。

ただし、それを調整するのは困難なので、株価は実際の市場の数字を用います。

43CAPM資本資産価格モデル。

CapitalAssetPricingModelの頭文字を取って「キャップエム」と読む。

株式などの個別銘柄の期待利回りを計算するときに用いられる前提モデル。

スタンフォード大学のシャープ教授やハーバード大学のリントナー教授らが提唱。

基礎を学ぶ

用いる場面●資本コストを算出するための基礎データとする考え方かつては株主資本コストに対する理解は低く、また負債と違って株式には返還義務がないため、安易な増資に走る企業も少なくありませんでした。

またファイナンス先進国のアメリカでも、その数字を具体的に求める方法は存在しませんでした。

そうした状況下で、株主資本コストを求める方法論、数式を具体的に提示することになったのがCAPMの考え方です。

これによれば、株主資本コストは図表431の式で計算されます。

CAPMそのものの前提や正確な解説は、ある程度の数学的素養が必要なことに加え、かなり複雑なので、初学者・中級者向けの本書では割愛します。

ポイントは、CAPMを前提とすれば(実際に金融の世界ではCAPMがある程度前提になっています)、資本コストが求められるという点であり、それを理解しておけば十分でしょう。

式からも分かるように、特定の株式に期待されるリターン、すなわち企業から見た場合のコストは2つのパートからなります。

1つはリスクフリーレートで、実務的には10年物の国債を用います。

もう1つのパートは、リスクに対する報酬であるリスクプレミアム(β×〔E(rM)-rf)〕)で、2つの要素の掛け算で求められます。

順序は逆になりますが、市場全体の期待利回りであるマーケット・リスクプレミアム(〔E(rM)-rf)〕は、調査会社などが発表していますので、それを用います(ただし普通は有償です)。

実務的には、10年以上など、ある程度長い期間の平均をとります。

日本では概ね6%程度です。

問題になるのがβ(ベータ)です。

βとは、市場全体のリターンの動向に対し、特定の株式のリターンがどのくらい感応度が高いかを示す指標です。

例えば、市場全体の利回りが1%変動したとき、β=1.5の株式の利回りは1.5%変動することが期待されます。

βが1よりも大きいビジネスは、ハイリスク=ハイリターン型のビジネスと言えます。

βを横軸、期待収益率を縦軸にとると、先の式は図表432のようなチャートに変換できます。

チャート中の直線を証券市場線(SML:SecurityMarketLine)と呼びます。

事例で確認たとえばトヨタ自動車の株主資本コストはいくらになるでしょうか。

トヨタ自動車の過去60週(2015年7月31日現在)のβは0.95となっています。

また、10年物の国債の利回りは0.41%(2015年7月31日現在)です。

先述したようにマーケット・リスクプレミアムを6%と置けば、トヨタ自動車の株主資本コストは株主資本コスト(トヨタ自動車)=0.41%+0.95×6%=6.1%となります。

βが0.95ということは、トヨタ自動車の株式は市場全体の動きとほぼ同等の動きをすると考えていいでしょう。

同様に、東京電力の株主資本コストを求めてみましょう。

東京電力の株式は、公共性が高いことから、かつてはβの低い安定した株式とみられていましたが(1995年〜2010年頃までは概ね0.2〜0.5程度で推移)、東日本大震災に伴う事故の後はβは高くなっており、最近60週平均では1.2となっています(2015年7月31日現在)。

これを先の式に入れると、以下の結果となります。

株主資本コスト(東京電力)=0.41%+1.2×6%=7.61%現在では高リスクの株式と見なされていることが分かります。

コツ・留意点110年物の国債の利回りはすぐに手に入りますが、実務的に悩むのは、βやマーケット・リスクプレミアムを計算する際に、どこまでの期間の平均をとればいいのかということです。

特にβはその時々の企業の事情や市場での需給関係に応じて変動することが多く、1年で考えるべきなのか、それとも5年で考えるべきなのか悩ましいところです。

本文中に示した東京電力の例からも分かるように、何かのイベントをきっかけに、全く動きが変わる可能性もありますし、また、事業の構成が変われば(例:携帯電話事業に参入したかつてのソフトバンクなど)、それも当然βに影響を与えます。

絶対的な正解はないので、そうした特殊なイベントにも注意しながら、納得性の高い前提を置くことが必要です。

21)とも連関しますが、βはあくまでもそれまでの事業の構成を反映するものです。

たとえばどんどん新興国に市場を拡大すれば、それはそれまでの事業からは変わることを意味します。

一般にはリスクが高くなるでしょうから、βは上昇します。

ハイテク企業は元々ハイリスクでβが高い傾向がありますが、よりリスキーなビジネスモデルになれば、当然βが高まることが予想されます。

44EVA収益性の評価指標の1つで、投下資本に対して当該期間に発生する資本コストを差し引いたもの。

EVAはスターン・スチュアート社の登録商標。

(注)厳密な表記はEVAだが、ここではEVAと表記する。

基礎を学ぶ

用いる場面●経営者が企業価値を高めるべく、資本の有効活用の方向性を探る●企業の総合的な評価指標として経営陣や事業部長らの評価に用いる●企業買収の際に、被買収企業の評価に用いる考え方EVAは、毎年の事業運営から入るリターンから、投下資本に対して発生している資本コストを差し引いた経済的価値を指します。

1980年代以降、特にアメリカにおいて、この指標を用いて業績評価を行い、業績改善につなげる企業が増えたことから注目を浴びるようになりました。

その代表がコカ・コーラで、EVA導入以降、企業価値を1ケタ以上向上させることに成功しました。

また、ROE(自己資本利益率)といった伝統的な経営指標が、会計上の数字を用いているため恣意性が入りやすいのに対し、EVAはファイナンスの発想に基づくためそうした恣意性は入りにくいという点もEVAが用いられるようになった背景にあります。

我が国でもEVAを重要な経営指標として採用する企業があります(ただし、一時期のブームは去り、最近ではよりシンプルな指標に戻す企業も増えています)。

EVAは、具体的には、図表441の式によって計算されます。

EVAは、最近よく用いられるようになってきたROIC(投下資本利益率)と非常に密な関係にあります。

図表442に示したように、投下資本と使用資本は一致しますから、図表441の式の両辺を投下資本=使用資本で割ると、EVA/CE=(NOPAT/使用資本)-WACCとなります。

このNOPAT÷使用資本がROICで、これも企業の業績を示す重要指標の1つです。

つまり、EVAをプラスにすることと、ROIC-WACCをプラスにすることは、額と率の差を除けば、基本的に同じ意味を持ちます。

企業は単に黒字を出すだけではだめで、企業価値を高めるという責任を果たすためには、ハードルレートであるWACC以上の収益を本業から上げる必要性があることを意味しています。

事例で確認EVAを日本では比較的初期の1990年代に導入した企業に旭硝子があります。

同社はいち早くキャッシュフロー経営を標榜するなど、新しい経営システムを取り入れることに貪欲な企業です。

EVAの導入に当たっては、財務部が大きな役割を果たし、かなり精緻にEVAを管理するための仕組みを作りました。

具体的には、国ごとに緻密に資本コストを設定したりするなどです。

当初は人々の意識を価値創出に向けるということで一定の成果を収めましたが、元々が現場には分かりにくい指標ということもあり、徐々にウエイトが下がっていきました。

以下にその様子を抜粋した記述を紹介します。

「1999年にEVA経営を始めた旭硝子では、中期経営計画「ShrinktoGrow2001」において、EVA経営の導入と啓蒙を行い、Shrinkのテーマとして固定費の削減をあげている。

つづく「ShrinktoGrow2003」では、EVA経営の定着と活用をうたい、Shrinkのテーマとしては、「低収益事業の抜本的改革」を掲げている。

(中略)ところが、つづく中期経営計画「ShrinktoGrow2005」では、Shrink項目とGrow項目の記載順序が逆転し、拡大路線が強調され、同時にEVAに対する言及もなくなっている」(「我が国におけるEVA経営の動向」愛知淑徳大学論集、三橋克人より抜粋)コツ・留意点1EVAは非常によく練られた指標ではありますが、ファイナンスの知識があまりない従業員には分かりにくい(説明しにくい)という弱点があります。

特にWACC(資本コスト)の概念を説明するのが容易ではありません。

多くの企業では、一般社員に対しては、資本コストの説明は割愛し、NOPATを上げたり、使用資本を圧縮したりするよう従業員に促すのが一般的です。

具体的には、冗費を削って営業利益を上げる、無駄な在庫を圧縮する、売掛金の回収を早くする、稼働していない固定資産を売却するなどです。

戦略的には、EVAがプラスの事業を買収するという手法もあります。

2NOPATは、簡便的にはEBITに(1-実効税率)を掛けて求めることができますが、EVAの登録商標を持つスターン・スチュアート社では、EVAを算出するうえでは、さまざまな調整を施して、より精緻にNOPATを求めます。

具体的には、オペレーティングリースにかかわる調整、研究開発費と広告費の資本化に伴う調整、税金のキャッシュ調整などです。

EVAの算出や分析に当たっては、どこまで忠実にそうした方法を用いるのかに留意する必要があります。

45リアルオプション金融工学で用いられるオプションの価格決定理論をプロジェクト評価に応用したもの。

NPVなどの他のプロジェクト評価方法に比べ高い柔軟性を持つ。

基礎を学ぶ用いる場面

●投資評価を行う(特にNPVと比較し、どのくらい価値が増すかを見る)●プロジェクトをどこで分割するとプロジェクトの価値が上がるかの示唆を得る考え方リアルオプションの原理は、不確実性のある将来において、柔軟性を持つプロジェクトや資産は、そうではないプロジェクトや資産に比べて高く評価できるというものです。

柔軟性を持つとは、ある状況が明らかになった段階で、継続か中止かなどの判断が可能な場合を言います。

たとえば、新製品をいきなり大々的に市場導入する場合と、テスト・マーケティングの結果次第で本格的に展開するか止めるかを決めることができる場合とでは、後者のほうがプロジェクトの価値が上がります。

リアルオプションの効果を示したのが図表451です。

図表451はある油田開発のプロジェクトについてリアルオプションの考え方を適用したものです。

ここでは、金額はすべて現在価値に計算し直されているものとします。

このプロジェクトは3つの段階(試験掘削、掘削、販売)に分けられています。

現段階では、シナリオ①になる可能性とシナリオ②になる可能性は5分5分と見込まれています。

このプロジェクトを従来型のNPVで評価すると、トータル200億円の可能性が50%、マイナス400億円の可能性が50%ですから、平均をとるとマイナス100億円となり、プロジェクトは見送られることになります。

しかし、試験掘削の段階で、シナリオ①になるかシナリオ②になるかが判明するものとします。

シナリオ②になる場合は本掘削を進めてもマイナスが増えるだけですから、その段階でプロジェクトは中止されます。

シナリオ②の場合でも、試験掘削の100億円のコストだけで済むわけです。

シナリオ①であれば、そのままプロジェクトを進めます。

シナリオ②の場合は途中で止められるという「柔軟性」が生まれた結果、このプロジェクトの価値はプラスとなり、まずは試験掘削を進めるべきという結論になるのです。

このケースからも分かるように、リアルオプションはしばしば「入場券を買っておく」という表現を用いて説明されることがあります。

すべてのアトラクションを利用するかどうかを事前に決めるのはリスクが高いので、まずは入場券のみ買っておき、つまらなそうと判断したら、その入場券だけで購入は止め、それ以上の費用は使わなくて済むという発想です。

事例で確認リアルオプションの考え方を実際に用いた例に、ある大手メーカーA社による、B社買収のケースがあります。

そのメーカーとしては、多角化を図るためにB社を買おうと考えていました。

しかし、B社を買ってその新規事業を進めることにコミットしてしまうと、NPVがプラスにはなりません。

そこで出てきたのがリアルオプションの発想です。

まずB社を買収することで、新規事業に対する「入場券」だけは買っておきます。

その上で、B社とともに調査を進め、その新規事業が進める価値があるのか、止めた方がいいのかを見極めます。

止める場合には、またB社を売却できる方法論は考えてありました。

A社としては、プロジェクトに完全にコミットしてしまうとかなりリスクが高かったわけですが、途中で進めるかどうかの判断をできるようになったことで、ファイナンス的に価値を創出する可能性が生じたのです。

コツ・留意点1リアルオプションに対する批判として、それまでのNPV法では却下されるようなプロジェクトでも、将来の柔軟性を「こじつける」ことでプロジェクトの見かけの価値を上げ、着手したという既成事実を作る道具になりかねない、というものがあります。

まず結論ありきではなく、本当に価値が生まれるのかを正しく見極める必要があります。

2図表451はかなり単純化した例で、実際には将来のシナリオがきれいに2つに分かれることは少なく、正規分布のようなバラつきを描くのが一般的です。

ただ、その場合でも計算を行うことは可能です。

専門的に言えば、最初の「入場券」の価格が、手に入れることができるコールオプション(ある物を「買う権利」)よりも低ければ、そのプロジェクトはGOとなります。

コールオプションの価値は金融資産のコールオプションの価値と同様に、有名なブラック・ショールズの公式で求めることが可能です(図表452)。

初学者・中級者がこの式を詳細に理解する必要はありませんが、金融資産の価値を求める式が、実際の不確実なビジネスにも応用できる点は覚えておいてください。

 

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