財界の鞍馬天狗と言われ、日本興業銀行(現みずほ FG)頭取だった中山素平さんは、松下幸之助さんを称して「松下さんほど、人の話を聞くのがうまい人はいなかった」と、何かに書いておられました。 話すほうはネタさえあれば、いくらでもできます(もちろん、わたしも得意です)。けれども、真剣になって相手の話を聞くのは、相手のペースに合わせることになるだけに、ほんとうにむずかしい。 リーダーというのは、基本的に人に話す機会が多いものです。で、最初は話し下手な人も、だんだんうまくなり、そのうち、話しすぎてしまうようになりがちです。話しすぎるだけならまだましです。少なからぬ人が、人の話を聞けなくなるのです。「どうせ部下などたいしたことは言わないだろう」ということからか、傲慢になって、話を聞かなくなります。 以前、ある人から、日本を代表する流通チェーンを一代で築きあげたある経営者は、 どんな人の話を聞くときにも必ずメモをとっていたという話を聞きました。 わたしはその話を聞いてすぐにノートを買いました。わたしも従業員七名の零細企業の社長ですが、それまで部下の話にメモをとることはなかったからです。創業経営者で小さな会社だから、会社のことは何でも知っていると謙虚さを失くしていたのです。リーダーが謙虚さを失うと、はたから見ていて、ほんとうにみっともないものだと反省しています。 松下幸之助さんは、人が成功するために大切な資質をひとつだけ挙げるとすると、それは「素直さ」だと書いておられました。実際、大阪のパナソニック本社に隣接する「松下幸之助歴史館」の入口には、松下さんの「素直」という字がガラスに彫られています。それだけ素直ということに気をつけておられたということでしょう。 素直なら人の話を聞けるし、話から多くのヒントを得られます。 それだけではありません。人の話を聞くことには、もっとすばらしい効用があります。 すなわち、人は自分の話を聞いてくれる人を好きになるのです。ということは? 冒頭で触れた中山素平さんの話には続きがありました。 「松下さんは、新入社員さんから話を聞いても、『よい話を聞かせてくれて有り難う』と言っていた」というのです。 松下さんほどの人生の達人になると、新入社員の話のなかにもビジネスや人生のヒントを見いだせたのでしょう。 さらに、当時でも数万人以上の従業員がいた大松下の総帥が、わざわざ新入社員の話を聞いているということにも、その謙虚さをうかがい知ることができます。 用事があるなら役員のだれかをつかまえて言いつければ、ことはすべてすむはずなのに、新入社員の話をわざわざ聞くところが、凡人には真似のできないことだと思います。
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