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3章話の通じない相手を撃退する最終手段は「放置」

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3章話の通じない相手を撃退する最終手段は「放置」

17しつこいクレーマーは「断固放置」していい

やるべきことをやったら、あとは「放置」しかないこれまで述べてきたように、モンスタークレーマーを撃退する方法は極めてシンプルです。過剰要求に対してギブアップして、不当要求はきっぱり断ればいい。この一本道をまっすぐに進めば、確実に終わりがきます。そして、最後のステージが「放置」です。組織として打つべき手をすべて打ったら、あとはクレームが収束するまでアクションを起こさず、相手が諦めて引き下がるのを待てばいいのです。この「踏ん切り」がなかなかつかない人が非常に多いのですが、放置してもいいとわかれば、クレーム対応はぐっとラクになるはずです。たとえば、自社商品に欠陥などがあって、「3倍返し」で誠意をもって謝罪したとしましょう。しかし、相手はそれで納得せず、「詫び状を出せ」「迷惑料を払え」などと要求をエスカレートさせてくることもあるでしょう。そんなときは「恐れ入りますが、ご要望にはお応えできません」と回答して、あとは何も取り合わないようにします。「ギブアップ」しても妥協できなければ放置「放置」は、ほとんどあらゆる場面のクレーム対応に活用できる最終手段です。たとえば、常識では考えられないような独特の感性で苦情を訴える「天然クレーマー」に担当者が頭を抱えることもありますが、最終的には「放置」で終結させることがほとんどです。たとえば、過去にこんなことがありました。大衆食堂の事例午後1時過ぎ、大衆食堂の店内で、ハエを見つけて大騒ぎする男性がいた。「ハエが飛んでいる!早く、なんとかしてくれ。気持ちが悪い!」たしかに、2匹の小さなハエが、男性のテーブルから10メートルほど離れた壁に止まっていた。男性は「ハエは飛びながらでも卵を産み落とす」と主張する。「飛びながら卵を産むなんて、そんなことあるんですか?」店員が思わず尋ねると、鋭い目つきでにらみつけた。「君は本当にそう言い切れるのか?飛翔しながら産卵する種類もいるんだ!」と怒鳴った。男性の主張は、学術的には間違っていませんでした。

とはいえ、店側としては、どのような対応をすればいいのでしょうか?「ほかにお客がいるのに殺虫剤をまくわけにはいかない」と説明したうえで、料理をつくり直すか、代金をいただかないというのが妥当な対応でしょう。つまり、「ギブアップ」して妥協点を見出すことができなければ、あとは放置するしかないわけです。「謝って済む問題」にできなければ放置ペットブームを反映して、ペットフードへの異物混入や成分表示に関する問い合わせや苦情が急増している中で、こんなクレームも登場しています。建設会社の事例「ウチの子が体調を崩したらどうするのよ!」建設会社に年配の女性から電話が入った。すごい剣幕である。「私は○○町、△△番地に住んでいる者ですけどね、やかましくてウチの子が眠れないのよ!中止してちょうだい」建設会社は、近くで廃屋の解体作業をしていた。その騒音に対するクレームである。ただ、土日祝日と夜間の作業は、近隣住民の迷惑を考えて作業を控えていた。にもかかわらず、強硬なクレームがつけられたのである。「ご迷惑をおかけして申し訳ございません。先日、弊社の者がご挨拶にうかがったはずですが、もうすぐ作業を終えますので、今しばらくご辛抱いただけないでしょうか?お孫さんでいらっしゃいますか?お加減はいかがでしょうか?」担当者がこう釈明すると、女性は不機嫌そうに言った。「子猫のチイちゃんよ。チイちゃんがかわいそう!」こうした各人の「感性」に由来するクレームは、多岐にわたります。「カタログを見て購入した商品がイメージと違っている」とか、「従業員の接客態度が気に入らない」など、数え上げたらきりがありません。こうしたケースでは、「クレームの実態」から「こちらの責任」の範囲を明確にすることは極めて困難です。対応には苦慮しますが、「感性」が原因になっている場合は、丁寧にお詫びするしかありません。相手の感性を否定したり、論争したりすることは絶対にNGです。ただし、相手に寄り添い過ぎるのは禁物です。相手が納得しなければ、基本に立ち返ってギブアップトークで応じます。つまり、「謝って済む問題」に持ち込めない段階で、放

置を検討することになります。もうひとつ、常識では計れないクレームを紹介します。食品メーカーの事例ある日、なんの前触れもなく、腐りかけた食品(自社商品)がメーカーに着払いで送りつけられてきた。同梱されていた手紙には、こう書かれていた。「これまで長きにわたって、貴社の製品を愛用している者です。ところが、政府の不見識な市場開放政策によって、薬害に侵された商品が巷に出回っています。我々消費者は、そうした商品の数々を知らず知らずのうちに買わされています。残念ながら、貴社の商品にもその影響が出始めているようです。貴社のヒット商品である○○も例外ではありません。今回、お送りしたのは、その残骸です。私自身が食してみて、思わず吐き出してしまいました。どうぞ、創業の原点に立ち返り、良質な商品の製造・販売を行ってください。誠実なご対応をお願いいたします。善処していただければ、引き続き、貴社の製品を購入したいと考えております」「前略」で始まるきちんとした文章でしたが、何が目的なのかがよくわかりません。どこか、異様な雰囲気が漂っているのを感じるのではないでしょうか。額面通りに受け取れば、業務改善への期待ということになりますが、どのように善処すればいいのか、具体性に欠けており、対処に迷います。メーカーとしては、製品を賞味していただけなかったことのお詫びとともに、消費期限切れの検体では調査・検査ができないことや、製造工程でとくに異常は見つからなかったことを書面にして返送しました。それは受け取りを拒否されて送り返されてきましたが、その後は、静観するほかありません。以降、連絡はありませんでした。つまり、この場合も、「放置」したのです。「事実」に目を向け、安易に相手の要求に応じない一見「普通の人」が、思いもよらない理由で、過剰な要求を突きつけてくることがあります。食品メーカーの事例食品に異物が混入しており、自主回収に至ったケースである。大企業の情報管理部門に勤める50代の男性からクレーム電話が入った。「オタクの商品が自主回収になっているようだが、どうするつもりだ?」

電話に出た担当者は、お詫びするとともに、社内規定に沿って回収・返金で対応していることを伝えた。すると、気難しい声で男性は言った。「それだけ?ちょっと納得できないな。返金してもらうのは当然だけど、きちんと契約書にしてもらえないかな」数百円の商品代金と200円足らずの郵送代の受け渡しにあたって、契約書を交わしたいという申し出である。担当者は困惑したものの、「上の者と協議いたします」と伝えて、いったん電話を切った。後でわかったことだが、男性は部下をともなって休日出勤した日、この食品を購入し、部下にふるまっていた。そのときに一緒だった部下のひとりから、「課長、あのスナックにヘンなものが入っていました。自主回収だそうです」と耳打ちされ、受話器をとった。つまり、上司としての面子をつぶされことが我慢ならなかったのだ。また、担当者の木で鼻をくくったような話し方にもカチンときたようだった。担当者は折り返し電話をかけたが、「契約書は?」の一点張りだった。担当者は、男性の頑な態度に根を上げてしまった。当然、この返金手続きは、わざわざ契約書を交わすほどのものではありません。このケースでは遠路はるばる男性の職場まで足を運んで「弁護士とも協議いたしましたが、契約書にはなじまない案件だと考えております」と、じかに会って説明したところ、それで溜飲を下げたのか、とくに反論もありませんでした。結果的に、訪問謝罪が「ガス抜き」になったわけで、放置とは言えないのではないかと思われるかもしれません。しかし、忘れてほしくないのは、相手の立場を慮って契約書を交わすことはしなかった、ということです。相手の要求そのものは「放置」しているわけです。このように、こちらの落ち度とは別の理由でクレームが肥大化することもあります。相手の個人的な事情や感情につき合っていては、身も心も疲弊するばかりです。難渋クレームのレベルに入ったら、いたずらに相手の心情に寄り添うのではなく、「事実」に目を向けて対応し、安易に相手の要求に応じないことが大切です。ネットモンスターは「放置」がベスト「ネットにあることないことを書き込まれ、SNSで拡散されたらどうするの?」そんな不安を抱く人も多いでしょう。たしかに、「拡散」の恐怖とダメージは計りしれません。情報の信憑性に疑問をもっても、「おもしろい」という理由だけでリツイートする人は大勢いますから、「ネット炎上」が起きる可能性があります。しかし、その挑発に乗ってしまうと、相手の思うツボです。メールで論争しようものな

ら、その一言一句がネット上に公開されることもあります。加工食品メーカーの事例「食品偽装が疑われる」というメールが、加工食品メーカーに届いた。担当者はさっそくメールを返信し、すみやかに調査・報告することを伝えた。1週間後、社内調査で偽装の事実はないことが判明した。そこで、その調査結果をメールで報告した。ところが、メールの主は納得しなかった。「社内調査では、なんとでも言えますよね。外部機関に調査を依頼して、詳細な報告書を送ってください」というメールを送りつけてきた。担当者は再度、次のようなメールを返信した。「社内調査ではありますが、厳正中立な立場で弊社の中央研究所が調査を行いました。したがいまして、あらためて外部機関に調査を依頼することは控えたいと考えております。なにとぞ、ご理解のほど宜しくお願い申し上げます」しばらく、メールの主から音沙汰がなく、担当者は一件落着したと安堵した。ところが、3通目のメールが届いた。文面が暴力的になっていた。「いいかげんなことを言っていると、さらすぞ!」「さらす」とは、ネットに公開するという意味である。担当者の頭には「ネット炎上」という言葉が浮かんだ。このようなケースには、どう対応すればいいのでしょうか?じつは、ネットでの拡散や炎上に過敏にならず、対面や電話での対応と同様に「放置」するのが原則です。組織が一丸となって「NO」を伝えた後は、放置すればいいのです。ネットモンスターを放置することは、「風評が流れるリスク」を抱えるというデメリットよりも、メリットのほうが大きいと考えられます。なぜなら、組織として「ネットモンスターを放置する」という方針を明確にすれば、それだけでクレーム担当者のストレスは大幅に軽減されるからです。担当者は「ネットにクレーム情報を流されたらどうしよう」という不安から解放されるのです。大企業では、ネット監視システムなどを導入して、ネットパトロールを行っているところもあるでしょう。しかし、こうしたシステムの導入には、費用と手間がかかります。限られた資金と人材でやりくりしなければならない中小企業にとっては、大きな負担となります。そもそも、ネット炎上は、たいてい数日、長くても1か月程度で収束するのが一般的で、何か月も何年も炎上し続けることは、まずありません。そう考えれば、「放置」することに軸足を置いたほうが、現実的な選択だと言えることがわかるでしょう。

プロクレーマーが仕掛ける巧妙なワナこちらが「放置」で対処しようとしても、すんなりとはいかないケースもあります。そんなときの対処法を、いくつかお伝えします。百戦錬磨の大衆クレーマーは、反社会的勢力のプロクレーマーに負けず劣らずの手段を取ることがあります。いきなり大声を上げたり、テーブルを叩いたりして相手をパニックに陥れ、自分のシナリオ通りにコトを運ぼうとするのです。相手が冷静さを失えば、たとえ5%の正当性でも、100%にも、200%にもできるという経験があるのです。そこで、老獪なクレーマーの必殺技を紹介しておきましょう。あらかじめ彼らの手口を知っておけば、ダメージを最小限に食い止めることができます。まず、気をつけるべきは「ちょっと待て!」というフレーズです。これは、じつは暴言よりも警戒したい言葉です。たとえば、領収書の宛名が間違っていたり、案内する順番が後先になったりするなど、小さなミスが発覚すると、悪質クレーマーは怒鳴り声を上げる前に「ちょっと待って!」と、小声で、しかし少しきつい口調で言い放ちます。じつは、このひと言が「怒声」の威力を倍増させます。狙いを定めた相手が日常業務をこなしているとき、いきなり大きな声を上げても、その迫力が十分伝わらないことがあります。そこで「ちょっと待て!」という呼びかけで相手に注目させ、怒鳴り声のダメージをより大きくしようという狙いがあるのです。必殺の右ストレートの前に繰り出す、左ジャブのようなものです。ここで注意してほしいのは、「ちょっと」という呼びかけが、特定の誰かに向けられたものではないことです。「ちょっと」のひと声に、まわりにいる人すべてが反応し、自分に対して呼びかけられたのではないかと錯覚します。そして「えっ、何か?」と声の主を探し始めたタイミングに合わせて、クレーマーは怒鳴り声を発します。つまり、周囲を巻き込むことで、パニックを拡散させようとするのです。もちろん、標的になった人も「ちょっと待て!」の声に振り向いたり、顔を上げたりするでしょう。そして、「何を言われるのだろうか?」と、次の言葉を待ち構えていると、そこに突然の怒声が響きます。その瞬間、「早く逃げ出したい」という恐怖心とともに、「これ以上こじれると、皆に迷惑がかかる」という焦りが生まれます。ここで業務知識や接遇テクニックを総動員して、説得しようとしてはいけません。クレーマーはこちらの言葉尻をとらえて、難癖をつけてくるからです。クレーマーはその気になれば、どんなことにもイチャモンをつけることができます。こちらが目を伏せていれば、「目を見て話せ!」と凄み、相手の目を見て話せば、「その目は何だ!」と威圧します。

こうしたときの対応法は、まず「ワナを仕掛けてきたな」と意識して、覚悟を決めることです。そのうえで、「相棒」と一緒に冷静に対応すればよいのです。5秒の沈黙には10秒の沈黙で切り返す老獪なクレーマーは、怒声だけでなく「沈黙」も巧みにあやつります。担当者に「どう責任をとってくれるんだ!」と、鋭い口調で威嚇し、こちらが「そのようにおっしゃられても、私ひとりでは判断できません」とギブアップトークで切り返しても、「だから、どうするつもりなんだ!」と手を緩めません。問題はここからです。クレーマーは一瞬、口をつぐみます。これは、相手を不安に陥れるためです。もし、電話だったら、この沈黙はいっそう不気味に感じさせる効果があります。そして、約5秒間の沈黙の後、ドスのきいた声でこう責め立てます。「結論はどうなんだ!はっきりしろ!」なんとか踏ん張っていた担当者も、ここで完全に浮き足立ってしまうのです。医療関連機器メーカーの事例前職が大企業のカスタマーサービス部の部長という、非常に手強いクレーマー(60代男性)がいた。彼の標的にされたのは、医療関連機器メーカー。ある日、同社のお客様相談室にフリーダイヤルで電話がかかってきた。「オタクの健康機器に不具合がある。どうしてくれる?」オペレーターは、お詫びをして商品情報を聞き、現物の確認のために訪問するか、返送してもらうことを願い出た。すると、男性は「返送?そんな選択肢はあり得ない。ここに取りにきて、謝罪するのが筋だろう」と一喝した。「企業の姿勢として、クレームが入ったら、なにを差し置いても対応しなければならないはずだ。いまから5分以内に、担当者から折り返し電話がほしい」と言い放ち、一方的に電話を切ってしまった。担当者は30分後、男性に電話をかけた。折り返し電話が遅れたことをお詫びすると、男性はオペレーターの対応の悪さや社員教育について説教を始めた。「一次受付の対応が悪いな。ワタシの健康への気遣いがまったくない。だいたい、教育システムはどうなっているんだ?」などと延々30分に及んだ。「健康機器の不具合は、おおげさにいえば、命にも関わる大問題だ。担当役員を同伴して、すぐに来なさい」これを聞いた担当者は、さすがに即答できなかった。「申し訳ございませんが、役員と同伴で今すぐというわけにはまいりません」

「それなら、どうするつもりなんだ!」担当者は口をモゴモゴするが、男性はひと言も発しない。担当者の緊張はますます高まった。そして次の瞬間、「はっきりしろ!」と怒声を浴びせられた。クレーマーが仕掛けた「沈黙」には、どう対処すればいいのでしょうか?それは、こちらも沈黙で応じることです。相手が急に押し黙ったら、こちらも沈黙するのです。そして、相手が沈黙を破るのを待ちます。相手が5秒間沈黙したら、こちらは10秒間黙るのです。最初は難しいかもしれませんが、徐々に慣れます。そして「オイ、聞いてるのか!」と言われたら、「はい、聞いております」と、即座に切り返します。すると、相手のほうが焦ってきて、脈絡のない話になっていくはずです。これで形勢は逆転するのです。

とんでもない親子からのクレーム「ネットに流すぞ」の脅し文句は、K言葉でかわすのが基本です。ただし、音声や画像、さらに動画も投稿できるスマホの普及が、クレーム担当者に大きな心理的脅威を与え、「放置」に二の足を踏む理由のひとつになっています。食品系商社の事例外国産食品を輸入する商社に異物混入のクレームが入った。70代の女性が「ドライフルーツを食べていたら、プラスチックのようなものが出てきた」と苦情を申し立てているという。メーカーの担当者が女性宅を訪問すると、女性の長男が応対した。「写真を撮ったから覚悟してください。きちんと調べて、報告してください」長男は、そう言ってスマホに収められた画像を担当者に見せた。担当者は顔をひきつらせながら、お詫びするとともに検体として製品を持ち帰った。早速、分析機関で検査をすると、混入した異物は歯の詰め物(コンポジットレジン)が歯から脱落したものであることがわかった。担当者は、自社の瑕疵でないことを確信し、その報告書を持って女性宅を再訪問した。ところが、報告書を見た女性の口から出たのは、「私のものじゃない」という意外な言葉だった。長男も「作業員の歯を調べてくれ」と続けて言った。担当者は当惑したが、この申し入れを断れなかった。風評が広まることを恐れたからだ。そこで、作業員全員を歯科に行かせることにした。結局、作業員の歯ではなかったことがほぼ立証され、長男も納得して一件落着した。しかし、それまでに3か月余りと受診費用を含めて数十万円かかった。大企業では、一時期に比べて、ネット被害の件数は減少傾向にあります。それは、企業側がネットモンスターへの対策を進めてきたからです。かつてのようにクレーマーとの会話の中で不用意な発言をして、それをネットで流されるという失態は少なくなりました。ところがその一方で、生理的な嫌悪感を抱かせる画像や動画を目にすることが多くなっています。食品に混入した昆虫などは、その最たるものでしょう。その真偽とは別に、イメージ先行で企業に大きな打撃を与える危険性は、以前にも増して大きくなっていると言わざるをえません。電話を録音するこれだけのメリット

しかし、視点を変えれば、企業・団体がスマホ社会を味方につけることができます。そもそも、「記録」はクレーム対応の基本です。正当な要求である場合も含めて、クレーム内容をできるだけ詳細に記録しておくことが大切です。電話でのクレームには録音機能付き電話で対応し、状況を時系列で文書にまとめておくといいでしょう。クレームを記録すると、「言った、言わない」の水掛け論になることを防いでくれるだけでなく、肉声を録音することで、クレーマーの「人となり」を知る手がかりが得られることもあります。たとえば、会話の中で業界用語が頻出するようであれば、その業界に身を置いている(置いたことがある)と推察できます。録音データを聞き返すことで、こうしたクセが確認できるのです。また、録音によって、相手に対しては脅迫めいた暴言を抑制する効果があります。同時に、自分自身も言葉を慎重に選ぶようになるため、クレーマーに言葉尻をとらえられるリスクが減ります。なお、クレーマーとのやりとりを記録することは、警察に相談したり、緊急通報したりするときにも役立ちます。場合によっては、録音した音声を警察官に聞いてもらうこともできます。クレーマーとのやりとりを録音することについては、個人情報保護法への抵触を心配するかもしれませんが、それには及びません。事前にひと言、「大事なことですので、記録させていただきます」と、断っておくといいでしょう。自分の氏名も名乗らないような悪質なクレーマーに対しては、事前に録音の許可を求める必要もありません。堂々と、黙って録音すればいいのです。データは共有してこそ価値が出るクレームの記録は、「報告書」「回答書」など、さまざまな形で文書化されるでしょう。こうした文書は、「報告書を出せ」と、相手から求められることもあります。いったん文書にすると、それが「一人歩き」することを懸念するかもしれませんが、むしろこちら側の意思を明確にするという意味で、「意思表示」や「意思統一」のツールとしてとらえたほうがいいでしょう。つまり、足場を固めることができるのです。謝罪文や詫び状などとは、区別して考えなければなりません。クレームに関する記録は、組織内で情報共有してこそ価値があるものです。画像や映像についても同様です。店内には防犯カメラが設置され、タクシーやレンタカーにはドライブレコーダーが搭載されるようになりました。これらに収められた映像は、暴力などの犯罪行為への抑止効果がありますが、モンスタークレーマーに対する抑止効果もあります。最近は、無理難題を突きつけるクレーマーの姿をスマホで撮影する「野次馬」もいま

す。クレーマーがその様子を見て、その場から立ち去ることもあります。2014年9月に「コンビニ土下座事件」と呼ばれる事件がありました。大阪府茨木市のコンビニで、店長らが男女4人の客に言いがかりをつけられ、タバコ6カートンを脅し取られたうえ、土下座をさせられた事件です。土下座シーンが動画サイトに投稿され、それがネット上で話題になったため警察が動き、犯人は検挙されました。ところがこのとき、コンビニ店内に防犯カメラが設置されていたにもかかわらず、店舗側は警察に通報しませんでした。こうした逃げ腰の姿勢を続けていると、クレーマーの標的にされてしまいます。

「積極的放置」でクレーマー包囲網を敷く大衆モンスターのなかで、最も警戒しなければならないのが、善良な市民を装ったセミプロ級のクレーマーです。犯罪一歩手前の悪辣な手口で、金品をかすめとろうとする輩です。とくに、最近しばしば目にするのが、NPO法人を隠れ蓑にしたモンスタークレーマーです。表向きは、地域で奉仕活動をする模範的な市民ですが、一皮むけばとんでもない正体をあらわします。製麺メーカーの事例「乾麺に虫が入っていた」と、製麺工場に電話が入った。クレーム対応に慣れていない従業員は、あわてて本社に連絡した。すぐに、お客様相談室の担当者が折り返し電話をかけると、「いま、そちらに向かっているから、1時間後には会えるよな」と言われた。しわがれた声だが、有無を言わさぬ強引さも感じられた。本社近くの喫茶店で面会すると、70代と思しき白髪の老人が、名刺を差し出しながら、NPO法人の理事を名乗った。ところが、その口から出た言葉は驚くべきものだった。30分間ほど、政界人脈などを自慢げに話した後、こう切り出した。「この乾麺、懇意にしているAチェーンの○○店から買ったんだよ。そこの店長は頭に血がのぼって、Aチェーン本部に連絡すると言っている。そうなると、全国の加盟店から回収しなくちゃならなくなるよな。私は事を荒立てたくはない。いま、店長は私がなだめているから、口止め料を支払ってくれないか?」担当者は即座に、その申し出を断った。その日は、検体として製品を回収して終わった。しかしその数日後、今度は担当者の直通回線に電話がかかってきた。「御社が自主回収するとなると、いくらぐらいの損失になるかなぁ。オタク、いくらなら支払える?」と、話がどんどん具体的になっていく。虫の混入経路など、おかまいなしである。さすがに担当者も一計を案じて、Aチェーン本部や保健所、さらに○○店にも連絡し、それまでの経緯を説明した。その後、製造過程で虫が混入した事実は確認されなかった。担当者は老人にその旨を伝えると、渋々承諾。その後、約1か月間、老人からの連絡はなかった。これで終結した——。お客様相談室のメンバー全員がそう安堵した矢先、老人は直接、Aチェーン本部にクレームを持ち込んだ。Aチェーン本部では、すでに事情を把握していたものの、老人の不気味さに戦慄した。老人は「B社は○○したぞ」と脅迫

めいたセリフも吐いた。その後、お客様相談室のメンバーは、Aチェーン本部の担当者をともなって警察署へ相談に行ったり、○○店の店長を訪問するなどして、足場を固めていった。一方、老人サイドも「隠蔽工作」をマスコミにリークすると息巻いたり、自分の病弱ぶりをアピールしたり、硬軟織り交ぜて攻撃を仕掛けてきた。この老人が、NPO法人の関係者であることは事実でした。経歴まではわかりませんでしたが、反社会的勢力である可能性もあります。善良な市民だった人が、この老人と同じような企みを抱いたケースも知っています。たとえば、元小学校の教頭で自治会長も務めたことがある人物は、現役を引退後にNPO法人を設立し、災害支援活動を行っていましたが、いつのまにか恐喝まがいの行為に手を染めていました。前述のケースは、メーカー、販売会社(本部)、小売店の3社に警察と保健所を加えた「クレーマー包囲網」を敷くことによって、収束させることができました。かなり手強い相手でしたが、刑事事件に発展することもなく、クレーム発生から約2か月後、「いい返事を待っている」という電話を最後に、連絡が途絶えました。当初の面談を除けば、老人とのやりとりは主に電話でしたが、最終局面では警察の助言もあって、こちらからは一切、連絡しませんでした。理不尽な要求を断った後、なにもアクションを起こさないで静観することが「消極的放置」だとすれば、関連部門・機関と連携をとりながら、相手の動向を監視するのは「積極的放置」といえるでしょう。このケースは、まさに積極的放置の実例です。これこそ究極のクレーム対応と言っていいでしょう。「積極的放置」を成功させる3つのポイント積極的放置を実行する際のポイントを整理しておきましょう。最も重要なのは、「足場を固める」ことです。具体的には、次のように3つの観点で考えます。①社内の担当窓口を一本化する海千山千のクレーマーは、標的のあちこちに連絡して、社内を混乱させようとします。たとえば、フリーダイヤルに電話をかけたり、お客様相談室の直通回線で担当者と連絡をとろうとしたりします。あるいは、営業部門や製造部門に連絡するケースもあります。そこで、社内のクレーム担当窓口を一本化して、必要に応じて他部署にサポートしてもらうようにします。

②取引先に連絡して意思統一を図るメーカーと流通など、パートナーシップを結んでいる企業と強固なタッグを組むことが有効です。そのためには、しっかりした情報共有が欠かせません。往々にして、両社の力関係に格差があると、弱い立場の企業が「ことなかれ主義」に走ってしまうことがあります。たとえば、量販店と継続的な取引を望むメーカーは、面倒を避けるためにクレーマーの要求を聞き入れてしまうというケースです。一方、立場の強い企業が高飛車な態度をとると、弱い立場の企業は身動きがつかなくなり、結果的にクレーム対応が暗礁に乗り上げる恐れもあります。③外部機関に相談して協力を仰ぐ警察や弁護士、あるいは保健所、消費者センターなど関連機関には、深刻な事態に陥る前に状況報告をしておき、協力を仰ぐようにします。監督官庁などに対しては、とかく腰が引ける傾向が見られますが、それではせっかくの味方を敵に回してしまうことになりかねません。このほかの注意点としては、担当者が、クレーマーと個人的なつながりをもたないようにするということです。「オレとオマエ、心と心の問題だ」「オマエの力量を見せろ」「丸く収めたい」は、彼らが好んで使うセリフです。組織を攻略するより、個人を籠絡するほうが容易だからです。「ちょっとつき合え。オレの面子を潰さないでくれ」などと言葉巧みに近寄ってくることもありますが、個人的な誘いは断らなければなりません。また、担当者個人の携帯電話はもとより、場合によっては直通回線での通話も控えたほうがいいでしょう。警察・弁護士の連携は「事前相談」が基本警察・弁護士との連携は、足場を固めるのに不可欠です。「積極的放置」には至らない案件でも、いざというときに協力を仰ぐことがあります。警察との連携では、まず「110番通報」が思い浮かぶでしょう。しかし、これは本来、暴力事件や交通事故を目撃したり、ひったくりの被害に遭ったりするなど、事件や事故の現場に居合わせたときの緊急通報です。クレームについて相談したいときは、警察相談専用電話「#9110」が便利です。この番号にダイヤルすれば、クレームを含めた困りごとの相談に乗ってくれます。このほかの相談窓口としては、各警察署の相談係があります。また、交番に連絡するという方法もあります。いざというときにあわてないよう、こうした電話番号を職場に掲示しておくか、携帯電話に登録しておくといいでしょう。

警察との連携で大切なのは、事前に相談するということです。警察からの具体的なアドバイスもありがたいのですが、それ以上に「警察に相談している」という事実をクレーマーに伝えることで、「これ以上つきまとえば、事件になるぞ」と、プレッシャーをかけることができるからです。弁護士との連携も、警察と同様に事前相談を中心に考えます。「法的な手段も視野に入れている」ことを相手に伝え、プレッシャーをかけるのです。言い換えれば、こうした抑止力の下支えによって「放置」が可能になるのです。たとえば、こんな表現で最後通告をすればいいでしょう。「今回のお申し入れについては、顧問弁護士とも協議し、警察にも相談いたしました。これ以上のお話ですと、しかるべき対応をとらざるをえないと考えております。ただ、それは本意ではございませんので、なにとぞご理解いただけないでしょうか」なお、弁護士の協力を得るには、弁護士と顧問契約を結んだり、個別相談に出向いたりするのが一般的ですが、弁護士団体による無料相談や、日本司法支援センター(法テラス)などを利用することもできます。文書による回答で完全撃退する話し合いが堂々巡りになったり、クレーマーが「これで終わりにするつもりか?」などとくい下がってきたりしたら、「回答書」「通知書」「通告書」といった文書による意思表示が効果的です。文面は事案に応じて変わりますが、意思表示である以上、丁寧な表現でありながらも、きっぱり言い切ることが大切です。たとえば、文脈としてはこんな具合です。「このたびはお客様に多大なご迷惑をおかけして、誠に申し訳ございません。心よりお詫び申し上げます。しかしながら、これ以上、社会通念を逸脱した要求をされるのであれば、甚だ遺憾ながら、これまでの記録をもとに法的手段をとる所存でございます。なお今後、貴殿からの申し出を口頭で受けることはできません」こうした文書を配達証明郵便で送れば、確実です。また、通告書や一部の通知書で内容証明郵便を利用すると、心理的効果も大きくなります。メールで回答(通知・通告)する場合も、文面が多少くだけた表現にはなるものの、基本は変わりません。ただし、次のような一文を加えておくといいでしょう。「後日、正式な回答文書として郵送させていただきたいと思います。つきましては、個人情報の取り扱いには十分配慮し、厳重に管理いたしますので、○○様のご住所をお知らせ

いただければ幸いです」ネットモンスターの多くは、自分の正体を隠し、表舞台に引きずり出されることを嫌う傾向があります。実際に住所・氏名を明かすかどうかはわかりませんが、多かれ少なかれ、プレッシャーを感じるでしょう。こうした文書を作成するにあたっては、その内容を吟味しなければなりませんが、その作業を通して、自分たちが覚悟を決めることになります。これも、「足場を固める」ことにつながります。相手と文書をかわすときには、もうひとつ覚えておいてほしいことがあります。それは、悪質なクレーマーに言葉尻をとられないように細心の注意を払うことです。たとえば、示談で解決する場合は「示談書」をかわしますが、その際には領収証を兼ねた示談書を作成します。そのうえで、但し書きに「和解金として」と明記します。「見舞金」といった曖昧な表現では、決着が先送りされ、2回目、3回目の見舞金を要求されかねないからです。

 

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