この本の最初に「経営という独立した仕事がある」と書きました。経営者の仕事は、その経営を行うことです。さらには、会社や部下が困難な状況に陥ったときには、先頭に立ってその問題を解決する意志を持つことです。あなたには、その覚悟はできていますか? 「指揮官先頭」という言葉があります。海軍のエリートを養成する海軍兵学校でよく教えられた言葉で、「指揮官たる者、困難な状況に陥ったら、自ら先頭に立ってその状況を打破する覚悟が必要だ」という意味です。軍隊で困難な状況とは文字どおり戦闘状態のことですから、自らの命も顧みないということでしょう。 さて、かなり前のことになりますが、 JR渋谷駅で次のような光景に出くわしました。ラッシュアワーの最中、中央階段を降りたところのもっとも混雑するドアの前に立って、乗降客の応対をしている駅員さんがいたのです。 ちょうど寒い時期で、着膨れした乗客が乗り込もうとするため、ドアがなかなか閉まらない。ふつうの駅員だと、ドアが閉まりかけてから乗客を電車に押し込もうとするのですが、その駅員は少し違っていました。 ドアが閉まりかけると、まず自分の手で閉まりかけるドアを押さえて、乗客がドアに挟まれないように徐々にドアを閉める(ここまでなら、何人かの駅員さんもやります)。そして、ドアが閉まりかける直前に、革靴を履いた自分の足先をドアにわざと挟ませ、乗客の衣服がドアに挟まれないようにし、乗客が完全に乗れたのを確認してから、ドアに挟ませた自分の足をさっと引いてドアを閉めるのです。 その流れはたいへんスムーズで、わたしはすっかり感心し、その駅員の動きに見とれてしまいました。そして、「なんとお客さま思いで、かっこうよいのか」と思って帽子を見ると、金の二本線! 胸の名札を見ると、「駅長 ○ ○」とありました。 なんと、渋谷駅の駅長さんだったのです。 一日に一〇〇万人単位の人が乗降する大きな駅の駅長です。ふつうなら、駅長室でコーヒーでも飲みながらモニターを見て、「今日もみなさん、ご苦労さんだな」とか思っているだけでもだれも文句は言わないでしょう。 ところが、いちばんしんどい時間帯に、もっとも混雑するドアを自ら受け持ち、それも最高の動作をしているとなると、ほかの駅員は、「自分もがんばらなければ」という気持ちにならないではいられないはずです。 とかく地位が高くなるにつれ「評論家」になっていく経営者が多いなか、何かあったら自分が対処するという気持ちを持っていれば、おのずと結果はついてくるのではないでしょうか。
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