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2章理不尽な要求は「この話術」で断ち切れる!

目次

2章理不尽な要求は「この話術」で断ち切れる!

10「D言葉」を「S言葉」に変える方法

お客様はなぜ、「D言葉」でキレるのか?クレーマーは、表情に出すか出さないかは別にして、たいてい怒りの感情を抱いています。したがって、クレームを円満に解決するには、まず何よりも先に相手をクールダウンさせることが前提になります。しかし、対応を誤るとクレームを長期化させます。その最大の原因は、前章で述べた「D言葉」を使ってしまうことです。役所の事例役所の住民窓口で年配の女性がイライラしている。「さっきも言ったでしょ。私は証明書がほしいの!」担当者は、困惑しながら「はい、それはよくわかりました。そのためには必要書類を揃えてお持ちくださらないと手続きができないんです」と答える。すると、女性が言った。「ここにあるじゃない!」女性は1枚の紙片を担当者の目の前に突き出した。今度は担当者が言い返した。「ですから、何度も申し上げますが、これだけではダメなんですよ」「その言い方は何?バカにしてんの!」このケースでは、「ですから」というワンフレーズで、相手はキレてしまったわけです。これは、単に「言葉づかい」の問題として片付けられることではありません。「『だから』ではなく、『ですから』と丁寧語を使っているじゃないか」と思われるかもしれませんが、担当者の「意識」が言葉にはっきりあらわれているのです。「D言葉」は、相手にとって、次のように伝わるのです。・「ですから」……〈そんなこともわからないの?〉という「上から目線」・「だって」………〈そんなことを言われても困る〉という「逃げ腰」・「でも」…………〈それは違うんじゃないの?〉という「反抗的な態度」数年前、タクシー乗務員への暴力行為が頻発し、マスコミでもさかんに取り上げられました。私もタクシー会社から依頼を受けて、トラブル防止のためにアドバイスしたことがあります。そのとき、車載カメラの映像を見て「やっぱり」と思いました。タクシーの事例

タクシーに乗り込んできたのはスーツ姿の中年男性。かなり酔っぱらっている様子で、「まっすぐ、いや、その交差点を右!」と、ろれつの回らない口調で乗務員に指示している。乗務員は黙々と運転を続けた。しかし、不機嫌そうな乗客は「わかったか?返事がないぞ」と乗務員に絡んでくる。乗務員は、そのたびに「はい」と小声で応じるが、乗客はさらに「ちゃんと聞いているのか!」と迫ってくる。さすがに乗務員も嫌気がさして、「ですから、『はい』と言ってるじゃないですか」と答えてしまった。その瞬間、乗客が怒鳴り声を張り上げた。「その態度はなんだ!客をナメてるのか!」乗客は後部座席から身を乗り出し、いまにも殴りかからんばかりだ。一般常識からすれば、乗務員に非はありません。乗務員にとっての酔っ払った客は、まさに「常識が通用しない、面倒なお客様」です。しかし乗客にしてみれば、「困っている」からタクシーを拾ったのです。昼間は真面目に働いていても、歩けないほど酔ってしまったのかもしれません。困っていることを抱えているという点では、クレーマーも同じです。病院通いをしているモンスターペイシェントは、その最たるものです。クレーム対応では、通常の接遇より細やかな目配り・気配りが求められるのは、ある意味で当然です。「あいづち」から「S言葉」につなぐでは、こうした場合には、どのように対応すればいいのでしょうか?クレーム対応の経験が豊富な担当者なら、状況に応じてうまく切り返すことができるでしょう。気のきいたジョークで一気に場をなごませることができるかもしれません。しかし、慣れないうちは、そんなことはできなくて当然です。そこで、D言葉を封印する簡単な方法があります。それは、D言葉を「S言葉」に変換することです。つまり、次のように「サ行」で始まる言葉に言い換えるのです。「ですから」→「失礼いたしました」「だって」→「承知いたしました」「でも」→「すみません」たとえば、冒頭の役所の例でいえば「ここにあるじゃない!」と言われたら、「ですから」に代えて「失礼いたしました」と応じれば、余計な怒りを買うことはなかったはずです。その後で「私の説明不足でした。もう一度、ご説明いたします」とつなげばいいので

す。また、相手の怒りを鎮め、解決の糸口を見つけるには「あいづち」で共感を示すことも重要です。基本的には、次のように3つのパターンのあいづちをマスターします。①「はい」「さようでございますか」ストレートに相手の話に同調するときに使います。あいづちの基本形といってもいいでしょう。声のトーンによって、さまざまなニュアンスを伝えることができます。②「ごもっともです」「おっしゃるとおりです」やや強めに相手の意見に同調するときに使います。ただし、あまり頻発すると嫌味に聞こえることがあるので注意します。③「そうなんですか」「そんなことがあったんですか」感嘆を込めて相手の話に同調するときに使います。ただし、これも過剰に使うと、かえって不快感を与えることがあるので注意します。あいづちを打ちながら傾聴している間、相手の理不尽な要求に思わずD言葉が口から出そうになったら、頭の中でS言葉に置き換えます。あいづちからS言葉につないでいけば、相手の興奮は徐々に収まり、会話がスムーズに流れるようになるでしょう。こうしたテクニックは、経験を重ねれば誰でも身につきます。セリフを丸暗記しなくても、あいづちやS言葉のフレーズを準備しておけば、いざというときに使えます。しかし不慣れな人は、まだ不安が残るでしょう。そこで、とっておきの覚え方を伝授します。「サ行のほめ言葉」をご存じですか?・「さすがですね」・「知らなかった」・「すごいですね」・「センスがいいですね」・「そうなんですね!」こんなふうにあいづちを打たれれば、悪い気になる人は多くないでしょう。クレーム対応でも「さしすせそ」でキラーフレーズを覚えておくのが有効です。「さようでございますか」「失礼いたしました」「承知いたしました」「すみません」

「……」「そうなんですか」「せ」が抜けていますが、じつはここが最も重要です。声には出さなくとも、クレームから逃げずに「責任をもって、私が対応します」という意識をつねにもっておくことです。初期対応での「5つの禁句」D言葉のほかにも、相手の怒りを再燃させる「不用意なひと言」があります。その代表例が「会社の規定(方針)で」「事務処理上」といった表現です。これらは、こちらの都合を一方的に押しつけているように解釈されることがあります。また、「普通は」「一般的に」「基本的には」という言葉も、使い方によっては「上から目線」の印象を与えかねません。たとえば「普通は、そのようなトラブルが起きないはずなんですが……」と言われれた身としては、「じゃあ、オレは普通じゃないのか!」と、カチンとくるわけです。初期対応では、こうした相手を不快にさせる言葉に十分注意してください。ただし、過剰要求を繰り返す悪質なクレーマーに対しては、その限りではありません。丁寧な言葉づかいをしながらも、ドライに言い切ることが必要です。最初の5分間は徹底的に演じ切れ初期対応は、最初の5分間が勝負です。5分間というと、ずいぶん短く思うかもしれませんが、相手の怒気を帯びた声を聞いていると、結構長く感じるものです。しかし、決して気を緩めてはいけません。クレームの初期対応は、比較的マニュアル化しやすいように考えられがちですが、油断すると思わぬ失敗をおかします。「受話器を置く前に、フッとため息をついてしまった」クレーム電話への対応では、そうしたことが起こりがちです。一瞬の気の緩みから話がこじれてしまうことがよくあるのです。電話は声だけのコミュニケーションであるため、「声が小さい」「早口だ」と文句を言われることもあります。また、相手の大声につられて自分の声にも力が入ってしまい、いつの間にか論争になってしまうケースもあります。クレーマーの自宅を訪問した際にも、「顔がニヤけている」「お辞儀の角度が悪い」「名刺の出し方が無礼だ」などと叱られることがあります。言いがかりに近いことも少なくありませんが、初期対応では「演じ切る」ことが大切です。上辺だけの猿芝居ではなく、本気でひと芝居打つ覚悟が必要です。

「別室対応」と「アンケート」で怒りをクールダウンさせよ「相手の話が延々と続き、話を切り上げるタイミングがつかめない……」クレーム担当者の多くが、相手の話にどこまでつき合えばいいのか悩んでいます。とくに、前出の団塊の世代に多い「説教型」のクレーマーは、話すことが目的化していることがあり、対応に苦慮します。また、さびしさを紛らわすため、オペレーターや担当者に絡むシルバーモンスターも大勢います。クレームの初期対応では、共感をもって相手の話を傾聴することが原則ですが、いつまでもクレーマーの話につき合うことは、業務に支障が出るだけでなく、クレーマーに取り込まれる危険性も大きくなります。では、どのようなスタンスでクレーマーと向き合えばいいのでしょうか?それは、傾聴の姿勢を念頭に置きながらも、時間を区切って応対することです。たとえば、あらかじめクレームの発生現場での対応は5分間に限定して、それを過ぎたら別室で対応するというルールをつくっておくのです。場所を移動することで、クレーマーの興奮がクールダウンすることがあります。また、アンケート用紙を備えて、所定の時間が過ぎたら、そこに要望を記入してもらうというシステムも考えられます。「まだ話は終わっていない!」と言われたら、「申し訳ありませんが、いまは時間がありません。このアンケート用紙にご要望をお書きください。差しつかえなければ、お名前と連絡先もお願いいたします。後でお返事いたします」と提案するのです。この場合、住所・氏名を書いてもらうことで、クレームの悪質性を測れます。自分の名前を名乗ったうえで苦情を申し立てているのであれば、その主張の信憑性は比較的高いと判断できるのです。長電話を強制終了させるフレーズはこれだ!クレーム電話が長引いたり、頻繁にかかってきたりする場合も、同様に応対する時間を区切ります。ただし、「何度もお電話を頂戴していますが……」などという曖昧な言い方だと、納得されない可能性が高いでしょう。健康食品メーカーの事例健康食品メーカーのフリーダイヤルに、毎日午後3時頃に電話をかけてくる老人がいた。用件は商品内容の説明など、他愛のないものだ。まれに、折り返し電話を求められるが、そのときは「夕方以降に電話は寄越すな」

と言う。どうやら、家族には電話を聞かれたくないらしい。日中、暇つぶしで電話をかけていることは、ほぼ間違いなかった。ただ毎月、商品を定期購入しているお客様なので、むげにもできない。担当者は連日の対応に疲れ果てていた。そこで私は「これまでの通話データを揃えて、相手に断りの返答をする」ようにアドバイスした。翌日、老人から電話がかってきて、同じような内容を繰り返そうとした。そこで担当者は、やんわりと断りの意思を伝えた。「×月×日から今日まで、合計○回、電話をいただいています。1回の電話も×分以上なんです。申し訳ありませんが、次からは一般的なお話には対応しかねます。私としては、商品についてご説明したい気持ちもあるのですが、会社の方針として対応できないんですよ」このケースでは、初期対応では禁句の「会社の方針」という言葉を使っていますが、「お客様」がすでにモンスター化し始めているこの段階では有効です。そもそも、相手と話していて「おかしいな」と思ったら、早めにモードチェンジすることが大切です。「相手の言い分を聞き、なにごともよく話し合って解決を図ろう」というのは、クレーマーとのやりとりでは通用しません。相手の言い分をしっかり聞くことで、いつの間にか相手の土俵に上ってしまう恐れがあるからです。また、モンスター化したクレーマーに対しては、通話を「細切れ」にすることも効果的です。2時間も3時間もまくし立てるクレーマーでも、たいていは1回の電話で決着をつけたいと思っています。たとえ百戦錬磨のクレーマーでも、2回目の電話をかけるには、それなりに気合いを入れなければならないのです。「途中で電話を切ってもいいんですか?」と質問されることもありますが、むしろ「もう、切らなくてはいけない」というケースのほうが断然多いのです。断りのフレーズはシンプルです。「誠に申し訳ございませんが、いま結論を出すことはできませんので、一度電話を切らせていただきます」まずは、口調は丁寧にしつつも、きっぱり会話を中断します。それでも相手が無理難題を押しつけるようなら、こう切り返します。「申し訳ございませんが、私どもではそのようなご要望にはお応えできかねます」こう言い切って、受話器を置けばいいでしょう。「話の途中で電話を切るな!」などと、すぐに電話がかかってきたときは「先ほども申し上げたとおり、私どもではそのようなご要望にはお応えできかねます。失礼いたします」と言ってガチャン。これを3回も繰り返せば、相手もかなり消耗しますから、諦めて引き下がる確率はグン

と高くなります。この「フェイント」で訪問先は「30分」で切り上げるクレーマーの自宅を訪問して、「3時間話し合ったが、納得してくれなかった」という話もよく耳にします。酔っぱらいクレーマーの「酒の肴」にされ、延々と世間話につき合わされる担当者もいます。長時間粘ったからといって、いい結果が得られるわけではありません。クレーマーの自宅でのやりとりは、30分を目途に切り上げましょう。たいていは30分も話を聞けば、相手の主張は理解できます。場合によっては、玄関先で用件を済ませても構いません。通信工事会社の事例通信工事会社に「電話回線にトラブルがある」と男性からクレーム電話が入った。「IP電話に雑音が入る」というのが主旨だが、電話応対の態度や工事体制などについても苦情を訴えた。そこでまず、通信状態を改善するため、ルーターの交換に認定業者を派遣した。その時点で通信トラブルは解消されたが、今度は「なぜ、社員が出向いてこないのか。業者まかせにするのはけしからん!」と立腹し、訪問謝罪を求めてきた。しかたなく、クレーム対応に長けた担当者が、お詫びに男性宅を訪問した。すると、得意げに通信技術に関する持論を展開し、そのことに対する回答を求めた。しかし、その内容はクレームとはほとんど関係がない。どうやら、担当者を指導することで満足感を覚えているらしい。担当者は10分ほど経過したのを見計らって、こう言った。「膝の具合が悪いので、足を崩させてください」このひと言は、相手の要求を見極めるためのフェイントである。もし、「お詫びに来て、足を崩すとは何事だ!」と言われたら、「お詫びして、ご説明したいと思っていたのですが、お話しできないのですね」と辞去すればいいのだ。実際には、「いやぁ、気がつかなかった」と座布団を出された。しかし、座布団は遠慮する。なぜなら、わざと壊れた眼鏡などが座布団の下に置かれていることがあるからだ。男性の話はその後も続いたが、訪問してから30分が経ったとき、担当者はこう言って、席を立った。「お話はよくわかりました。ただ、私ひとりでは判断できません。大切なことなので、しっかり協議してお答えいたします」

この担当者の対応は、合格点だと言えます。「訪問先でなかなか帰してもらえません。これは罪にならないのですか?」これも、私がよく受ける質問ですが、「途中で『帰らしてください』と言ったの?」と尋ねると、たいていは「そんなことを言える雰囲気じゃないですよ」という答えが返ってきます。しかし、それでは2時間いても、3時間いても、罪には問えません。こちらから「帰りたい」という意思表示をしなければ、「強要罪」が成立しないからです。

「事実確認」と「実態把握」を同時に進める相手の怒りを鎮めることができたら、クレームの実態を把握する必要があります。その際、気をつけてほしいのは、「事実確認」と「実態把握」を混同しないことです。事実確認とは、文字通りクレームの内容が事実に沿ったものであるかどうかを調べることです。たとえば、食品への異物混入を指摘されたら、検体(現物)を持ち帰り、実際にどのような異物が混入していたのか、どの過程(製造・流通・消費のいずれか)で混入したのかなどを調査しなければなりません。もちろん、その前提としてレシートや注文履歴などによって、購入の事実を確認することも必要です。商品破損などについても同様に、その事実と原因を検証します。あるいは、従業員の接遇態度に対して、「言葉づかいや振る舞いに配慮が欠けている」という指摘があった場合は、当事者や周辺の従業員に、そのときの様子を確認しなければなりません。この類のクレームは、相手の独特な感性によるケースもありますが、そうした特殊ケースについては後で紹介します。いずれにしても、クレーム対応において事実確認は不可欠です。クレームの主は、その回答を待っていますし、組織にとっても業務改善につながる有益な情報が含まれている可能性があります。したがって、「結果を報告しろ!」「しっかり調査してほしい」という要求に対しては、原則として真摯な態度で臨まなければなりません。電話応対でも対面でも、あるいは文書やメールによる報告書という形でも、きちんとした報告が求められます。一方、クレームの実態把握は、事実確認に加えて、クレーマーの目的や動機も考慮に入れたものです。これが難しいのです。「オレの責任か?」「自作自演だと言うのか!」などというセリフが悪質なクレーマーの口から飛び出すことは珍しくありません。しかし、実態把握が難しいからといって判断を先延ばしにしていると、その間に担当者のストレスはどんどん膨らんできます。したがって、一定時間が経過したら区切りをつけることがとても重要です。この原則を前提にして、クレーマーから発せられる「サイン」を見逃さないようにします。悪質クレーマーを見抜く7つのフレーズクレーマーの悪質性やしつこさを見極めるのは容易ではありません。外見や態度で見分けることもできないし、怒鳴り声を出しているからといってクレーマーだと決めつけるこ

ともできません。ただ、「納得できない!」というセリフは、警戒すべきシグナルです。この言葉の裏には、「事実確認のための調査が不十分だ」という切実な思いがある場合もありますが、「ゴネれば特別待遇を受けられるかもしれない」という不純な動機が隠されている場合が少なくありません。このほか、クレーマーとのやりとりのなかで「これはおかしい」と感じることがあったら、注意が必要です。わかりやすいのは、次のような「脅し文句」です。❶悪評をばらまくと脅す「ネットに流すぞ!」「SNSで拡散するぞ!」「マスコミに言うぞ!」「ビラをまくぞ!」など❷公的機関や監督官庁に訴えると脅す「消費者団体に通報するぞ!」「保健所にかけ込むぞ!」「消費者庁に告発するぞ!」など❸結論を急がせる「いま、ここで結論を出せ!」「いますぐに来い!」「いまから会いに行く」など❹暗に金品や特別待遇を要求する「どうしてくれるんだ!」「誠意を見せろ!」「治療費を払え!」「精神的苦痛を補償しろ!」「迷惑料を払え!」「休業補償をしろ!」など❺他社の対応を持ち出す「B社は(要求に応じて)○○○したぞ!」など❻こちらを懐柔しようとする「オレとオマエ、心と心の問題だ」「コトを大きくしたくない」「丸く収めよう」など❼社会通念から逸脱した謝罪を求める「土下座しろ!」「クビにしろ!」などこのほか、「責任者を出せ!」「謝罪文を出せ!」「社告で詫びろ!」といったセリフにも、悪意が潜んでいることがあります。こうしたセリフが相手の口からポンポン出てくるようなら、警戒したほうがいいでしょう。怒りを抱えたお客様も、時に勢い余って暴言を吐くことがありますが、興奮が収まれ

ば「やりすぎた感」を覚え、引き下がるのが普通です。「顧客満足」から「危機管理」にモードチェンジした成功例悪質なクレーマーは、「話が飛びやすい」のも特徴です。担当者をおだてたり、けなしたりしてじわじわと締め上げてきたり、時事問題などを持ち出して論点をはぐらかそうとしたりするのです。「天下の○○社が、こんな対応でいいのか?」「これじゃマズいだろう」「世の中は……」などと〝波状攻撃〟を仕掛けてくるのです。こんなケースがありました。スーパーの事例ローカルスーパーでの出来事。ことの発端は、「女性店員の態度が悪い」という30代の男性からのクレームだった。「半額セール商品の値札が違っていた。だから、レジに向かって『ちょっと、お姉さん!』と大声で呼んだのに、なかなか来てくれなかった」男性は店長にこう文句を言って帰ったが、その後も、しつこく電話をかけてくるようになった。そこでお客様相談室にバトンタッチした。「山田(仮名)って女、クビにしたほうがええんちゃう?愛想のかけらもない」先制パンチが飛んでくる。この男性は従業員が胸につけている名札を見て、女性店員の名前を覚えていたようだ。そして、間髪を入れずに「山田には土下座して謝ってほしい」と、二の矢が飛んできた。ところがその後、男性は声のトーンを落として言う。「仕事で徹夜した後は、できたての弁当が楽しみでね。それなのに、接客マナーが悪くて気分が台無しだ。店員個人のせいというより、会社の教育が悪いからだ」また、こんなことも言い出す。「これまでにもレジの打ち間違いが何度もあったと思う。僕がなんぼ損しているのかはわからん。レシートが残っているわけじゃないが」さらに、脈絡のない会話が延々と続く。「あの女、挨拶もろくにできない」「申し訳ございません。従業員の指導を徹底してまいります」「『半額セール』と書いてあれば買いたくなるよな。その値札が間違っていたらオタクならどう思う?」「誠に申し訳ありません。お求めの商品をご用意致しますのでお持ちください」「オタクの弁当類は本当においしい。とくに揚げ物がうまいね」「ありがとうございます」

「仕事では決算書をつくったりしとるのよ。ビジネスマンとして、数字は気になるんだ。だから、いつも広告の値段やレシートをチェックしている」「さようでございますか」「ぶっちゃけていえば、証拠がないのに『金を返せ』とは言えない」「はい」「ボクはこれでも、法学部出身でね。司法試験は受けなかったが、法律には詳しいほうだ」「そうですか。すごいですね」「金銭の問題じゃない。補償してくれるといっても、現金や商品券でもらうのは気が進まんな」恐喝にならないよう予防線を張っているが、物欲しげな気配がビンビン伝わってくる。そして、ついに馬脚をあらわした。「ホンマは『カネとかはいらん!』と言いたいんやけど、それでは気持ちが収まりませんよ。僕の気持ちもわかってくださいよ。クレームがあったら、仮に客に非があったとしても、手土産を持って謝罪に行くもんでしょう」丁寧な物言いに変わったが、要するに、金品の催促である。ここで、相手のペースに巻き込まれて「では、お詫びにうかがいます」とでも答えてしまっては、相手の思うツボです。「顧客満足」から「危機管理」にモードチェンジして、クレームを収束させる方向にもっていかなくてはなりません。この担当者は、うまくモードチェンジした好例です。顛末は次のようなものでした。「お客様のご指摘は、私どもにとってたいへん勉強になりました。ありがとうございます」まずは、こういう言い方で「終結」をほのめかしたのだ。すると、クレーマーは最後の攻撃を仕掛けてきた。口調もガラリと変わる。「アンタ、ボクに敵意をもってるんか?こちらに証拠がないことをいいことに、『知らぬ、存ぜぬ』か!怖いなぁ。この一件が原因でうつになって、仕事ができんようになったらどうしようかと、不安になるわ」もはや支離滅裂。恐喝に近いといってもいい。ここからは「できないことは、できない」と、はっきり告げる段階に入る。「では、どのようにすればよろしいでしょうか?」「ウーン、とにかく山田の謝罪がほしい」「はい、お詫びはきちんとさせていただきます。ただ、山田をクビにしろとか、土下座させろとおっしゃるのであれば、私どもとしても看過できません」

「それはわかっとる。クビとか土下座はしなくていい」クレーマーは、担当者のきっぱりとした口調に少しひるんだようだ。「よく言い聞かせ、今後の業務に生かすよう、しっかり指導してまいります」これで、クレーマーは手詰まり状態になった。そして、こう言い残した。「その言葉を待っとったんや」担当者は「今後とも、ごひいきにしてくださいますようお願いいたします」と述べるにとどめた。3つのモードで本音を聞き出すこの事例のように、相手に取り込まれないように間合いをとりながら、問題の核心にピントを合わせるのは、なかなか難しいことです。私もクレーム対応に取り組んだ当初は、その感覚がなかなかつかめませんでした。最初から根掘り葉掘り聞いたり、矢継ぎ早に質問したりすれば、悪意のあるクレーマーではなくても、反感を買います。だからと言って、いつまでも下手に出ていると、肝心なことを聞けないまま時間だけが過ぎていきます。そこで、クレーマーの本音を引き出す「尋ねる技術」を紹介します。これは、警察官時代に身につけた職務質問(職質)の技術をもとにした手法です。路上や駅前などで行われる職質は、犯罪を取り締まる有力なツールですが、あくまで任意で行われます。強制力もなく、市民の協力もあまり期待できない中で、スムーズに職質することは容易でありません。この難しさは、クレーマーを相手にするときと共通しています。具体的には、次のような「お願い」「気合い」「追求」の3ステップを踏みます。ステップ❶……お願いモード話しやすい雰囲気をつくり、相手の話に傾聴する段階です。初期対応の基本に沿って、「このたびは、ご迷惑をおかけして申し訳ありません。さて……」などと丁寧な言い方で事実関係の概要を把握するように努めます。職質でも、話の6割程度は日常会話であり、ベテランの制服警官も敏腕刑事も、最初から射るような視線を相手に向けることはありません。「お急ぎのところを申し訳ありません」「少しだけ協力していただけませんか?」などと、笑顔を交えて相手に協力を仰ぎます。そして、とくに不審点がなければ、そこで切り上げます。ステップ❷……気合いモード「さようでございますか」などのあいづちで調子を合わせつつ、相手の言動をじっくり観察する段階です。脅し文句や話の脈絡にも注意を払います。曖昧なところや疑問点につい

てストレートに質問するのは、この段階に入ってからです。ただし、詰問するようなキツい口調にならないように注意します。職質でも同様に、「そうなんですか」「なるほど」「……ということなんですね」とあいづちを打ちながら、もっぱら聞き役に回ります。そうすれば、こちらが少々粘り強く絡んでいっても、相手はそれほど不快感を覚えません。一方、警察官は穏やかな目の奥から、相手の一挙手一投足を注視しています。ステップ❸……追及モード相手の本音を引き出せたら、「ご検討いただけませんか?」などと、こちらから解決策を提案する段階に入ります。または、できることと、できないことを伝えたうえで相手の希望を聞いたり、「できないことは、できない」とはっきり告げます。職質では、疑問点を指摘して、不審なところがあれば所持品を提示させたり、氏名や住所を確認したりします。場合によっては、交番に同行を求めることもあります。なぜ、クレーマーの自宅訪問は「3人」が理想的なのか?クレームが発生すると、担当者がお詫びと実態把握のためにクレーマーの自宅を訪問することがあります。その際、クレーマーの話を聞くだけでなく、その態度やしぐさを観察することで、見えてくるものもあります。刑事ドラマでおなじみの「ガサ入れ(家宅捜索)」では、捜査員はやみくもにあちこち探し回っているわけではありません。容疑者の表情やしぐさから、隠し場所を推察しているのです。たとえば、捜査員が居間を捜索しているときはジョークを飛ばしていた容疑者が、寝室に入ったとたん落ち着きがなくなることがあります。クレーム担当者は、事実確認のために、スマホやデジタルカメラ、ボイスレコーダー、筆記具、検体を持ち帰るポリ袋やタッパーなどを持参していますが、実態把握のためには「モノ」だけでなく「ヒト」を観察することも忘れないでください。また、クレーマーの自宅を訪問するときは、複数で行くのが原則です。理想的には3人です。ひとりは聞き役、もうひとりは記録係、そして残った1人は屋外で待機し、トラブルが起きそうな気配を感じたら、応援に入ったり、警察に通報したりします。また、3人がローテーションを組めば、3回の訪問までは「違う顔ぶれ」でクレーマーに会うことができるというメリットもあります。なお、事前に周辺で聞き込みするのは、クレーマーの気分を害する恐れがあるので、やめておきましょう。

クレーマーの攻勢をかわす3つのフレーズこちらの落ち度かどうかもわからないのに、相手が執拗に理不尽な要求を繰り返すようなら、「ギブアップ」するのが得策です。ギブアップといっても、相手の言いなりになるわけではありません。次の3つの代表的なフレーズを使って「即答できない」ことを繰り返し伝え、攻勢をかわすのです。「私ひとりでは判断できません」「大切なことですから、しっかり協議してお返事いたします」「お急ぎかもしれませんが、今すぐというわけにはいきません」担当者はその場から逃げ出したり、後ずさりしたりするのではありません。身体を開きながら、一歩斜め後ろに身を引くというイメージです。こちらに突進してくるクレーマーは、目標を見失って自らバランスを崩すでしょう。柔道の「体さばき」をご存じでしょうか?投げ技を仕掛ける際、片足を後ろに引いて相手に対して直角になる「後ろさばき」というものがありますが、そんなイメージをもってください。こんなケースがありました。食料品店の事例閉店間際の食料品店に、「今日買った佃煮を夕飯で食べたら、腹が痛くなった」と訴える男性が訪れた。男性は、とくに苦痛を我慢している様子ではなかったが、「これから病院に行くから、タクシー代がほしい」と言う。店内にはまだ数人のお客様がいたが、チーフが最寄りの救急病院までタクシーで同行した。「どうして店長が来ないんだ?」と、男性は不服そうだった。一方、男性が持参した現物と購入履歴を店長が確認すると、たしかに賞味期限が2日間切れていた。すぐに現物を冷凍保存した。病院で診察を受けた男性は、どこか様子がおかしい。ときおり、診察室から男性のとがった声が聞こえてくる。どうやら医師と言い争いになっているようだ。しばらくして診察を終えた男性を、チーフが自宅までタクシーで送った。今後の対応については、後日あらためて話し合うことになった。翌日、店長は保健所に連絡し、賞味期限切れの佃煮を販売した事実について報告するとともに、現物の病原菌検査を依頼した。その後、男性宅を訪問するために電話を

かけると、「まだ気分が悪い」ということで話し合いは延期された。その2日後、店長はチーフをともなって男性宅を訪れ、謝罪した。しかし、店長がそれまでの経過報告を行っている途中で、男性は話をさえぎって言った。「診療費はどうした?」「はい。今回の診療費は支払わせていただきます。今後につきましては、診断書を拝見してから、対応させていただきたいと考えております」すると、こともなげにこう言う。「休業補償をしろ!もう3日も仕事を休んでいるんだ。明日も仕事に行けるかどうかわからない」店長が押し黙っていると、さらにたたみかけてきた。「子どもがまだ小さいし、家計が苦しいんだよ。実際に賞味期限切れだったんだろ。それぐらいのことはしてくれてもいいんじゃないか?」「私ひとりでは判断できません。大切なことですから、しっかり協議してお返事いたします」ここで、苦しまぎれに「そうですか。わかりました」などと安請け合いをしては絶対にいけません。ギブアップトークで応じるのが賢明です。しかし、相手が納得するとは限りません。むしろ、「はい、そうですか」と引き下がるケースは稀でしょう。実際、このときも、男性は納得しませんでした。続きはこうです。「なにを言ってるんだ!こっちは来月の生活費も心配なんだよ。いま、ここで結論を出せ!」「お急ぎかもしれませんが、いますぐに、というわけにはいきません。しっかりと協議をしてお返事をさせていただきますので、あらためてお名前、ご連絡先、ご住所を正確に教えていただけますでしょうか?」こんどは男性が色めき立った。「そんなに簡単に個人情報を出せると思うのか?」店長はこう切り返した。「今回の件は重大ですので、しっかり協議をしてはっきりお返事をするためにも、お名前とご住所、ご連絡先をお聞きして、上に詳細を報告する責任があります」このように「即答できない」という姿勢を貫けば、クレーマーも徐々に気勢を削がれていくのが普通です。ところが、この男性は、さらに噛み付いてきました。

「オマエじゃ話にならん。責任者を出せ!」「私が責任をもってお聞きし、十分に協議したうえで、しっかりとお返事させていただきます」早く決着をつけたいクレーマーは、決裁権者と話そうとします。しかし、「責任者を出せ!」と言われたからといって、すぐ上司にバトンタッチする必要はありません。まずは担当者として「私が責任を持って対応させていただきます」と答えるのです。ただ、そうすると「責任者なら、いま、ここで結論を出せ!」と話が逆戻りしてしまうことがあります。中小企業の経営者や商店主などは、実際に矢面に立ってクレーム対応していることも多いでしょう。その場合には、次のようなギブアップトークでクレームを「終結」させます。「私は責任者ですが、お客様からのお申し出は非常に大切なことなので、私だけでは判断できません。協議してお返事したいと思いますので、お名前とご住所、連絡先を教えてください」店長は、そう繰り返した。すると、男性は「それで責任者か?頼りないやつだなぁ」と挑発してきた。店長のプライドを揺さぶっているのである。しかし、店長は落ち着いてこんなふうにかわした。「はい、情けないことです」つまり、ギブアップトークとは、相手の土俵に上がらないということです。本項目で紹介しているフレーズは、悪質なクレーマーが発する脅し文句のほとんどに通用することがわかると思います。「いまから会いに行く」と言われたら、「お急ぎかもしれませんが、今すぐというわけにはいきません」と応じます。「治療費を払え」「精神的苦痛の補償をしろ」などと要求されたら、「私ひとりでは判断できません」「大切なことですから、しっかり協議してお返事いたします」と、かわせばいいのです。また、「詫び状を書け!」「謝罪文を出せ!」「社告で詫びろ!」「一筆書け!」などと、迫られることもあります。こうした要求を安易に承諾してはいけません。なぜなら、悪質クレーマーは、それらに書かれた内容を自分の都合のいいように拡大解

釈して、あの手この手で攻めてくる可能性があるからです。たとえば、「誠意をもって対応します」という一文を盾にして法外な補償を求めてきたりします。そこで、担当者としては「私ひとりでは判断できません。大切なことですからしっかり協議してお返事いたします」と言っていったん持ち帰り、上司や弁護士などと協議するようにします。

焦らせるクレーマーにはこう対応せよ結論を急がせるのは、クレーマーの常套手段です。「今すぐ○○しろ!」という要求には、「お急ぎかもしれませんが、いますぐというわけにはいきません」と、ギブアップトークで切り抜けることが基本です。ところが、頭では理解していても、咄嗟のことなので迷いが生じます。つねづね顧客満足を意識している真面目な人ほど、その傾向が強いようです。担当者としての「説明責任」をしっかり果たそうとする意識が働くのです。しかし、「いますぐに来い!」「早くしろ!」「もう待てない!」と言われたからといって、必ずしもその指示に従う必要はありません。飲料メーカーの事例「栓を抜くとき、指を切った」20代後半の男性から、「缶入りエナジードリンクでケガをした」と飲料メーカーの東京本社にクレーム電話がかかってきた。「オレは仕事中だが、いますぐに来い!」と凄みのきいた声で担当者に迫った。男性は工事現場で働いており、その作業中にケガをしたらしい。担当者は、男性の剣幕に圧倒されて「はい、すぐに行きます」と答えてしまった。ところが、男性が住んでいるのは関西地区だった。担当者は近隣の営業所に連絡して、対応を検討した。私の携帯電話が鳴ったのは、その直後である。関西エリアの営業所長からだった。「いま、東京本社から電話があったのですが、たいそう怒っているお客様がいるらしいんです。『いますぐに来い』と言われたらしいのですが、私ひとりでは不安です。同行していただけませんか?」「昨日から講演で東京に滞在しています。いまから行くのは無理ですが、深刻なんですか?」私はそう言って、営業所長からおおよその事情を聞いた。男性は、もともとこの飲料が好きで、日常的に飲んでいたらしい。本人によれば「1日に2〜3本は飲む」そうである。それほどのヘビーユーザーであるにもかかわらず、製造元に怒りをぶつけてきたのである。缶入り飲料の栓を抜くとき、まれにケガをすることはあるかもしれませんが、これで激高するというのは、いささか不自然です。私は男性に電話で様子を聞いてみました。

「先ほどは、担当の者が失礼いたしました。おケガの具合はいかがでしょうか?」「医者には行っていないけど、ばんそうこうを張って血も止まっている」急を要する事態でないことを確認してから、こんなふうにお詫びした。「このたびは、ご不快な思いをさせてしまい、たいへん申し訳ございませんでした。お怒りのお電話をいただき、担当者がこれからご訪問させていただくと申し上げてしまいましたが、すぐにうかがうことはできかねます。恐れ入りますが、お時間をいただけますでしょうか?」この時点で、男性はずいぶん冷静さを取り戻していた。この後しばらく、「お仕事に差しさわりはありませんか?」「病院に行かれますか?」などと話をしていると、男性から「もうええわ」という返事をもらうことができた。最終的には、「見本の1ダースを送らせていただきます」と申し出たところ、男性は「ああ、ありがとう。これで1週間は安泰やな」と言って苦笑した。私はクライアントから、「訪問の約束をしてしまいましたが、よく考えたら、いま職場を抜けることはできません。どうしましょう」という相談を受けます。そんなときは、丁寧な口調で前言を撤回し、お詫びすればいいのです。準備不足で面談に臨んでも、得るものは少ないでしょう。もし、相手が指定する時間に間に合わなければ、2次クレームに発展してしまいます。クレーム担当者は、完璧に対応しようとするあまり、やらなくていいことをしてクレームを長期化させたり、2次クレームを引き起こしてしまうのです。時間稼ぎも立派な戦術話がこじれてきた段階では、むしろ時間をかけることのメリットを最大限に利用することを考えるべきです。たとえば、商品の瑕疵を調査するのに一定の時間を確保することは、事実関係をはっきりさせるというだけでなく、こちらの「地固め」にもつながります。家電メーカーの事例「購入したばかりの冷蔵庫が水漏れして、フローリングの床が変色した」家電メーカーのサービスセンターに、中年男性からクレーム電話が入った。怒気を含んだ声は迫力満点。電話に出た担当者が事実関係を確認しようとすると、男性はいっそう声を荒げてまくし立てた。「なにをごちゃごちゃ言ってるんだ!冷蔵庫の中のものが腐っていくじゃない

か!すぐに交換しろ!床もびしょびしょだ。床の修繕費を支払え!カミさんはいま妊娠してるんだ。修繕が遅れて滑って転んだら責任をとってくれるのか?それにオレの休業補償をしろ。今日、会社を休んだんだからな」このケースでは、男性の要求があまりに多岐にわたるため、事実確認と並行して、対応策を検討しなければなりませんでした。当日、担当者がお詫びの訪問をした後、現場写真を撮影し、鑑定に1週間程度を要することを伝えました。最終的に、冷蔵庫の無料修理と床の補修費を支払いましたが、それ以上の補償は免れました。

ネットモンスターには「K言葉」で対抗するギブアップトークとして、覚えておくと便利なフレーズが「K言葉」です。K言葉とは、「困りましたね」「苦しいです」「怖いです」というフレーズです。クレーマーの理不尽な要求に対して回答するのではなく、「私ではどうしようもない」とお手上げの状態を演出するのです。たとえば、最近、「ネットに流すぞ!」というクレーマーが増えています。ひと昔前は「マスコミに言うぞ!」「ビラをまくぞ!」がクレーマーの常套句でしたが、今は、このフレーズのほうが脅威です。とりわけSNSは、企業や店舗にとって、自社商品の広告宣伝に欠かせないツールになりました。ホームページやブログのほか、ツイッターやLINE、フェイスブック、さらにインスタグラムと、顧客との接点がどんどん増えています。しかし、SNSは、ビジネスチャンスを広げると同時に、クレームの温床にもなっています。相手から「ネットで……SNSで……」と脅し文句を浴びせられれば、つい「やめてください!」と口走ってしまうかもしれません。しかし、これは禁句です。その時点で、クレーマーと担当者のパワーバランスが完全に崩れてしまうからです。「ネットに流すぞ」「SNSで拡散するぞ」「ツイッターに投稿するぞ」などと言われても、「困りましたね。でも、私どもがとやかく言える立場ではありませんから……」と、K言葉で相手の言葉を引き取ればいいのです。食品メーカーの事例食品メーカーの営業担当者が、クレーマーの自宅を訪問したときのこと。「これ、異物混入事件だろ。なめとんのか!」中年男性は開口一番、声を張り上げた。身なりはごく普通で、車庫には高級車が駐車してある。いわゆる「ブラッククレーマー」ではない。この1週間前、男性は、食品メーカーに「ヨーグルトにゴミが入っていた」と電話をかけてきていた。応対した窓口のオペレーターは、いつもの手順でお詫びと事実確認をした。とくに失言があったわけではないが、途中から男性はしだいに興奮し始め、最後は一方的に電話を切ってしまった。当時、ほかの食品メーカーでも異物混入が発覚し、マスコミでも大々的に取り上げられていた。男性は少なからず、その影響を受けているようだった。男性は、担当者を玄関口に立たせたまま、文句を言い続けた。「オレが電話をしたのは、いつのことだ?今日か?昨日か?違うだろ!もう

1週間も経っているんだぞ!どうして、すぐに来なかったんだ!」担当者が釈明する。「お客様が電話をお切りになったあと、まずはお電話をお待ちしたほうがいいと思いまして」「じゃあ、いつ来るつもりだったんだ?異物混入だぞ。もし、体調が悪くなったらどうするんだ!」「申し訳ありません。まずはアポイントを取ってから、おうかがいしようと思いまして。それで昨日、『今日の午後4時に来るように』とのご指示をいただきましたので、こうして参上いたしました」担当者は口ごもりながらも、事情を説明しようとするが、男性の怒りはますます激しくなった。「お客の自宅に来るんだから、その直前に電話をしろよ。待ち伏せみたいな真似をするな。明日、出直してこい!」と怒鳴った。とうとう担当者は黙り込んでしまった。男性はさらに追い打ちをかけた。「ネットに流したほうが、オタクみたいな会社はまともに対応するんだろうな。会社の実名入りで書いてやろうか?」男性は、必殺フレーズとして「ネットに流す」を繰り出したのです。担当者にしてみれば、胃が痛くなるほどのストレスを感じるはずですが、ここで脅し文句にひるんではいけません。「そんなことは、やめてください」と懇願すると、「それなら、どうしてくれるんだ?」と、要求をエスカレートさせかねません。この事例では、ここで私に連絡が入ってきました。営業所の担当者から、私の携帯電話に連絡が入った。「いま、お時間いいですか?ちょっとご相談がありまして」と沈んだ声が聞こえてくる。担当者は、それまでの経緯をかいつまんで説明し、私に応援を求めた。私はトラブル対応を最優先するため、担当者を同伴して男性宅を訪問した。男性は再び前回と同様の苦情を繰り返した。私はひととおり話を聞いたあと頭を下げた。「今回の件につきましては、私どもの不手際でご迷惑をおかけいたしましたこと、誠に申し訳ございません。重ねてお詫び申し上げます」しかし、男性は憮然とした表情のまま、返事もしない。クレームの発生からかなりの時間が経過し、振り上げた拳の下ろし方がわからなくなっていたのかもしれない。そして、玄関先でタバコをふかしながら、こう言い放った。「そば屋の出前じゃあるまいし、もう少しまともなことを言ったらどうだ!ネットに流すぞ!」同行した担当者は青ざめた。そこで私がこう切り返した。

「ネットですか。困りましたね。でも、お客様の行動に対して、私がとやかく言える立場ではありませんから」男性は一瞬、「アレ?」という表情を見せた。その後、男性の興奮は徐々に鎮まっていった。このように、K言葉で「暖簾に腕押し」「糠に釘」の状態にもっていけば、クレーマーは「手詰まり感」を覚えます。「消費者団体に通報するぞ!」「保健所にかけ込むぞ!」「消費者庁に告発するぞ!」などと言われた場合も、「困りましたね、でも……」とK言葉で応じます。そのうえで、「当局からの指導があれば、その指示に従うことになります」と明言すればいいのです。「困りましたね」がK言葉の基本ですが、「苦しいです」「怖いです」も同様に使うことができます。たとえば、「どうするんだ?」と、じわじわ迫られたら「そのように責められると、苦しいです。どうしていいかわかりません」などと応じます。「ふざけんな!」と大声で怒鳴られたら、「大きな声で怒鳴ることはやめてください。私、怖くてこれ以上、対応できません」と応じればいいのです。おうむ返しで「やりすぎた感」を持たせる「相手の土俵に上がらない」という意味では、相手の意見に同意も反論もせず、「おうむ返し」するのも効果的です。相手の訴えが嘘ではないかと疑問を感じたり、恐怖を感じたりしたときに、一度試してみてください。たとえば、「痛くて痛くて、夜も眠れん」とおおげさに体調不良を訴えるクレーマーに対しては、「痛くて痛くて、夜も眠れないんですね」と応えるのです。絶対に「本当ですか?」と言ってはいけません。また、「死ね」などと恫喝されたら、「死ね、ですか……」とおうむ返しをして、「怖いです」とK言葉につなぐといいでしょう。さらに恫喝が続くようならば、「地元の警察(○○署)に相談します」「弁護士と協議します」と伝えます。すると、次の事例のように、クレーマーはたいてい、それ以上追及してこなくなります。衣料販売会社の事例中年男性が、衣料販売会社のコールセンターにクレーム電話をかけてきた。その迫力に恐れをなしたオペレーターに代わって私が対応したが、男性は私の説明にも、まったく耳を貸さない。

「商品の交換?クーポン券?そっちが決めるもんちゃう!どないすんねんボケ、許さんぞ。頭おかしいんか!何わけのわからんこと言うてんねん!」私は、これ以上の話し合いは不可能と判断し、モードチェンジした。「こんなに怒鳴られると対応できませんので、電話を切らせていただきます」「やかましいわ、ボケ。なめた態度しやがって、半殺しやぞ」「半殺し、ですか。怖いですね。警察に相談に行ってきます」男性は「なめとんな、アホんだら」と言い放って電話を切った。ところが、しばらくして再び電話がかかってきた。「オレ、口悪いけど、そんな悪い男とちゃうから。半殺しいうても、殺さんだけマシやろ」と、妙な理屈でその場を取り繕おうとした。

無理な要求をやわらかく突き返す「断りの3段話法」クレーマーが怒りにまかせて罵詈雑言を繰り返すだけなら、「ギブアップトーク」で沈静化することがほとんどです。しかし、それでもなお、無理難題を突きつけてくるクレーマーもいます。このレベルになると、確信犯的で、社会通念から完全に逸脱したブラックゾーンに近いクレームも増えてきます。たとえば、「誠意を見せろ!」という脅し文句の背後には、金品や特別待遇の要求が見え隠れしています。「慰謝料を支払え!」「迷惑料を払え」という言い方になる場合もあります。また、「土下座しろ」「クビにしろ」などと無茶苦茶なことを言い出すクレーマーもいます。ステップ❶……「すみません」丁寧な口調で拒否の意思を伝えます。ステップ❷……「恐れ入りますが、……できません(できかねます)」クッション言葉を添えて、はっきり断ります。ステップ❸……「無理です(できません)」断定的に拒否します。この3つのステップでクレーマーの要求を押し戻すのです。メーカーとスーパーが連携したの事例大手スーパーで販売されていたベビーフードがもとで、乳児がアレルギー症状を起こし、救急搬送されるという事故が起きた。ベビーフードを購入した母親は、製品の成分表示に不備があるとしてメーカーの責任を追及するとともに、陳列方法にも問題があったとして、スーパーに対してもクレームをつけた。「ベビーフードを食べてから30分ぐらいしたら、全身が腫れ上がって呼吸も困難になった。いま入院中だけど、これまでにかかった治療費を払ってほしい」事実確認をすると、たしかに乳児は急激なアレルギー反応を起こしていた。しかしその一方で、母親が製品表示をよく確かめてから買ったわけではなかった。製品の裏面にはきちんと成分が表示されており、念のために「乳幼児向け商品ではない」ことも記載されていた。食品衛生法上、何も問題はなかったのである。また、スーパーの陳列についても、消費者を混乱させるようなPOP広告などは見

当たらず、問題なしと結論づけられた。そこで、メーカーとスーパーは共同で対応方針をまとめ、母親と面談した。ところが、母親は、会社側の説明には一切、耳を傾けない。「こんな書き方をしていたら、誰だって間違うでしょ。それに、この商品が置いてあったのは、ベビーフードのすぐ近くだった」の一点張りである。会社側は、お見舞いを兼ねた訪問を重ねたが、かえって母親の態度は硬化していった。「誠意を見せてちょうだい!慰謝料もほしいわ」これを受けて、会社側はこう告げざるをえなかった。「製品表示や販売方法について瑕疵がなく、誠に恐縮ですが、費用の負担はいたしかねます」その後も母親は費用負担を要求したが、そのつど「お気の毒ですが、総合的な判断によって、ご要望にはお応えできないという結論に至りました」と答えた。思い入れが強いクレーマーほど、「どうしてできないんだ?」と詰め寄ってくることが多いものです。そうした場合、私は「総合的判断によって」「社会通念上」といった言葉を使いながら断りの意志を示すことがあります。一般に、こうした言葉は「上から目線」をお客様に感じさせるため禁句だとされますが、クレーマーの悪意がはっきり見えてきたら、もうその時点で「お客様扱い」をする必要はないのです。裁判を見越した「警告の5ステップ」また、しつこいクレーマーを退けるには、段階的に「警告」をしなければならないこともあります。たとえば、クレーマーが交渉のために会社にやってきて、同じことを何度も繰り返して、何時間も粘って帰ろうとしなかったとしましょう。もし相手に帰る気配がなくても、「交渉」を前提にしている以上、強制的に退去させることは困難です。その場合は、「これ以上、お話しすることはありません。業務に支障が出ますので、お引き取りください」と告げます。つまり、長時間束縛されていることについて、「迷惑しているので帰ってください」と明確に伝える必要があるのです。それでも、まだ相手が居座るようなら、こう言ってプレッシャーをかけます。「お帰りにならないのであれば、警察に通報します」万一、それでも居座り続けたら、実際に110番通報します。こうした、少々面倒な手順を踏む必要がある理由は、クレームが裁判にまで発展したとき、

「なぜ、はじめに注意するなり、管理措置をとらなかったのか?」「放置することで悪質性を際立たせ、犯罪者に仕立て上げているのではないか?」と問い詰められないようにするためでもあります。弁護士は「帰れ3回、不退去罪」という言い回しをします。これは「帰ってくれ」と明確に3回告げているにもかかわらず、相手が居座り続けた場合に「不退去」の要件を満たす、ということを示しています。クレームの現場においては、次の5つのステップを踏めば間違いはありません。①「これ以上は対応できません」→②「業務の支障になります」→③「お引き取りください」→④「警察に通報します」→⑤「警察に通報しました」訪問先で何時間も缶詰め状態にされた場合も、「すぐに結論は出せませんので、今日は帰してほしい」と、勇気を持って伝えなければなりません。もし、相手が強引に引き止めたり、拘束したりすれば、これは違法行為(強要罪)とみなされます。行き過ぎた謝罪は自分の身を滅ぼす「土下座しろ」「クビにしろ」も、明らかに行き過ぎた要求です。クレーマーは相手に非を認めさせ、怒りをぶちまけて溜飲を下げようとしているわけですが、土下座や解雇の強要は違法行為(強要罪)です。仮にこちらに落ち度があったとしても、担当者が土下座したり、従業員を解雇したりする義務はありません。そもそも、土下座を「誠実な態度」と考えるのは間違いです。かつて、不祥事を起こした企業のトップが、謝罪会見の場で土下座したことが話題になりましたが、この光景を見て、企業の姿勢を評価する声はほとんど聞かれませんでした。土下座したからといって、誠実さが伝わる時代ではありません。また、従業員の接遇態度にクレームがつけられたからといって、その従業員の仕事や身分を奪うことは許されません。従業員の接客態度に対するクレームなら、「従業員の教育を徹底するとともに、その者の処分は当社の規定に則って行います」と伝えます。土下座や解雇の要求に対しては、「人権上の観点から、そのようなことはできません」と、人としての尊厳や基本的人権を脅かす行為であることを示唆します。前述の「おうむ返し」を併用すると、いっそう効果的です。「お客様は土下座しろ(クビにしろ)と、おっしゃるのですね。それは強要罪に当たりますので、私どもとしても看過できません」

こう、きっぱり言い切るのです。

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