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2章 決まったことを、決まったとおり、キチンとやる ──「経験」と「勘」を排除せよ

目次

2章 決まったことを、決まったとおり、キチンとやる ──「経験」と「勘」を排除せよ

マニュアルをつくったところが「仕事の始まり」

なぜ「仕組みをつくる」と「実行力が生まれる」のか

年間四四〇件の「現場の知恵」を逃さない

いいマニュアルは「新入社員でも理解できる」

視野を広げる方法──仕事の「何・なぜ・いつ・誰が」

「隠れたムダを見つける+生産性を上げる」法

あなたの仕事のやり方〝最新版〟になっていますか?

なぜ「商談のメモを部署全体で共有する」?

「七〇〇〇件の苦情を一〇〇〇件に減らした」リスク管理法

マニュアルで「人材を育成」する

マニュアルで「人材育成をする人を育成」する

「見える化→提案→改善」という循環

「結果的に正しい道」を歩こう

2章 決まったことを、決まったとおり、キチンとやる ──「経験」と「勘」を排除せよ

マニュアルをつくったところが「仕事の始まり」

「無印良品には、マニュアルがある」という話を聞き、驚かれた人は多いでしょう。無印良品の店舗に行ったことがある方ならわかると思いますが、スタッフがお客様に商品を積極的に売り込んだりするわけではなく、始終「いらっしゃいませ」と呼びかけているわけでもありません。お客様は、自分のペースで商品を見て回れる雰囲気になっています。この雰囲気こそ、無印良品を無印良品たらしめている一因だといえます。ただ、雰囲気をつくりあげるのは、スタッフ一人ひとりの個性ではありません。MUJIGRAMというマニュアルにのっとって店づくりをし、スタッフを教育してつくりあげているのです。日本では、マニュアルという言葉にネガティブなイメージがあります。マニュアルを使うと、決められたこと以外の仕事をできなくなる、受け身の人間を生み出す、とよく指摘されています。無味乾燥なロボットを動かすような、画一的なイメージがあるようです。しかし、そういう人をつくるのが無印良品の目的ではありません。むしろ、マニュアルをつくれる人になるのが、無印良品で目指すところなのです。無印良品では、店舗で使うマニュアルを「MUJIGRAM」、本部(本社機能をもつ)で使うマニュアルを「業務基準書」と呼んでいます。「マニュアル」と呼ぶと、仕事を厳密にコントロールするツールのように思われてしまいそうなので、独自の名前をつけることにしたのです。MUJIGRAMも業務基準書も、目的は「業務を標準化する」ことです。それまでの無印良品では、店長が思い思いに店をつくり、スタッフの指導もしていたので、店ごとにバラつきがありました。それでは、お客様が〝どの店に行っても同じ商品を手に取り、同じサービスを受ける〟ことができなくなってしまいます。どこの地域の無印良品に入っても、「無印らしさ」を感じてもらえるようにするには、店づくりも接客などのサービスも統一しなければならなかったのです。現在、MUJIGRAMを読まずに店舗のスタッフが本部に質問しても、「それはMUJIGRAMで確認してください」と突き放します。

そこまでマニュアルを重んじていたら、社員やスタッフがマニュアルに依存してしまうのではないか、と思う人もいるでしょう。しかし、そもそもマニュアルは社員やスタッフの行動を制限するためにつくっているのではありません。むしろ、マニュアルをつくり上げるプロセスが重要で、全社員・全スタッフで問題点を見つけて改善していく姿勢を持ってもらうのが目的なのです。社員がマニュアルに依存してしまっているとしたら、そのマニュアルのつくり方や、使い方に問題があるのでしょう。マニュアルをつくること自体は問題ではなく、方法が悪いのです。本章で、無印良品ではいかにマニュアルをつくりあげ、活用しているのかを紹介するので、ぜひ参考にしていただきたいと思います。くわしくは後述しますが、マニュアルは社員全員でつくり、常に〝仕事の最高到達点〟であるべきだと、私は考えています。そのためには、定期的に改善し、更新していく必要もあります。マニュアルをつくったら、そこで一つの仕事は終わったと考えてしまいがちですが、そうではありません。マニュアルをつくったところから、仕事はスタートします。マニュアルは、仕事のマネジメントツールなのです。

なぜ「仕組みをつくる」と「実行力が生まれる」のか

かつての無印良品では、たとえば本部が共通の販売企画を考えても、各店で実行されるまでに相当なタイムラグが生じていました。イトーヨーカ堂が強いのは、本部から通達があると翌朝にはすべての店の売り場が出来上がっている──という実行力に優れているからです。セゾングループではそれが、一週間から一〇日ぐらいかかっていたのです。このままでは変化の早い今の時代には対応できません。そこで、実行力のある企業にするには、オペレーションをもっと科学的にしなければならないと考え、取り組んだのがMUJIGRAMでした。機動力のある現場にするためには、仕事を標準化すること。誰もが実行できる素地を整えなければ、その先の発展もないと考えたのです。同時に、MUJIGRAMが必要なのは、お客様がどこの無印良品に行っても同じ商品を同じサービスで受けられるようにする最低限の基準を定めるためです。このように、会社の仕組み・マニュアルをつくるときには、その「目的」をはっきりさせておくことが大事です。マニュアルによって、社員の仕事のレベルを均一にしたいのか、コストを削減したいのか、作業時間を短縮したいのか……企業によっても部署によっても、解決したい問題は異なるでしょう。これが定まっていないと、現場で使えないマニュアルになりかねません。そこで、参考までに、マニュアルをつくることによって得られるメリットを、五つに絞って紹介しましょう。実際にMUJIGRAMを作成し、運用するうちに、マニュアルには以下のような、想像以上の効果(=目的)があると感じました。①「知恵」を共有するMUJIGRAMは本部だけでつくるのではなく、現場(店)で働いているスタッフの知恵をすくい上げて一つにまとめています。これにより、すぐれた知恵や経験を全員で共有できるようになり、個人の経験を組織に蓄積できます。②「標準なくして、改善なし」マニュアルづくりとは、すなわち仕事を標準化させることです。

同じ業務を誰が行っても、同じようにできるようにする。そうやって一つのフォーマットをつくりあげ、さらに改善していくと、組織全体が進化します。標準をつくらないうちに改善しようとしても、迷走するだけです。何事も基本なくては応用がないのと同じで、無秩序な創意工夫は力になりません。仕事も基本となる標準を固めないと、社員が応用して自分の頭で考えて働けるようにならないのです。③「上司の背中だけを見て育つ」文化との決別上司が自分なりのノウハウをつくり、それを直属の部下だけに教えるのは、どの企業でも行われていると思います。一昔前なら、上司がじっくり部下を教える時間もありましたが、変化の早い現代はなかなかその時間をとれないのが現状です。背中だけを見せて育てる文化とは決別し、マニュアルという目に見える形にすれば、上司が部下を効率的に指導できるようになります。④チーム員の顔の向きをそろえるそれぞれの業務を何のためにするのかという「目的」を確認することは大事です。これをマニュアルに明記すると、それぞれの判断で勝手に動くことがなくなり、仕事にぶれが生じません。さらにいえば、マニュアルは組織の理念を繰り返し伝えるためのツールでもあります。理念を伝え続けると、チーム員の志を一つにできる、すなわち顔の向きをそろえられるのです。⑤「仕事の本質」を見直せるマニュアルをつくる段階で、普段何気なくしている作業を見直すことになります。たとえば、時間が足りないからと毎日のように残業をしているのなら……本当に時間が足りないのか。もしかしたら、自分では必要だと思っている作業に、ムダがあるのではないか。そうやって自分の仕事を改めて考えるうちに、「どのように働くべきか」「何のために働くべきなのか」という仕事の本質に近づけるようになるのです。マニュアルとは組織の体質を根本的に変えるために必要なツールです。そのためには作業の一つひとつの意味を考え直さなければならないので、仕事の仕方や姿勢を深く掘り下げるきっかけにもなるでしょう。

年間四四〇件の「現場の知恵」を逃さない

多くの会社では、マニュアルは〝上の人たち〟が作成しているでしょう。トップダウンで決めごとをつくり、現場に渡しているのではないかと思います。無印良品でも、最初のマニュアルは本部主導で作成していました。けれども、店舗で頻繁に使われ、すべての店の業務を統一するというレベルにまでは達しませんでした。なぜなら、「現場を知らない人」がつくっていたからです。現場の問題点を知っているのは、やはり現場の人間です。埃がたまりやすい場所がある、棚の角が出ていて作業がしづらいといった、ちょっとした問題点は、本部の人間がたまに視察に訪れるくらいでは、なかなか気づきません。マニュアルをつくるときは、この知恵を拾い上げる、つまりボトムアップの仕組みを整えることが大切です。マニュアルは、それを使う人が、つくるべきなのです。また、特定の部署だけがつくるのではなく、必ずすべての部署に参加してもらうこと。さらにいうなら、すべての社員が参加できる道筋を整えておくのがコツです。MUJIGRAMをつくるにあたっては、「顧客視点」と「改善提案」の二つを大きな柱にしました。顧客視点というのは、お客様からのリクエスト、クレームを指します。具体的には、顧客視点シートというソフトをつくり、売場でお客様からいただいたご意見や、お客様の様子などから必要と思われることを、店舗のスタッフが入力するようにしました。これに加えて、スタッフの気付いた点や要望も別途入力できる欄を設けてあります。これが改善提案です。このとき、トラブルや不便な点を報告するのも大事ですが、改善点を自ら提案するのは、さらに重要です。これにより、問題点を自ら解決しようという能動的な姿勢が生まれます。なかには、シートで報告する際に画像を添付して、「ここをこう変えたらどうか」とアイデアを提案するスタッフもいます。これこそ、現場で生まれた知恵です。こうした現場発の意見を、まずエリアマネージャーが選別します。重複しているものはないかなどを精査してから、本部に意見を上げていくのです。本部にもマニュアルを精査する部門があります。ここでアイデアを採用するか、検討す

るか、不採用とするかを判断します。採用された案はMUJIGRAMに載せることになり、本部の各部門や店舗にフィードバックされ、それぞれのMUJIGRAMが更新されるのです。本部と店舗で直接やり取りするのではなく、エリアマネージャーを経由させるのは、全社で問題意識を共有するためです。本部だけでつくったら現場では役に立たないマニュアルになり、現場だけでつくったら費用対効果が悪いマニュアルになる可能性があります。本部も現場も、そして中間の立場であるエリアマネージャーもすべてが関わることで、バランスのとれたマニュアルになっていくのです。ある年の例を挙げると、年間二万件くらいの要望が現場からあがり、そのうちの四四三件が採用されて、MUJIGRAM化されました。そして改善点が各々の現場で実行されて、標準的な業務になっていきます。こうして初めて、マニュアルはその目的が達成されるのです。リーダーは、現場のアイデアを検証してまとめるのが役割です。もし、リーダーのやり方に従ってもらうためにマニュアルをつくろうとすれば、必ず現場とのズレが生じるでしょう。マニュアルづくりは一方通行ではなく、双方向の道筋を整えるのが、成功の秘訣なのです。

いいマニュアルは「新入社員でも理解できる」

ビジネスの世界で〝わかりやすく書く〟ことの究極は、新入社員が読んでも理解できるような言葉で、かつ具体的に説明することでしょう。マニュアルをつくるときも、同様です。MUJIGRAMでは、「インナー」「POP」といった簡単な用語を解説するページもつくっています。「それぐらいの言葉、みんな知っているのでは?」と思うかもしれませんが、無印良品は学生さんのアルバイトも多いので、我々が普段使っている言葉でも意味が通じない場合も多いのです。また、その会社独自の言葉の使い方をしているケースもあります。「ウインドウ」は一般的には窓ですが、無印良品ではウインドウディスプレイを指します。このように、社内で頻繁に使う言葉の意味も明記しておくと、話の行き違いが少なくなります。こういう小さなポイントも、意思を統一させるためには見逃せません。専門用語や符丁を多用すると外部(他社、あるいは他部署)の人間にはわからなくなり、ともすると閉鎖的なグループをつくってしまいます。それは組織が硬直化する原因の一つにもなります。さらに、どこまで具体的に説明するかが、マニュアルに〝血を通わせる〟最大のカギとなります。たとえば、「丁寧にお客様に説明する」という説明では、「丁寧」のとらえ方が人によって異なるので困ってしまいます。ある人は「言葉遣いをきちんとすることだ」ととらえるかもしれませんし、「説明の仕方を親切にすることだ」と判断する人もいるかもしれません。このように受け取り方や理解の仕方が人によって異なってしまうと、その仕事の方法は「基準」にはならないのです。したがって、マニュアルは徹底して具体化しなければなりません。「商品を整然と並べる」と指導しても、人によって「整然と」のとらえ方はまちまちです。これを統一させるために、「整然とはどういうものか」を定義づける必要があります。たとえばMUJIGRAMでは、〝整然〟とは、「フェイスUP(タグのついている面を正面に向ける)、商品の向き(カップなどの持ち手の向きをそろえる)、ライン、間隔がそろっていること」

と定義づけ、この四つのポイントがどういう意味なのかを、写真入りで説明します。読んだ人は誰でも、「整然とは何か」がわかるのです。誰にでもわかるようにするためには、いい例と悪い例を紹介するのも一つの手です。MUJIGRAMでは、売り場の商品のそろえ方について、いい例と悪い例を写真で説明しています。何がよくて何が悪いのかを一目瞭然にしておくと、判断に迷うこともなく、誰もが同じ作業を同じようにできるようになります。マニュアルの基本は、読む人によって判断軸がぶれるようなつくり方をしないこと。一〇〇人いたら一〇〇人が同じ作業をできるようにするのが、血の通う仕組みを根付かせるためにも重要なのです。

視野を広げる方法──仕事の「何・なぜ・いつ・誰が」

単純な作業や簡単な仕事になると、「なぜそれが必要なのか」が把握できず、手を抜いたり雑になるというのはよくある話です。たとえば、コピー取りやお茶くみなどの仕事をおろそかにしてしまう新入社員もいます。それでも、その仕事が、全体の仕事のなかでどのような位置づけにあるのかを説明すれば、取り組むときの意識は変わるでしょう。プレゼン資料をコピーするという作業も、何も知らずにするのと、企画の内容や規模、重要性を知ってやるのとでは取り組み方が違います。ただのコピーでも、自分のちょっとしたミスが何万円かの損害につながるかもしれないと意識したら、注意して資料をそろえるかもしれません。目の前の作業が何につながるのかを意識したとき、視野が広がって新たな視点を持てるようになります。さらに、目的を最初に伝えると、仕事の全体像を俯瞰できるようになるでしょう。MUJIGRAMでも各カテゴリーの冒頭に必ず、「なぜその作業が必要なのか」を記しています。肝心なのは、どのように行動するかではなく、何を実現するかです。どのような売り場をつくるのか、どのようなサービスを提供するのか、どのような商品をつくるのかを常に念頭に置いて仕事を進めないと、ただ言われたことをこなすだけになってしまいます。これは、「どのような会社にしたいか」「どのようなチームにしたいか」「どのような仕事をしたいか」という理念を浸透させるうえでも大切な考えです。会社の理念を紙に書き、額に入れて玄関口に飾ったり、朝礼のたびに唱和する会社もあるでしょう。もちろん、それも大事ですし、私も全体会議や合宿などでは必ず説いて聞かせています。しかし、理念や価値観は、ただ言葉で語って聞かせても、具体性や実践を伴わなければただの言葉です。理念は、それを実行するうちに、納得して、体に染みつくようにしなければなりません。無印良品では商品を陳列するときに柳の籠を使っていますが、柳のささくれで商品を傷つけてしまうケースがありました。それに気づいた現場のスタッフが「籠の内側にシート

をかぶせたらいいのでは」と改善要望で提案し、それがMUJIGRAMに採用されました。これも、「商品を大切に扱わなければならない」という価値観が具体的な形になった一つの例です。この価値観を持つようになれば、陳列の仕方を見直す意識が生まれて、どんどん問題点を発見できるようになります。そして、やがて、チームの理念が共有できるようになるでしょう。「社員全員の心を一つにしよう」とスローガンを掲げるより、同じ作業を全員でやるほうが、自然と心はそろっていきます。一例として、MUJIGRAMの「売り場の基礎知識」にはこう書いてあります。「売り場」とは何:商品を売る場所のことですなぜ:お客様に見やすく、買いやすい場所を提供するためいつ:随時誰が:全スタッフこのように、冒頭で「何」「なぜ」「いつ」「誰が」の四つの目的を説明してから、ノウハウの説明に入っていくというフォーマットになっているのです。「これぐらいのこと、言わなくてもわかるのでは」と思うかもしれませんが、その一方的な思い込みこそ、個人の経験や勘に頼りがちな風土をつくってしまうのです。コミュニケーションとは「言えば伝わる」のだと思いがちですが、実際は言ってもなかなか伝わりません。明文化して初めて意識できるものです。さらにそれを繰り返し教えることで、本当の意味で「体得した」というレベルになるのだと思います。

「隠れたムダを見つける+生産性を上げる」法

マニュアルを作成するときは、部署ごと、あるいはチームという単位で普段の業務を洗い出していくのが基本です。自分一人ではなく、複数の人が業務を一つひとつ検討することでムダを割り出せる。これが、マニュアルをボトムアップでつくるメリットの一つです。何から手を付けたらいいのかわからず、悩む人もいるかもしれませんが、そんなときは、まずは自分の普段の業務を見直すところから始めてみてもいいでしょう。営業部員なら、「電話をかけてアポを取る」ところから始めて、「商談で何を話すのか」「自社の商品やサービスの説明」「同業他社との比較」「先方の要望を聞く」など、交渉の際の業務まで細分化してみます。それを、すべての営業部員ができるように、明文化していくのです。このとき、ただ漫然と業務を書き出すのではなく、①本当にその業務は必要なのか、あるいは、②足りない業務はないかをチェックします。そうやって意識して見ると、普段何となくやっている業務にも多くのムダが潜んでいるのだと気付くことができます。たとえば、一日に何度もチェックしているメールも、見る回数を決め、返信するときにかける時間を決めておけば、メールチェックの時間を短縮できます。メールを読んでも返事を書くのを後回しにすれば、同じ作業を二度繰り返すことになります。小さな作業ですが、こういったムダが積み重なって、時間が足りなくなるケースがよくあるのです。無印良品の店舗では、売れた品を棚に補充するための「品出し」を、以前は頻繁に行っていました。これを、売れ筋の商品は多めに品出しをし、回転の悪い商品は一日一回と決めたところ、品出しの回数が減り、現場のスタッフは他の作業に回れるようになりました。さらに、回転の良い商品の売上げが上がるようになり、効率的に売上げアップを図れるようになったのです。このように、一つの作業を見直すだけで、生産性がアップする効果があります。

あなたの仕事のやり方〝最新版〟になっていますか?

仕事は「生き物」です。日々、変化し、進化していきます。「今の仕事のやり方」が、来月もベストなやり方であり続けることはありません。ところが、仕事のやり方を一度決めてしまうと、それに満足してしまい、しばらくは見直しもしないケースが多いようです。マニュアルをつくるのにも相当な労力がかかるので、〝守る〟意識が生まれ、問題点が報告されても数年経ってからようやく改良に着手するのが一般的だと思います。これが、マニュアルが使われなくなる最大の理由でもあります。せっかく決めた仕事のやり方が、すぐにビジネス環境や仕事の現場に合わなくなってしまうからです。マニュアルに完成はありません。どんなに一生懸命つくっても、できた時点から内容の陳腐化は始まります。そのため、重要な更新は随時行う必要がありますが、最低でも月に一度は見直しをする必要があるのです。無印良品では月に二回ほど、新商品が入荷するタイミングに合わせて、商品を売り場にどうディスプレイするか、本部から指示が出ます。それにしたがって現場のスタッフが作業する段階で、「これではお客様が手に取りづらい」という不具合が生じたり、もっと見やすいレイアウトを思いついたり、さまざまな改善点が生まれます。その意見を本部に伝えると、それがMUJIGRAMに採用されて、全店舗で実行しようという話になるケースもあります。こうしてアイデアは現実的な方法となり、仕事の基準の一つになっていくのです。これはリアルタイムで改善するのがポイントです。一年に一回まとめて改善点を報告し、検討しているようでは対応が後手後手に回ってしまいます。目の前にある問題点には、今対処する。その意識を持ってもらうためにも、マニュアルは毎月更新していくのがよいのです。無印良品ではマニュアルを統括する部門をつくっているので随時対応できますが、部署レベルでも、リーダーあるいは担当の社員を決めて意見が集まるようにすれば、対応できるのではないでしょうか。これを繰り返すうちに、マニュアルはより効率のよい仕事の方法の結集となります。一人ひとりが仕事のやり方を常に見直すためにも、毎月チェックして改善点を洗い出すべきです。マニュアルは使うものではなく、つくるもの。そういう意識が生まれれば、一

人ひとりの社員の仕事の取り組み方が変わってくるでしょう。さらにいうなら、常に改善していると、世の中の流れに連動することができます。お客様の要望は、年ごとに少しずつ変わっていくものです。細身の服が人気だと思っていたら、体型が隠れるようなデザインの服に世の中の関心はシフトしている、といったニーズの変化はよくあります。市場で勝ち続けるには、マーケットの変化の半歩先を行くぐらいの商品やサービスを提供するのが鉄則です。先走りすぎてもいけないし、変化に遅れたらもっと売れません。その微妙な頃合いを図るためにも、お客様の声は重要な情報源になります。そのお客様の声に合わせてマニュアルを変え続けていると、世の中の流れと連動した仕組みになっていきます。マニュアルの更新は、仕事の仕組みを常に〝最新版〟にするためにも不可欠なのです。

なぜ「商談のメモを部署全体で共有する」?

ここまで読んでも、「うちの部署にはマニュアルは必要ない」と思う人もいるでしょう。しかし、マニュアルはマネジメントツール(仕事の管理をする道具)です。そう考えると、すべての職種のどの部門にも必要なものではないでしょうか。無印良品の本部には「業務基準書」というマニュアルがありますが、ページ数はMUJIGRAMの三倍以上、六六〇八ページにも及びます。本部では、各部署が何の仕事をしているのか、他の部署からはさっぱりわからないものです。暗黒大陸のような存在ともいえます。そのような暗黒大陸を見える化するのが、マニュアルの使命です。本部の業務の見直しは、MUJIGRAMをつくりはじめてしばらく経ってから、着手しました。業務基準書のつくり方はMUJIGRAMと同じで、現場発で知恵を集め、定期的に更新します。たとえば広報や商品開発、店舗開発などは、一般的にはマニュアルを必要としない職種だと思われがちです。しかし、マニュアルの目的の一つが「仕事の内容を誰にでも引き継げるようにすること」だと考えれば、いくらでもマニュアルにすべき素材は転がっています。一例として、店舗開発部では名刺の管理をマニュアル化しています。これは重要取引先と会う回数の多い課長が一括して管理することになっており、取引先の情報を検索するときの効率化と情報共有が目的です。「備考欄には名刺交換した人の特徴や印象を書き込む」など、データへの入力の仕方を具体的に指示し、誰が課長になっても同じ管理ができるようにしてあります。さらに、商談のメモも部署内全員で共有するようにマニュアル化してあります。商談こそ個人の経験則として独り占めしがちですが、それでは自己満足だけの仕事になってしまいます。誰のために商談するのか、何のために商談するのかという本来の目的を考えたら、組織のため、ひいては店を訪れるお客様のためなのだという結論に達します。したがって、その情報はオープンにして組織に蓄積すべきなのです。これも記入するシートが決まっているので、商談日や商談先、商談内容などをどのように記入するか、指示してあります。重要なのは商談内容のメモの部分です。記入した内容に不備や漏れ、間違いなどがあった場合は、商談の同席者が修正することになっていま

す。これで話の行き違いがなくなるわけです。本部でマニュアルをつくる場合は、基本は部署ごとに作成しますが、それを統一する仕組みも必要です。部署ごとに独自にやっている状態では、本当に見える化が進んでいるのかをチェックすることができません。部長が代わるとそれまでつくっていたマニュアルは雲散霧消してしまい、業務が引き継がれない、というのはよくある話で、それではマニュアルをつくった意味がありません。それを防ぐためにも、マニュアルを一括で管理する部門をつくり、部署の人間ではない第三者が業務引き継ぎをチェックするようにしておくのがベストです。無印良品では専門の部門をつくり、社員が業務基準書と違う行動をとっていると気づいたときは、担当者が理由を問いただします。そうやって業務のベースを固めておくと、異動の後もスムーズに仕事を引き継げるのです。

「七〇〇〇件の苦情を一〇〇〇件に減らした」リスク管理法

どの企業でもクレームは日々発生しますし、さらに社内でもコミュニケーション不足などが原因で、さまざまなトラブルが起こります。こうしたミスやトラブルは企業全体で共有してこそ、初めてプラスに転化できます。MUJIGRAMでは「危機管理」というジャンルだけで一冊のマニュアルになっていますし、業務基準書でも「リスク管理」に関するマニュアルはあります。特に昨今は企業のコンプライアンス(法令遵守)が重視されているので、無印良品でもコンプライアンス委員会をつくってしっかりと対応する体制を整えています。リスク管理をマニュアル化するときに、必ず「具体的な事例」と「対処例」を入れるのがポイントです。多くの企業や団体でもコンプライアンスのマニュアルを作成していますが、たいていは相談窓口を設けているという説明や、セクハラやパワハラをしない、個人情報を勝手に利用しないといった禁止事項を述べているだけです。社外の人に「わが社はこのようなことに気を付けています」と知らしめるためにはこれで充分ですが、リスク管理についての社内の指針になっていないのは明白です。他のマニュアル同様、読んだ人がきちんと対応できるようにするためには、どのような場面でどのような対応をすればいいのかを明記しなければなりません。たとえばMUJIGRAMでは、お客様からクレームがあった場合は、一次対応として五つの応対を決めています。①限定的な謝罪、②お客様の話をよく聞く、③ポイントをメモする、④問題を把握する、⑤復唱する、という対応があり、それぞれのポイントで「言い訳をせずに最後まで聞く」「お客様の表現でメモする」といった注意点も記してあります。最終的な対応は店長がきちんとしますが、最初の対応は全スタッフができるようにしておかなければなりません。対応するのが新人スタッフであっても、お客様にとってはみな同じ無印良品のスタッフですので、これはスタッフの責務なのです。お客様と直接接しない部署であっても、取引先とのトラブルはあるでしょう。業務基準書では、衣服雑貨部など取引先と契約や取引でのトラブルが起きると想定される部署では、リスク管理のマニュアルを作成しています。部下がミスやトラブルを起こしたときに、「次からは気を付けるように」の一言で済ま

せてしまうリーダーもいるでしょう。その後、その部下はミスをしないよう気を付けるかもしれませんが、他の部下が同じミスをする恐れもあります。ミスやトラブルが起きたとき、誰が悪いのかという犯人捜しをして責任を追及するのが目的ではありません。同じトラブルを未然に防ぐための判断材料として、その情報を役立てるべきなのです。そのためにもトラブルの事例はフォーマットをつくって、管理しておくといいでしょう。無印良品ではこのような体制を整えてから、二〇〇二年度下期に七〇〇〇件を超えていたクレームが、その後右肩下がりになり、二〇〇六年度上期以降は一〇〇〇件台前半を推移しています。これは、重複して起こりうるクレームの発生を未然に防止できた成果だといえると思います。

マニュアルで「人材を育成」する

私が西友で人事の課長に就いたとき、「松井君、経理部の社員が一人前になるのには一五年かかるんだよ」と上司に言われたことがあります。「経理の仕事は、商品会計や財務など、大きく分けると四つぐらいあるが、それを一通り経験するには一五年かかる」ということでした。そうなると、経理に所属された人は、定年まで経理しか経験できなくなります。入社して一五年で経理の仕事を覚えた頃には、四〇代の中堅社員です。その段階で営業や商品開発のような畑違いの部署に異動となっても、何もできないでしょう。だから関連会社に経理として出向するぐらいしか、その先の道は考えられません。すると人材の流動化が進まず、組織が硬直化してしまいます。この構造は、部署ごとに派閥を生む温床にもなります。経理部の人間は、経理の利益だけを守ろうとし、販売部は販売の利益だけを守ろうとする。これでは会社全体を強くしていくことができません。こういった悪しき習慣をなくすためにも、人の流動化を進める仕組みが必要です。仕事を覚えるのに一五年かかるのは、上司から部下に仕事の仕方を口頭で教えるという、いわば〝口伝の世界〟だったからです。私は、これを明文化しようと決めました。一五年かけていた仕事を、新入社員でもある程度できるようにしたかったのです。長い時間をかけて覚えていた社員からは、「そんなに短期間で覚えられるわけがない」と反発はありましたが、そこは譲れませんでした。そうしてできた業務基準書では、経理部の業務は店舗に関する会計だけで一一個のカテゴリーに分かれています。クレジットカードや商品券で支払いがあったときの処理の仕方や、新店を開店するときに必要な対応などを具体的に記しています。経理の担当者は、この業務基準書を読みながら手続きを進められるようになっているのです。この仕組みができることで、経理の担当者はわずか二年間で一通りの仕事を覚えられるようになりました。五年もあれば一人前の経理部員のレベルです。つまり、マニュアルをつくると人材育成を効率的にできるようになるのです。担当者が異動になったときの業務の引き継ぎもスムーズにできますし、部下が判断に迷ったときにそばに上司がいなくても、マニュアルを見ればどう行動すればいいのかがわか

ります。よく課長と部長で指示が異なり、部下は同じ仕事を何度もやり直すケースもあるでしょう。それを防ぐためにも、部署内で方法を統一させておけば、仕事はスムーズに進むようになるのです。

マニュアルで「人材育成をする人を育成」する

新人に仕事を一から教えることに、大変な苦労をした経験がある人は多いでしょう。教育には、教える側のスキルが大いに問われるのです。MUJIGRAMは、無印良品のスタッフの人材育成のためにも使います。接客の仕方、衣料品の畳み方、店内の清掃など、基本的な作業の意味や手順を細かく説明しています。おそらく、同じような接客業や小売業には、このようなマニュアルが存在するかもしれません。ただ、MUJIGRAMはそれにとどまりません。「販売スタッフTS(トレーニングシステム)」という、スタッフを指導する立場の人のためのマニュアルをつくったのです。これは、「どう教えるのか」を明文化したものです。たとえば新人スタッフに「おたたみ」(衣類を陳列する際の畳み方)を教えるときは、「①目的・到達目標を伝える②実際の商品を使って、ポイントを説明する。やって見せた後、やってもらう」という手順を踏んで教えるように、書いてあります。このマニュアルの目的は何か。それは、「誰が指導しても同じことを教えられるようにすること」です。どこの企業でもある話ですが、同じ作業でも、指導する担当者によって方法が違ったり、教え忘れていることがあったりと、ムラが出るものです。そのムラをなくし、どこの店のどのスタッフにも同じ知識とスキルを身につけてもらうために、「教えるためのテキスト」が指導者には必要なのです。このマニュアルをつくることで、初めて人を教える立場になった場合でも、何をどう教えればいいのかがわかるという利点もあります。一般企業も、OJTなどで新入社員の教育をしていると思います。しかし、どう教えればいいのかわからない人が担当になり、トレーニングにならないという話をよく聞きます。毎年新入社員に教えることが決まっているのなら、教える側のマニュアルをつくってしまえばいいのではないでしょうか。そうすれば新入社員に均一に自社の理念を伝えられますし、仕事の進め方も均一に教えられます。人の上に立つ立場になると、これまでと同じ給料なのになぜ部下の面倒まで見なくてはならないのか──という不満がよく出てきます。また、教える側が各々で教え方を考えて指導しても、相手が育たないと、「教え方が悪い」と指導する側の問題にされるケースも

往々にしてあります。これでは、指導する側のモチベーションが保てません。指導する側のやる気や能力に頼るのではなく、教える方法を決めておけば、こういった不満も解消できるでしょう。指導することも大切な業務の一つとして認識できるようになり、「やらされ感」が拭い去れると思います。モチベーションも仕組みで向上できるものなのです。

「見える化→提案→改善」という循環

マニュアルはどんなに良いものをつくっても、それだけでは「絵に描いた餅」で終わってしまいます。社員全員に使われて初めて血が流れ、その機能を果たすことができるのです。それでは、これまでにも何度か触れてきた〝血が通ったマニュアル〟とは、一体どういうものか。具体的な事例でみてみましょう。無印良品には、店長になったときに必要な資格があります。衛生管理者、防災管理者などの八つの資格です。以前はこれらを、店長になったときに取るようになっていました。資格の取得自体はさほど難しくはないのですが、店長になると現場の仕事も忙しくなるので、仕事を抜けて資格を取りに行くのは大変なことでした。数年前、社員から改善提案が出て、こうした資格は店長になる前に取ったほうがいいのではないかという話になりました。店長代理になると、次の店長になるために研修があるので、そのときに必要な資格もすべて取得してしまえばいいのではないかという意見が出てきたのです。この意見をふまえ、今では、店長代理の研修を終えると、必要な資格をすべて取る流れになっています。このように、マニュアルをつくることで、今まで暗黙の了解の上で成り立っていた業務の問題点が見えてきます。社員からの意見や提案によって、一つひとつ改善が重ねられていき、今までの仕事の仕方がより合理的になっていきます。このような循環が生まれた時、初めて血が通う仕組みになるのです。さらにいうなら、リーダーが率先してマニュアルを使わないと、組織に根付きません。ですから、無印良品では店長に月一回テストをして、マニュアルを現場に浸透させるようにしています。リーダーが把握していないことを、スタッフが把握できるはずはありません。リーダーが徹底して活用しないと生きたマニュアルにはならないのです。

「結果的に正しい道」を歩こう

本章では、無印良品をV字回復させたマニュアルの秘密を具体的に紹介してきましたが、最後に一つだけ注意点を書いておきます。それは、一カ月や二カ月の短期間で急ごしらえでつくっただけのマニュアルでは役に立たないということです。今日この本で知ったマニュアルのつくり方は、すぐ明日から役に立つ、という類のノウハウではありません。前述しましたが、改善を繰り返しながら、ときに我慢を重ねながら、軌道に乗せていく長い過程があって初めて機能するのです。私も、MUJIGRAMをつくるとき、初めは模範となるような企業のマニュアルを参考にしようと考えました。他社のマニュアルを見て、他社とは異なる部分だけを手直しし、自社独自の内容を盛り込めば完成すると考えていたのです。そこで、まずファッションセンターしまむらのマニュアルを見に行きました。しまむらでは、全社員から毎年五万件以上の改善提案が寄せられ、これを一つひとつ検討し、マニュアルを毎月更新しています。三年もすると、マニュアルが一新するといわれるくらい、活用度の高い〝生きたマニュアル〟です。「これはいい」と合点して帰り、真似してつくってみようとしましたが、なかなか現場で使えるようなマニュアルにはなりませんでした。それはなぜか。当たり前ですが、会社が違えば、何もかもが異なります。扱う商品やその数、社員の数、取引先、店舗の大きさなど、何一つとして同じところはありません。そういった要因が異なれば、マニュアルも異なったものになるのは自然の道理なのです。しまむらでは、もっとも優れたベテラン社員のやり方をマニュアルの手本と考えていました。ベテラン社員が、長年のキャリアの中で培ったノウハウ、知恵といったものが素地になっていたのです。しまむらが時間をかけてつくり上げたマニュアルとは、いわばしまむらの風土です。それをそのまま無印良品で導入しても役に立つはずなどありません。マニュアルは、業務を標準化した手順書であるだけではなく、社風やそれぞれのチームの理念とも結びついています。マニュアルがこの二つの架け橋としての役割を担っていると言ってもいいでしょう。

ですから、マニュアルは時間がかかったとしても、自分たちの手で一からつくり上げていくしかないのです。MUJIGRAMも軌道に乗るまでは五年ほどかかりました。遠い道にこそ、真理があるのです。これは私の信念の一つですが、迷ったときは大変な道を選ぶと、結果的に正しい道を歩めます。マニュアルづくりは手軽にできるとは言えませんが、必ずチームの変革を実現できるはずです。それを信じてつくり続けた人にだけ、成果はもたらされます。

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