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2章 戦略・マーケティング編

2章戦略・マーケティング編

2章で学ぶことNo.8PEST分析No.95つの力分析No.10アドバンテージ・マトリクスNo.113C分析No.12SWOT分析No.13バリューチェーンNo.143つの基本戦略No.15ビジネスモデルNo.16戦略キャンバスNo.17VRIONo.18プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)No.19アンゾフの事業拡大マトリクス

No.20セグメンテーションとターゲティングNo.21ポジショニング(ポジショニングマップ)No.22マーケティング・ミックス(4P)No.23AIDANo.24プロダクト・ライフサイクル(PLC)No.25キャズムNo.26ブランド・エクイティ

2章で学ぶこと本章では、経営戦略とマーケティングという、まさに企業の存続を左右する経営分野の重要フレームワークを紹介します。

経営戦略のフレームワークを理解・活用できれば、個別事業で競争に勝てる可能性が高まりますし、事業の選択・集中や成長の方向性を効果的に考えることもできるようになります。

また、マーケティングのフレームワークをマスターすれば、企業活動の基本である、「キャッシュの獲得能力」が向上します。

経営戦略やマーケティングが貧弱な企業で生き残れる企業はありません。

その意味で、本章のフレームワークは、企業の生存確率を高める上で、大きな意味を持つフレームワーク群と言えるでしょう。

まず、経営戦略関連のフレームワークで、企業の経営環境分析を行うのが、PEST分析、5つの力分析、アドバンテージ・マトリクス、3C分析、SWOT分析、バリューチェーンです。

自社を取り巻く環境や、そもそもどのような業界の特徴があるのか、自社や競合のビジネスの特徴はどこにあるのかなど、戦略立案の前提となる状況を把握するためのフレームワークです。

それに続く3つの基本戦略、ビジネスモデル、戦略キャンバスは、上記の経営環境の分析を踏まえた上で、自分たちがどのような方向性に舵を切るか、あるいはどのような新しいビジネスの方向性を目指すのかを示すものです。

ビジネスモデルや戦略キャンバスなどは比較的新しいフレームワークですが、IT時代の戦略を考える上でも有効です。

また、ライバル企業やベンチマーク(模範)企業の分析にも応用できます。

経営戦略には、「良い経営資源を持っている方が勝ちやすい」という考え方もありますが、その典型的フレームワークがVRIOです。

自社がどの程度強い経営資源を持っているか確認してください。

全社的な資源配分や、成長のための多角化を考えるのが、それぞれプロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)とアンゾフの事業拡大マトリクスです。

上記に紹介したフレームワークが比較的個別事業を意識していたのに対し、この2つは全社戦略の典型的なフレームワークと言えます。

次にマーケティングのフレームワークですが、セグメンテーションとターゲティング、ポジショニング(ポジショニングマップ)、マーケティング・ミックス(4P)の3つは特に重要で、近代マーケティング戦略立案の流れである「STP4P」をそれぞれ反映しています。

AIDAはマーケティング・ミックスの中でも特にコミュニケーション戦略に関わるものです。

プロダクト・ライフサイクル(PLC)、キャズムは、マーケティングのみならず、経営戦略とも関連する重要フレームワークです。

それぞれの成長ステージで何をすべきかヒントをくれるのがこれらのフレームワークです。

最後に、マーケティングの世界では、ブランドが、マーケティングそのものと並ぶくらい重視されるようになってきています。

経営戦略論的にもブランドは重要です。

その価値をどう考えるかを示すのがブランド・エクイティの考え方です。

本章は、最もフレームワークの数が多い章でもありますが、どれも重要です。

ぜひ関連性も意識しながら読み進めてください。

8PEST分析企業経営の前提となるマクロ環境を分析するフレームワーク。

PESTは、「Politics(政治)」「Economy(経済)」「Society(社会)」「Technology(技術)」の頭文字。

基礎を学ぶ用いる場面●経営者や企画担当者が戦略を構築する上で前提となる世の中の動きを探る●新しいニーズが生まれることを予測し、事業開発や新製品開発のヒントにする考え方No.11で後述する3C分析では、自社がある程度影響を与えうる、市場や競合などについて分析します。

それに対して、PEST分析は、通常、自社が影響を与えにくい世の中のマクロ環境を分析するものです。

もちろん、時には1つの企業の動向がマクロ環境、特に技術環境などに影響を与える

こともありますが、通常は、一企業の活動がマクロ環境に与える影響は極めて軽微であり、ほぼ与えられた(Givenの)環境とみなすことができます。

PESTそれぞれの項目について、具体的には図表81のような点について分析します。

なお、昨今は地球環境への配慮から、エコロジーのEを加えて「PESTE分析」を推奨する人間もいますが、ここではオーソドックスなPEST分析を紹介しています。

PEST分析では、自社のビジネスに与える影響の大きな部分を特に意識して分析します。

マクロ環境はあまりに多岐膨大にわたるため、すべてを網羅しようとしても不可能ですし、費用対効果が見合わないからです。

また、PEST分析は現状を知るのはもちろんのこと、ある程度の未来(通常は3年や5年)を予測し、そこから逆算的に戦略立案や製品開発に生かすことも重要です。

たとえば、2015年現在であれば、2020年頃にどのような世の中になっているのかを予測し、それを見越して戦略を立てるということです。

事例で確認例えば典型的な、首都圏に立地する中堅私立大学を想定してみましょう。

彼らの数年後のPEST予測を行うと以下のようになるでしょう。

P:その時々の文部科学行政の影響を受けること自体は現在と変わらず。

一定レベルの大学以外は職業訓練所的位置づけとなる可能性大。

国立大学の文系学部縮小の受け皿となる可能性はある。

将来的にはバウチャー制度などの導入も考えられる。

いずれにせよ、この「P」の要素に最も影響を受ける可能性大E:貧富の格差が広がれば、大学進学率が下がる可能性もあり。

高い学費はまかなえない家庭が増える可能性も。

また、現時点では都市に立地することが有利に働いているが、経済が停滞して地元志向が強まれば、自大学にとっては不利かS:少子高齢化の流れに歯止めはかからない。

そうした中で、大学に行くのが当たり前という価値観が変わる可能性もある一方で、ますます学歴社会が進む可能性もある。

実学重視を世の中から期待される可能性ありT:MOOCs(大規模公開オンライン講座)に代表されるITを活用した教え方が広がる可能性がある。

その結果として、競争力のない私立大学は淘汰される?ここから言えそうなこととしては、このままでは競争力を失うのは間違いないので、カリキュラム等で独自性を出すか、他校とのアライアンスを進める必要がある、といったこととなるでしょう。

PEST分析だけでは具体的な戦略を導くまでにはいきませんが、他の分析と重ね合わせながら、世の中の流れに沿った(あるいは利用した)方向性を打ち出していくことが重要です。

コツ・留意点1マクロ環境は予測が大事ですが、100%正確に予測することはできません。

そこで、その企業や事業にとって重要なマクロ環境を選びだし、もし正反対の未来が起こったらどうすべきかを考えるという思考実験を組織的に行うことがあります。

これをシナリオ・プランニングと言います(図表82参照)。

シナリオ・プランニングでは、特に自社や業界に大きな影響を与えそうなマクロ環境を通常2つ抜き出し、マトリクスを作ることで「4つの未来」を想定します(状況によって、適宜増減を行います)。

そしてそれぞれが実現したときに、自社がどのような戦略をとるべきなのかを前広に議論し、環境変化への備えを行っておくのです。

2PESTの各要素は独立しているわけではなく、複雑に絡み合って変化していく点にも注意を払ってください。

たとえばインターネットやビッグ・データ解析などの技術は、ライフスタイルの変化をもたらすだけではなく、法の改正や経済全般にも変化を与える可能性があります。

それぞれを「点」として眺めるのではなく、関連性を意識して立体的に頭の中に地図を描くことが必要です。

95つの力分析業界の収益性に影響を与える要因を分析し、その業界が収益性を上げやすいか上げにくいかを分析するフレームワーク。

マイケル・ポーター教授が提唱。

基礎を学ぶ用いる場面●参入を検討している業界の魅力度を知る●業界の魅力度を上げたり維持したりするための方策を探る●自社の強みが活かせそうな業界セグメントを探したり、または「業界」の再定義を行う

考え方ある企業の収益性を説明する際に、いきなりその企業について分析するのではなく、まずどのような業界に属しているかを知り、さらにその業界におけるポジションを知るという2段階で分析を行うと、企業の収益性を説明しやすいということが昔から言われていました。

儲けにくい業界の中で頑張ってもなかなか収益性は上げられないという発想です。

ただし、「儲けやすい業界」や「儲けにくい業界」をどう決定するかは簡単な問いではなく、長年、経営学者の頭を悩ませてきました。

そこに有効かつ使いやすいフレームワークとして登場したのがポーター教授が提唱した5つの力分析です。

5つの力とは具体的には、①業界内の競争、②買い手の交渉力、③売り手の交渉力、④新規参入の脅威、⑤代替品の脅威です。

これらの強さをトータルで分析することで、ある業界が収益性を上げやすいかどうかがわかります。

5つの力のそれぞれは、「業界の利益を削いでいく力」と見なすことができ、これが多く強いほど、業界に利益は溜まりにくいという発想です。

①業界内の競争:一般的に想起される競争の激しさです。

業界の成長率が低いにもかかわらず、競合の数が多かったり、製品・サービスが差別化されていない場合に強くなります。

②買い手の交渉力:買い手が寡占業界であったり、買い手の購入量が多い場合、あるいは買い手が購入先を容易に切り替えられる場合に強くなります。

③売り手の交渉力:売り手が寡占業界であったり、顧客の製品・サービスに占める重要性が高い場合、あるいは顧客が容易には購入先を切り替えられない場合に強くなります。

④新規参入の脅威:参入障壁が低く、新規参入が容易な場合に強くなります。

典型的な参入障壁としては、多額の投資、規制、チャネル、既存企業のブランドなどがあります。

⑤代替品の脅威:コストパフォーマンスの高い代替品があると強くなります。

代替品とは、ニーズが同じで形が違うものです。

たとえば、眼鏡の代替品としては、コンタクトレンズやレーシック、眼内レンズが挙げられます。

事例で確認図表92は日本のビール業界について分析し、対応策を検討したものです。

少子高齢化でますます人口が減少し、また、「とりあえずビール」の習慣の衰退に代表されるビール離れがある中、競争は緩くはありません。

業界内は大手4社がしのぎを削っています。

流通や消費者からのプレッシャーも厳しく(彼らから見たら、選択の余地がある)、業務用市場も、食い込むための営業は容易ではありません。

酎ハイやハイボール、ノンアルコール飲料といった代替品の脅威も強いものがあります。

普通に考えれば、大きく儲けるのは容易ではなさそうです。

ではどのようなアクションをとればいいでしょうか?例えば、業界の中の競争環境を緩和し、流通業者との交渉力を増す手法として、業界内の合併が考えられます。

実際に数年前にはキリンとサントリーの合併が実現間近まで行きました。

業界を日本に限定しないことも有効でしょう。

JTなどは早々と国内市場に見切りをつけ、アジアでの事業拡大を目指しています。

ビール業界も同様に、戦いの場をアジアに移し、そこで良いポジションを確保することが重要かもしれません。

コツ・留意点1一見同じ業界に見えても、セグメントを細かく分けると競争環境は変わるので注意が必要です。

たとえば中古書店事業は、貴重な古書を扱う専門店と、比較的最近の中古書を扱う一般の中古書店では競争状況が全く異なります。

とくに後者はブックオフやAmazonとの競争にダイレクトにさらされる点を意識する必要があります。

逆に、業界を幅広く取ることで見える風景が変わってくることもあります。

乗用車事業は、日本国内を見ると成熟から衰退市場で競争も激しく収益を上げるのは容易ではありませんが、グローバルに見れば成長の伸び代がありますし、地域にもよりますが、国内ほど激しい競争にはなっていません。

25つの力分析は有効ではありますが、ここに表れないプレーヤーにも注意する必要があります。

たとえば補完財(互いに売上げを伸ばし合う関係にある商材)を扱う企業や、通常のバリューチェーンでは説明しにくいITのプラットフォーム企業などです。

特に近年成長著しいITビジネスでは、補完者をひきつけたり、プラットフォームを自ら構築し、「胴元」になることが事業成功の鍵となっています。

事業に応じた効用と限界を理解することが必要です。

10アドバンテージ・マトリクス事業の特性を、「競争上の戦略変数の数」と「競争優位性構築の可能性」の2つの評価軸から見極めるフレームワーク。

BCG(ボストンコンサルティンググループ)が提唱した。

基礎を学ぶ用いる場面●成長戦略において、規模的成長の意味合いを考える●新規事業の戦略のヒントを得る●ニッチ市場を探す

考え方アドバンテージ・マトリクスは、「競争上の戦略変数の数」と「競争優位性構築の可能性」の2つの軸で下記の4つの事業タイプを考えます。

競争要因が少ないということは競争の手段が少ないことを意味し、勝ち負けが単純に決まりやすいと言えます。

競争優位性構築の可能性が高いということは、競合に対して優位性を決定する明確な要因があるということです。

特に事業の規模(売上げ)の大きさはそうした要因となりやすく、アドバンテージ・マトリクスでも、規模とそれにともなうコスト競争力を強く意識しています。

分散型事業:大企業が少なく、また規模化が必ずしも競争上重要ではない業界です。

競争変数が多数あり、しかもどれも決定的な要因となりにくいため、多数乱戦となりやすい業界といえます。

個人でも比較的起業しやすいレストランやブティック等が典型的にこのタイプに属する事業です。

地域密着型の小企業が存在しやすいのも特性です。

特化型事業:戦略変数が複数存在し、しかも自社が勝てる事業領域を適切に選び、そこで自社ならではの強みを発揮できれば十分な収益を得られる事業です。

領域ごとに勝ち組が存在する雑誌出版や人材紹介サイトなどはこのタイプの事業です。

手詰まり型事業:規模を含めて意味のある競争変数が存在しない業界です。

差別化も難しく、規模の効果や経験曲線によるコストダウンの効果も既存プレーヤーの間ではすでに効き方の差がないため、生き残った企業すべてがほぼ同じコストで提供できてしまうような製品を扱う業界がここに属します。

日本ではセメント業界などがその例とされます。

規模型事業:競争の変数がコストとそれを裏付ける企業規模しかほぼ存在しない業界です。

製品が単純で差別性が少なく、その一方で、開発や生産、広告などで規模効果が効く場合にこの傾向は顕著になります。

具体的には、コスト以外の要素で差別化しにくい鉄鋼などが該当します。

アドバンテージ・マトリクスは事業経済性や競争優位性と強く連動しているため、競争戦略の立案に非常に大きな示唆をもたらします。

たとえば、ある小売会社が川下展開をしてレストラン事業をやりたいと考えたとします。

「いままでに経験がないのだから無理だ」と考える人間もいるかもしれませんが、レストラン事業は分散型事業の側面が強く、やりようによって儲かる可能性は大いにあるのです。

事例で確認アドバンテージ・マトリクスの面白い点は、あるセルに属する事業が他のセルに移動する可能性が存在することです。

たとえば、分散型事業の典型であった理美容業界では、QBハウスがフランチャイズ方式を活用しながら、画一的なサービスを展開し、またITに大きく投資することで、規模型事業への脱却を図りました。

かつて分散型事業だったレストラン業界にセントラルキッチン方式等を持ちこみ、規模型事業、特化型事業の色彩を強めたファミリーレストラン業界も同様です。

また、セメント業でも、メキシコのセメックス社のように、独自のセグメンテーションとそれに応じた差別化戦略を打ち出すことで、手詰まり型事業からの脱却を実現したケースもあります。

既存の枠にとらわれないイノベーティブな発想が大事です。

コツ・留意点15つの力分析同様、アドバンテージ・マトリクスの分析では業界の定義をしっかりしておくことが望まれます。

たとえば国内の不動産業界と言っても、三井不動産や三菱地所、森ビルといった大手と、地域密着型の地場の不動産業を一緒に議論することはできません。

前者は特化型事業の色彩が強いのに対して、後者は分散型事業の典型と言えます。

コンサルティングは一般には分散型あるいは特化型の事業ですが、ITシステムの開発などが絡む場合は規模型事業の色彩も帯びてきます。

2グローバル化が進む昨今、国が変わると事業特性が変わる場合があることにも注意が必要です。

たとえば製缶事業は日本では規模型事業の色合いが強いのですが、国土の広い米国などでは分散型事業から特化型事業の色彩が強くなっています。

逆に、小売業などは米国では大手企業への集約が進んだ結果、分散型事業から規模型事業へと様相が変わっています。

国を越えたネット上ではまた別の力学が働くことがあります。

自国の常識を無条件に当てはめないようにしましょう。

113C分析外部環境の市場と競合の分析からKSFに関するヒントを得、自社の状況と照らしながら自社の戦略に活かすフレームワーク。

マーケティング戦略の立案にも有効。

3Cは、「市場・顧客(Customer)」「競合(Competitor)」「自社(Company)」の頭文字。

基礎を学ぶ用いる場面●経営者や企画担当者が新規事業の戦略を練ったり、既存事業のテコ入れを行う●マーケティング担当者や営業担当者が、顧客攻略の糸口をつかむ●新しい事業機会を見出す

考え方3C分析では、事業の重要な要素である市場・顧客、競合、自社の3つにフォーカスして事業成功の鍵(KSF:KeySuccessFactors)やマーケティングの方向性に関する知見を得ます。

シンプルではありますが、使いやすく、効果も高いのが特徴です。

3C分析でそれぞれ着目するポイントは以下となります。

●市場・顧客分析の着眼ポイント特にマーケティング戦略を考える際にはこの部分が最重要となります。

具体的には、・購買人口、市場規模、成長率、顧客構成・顧客ニーズ(可能な限り深層ニーズに迫る)・購買決定プロセス(購買の際に重視するポイント、情報収集の方法、購買までに要する期間など)・購買特性(いつ、どこで購買するか、どのように購買するのかなど)・購買決定者(特にBtoBビジネスでは重要)・KBF(重要購買決定要因:結局、購買にあたって何を重視するか)などを確認します。

重要なのは、「市場」というマクロな視点と、「顧客」というミクロな視点を併せ持つことです。

特にBtoBビジネスでは、顧客は固有名詞単位で検討する場合もあります。

●競合分析の着眼ポイント競争状況や競争相手について把握します。

寡占度、参入障壁、競合の戦略、競合の提供価値やポジショニング、経営資源や構造上の強みと弱み(営業人員数、生産能力など)、競合のパフォーマンス(売上高、市場シェア、利益、顧客数など)に着目し分析します。

競合分析はすべての競合に対して満遍なく行うのは難しいため、深い分析は、経営の意思決定上、重要な競合に絞るのが一般的です。

●自社分析のポイント自社の事業に関する経営資源や活動について、定性的・定量的に把握します。

経営資源は、俗に言う「ヒト・モノ・カネ・情報」などの切り口で分析すると特徴がわかります。

具体的には、売上高、収益性、市場シェア、ブランドイメージ、技術力、人材、ナレッジなどを多面的に分析します。

活動については、たとえばバリューチェーン分析(No.13参照)を用いて、各機能の特徴や、どこで付加価値が生まれているか(もしくはコストを掛けているか)を分析します。

事例で確認図表112はある企業のエンジニアリング事業に関する3C分析の結果です。

グローバルでは競合2社が非常に強く、しかも自社は独自の営業チャネルを持っていないことが見てとれます。

エンジニアリング事業は技術力に裏打ちされた信用(ブランド)もさることながら、意思決定者に食い込む営業力が鍵です。

また、一度既存のベンダーに満足すると、発注者側はスイッチしにくくなるという傾向もあります。

早期に弱点を克服する必要がありそうです。

なお、図表112の表では簡単な結果をリストアップしていますが、実際にはさらに細かい分析を行います。

コツ・留意点1最も情報収集が難しいのは競合の分析です。

市場に出回っている製品などはリバースエンジニアリングなどの手法によってその構造を解き明かすこともできますが、その背景にある競合企業の強みや、正確なコスト構造、さらには眼に見えにくい組織的な工夫などを把握することは容易ではありません。

市場・顧客分析のようにヒアリングやアンケートといったリサーチ手法が使いにくいという事情もあります。

とは言え、地道に公開情報を収集したり、顧客や仕入れ先から間接的に競合に関する評判を聞いたりする、時にはその企業から転職してきた自社社員から倫理上問題ない範囲で情報を収集するなど、着実な努力を積み重ねることが重要です。

2自社分析については、視野を狭くして特定の製品や事業しか見ないのではなく、他事業とのシナジーや、会社全体の経営資源を意識することも重要です。

実際、大企業で部門横断的なプロジェクトを行うと、「自社にこんな技術やノウハウがあったのか」と驚かれる方も少なくありません。

大きな企業やグループになればなるほど、アンテナをしっかり張って自社の強み、弱みを正しく認識するようにしましょう。

12SWOT分析自社の外部環境と内部環境を、好ましい側面と好ましくない側面から整理すること。

SWOTは、「Strengths(強み)」、「Weaknesses(弱み)」、「Opportunities(機会)」、「Threats(脅威)」の頭文字。

基礎を学ぶ用いる場面

●経営者や管理職が経営課題を考えたり、事業機会を検討する●SWOTの議論を社員全員で行うことで、自社が置かれた環境に関する意識合わせを行う考え方SWOTは、図表121に示したように、「内部×外部」と「ポジティブ(好ましい傾向)×ネガティブ(好ましくない傾向)」という2つの軸のマトリクスとして整理することができます。

外部要因に入る要素としては、マクロ環境や業界環境、市場・顧客や競合の環境などが主なものです。

一方内部要因に関しては、「ヒト・モノ・カネ」やバリューチェーン(No.13参照)で見たときの自社の特徴が当てはまります。

かつては欧米でもSWOT分析は環境分析の花形でしたが、あらゆる経営環境を1つのチャートにまとめようとするため、かえって分析の精度が落ちるなどの批判もあり、欧米ではかつてほど頻繁には用いられていません。

ただし、日本企業ではいまでもこのフレームワークを用いることが多く、また、プラスの側面とマイナスの側面の両方に目を配るという発想そのものが重要なポイントでもあるため、ぜひ覚えておきたいフレームワークです。

SWOTの2軸について言うと、ある事象が内部要因に属するものか外部要因に属するものかを判別するのは難しいことではありません。

社内のことか社外のことかを仕分ければいいだけです(もちろん、株式保有率の低い関連企業など、微妙なものはあります)。

一方で、内部外部を問わず、ある要素がポジティブなことかネガティブなことかを判断するのは難しい場合が少なくありません。

たとえば、「自社の組織が小さい」ということは、ある側面から見れば経営資源や知名度、ブランド力が弱いということにつながるため、普通は弱みと考えられます。

一方で、組織が小さいからこそのポジティブな面もあります。

具体的には、小回りが利く、戦略の徹底や企業変革が比較的しやすい、階層が少ないため顧客の声が届きやすいなどです。

つまり、ある1つの要素が強みにも弱みにも(あるいは機会にも脅威にも)なりうるのです。

表層的な事象だけを見るのではなく、その意味することをしっかり押さえる必要があります。

事例で確認SWOT分析の発展編として、クロスSWOTという分析もあります。

これは、SWOTで分析した項目の中から特に重要そうな強み、弱み、機会、脅威を抜き出し、図表122のようなマトリクスを作って対策を検討するものです。

たとえば、「強み×機会」のセルは、まさに自社にとっては大きなチャンスですから、徹底的に有利なポジションを築けるような施策を考えます。

それに対して、「弱み×脅威」のセルは、会社にとってのダメージが極力少なくなるような打ち手を考えなければなりません。

図表122のケースでは、スマートフォンの浸透を機会と捉え自社の持つアニメコンテンツを人口のボリュームゾーンである団塊ジュニアに売り込もうとしています。

これは単に「強み×機会」になるだけではなく、「弱み×機会」の活用、「強み×脅威」に対する好影響も期待できることから、うまく展開できれば一石三鳥の施策となる可能性があります。

なお、図表122の事例は単純化のため、SWOTの各要素を1つ2つ抜き出しただけですが、実際にクロスSWOTを行う場合には、SWOTの各セルから重要な要素をそれぞれ3つほどピックアップし、それらを掛けあわせながら有効な打ち手がないか、その可能性を検討するというアプローチをとるのが一般的です。

コツ・留意点1ビジネスリーダーとしては、ある程度ニュートラルな視点はもちながらも、ある要素を弱みではなく強み、脅威ではなく機会と見なせないかと前向きに考えることが必要です。

特に、新しい事業機会を探る場合などは、世の中の動向を自社のビジネスチャンスにいかにつなげるかというバイタリティのある発想こそが、新時代を切り開きます。

たとえば規制緩和はそれまでの既存プレーヤーにとっては一見脅威と映ります。

しかし、規制緩和によって市場成長が加速されるのはよくある話ですし、その中で新しい差別化を打ち出したり、ニッチ市場を見つけることで、市場でのポジションをより強固なものにできる可能性もあるのです。

2SWOTで分析する際は、ある程度の丁寧さはもちろん必要ですが、企業を取り囲む経営環境のうち、特に重要なものを選り分けるセンスと大胆さも求められます。

実際の分析では、まずはホワイトボードやポストイット等を用いてSWOTの各項目をどんどん埋め、その後に影響度の高そうなもののみを残すという手法がとられます。

13バリューチェーン事業活動を機能ごとに分類し、どの部分(機能)で付加価値が生み出されているか(コストや手間暇をかけて独自性を作っているか)を分析するフレームワーク。

マイケル・ポーター教授が提唱。

基礎を学ぶ用いる場面

●現行の事業戦略の有効性や改善の方向を探る●競合との差異を知ることで独自の差別化を模索する●アウトソースできる部分を探る●業界全体のサプライチェーン革新の可能性を探る考え方ポーター教授は「モノの流れ」に着目して企業の活動を5つの主活動と4つの支援活動に分け、それにマージン(利益)を加えて全体の付加価値構造を表しました。

具体的には図表131のようになります。

なお、ポーター教授のこのオリジナルの切り方は、あらゆる業種に当てはめられなくもないのですが、もともと製造業を多く参考にしていることもあり、業界によっては使い勝手が必ずしもよくはありません。

そこで、経営企画などの実務では、このポーター教授の切り分け方をそのまま用いるのではなく、業界の特徴に合わせて主活動のみにフォーカスして4〜6つくらいの活動に切り分けるのが一般的です。

たとえば小売業であれば「仕入れ」「物流」「商品企画」「販売・マーケティング」「店舗運営」といったブレークダウンが考えられます。

BtoBの機器販売であれば、「研究開発」「部品調達」「製造」「営業・マーケティング」「アフターサービス」などに分類し、その特徴を見ていきます。

こうした分け方をビジネスシステムと呼ぶこともあります。

バリューチェーン分析において重要なのは、単に特徴を整理することではありません。

その企業の独自の活動に着目し、それらの役割やかかっているコスト、全体としての事業戦略や顧客への提供価値、競争優位性への貢献度を明らかにすることが重要です。

バリューチェーンの各機能単独の特徴を見ることも重要ですが、それらが同じベクトルを向いているか確認したり、機能間で適切なコミュニケーションや連携がなされているかをチェックすることも大切です。

また、自社のバリューチェーンを分析することも重要ですが、競合、特に上位企業のバリューチェーンを分析すると、業界のKSFがよく理解できたり、自社が取るべき方向性がよくわかってきます。

バリューチェーン分析は、定性的な分析だけではなく、定量的なコスト分析と同時に行うとさらにパワーを発揮します。

また、バリューチェーンの機能ごとのコスト分析をする際には、額としてどのくらいのコストがかかっているのかを見ることも大事ですが、コストの質(固定費か変動費か、他の事業とも共有できているかなど)にも着目すると、より効果的な戦略立案につなげることが可能となります。

事例で確認たとえば図表132のコスト構造の比較からどのようなことが言えるでしょうか?街の眼鏡小売店のオーナー向けの示唆を考えてみましょう。

特に差がついているのは流通コストですから、ここを削減せよという方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、現実的に考えて、街の眼鏡小売店が大手チェーンのコストに勝とうというのは困難でしょう。

であれば、通常のやり方では一般の眼鏡小売店は量販店にコストでは勝てませんから、価格とは異なる付加価値、たとえばサービスの良さ等を打ち出していかないと生き残れないといった提言をする方が有効そうです。

コツ・留意点1図表132に示したような定量的な分析は、自社の強みの分析にもつながります。

通常、コストをライバルよりも費やしている機能は強いことが多いからです(付加価値はコストをかけた部分で生まれるのが一般的です)。

もし、顧客が価値を感じていない(WTP:WillingnesstoPayにつながっていない)にもかかわらずコストを浪費している活動があれば、適切なコストダウンを行う必要があるのは言うまでもありません。

2バリューチェーン分析を進めて戦略のヒントを得ようとすると、結局は業界全体のバリューチェーン(サプライチェーン)についても分析が必要な場合が多いものです。

例えば卸があまり機能していない業界では、それを中抜きしようという発想が生まれてきます。

こうした動きをバリューチェーンの再構築と言います。

原材料のサプライヤーからエンドユーザーに至るまでのサプライチェーンの中で、顧客の価値につながらないプレーヤーはどんどん排除されるか、取り分が減って経営が悪化してしまいます。

サプライチェーンの中で自社の居場所を確保し、収益性を上げられるような施策を考え抜く必要があります。

143つの基本戦略個別の企業や事業の置かれた状況によって望ましい戦略の方向性は異なるが、ポーター教授は、これらを「コスト・リーダーシップ戦略」「差別化戦略」「集中戦略」の3つに一般化した。

基礎を学ぶ用いる場面

●経営環境分析を踏まえ、自社がとるべき戦略の方向性を定める●競合の戦略の方向性を理解する●「どっちつかずの戦略」になっていないか確認する考え方3つの基本戦略を示すフレームワークでは、横軸で競争優位の源泉を低コストと差別化に区切り、縦軸は競争の範囲(スコープ)が広いか狭いかで区切っています。

コスト・リーダーシップ戦略とは「同じ商品を提供するのなら、一番安く提供できるほうが勝つ」という考え方です。

実際、業界で一番コストが安ければ、価格競争になった場合でも下げる余地が大きいですし、もし同じ価格で提供できるなら競合より厚い利益を手にすることができます。

多くの業界のリーダー企業(通常は規模の経済性や経験曲線を通じて最も低コストを実現している場合が多い)がとる戦略でもあります。

差別化戦略とは「多少価格は高くても、それ以上に価値があるものを提供できれば勝てる」という考え方です。

コストでトップになれない企業は、ほとんどがこの戦略を採用しています。

集中戦略は切り口が異なり、競争の範囲が狭い、すなわちより限定的な領域(地域や顧客)に対応することで局所的ナンバーワンを実現しようとするものです。

俗に言うニッチ戦略と意味合いは同じです。

通常は、狭いターゲットを狙う下の2つの象限をあわせて「集中戦略」とすることが多いのですが、集中戦略を、競争優位の源泉ごとに「コスト集中」「差別化集中」に分けて用いることもあります。

なお、範囲の広い/狭いをどこで切り分けるかの厳密な基準(例:売上高の規模など)はありません。

議論をする中で多くの人が納得できるようなところが境目と考えておけばよいでしょう。

ところで、どの戦略を採用したとしても、競争優位性が永遠に続くわけではありません。

いずれの戦略にも必ずリスクというものがあります(図表142参照)。

たとえば80年代〜90年代のアップルは、使い勝手の良いGUI(GraphicalUserInterface)を武器としたマッキントッシュシリーズで固定的かつ熱狂的なファンを獲得し、非常に高いプレミアム価格を獲得するという差別化戦略で成功しました。

しかしその後、マイクロソフトがWindows95、さらにはWindows98でほぼ同等の機能を圧倒的低価格で提供できるようになってからは、かつての強みは消え、〈iPod〉で復活を果たすまで苦難の道を歩むことになりました。

常に環境を見据えながら、新しい競争優位性を探すバイタリティが必要です。

事例で確認国内の自動車メーカーを見てみると、トヨタは国内のみならずグローバルでも1、2を争う規模を誇ることから、コスト・リーダーシップ戦略を実現しています(ただし、差別化ができていないかという点については、「コツ・留意点」の2を参照してください)。

それに対して、日産やホンダは明らかに差別化戦略をとっています。

シェア4位、5位のマツダやスバルはやや微妙ですが、これも差別化と言っていいでしょう。

問題は下位メーカーです。

日野やダイハツは車種が絞られているため集中戦略と言ってよさそうですが、三菱自動車になると(シェア1.4%)、はたして集中戦略と言えるかさえ微妙です。

むしろ、基本戦略のどれも取りきれずに宙ぶらりんになっており、競争優位性が築けていないと考える方がよさそうです。

なお、差別化の度合いが増すと、ターゲット顧客が絞られることから集中戦略との差異がわかりにくくなります。

海外メーカーのフェラーリなどはその典型です。

コツ・留意点13つの基本戦略の中でも最も具体的なアクションを考えにくいのは差別化戦略です。

なぜなら、差別化には多様な方向性ややり方があるため、「3つの基本戦略」のフレームワークだけではそのヒントを得にくいからです。

ところがこのフレームワークが広く知られるようになったため、多くの人は「差別化」という言葉で思考停止してしまいがちなのです。

具体的な競合と自社の強みの両方を意識した上で、「顧客に価値があり、なおかつ競合とは違う差別化」を考えることこそが重要です。

2ポーター教授はコスト・リーダーシップ戦略と差別化戦略を両立するのは経営資源の面からも従業員のメンタリティの面からも難しいため、どちらかに明確に絞る方がいいと指摘しています。

これはほとんどの企業に当てはまる指摘ですが、この両者が本当に両立しないかと言えばそんなことはありません。

日本企業であれば、トヨタ自動車やセブンイレブン・ジャパンはコストでも優位に立ちながら差別化を実現しています。

両立は難しいものの、だからこそ両立できた暁には業界で極めて強いポジションを得ることが可能なのです。

15ビジネスモデル「誰に何をどのように提供するか」ということに「儲ける方法論」を加味したビジネスの仕組み。

インターネットが登場してから用いられ始めた言葉であり、ITの活用を含意することが多い。

基礎を学ぶ用いる場面

●起業家や事業企画担当者などが、新事業について構想する●既存の事業や製品、サービスの特徴を改めて整理し、テコ入れのヒントとする●競合との比較を通じて収益性向上のヒントを得る考え方ビジネスモデルの定義や要素分解には様々な手法がありますが、ある事業のビジネスモデルを示すフレームワークとして、ここでは「イノベーションのジレンマ」の提唱者としても知られるクレイトン・クリステンセン教授らのグループが提唱した図表151のフレームワークを紹介しましょう。

冒頭の定義に照らし合わせると、「CVP(顧客価値提案)」が「誰に、何を」に相当し、経営資源と業務プロセスが「どのように」に相当します。

そして「儲ける方法論」に相当するのが利益方程式です。

これをもう少し詳細に説明すると以下のようになります。

顧客価値提案(CVP):誰に何を提供するかということですが、これは単に提供している製品やサービスそのものだけで考えるのではなく、どのような顧客ニーズに応えているかという、より深い部分で考えることが重要です。

例えばノンアルコールビールは、「車を運転するのでアルコールを摂取するわけにはいかない人に、ビール味のものを提供する」「普通の勤労者に対して昼からでも乾杯してビールを飲んだ気になれる」「飲み会で1人だけビールを飲まない人の疎外感を防ぐ」といった価値を提供しています。

主要業務プロセス:これはNo.13で紹介した事業全体のバリューチェーンや、もう少しミクロで見た業務の進め方(例:中途社員採用であれば、広告・プロモーション、説明会開催、問い合わせ対応、面接、採用後の教育……)を指します。

また、単に流れを示すのではなく、そのプロセスが進む時の意思決定基準などもここで勘案します。

主要経営資源:ヒト、モノ、カネといった伝統的な経営資源に加え、ノウハウ(知恵)やネットワーク、パートナーなど、そのビジネスにとって重要な要素を含みます。

利益方程式:例えば低価格だけどコストも安くして儲けるといった財務的な見方に加え、フリーミアム(無料版でユーザーを引き寄せた後、アイテム課金などを行う)に代表されるユニークな課金モデルなどもここに含みます。

なお、このフレームワークは基本的にある1つの事業について見るものですが、複数のビジネスを組み合わせたポートフォリオとしてのビジネスモデルという観点も重要です。

たとえばAmazonのEコマースのビジネスモデルとクラウドサービスのビジネスモデルは1つのフレームワークで図示するのは難しいですが、Amazonはもちろん両者を念頭に事業ポートフォリオを構築し、全社的なビジネスモデルを作っています。

事例で確認ビジネス街にあるカラオケボックスのビジネスをこのフレームワークで分析してみましょう。

いろいろユニークな点はありますが、注目されるのは利益方程式でしょう。

カラオケボックスというとユーザーには「歌う場所」のイメージが強いですが、カラオケはあくまで客寄せであり、儲けるのは粗利率が高く支払額も大きい飲食とアルコールというのが基本です。

また、顧客にしっかり来てもらうために、最新の曲が歌えるような設備を導入するとともに、ある程度快適な環境を整備することも、競争上必須と言えるでしょう。

コツ・留意点1特に最近のITベンチャーなどでは、ビジネスモデルを構想することは重要である半面、あまりに早くビジネスモデルを固めすぎてしまわないことが重要とされています。

こうしたビジネスでは、当初想定していた提供価値が本当に顧客に評価されるかが不透明ですし、速い技術進化に伴い、刻々と経営環境が変わるからです。

最近よく用いられるリーンスタートアップという考え方はそれを反映したものです。

β版でいいのでどんどん市場に出して、市場での実験を通じて、提供価値を含めたビジネスモデルを俊敏に変えていくことこそが重要という考え方です。

2大企業においては、往々にして既存の経営資源やプロセスに思考が引っ張られてしまいます。

本業が窮地に陥っていてドラスティックに事業を変えたいとき(例:それまでの利益方程式が通用しにくくなっているなど)や、全く異質の新規事業を構想したい場合などは、これでは負けてしまいます。

そうした場合は、まず顧客に対する提供価値を構想し、そこから逆算してあるべき経営資源やプロセスを構築するのが、難しいですが望ましい方法です。

16戦略キャンバス競争のない状況(ブルー・オーシャン)を目指す上で、取り除くべき要素、思い切り減らす要素、大胆に増やす要素、付け加えるべき要素の4つを可視化し、全体を俯瞰したもの。

W・チャン・キム教授とレネ・モボルニュ教授が提唱。

基礎を学ぶ用いる場面

●全く競合がいない市場を探り当てる●現在の自社の状況と競合の状況を比較し、事業改善のヒントを得る●強い競合をベンチマークし、模倣の可能性を探る考え方キム教授とモボルニュ教授は、激戦市場(レッド・オーシャン)で競争しても収益を上げるのは難しく、したがって競争相手のいないブルー・オーシャンを見出し、そこでいち早く独自のポジションを築くことの重要性を提唱しました。

ブルー・オーシャン戦略の特徴としては、競争のない市場を見出すことの他に、「競争を無意味にする」「新しい需要を掘り起こす」「価値を高めつつコストを下げる」「差別化と低コストを同時に実現する」といった要素の追求があります。

そして、ブルー・オーシャンを見出すためのツールとして提唱したのが戦略キャンバスです。

顧客にとって重要な価値がある要因を抜き出し、それぞれについて自社や競合がどのくらいそれらを満たしているのかをまず把握します。

その上で、以下の4つのアクションを適切に組み合わせることで、顧客にとってコストパフォーマンスが高い、ユニークで価値のあるポジションを築こうというのがその主張です。

1.取り除く1)業界常識として製品やサービスに備わっている要素のうち、取り除くべきもの2)もはや価値がないにもかかわらず、提供し続けているもの2.思い切り減らす1)業界標準と比べて、思い切り減らすべき要素2)競合他社を意識しすぎているもの3.大胆に増やす1)業界標準と比べて、思い切り増やすべき要素2)顧客に強いてきた不都合を解消するもの4.付け加える1)業界で提供されていないが、今後付け加えるべき要素2)顧客に新しい価値をもたらし、新しい需要を生み出すもの上記の中でも特に重要なのは、取り除く、付け加える、の2つの要素です。

つまり、程度の増減や強弱ももちろん重要ではあるものの、新しい差別化軸を増やすことと、思い切って止めてしまうことでコストダウンを図れる部分を明確にすることが重要だと考えるのです。

図表161で言えば、要因3は取り除いたもの、要因7は付け加えたものとなります。

10分間散髪のQBハウスで言えば、洗髪や髭そりなどは思い切って取り除いた上で、10分間という超短時間での散髪を提供しています。

事例で確認図表162に、『ブルー・オーシャン戦略』の中に紹介されている事例から、〈イエロー・テイル〉の戦略キャンバスを例示しました。

アメリカのワイン業界は日本同様、やや格式ばったところがあり、それが一部の顧客を遠ざけてきました。

また、通常はマス・マーケティングが行われます。

イエロー・テイルはこうした状況下、マス・マーケティングを廃し、顧客に低価格でありながら「飲みやすさ」「選びやすさ」「楽しさや意外性」という、それまで競合があまり重視してこなかった提供価値に力を入れ、ブルー・オーシャンを切り開いたのです。

コツ・留意点1容易に想像がつくのは、最も難しいのは顧客にとって価値があって、なおかつ競合が気がついていない差別化軸を見出すことです。

自社がすぐ思いつくものは、競合もすぐ思いつくものでしょう。

そうした中で独自の差別化軸を出すためには、ブレストを行って粘り強くアイデア出しをする、顧客にデプスインタビューを行って顧客インサイトを得る、別の業界や製品のアナロジーからヒントを得るなど、地道な活動を行いながらも軟らかい頭を維持することが重要になってきます。

また、出てきた斬新なアイデアをすぐに「無理だ」とつぶさないような企業文化を持つことも重要になります。

2戦略キャンバスはブルー・オーシャン戦略とセットで提案されたため、絶対にブルー・オーシャンを見出さないといけないと考えられる方がいますが、それは行き過ぎです。

戦略キャンバスは、ブルー・オーシャン戦略と離れたところでも、彼我の差を知る上で非常に有効なツールです。

例えば、競合と提供価値の強弱を変えるだけでも、顧客にとってはユニークなポジションと見えることは多いものです。

17VRIO組織が持つ内部資源の有効活用可能性をチェックするフレームワーク。

ジェイ・B・バーニーが提唱。

基礎を学ぶ用いる場面

●自社の強みを知る●自社の優位性がどのくらい持続するかを推測する●多角化時に活用できる経営資源を探る●買収などの資源獲得の有効性を見極める考え方VRIOは、いわゆるリソース・ベースト・ビュー(RBV)の考え方に基づくフレームワークです。

RBVとは、企業ごとに異質で、複製に多額の費用がかかる経営資源(リソース)を活用することによって、企業は競争優位を獲得することができるという戦略論です。

RBVでは、企業の持つ資産、人材、技術力、ブランド、工程、専門能力や組織文化など、さまざまな経営資源の中で、その複製コストが非常に大きかったり、資源が希少で競合による入手が困難だったりするものが競争優位の源泉となり得ると考えます。

例えば、製造の組立工程における特許を取れば、製品自体の特許をとる場合と比較して一般に競合にとっては模倣コストが大きくなり、大きな強みとなり得ます。

バーニーは、その他にも模倣困難な理由として、①独自の歴史的要件(例:日産は本田宗一郎や豊田佐吉を創業者とすることはできない)、②因果関係不明性(例:日本企業の暗黙知の文化や、それを包含する擦り合わせの技術は、なかなか外国の企業には真似しにくい)、③社会的複雑性(例:製品はリバースエンジニアリングである程度分解はできるが、企業内におけるコミュニケーション、組織文化、サプライヤーや顧客とのやり取りは、社会的に複雑で分かりにくい)などを挙げています。

図表172からもわかりますが、バーニーはVRIOのフレームワークにおいて、4つの項目に関して、上から下に行くほど、競争優位性に資する資産と考えました。

経済価値があるのはもちろんのこと、希少性や模倣困難性以上に、それらを活かせるケイパビリティが競争優位を持続させるという発想です。

言い方を換えると、最後の「組織」の要素は他とは意味合いが異なるということです。

ちなみに、企業買収を軸として成長してきたGE(ゼネラル・エレクトリック)や日本電産は、被買収企業のリソースを巧みに活用する組織的ケイパビリティにおいて優れています。

事例で確認ここではグーグルという組織を見てみましょう。

まず彼らのユニークな資産としては、優秀な社員、社内の様々なノウハウ(ビッグ・データの解析や検索アルゴリズムなど)、サーバーなどのハード、ブランドなどがあります。

これらはまさに収益を生み出してきました。

経済的な価値があるのは間違いありません。

次にその希少性ですが、これも非常に手に入りにくいものであることは間違いないでしょう。

人材については他のシリコンバレー企業との競争もあるようですが、Gmailなどで入手したビッグ・データやその解析手法などは極めて希少性が高いと言えます。

真似しやすさに関しても、同社の起業直後ならまだしも、2015年現在、グーグルの持つ資源を模倣するのは非常に困難と思われます。

とてつもないコストや投資が必要なだけではなく、創業者らが作った組織文化などは先述した独自の歴史的要件、因果関係不明性、社会的複雑性などをすべてそろえており、ちょっとした大企業が真似しようとして模倣できるものではありません。

そして最後の組織の部分も、非常に練り込まれており、高いケイパビリティがうかがえます。

こうして見てくると、グーグルは極めて優れた資源を持つ会社であり、追い越すのは容易ではないことがわかります。

コツ・留意点1どれだけ資源が優れていても、顧客ニーズがなくなったり、優れた代替品が出てくると、経営資源が無価値化することはありえます。

経営資源は戦略構築上重要ですが、激動期においては、あまり既存の資源にこだわっていてはかえって足元をすくわれることを意識しておく必要があります。

資源を調達、育成するのには一定の時間を要しますから、予め業界の変化を予測し、前広にアクションを準備しておくことや、経営資源の柔軟性を高める(例:従業員すべてを正社員化するのではなく、ネットワーキングで人材を確保する)ための施策を講じたりすることが重要です。

2VRIOはRBVを代表する分かりやすいフレームワークですが、どれだけ良い経営資源があってもそれが有効に活用されなければ競争には勝てません。

ポーターに代表されるポジショニング学派(分析を通じてユニークな競争優位性、市場地位の確立を目指す)とRBVのどちらがより有効かという議論が昔からなされてきましたが、結論を言えば両方が大事です。

優れた経営資源に甘んじることなく、市場において独自の競争優位性を構築し続ける努力が不可欠です。

18プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)社内の事業を市場成長率と相対シェアの2軸でマトリクス上にプロットし、自社の事業ポートフォリオの特徴を理解する分析。

BCGが開発。

基礎を学ぶ用いる場面

●事業のバランスを見る●将来的に投資すべき事業のヒントを得る●資金ニーズの予測を立てる●事業再編に関する議論を触発する考え方事業を複数持つ企業においてはキャッシュフローの観点から、資金を生み出す事業と、資金を投資しなければならない事業とを区別し、それらをバランスよく組み合わせる必要があります。

あまりに資金を使う事業が多いと資金不足に陥りますが、一方で資金を再投資する事業が少ないと企業が成長しなくなるからです。

PPMでは、①成長性の高い事業は多くの資金を必要とする、②マーケットシェアの高い企業の方が、規模の効果や習熟曲線が効いて高収益を上げ、資金を生み出すことができる、という前提のもと、市場成長率と相対マーケットシェア(トップ企業のシェアに対する比率。

トップ企業の場合は2位に対する比率)の2軸で事業を4つのセルに類別します。

セルの中心点は、縦軸が成長率10%、横軸が相対シェア1.0を用います。

通常のグラフと異なり、左側の方がシェアが高い方なので気をつけてください。

市場成長率は本来は将来の成長率を用いるべきなのですが、実務的には例えば過去3年間の平均成長率で代替したりします。

それぞれの事業は、円の面積を売上高に比例させてプロットします。

つまり、PPMは一見2次元のマトリクスのように見えて、売上高という第3軸も盛り込まれているのです。

一般に3次元のマトリクスは非常に分かりづらいですが、それを2次元の図表で表示した点も、PPMの優れた工夫です。

それぞれのセルには、図表181に示したように、「花形事業(スター)」「金のなる木」「問題児」「負け犬」という特徴的な名称がつけられています。

PPM分析の結果を踏まえたセオリーは、金のなる木から生まれるキャッシュを問題児事業(資金需要は旺盛で、業界ポジションが低い)に投下してシェアを上げ、スターに導き、キャッシュ創出力を上げるというものです。

スターとなった事業は成長率が鈍化するにつれて資金需要が減り、金のなる木へと変化していきます。

負け犬事業については是々非々で判断します。

PPMは非常によく知られたフレームワークであり、マトリクス分析の嚆矢ともいえるフレームワークです。

だからこそ、今でも経営戦略論の書籍では必ず紹介されるのです。

ただ、明快ではあるものの、その前提に起因する弱点が指摘されています。

これらを意識しておかないと、誤った結論を導き出してしまいます。

次の「コツ・留意点」を強く意識してください。

事例で確認図表182はあるハイテク企業のPPMです。

成長途上のハイテク企業らしく、2つ抱えている事業はいずれも10%を上回る成長率を誇っています。

これだけ聞くと喜ばしい話のようにも思えるのですが、問題は資金の手当てです。

成長率のより高いA事業は、シェアがまだ低いですからさらなるキャッシュを投下し、シェアを高めたいところです。

ところが、A事業より成長率が低いとはいえ、B事業の方もまだまだ投資が必要とされる水準の10%の成長率を越えています。

現実には精緻にキャッシュフロー分析をすべきでしょうが、PPMの基本的な考え方にしたがえば、現時点ではB事業は自事業のポジション維持に精いっぱいで、A事業に回す資金はありません。

したがってこの会社がさらなる成長を志向するのであれば、増資などによって市場から資金調達する必要があるといえそうです。

コツ・留意点1PPMに関する理論的な批判には以下があります。

①事業によっては、規模(シェア)の拡大による事業経済性があまり効かない場合も多いが、それが無視されている。

②過去の市場成長率から未来の成長率を予測することは難しい。

③そもそも事業や業界をどこで切り分けるかが難しく、それによって分析結果が大きく変わってしまう。

④事業間のシナジーが考慮されていない。

⑤実際の利益が考慮されていない。

2上記以外にも実務的な運用の難しさも指摘されています。

①トップシェア以外の事業は右側にプロットされるが、それによって実感値とは異なる分析結果がもたらされる。

たとえば、すべての事業がシェア2位で十分儲かっていても、左側にプロットされる事業がないことになってしまう。

②特に「負け犬」の名前が刺激的であり、そこにプロットされる事業の従業員のモチベーションを削いでしまう。

こうした難しさもあって、近年ではPPMのチャートのみから意思決定を行うことはほとんどなく、むしろ社内の議論を触発したり危機感を醸成するためのツールとして用いられることが多いようです。

19アンゾフの事業拡大マトリクス多角化の方向性を、「市場浸透」「新製品投入」「新市場開拓」「狭義の多角化」の4つに分類する考え方。

横軸に製品、縦軸に市場をとるマトリクスで、経営学者のH.I.アンゾフが提唱。

基礎を学ぶ用いる場面

●成長に寄与する施策案をブレスト的に洗い出す●現在の自社の取り組みを確認することで、抜けている施策を知る●特に狭義の多角化の取り組みについて、シナジーが本当に効くのか再確認する●過去の成功事例をプロットすることで、自社の得手不得手(事業拡大に関するケイパビリティ)を確認する考え方特に株式を公開している企業であれば、株主からは必ず成長が求められます。

成長の見込めない会社の株価は、基本的にはどんどん下がっていくことでしょう。

では、企業をどの方向に成長させていけばいいのか?その方向性を探るのがアンゾフの事業拡大マトリクスです。

アンゾフの事業拡大マトリクスでは、成長の方向性を大きく市場軸と製品軸で考えます。

そしてそれぞれ「既存/新規」を考えることで、4つの成長の方向性が出てきます。

「既存製品×既存市場」の市場浸透は、最も成功率の高い方向性と言われています。

具体的には、顧客単価を上げたり、ヘビーユーザー化する施策を考えます。

「既存製品×新規市場」は市場の開拓です。

国内のみに販売していた製品を輸出したり、例えば医家向けの医薬品をOTC(大衆薬)として一般消費者に売るなどがこれに該当します。

「新規製品×既存市場」は新製品投入となります。

たとえば野菜を買っている市場に肉も販売する、スポーツ会場に来たファンに様々なグッズも買ってもらうといったやり方です。

「新規製品×新規市場」は俗に言う多角化となります。

一般にはこれが最も難しいとされています。

全く自社の強みが活かせない無関連多角化は通常は失敗する可能性が高いので、何かしらのシナジーを活かして事業展開するのが一般的です。

例えば、トヨタは元々自動織機の会社でしたが、そこで培った生産技術を自動車に転用し、いまや世界一の自動車会社へと成長しました。

なお、これらの事業拡大は、単に成長に寄与するだけではなく、リスク分散につながったり(例:法人事業は不調でも消費者向け事業は好調など)、新しいスキルの拡大につながったり、また組織に活気をもたらしたりします。

闇雲な事業拡大は好ましくはありませんが、経営環境を見据えた適度な事業拡大は経営を健全に行う上でも非常に重要なのです。

事例で確認具体的な事例として、アメリカでオンライン書店としてスタートした初期のAmazonについて検討してみましょう。

当初はアメリカ国内が基本ターゲットで、扱う商品も書籍、そして音楽CDやDVDなどがメインでした。

分かりやすいのは左下と右上への展開でしょう(図表192参照)。

地域軸を拡大するとともに、取扱商品を増やすことが、誰しもが思いつく成長の方向性です。

Amazonのケースでは、そうした拡大も図りながら、サイトや発送の利便性を向上させ、既存の市場浸透をしっかり図っていった点も特筆されます。

いまでこそ当たり前となった書籍のレビューやレコメンデーション(「この書籍を買った人はこんな書籍も買っています」の表示やメール)は、まさにAmazonが先陣を切って発展させてきたものです。

難しいのは右下の「狭義の多角化」でしょう。

初期の段階でどこまで構想できていたかは分かりませんが、実はAmazonはそのコンピューティングパワーを活かし、2015年現在はクラウド分野でナンバーワンのプレーヤーとなっています。

こうして見てくると、Amazonは4つのセルに関して満遍なく成長してきたと言えそうです。

コツ・留意点1アンゾフの事業拡大マトリクスは、事業拡大のブレストツールとして優れたものです。

ブレスト一般に言えることではありますが、なるべく多様な人間が集まり、他人の意見を否定せずにさまざまなアイデアを出すことが重要です。

その際、10個程度の案が出たところで止めてしまっては意味がありません。

たとえば30個など高い目標設定をして数多くのアイデアを出すようにしましょう。

その意図は2つあります。

まず、ある程度の集合知が集まると、「量が質に転化する」という現象が起こります。

もう1つの理由は、誰もがすぐ思いつくようなアイデアは競合もすぐに思いつくということです。

粘って考え抜くからこそ、競合がすぐには思いつかないようなアイデアが生まれる可能性が高まるのです。

2成長戦略を考える際、既存市場×既存製品のセルが意外に疎かになりがちです。

ここについても、顧客のヘビーユーザー化や客単価の向上のための施策など、さまざまなアイデアを出すことが必要です。

D.A.アーカー教授は、製品と市場の2軸に加え、「どのように」という3つ目の軸を提唱しました。

生産や販売手法など、さまざまな要素に関して新しい方法論を考えることが有効です。

20セグメンテーションとターゲティングセグメンテーションは、不特定多数の人々を同じニーズや性質を持つ固まり(セグメント)に分けること。

市場細分化。

ターゲティングは、切り分けた市場セグメントの中から具体的に標的セグメントを選ぶこと。

基礎を学ぶ用いる場面

●マーケティング担当者が標的市場を絞り込む●自社の強みが活きそうな市場を見極める●どこが成長に寄与しそうかを検討する●資源分散の度合いを再検討し、選択と集中を行う考え方どれだけ大きな企業であったとしても経営資源には限りがあります。

また、20世紀初頭のT型フォードの時代(色は黒のみ)ならともかく、昨今は市場の成熟化に伴い、顧客のニーズは極めて細分化、多様化しており、そうしたニーズすべてに応えようとすることは現実的ではありません。

そこで必要になる考え方が、市場をある程度切り分けて(セグメンテーション)、その中から最も自社が事業展開するのにふさわしい市場セグメントを選ぼう(ターゲティング)という考え方です。

これを適切に行うことによって、企業は費用対効果高く市場にアプローチし、キャッシュを生み出すことができるというのが近代的なマーケティングの発想です。

市場を切り分けるセグメンテーション変数としては、図表202に示したものが典型的です。

なお、これはどちらかと言えば消費財を想定しており、そのままでは生産財に応用しにくいものも含まれます。

生産財の場合には、「法人としてのタイプ(株式会社/NPO/公的機関……)」「法人の規模」「外資系か日系か」「親会社があるかないか」といった軸がより有効となります。

商材の特性や事業の特性に合わせて市場をセグメンテーションしたら、次に、その中から自社が標的とすべきセグメントを選びます。

このときに使われる評価基準のフレームワークとして6Rがあります。

6Rは、RealisticScale(市場規模)、RateofGrowth(成長性)、Rival(競合状況)、Rank(優先順位)、Reach(到達可能性)、Response(反応の測定可能性)を見据えた上で標的市場を選ぶものです。

特に重要なのは最初の3つのRで、市場の魅力度と競合関係を天秤にかけながら意思決定をすることが一般的です(「コツ・留意点」の2も参照)。

ただし、近年はITの発達もあり、事前に厳密なターゲティングをしなくとも、実際のWEB上の購買行動を見据えた上で個々に対応しようという動きもあります。

技術がもたらすマーケティングの進化には注意してください。

事例で確認NHKの平日8時15分から10時まで放映される情報番組に「あさイチ」があります(2015年現在)。

この時間帯は昔から情報番組の激戦区で、各局が視聴率競争を繰り広げる中、NHKは4〜5%と、必ずしも高い視聴率を実現できませんでした。

そこでNHKがとった手段は、徹底的に40代の主婦をターゲットにし、しかも生活の話題、特に人間関係や体の悩みといった生々しい生活の話題を提供することでした。

言い方を換えれば、生々しい生活の話題に興味のある40代の主婦をターゲットにしたのです。

そして、事件・事故や芸能ゴシップという情報番組の定番ネタは取り上げない代わりに、生々しい生活の話題については「セックスレス」のような、朝の番組としてはかなりきわどい話題も取り上げることにしました。

ターゲットを明確に絞り込んだことは、「誰にも受ける」という総花感の払拭や1つのテーマに関する深掘りにつながり、当初の標的セグメント以外にも訴求することになりました。

そして巧みなスタッフィングや、前番組の連続ドラマとの連携もあり、視聴率を一気に10ポイント以上引き上げることに成功したのです。

コツ・留意点11人の中に複数の個性がある場合があるという点も意識しましょう。

例えば、心理変数で「新しいものを試したがる」というイノベーター気質で切り分けることがありますが、同じ個人や企業が常に新しいものを試したがるわけではありません。

ファッションや音楽については非常に新しいものを好む個人が、転職や保険といった一生を左右しかねない分野に関しては保守的になるというのもよくあることです。

個人としての振る舞いが、企業の購買者としての振る舞いとは異なるということも起こりがちです。

一般的に企業内では他人からの評価が絡んでくるため(人事考課が絡むため)、常日頃浪費癖のある人間でも、いざ企業の購買者となると、慎重になってしまうのです。

2一般に、規模が大きく成長率の高い市場は誰にとっても魅力的で、その結果、競合がこぞって参入してレッド・オーシャンとなってしまうということはありがちなことです。

魅力的かつ、自社のみが勝てるという市場はめったに存在しません。

魅力度と、その中で勝ち残れる可能性を天秤にかけた上で、競合の動向も意識しながら、適切な市場選択を行う必要があるのです。

21ポジショニング(ポジショニングマップ)ターゲット顧客に、自社の製品をどんな風に他社の製品と違うと認識してもらうかということ。

特に2次元のマトリクスで自社の位置を示すものをポジショニングマップと呼ぶ。

基礎を学ぶ用いる場面

●マーケティング担当者や営業担当者が、自社ならではの競合との差別化ポイントを強調し、顧客から選んでもらえるようにする●製品開発担当者が、競合とは異なる製品作りの参考にする●自社製品がより顧客の眼に好ましく映るよう、訴求ポイントを変える●自社製品に新しく有効な機能や効用が発見・開発された時、それを打ち出す考え方営業担当者がセールストークをするときに競合製品との差異を説明できなかったり、製品開発者が新しい製品を作る際にすでに市場に出ている競合製品と同じものを作っていては、ビジネスはうまくいきません。

競合と意味のある差異を作り、それをしっかり顧客に認識してもらうことが重要です。

ポイントは、「認識(認知)」という言葉です。

つまり、実態としての差別化はもちろん重要ですが、それは自ずと顧客に伝わると考えるのではなく、顧客にとって他とは違う魅力的な製品だと「認識」してもらうことが重要です。

ポジショニングの方法には大きく2つあります。

1つは、ユニークな定義で他に類のないものとして認識してもらうということです。

たとえばツイッター(Twitter)はミニブログと表現されることがありますが、やはりブログではありませんし、SNSとも異なります。

あえて言えば「140字という文字数の中で自由に発言でき、世界中の人々とリアルタイムに情報共有できるデジタルメディア」ということになるのでしょうが、「ツイッターはツイッター」としか言いようのない独自の認識を顧客の頭の中に植え付けたことが成功要因と言えます。

もう1つの方法は、ポジショニングマップを描き、自社をそのマップの中で優位な場所に位置づけることです。

たとえば図表211に示したような例です。

特に消費財は意思決定の時間が短く、また、広告などで表現できるメッセージにも物理的な限度がありますから、通常は2軸のポジショニングマップを描くのが一般的です。

ポジショニングマップ上での表現は「品質」「感情」のように体言止めにするのではなく、顧客視点に立った上で、「品質が良い」「オシャレで優越感がくすぐられる」のような顧客視点の表現にすることが望まれます。

生産財は消費財に比べると訴求ポイントの数が多く、必ずしも2次元のポジショニングマップだけで説明しきれないケースが多いのですが、それでもそうした訴求点の中から2つの組み合わせを複数選んで複数のポジショニングマップを作り、訴求する相手に合わせてセールストークをするといったことがよく行われています。

事例で確認ポジショニングは競合との差を見せることですから、特にライバルとなる重要な競合を意識し、彼らとの差異を見せることが必要です。

たとえば早稲田大学の最大ライバルは慶応義塾大学ですから、彼らとの差別化イメージが必要となります。

ここで「就職に強い」「都心に立地」などを打ち出してもあまり効果はないでしょう。

「自由な校風である」「バラエティに富む卒業生が多い」などを打ち出す方が、差別化イメージは伝わりやすいでしょう。

逆に慶応義塾大学であれば、対早稲田大学に関しては、「学生の家柄がいい」「卒業後のネットワークが強固でサポートも手厚い」などを打ち出すと有効でしょう。

なお、「学生の家柄がいい」は「本当にそうなのか?」という疑問も湧くかもしれませんが、世の中の認識(パーセプション)としては現実にそうなっていそうです。

であれば、それを活用するのは十分に効果が見込まれるやり方と言えるでしょう。

コツ・留意点1実際に顧客が頭の中で持つ各商品の位置のイメージ図をパーセプションマップ(認識のマップ)と呼びます。

自社が当初描いていたポジショニングマップと、実際に顧客が頭の中に持つパーセプションマップは通常異なるものです。

常に顧客の声を聞いたり現場の様子を見ることで、自社の製品がどのように認識(パーセプション)されているかをしっかり把握することが重要です。

場合によっては速やかにポジショニングを変更することもあります。

これをリポジショニングと言います。

2すでにNo.16の戦略キャンバスの項目でも述べましたが、既存の差別化軸にとらわれず、新しい差別化軸を考えることも大事です。

かつて歯磨き粉市場においてサンギの「アパガード」は「歯が白くなる」という独自の軸を打ち出し、広告メッセージでも強く伝えることで売上げを急伸させました。

ハーバード大学のヤンミ・ムン教授は、著書『ビジネスで一番、大切なこと』において、ライバルに差をつける新しい差別化の軸として「逆張り」「刷新」「脱好感度」を提唱しています。

22マーケティング・ミックス(4P)企業がターゲット市場において目的を達成するために活用する、コントロール可能な施策の組み合わせ。

通常は、マーケティングの活動要素である4Pを指す。

基礎を学ぶ用いる場面

●ターゲット市場やポジショニングを踏まえ、具体的に顧客にアプローチし、買ってもらえるようにする●重要なマーケティング上の施策のモレがないかを再確認する●マーケティングの施策間の連携がとれているかを確認する考え方マーケティング・ミックスとは、一言でいえば、具体的な顧客への施策群です。

Product、Price、Place、Promotionの頭文字をとって「4P」と呼ばれるのが一般的です。

なお、サービス業では、この3つに加え、「People」「Process」「PhysicalEvidence」を加え、「7P」と呼ぶことがあります。

4Pでは、それぞれ以下のようなことを考えます。

なお、たとえばパッケージは製品の要素もあればコミュニケーションの要素がありますし、営業担当者のマネジメントは、チャネルとコミュニケーション、(マージンやリベート政策も含めると)価格に関わってきます。

したがって、それぞれがすべて個別に独立しているわけではなく、ある施策が4Pの複数の要素に関わってくることもある点はご理解ください。

Product(製品)・コアの価値/中間的な価値(製品名やパッケージなど)/付随的な価値(アフターサービスなど)・製品ラインの広さ/カニバリゼーションの度合い・ブランドPrice(価格)・定価/値下げ方針・他製品とのバランスPlace(チャネル)・チャネルの長さ/幅/役割分担/具体的パートナー/動機づけPromotion(コミュニケーション)・伝える内容・伝える媒体マーケティング・ミックスの基本は、それらが互いに整合していること、そしてターゲット顧客やポジショニングといった上流の要素とも整合していることです。

たとえば、セレブを狙った高級時計であれば、ステータス感に見合う価格やアフターサービスが必要となります。

購買そのものの体験も重要ですから、チャネルも自ずと限定されるでしょうし、接客も丁寧である必要があります。

どれだけ集客力があるとはいえ、コンビニエンスストアでそうした高級時計を売ることは全く理にかなっていないのです。

事例で確認日本のビジネス史に残るヒット商品、アサヒスーパードライを例にその4Pを見てみましょう。

まず気がつくのは、商品展開に関しては、発泡酒や第3のビールを別にすると、スーパードライを中心にその製品ラインを広げていることです。

かつてはスーパードライに続くビールの柱を打ちたてようとしたこともありますが、ここにきてそうした試みは止め、スーパードライというブランド資産を徹底的に活用していることがわかります。

「一番搾り」「ラガー」に分散しているキリンとは大きな違いと言えるでしょう。

もう1つ目立つのは、若者や女性のビール離れを食い止めるべく、CMに人気タレントの福山雅治を起用しているところです。

90年代は基本的に缶そのものを用いたメタリックなイメージと新鮮さを前面に打ち出していましたが、これはターゲット顧客層の嗜好の変化に合わせたものと言えるでしょう。

コツ・留意点14Pはすべてそれぞれの難しさを持っていますが、近年、ICTの進化により最も急激にそのありようを変えているのはPromotionです。

ビッグ・データ解析によるリターゲティング・マーケティングや、コミュニティ・マーケティング、コンテンツ・マーケティングなど、新しい手法が次から次へと生まれてきます。

あらゆるビジネスパーソンがこれらすべてを理解する必要はありませんが、大潮流としてのトレンドは最低限押さえておきたいものです。

2もう1つ重要な動きとしてブランドというものの重要度の高まりを挙げておきましょう。

ブランドはかつてProductの一部としてみられた時代もありますが、いまではマーケティングそのものと並ぶほど重要な地位を占めるに至っています。

ブランドは、単なる差別性やちょっとした好意ではなく、より強いロイヤルティ(忠誠心)を感じてもらうように顧客を導く上で、非常に重要な地位を占めるのです。

ブランドの価値を高める施策には様々なものがありますが、何より重要なのは、商品やサービス本来のクオリティを上げ、顧客満足を極めて高いレベルまで上げることです。

23AIDA消費者の購買決定プロセスを説明するモデルの1つ。

認知(Attention)、興味(Interest)、欲求(Desire)、行動(Action)の略。

基礎を学ぶ用いる場面

●顧客を最終的な行動(購買)に導くべく、彼らが今どの状態にあるのかを知り、適切なコミュニケーション施策をうつ●現在とっているコミュニケーション施策が顧客の購買決定プロセスに照らして有効かどうかを確認する考え方仮に、その商品のことを知っている人がほとんどいないにもかかわらず、店頭で販売員に積極的に売ってもらうよう働き掛けても、無駄に販売員の時間を浪費するだけで効果は薄いでしょう。

商材にもよりますが、販売員が対面営業を行うのであれば、ある程度、顧客にすでにその商品について、少なくとも関心を持ってもらえている状態にしておく方がはるかに有効です。

そこで実際のコミュニケーション戦略の実行に当たっては、図表231に示したようなAIDAモデルを用い、その状況に見合ったコミュニケーション施策をとるようにするのです(DとAの間にM:Memoryを入れてAIDMAモデルとすることもあります)。

AIDAはプロセス型のフレームワークであり、ボトルネックを作ることなく、プロセスをスムーズに流すことが主眼となります。

昨今は情報洪水ということもあり、企業が特に関心を払っているのはAttentionの獲得です。

成熟期を迎える商品が多く、シンプルなメッセージでは差別化できる余地が小さくなっているという事実もこの状況の背景にあります。

そんな情報洪水の中で、いかに少しでも目立って顧客のAttentionを獲得するか、もしくはひとたび獲得したAttentionを無駄にせず、購買への転換率を高めていくかに注目が集まっています。

なお、AIDAは非常に分かりやすいフレームワークである半面、定量的な測定が難しく、PDCA(No.27参照)を回しにくいという批判もあります。

そこで開発されたのが、AMTUL(AttentionMemoryTrialUsageLoyalty)のモデルです。

それぞれのステージにおいて、再認知名率(「○○というブランドを知っていますか?」)、再生知名率(「○○というカテゴリーの中で好きなブランドを○個挙げてください」)、使用経験率、主使用率、今後の購買意向率といった指標を用いてプロセスを可視化することで、より確実に購買、さらにはリピートにつなげようとするのです。

なお、AIDAやAMTULは基本的にリアルの世界を前提としています。

しかし、No.22でも触れたように、ITによってこのコミュニケーション戦略は大きな変化を受けています。

そこで、IT時代の新しい行動変容モデルを図表232に紹介しましたので参考にしてください。

いずれもShare(共有)という行動が最後にあるところがポイントです。

事例で確認ロッテのFit’sは、従来のガムよりも軟らかいガムです。

「固いから」という理由で、ガムを敬遠する若者が増えてきた中で、あえてその若者をターゲットと定め、従来のガムよりも軟らかい製品を市場導入したのです。

そのコミュニケーション戦略ですが、まずは、若者のAttentionを獲得すべく、軟らかさを表現した不思議な動きのダンスとそれに合わせた音楽が流れるCMを流しました。

次に、Web上で「Fit’sダンスコンテスト」を行い、YouTubeを使って一般の若者から動画を集めるというキャンペーンを行いました。

これはAttentionからInterestへの移行を狙ったものです。

その上で、若者が良く利用する場所や、電車のつり広告に「食べ方」の広告を展開し、Desireを刺激しました。

そして最後に、駅中のKIOSKやコンビニ等、売り場のレジ脇に商品を置くことで、Actionを起こさせるわけです。

コツ・留意点1AIDAやAMTUL、あるいは図表232に示したAISAS、AISCEASなど、購買意思決定プロセスのモデルにはさまざまなものがあります。

どれかが最も優れているというわけではありません。

目的や商材の特性などに応じて適切に使い分けることが必要です。

2Attentionの獲得に関しては、従来は大企業が有利な地位にいました。

資金力があるうえ、過去の実績が消費者の先入観となるからです。

ただ、本書でも何度か触れたように、ITの進化によって顧客との力関係に変化が見られ、小企業でも工夫次第でAttentionを獲得する機会は徐々に増えてきています。

とは言え、比較的資金力に劣る企業は、Attentionから次のプロセスへの転換率を高める施策に注力するのが常套手段です。

現実の世界でも、伊藤園は、初の缶入り緑茶飲料という独自性や「お〜いお茶」という斬新なネーミング、パッケージに消費者から応募した「新俳句」を載せるなどの工夫を打ち出し、自販機数で伊藤園に大きく勝るコカ・コーラやサントリーなどの大手に対抗して、緑茶カテゴリーのトップシェアを維持しています。

24プロダクト・ライフサイクル(PLC)一般的な製品に見られる、時間の推移に伴う売上高の変化。

一般には、「導入期」「成長期」「成熟期」「衰退期」の4つのステージからなるS字型のカーブを前提とすることが多い。

基礎を学ぶ用いる場面

●ステージにあったマーケティング施策がとれているか確認する●競争環境や顧客ニーズの変化などを予測する●数年後にとるべきアクションを想定する考え方多くの製品において、導入期、成長期、成熟期、衰退期のそれぞれの段階で、製品と利用方法についての顧客の認知度や理解度、競合の数や強さ、マーケティング組織の発達段階などに違いが見られるのが普通です。

それに伴ってマーケティング戦略課題が異なってくるため、おのずと効果的なマーケティング施策も異なったものとなります。

導入期から衰退期までの典型的な特徴は以下のようになります。

①導入期:市場の発達の初期段階であり、新技術によって市場が創出されるケースも多く見られます。

この段階では、製品の使用方法や現在使用中の製品に対する優位性に関する啓蒙活動を重視し、顧客へのコミュニケーションを行う必要があります。

基本的な目的は、初期需要を創り出すことです。

②成長期:新製品が浸透してくると、買い手は、購入の仕方や製品の使用方法に関して知恵をつけてきます。

また、市場セグメントそれぞれのニーズによりきめ細かく合わせた製品が求められるようにもなります。

この段階では、差別化を図ったり、自社の製品を競合製品とは違うものだと認識するよう、買い手を教育する必要性があります。

うまく伸びるセグメントを発見できたり、ユニークな差別化ができれば、シェアを一気に獲得できる可能性もあります。

③成熟期:市場というパイの成長は終わり、企業が自社の取り分を最大化しようとし始める時期です。

この段階では、業界構造は固定化し、少数の企業が大部分の市場シェアを獲得しています。

これらの企業の目標は、市場シェアを維持し、可能であればこれを拡大することです。

この段階でシェアを大逆転するのは一般的には難しいとされます。

④衰退期:この段階に至ると、売上げは低下し、利益も激減していきます。

新規投資がほとんど必要ないことから、一部の上位企業はキャッシュを生み続けることができますが、それ以外の企業は、撤退するか、イノベーションにより新たな価値の創造を行うか、どちらかの戦略をとる必要があります。

また、キャッシュを生み出している企業も、それをその事業に再投資するのではなく、新しい事業に投資するようになります。

事例で確認テレビを例にプロダクト・ライフサイクルを考えてみましょう。

厳密にはグローバルで見るか国内だけで見るのかでまた話は変わるのですが、ここでは国内のテレビ市場に絞って考えます。

まず、かつては日本のテレビの草分けであったブラウン管型の白黒テレビはほぼその役割を終え、現在では市場に出回っていません。

プラズマテレビは比較的新しい技術を用いた製品ではありましたが、技術競争でライバル製品に敗れ、国内メーカーは基本的に撤退してしまいました。

現在、市場の主流を占めているのは大型の薄型液晶テレビですが、これもすでに成熟期に差し掛かったと見る方がいいでしょう。

2015年現在、伸びが期待されているのは4Kテレビで、今後はこれが市場を牽引することが期待されています。

なお、ここでは個別のテレビごとにどの成長段階にあるかを見てきましたが、国内のテレビ市場全体としては、人口減少や人々の「テレビ離れ」もあり、成熟期から衰退期に向かっているものと思われます。

コツ・留意点1あらゆる製品が典型的なプロダクト・ライフサイクルのS字型のカーブを描くわけではないという点を意識する必要があります。

中には、経済状況や流行に応じて成長と衰退を繰り返す業界もありますし、あっという間に市場が立ち上がったと思ったら、翌年には一気に市場がなくなってしまうという極端なケースもあります。

また、導入期から衰退期までに要する期間も一定ではありません。

比較的進化が早いのはハイテク業界で、比較的短期の間に市場が立ち上がり、10年もたたないうちに衰退期に向かうことも少なくありません。

一方で、食品などは、分野にもよりますが、成熟期が非常に長く続くことがあります。

2プロダクト・ライフサイクルを実務で応用する際の難しさは、上記とも関連しますが、渦中にいると今がどのステージなのかを正確に同定することが難しいということです。

たとえば、今となっては、フィーチャーフォン(ガラケー)が2007、2008年頃から衰退期に入っていたことは明確ですが、当時はスマートフォンの普及がどのくらいのペースで進むのかの予測は難しく、まだまだフィーチャーフォンが伸びると考えていたメーカーもあったのではないでしょうか。

25キャズムキャズムはプロダクト・ライフサイクルにおいて、アーリー・アダプターとアーリー・マジョリティーの間に存在する溝のこと。

ハイテク商品などでは、この溝を越えられず一般に浸透しないことが多いとされる。

ジェフリー・ムーア氏が提唱。

基礎を学ぶ

用いる場面●特にハイテク事業に代表される新事業において成長停滞の原因を探る●その停滞を打破する●成長初期の段階で、キャズムを越える準備をする考え方No.24で紹介したプロダクト・ライフサイクルの考え方には、市場規模もさることながら、それぞれの段階の顧客の質が違い、それに適切に対応するべきという発想があります。

それら質の違う5タイプの顧客は、新製品を受容する順に、イノベーター、アーリー・アダプター、アーリー・マジョリティー、レイト・マジョリティー、ラガードという名前がついています。

新しい製品・サービスが成功したと言えるには、マジョリティ層まで到達することが求められますが、中にはそこに至ることができず、気がついたら代替品に駆逐されてしまったという例も少なくありません。

キャズムは、図表251に示した、アーリー・アダプターとアーリー・マジョリティーの間に横たわる隔たりを指します。

多くのハイテク製品は、この溝を越えることに非常に苦労しています。

5つの顧客タイプは以下のようになります。

イノベーター:いわゆる新しもの好き、マニア。

何か新しいものが出るとすぐに飛びつく層。

市場全体の3%程度を占めます。

アーリー・アダプター:聡明な初期ユーザーです。

イノベーターの様子などもうかがいつつ、その製品がどのように進化したり広がったりするかということをある程度正確に予測します。

そのため、ビジョナリーとも呼ばれることもあります。

続くアーリー・マジョリティーに対して、大きな影響力を持ちます。

市場全体の13%を占めます。

アーリー・マジョリティー:アーリー・アダプターの様子を見て、購入するかしないかを決定する人々です。

慎重な大衆層と言えるでしょう。

市場全体の34%程度を占めます。

レイト・マジョリティー:保守的な大衆層です。

新しいものをそれほど好まず、市場の半分くらいに浸透すると使い始める層です。

市場全体の34%を占めます。

ラガード:最も保守的で頭が固く、新製品の採用に乗り気でない層です。

最終的に購買に至らないこともあります。

特にハイテク製品、その中でもBtoBビジネスでキャズムが生まれやすい原因は、アーリー・アダプター(ビジョナリー)とアーリー・マジョリティー(実利主義者)では求めているものが違う上に、そもそも行動パターンが全く異なるという現象が起きやすいためです。

アーリー・アダプターがブレークスルーを求めるのに対し、アーリー・マジョリティーは改善や実利を求めます。

アーリー・アダプターが現在の方法論にこだわらないのに対して、アーリー・マジョリティーは現在利用している方法論やそれを前提とした自社の資源に強くこだわります。

ニーズや行動パターンが違っているのですから、同じ売り方では売れないのは自明の理なのですが、なかなかそれに対応するのが難しいのです。

事例で確認ジェフリー・ムーア氏は、『キャズムVer.2増補改訂版』(2014年刊行)の中で、キャズムを越えるのに苦しんでいる製品や技術として、ホログラム、燃料電池、QRコード、MOOCs(大規模公開オンライン講座)、セグウェイなどを挙げています。

これらはすでにアーリー・アダプターには利用されているものの、アーリー・マジョリティーにまではまだ到達していないというのがムーア氏の見立てです。

コツ・留意点1プロダクト・ライフサイクルが常にきれいなS字を描くわけではないのと同様、5つの顧客タイプのバランスもあらゆる商材や業界に当てはまるわけではありません。

中にはアーリー・アダプターの層が薄く、すぐにキャズムに到達してしまうケースもありますし、逆にアーリー・アダプターの層が厚い場合もあります。

また、キャズムに到達する時間も商材や業界によってさまざまです。

こうした多様性に留意する必要があります。

2キャズムはマーケティング論の中で語られることが多いですが、実際にこれを乗り越えるための方法論は、マーケティングのみならず、組織行動学や人的資源管理、管理会計、仮説思考などの領域にもおよび、かつ、それまでの成功のアンラーニング(アーリー・アダプターまでの顧客層を獲得した方法からの決別)の要素も求められることから、実行するのは容易ではありません。

小手先でなんとかなる問題ではないことをしっかり理解する必要があります。

その上で、一点突破でアーリー・マジョリティー層の中に基盤を作ることが求められるのです。

26ブランド・エクイティブランドの持つ資産的価値。

「ブランド認知」「知覚品質」「ブランド・ロイヤルティ」「ブランド連想」の4つの要素から成る。

D.A.アーカー教授が提唱。

基礎を学ぶ用いる場面

●無形資産である自社のブランド価値を測定する●ブランド価値を高める上でどこに問題があるかを知る●競合ブランドとの価値の差異を認識し、マーケティング施策に活かす考え方ブランドが企業にとって競争上も重要な資産であることは論を待ちませんが、かつては、その資産的価値を測定するという試みはあまりなされていませんでした。

また、ブランドがどのような要素で構成されるかについても統一された見解はありませんでした。

そこで提案されたのが、上記4つの要素からブランドの価値が成り立っているというブランド・エクイティのフレームワークと、それを具体的に金銭価値に評価する方法論です。

まず、ブランド・エクイティを構成する4つの要素は以下のように説明されます。

ブランド認知:そのブランドが「どの程度知られているか」と同時に、「どのように知られているか」ということを指します。

人はなじみのあるものを好み、信頼する傾向があるので、他の条件が同じであれば、認知度の高いブランドのほうが有利となります。

ブランド認知は、「コンビニといえば○○」といったように頭に思い浮かぶブランド再生(純粋想起)と、「○○を聞いたことがある、知っている」というブランド再認(助成想起)に分けることができ、認知の「深さ」を測る指標となっています。

知覚品質:消費者がある製品やサービスを、各自の購入目的に照らして競合製品と比べた際に知覚できる品質や優位性のことです。

性能や付加的サービス、そして信頼性などによって決まってきます。

ポイントは、「知覚」された品質という点です。

どれだけ実物が優れていても、それが顧客に伝わっていないと意味がありません。

ブランド・ロイヤルティ:顧客がブランドに対してどの程度忠誠心または執着心を持っているかということです。

ロイヤルティが高いほど、顧客は他のブランドにスイッチしにくく、またリピート購買やポジティブな口コミなどを行ってくれるため、企業は安定的な収益が得やすくなります。

ブランド連想:顧客がそのブランドに関して連想できるすべてのものを指します。

ハウステンボスであれば、「長崎」「広い敷地」「ユニークなホテル」「ハウステンボス号」「HISの澤田社長」、あるいは個々のアトラクションが典型的に該当します。

ポジティブで強い連想を顧客の心の中に刻み込んでもらうための努力が必要となります。

ブランド・エクイティを金額換算する評価方法としては、ブランドの構築にかかった費用の総額を測定する「コスト・アプローチ」、ブランドが将来生み出すキャッシュを予測して現在価値に割り戻す「キャッシュフロー・アプローチ」、実際に市場で取引されている類似ブランドの価格をもとに評価額を決定する「マーケット・アプローチ」の3つが代表的です。

通常は複数のアプローチを併用します。

事例で確認ここではプロ野球球団の阪神タイガースをとり上げましょう。

日本人であればプロ野球に興味がなくとも名前くらいは聞いたことがあるはずです。

おそらく、読売ジャイアンツに次ぐブランド・エクイティを持つ球団と言えるでしょう。

その要素を図表262にまとめてみました。

1990年代には暗黒時代もありましたが、それでも多くのファンは見捨てませんでした。

心理的な思い入れが他球団へのスイッチを妨げたものと思われますが、これは希有なケースと言えるでしょう。

コツ・留意点1ブランドは、突き詰めれば「信頼」「信用」「実績」を反映します。

しかし、どれだけこうした要素が強くとも、それを正しく伝える努力をしないと、ブランド・エクイティは向上しません。

「知る人ぞ知る良い会社(製品)」ではブランド・エクイティは高まらないのです。

そのためには、継続的にコミュニケーションを行い、常に顧客の頭の中に「好き」あるいは「信頼できる」という印象を残し続ける必要があります。

ただし、往々にして、コミュニケーションを重視するあまり、本体のクオリティがなおざりになることがあります。

これでは本末転倒です。

製品やサービスの実態の良さを高めつつ、同時に適切なコミュニケーションを行うことが必要なのです。

2特にブランド認知やブランド・ロイヤルティはKPI(例:純粋想起率、再認想起率、リピート率など)を設定して測定することが容易なので、適宜定点観測を行うことが有効です。

その際には、競合企業との比較などを行うと、さらに具体的な打ち手につながりやすくなります。

ブランド連想は定量化がやや難しいですが、それでもネガティブな連想が増えていないかなど、ブランド・エクイティの低下につながる兆候は早めに押さえておきたいものです。

 

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