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2、会社の方向づけのための定石

目次

定石5:企業経営の基本は、常に成長産業のなかにあるべきで、斜陽産業にいる限りいかなる経営努力も成果を得られない

世の中の流れを正確に読み取って、将来の大きな方向づけをすることが、社長の最も重要な仕事だ、と冒頭からなんども繰り返し述べてきた。そこで次に、会社の方向づけをするための定石について詳述していきたい。

まず大事なことは、常に自社を成長産業の中に置くということである。どんなに優秀な経営をやっても、その業種が斜陽産業の中にある限り、どんな政策も、どんなテクニックも、結果的には徒労に帰すからだ。したがって、「さらなる発展のためには、どのような事業をやるべきか」、これは会社の将来を決める最も肝要な要素といえる。

かつて、私が生まれる前は製糸産業や石炭産業が花形であり、製粉・精糖産業も元気であった。しかし、いまや昔日の面影もない。また、電子工業の中でも、現在、ほとんどのオーディオ製品は日本で造る商品ではなくなった。結局、そういうものが世界の新興国で造る商品になってきたということは、日本にとって一般的なオーディオ商品は既に斜陽産業の中に入っていると定義づけられる。

このように、世の中の流れは、常に、確実に動いており、その流れの見極めが会社の将来を決するのである。そういう意味では、皆さん方の業界を、あるいは世の中全体を見回してみて、自社の事業が斜陽産業になっているかどうか、まだまだ成長過程にあるかどうか、そういう見極めが極めて大事なことと認識していただきたい。

定石6T付加価値の伸びがGDPの伸びを下回っていれば、その事業は既に斜陽化しているものと考えよ

自社が斜陽産業にいるか、あるいは成長産業にいるかの判断は、GDPの伸び率に対する自社の付加価値の伸び率で計るのが妥当であろう。

GDP (08∽∽∪o日o∽Lo「『aR一)については説明するまでもないだろうが、簡単にいうと、国内で新たに生産されたモノやサービスの合計額から原材料費を差し引いた、付加価値の合計額であり、 一国の経済的国力を示す指標である。

そして前年比や前4半期でどの程度GDPが増えたか減ったかをパーセントで表した伸び率を「経済成長率」といい、いわば、日本にある企業全体の成長率の平均と考えられる。

したがって、たとえば去年のGDPが500兆円で、今年のGDPが550兆円であれば、経済成長率はプラスー0%であり、誰が事業をやっても平均的に10%は伸びるということだ。

にもかかわらず、日本の成長率の平均値を下回っているようなら、どうやら自社の事業が斜陽化しているか、あるいは自社の経営戦略や戦術の悪さで機会損失していることがわかるだろう。

算出の方法は第3表のとおり、分母にGDP経済成長率、分子に自社の付加価値の伸び率を置いて、これが100%以上、すなわち自社の成長率が日本国の成長率を上回っているかどうかで判断していただきたい。これを企業の「成長係数」という。

さて、GDPは4半期ごとに政府から統計データが発表されており、インターネットでも簡単に調べられる。もちろんここで必要なのは、名目GDPであって実質GDPではない。

GDPには物価変動を含んだ名目GDPと、物価変動の影響を排除して推計した実質GDPの2つ――たとえば、実質GDPが3。1%で名目GDPが4・6%というのは、この差の1・5%というのがインフレ率と捉える― ‐があるが、企業の売上というものはインフレ率が当然のことながら加味されるので、企業の成長率が日本の成長率と比べてどうかを計る場合には、名目GDPをみる。

一方、自社の付加価値率は売上高に対する付加価値のパーセンテージであるが、この付加価値については、決算書上の売上高から材料費や外注費などの外部費用を差し引いて算出すればよい。

要するに、「売上高」から「売上原価」を差し引いた「売上総利益」とほとんど同じであるが、たとえば、売上1億円で、仕入原価6,000万円とすると、売上の1億円は便宜上の数字で、余所の力6,000万円を借りて(仕入れて)1億円となっているだけで、売上1億円から仕入額6,000万円を差し引いた4,000万円こそが、自社が稼ぎ出した正味、すなわち付加価値ということだ。

もう少し詳しく言えば、この付加価値は人件費をはじめ、事業経営に係るあらゆる費用の源泉である。

先ほど私は、最も基本的な定石として、「社長は国に対しての役割、事業をしている地域に対しての役割、販売店や金融機関・外注先などの協力会社に対しての役割、社員に対しての役割、株主に対しての役割…など会社を支えてくれる関係者への役割を自覚しなければならない。社長の役割意識に欠けた私利私欲を満たすだけの経営は、つかの間の繁栄はあっても永い繁栄にはならない」と申し上げた。

すなわち、事業経営とは外部からのいろいろな協力によって売上をあげ、付加価値を生み出す。そして、生み出された付加価値は、明日の意欲につながるように付加価値造成に携わった人々や機関等ヘバランスよく分配され、翌年にはさらに大きな付加価値を生み出していく。その繰り返しによって企業は社会貢献とともに永続繁栄していくのだ。

したがって、その会社の永続繁栄の大本たる付加価値を絶えず生み出していくことが重要であり、ゆえに、社長は売上の伸びというよりはむしろ、付加価値が伸びているかどうかを重要視しなければならないのだ。

ところで、自社の付加価値率の推移を計るには、損益計算書の「売上総利益」の数字をそのまま使えばよいのだが、ただ、メーカーの場合は売上総利益よりも付加価値の方が額が大きくなるので注意して欲しい。

というのも、メーカーの場合は損益計算書の売上原価のなかに、製造に係る経費ということで、工場の労務費や経費が含まれているので、これらを売上総利益に加算しなければ付加価値額が算出できないからだ。

若千ややこしい説明になってしまって恐縮だが、「売上高」と「付加価値」と「売上総利益」「売上原価」の関係を第5表にまとめたので、これを一日すればご理解いただけると思う。

つまり、 一般的な決算書では、材料費、外注費、経費、人件費を合算したものを「売上原価」といい、「売上高」から「売上原価」を差し引いたものが「売上総利益」となる。

よってメーカーの場合は、 一般的な損益計算書の「売上原価」のなかに工場の労務費や経費が含まれているので、これらを「売上総利益」に加算したものが「付加価値」となり、先に述べたように製造業以外の流通小売や卸の場合は、損益計算書に計上されている「売上総利益」がイコール「付加価値」となる。

こうして今期と前期の付加価値を計算してみて、その伸び率が経済成長率以下、すなわち成長係数が100%以下ならば斜陽化しているということであり、逆に、たとえば200%の伸びを示しているようなら、その会社あるいはその事業は今後GDP成長率の2倍の伸び率で成長していくことは夢ではないだろう。少なくともそれが可能だということを意味している。

別の見方をすれば、成長係数は、企業の存在意義を考える上での、ひとつの判断の基準ともなる。付加価値の伸びがGDPの伸び以下だとしたら、それは平均以下ということである。GDPが仮に7%伸びれば、付加価値も7%伸びて普通である。それ以下ではおかしい。

したがって、もしそれ以下なら、「誰が経営しても平均してそれくらいは伸びているときに、我が社がそれ以下というのでは恥ずかしい。事業が斜陽化してきた。何とかこれを変えていこう」という発想が経営者としては生まれてこなければならない。そういう発想が経営者には必要なのだ。

もちろん、急激な成長は経営の安全性に支障をきたす。 一般的には、付加価値というものは売上の拡大に伴って年々少しずつ下がっていくのが普通だからである。したがつて、仮にこれまでの成長係数が95%だとしても、それを恥と意識するあまり、 一気にこれを150%に押し上げようなどと軽く考えないほうがいい。そう考えるのではなく、1年ごとに1%ずつでも伸ばしていき、5年後に100%にしよう、といったように考える。このように時間をかけて改善していくというのが現実の経営というものだろう。

いずれにせよ、会社の成長経営は、以上のような捉え方をする。いささか大ざっばな捉え方ではあるが、事業の成長を計る指標として、日本国全体の付加価値を表すGDP成長率を用いることを定石のひとつとして覚えておいていただきたい

定石7:企業の将来は過去の延長線上にある

企業の将来を考えるときに忘れてはならない定石は、過去の数字を大事にするということだ。なぜなら、自社の将来を計画するとき、これまでの企業体質を切り離して考えることはできないからだ。

将来の経営は、過去の体質の延長線上にプラスあるいはマイナスのアルファが加味された姿になっていく。したがって、もし社長に明確な体質改善の意識と対応がなければ、将来その範囲を超えるような変化は、到底、期待できないのである。

たとえば経費ひとつとっても、増え続けた経費は何もしない限り増え続けるものだ。あるいは、利益が減り続けてきたとすれば、何も対策を打たない限り、この利益は減り続ける、これが企業経営の定石である。

ゆえに、事業の将来を考えるときには、まず過去の数字をよく分析してみる。具体的には5年前までさかのぼって、自社のトレンドすなわち「この事業は上り調子なのか、それとも下がり調子なのか」という流れを把握するのだ。

これは的確に自社の実態をつかむために非常に重要な分析である。たとえ今期は利益が出ている部門でも、過去5年の間に毎年利益率が減少し続けているようならば、何かしらの手を打たない限り、当然のことながら来年以降も下降トレンドで推移するだろう。

つまり、今年だけの数字を見ていても先の見通しというのはわからないということだ。加えて、過去トレンドを把握しないと、その後の手の打ち方をも間違えてしまう。たとえば、過去、減収減益で推移してきた会社が1年で増収増益には絶対にならない。もしなったとしたら、それは一時的に無理をしたからであって、会社の体質が根本的に回復したわけではない。

いきなりV字で業績が向上する場合は、たいてい社長が「とにかく売上を増やせ」と大きな声で叱咤激励し、現場の営業マンが支払い条件を悪くしたり値引きしたりして、強引に押し込み販売した結果であろう。

そういうやり方で売上を一時的に上げても会社の収益性や健全性は悪化して、倒産リスクが高まるだけであることは、本書の冒頭で我が社のV字回復の経営法について述べたときにお話ししたとおりだ。要するに、急激な変革は経営に歪みを生むのである。

したがって、少なくとも業績が下降し続けている場合は、初年度は下降を食い止める。そして2年目、3年目と在庫や売掛金や経費やら様々な経営指標を、目指すべき正常値に近づけていって、大まかに5年のスパンで会社の体質を改善していくというのが良いやり方であろう。

よって、会社の実態、そして事業の将来を的確に見るためには、過去の自社の数字を時系列で見る必要があるということだ。そうして、上り調子なのか、下がり調子なのかを判断し、改善すべき点をみつけて必要な手を長期のそろばんで打っていくのだ。

これまで低迷を続けてきた会社が、明日からでもすぐに高収益を上げられる会社に変身したいと願っても、無理なものは無理なのである。実績を上げ続ける会社にしたかったら、過去の数字を検証して改善すべきポイントを発見し、時間をかけてそれを修正していくしかない。過去の数字を分析することは、会社の体質を知るためにこそ必要なのである。繰り返して言う。将来は過去の延長線上にある。現在は過去のカガミだ。それが軌道修正を加えられつつ、将来へと引き継がれていく。

現在のマイナスは直ちに明日プラスに転化できない。それは必ずどこかで無理が出る。車は急には曲がれないし、急ハンドルは事故のもとだ。長い歴史のなかでつくられたマイナスは、 一定の時間をかけて修正していくしかないのだ。

したがって、急ハンドルを切らないように、社長は過去から現在に続く会社のトレンドを的確につかまなければならないのだ。

定石8:自社の「本当の姿」をつかきために、社長は通常の決算書の他に「社長のための決算書」をつくれ

前述のとおり、会社の将来は、過去の数字から自社の良いところと悪いところを社長がしっかりと把握し、それを計画的に直していくことでしか発展して行かない。つまり、社長として、自分の会社のどこが良いか、どこが悪いかを知るということが、事業経営の大前提にな

ところが、現実に数百社の経営の相談を受けた私の経験を述べると、自らの会社の実態と問題点を正確に把握している経営者は、驚くほど少ない。私がこのようなことを申し上げると、ほとんどの経営者は「そんな馬鹿な、私は会社のことは総てを理解している」と言われる。

しかし、本来会社の実態を示す決算書というものは、 一般的に経理の立場からあるいは税理士、公認会計士の先生方によって作成されているのが実態だ。そして、その実態はこれを作成した立場からは正しい決算書であることは間違いないが、何れも社長の立場から作られた決算書ではない。

したがって、この決算書を社長の立場から正しい判断が行われ易い決算書に作り直し、且つ数年分を一枚の紙に時系列に並べて眺めた時、社長はこの数年間に会社内に起きている変化、即ち自社の良いところ、悪いところを正確に把握できるのである。決算書が「社長、こんなに良くなったからもっと伸ばしてくれ、こんなに悪くなったから早く改善してくれ」と語りかけてくれる。これが社長としての決算書であるべきなのだ。

それでは、社長がひと目で会社の良いところと悪いところを把握し、将来へ向けてこれを計画的に直していける決算書とはどういうものかというと、第6表の佐藤式「社長のための

損益計算書(P/L)」である。これは一般の損益関係の決算書を社長専用にまとめた、通称「佐藤式P/L」である。

一見しておわかりになると思うが、直前期、直前2期、直前3期と過去3期分と、初年度から5年度までの目標損益計算書が一枚の紙で一覧できるようになっている。何度も書くように、過去の体質の延長線上にこれからの経営がある。現実の会社の良いところと悪いところをつかみ、どう舵取りをして修正していくかというのが経営というものだ。すなわち、過去の数字を左目で見ながら、右手で将来の数字を書いていく必要がそこにある。スター精密ではこのフォーマットのP/Lに過去5期分、そして今後5年分の目標を書き込む。そして一年ごとに検証して、修正を加えながら新たに5年分の目標P/Lをつくる。

つまり、平成23年度を初年度とすると、22年度、21年度、20年度、19年度、18年度までの5期分の過去実績と、24年度、25年度、26年度、27年度までの5年分の5年計画を立てる。そして、 一年後の23期末に計画の数字と実績値を照らし合わせ、何か予定通りにいかなかったらその原因を検証して、今度は24年度を初年度として28年度までの5年計画をつくるといった具合だ。

たとえば、23年度期首に24年度の売上を12億円と予測して、売上実績は予測通り達成できたとしても、利益が予測よりも3,000万円も下回ったとする。その原因を追求すると、「当初の採用計画では10名採るはずが、予想外に良い人材が多くて倍の20名を採用したことによって人件費が増えた」とか「運転資金が足らずに急邊、短期の借入をしたので、その金利支払いが増えた」など、いろいろな原因が明らかになる。これらを考慮して、それでも5年後の目標を達成するにはどうしたらよいかと、また計画を練り直すという作業を毎年毎年繰り返して、 一歩一歩会社の体質を改善しながら目標達成に向かって歩を進めていくのだ。

ちなみに、本書ではスペースの都合上、過去3年分までしか載せていない。ただし、今まで過去分析をしたことがない社長がいきなり5年分の数字を見ても消化不良を起こすかもしれないから、初心者は3年分の過去分析から始めてみればよい。

もちろん言うまでもないが、P/Lだけではなくバランスシート(B/S)も同様に過去5年分と将来の5年分をつくる。B/Sの重要性は後でしっかりと説明するが、とにかく会社の体質を根本から変えるためにはB/Sが非常に重要であり、P/LとB/Sをセットで見なければ、会社の将来を間違いなく方向づけることなど、とてもできない。しかし、とりあえずここではP/Lを例にして、社長のための決算書とはいかなるものかを説明したい。

(1)科目を集約する

もう一度、第6表の社長のための損益計算書をご覧いただきたい。

まず、佐藤式P/Lの見方を簡単に説明すると、冒頭に「売上高」の科目があり、そこから「売上原価」を差し引いたものが「付加価値」(売上総利益)であり、以下、この付加価値から様々な経費を差し引いて、営業利益がいくら、経常利益がいくら、税引前利益がいくら、当期利益がいくら、そして最後に「内部留保」が今期いくら残ったかという一年間の損益を、直前3期から直前期までの3年分と、さらに5年先までの目標額を一列に並べている。

そして、 一見しておわかりになると思うが、佐藤式決算書の第一ポイントは、勘定科目を社長が把握すべきものだけに集約してあるという点だ。

というのも、通常、損益関係の決算書というのは損益計算書(P/L)のほかに販売費および一般管理費の明細、メーカーであれば製造原価報告書、さらに利益金処分計算書(平成18年施行の会社法により、利益処分計算書に記載されていた配当やその他の剰余金の処分に関するものは株主資本等変動計算書に記載)など、じつに4枚もの決算書に分かれている。そうすると、先ほど申し上げたとおり、直前期、直前2期、直前3期と過去から現在に続く我が社のトレンドを分析するためには、1期4枚の資料を3年分、計12枚もの資料を見なければならない。

しかし、実際には12枚もの大量の資料を並べても、自分の会社のどこが良いのか、どこが悪いのかを見つけることは非常に難しいと思う。

そこで、会社の良いところと悪いところを過去3期分にわたり、時系列にしてひと目で把握するために、4つの決算書に細々と計上されている費用を、社長が把握すべきいくつかの経費科目に集約してしまうのだ。

たとえば賃借料がいくら、家賃・地代がいくら、あるいは修繕費がいくら、寿命消耗品がいくら、交通費がいくら…など、 一般の決算書に記載されているような細かい経費金額は、はっきり申し上げて社長がいちいち把握すべき数字ではない。

そこで、「付加価値」の科目の下にある「営業経費」などは、社員に支払う給与・賞与。福利厚生費などの「人件費」、研究開発費や新業種へ向けての調査費用など将来の仕事に対する投資費用である「先行投資」、減価償却費の「償却費」、役員の給与・退職金・法定福利費などの「役員報酬」、そして以上4つに当てはまらない経費「一般経費」の5つに大別し、一般的な損益関係の4つの決算書に別々の勘定科目として計上されているものを、それぞれこの5つの科目に集約するのだ。

たとえば「人件費」の科目には、 一般の損益関係の決算書のなかの「販売費および一般管理費」に別々に計上されている「給与」「賞与」「福利厚生費」「賞与引当金」「退職金」、メーカーであれば「製造原価報告書」に計上されている「当期労務費」も合算して、佐藤式P/Lの「人件費」の科目に一括計上する。

また、「償却費」の科目は、 一般の損益関係の決算書の「製造原価報告書」と「販売費および一般管理費」それぞれに別立てで計上されている工場と本社の償却費を合算して佐藤式P/Lの「償却費」に一括するといった具合である。

社長が会社の実態を把握して将来の方向づけをするための営業経費分析には、「人件費」「先行投資」「償却費」「役員報酬」「一般経費」と、この5つを見ればよい。もちろん、会社によっては、さらに別の科目を加えてもよいと思う。ただし、あまり分類が細かすぎるとかえって会社の実態が見えてこないので、そこは注意するように。

ちなみに、「社長のための決算書」の作り方の詳しい説明は前著『佐藤式先読み経営』(日本経営合理化協会刊)にまとめているのでここでは割愛する。『佐藤式先読み経営』には佐藤式P/LとB/Sを自社の決算書に合わせて作りかえるための専用フォーマットとモデル会社の作成見本も収録してあるので、興味のある方はそちらを参照していただきたい。とにかく本書では、佐藤式決算書のポイントだけを挙げて説明する。

(2)単位は100万円まで記載

佐藤式の決算書の2つ目のポイントは、数字の単位を100万円にすることだ。社長が経営判断に使う数字に、10万円以下の細かい数字は不要である。したがって、10万円以下は四捨五入して100万円から記載するのだ。

(3)数字の「額」ではなく「率」の推移をみる

そして3つ目のポイントは、決算書に計上されている「額」ではなく、あくまで「率の推移」を一覧で見られるようにしてあるという点だ。

佐藤式P/Lには、各期すべての付加価値(売上総利益)額の右横に、「付加価値率」つまり売上高を100としたときの付加価値額のパーセンテージを入れる。

さらに、営業経費以下のすべての科目、すなわち人件費から内部留保までの額の右横に、付加価値を100としたときの比率、つまり付加価値が分母、各勘定科目の額を分子にしたパーセンテージを入れる。

こうして決算書の数字を「率」で表すと、「額」だけ見ていても気がつかない、会社の実態がみるみる浮き彫りになってくる。たとえば、過去3期分のP/Lを並べてみて、売上高と付加価値額が増加していると、これだけで安心してしまう社長がおられる。

しかし、たとえ売上額が増加していても、売上高に対する付加価値の比率が減っているようなら、会社の状態は悪くなっていると考えなければならない。なぜなら、こういう会社は不況になって売上が落ちると、 一気に収益性が悪くなるからだ。こういうことは、売上・利益の額だけを漫然と眺めていてもわからないが、「率の推移」を追うことによって、ひと目で判断できる。

たとえば、直前期の売上「額」は直前2期よりも増えているが、内部留保率が直前3期より直前期まで3年にわたり低下していれば、会社の収益性と健全性を悪くする原因があることに気づく。

そこで、まずは付加価値に対する各経費の比率をみて、自社の収益構造の実態を分析する。たとえば、付加価値に占める営業経費の比率が増加していたら、さらに営業経費のうち、どの経費が増加しているかを探すのだ。

もし営業経費率上昇の原因が、人件費の上昇ならば、これはまずい。人件費はどの会社でも固定費の大部分を占めるものであり、人件費の膨張は会社の損益分岐点を上げ、利益の出にくい体質にする。とくに、今後売上の大幅な伸びが期待できない経営環境においては、人件費の膨張が命取りになるだろう。

したがって、社長はこれまでさしたる方針も無いまま気まぐれにやってきた人の採用や昇給・昇格を、今後は利益に見合うよう適正に行わなければならないと気づく。人件費についてどのようにすべきかという定石については後の「人件費の定石」で詳述するが、とにかく、「額」だけでなく、「率の推移」をひと目でわかるように加工するというのが、会社の実態を社長が正確に把握するためのポイントの一つなのだ。

以上の3つのポイントをふまえた佐藤式決算書を、毎年、期が変わるごとにつくり、経営者の目で読んでいけば、何が原因で2年前、3年前に比べて今年が悪くなったか、どこが良くなったか、だれが見てもすぐわかるようになる。そこを直すように努力をしていけば、会社は必ず良くなるということ、これが会社経営の定石である。

定石9:部門別、支店別、商品別、得意先別などについて売上高、売上総利益など過去の実績を正確に把握せよ

「企業の将来は過去の延長上にある」そして、「会社の過去の実態を知ることが最も大事」と述べてきたが、これに基づいて事業の将来をいかに方向づけるか、3社の事例を挙げながらさらに詳述する。

ポイントは、自社の業種業態など実態に即して、過去の実績を部門別、支店別、商品別、あるいは得意先別などに分けて正確につかむことが極めて大事ということだ。

そこで、私の経営塾の門下生の会社を例に、実際に私のアドバイスにしたがって社長が部門別、支店別、商品別それぞれの決算書からどのような経営判断をしたのかをご紹介していこう(もちろん、数値的には若干変えさせていただくことをご了承いただきたい)。

【部門別の過去分析と将来の方向づけ】

第8表は、卸と小売と通販の3つのルートを通じて販売をしているA商事が部門別に会社の実績を分析し、それに対する対策を打った例である。

A商事は、卸・小売・通販の3つのルートを通じて薬および化粧品を販売してきた。第8表は、A商事の部門別の過去3年の実績と今後5年の長期計画である(かなり細かい数字が並んでいるので戸惑われる社長もおられるかも知れないが、説明はいたって簡単なので、本文にでてくる数字だけを確認していただければ結構である)。

そもそも、A商事は薬問屋として出発したが、卸部門は売上も利益も年々低下が著しい。直前3期の卸部門は、売上が15億円、付加価値が2億2,500万円、付加価値率が15%であった。卸部門の付加価値率15%というのは、悪い数字ではない。また、部門付加価値から部門経費合計1億6,900万円を差し引いた部門利益5,600万円も、そこそこの額である。

ただ見逃せないのは、直前3期から直前期にかけて、売上が15億円から10億円へと約30%も落ち込んでいることである。付加価値率も15%が11・5%へと、金額でいえば2億2,500万円から約半分の1億1,500万円にダウンしている。この間、人件費とか一般経費の削減に努力したが、それでも部門利益率は確実に落ちている。

直前3期には部門利益が5,600万円で付加価値に対する部門利益率が24・9%だったものが、直前期になると部門利益が半分以下の2,200万円で、付加価値に占める部門利益率も19。1%と大幅に減少している。

そこで社長は、「卸部門については将来性が全くない」と判断を下した。ただし、翌年からすぐに撤退することはできないから、初年度から2年度と売上を落としていく一方で、経費を食いつぶし続けることも覚悟の上で、3年度までには完全に撤退しようと決断した。事実、2年度には1,500万円の赤字を計上している。赤字であってもある程度の経費をかけぎるを得ないのが、商売の辛いところである。

一方、通販部門は直前3期から業績が非常に伸びてきている。A商事は通販に早くから目をつけ、幸いに直前3期から直前期にかけて売上が5億円から12億5,000万円へと驚異的な伸びを示している。それに加えて利益率も非常に高い。通販部門は固定費がそんなにかからないからである。

卸と比較すると、その違いがよくわかる。直前期の卸部門の人件費と比較すると、通販部門はわずか2,600万円、付加価値に対して5。6%にすぎない。ところが卸部門では、付加価値に対して54・8%を占め、額にして6,300万円だから通販部門の2倍以上もかかっている。

さらに、卸と通販部門では、付加価値率が全然違う。卸はどこの会社でもA商事と同じように大体10〜15%前後である。それが通販では35%前後と非常に高い。そこで社長は、自分の会社でなければ販売できないような商品に特化して通販部門をますます強化することによって、事業体勢の立て直しを根本的に図ろうとした。

一方、小売部門はここ数年、大型ドラッグストアが非常に増えて過当競争が激化しているため売価が低下の一途を辿り、利益率が落ちてきている。直前3期の付加価値率が32%であったものが、直前2期30・5%、直前期28%と急激に落ち込んできている。

しかし、小売部門については簡単にやめるわけにいかない。というのも、直前期の総売上高54億5,000万円に対して、小売部門だけでもその約6割の32億円を占めているからである。付加価値率が落ちるのは、今の時代、小売業一般として仕方がない。その中でも特に過当な競争を強いられている薬とか化粧品業界は年々儲からなくなってきている。

とにかく、A商事では店舗別にきめ細かな対応を練り、立地条件の良い店舗のみに特徴のある品揃えをして他店との差別化を図りながら、「攻めの経営」ではなく、ある程度の利益を確保する「守りの経営」に徹することを社長が決めた。

さらに、商圏が小さくなるかも知れないが、不採算店舗の抜本的な見直しを行い、採算が合わない店については、成り行き任せで決してテコ入れをしないことに決めた。採算をとろうと無理をすれば、結局、採算の良い店にも悪影響を及ぼすことになるからである。店を閉めることはなかなか勇気がいることだが、足を引っ張り続ける店を、ボランティアみたいにいつまでも続けていくことは、それこそナンセンスである。悪影響が顕著になる前に切り捨てる方向で、常に監視を怠らないことにした。

小売部門では以上のような事情があるから、今後の売上見通しについても、毎年数%の増加にとどめて辛く見積もっている。

そして、小売部門については、当然のことながら付加価値率も下げて事業計画を立てている。すなわち、直前期に28%だったものを毎年1%ずつ3年度までの3年間下げ続け、その後は何とか25%を維持しようという計画である。

このような方向づけは、社長でなければできないことである。しかも、非常に勇気のいることだ。この会社の直前期の会社全体の総売上高が54億5,000万円で、卸部門の売上が10億円ということは、卸が落ちてきたとはいえ全体の約2割である。

中小企業が総売上の2割を3年かけて捨てるというのは、非常に勇気がいる。ただ、このままいけばじり貧は確かだし、直前期には2,200万円の利益がでているが、無計画のままでいったらおそらく初年度から大幅な赤字になるはずである。なぜなら、何とか売上を維持しようと悪あがきをして経費が余計にかかるからである。

そこで卸を捨てる部門とし、余計な経費は一切かけないことに決めた。そして、時代にあった通販部門についてはこれからの成長が期待できるということで、自社の有力な部門に育てていき、小売については攻めるのではなく他店との差別化を図って、「守りの経営」にすることにしたのだ。

これが過去の実態を「部門別」に把握することによって、儲かるように自社の将来の方向づけをした一つの例である。

【支店別の過去分析と将来の方向づけ】

次は、多店舗展開をしている量販店を例に、第9表のような「支店別」で過去の実態をつかみ将来の方向づけをするやり方である。

第9表のとおり、B社は1号店から6号店まで計6店舗を多店舗展開している。売上規模は8億5,000万円の大型店から3,500万円の小規模型の店まであり、出店立地も都心から郊外店まで様々ある。

しかし、ここ3年の実績をみると6号店以外の店舗は売上高が減少傾向である。とくに量販店の大型化が進み、小規模店の2号店の売上高は直前3期の3,500万円から3,000万円、2,500万円に、付加価値率も22・9%から20%へと落ちている。

さらに売上は中規模ながら3号店、4号店も過去3年からずっと売上、付加価値率ともに減少しており、これは立地条件が原因であると社長は分析した。また、 一番の大型店1号店については、売上は減少傾向だが付加価値率は維持している。

このように、店舗ごとの売上と付加価値、売上に対する付加価値率を過去3年分一覧にして眺めてみると、同じ商売でも、売上規模や立地条件によって大きな変化があるということが見えてくる。

そこで、規模の小さな2号店ならびに立地条件が悪い3号店と4号店は利益率がどんどん落ちていくと判断して、社長は今後5年の間にこれら3店舗を閉鎖する計画を立てた。

そして、これで捻出できる資金を裏づけにして、新たに7号店、8号店、9号店を、立地条件、売上規模など、適切な条件に沿ったかたちで多店舗展開をしながら、収益の拡大を図っていこうということを計画した。

小売業の場合は、売上の伸展は出店政策にかかっている。しかし、店の数をただ野放図に増やせば付加価値率は下がる。これは小売だけでなく、卸だろうが製造であろうが、 一般的に売上高が伸びれば付加価値率は必ず下がるのである。

なぜなら、売上を伸ばすにはすべて平均以上に儲かる商品だけを伸ばすわけにはいかないからだ。そこには、ライバルとの生き残りをかけた激しい価格競争があるし、そもそも商売をやっていくからには、どうしてもある程度のアイテムをそろえなければならない。そうすると、多少、儲からないような商品でも無理して販売していかなければならないのである。

もし、売上が伸びて付加価値率も上がるとすれば、それは未来永劫に続く現象ではなく一時的なものに過ぎない。ゆえに、社長はむやみやたらに出店するのではなく、スクラップ&ビルドを繰り返しながら一定以上の利益率を確保し売上拡大を図るということが、小売業では非常に重要なポイントになる。

【商品別の過去分析と将来の方向づけ】

最後に、製造業C社を例に商品別の実績管理と今後の方向づけのやり方を述べる。C社は事務機器と医療機器の2つの製造部門がある。この2つの部門ごとの過去3期分の売上高、付加価値、付加価値率、経費と、付加価値から経費を差し引いた部門利益を一覧にしたのが第10表である。

まず、会社全体の売上の7割を占める事務機器部門からみると、直前3期の売上高38億3,400万円から直前期39億6,500万円と、大幅ではないが順調に増加して

しかし、付加価値率は直前3期には25・5%あったものが、直前2期には23%、直前期には21%と年々下がってきている。なおかつ経費についても、付加価値を100とした場合の経費比率は直前3期68%だったものが、直前2期には76・6%になり、直前期には84・6%と、こちらも増加している。ゆえに、部門利益はずっと減少傾向をたどっている。

一方の医療機器部門は、全社に占める売上高は3割以下と小さいが、売上高は過去3年増加しており、付加価値率は横ばいで推移している。

なおかつ、この部門の大きな特徴は経費率が直前3期は売上総利益に対して50%もかかっていたのが、直前2期には49・3%、直前期においては46・7%と下がってきていることだ。要するに、売上は伸び、粗利は維持、そして経費は縮小しているというのが現状である。

そこで社長が出した結論は、事務機器部門については過去3年間における売上高と付加価値率および経費率の傾向を鑑みて、このまま強引に売上を伸ばしていっても儲からない体質になっていくと判断し、売上の伸びよりも付加価値率の維持に注力していこうと方向づけた。具体的にいえば、これまで2%ずつ落ちていた付加価値率をなんとか0・5%の落ちにとどめるため、商品の取り扱いを付加価値率の高いものに絞り込み、売上を下げていく計画を立てた。

そして、順調に伸びてきている医療機器部門を全社挙げて販売強化に取り組み、付加価値率を維持しながら毎年10%の売上増を達成する積極策をとろうと決めた。

さて、事務機器部門の付加価値率の減少幅を今後毎年0・5%ずつにとどめるために売上をセーブしていく決定をした社長であるが、同時に経費の圧縮にも手を打たなければならない。そのなかでも経費の大部分を占める人件費は、その原資である付加価値が減少していく以上、これを圧縮していかねばならない。

本書の序章でも述べたとおり、現在の日本の人件費は世界一高い。どの会社でも固定費の大部分を占めるのは人件費であり、それゆえ人件費の膨張は会社の損益分岐点を上げ、利益の出にくい体質にする。とくに今後、売上の大幅な伸びが期待できない経営環境においては人件費の膨張は命取りとなる。

かといって、景気が悪くなったからと、安易に社員のクビを切るようでは社長失格だ。よって、これからは安易な人員の補充を止め、今後5年の総人件費をしっかりと見積もり、利益に見合った適切な人員枠内で経営をしていかなければならない。

そういう人件費の定石については後の頁で詳述するが、とにかく社長は、事務機器部門を中心に、さらに医療機器部門についても、付加価値に占める人件費率を下げていくよう決断し、その余剰人員を前々から構想を練っていた新規事業にまわすことにした。

このように、新たに人を雇うのではなく、事業の見直しにより、既存人員の余剰を使って新規事業を展開していくことによって、会社全体の付加価値率を高めていこうと計画したのである。

定石10:経営には「攻める経営」「守る経営」「捨てる経営」の3つがある 儲かるものを伸ばし、儲からないものは縮小または中止せよ

経営には、「攻める経営」と「守る経営」と「捨てる経営」の3つがある。将来性のある商品はどんどん攻める。ほどほどの商品は守る。しかし、成長性のない商品と利益率が低下している商品は捨て去る。

この3つを同時にやらなければ、会社の将来はない。「攻める」だけでもダメ。「捨てる」だけでもダメ。もちろん「守る」だけでもいけない。3つの経営を同時に使い分けることが重要なのだ。

「攻める経営」「守る経営」「捨てる経営」の実際については、前項で挙げたA商事、B社、C社の将来の方向づけを思い出していただきたい。

たとえばA商事でいえば、年々、利益率の減少し続けている卸部門はまったく将来性がないと判断し、「捨てる経営」を決断した。 一方、驚異的な伸びを示している通販部門は、経営資源を集中させて事業の拡大を図る「攻める経営」とした。

そして、小売については、現在および将来の過当競争をしのぐべく、商品アイテムをある程度絞ったり、商圏は小さくなるが不採算店については、成り行きまかせでテコ入れを行わず閉店したりしながら、「攻めの経営」ではなく、ある程度の利益を確保する「守りの経営」に徹することに決めた。

あるいは、序章で述べた我が社のここ5年の経営においても、リーマンショックの前から大型プリンター事業からの撤退を進めていた。これは前述のとおり、過去3年の利益推移の下降トレンドがあまりにも激しかったため、赤字になる前に斜陽化するものと判断して「捨てる」ことを決めた事業である。

この事業撤退の途中にリーマンショックが起こり、市場の景気低迷の波に飲まれて売上を大幅に落とした結果、2008年738億円あった売上はわずか2年後の2010年には291億円と3分の1に急減、経常利益38億円の赤字、最終利益にいたっては85億円の大赤字と、損益計算書(P/L)上は惨愴たるものとなった。

しかし、72億円の売上があった大型プリンター事業から撤退する一方で、その分の利益をカバーすべく、2002年にわずか部門利益6億円だった小型プリンター事業を着々と育て、2008年に利益40億円を出すまでの事業にした。すなわち、大型プリンター事業を「捨てた」余力をもって、小型プリンターの事業を「攻めた」というわけだ。

そして、リーマンショックが来て売上を一気に落としたためにバランスシートを大幅に圧縮し、結果として、赤字前よりも資本の効率、自己資本比率ともに上げることができた。さらに、売上を抑えて斜陽事業から撤退したことにより、原価率と販売管理費比率も下がり、利益の出やすい体質になったのは、申し上げたとおりである。

儲からない事業を捨てたことによって設備も処分して、大連の工場の従業員も削減した。そうやって固定費を中心に下げたので、2010年から翌2011年の売上増加額そのものは60億円とわずかでも、売上高増加分がほぼイコールで営業利益増加になるよう、赤字前の2006年よりむしろ利益の出やすい体質になった。

繰り返しになるが、このような方向づけは、社長でなければできないことである。しかも、非常に勇気のいることだ。とくに、「捨てる経営」はこれからの低成長時代に重要になってくる。しかし、多くの社長はこの「捨てる経営」ができない。なぜなら、捨てることは売上を減らすことだからである。

しかし、よくよく考えてみれば、捨てる経営はそもそも利益率が低いのだから、捨て去っても利益に大きな影響は及ぼさない。それよりも捨てた余力をもって、利益率の高い商品とか、成長性の高い分野にもっと重点的に取り組むことによって増益を図る方が、長期のソロバンで見ると逆に利益が増える。とくに、これからはそういう時代になる。

そのために、部門別や支店別、商品別などで過去の実績をつかみ、売上を見直し、利益率の高いものをどんどん伸ばして、たとえ売上を減らしてでも高収益体勢を再構築することが、好不況に左右されずに会社が永く繁栄する定石なのだ。

定石・11:初年度から利益が出るような新製品や新規事業は将来の柱とならない安易な多角経営は企業を滅ぼす

会社の方向づけのための定石の最後は、新規事業と多角経営について述べる。

もし、これまでと同じ商品やサービス、マーケットのままで将来も商売を続けるというのであれば、競争の中で利幅を増やしていくことは至難の業だ。まあ、不可能に近いのではないか。

結局、長期にわたって利幅を減らさずに、利益率を高く維持しようとするには、利幅がどんどん減少する商品を捨て、これまでより利幅のとれる新しい商品を見つけるか、あるいは、

既存の商品が少しでも高い値段で売れる新しいマーケットを開拓するしかない。もし儲からない新規事業に手を出したら、他の儲かっている事業にまで悪影響が出る。多角経営について説明するとき、私はよく、新規事業をコブに見立ててお話しするのだが、

人間の身体本体を会社全体とすると、新規事業はコブのようなものである。人体というのは新鮮な血液が末端まで常に循環しているから健康体を維持できるのであるが、コブに血液が回らなければ、当然コブは壊死する。

会社も同様に、コブ(新規事業)に血液(資金)が十分行き渡らないと、コブが腐ってくるのだが、問題はコブだけが腐る分にはまだ良いが、コブが腐ることによって本体まで腐り始めてくるというケースがままある。

したがって、コブすなわち新規事業には中途半端なことをせず、会社の経営資源を集中しないことには、事業がうまく軌道に乗らないのだ。経営資源を集中し、新規事業がいよいよ軌道に乗れば、ついにはコブが完全に皮膚の一部となって会社全体のボリュームが増えることになる。

すなわち、安易な多角経営は厳に慎むべき、かつ、常に高付加価値を目指して儲かる新規事業に注力せよということだ。

そしてもう一つ申し上げたいのは、ひとくちに新規事業といっても、儲かるなら何でもいいのかといえば、そうではない。

付加価値は多ければ多いほど良いに決まっている。しかし、長く多く続けるには、新規事業についても定石を守らねばならない。言い換えると、付加価値というものの真意をどう捉えるかということだ。

いわゆる悪徳商法で、消費者をだまして不当な暴利をむさぼるような極端な話をここで取り上げるつもりは毛頭ない。なぜなら、すぐに馬脚を現し、瞬時の大儲けに終わる論外のものだからだ。

あるいは、学者まがいの価値論を展開するつもりもないが、真に言いたいのは、お客様やマーケットに提供する価値についても、社長には長期的な展望がいるということである。

たとえば、ミカンのシーズンでない時期に温室でミカンをつくり、その時期にはめったに手に入らない貴重品として店頭をにぎわす現象がある。シーズンにはひと山100円のミカンが、温室育ちの出始めには、 一個500円もするという。真夏にミカンなら、真冬にスイカというのもある。季節外れに出荷するには、手間隙をかけて、冷房に暖房にとコストがかかるから高くなるということである。

しかし、私が言う高付加価値とは、こういうものを指すのではない。そもそも、企業が生み出す付加価値とは、社会的に高い意義を持っていなければならない。ミカンが一個500円というのは、社会的な価値という点から見て、まっとうとは言えないように思う。バブルの時代には、日本中にこのような商品があふれていた。厳しい言い方をすれば、こういった商品は、利益というものをその時々の好不況という短期的な視野のなかで捉えた、その場の思いつきの商品に過ぎない。

実は我が社でも、そのような商品やサービスに似たものを、かつて手掛けたことがないわけではない。しかし、一時的には結構な儲けを稼いでくれたこともあるが、すぐにだめになってしまう。事業の血肉とはならないで、コブにしかならないのだ。当初は有卦に入っていても、後で痛い思いをして外科手術のごとく血を流して切り取ることになる。そして、かえつて本体の成長を阻害する要因となった苦い思いがあるのだ。

ゆえに、私の言う高付加価値というのは、そういう商品をつくることではないと皆さんに認識していただきたいのだ。手掛けるべき高付加価値の新事業とは、決して短期的な視点では捉えることのできないものだ。5年、10年という長期的な視野で捉え、商品やサービスとしてマーケットに提供し、はじめて高い付加価値をいただく。それを長期にわたって計画的に追求し、軌道に乗せていく。それが経営者の仕事であり、経営の定石だと言いたいのである。

となると、やはり、初年度から利益の出るような新規事業はあり得ないということがご理解いただけると思う。1年やそこらで簡単に儲けの出るようなものは、たとえ首尾よくいっても、しょせん短命のブームに終わるものがほとんどなのだ。

最初の1〜2年は赤字で、3年目からようやくトントン、4〜5年目にやっと初年度の赤字を返して、ようやく6年目から利益に貢献しだすというのが、これまでの経験から言えば一番無理のない見通しであり、新規事業の定石といえるだろう。

したがって、これまでの話をまとめると、新規事業というものは、初年度から利益の出るような安易な商品・サービスに手を出すのではなく、もっとじっくり、5年を目安に腰を落ちつけて育てることによって、今ある収益の柱のほかに、第2の柱を育てていく。

そして、経営資源の乏しい中小企業はとくに、資源を集中しなければ事業は育たないのだから、第2の柱が利益を出すようになってから、その利益を使って第3の柱をつくる。同様に、第3の柱を5年かけて利益が出るように軌道に乗せたら、また第1の柱、第2の柱、第3の柱の力を導入して第4の柱をつくっていくのだ。

最後にもう一度繰り返すが、初年度から利益の出るような新規事業はない。そして、安易な多角経営は会社を潰す。これこそが新規の事業に対する大事な定石である。

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