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1章クレームを完全撃退する!「発生」から「解決」までの手順

目次

1章クレームを完全撃退する!「発生」から「解決」までの手順

6「スキージャンプ式」クレーム撃退の3ステップ

クレーム解決のチャンスは「3度」訪れる

私は、「クレーム対応の達人」などと自慢するつもりは毛頭ありませんが、官(警察)と民(企業)2つの世界で、数々の「困った人々」と向き合ってきた経験を通して、クレーム対応のツボは体得したと自負しています。

クレーム対応で最も重要なのは、平常心を保つことです。真面目な人ほどクレーム対応で苦慮し、いつまでも終わらないクレームに疲弊してしまう傾向があります。それは、相手のペースに巻き込まれて、自分のなすべき対応が何なのかを見失ってしまうからです。

まず、クレームの発生から解決までのプロセスを、イメージとしてとらえてください。私は、年間100回ほど行うクレーム研修の中で、クレーム対応の手順は「スキーのジャンプ競技」に似ている、という話をします。

あなたはスキーのジャンパーで、クレームは「風」だと思ってください。次のように、クレームを解決するチャンスは3度あります。クレーム対応を3つのステップに分けることで、クレーマーへの対応の仕方を変えるのです。

ステップ❶スキーのジャンパーは、スタートして助走路を降下する段階では、風の抵抗を最小限に抑えるために、できるだけ前かがみになって滑り降ります。

同じように、クレームを訴えられた初期の段階では、ひたすら目線を下げてお詫びし、何よりも相手の興奮をクールダウンさせることを優先してください。

この段階では、お客様の要求が正当である場合も多いですから、相手の話をしっかりと聞く姿勢を貫いてください。「顧客満足」を前提に、相手の気持ちに寄り添って、「親身」な態度で接するのです。

クレームの多くは、誠心誠意、真摯にお詫びすることで収束に向かいます。ここがクレーム解決の最初のチャンスです。できる限り「謝って済む問題」に持ち込むことが、長期化させないための最大のポイントです。

具体的な「謝り方」については後で詳しくお伝えします。間違っても、この段階で反論してはいけません。

ステップ❷滑り降りたジャンパーは、ジャンプ台を踏み切ります。

このとき、風圧を感じながら、空中で落下の恐怖と戦っています。これは、怒鳴ったり、文句を並べ立てたりするクレーマーを前にハラハラドキドキしつつも、相手の動機や目的を見極める段階です。いわば、相手の言い分を聞きながら、「受身」の姿勢で臨むのです。

ステップ1で「謝って済む問題」に持ち込めなくても、うまくお客様の言い分を聞き、妥協点を見つけることができれば、クレーム解決の2回目のチャンスが訪れます。

ステップ❸ジャンパーが飛距離を伸ばしていくと、やがて「K点」が見えてきます。

現在、ジャンプ競技において「K点越え」は入賞するための基準点にもなっていますが、もともとK点は「これ以上、飛ぶと危険である」ことを示す極限点です。

クレーム対応の場面で言えば、誠意をもって説明・お詫びをしても聞き入れてもらえないばかりか、相手の主張の背後に金品や特別待遇の要求が見え隠れする段階です。

そうなれば、もう危険ラインを越えたと判断し、「お客様扱い」をやめて、「悪質クレーマー」としての対応に切り替えるのです。ここが、「顧客満足」から「危機管理」に大きくモードチェンジする段階です。

少々大げさですが、「捨身」の覚悟で腹をくくるのです。この段階では、もうクレーマーの要求に応じることなく、相手が諦めて退却するのを待つだけです。これが、クレーム解決の最後のタイミングです。

以上の3ステップを頭に入れて、まずはクレームに向き合うマインドセットを整えてください。次項からは、実際にどのような対応をすればいいのか、各ステップにおける行動原則を明らかにしていきましょう。

最初からクレーマー扱いするなクレームが寄せられたら、その内容がどのようなものであっても、まずは「お客様の正当な要求」として、スピーディに対応することが重要です。

しかし、突発的なトラブルに遭遇すると、対応を誤ることがあります。

ホームセンターの事例

ホームセンターで高齢の女性が転倒した。

それに気がついた店員がかけ寄り、「大丈夫ですか?」と声をかけると、「ええ、大丈夫」と小声で答え、しばらくすると立ち上がって歩き出した。

店員は、その後ろ姿を見送った。

ところが翌日、中年男性が店に怒鳴り込んできた。

「昨日、ここのフロアが水で濡れていて、母がすべって転んで骨折した。それなのに、何もしてくれなかった。いったいどういうことだ!責任者を呼べ!」この店の店長は、日頃から恐喝まがいのクレーマーに悩まされていた。

女性が転倒したときの様子を店員から聞いて「またか!」と舌打ちした。

そして、事務室で男性と面談し、きっぱりとこう言い切った。

「お母様には、スタッフが声をおかけしており、お元気そうでした。また、ご来店の時間に、フロアが濡れていたということはありえません」しかし、実際は違っていた。

店長の言葉で男性が激高したため、あらためてスタッフ全員から聞き取りしたところ、店員が女性に声をかける直前、清掃係がフロアの水を拭き取っていたと判明したのである。何かの拍子で、バケツの水をこぼしたようだった。

店長の思い違いでこじれてしまい、会社としての正式な謝罪や治療費の負担などで、決着するまでに数か月を要した。

このケースは、店長が日頃クレーム対応に悩まされていたために、最初からクレーマーだと決めつけたことが、事態を悪化させてしまった典型です。

最初からお客様をクレーマー扱いすれば、反感を買うだけでなく、「クレーマー扱いしやがって!」「なにか言ったらクレーマー扱いなの?」というお客様のさらなる不満を生み、対応を自ら長期化させることになりかねません。

クレーム発生直後の段階では、相手のお客様が「ホワイト」なのか「グレー」なのか「ブラック」なのかはわかりません。

顧客満足をベースにした「性善説」でスタートするべきです。また、強面のお客様に対して、「近寄らないで」というオーラを出して、失敗するケースも少なくありません。見た目や態度でクレーマーと決めつけ、相手を怒らせてしまうのです。

ある病院で、こんな事例がありました。病院の事例眼光鋭い初老の男性が病院の診察室に入ってきた。派手な服装で、見るからに柄の悪そうな風体だ。

医師は「ヤクザかもしれない」と思った。

「どうされましたか?」と医師が尋ねると、「寒気がする。のども痛い。この前も来たが、全然よくならない。ちゃんと診てくれてるのか?」と訴える。

医師は、すぐに男性にシャツを脱ぐように指示して、聴診器を胸にあてようとした。

しかし、そこで医師と看護師が目にしたのは、色あざやかな入れ墨。

診察室に緊張が走る。

医師は「もしかして、イチャモンをつけに来たんじゃないか?」と不安にかられ、声を震わせて言った。

「熱もないようなので、しばらく安静にしてください」看護師も身体をこわばらせている。

それを見た男性は、野太い声を診察室に響かせた。

「オレには、何もしてくれないってことか!」ヤクザだからといって、診療を拒否することはできません。

不規則な食事や過度の飲酒、縄張り争いや絶対的な上下関係という生活環境のもとで、健康を害しているヤクザはたくさんいます。

小さなクリニックの事例関西地区の小さなクリニック。

院長先生とベテラン看護師の二人三脚で診療を行っている。

ある日、暴力団関係者と思しき患者が「風邪をひいた」と言って来院した。

院長はひと通り診察を終えると、看護師に注射をするよう指示。

看護師がそそくさと患者の腕をまくり上げると、唐草模様の彫り物が姿をあらわした。

すると、看護師は「ごっつう立派な刺青!すごく痛かったでしょ!」と声を上げ、「強いんやね」とジョークを飛ばした。

患者は看護師のほうに目をやって、「大したことあらへん」と一言。

ニヤリとして、素直に腕を差し出した。

この看護師は、経験豊富なベテランでした。

このようにジョークを飛ばす必要はまったくありませんが、むやみに相手を怖がると、かえってリスクを招き寄せることは、ぜひ覚えておいてください。

要求をクレーム化させない「ひと言の気遣い」クレームの初期対応では、相手に対して親身な姿勢を崩さないのが大原則です。

そのためには、「目配り」が必要不可欠です。

総合病院の事例「突然、激しい頭痛に襲われた」と、中年男性が総合病院の救急外来を訪れた。

ところが、その日の救急外来は、いつにも増して慌ただしかった。

男性はこめかみに手をやりながら、受付の職員に「まだですか?」と何度も尋ねるが、「順番にお呼びしますので、もう少しお待ちください」と事務的な返答を繰り返した。

男性が診察室に案内されたのは、来院してから1時間以上経ってからだった。

「いつまで待たせるんだ!」男性は、思わず看護師に向かって声を荒げたが、ともかく痛みをこらえながら医師を待った。

しばらくして、若い医師がやってきて診察を始めた。

医師は、パソコン画面の電子カルテに視線を向けたまま、患者と目も合わせず、ものの10分もしないうちに、「慢性頭痛ですね。

念のために、CT検査を受けてください」と診断を下し、電子カルテに症状と処方を記録した。

手際よく診察を終えた医師は、ホッとひと息ついた。

ところが、男性は険しい表情で医師を問いつめた。

「ちゃんと診察したのか?きちんと説明しろ!」「病院での待ち時間」は、患者の不満で最上位にランキングされています。

このケースでも、「まだですか?」というセリフから男性の苛立ちがわかります。

しかし、男性の怒りが爆発したのはその後です。

長時間待たされたのに、わずか数分間で診察が終わったことに釈然としなかった部分もあったのでしょう。

しかし、それ以上に、医師がパソコンに視線を向けたまま、患者と目を合わせなかったことが不信感を募らせたようです。

もし、医師が「1時間以上もお待たせしてしまい、申し訳ありませんでした」とひと声かけていれば、男性がここまで激高することはなかったはずです。

このように、「初期段階での少しの気遣い」が足りなかったために、クレーム対応が長期化するケースは、さまざまな場面で見受けられます。

鉄道会社の事例鉄道会社の予約窓口で、女性が2人分の切符を購入しようとしていた。

列車の発車時刻が迫っていたので、早口でまくし立てた。

「急いでください!トイレの近くの座席で」駅員は、トイレから少し離れてはいたが、時間を優先してすばやく2人分の座席をブッキングして切符を手渡した。

ところが、それを見た女性客は金切り声を上げた。

「そんな座席じゃダメ!トイレの近くでって言ったでしょ!」駅員は、どうして、そんなに怒るのだろうかとあっけにとられたが、女性の後方に車椅子が見えた。

女性は、老親の介助ができる多目的トイレに近い座席を希望していたのである。

介護疲れで、窓口では十分な説明ができなかったのだ。

クレーマーとは言い切れないまでも、独りよがりな言い分で担当者を困らせるお客様は大勢います。

この女性もそのひとりだと言えるかもしれません。

しかし、お客様をモンスター化させないためには、「なぜ、怒っているのか?」「本当は何を求めているのか?」ということに思いをめぐらせ、心情に寄り添う姿勢を見せることが、「要求」を「クレーム」に発展させないことにつながります。

たとえば、食品への異物混入を訴えるお客様に対しては、その事実を確認する前に、まずは「ご体調を悪くされませんでしたでしょうか?」と、相手の健康を気遣う姿勢を見せることが必要でしょう。

あるいは、注文した商品が破損していることに腹を立てているお客様に対しては、商品を交換すればよいと考えるのではなく、「せっかく当社の商品をお買い上げいただいたのに、申し訳ございません」と、期待を裏切ってしまったことに対してお詫びしたり、「おケガなどはなさいませんでしたでしょうか?」と商品の破損によるケガや周囲の汚損に気を配ったりする必要があるでしょう。

クレームの悪質性を測る〝3点ピンポイントお詫び法〟クレーム対応は、まず「お詫びのひと言」がなければ、何も始まりません。

相手の言い分にどうしても納得がいかないとき、「なぜ、自分が謝らなければならないのか?」と反発したくなる気持ちはわかります。

また、謝罪することに抵抗感がある職種もあります。

たとえば、医療現場では、医療過誤の申し立てを警戒して、患者やその家族への謝罪をためらう傾向があります。

あるいは、外資系企業では、損害賠償責任の追及を恐れるあまり、謝罪に二の足を踏むことも多いようです。

たしかに、「事実関係がはっきりしない段階でお詫びする必要はない」という考え方には一理あります。

しかし、少なくとも日本国内においては、お詫びの言葉を使わないでクレームを収束させることはほぼ不可能です。

「いったん謝罪すると、過失を認めたことになるので、安易にお詫びしてはいけない」という考え方は、クレームを長期化させるだけです。ただし、お詫びするにあたっては、理論武装が必要です。

非を認める正式な謝罪と、相手の怒りを鎮めてクレームを長期化させないためのお詫びを区別するのです。具体的には、次のように、3つの観点からピンポイントでお詫びします。

①相手に与えてしまった「不快感」に対してお詫びする→「ご不快な思いをさせてしまい、申し訳ございません」

②相手が感じている「不満」に対してお詫びする→「ご不便(ご迷惑)をおかけして、申し訳ございません」

③こちらの「手際の悪さ」に対してお詫びする→「お手間をとらせてしまい、申し訳ございません」

このような限定的なお詫びであれば、「謝ったんだから、責任をとれ!」と詰め寄られたとしても、「私どもの過失を認めて補償するという意味ではございません」と、切り返すことができます。

言葉尻をとらえて「謝っているんだから、悪いと思ってるんだろ!だったら誠意を見せろ」などと強引に補償を求める相手は、悪質性が高いと判断してよいでしょう。

要するに、初期対応でのお詫びは、相手の怒りをクールダウンさせるツールであると同時に、クレームのレベル(悪質性)を測るバロメーターにもなるのです。

初期対応では、お詫びとともに、「共感・傾聴」の姿勢を示すことが重要です。相手に共感を示すには、「あいづち」が効果的です。

また、傾聴とは相手の話を聞き流すのではなく、じっくり相手の主張に耳を傾けることです。

途中で相手の話の腰を折ったり、反論したりするのは厳禁。

言い訳がましい説明で逃げようとすると、相手は「言いくるめられてたまるか」と反感をもち、さらなる怒りを買うことになります。

飲食店チェーンの事例飲食店チェーンのお客様相談室に、中年女性からクレームが入った。

「店員の態度がなってない!オタクはどんな従業員教育をしてるんですか!」担当者は「ご不快な思いをさせてしまって、申し訳ございません」とお詫びしたうえで、そのときの様子を尋ねると、女性は一気に不満をぶちまけた。

「言葉づかいが悪い」「オーダーを間違える」「仕事中に同僚とおしゃべりをしている」「服装がだらしない」などと厳しい言葉が続く。

その間、担当者は「さようでございますか」「おっしゃるとおりです」「ごもっともです」とあいづちを打ちながら、相手の話にじっと耳を傾けた。

そして、女性がすべて話し終えるのを待って、再度お詫びの言葉を述べた。

「このたびは申し訳ございませんでした。

これを契機に、従業員教育を徹底させてまいります」女性は怒りが収まった様子で、穏やかに電話を切った。

初期対応では、こちらから細かく質問したり、中途半端な説明をしたりする必要はありません。

まずは、相手の気持ちを受け止めることが重要です。

このケースでも、仮に店員の肩をもって釈明したとしても、「言った、言わない」「やった、やらない」の水掛け論になることがほとんどです。

「5分間」我慢すれば8割解決ところが、不用意な一言で相手をヒートアップさせてしまうケースが後を絶ちません。

その代表的なフレーズが、「ですから」「だって」「でも」の3つです。

私は、これらを「D言葉」と名づけ、クレーム対応では絶対に封印するように、クライアント企業の方々にお伝えしています。

D言葉は、相手の話が的外れだったり、話が堂々巡りになったりすると、つい口にしてしまう言葉です。

しかし、相手には「上から目線」「逃げ腰」、あるいは「反抗的」といった印象を与え、クレームを長期化させてしまうのです。

私の知るコールセンターには、元声優の優秀なオペレーターがいました。

彼女は相手の怒鳴り声にもひるまず、「それは失礼いたしました」「そうだったんですか」「ご不快な思いをされたことでしょう」などとあいづちを打ちながら言葉をつなぎ、相手からは見えなくても、深々と頭を下げています。

すると、やがて相手の怒りは収まります。

電話がかかってきてから、約5分間の出来事です。

私の経験でも、悪意をもったクレーマーでない限り、「最初の5分間」を演じ切ることで8割方「謝って済む問題」に持ち込めるというのが実感です。

心理学的にも、人は、共感を示しながらお詫びする人に対して、いつまでも怒鳴り散らしていられるものではありません。

消火活動で、火の手が大きくならないうちに備えつけの消火器で「初期消火」するように、クレーム対応でも、初期対応が非常に重要なのです。

なぜ「スピード解決」を焦ってはいけないのか?お客様から寄せられるクレームの多くは「謝って済む問題」として収束します。

しかし、誠意をもってお詫びしても、なかなか許してもらえないお客様がいるのも事実です。

また、こちらに非があることを認めて正式な謝罪と補償を申し出ても、納得しないクレーマーもいます。

担当者にとっては、ここからが正念場です。

まず肝に銘じておかなければならないのは、解決を急がないことです。

スピード解決を目指して相手を言いくるめようとしたり、よく考える前に相手の言いなりになってしまったりすると、かえって事態を悪化させることが多いからです。

和食料理店の事例和食料理店で、男性客から店長が呼ばれた。

「これ、本当に備長炭で焼いたの?」男性は小皿に盛られた焼き鳥を指さし、店長の耳元でささやくように尋ねた。

店長は「ええ、備長炭を使用しています」と答えた。

男性は首を傾げて言った。

「備長炭100%だと断言できるの?」思いがけない指摘をされた店長は、口ごもりながら「100%というわけではありませんが、備長炭は使っています」と釈明した。

それを聞いた男性は、「それなら、備長炭焼きなんて宣伝しないでほしいな」と言い、鋭い視線を向けてこう続けた。

「最近多いんだよな、こういうの。

これも食品偽装の一種じゃない?ネットで流すから、反省してよ」店長は血の気が失せた。

「申し訳ありません。

これから十分気をつけます」と平謝りする。

一方、男性はにやけた表情で「じゃあ、これどうするの?」と、再び焼き鳥を指さした。

店長が「よろしければ召し上がってください。

お代は結構です」と申し出ると、「あっそう、ありがとう」と言いつつ、「でも、それだけ?」と二の矢を放った。

店長はオーナーの顔を思い浮べながら、オロオロするばかりだった。

SNSをはじめとするネット空間に拡散したクレーム情報は、たとえそれが一方的な誹謗中傷であっても、ターゲットになった企業や店舗、団体に甚大なダメージを与えます。

同時に、担当者個人の立場も危うくするでしょう。

クレーム担当者の多くは、こうしたプレッシャーを受ける中で、言い知れぬ不安を抱えています。

しかし、だからといってスピード解決を焦ると、取り返しのつかない失敗を招く恐れがあります。

過大な要求を一度でも受け入れてしまうと、それが既成事実となっ

て、要求がどんどんエスカレートしていく可能性が高いからです。

次の事例は、初期対応での「焦り」が、2次クレームを誘発したケースです。

家電メーカーの事例家電メーカーのサポートセンターに、年配の男性から電話が入った。

「エアコンを購入したが、きちんと動かないんだよ。

何度も電話したが、ちっともつながらないし」オペレーターは、応答マニュアルに沿ってきちんと受け答えしたつもりだった。

しかし突然、男性が怒り出した。

「言っていることがよくわからない。

結局、どうすればいいんだよ!」オペレーターは焦って、思わずこう口走ってしまった。

「ですから、取扱説明書の最後に記載してある専用の窓口にお問い合わせいただければ、詳しくご説明いたします」男性は「ですから」の一言でカチンときたうえ、たらい回しにされて頭に血が上った。

「もういい、本社の広報室に電話する!」と言い残し、電話は切られた。

こうした2次クレームの発生も、担当者が焦らず落ち着いて対応することで、その大部分は回避できます。

最初の「30分」はこの戦略で乗り切る「謝って済む問題」にならなかったクレームを解決するためには、その「原因」を明らかにする必要があります。

詳細は2章で述べますが、基本的には「事実関係の確認」と「相手からの聞き取り」の両面からサインを読み取り、真相に迫ります。

しかし、クレームの実態を見極めるのは容易ではありません。

すでに述べたように、クレーマーの目的や動機が千差万別です。

場合によっては、その日の気分や体調が影響していることもあります。

「納得がいかない」と、自分の要求を押し通そうとする人の本音を聞き出すのは至難の業です。

大切なのは、クレーマーの目的や動機、あるいは本性を見極めようとして、いたずらに時間を浪費しないことです。

そこで、クレームの実態把握のプロセスに「時間軸」を取り入れてください。

しばしば、「訪問先(クレーマーの自宅など)でなかなか帰してもらえない」という嘆きを担当者から聞きますが、それはクレーマーのペースに乗せられてしまっているからです。

私の経験則では、長くとも30分あれば、クレームの実態はおおよそ把握することができるはずです。

「見極める」ことができなくても、「見当をつける」ことはできます。

その過程で、落としどころが見えてくることが多いものです。

たとえば、「クレームの現場対応は30分間」と決めたら、その時間内で相手の話を聞き終えるように心がけます。

いつも「答え」が見つかるとは限りませんが、クレーマーの態度や言動に振り回され、いつまで経っても「出口」が見えない状態からは抜け出せます。

つい「D言葉」を使ってクレームを長期化させてしまう事態も回避できます。

要するに、「時間のボーダーライン」を定めて、そこに達したかどうかを見極めることのほうが重要なのです。

そして、そのひとつの目安が「30分」。

クレーマーと対峙してから30分経ったら、「やりきった感」をもってもいいのです。

相手の土俵に上がらずに時間を稼ぐ〝ギブアップトーク〟30分を過ぎても、クレーマーが理不尽な要求を繰り返すようなら、早めに「ギブアップ」することを強くおすすめします。

たとえば、特別待遇や即答を要求されたら、「私ひとりでは判断できません」などと応じて、クレーマーの土俵に上がらないようにします。

また、クレーマーから「SNSに流すぞ!」「消費者センターに通報するぞ!」などという脅し文句が出たら、「困りましたね」と応じるのが得策です。

クレーマーは「暖簾に腕押し」の状態に追いやられ、突きどころを失います。

私は、これらを「ギブアップトーク」と名づけて、クレーム対応における基本話術として紹介しています。

こうした話術を上手に使えば、やがてクレーマーは気勢をそがれ、捨てゼリフを残して引き下がります。

要するに、「無理なことは無理」と伝え続ければいいのです。

ここで忘れてならないのは、絶対に結論を急がないということです。

早期解決の段階は過ぎているのですから、後述する対応策を練るために、逆に時間的な余裕をつくることに対応を切り替えるのです。

過剰な要求は「断固拒否」していいギブアップトークを活用し、相手の土俵に上がらないことを意識しながら考えなければいけないことは、「できること」と「できないこと」をはっきりさせ、そのことを相手にどのように伝えるか、ということです。

健康食品通販の事例

40代の男性から、商品未着のクレーム電話が入った。

「1週間前、栄養ドリンクのサンプルを注文したが、まだ届かない」応対した女性オペレーターが注文履歴を確認したところ、注文の事実はなかったが、あらためて注文を受けて配送の手続きをとった。

しかし、男性はそれで納得せず、消費者センターへの通報をにおわせた。

オペレーターから報告を受けたお客様相談室担当者は、不快な思いをさせたことを電話でお詫びした。

すると、男性はオペレーターの態度に文句を並べ立てた。

「愛想のない応対で、心がこもっていない。

私もサービス業に携わっており、日頃から接客について部下を指導する立場にあるが、彼女の対応は余りにひどい。

あなたに謝ってもらうより、本人から謝罪の言葉がほしい」担当者は慎重に言葉を選びながら、お詫びの気持ちを伝えたが、翌日にも電話がかかってきて、オペレーターの謝罪文を要求してきた。

「謝罪文を読んでから、正式に商品を注文するかどうかを決めたい」その1週間後、サンプルを受け取った男性から、さらなる苦情が寄せられた。

「オタクの商品ラインアップを知りたいのに、総合カタログが入っていないじゃないか!そもそも代引(代金引換)で注文を取るとは顧客に失礼じゃないか?」男性は、こうしたクレーム電話の合間に、1日に何度も商品の注文とキャンセルを繰り返した。

そして、そのつど受付オペレーターの応対を非難した。

担当者はうんざりしながらも、電話をかけて、こう説明した。

「元をただせば、サンプルのお届けが遅れたことが原因で、お客様にご不快な思いをさせてしまいました。

あらためてお詫び致します。

申し訳ございません。

商品のお届けは初回に限り、本人確認ができる代引でお願いしております。

オペレーターの謝罪文を要求されていますが、そこまでお怒りになる根拠がわかりかねます」すると、男性は逆上してこう言い放った。

「なんだ、その言い草は!オレが悪いみたいじゃないか。

偉そうにしやがって!今度はアンタに謝罪文を出してもらおう」その後は、担当者に矛先が向けられ、コールセンターを含めたあらゆるチャネルを通して、頻繁に嫌がらせの電話がかかってくるようになった。

この時点で、会社は男性を「お客様扱い」することを断念。

以後、男性からの注文を一切受け付けないようにした。

このケースでは、「消費者センターへの通報」「オペレーターの謝罪文」「精算方法の変更」については、検討に値しない過剰な要求です。

相手の言うことを一言一句もらさず聞こう、などと考える必要はありません。

そして、相手には、こうきっぱり伝えます。

「ご納得いただけないのは残念ですが、私どもにも、できることとできないことがありま

す。

どうぞ、そこのところをご理解ください」「誠意のハードル」を設定してブラさないクレーマーの要求に対して「できること」と「できないこと」を線引きするためには、「これ以上はできない」というボーダーラインを決めておく必要があります。

クレーマーが自分の要求を押し通そうとするときに「誠意を見せろ!」と言いがちなことから、私はこのボーダーラインを「誠意のハードル」と名付け、クレーム対応における基本的な「仕組み」と位置づけています。

誠意のハードルは、業種や業態、クレームが発生した背景などによって異なります。

たとえば、百貨店の食品売場と商店街の青果店とでは、「誠意の見せ方」が違って当然です。

百貨店で売られている贈答用の高級食材が傷んでいたら、責任者から謝罪の挨拶があってもおかしくありません。

しかし、商店街の青果店で少々鮮度が落ちた食材が売られていたからといって、菓子折りを片手に常連客の自宅を訪問することは考えにくいでしょう。

そのお客様が来店した際に、少々おまけする程度が妥当でしょう。

誠意のハードルを設定する際の大前提は、社会規範に則った「公平・公正」の原則です。

特別待遇や金品の不当要求に応じたり、強硬な相手の要求には応じるけれど、そうでなければ我慢してもらうということでは、コンプライアンスにも反します。

たとえば、商品に瑕疵があった場合、商品の交換や代金の返還などで補償するのは正当な行為といえます。

しかし、それに加えて、特定のお客様に「迷惑料」や「慰謝料」という名目で金品を提供するのは、公平・公正の原則から逸脱しています。

損害保険に加入している企業もあると思いますが、安易に金銭でケリをつけようとすると、その評判が広がり、別のクレーマーの標的にされることがあります。

また、店舗や病院などで来訪者が順番待ちをしているなか、クレーマーが大声で騒ぐからといって優先的に処遇するのも、公平さに欠けます。

「騒がれると、ほかの来訪者の迷惑になるから」というのは「その場しのぎ」にすぎず、クレーマーを常習化させることになりかねません。

いずれにしても、誠意のハードルは公平・公正の原則に則ったうえで、それぞれの企業・団体のポリシーや実情、クレームの内容に合わせた基準を設けます。

たとえば、商品に瑕疵があった場合、次のような対応策が想定できます。

「返品・交換には応じるが、返金には応じない」「自社発行のクーポン券をお届けする」「1ランク上の代替品との交換」「代替品に加えて、○○円の商品券を渡す」

また、お客様の健康に害を及ぼした場合には、次のような措置が考えられます。

「診断書を確認のうえ、治療費を支払うが、慰謝料の請求には応じない」「休業補償はしないが、見舞金として最大○○円まで支払う」さらに、サービス業の誠意のハードルについては、「3倍返し」という基準を設けている企業が少なくありません。

この「3倍」には、2つの意味があります。

ひとつは文字どおり、商品価格の3倍の金額で補償することです。

1個100円の商品に瑕疵があった場合、3個、または300円相当の商品を差し上げるわけです。

もうひとつは、「これからもご贔屓に」という将来への期待も込めて、「感覚的に3倍くらい」の補償を行うという意味合いです。

いずれにしても、いったん定めた基準(誠意のハードル)は、安易に変更しないことです。

組織としての軸がブレると、現場の担当者は身動きがとれなくなります。

1つ、経営陣が誠意のハードルの基準を変更したことで、現場が大混乱し、最悪の結末を迎えた事例を紹介します。

高級ブランドの事例高級ブランド商品にクレームが殺到した。

品質表示に誤りがあったのだ。

「節約してようやく手に入れたのに、ガッカリ!」「長年、愛用していたのに、裏切られた思い」「恩師へのプレゼントに購入した、相手に失礼だし、恥ずかしい」愛用者にはこだわりの強い人が多かった。

また、優良誤認(誇大広告)と判定される可能性もあったため、激しいクレームの嵐が吹き荒れた。

会社は商品の自主回収を進め、商品の交換とクーポン券の提供で応対した。

しかし、「返金しないのは納得できない」という人が多かった。

「お金の問題じゃないが、返金を要求する。

返品・交換ではイヤ。

もう、オタクの商品を買うつもりはないから、クーポン券もいらない!」消費者の立場からいえば、もっともな主張である。

彼らをクレーマーと呼ぶのは気が引けるが、担当者にとっては悩みの種であることも事実だった。

自主回収にともなって、お客様からの苦情がドッと押し寄せ、担当者はその一つひとつに対応しなければならない。

同時に、ヘビーユーザーに対しては、丁寧に事情を説明し、なんとか納得してもらわなければならない。

お客様相談室のメンバーは疲労困憊していた。

ところが、最大の苦難はその先にあった。

会社がそれまでの方針を転換し、返金に応じることにしたのだ。

お客様相談室は大混乱に陥った。

商品の交換とクーポン券でしぶしぶ納得していたユーザーも含めて、一から対応を見直さなければならないからだ。

そして数日後——。

昼夜を問わず返金手続きを進めた甲斐があって、クレームは瞬く間に収まった。

まさに「現金なもの」だった。

しかしその一方で、クレームの最前線で全力を尽くしてきたお客様相談室のメンバーは、次々に職場を去っていった。

途中でハシゴを外されるような事態に追いやられ、それまで張りつめていた糸がプツンと切れてしまったのだ。

しつこいクレーマーには「2人以上」で対応するギブアップトークをマスターしても、誠意のハードルを設定して「やるべきこと」をシンプルにしても、担当者がひとりでクレーマーに立ち向かっていては、やがて心が折れてしまいます。

悪質なクレーマーに対しては毅然とした態度で臨まなければなりませんが、そのためには、職場の仲間が「お互いさま」の意識をもって助け合うことが必要です。

たとえば、隣席の同僚にクレーム電話がかかってきたとしましょう。

長時間対応する同僚を見ながら思うことは、「私じゃなくてよかった」というのが本音ではないでしょうか。

あとになって「大丈夫?」と声をかける程度ではないでしょうか。

クレーム対応で「相棒」は大切な存在です。

とくに、過剰な要求を突きつけてくる厄介なクレーマーには、複数で対応するのが原則です。

その理由は3つあります。

①ひとりが相手とのやりとりの証人になれる②「」「」③仲間がそばにいるというだけで心強い「私にとって相棒は誰だろう?」と考えてみてください。

同僚でしょうか。

直属の上司でしょうか。

それとも、パニックボタン(警備会社への非常通報ボタン)でしょうか。

二人三脚でクレーマーに対応すれば、余裕をもって解決策を探ることができます。

モンスタークレーマーは「壊れたスピーカー」だと思えここまでお伝えしてきたことを実行しても、相手と折り合いがつかないまま、不当な要求を受け続けていたら、もう、それは最終段階です。

まず、クレーマーにどう対応するかという具体策の前に、自分の心を落ち着かせ、平常心を保つことを優先させてください。

私は交番勤務時代、交通違反の取り締まりが最も苦手でした。

違反した事実を認めようとしない手合いから、ボロクソに言われるからです。

「なんで、ワシだけ取り締まられなアカンのや!」こうした場面で反論したり、説得しようとすると、揚げ足をとられて一気に逆上されます。

かといって、納得してもらえるまで丁寧に対応していたら日が暮れます。

相手のペースに巻き込まれないよう、「ご不満はあると思いますが、違反は違反です」と、淡々と伝えるだけです。

その後は、何を言われても、耳に栓をするようにして、心のシャッターを下ろすのです。

クレーマーから電話がかかってきて、「ふざけんな!」と、鼓膜が破れそうな声で怒鳴られたら、受話器を耳から離してください。

身がすくむほど恐ろしい怒声も、ノイズにしか感じなくなります。

常軌を逸したクレーマーは、「壊れたスピーカー」だと思えばいいのです。

まともに取り合ってもしかたがありません。

クレーマーを「宇宙人だと思え」と.部下を指導しているベテランオペレーターもいました。

あえて、相手を「上から目線」で見ることによって、心を落ち着かせているのです。

そもそも、担当者とクレーマーの双方が100%納得することなどありえません。

とくに、この段階に入ったモンスタークレーマーが抱える不安や不満を解消し、完璧な対応をしようとするのは無理な話なのです。

また、悪質なクレームは、個人ではなく、組織に向けられたものであることを忘れないでください。

つまり、仮にあなた自身が責められていたとしても、責任をとるのはあなたではないのです。

そう考えるだけでも、少し気持ちはラクになります。

そして、この段階に入ってくると、「いつまで続くんだよ……」「もう、やってられない」という、うんざりした気分になってくるでしょう。

しかし、どんなに厄介なクレームでも、いつかは必ず収束します。

半年間ひっきりなしに電話やメールで苦情を寄せていたクレーマーが、ある日、パッタリ連絡してこなくなることがよくありますが、クレーマーは納得したわけでなく、諦めただけだったりします。

ごくまれに、調停や裁判にもつれこむこともありますが、必ず「終

わり」はあります。

クレーマーの「弱み」につけ込めクレーム対応で焦りが禁物であることは、前述のとおりですが、実は、時間に追われているのはクレーマーのほうだともいえます。

金品を狙った詐欺まがいの悪質クレーマーは、怒鳴り声で相手をパニックに陥れて、早期に金品をかすめ取るのが常套手段です。

こうした確信犯的なクレーマーは、警察に通報されることを恐れ、できるだけ短期間に決着したいと考えます。

対応する側が、必ずしも解決を急がなくてもいいと覚悟を決めれば、立場は逆転します。

通常、担当者は限られた時間のなかで日常業務をこなしながら、クレーム対応に追われています。

クレームの長期化で疲弊するのは当然です。

また、お客様相談室の専任スタッフやコールセンターのオペレーターでも、特定のクレーマーにかかりっきりになるわけにはいきません。

やはり、ひとりで対応していると、時間的な制限があるなかで神経をすり減らすことになります。

しかし、組織として対応すれば、多くのメンバーが協力し合うことで、ゆったり構えることができるはずです。

ひとりの「持ち時間」には限りがあるけれど、組織全体でとらえれば、時間はたっぷりあると考えるのです。

前項のステップ2で述べた相棒は、いわば「横の連携」ですが、「組織対応」は横の連携に「縦の連携」が加わったものと考えていいでしょう。

「エスカレーション」で持久戦に持ち込む組織的なクレーム対応で一般的なのが「エスカレーション」です。

これは、クレームへの対応を担当者(一次応対者)から上位管理者やスーパーバイザー(二次応対者)にバトンタッチすることです。

クレーマーの要求がエスカレートしたり、興奮したクレーマーをクールダウンさせたりするときに、エスカレーションが行われます。

しばしば、「時間」「場所」「人」を替えることでクレームの収束を図りますが、エスカレーションとは「人を替える」という意味です。

私が提唱する組織対応は、さらに「時間」をかけ合わせた複合的な措置です。

それは、組織全体でクレームの実態を把握し、悪質なクレーマーを放置することです。

詳しくは2章で述べますが、「やるべきこと」を行った後は、こちらからアクションを起こさず、クレーマーには「できない」と結論だけを伝えるのです。

相手の言い分に耳を傾け、相手に納得してもらおうと努める必要はありません。

「恐れ入りますが、ご要望にはお応えできません」などと、「ノー」を繰り返し伝えるだけです。

このようにして「持久戦」に持ち込めば、しだいにクレーマーはつかみどころを見失

い、手詰まりになるはずです。

もし、これでも相手が引き下がらず、さらにヒートアップして暴力をふるったり、業務妨害をしたりするようになれば、警察対応の段階です。

警察に通報するときの注意点も、後で詳しくお伝えします。

悪質クレーマーには「ラグビー型」で組織対応せよ相手の悪質性をはっきり認めることができたら、持久戦に持ち込むためにも「個人戦」から「組織戦」に大きく舵を切らなければなりません。

ところが、多くの企業では組織戦を展開できるだけの体制が整っていません。

その第一の原因は、トップマネジメントの認識不足にあります。

私はいつも、経営者や管理職の皆さんに、スキーのジャンプ競技を引き合いにしてこう話しています。

「クレームの初期対応では、低い姿勢で助走しますね。

では10秒間、その姿勢を保ってみてください。

膝がぶるぶる震えませんか?次に爪先立って、前傾姿勢で滑空します。

では、その姿勢をとってみてください。

これもつらいはずです。

さらに、着地するときは、両手を広げて上半身を起こしたテレマーク姿勢をとらないと減点されます。

クレーム現場の担当者は、同じくらいたいへんなのです」第二の原因は、「個人」と「組織」が有機的に結びついていないことです。

本来、クレーム対応における理想的な組織は「ラグビー型」だと考えています。

ラグビーの試合を思い浮かべてください。

先頭でボールを持って走るプレーヤーは、激しいタックルをかわしながら、相手陣地のゴールを目指します。

途中で倒れそうになったら、チームメイトがすばやくパスを受けます。

また、メンバーが一丸となってスクラムを組み、陣容を立て直したり、スクラム・トライを狙ったりします。

クレーム対応でも、組織のフォローが不可欠です。

ところが、実際は担当者がクレームから逃げたり、組織が十分なフォローをしていなかったりします。

私にも、苦い経験があります。

ある日、顧問先であるスーパーの事業本部から、私に連絡が入りました。

「援川さん、商品に異物が混入していたというので、お客様の自宅を訪問したところ、強面の男性が待ちかまえていました。

床の間には、日本刀も置いてありました。

どうしましょう?」男性幹部からのSOSでした。

「このままでは、来週から始まる特別セールに影響が出ます。

早く解決しなければならないので、援川さん、頼みましたよ」「こういうときのために、あなたに高いギャラを払っているんだ」と言わんばかりでし

た。

まるで用心棒扱いです。

クレーム現場では多かれ少なかれ、似たような状況が生まれているのではないでしょうか。

ただ、ここで上司や幹部の陰口をたたいて溜飲を下げたり、「どうせ、他人事なんだろう」と諦めたりしては、なにも変わりません。

緊急事態に備えて、自ら声を上げて人を巻き込むことが必要です。

ただし、それにはコツがあります。

若い女性が暴漢に襲われそうになったとき、「助けてください!」と叫んでも、誰も助けてくれないことがあります。

なぜなら、「面倒なことには関わり合いになりたくない」という心理が働くからです。

事件現場の聞き込み捜査でも「そういえば、悲鳴のような声が聞こえました」という証言を得られる場合がありますが、「なぜ、そのとき通報してくれなかったのか?」と残念に思ったことが何度もあります。

では、どうすればいいのでしょうか?それは、「助けて!」ではなく、「痴漢です!」「ドロボー!」「火事だ!」などと大声で叫ぶことです。

つまり、周囲の人々が当事者意識をもつような訴え方をするのです。

クレーム現場でも同じです。

ひとりで対応していて、「もう無理だ」と感じたら、上司に相談しましょう。

そのとき、ただ泣きつくのではなく、クレーム対応の経過報告をしっかりして、組織全体の問題として取り上げてもらえるように伝えるのです。

適切かつスピーディにクレームを断ち切るための組織改革については、終章で詳しく述べます。

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