はじめに言われたことしかやらない新人、中堅社員の伸び悩み、個人プレーが目立つベテラン社員etc.なぜ「部下育成」はうまくいかないのかあなたの職場では、「部下育成」はうまくいっていますか。
……「うまくいっていない」という人がほとんどではないでしょうか。
実際、「部下育成」に関する次のような悩みが、現場マネジャーから寄せられます。
・今年配属された新人は、ちょっと厳しく言うと、すぐにやる気をなくしてしまう・バランスがよい「いい子」は多いけれど、なかなかもう一皮むけない中堅が多い・自分の担当する仕事のことしかしない。
もっと後輩の面倒を見てほしい・自分より経験の長いベテラン部下が、これまでの考え方ややり方を変えてくれない・自分自身、異動してきたばかりで、一人ひとりの能力をよく分かっていない思い当たる節があるのではないでしょうか。
うまくいっているマネジャーたちが、共通して行っていた「ある法則」では、なぜ部下は思うように育ってくれないのでしょうか。
ひと言で言えば、職場における部下の能力やキャリアがバラバラな中で、それぞれの部下の成長段階に合った育成や指導ができていないという点に問題があるのです。
ここで少し、私たちの自己紹介をさせてください。
私たちが所属するリクルートマネジメントソリューションズは、人材育成や組織開発などを事業の柱としています。
人材育成のトレーニングは年間1900社の企業から、約14・8万人の受講者にご参加いただいています。
トレーニングプログラムには、様々な対象やテーマのものがありますが、特にマネジメント・リーダーシップ開発のプログラムを中心にしています。
さて、多くの企業にトレーニングプログラムを提供する中で、マネジャーの効果的な部下指導・育成には、ある「共通点」が見えてきました。
うまくいっているマネジャーは、部下の成長段階をきちんと捉え、その「段階」に合わせた仕事の任せ方、経験の積ませ方、仕事のプロセスでの関わり方を意図的に行っていたのです。
新人には新人、入社3年目の若手には若手、中堅社員には中堅の、効果的な育成方法があります。
にもかかわらず、同じ「一般社員」や「部下」というくくり方で、皆同じように指導・育成しようとしてしまう。
もっと言えば、新人以外の部下には特に意図的な育成はしていないというマネジャーも少なくありません。
こうした状況が、「一皮むけない中堅」を生んでいたのです。
「段階」に合わせた部下育成は、業界や職種を越えた共通性がある我々は、企業で働くビジネスパーソンにインタビュー調査を行い、研究を深めました。
驚くことに、「段階」と、それに合わせた「育成方法」は業種や職種を越え、共通性が高いことが分かってきたのです。
それは言わば、部下の成長段階を捉え、指導・育成する際の「ものさし」と言ってもよいのではないでしょうか。
この「段階」が後ほど紹介する、「ビジネスパーソンの10のステージ」というものです。
・部下には段階がある・段階に合わせた育成方法がある・段階と育成方法は業種や職種を問わず普遍性があるこの3点を押さえた上で、今それぞれの部下がどの段階にいるのか、そしてどういった育成方法が有効なのか、もっと具体的にどんな言葉がけや仕事への期待をかければいいのかなどについて、本書では分かりやすく掘り下げていきます。
今日では、多くのマネジャーがマネジメント業務だけでなく自らもプレイング業務を持っています。
そうした、時間的な余裕の少ない多忙なマネジャーであればこそ、この「ものさし」を活用して、適切なタイミングでの声かけや、フォローが行えるよう、部下育成の方法を獲得していただきたいと願っています。
部下に合わせた任せ方と育て方を実践することができれば、個々人の生産性が高まるだけでなく、職場全体の生産性が高まることにもつながっていきます。
任せ上手・育て上手のマネジャーとその職場は、さらに一段高いステージへとステップアップしていくことでしょう。
本書の構成本書は、5つの章から構成されます。
これから本書を読み進めていくときの見取り図としてご覧ください。
まず1章では、部下の実力を見極めるための段階(ステージ)という考え方を紹介します。
部下にとっての適切な仕事を任せ、部下を育てていくためには、相手の「現状」を正しく把握することが大切です。
ここでは、ステージを「部下の成長度合いを見るものさし」として活用する方法を説明します。
2章では、部下のステージが一段上がる転換プロセスを説明します。
ステージの変わり目は、部下にとっては成長のチャンスであるとともに、停滞のリスクもある時期です。
ここでは、部下のステージが変わるプロセスを理解し、部下の成長を支援する際の、マネジャーの関わり方を解説します。
3章では、部下のステージ別に転換プロセスを支援する育成のポイントについて言及します。
個々のステージに合わせて、マネジャーはその関わり方を具体的に調整していく必要があります。
本章では、4つのステージごとに、マネジャーが部下に、どんな仕事を与え、どんな関わりをすればよいか実例を交えながら説明します。
4章では、部下同士がお互いのステージ転換を支援し合う職場作りの考え方を紹介します。
マネジャーが部下一人ひとりを育成していくコツをつかんだら、次は部下同士のコミュニケーションを活性化させることがテーマになります。
ここでは、部下同士がお互いに育成し合うためのマネジメント手法について説明しま
す。
最後の5章では、マネジャー自身のステージについて紹介します。
マネジャーも、一人のビジネスパーソンです。
今後、自らも次のステージの変わり目に直面することもあるでしょう。
ここでは、マネジャーがこれから歩むステージと、その転換プロセスを説明します。
本書が、皆さんのマネジャーとしての成功・成長の一助となれば幸いです。
目次部下育成の教科書目次この本の特徴はじめに言われたことしかやらない新人、中堅社員の伸び悩み、個人プレーが目立つベテラン社員etc.なぜ「部下育成」はうまくいかないのか
1章「ものさし」を使って部下を育てる
部下に任せたくても任せきれない現実それでも部下に任せないと、マネジャーは疲弊するばかり「ものさし」を使って任せ上手になる「ものさし」を使って部下を育てるビジネスパーソンには、10のステージ(段階)がある部下は皆同じではない成長スピードは、業種や企業、部署によって異なる外食産業の例通信インフラ業界の例問題は、成長そのものが止まってしまうこと「リーディングプレイヤー不在」という壁「ものさし」があれば、部下の成長段階を把握できる自分の職場で考えてみる部下は今どの段階にいるのだろうか?部下の4つのステージとその役割仕事の割り当て、良し悪しの伝え方、支援の仕方が変わる「ものさし」を使って、仕事を割り当てる日常ミーティングにも「段階」を活用するコラムステージには、「飛び級」はない
1章「ものさし」を使って部下を育てる
部下に任せたくても任せきれない現実
皆さんは、業績を上げるだけでなく、部下を育成することも自分の仕事であると、頭では理解していることでしょう。
そして、部下を育てるためには、部下に仕事を任せるのが一番の方法だということも分かっていると思います。
しかし、「部下に仕事をどんどん任せて育ってもらいたい」と願いながらも、現実には思いどおりにはいきません。
実際には、様々な部下がいて、マネジャーと部下との関係は難しいものになっています。
たとえば、部下にとってよい成長の機会になると思って挑戦的な仕事を与えてみたら、「そんな難しい仕事はできません!」と尻込みしてしまう部下がいます。
部下は、失敗を恐れて、「自分には無理だ」とあきらめてしまっています。
このようなことは、仕事よりもプライベートの充実を重視する若手に多く見られるようです。
プライベートを犠牲にしてまで仕事に没頭することをよしとしない価値観を持つ部下は、仕事の面白さや醍醐味を経験する前に、一歩引いてしまうのです。
この尻込みは、実はマネジャーの補佐役であるベテランメンバーにも見受けられます。
「次期マネジャー候補」として職場運営に積極的に参加することを望むものの、マネジャーになりたがらないベテランメンバーがいるのも現実。
当の本人は「そこまでの責任を負いたくない、今のポジションで満足だ」と思っていることが多いのです。
それでも部下に任せないと、マネジャーは疲弊するばかり職場全体を眺めても、マネジャーにとって辛い状況が見えてきます。
日々多忙な職場では、一人ひとりが自分の仕事に集中するあまり、お互いにサポートし合う時間的な余裕が(心理的な余裕も)なくなりやすいものです。
こうした職場では、多くのマネジャーはまだ十分な力をつけていない新人や若手へのサポートに時間を費やす一方で、中堅社員やベテランメンバーには目が行き届かなくなりがち(放置状態になりがち)です。
結果として、部下同士でサポートし合おうとする関係性はますます希薄になり、孤軍奮闘の職場になっていきやすいのです。
このような状況において、マネジャーは「部下に仕事をどんどん任せて育ってもらいたい」と思いつつも、「誰に仕事を任せたらよいだろうか?」「どのように任せればうまく育つのか?」と迷ってしまうのも無理はありません。
最も辛いのは、「もう部下には任せられない。
自分でやるしかない」と追い込まれることです。
実際、優秀な部下にすでにかなりの仕事を任せていてパンク状態に近づきつつあるし、他の部下は新しい仕事をやりきれるかどうか分からないという状況下では、「自分でやったほうが確実で早い」と思ってしまうこともあります。
しかし、マネジャーが自分でやってしまう限りは、「いつまでも楽にならない、部下が育たない」という状況は続く一方。
やはりマネジャーが目指す道は、「部下に仕事をどんどん任せて育ってもらう」しかないのです。
「ものさし」を使って任せ上手になるマネジャーの理想は、「部下にとって難しい仕事を任せ、何とか最後までやりきることによって部下自身が成長する」ということでしょう。
では、どうすればそのような理想の状態を作り出すことができるのでしょうか。
日々忙しい職場の中で、マネジャーが実際に取り入れることができるのは、部下一人ひとりに対して任せるときのポイント・育てるときのポイントを明らかにしておくことです。
たとえば、新人や若手に任せる仕事とベテランメンバーに任せる仕事は異なりますし、指導する際の内容や伝え方も変わってきます。
マネジャーにとっての実践的かつ有効な方法は、「どの部下にはどのような任せ方(育て方)をするのがよいか」という、「ものさし」を持っておくことです。
「ものさし」を使って部下を育てる部下を見る「ものさし」として「ビジネスパーソンの10のステージ」を紹介します。
一人ひとりに合った育て方をすると言っても、何でもかんでも相手(部下)によって育て方を変えていたのでは時間も労力もかかるでしょうし、その育て方が適切かどうかも分かりません。
また、たとえば叱られながら厳しく育てられたマネジャーは、同じように部下を叱って育てようとしがちです。
逆に、比較的自由にのびのびと育てられたマネジャーは、同じように部下に裁量を与えて任せて育てようとします。
しかしそれがどんな部下にも通用するとは限りません。
これから紹介するのは、どんな業種や職種であっても使える共通の「ものさし」です。
これを部下育成の道具として活用することができれば、それぞれの部下に合った育て方をスピーディーに見つけ出すことができるでしょう。
まずはこの「ものさし」を理解し、あなたの職場で実際に使ってみることから始めましょう。
ビジネスパーソンには、10のステージ(段階)があるではさっそく、「ビジネスパーソンの10のステージ」を見てみましょう。
あなたの部下である一般社員層のメンバーには、次の4つの段階があると言えます。
段階が上がるにつれて、担う役割も広がっていきます。
一般社員層:4つのステージ(段階)スターター(Starter/社会人):ビジネスの基本を身につけ、組織の一員となる段階プレイヤー(Player/ひとり立ち):任された仕事を一つひとつやりきりながら、力を高める段階メインプレイヤー(MainPlayer/一人前):創意工夫を凝らしながら、自らの目標を達成する段階リーディングプレイヤー(LeadingPlayer/主力):組織業績と周囲のメンバーを牽引する段階今日の多くの日本企業では、管理職層(マネジメント層)と言っても、直属の部下を持ち組織の成果を上げる役割を負うマネジャーと、直属の部下は持たずに高い専門性を発揮し成果を上げる役割を負うスペシャリストがいます。
あなた自身にも当てはまる「部下を持つ管理職層」には、次の4つの段階があります。
マネジャーとして部下を持つ管理職層:4つのステージ(段階)マネジャー(Manager/マネジメント):個人と集団に働きかけて、組織業績を達成しながら変革を推進していく段階ダイレクター(Director/変革主導):対立や葛藤を乗り越えながら、変革・改革を起こし、組織の持続的成長を実現する段階
ビジネスオフィサー(BusinessOfficer/事業変革):戦略的な資源配分を通じて、自ら描いた事業構想を実現する段階コーポレートオフィサー(CorporateOfficer/企業変革):社会における自社の存在意義を絶えず問い直し、自社の針路を決める段階高い専門性の発揮が期待されている部下を持たない管理職層にも、次の2つの段階があります。
スペシャリストとして部下を持たない管理職層:2つのステージ(段階)エキスパート(Expert/専門家):高い専門性を発揮することを通じて、組織業績と事業変革に貢献する段階プロフェッショナル(Professional/第一人者):卓越した専門性を発揮することを通じて、事業変革に道筋をつける段階
部下は皆同じではない忘れてはならないのは、一般社員(いわゆる平社員)は皆同じではないということです。
さすがに新入社員とベテラン社員を同じように捉える上司はいないと思いますが、一般社員といってもそれぞれ能力や経験、成長度合いに応じた段階が存在するのです。
まずは、一般社員にも4つの段階(ステージ)が存在するということを理解し、次に、各段階の特性を知ることです。
一つずつ見ていきましょう。
学生から社会人となった駆け出しのビジネスパーソンは、まずスターター(Starter/社会人)の段階を迎えます。
社会人としてのマナーをはじめとするビジネスの基本を身につけ、組織の一員となります。
ビジネスパーソンとしての始まりという意味で、「スターター」と名づけました。
スターターとして職場や社会人生活にも慣れてくると、先輩や上司と一緒に少しずつ「仕事」をするようになってくるのが、次のプレイヤー(Player/ひとり立ち)の段階です。
何もかも初めての仕事という中で、一つひとつやりきることで、仕事を覚え、力を高めていきます。
自分の力で仕事を進めるという意味で、「プレイヤー」と名づけました。
プレイヤーとして先輩や上司から手取り足取り教えてもらう時期を卒業し、自分の頭で考え、工夫し、行動することで成果を上げていくのが、次のメインプレイヤー(MainPlayer/一人前)の段階です。
目標のレベルや仕事量がグンと高くなるのがこの段階の特徴です。
多くの企業では、このの段階が人数的に最も多いボリュームゾーンであり、現場で事業を支え、推進している人たちとも言えます。
日常業務はほぼ独力で進めることができ、一人前と認められるという意味で、「メインプレイヤー」と名づけました。
メインプレイヤーとして経験と実力を積んでくると、リーダー的な立場を任され、他のメンバーを動かしながら成果を上げていくのが、次のリーディングプレイヤー(LeadingPlayer/主力)の段階です。
職場の中では、より高い個人業績に加え、周囲のメンバーや組織業績を牽引するような動きを期待されます。
周囲からは次期マネジャー候補と目されることも多いでしょう。
周囲のメンバーと組織業績をも牽引するという意味で、「リーディングプレイヤー」と名づけました。
通常、一般社員層では、からに向けて一つずつ段階を上っていきます。
それぞれの段階を短い期間で駆け上がっていく優秀な人はいても、どこかの段階を飛び越えることはありません。
あくまで、一段ずつ上がっていくのです。
成長スピードは、業種や企業、部署によって異なるただし、企業やその業種によって、段階を上がっていく時間は大きく異なります。
流通・外食といった業種では、入社3年目には店舗の店長、すなわちの段階であるマネジャーを担うこともあります。
わずか3年の間にスターターからマネジャーまでの段階を駆け上がっていく必要があるのです。
一方、一つひとつの仕事が長期間にわたるインフラ・建設といった業種では、10年20年勤めてようやくの段階、一人前と言われる世界もあります。
これは、早ければよいということではなく、業界や仕事の特性によるところが大きいのです。
あなたの会社ではいかがでしょうか。
順調に部下が成長したとして、だいたい何年目くらいにどの段階にいることが一般的でしょうか。
また、あなた自身は社会人何年目くらいにどの段階にいましたか?よりイメージを持っていただくために、外食と通信インフラの業種の例を見てみましょう。
外食産業の例Aさんは学生時代からなじみのあった、全国に展開する居酒屋チェーンに社員として入社しました。
入社した最初の1週間は研修があり、料理の出し方、レジの打ち方、電話での予約受付の仕方、お客様のトラブルへの対処など、基本的なことを学びましたスターター(Starter/社会人)の段階。
その後すぐに店舗に配属となり、アルバイトやパートのメンバーと一緒に、日々の店舗業務を行いました。
同じく社員である店長から学ぶだけでなく、実務については自分よりも経験の長いアルバイトの先輩たちから学ぶことも多くありましたプレイヤー(Player/ひとり立ち)の段階。
半年も経つ頃には、一通りの業務を自分の力で回すことができるようになりました。
自分より後に入ってきたアルバイトのメンバーに仕事の仕方を教えたり、店長と店舗運営について話す機会も多くなりましたメインプレイヤー(MainPlayer/一人前)の段階。
入社2年目になると、店舗のサブリーダーになりました。
勤務シフトの都合で店長が不在のときは、実質的な責任者として店舗を切り盛りする必要がありました。
また、アルバイトやパートのメンバーの勤務シフトの案を作るのも、Aさんの仕事として任されました。
リーディングプレイヤー(LeadingPlayer/主力)の段階。
しばらくすると、別の店舗で人が足らないということで異動になりました。
そこでもサブリーダーという立場でしたが、店長とアルバイトのメンバーとの間で意思疎通がうまくいっていないため、次々とアルバイトが辞めるなど大変な思いをしました。
少しずつ状況がよくなってきた入社3年目の途中、店長に昇進が決まりましたマネジャー(Manager/マネジメント)の段階。
通信インフラ業界の例Bさんは学生時代に専攻していた情報通信の知識を活かそうと、通信インフラ業の会社に入社しました。
入社から3カ月間はみっちりと座学の研修を受け、事業の歴史や社会的な存在意義、実業務として必要な知識など、幅広く学びましたスターター(Starter/社会人)の段階。
配属先は、「まず現場を知る」ということで、地方の支社に出向となりました。
職場では自分の親ほどの年齢の先輩社員と一緒に毎日現場を回り、故障した設備の修理や点検をし、仕事が終われば飲みに行く日々でした。
とっつきにくいと思っていた先輩も、一度夜中まで飲んだ日からは仲良くなり、仕事の心構えなど薫陶を受け、叱られながらも一つひとつ仕事を覚えていきましたプレイヤー(Player/ひとり立ち)の段階。
入社4年目に本社に戻ることになりました。
現場の実務から企画業務となり、これまでとあまりに異なる仕事に戸惑うことが多かったのも事実です。
販促企画の立案と支社への展開など、半期ごとに与えられる仕事のテーマは、毎回内容や関係者が少しずつ異なるもので、その都度学ぶことがありました。
いくつものテーマを経験する中で、次第に自信がついていきましたメインプレイヤー(MainPlayer/一人前)の段階。
入社10年目になると、「主任」の肩書きがつきました。
同じ業務にあたる後輩2人が自分の下につけられ、上司からは後輩を育てながらテーマを進めるよう指示されましたリーディングプレイヤー(LeadingPlayer/主力)の段階。
それからはおよそ2年ごとに部署内で次々と新しいテーマを担当しながら、途中「係長」に昇格、17年目で課長に昇進しましたマネジャー(Manager/マネジメント)の段階。
あなたの会社ではいかがでしょうか。
問題は、成長そのものが止まってしまうこと問題は、スターターからメインプレイヤーの段階まで着実に成長してくる部下と、どこかの段階で成長が止まってしまう(時にはそこで会社を辞めてしまう)部下が存在するということです。
対策については次章以降で具体的に見ていくことにして、一つ言えることは、部下がスターターやプレイヤーの段階を越えメインプレイヤーやリーディングプレイヤーの段階へと成長していくことは部下本人の責任だけではないということです。
マネジャーがうまく関与できるかどうかによっても、部下の成長は左右されるのです。
いわゆる「くすぶっているベテラン」にも同じことが言えます。
しかし最近は、組織の一人ひとりがどのような役割を担い、周囲からどのような期待を受け、どの程度の力量を持っているのか、部下の(成長)段階が見えにくくなってきたのです。
中途入社の社員が増え、一つひとつの仕事が細分化・高度化していく中、職場の誰がどの段階にいるのか、部下本人にとっては自分に期待される役割が何なのか、見えにくくなってきました。
これが多くの日本企業で起こっている現実です。
「リーディングプレイヤー不在」という壁たとえばその象徴的な例が、のリーディングプレイヤーの不在です。
現在、主任や係長といった肩書きではあるものの、実態としては一プレイヤーで他のメンバーと何ら変わらないという部下がいたり、ひどい場合は、そういう部下の数が増え、職場の半分以上が「主任」というケースもあるのではないでしょうか。
個人としての業績達成ばかりが求められることで、職場のナンバー2としてチームをリードするようなリーディングプレイヤーの経験を持たないまま、管理職に昇進して苦労する人が実に多くなっています。
このような変化の過程で、マネジャーがそれぞれの部下の段階をつかみきれず、本当に必要な育成とはズレた育成をしてしまっている可能性があります。
ズレとは、部下本人の力量とは異なる段階の期待をかけてしまっているというものです。
本来リーディングプレイヤーとして職場のナンバー2の役割が期待できる部下に、とにかくメインプレイヤーとして高い個人業績を上げることばかり求めてしてしまうのは、ズレの代表例でしょう。
それを防ぐためには、それぞれの部下が今~の、どの段階にいるのかをつかむことから始めなくてはなりません。
「ものさし」があれば、部下の成長段階を把握できる自分も〝プレイングマネジャー〟で一プレイヤーとしての仕事を持ちながら、多くの部下を抱えるようになった現代のマネジャーは、部下一人ひとりがどの段階にいるのかを、把握しにくくなっています。
ここでお伝えしたいことをまとめると、・組織や仕事を取り巻く環境や状況がかつてとは変化してきていても、ビジネスパーソンとしての成長段階には、変わらず4つの段階が存在している・そして、それぞれの段階を経験し乗り越えていかなければ、次の段階に進むことはできないという2点です。
そのために、「ものさし」を使って部下の段階を把握し、関与することで育成を進めていきましょう。
なお、本書は一般社員層の育成がテーマですから、管理職層の段階について本章では割愛しますが、興味のある方は5章で触れていますのでお読みください。
自分の職場で考えてみるさて、ここまで読みながら、部下の顔が思い浮かんできたと思います。
「Aは新入社員でまだスターターだが、言葉遣いもしっかりしていて、すっかり職場の人気者だ」「Bは最近ようやくプレイヤーとして少しずつ仕事を覚えるようになってきたかな」「Cは今まさにメインプレイヤーとして活躍しているな」「Dには次のマネジャー候補としてリーディングプレイヤーの動きをしてほしいな」と同時に、次のような疑問も浮かんできたでしょう。
「新入社員のEは学生気分が抜けていない、スターターにもなりきれていないんじゃないか」「Fにはプレイヤーとして仕事をしっかり覚えてほしいのに、いつまで経っても先輩任せ。
まだスターターのレベルかな」「Gはメインプレイヤーとしてもっといろんな仕事にチャレンジしてほしいが、言われたことしかやろうとしない。
まだプレイヤーではないか」「Hには本来リーディングプレイヤーとしてチームリーダーの動きを期待しているけど、実際は全然できていない。
まだメインプレイヤー止まりかな」それでは、あなたの部下が今どの段階にいるのかを見ていきます。
部下は今どの段階にいるのだろうか?一般社員の4つのステージ(段階)を判定する方法をお伝えします。
まずはそれぞれのステージの役割を期待するのはどの部下なのかという観点で見ていきます。
実際に部下がその役割を果たせているかどうか、つまり、できているかどうかは、ひとまず問いません。
期待している役割の内容、質、レベルこそが大切なのです。
なぜか。
それは、そもそも「できているかどうかを判定する基準は何か」を考えると見えてきます。
「あいつは3年目の割に、よくやっているよ」「彼はもう30歳にもなるのに、まだあの程度か」このような会話をすることがあるでしょう。
会話の背景にあるのは、ぼんやりとはしているものの標準的な「3年目の役割像」や「30歳の役割像」「うちの社員の成長スピード」を暗黙の基準にして、できているかどうかを話しているのです。
人はこの暗黙の役割像を基準として、できている人かそうでない人かを見ているのです。
この基準こそ、ここで紹介している「段階」の真の姿であり、これを暗黙のイメージに留めておかずに具体化しようというのが本書のメッセージでもあります。
だからこそ「できているかどうか」はいったん置いておいて、その部下に本来期待している役割をベースに段階を見ていきましょう。
先ほど登場した「疑問」の例で言えば、Eさんはスターターですし、Fさんはプレイヤー、Gさんはメインプレイヤー、Hさんはリーディングプレイヤーの段階にいるということになります。
しかし、それぞれに期待されている役割を果たせていない状態にあるということなのです。
部下の4つのステージとその役割ここまで、各段階の概要をお伝えしてきましたので、ここではそれぞれの段階に求められる役割まで詳しく見ていきます。
役割の内容や、その役割に対して「できていない」陥りがちな状態を読みながら、あなたの部下がそれぞれどの段階にいるかを考えてみてください。
イメージを膨らませるためには、あなた自身がいつ頃、どの段階にいたのかを思い出してみるのもよいでしょう。
スターター(Starter/社会人)ビジネスの基本を身につけ、組織の一員となる段階。
社会人としての就業意識に目覚める段階。
社会や会社の一員であるという姿勢を持ち、周囲との関係性を築くことが求められます。
期待される役割・社会や会社の一員としての姿勢や行動、仕事の仕方を身につける・自分の関わる仕事の全体像をつかみ、後工程や顧客のことを考えて行動する・周囲からのアドバイスや指摘を真摯に受け止め、行動を変えようとする・初めてのことや初対面の相手に尻込みせず取り組み、何事からも学ぼうとする・新鮮な視点から仕事や職場についての違和感や疑問を率直に出し、周囲に影響を与える本来、このような役割を期待されていますが、次のような状態に陥る場合もあります。
陥りがちな状態・周囲となじめず職場で発言できなくなってしまう・聞きたいことがあっても怖いと思って黙ってしまう・指示内容を誤解したまま進めて間違った結果に終わる・周囲に相談できずに仕事が納期に間に合わない・指示されても、自分が納得できないことはやらない・できないことがあると他者や環境のせいにする・目標に到達できなくても自分の責任ではないと思っている・同期と固まって愚痴ばかり言っている・何度も同じ過ちを繰り返す・今この段階にいる部下は誰か?・そのうち、期待に応えられない状態に陥っているのは誰か?プレイヤー(Player/ひとり立ち)任された仕事を一つひとつやりきりながら、力を高める段階。
社会人の基本を土台として、担当業務を持った上で仕事の仕方を身につけます。
担当業務については自ら働きかけて周囲に教えを乞い、責任を持ってやりきることが求められます。
期待される役割・周囲の指導を仰ぎながら、任された仕事に責任を持って、最後までやりきる・相談できる関係者を増やし、円滑に業務を進める・自分の意見や仕事の状況を率直に伝え、得たアドバイスを業務に活かす・未経験の仕事に取り組んだり、接点の少なかった相手と関わることで仕事の領域を広げる・教えられたことを覚えるとともに、少しずつ自分で考えた工夫を試す本来、このような役割を期待されていますが、次のような状態に陥る場合もあります。
陥りがちな状態・言われることを、ただこなすだけになる・淡々と仕事をこなし、物足りなさを覚えて、やる気を失う・うまくいかないことがあったときに、周囲に支援を求めず一人で悩んでしまう・早期に相談していれば起きなかったはずの問題を起こす・振り返る習慣がなく、同じ失敗を繰り返したり、仕事の質が向上しない・うまくいかないことを前任者や他部署のせいにして、解決しようとしない・関係者からいろいろな意見や要望を受け、振り回される・自分の力量を客観的に捉えられないまま、自己中心的な考えを押し通そうとする・今この段階にいる部下は誰か?・そのうち、期待に応えられない状態に陥っているのは誰か?メインプレイヤー(MainPlayer/一人前)創意工夫を凝らしながら、自らの目標を達成する段階。
組織業績に貢献する戦力として、個人業績を達成することを期待されます。
担当業務に精通し、関係者を巻き込みながら成果を出すことが求められます。
期待される役割・自らの目標を達成することで、組織業績に貢献する
・様々な経験を通じて業務に精通し、専門性を高めて業務に活かす・業務遂行のための道筋や段取り、巻き込む相手を自ら中心となってデザインする・自分より経験の浅いメンバーの相談に乗る、面倒を見る・既存のノウハウを使って自分の仕事に創意工夫を加え、周囲とも共有する本来、このような役割を期待されていますが、次のような状態に陥る場合もあります。
陥りがちな状態・複数の関係者を仕切って進めていくような仕事ができない・自分の判断基準が持てず、周囲の意見に右往左往する・目の前のことをこなし続けることに疲弊する・仕事を回しきれず、自信が持てない・自分の担当業務に意味を見出せず、受身の対応しかできない・主担当としての問題意識や持論を上司や関係者に提言することをしない・今この段階にいる部下は誰か?・そのうち、期待に応えられない状態に陥っているのは誰か?リーディングプレイヤー(LeadingPlayer/主力)組織業績と周囲のメンバーを牽引する段階。
より高い個人業績に加えて、職場全体に目を配り、周囲のメンバーに働きかけることで組織業績に貢献します。
自らの担当業務を進めるだけでなく、メンバーを育て、動かしながら、チームとしての成果を上げることが求められます。
期待される役割・高い個人目標を達成することで、組織業績を牽引する・組織の運営方針や取り組みについて、上司に現場の情報を伝え、意見を交わす・組織の運営方針や取り組み内容の意図をつかみ、メンバー目線から周囲に伝え、浸透させる・指示や指導を通じて、メンバーの力を高めながら仕事を前に進める・業務の効率や効果を高めるために、メンバー同士の交流を図ることで関係性を強化する本来、このような役割を期待されていますが、次のような状態に陥る場合もあります。
陥りがちな状態・個人業績の達成には熱心だが、周囲への貢献や組織活動に関心を持たない・あれもこれも自分で抱え込んでしまい、結局どれも前に進まない・目先の作業に追われ、他の重要な仕事が遅れる、雑になる・考える仕事をすべて自分でやってしまい、後輩が育たない・自分のやり方が最適だと思い込み、後輩の意見や個性をつぶしてしまう・情報共有を怠り、周りからは何の仕事をしているのかが見えない(一匹狼化する)・今この段階にいる部下は誰か?・そのうち、期待に応えられない状態に陥っているのは誰か?この「ものさし」を使って、あなたの部下がそれぞれ今どの段階にいるのか、見えてきましたか。
また、こうして見てくると、順調に成長している人は皆、この4つの段階を一つずつクリアしてきていることに気がついたと思います。
何より、マネジャーであるあなた自身がその経験者であるはずです。
この段階を短い期間に駆け上がる人はいても飛び越える人はいない、そのイメージもわくのではないでしょうか。
大事なのは、今の職場や仕事の中で、部下にはこの段階を期待したいということをマネジャーとして明確にすることなのです。
仕事の割り当て、良し悪しの伝え方、支援の仕方が変わる部下を段階別に捉えることができると、部下育成がとても楽になります。
ここで、その有用性をお伝えしていきましょう。
・仕事の割り当てが変わる・良し悪しの伝え方が変わる・支援の仕方が変わるこれらがキーワードになります。
仕事の割り当てが変わるマネジャーが「ものさし」を使うと、部下の一人ひとりに合わせて、どのような質や量の仕事を与えればよいかを、考えることができるようになります。
仕事の割り当てを考える際の基本は、まずその仕事の難易度やかかる工数を見積もることです。
次に、その仕事は本来、どの段階の人が担うべきかを考えます。
その上で、誰に割り当てるかを決めていくのです。
たとえば、メインプレイヤーが担うべきレベルの仕事が発生したとき。
職場にメインプレイヤーの部下がいて、稼動に余裕があって能力も高い。
そのような状況では何の問題もなく担当させる部下を決められます。
しかし、現実にはそうはいきません。
能力の高いメインプレイヤーのAさんは他の仕事で手いっぱい。
残業続きでとても新しい仕事を任せられる状況ではありません。
別のメインプレイヤーのBさんは稼動に余裕はあるものの、能力的に任せるには不安。
でもBさんに任せざるを得ない。
……よくある状況ではないでしょうか。
ここからが「ものさし」の出番です。
「ものさし」を使って、仕事を割り当てる今回は、Bさんに仕事を割り当てることに決めたとします。
では、マネジャーはBさんにどのような言葉をかけて、仕事を任せればよいでしょうか。
「今ちょっと余裕があるだろう?この仕事頼んだよ」どうでしょうか。
毎回これでは、部下のBさんは、たまったものではありません。
段階の考え方を用いて部下育成を行おうとすると、マネジャーの思考は次のようなプロセスをたどることになります。
・Bさんには本来メインプレイヤーの役割を期待している・しかし、そのうちある役割(関係者を巻き込みながら成果を出すこと)についてはまだまだ十分ではなく、力不足である・Bさんにとっては挑戦的な仕事だが、今回の仕事を通じて、ぜひその点を強化してほしい・具体的に求める成果はメインプレイヤーとしてこのレベルのものであるこう考えたことを、きちんと部下に伝えることができたら……。
部下のやる気や取り組み姿勢も、大きく変わってくるかもしれません。
「Bさんにお願いしたい仕事がある。
この仕事を通じて、関係者の協力を取りつける能力を身につけてほしいと思っている。
まだ今は心配な点もあるかもしれないが、そのときは私にも相談しながら進めてほしい」こんな風にひと言添えるだけで、印象は大きく異なります。
何より部下にとっては、マネジャーが「仕事をやってくれ」ということだけでなく、「自分の成長まで考えて仕事を割り当ててくれている」ということが分かるだけでも、信頼感に大きな違いが出るものです。
職場で仕事の割り当てができるのは、マネジャーであるあなたしかいません。
部下は仕事の経験を通じて成長するもの。
ぜひ仕事の割り当て場面で活用してみてください。
良し悪しの伝え方が変わるマネジャーが「ものさし」を使うと、どんなときに部下をほめたり叱ったりすればよいのかを、見極めることができるようになります。
高い成果を上げたからほめる、失敗したから叱るという単純な話ではありません。
部下の段階に照らしてみると、その良し悪しを判断する基準も変わるのです。
たとえば、これまで取り組んだことのないテーマに果敢に取り組み、なかなか高い成果には結びつかないものの、後輩の指導にも熱心にあたっているメインプレイヤーのAさんと、慣れた仕事で一定の業績を上げるものの新しいテーマへの取り組みには後ろ向きで職場の動きにも無関心なリーディングプレイヤーのBさんでは、どちらを評価するでしょうか。
目先の結果だけにとらわれると、ついつい業績を上げているBさんばかりを評価してしまいがちですが、それではいけません。
Aさんはメインプレイヤーとして期待される役割に対して、素晴らしい動きをしています。
逆にBさんは、リーディングプレイヤーとして期待される役割を果たせていませんし、そもそも自分に期待されている役割がどのようなものかさえ、認識していないかもしれません。
実際に、段階の考え方を用いて部下育成を行おうとすると、マネジャーは2人の部下にどのような働きかけをしていけばよいでしょうか。
Aさんには「今の仕事への取り組みや意識の高さを今後も続けてほしい」と伝え、なかなか高い成果がついてこないからといって今の動きを止めてしまわないよう、背中を押すべきでしょう。
マネジャーとしてアドバイスやフォローも必要です。
一方、Bさんには、これまでの知見を活かして手堅く業績を上げていることは評価しつつも、新しいテーマへの取り組みや、自分の言動が職場に与える影響の大きさを自覚するよう求めることが必要になります。
それは、仕事の内容へのアドバイスというよりも、リーディングプレイヤーとしての意識や姿勢を変えることを求めることが、育成のポイントになるわけです。
「職場のリーダーとしては、どんな貢献が求められると思う?」「今のBさんは、職場の中でどんな存在として見られていると思う?」といった問いかけが有効になるでしょう。
あるいは、「今までは個人プレーで成果を上げていればよかったけど、これからは職場のリーダーとしてそういうわけにはいかないよ」という率直なフィードバックをしてもよいかもしれません。
日常ミーティングにも「段階」を活用する日常のミーティングの中でも段階の考え方を活用できます。
ある企業の営業課会の様子です。
部下が一人ひとり商談状況を発表しながら、顧客からつかんだ情報やノウハウを共有している場面です。
ベテランメンバー(リーディングプレイヤー)のCさんは自分がつかんだ情報について自信満々、話を独占して長々としゃべります。
その後、若手メンバー(プレイヤー)のDくんに話が回ってくると、「私はたいした情報はありませんので……」とすぐに話を終えてしまいました。
「そう言わずに、何かあるだろう」と水を向けると、「では簡単にお話します」と語り始めました。
若手の彼にしてはよい情報をつかんでいると思いましたが、Cさんたち周りのベテランメンバーは「そんなこと知ってるよ」と言わんばかりの態度で、耳を傾けようとしません。
このような場面で、あなたのマネジメント力が問われます。
あなたは若手のDくんの言動をどう評価し、どのような言葉をかけるでしょうか。
「その話は皆知ってるよな」これだけはNG、若手を意気消沈させる言葉です。
今後、水を向けられても何も話さなくなるでしょう。
ここに段階の考え方を用いて、部下育成も意図しながら考えてみましょう。
マネジャーの頭の中は次のような過程をたどることになります。
・若手である彼にはプレイヤーの役割を期待している・一つひとつ仕事を覚える段階としては、顧客と的を射た会話ができていて、よい情報をつかんでいる・そのことはちゃんと皆の前でほめて、評価したい・周りのベテランにも関心を持ってもらい、彼がさらにいい仕事ができるように、顧客とどんな話をすればいいかアドバイスしてほしいマネジャーとしてはこんな言葉をかけたいものです。
「Dくん、よくそこまで調べたね。
(ベテランメンバーの)Cさんから、さらに商談を進めるために、何かアドバイスはありませんか?」「ものさし」を使えば、若手のDくんを引き上げるための言葉だけでなく、ベテランのCさんにも、後輩育成の視点を持たせようとする言葉も導き出せるのです。
支援の仕方が変わるマネジャーが「ものさし」を使うと、タイミングの合った、的確な支援ができるようになります。
部下がぶつかる成長課題は、段階によって異なります。
マネジャーの支援も、部下の段階に合わせて変えていくのです。
たとえば、まだ入社したばかりで職場の人間関係に慣れていないスターターの部下であれば、緊張感を抱えて出勤しているのかもしれません。
そのようなときには、職場に安心感を持ってもらえるような声かけをしたり、職場の中であえて発言する機会を与えたりすることが、マネジャーの支援として有効です。
また、プレイヤーの部下は、周りから言われた仕事を淡々とこなすだけになってしまうときがあります。
マネジャーは仕事の全体像を伝え、部下が仕事の意味を考えて工夫をしていけるような動機づけを図っていくとよいでしょう。
メインプレイヤーの部下は、主担当として他部署と調整することが増えるにつれ、周りの意見に左右されてしまったり、仕事を抱え込んでしまったりすることも増えてきます。
仕事の段取りの立て方や他部署への協力の取りつけ方については、マネジャーが教えてあげられるかもしれません。
そして、リーディングプレイヤーの部下は、職場の主力として多くの仕事を担っている一方で、職場やチーム全体への関心が薄いまま過ごしてしまうことがあります。
マネジャーは、部下の育成や職場運営のテーマについて一緒に考える機会を設けることによって、リーディングプレイヤーの成長を支援できます。
これまで部下育成において、一般社員層の部下は皆同じように扱ってしまっていたマネジャーも多いと思います。
ひょっとしたら、どんな部下にもメインプレイヤーの役割を求めていたかもしれません。
まだプレイヤーになりたての部下がいたとしたら、本人にとってそれはあまりに高い役割を要望されていることになり、部下としては「とてもついていけない」と気持ちが折れてしまうかもしれません。
逆に、本来リーディングプレイヤーを狙える実力を持った人に対しても、メインプレイヤーの段階に達していればよしとして、成長の機会を与えずにきてしまったかもしれません。
あなたからの期待と部下の実力を鑑み、部下一人ひとりが4つの段階のどこにいるのかを明らかにすることが、部下本人の成長のタイミングに合った効果的な育成につながるのです。
コラムステージには、「飛び級」はない部下は4つのステージを一つずつ上っていくもので、飛び越えることはないと述べました。
これについてある企業の例を見てみましょう。
実際にあった話です。
この企業では毎年、入社間もない新入社員にすぐに現場に飛び込ませ、がむしゃらに実務をさせるのが恒例となっていました。
景気がよく会社が順調に成長していた時期は、これが成功体験を積む機会として有効に機能していましたが、景気の悪化とともに仕事がうまくいかず、むしろ失敗体験が続く中で、自信を失って辞めてしまう新入社員が続出しました。
辞めたいという新入社員に話を聞くと、どうやら周囲に相談せず、一人で悩みを抱え込んでしまっている人が多いようでした。
この反省から、翌年からは現場での実務の比重を少し軽くし、新入社員と職場の先輩社員の接点を作る機会を多く設けたところ、職場で先輩社員によく相談しながら仕事を進めるようになり、辞める社員も減りました。
興味深いのは、その数年後の両者の成長度合いです。
多くの新入社員が辞めてしまった代は、入社4、5年目になってもいま一つ力強く仕事を推進する力に欠けるように見え、逆にその下の代のほうが、いきいきと仕事をし、花開いたように見える、というのが人事部からの見え方でした。
なぜこのようなことが起こったのでしょうか。
入社してすぐということは、本来であればまだスターターの段階です。
新入社員として仕事のマナーなどを身につけ、職場で周囲との関係性を築く段階です。
これをしっかりクリアしてから、プレイヤーの段階に移ることが必要です。
この企業では、始めから実務を担当させるということで、を飛ばしての段階からスタートさせることが恒例となっていました。
それでも景気や会社業績の好調という条件の下ではうまくいっていたわけですが、その後状況が変化すると、の段階をクリアしていない人がの段階を求められてもうまくいかず、つぶれてしまったわけです。
この例からも見られるように、一つひとつ段階を上らせること、そして、それぞれの段階に合った育て方があるということが分かります。
コメント