はじめに いま、経済はたいへんな時代になっています。そんななかでいかにこれを乗り越え、むしろチャンスとしていくか、経営者の手腕が問われるときです。 では、どうするのか? わたしは、こんなときこそ、経営の原理原則に立ち返ることだと思っています。そこから必ず、活路が見いだせます。 では、経営の原理原則とは何か? 長年、経営コンサルタントとして、多くの会社に関わってきたわたしの結論は、まず、「お客さま第一」です。どんな時代も、お客さまは、お客さま第一の会社が好きですし、働く人もお客さまに喜んでいただくことで働きがいを見いだすことができます。会社の全員が、働きがいをもって、お客さま第一に、お客さまが喜ぶ商品やサービスを提供しようとするとき、そこに、「創造」が生まれます。 もうひとつの原理原則は、「キャッシュフロー経営」です。このような不安定な時代、決算書の見かけ上の売上や利益は、企業の明日を保証してはくれません。いうまでもなく、会社は、キャッシュがなくなったときにつぶれるのですから。資金繰りに奔走する会社に、なかなか創造性は生まれません。 お客さま第一を徹底し、キャッシュフローを稼ぎ、それを将来のために人材や設備に投資し、さらに、財務改善に使うこと──これらの鉄則は、バブルが崩壊しようが、金融危機であろうが、いかなる時代にも必要な原理原則です。むしろ、厳しい時代こそ、これらの原理原則を守ることが重要だと痛感しています。 経営には、これらの鉄則のほかに、ちょっとしたコツや正すべき勘違いもあります。たとえば、経営を「管理」と勘違いしていたり、組織を「和気あいあい」にすることがベストだと思ってしまうようなことです。これらの勘違いを改め、正しい考え方を持ち、あとは、努力を積み重ねていくことが、遠回りに見えて実はもっとも確実に迅速に、強い会社をつくります。優れた経営者を育てます。かっこいい戦略や新しいマーケティング手法も、そうした土台のない経営者のもとでは生かされないばかりか、ときには、会社を誤った方向に導きかねません。 本書は、二〇〇六年に出版された『なぜ、オンリーワンを目指してはいけないのか?』のバージョンアップ版です。本質は変わりませんが、この変革期ともいえるいまにふさわしく、新しい項目を加え、既存項目も大幅に加筆修正しました。前著に比してより深く、かつ、より読みやすくなっています。二〇〇六年といえば一応好景気とされた時期ではありますが、今回改訂にあたり見直してみたとき、経営で重要なことは、どんな時代も変わらないという思いをあらたにしました。こうした厳しい時代にこそ、経営の原則やコツをつかんでいただければと思います。 本書作成にあたり、いつものようにディスカヴァー・トゥエンティワンの干場弓子社長にはたいへんお世話になりました。彼女のおかげで、わたしの考え方が十二分に披露できる本ができたと感謝しています。著者 二〇〇九年春
社長力 1 ストラテジー力経営という仕事の認識を誤っているとうまくいくものもうまくいかない
1「管理」よりも「方向づけ」 いまほど、国には「政治」が、会社には「経営」が求められているときはありません。では、「経営」とは何なのでしょう? そもそも、会社には、「経営」という独立した仕事があるのをご存じですか? そんなこと、当たり前じゃないか、と思われる方も少なくないとは思いますが、あえて最初にこのことを書いたのは、わたしが「経営コンサルタントをしています」と言うと、「経営コンサルタントって何をしているのですか」と聞かれることが多いからです。一般の方ならまだしも経営者の方から。 なかには「脱税の手伝いでもしているのですか」とおっしゃる経営者もいます。経営という独立した仕事があることを知っていれば、こんな質問は出ないはずです。わたしは「経営」という仕事をアドバイスしているから経営コンサルタントなのです。 会社には、営業、経理、製造、人事とも違う、「経営」という独立した仕事があり、だからこそ、業種の異なるさまざまな会社の社長を歴任する人がいるわけです。 一時期、業績が非常に悪化した IBMを立て直したルイス・ガースナー氏は、 IBMの前は、 RJRナビスコ、その前はアメリカン・エキスプレスの経営者でした。そして、その前は、経営コンサルタント会社マッキンゼーのディレクターでした。彼は、それぞれの業界の業務のプロではありませんでしたが、経営のプロフェッショナルではあったのです。 では、いったい、「経営」という仕事とは、何なのでしょう? というのが、この項のテーマです(この本全体のテーマともいえます)。 あなたが「経営」の仕事を定義するとしたら何と言いますか? 実際、多くの経営者といっしょに仕事をしていてよく感じるのが、どうも、経営を「管理」と間違えているんじゃないか、ということです。口ではそうは言わなくても、実際にやっていることは、ほとんど「管理」の仕事だったりします。 もちろん、管理も経営の重要な一部分ではありますが、経営そのものではありません。 それでは経営の本質とは何か? わたしは、経営とは、次の三つだと思っています。これは企業全体だけでなく、部門の経営でも同じです。 1 企業の方向づけ 2 資源の最適配分 3 人を動かす 以前、経営コンサルタントの一倉定氏が「ダメな会社は、社長が部長の仕事をし、部長は課長の仕事をし、課長は係長の仕事をし、係長は平社員の仕事をしている。それで平社員はというと会社の将来を憂えている」とおっしゃっていました。 実際、経営者が経営──先ほどの三つです──を行わない会社はおかしくなります。 「管理」は部長以下の人でもやれます。地位が低くなればなるほど、管理的な部分が多くなりますが、経営の本質ではありません。経営者は、経営という仕事をしなければなりません。同族会社でない場合、部下としての仕事がうまくできる人が出世して経営者になる場合が多いのですが、経営者となったからには、部下の仕事に逃げ込んではいけません。 さて、経営の仕事とは、 1企業の方向づけ2資源の最適配分3人を動かす、の三つだと説明しましたが、このなかでさらにひとつを選べと言われたら、の「企業の方向づけ」をわたしは挙げます(もちろん、他の二つが重要でないということではありません)。特に、いまはそうです。社会の状況が大きく変動しているいまはそうです。昨日と同じことを昨日と同じようにやっていっても昨日と同じようにうまくいくとはいえないことは、だれしもお分かりでしょう。と同時に、誤った方向に舵を切り替えることの危険性もお分かりでしょう。 特に、「管理能力」に優れた「優秀な」方は肝に銘じてください。間違った方向づけで正しい管理をすることほど、恐ろしいことはありません。それだけ早く崖っぷちに到達します。「方向づけ」の正しい方法を知らなければなりません。 では、方向づけとは何か? それは、何をやるか何をやめるかを決めること。 要するに、「戦略」です。「戦略なくして成功なし」と言った人がいますが、そのとおりです。企業が成功するための必要条件です。 では、どうしたら方向づけを正しく行うことができるのか?基本は、「お客さま」の動向をきちんと見ること。それが第一です。短期的、長期的にお客さまが欲しているものを見極めることです。 そのためには、会社とそこで働く人全員が、「お客さま志向」である必要があります。役所が国民のニーズをとらえられないのは、「自分たち志向」だからです。自分たち第一の内部志向をやりながら、お客さまのニーズを現在や将来にわたって的確につかめるわけがありません。 では、お客さま志向の会社や従業員をつくっていくにはどうしたらいいか、ですが、これが口で言うほどたやすいことではない。小さなことも見逃さず徹底していく必要があります。 社内の会議などでの「お客さま」という言葉遣いにはじまり、電話の出方など、こまごまとした「小さな行動」を変えることが、大きな違いを生みます。とにかく小さな行動を徹底していくことです。これはいますぐはじめる必要がありますし、いますぐでもやろうとさえ思えば、できることです。
お客さまの動向を見極めるうえで、もうひとつ重要なのが、「発見力」です。いくら見ようと思っていても、観察力がなければ見えません。 「 7-ELEVEn」の最後の「 n」が小文字なのが、だれかに言われる前から見えていた人は問題ないのですが、そうでなければ発見力を鍛える必要があります(発見力に関しては『ビジネスマンのための「発見力」養成講座』(ディスカヴァー刊)に詳しく説明しましたのでそちらを勉強してください)。 さらに、そのお客さまの背後にある世の中全体の動きをとらえることも重要です(もちろん、土台としての経営者の価値観、経営哲学、人生哲学が重要なことも間違いありません。これについても最後の章で述べます)。 この世界的な景気後退のなかで、消費は急激に減少していますが、こういうときこそと、伸びはじめている会社もちゃんとあります。多くの会社にそれができないのは、お客さまのニーズと世の中全体の動きを的確にとらえる、という、この当たり前のことが実はなかなかむずかしいからです。 けれども、だれでも訓練や正しい習慣でその能力を高めることができます。次から、もう少し詳しく見ていきましょう。
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