◆「子どもに楽をさせたい」と無駄な親心は捨てる現社長が後継者に、いつ会社を引き継げばいいのか。私が真っ先に言いたいのは、「会社は不調なときに引き継げ」です。会社を引き継ぐ場合、それが特に親と子の間柄ならば、どうしても親は「会社が好調なときに引き継いでやりたい」と思うものです。しかし、これが大間違い。そんな状況で引き継がされた息子、娘は大迷惑です。まず、会社が好調なときに引き継いだにもかかわらず、その後会社の経営状況が悪化した場合は悲惨です。そうなると、周囲は「後継者になって会社が悪くなった」「先代がいた頃は好調だったのに……」と思います。それで後継者も躍起になって何か新しいことにチャレンジすると、周りはみんな「今までのやり方でうまくいってたんだから、変える必要はない」と冷ややかに思い、後継社長一人が空回りする。まさに、後継者の不幸です。一方、会社が最悪の状況のときに引き継げば、もうそれ以上は悪くならないので、「先代だ、後継者だ」とごちゃごちゃ言っている暇などなく、みんなで必死にやるしかありません。これでいいのです。会社の状況が悪ければ、後継社長が「こういう問題があるから改善しよう」「これはやめよう」と言いだしても、社員も聞く耳を持ってくれます。これまで通りでは自分たちの給料も危ないので、社員だって「なんとかしなきゃいけない」と思っています。それで会社が持ち直せば、後継者は社内からも、取引先からも認めてもらえる。この筋書きは、一見たいへんそうに見えて、後継者としてはありがたいです。その点がわかっていない社長(親)は大勢います。結果として、親心が裏目に出てしまうのです。
◆会社には「業績が悪いときにしかできないこと」があるそもそも会社には「悪いときにしかできないこと」があります。経営を圧迫している退職金制度を廃止するのも業績が悪いときにしかできません。事業承継も同様で、「業績が悪いときにしかできないこと」「悪いときにやった方がいいこと」に含まれます。その代表例が株式の譲渡。業績が悪く、赤字が続いている会社の株価はほとんどつきません。この安価なときが、株式譲渡のチャンス。赤字になれば自社株の評価額が下がって、事業承継しやすくなります。事業が好調なときの株の譲渡は、評価額が高いため莫大な資金と税金がかかります。武蔵野は第四二期から三年間を要して、人工的に赤字にして、持ち株会社を作り、私が持っていた株の二分の一を娘に譲渡した。株の評価額は一円。半分の一〇万株を一〇万円で譲渡し、筆頭株主になった。その後、法律が変わり、私は黄金株の存在を知ります。その際、残りの株式を持ち株会社に譲渡したが、業績が良かったから五億円を要した。私は株主総会の議決を拒否できる黄金株を一株だけ持っている。これがあるから娘は父をクビにできない。親子喧嘩をしても大丈夫です(笑)。好調のときに株の譲渡をしようとしたら、三億、五億というお金がかかり、事業承継で苦労する。株の譲渡は会社が悪いときにやる。これは大原則です。もっといえば、すぐに後継者に引き継ぐつもりがなくても(会社が赤字なら)、今すぐにでも株の譲渡をしておけばいいです。経営サポートの会員企業の中にも、私から指導を受けて、会社が赤字のとき(株価が実質一円の際に)さっさと息子への譲渡を済ませている社長がいます。それでいて、息子は何も勉強していないから、「いつまで経っても、親父が自分に会社を譲ってくれない」とお門違いな文句を言っているから、笑えます。実際は、すでに息子がオーナーになっていて、父親をいつでもクビにできるが、そんなこともわかっていない息子もいる。いずれにしても、賢い社長ほど「会社の状態が悪いときに引き継ぐ」「悪いときにしかできないことがある」ことをきちんと理解しています。武蔵野の業績は右肩上がりですが、人工的に会社の状態を悪くして、ボーナスを少なくすることがあります。会社も組織も、いいときばかりではダメです。「勝って兜の緒を締めよ」という言葉があるが、勝ったときに兜の緒を締めることなんて、できるわけがありません。勝ったときは兜の緒は緩みっぱなしになる。それが人間の
心理です。だから、人工的にでも「負けた状態」を作って兜の緒を締める。本当に賢い社長は、人工的に悪い状態を作り、そこでうまく息子や娘に引き継いでいくものです。「いい状態で引き継いでやろう」なんていう親心が、じつは一番迷惑です。

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