税引前の純利益を一億円儲けたとしよう。地方税も含めて法人課税の五〇%、五〇〇〇万
円を納めなければならないから残りは五〇〇〇万円。そこから利益配当を四〇〇万円、役員
賞与に一六〇〇万円を充てると、残りは三〇〇〇万円ということになる。ところが、この
三〇〇〇万円ですら、実際には現金で残っていないのが普通である。つまり、純利益が一億
円出たからといって一億円の現金があるわけではないのである。
たしかに計算上では三〇〇〇万円あることになっているが、実際には増加した売掛金や在
庫などの資産に変わっているのだ。
現金商売で在庫も売掛金もない、配当も役員賞与もない、そんな会社ならば五〇〇〇万円
は定期預金になっていてもいいはずだが、そんな会社にはめったにお目にかからない。つま
り、会社へ内部留保していない。また景気のいいときには、「税金に五〇%ももっていかれ
るのはもったいない」という気持ちも手伝って、トップから一般社員まで皆で会社から利益
をむしり取ってしまう場合がほとんどだ。
「忘年会、新年会、慰安会をパッパッと派手にやろう」
「セミナーに参加してこい」
「お客様を招いてのゴルフコンペ、温泉招待をやろう」
「海外旅行に行こう」
「もっと宣伝広告費を使え」
といった具合に、この際とばかりお金を使うことに一生懸命になる。こういうときにセミ
ナーヘ行っても、
「先生、勉強はもう、よろしいがなあ、儲かったことでもあるし、まあ遊びましょうや」
というように、真面目に行動することが、まるで変わり者のようにさえ思われることがし
ばしばある。皆が真剣に臨む不況のときのセミナーとは正反対だ。
いずれにせよ、経営者をはじめ一般社員に至るまで、好景気によって、人間は悲しいかな、
不遜になってしまう。景気がよくて利益が出たときには、社内の会合でも、こういう会話を
よく聞く。
「われわれも長年、本当に苦労した努力がやっと報われたなあ」
「ご苦労さんでした。皆がよくやってくれたおかげだ」
こういうやりとりは「和の経営」だから、当然かもしれない。だが、高利益が実現したのは、
経営陣の努力ではなく、たまたま好景気という環境に恵まれたためである。反対に損失、欠
損となったのは経営者の景気などの読み違い、対策が不備だったからであり、経営者の資質
のなさが招いたものである。だが、ほとんどの企業はその理由を不景気だったからだとして
しまう。
好景気で高利益を上げたときは、経営者は社員に「ご苦労、ご苦労」と言うが、それでは不
景気のときには社員は努力していないのだろうか。そんなことはない。むしろ逆だ。不景気
のときのほうがより努力をしている。不景気時に最高の利益を上げたときこそ皆で喜ぶべき
だ。景気のよいときに儲かったからといって社員に大盤振る舞いをするのは、社員を不遜に
するだけである。
実社会に出てわずか一〇年余りの社員に驚くほど高額な賞与を支払って、社員が安心から
慢心、さらに橋心になってしまった悲劇を、大阪。北浜のこの地で、私は何度も実際に見ている。
とはいえ、高利益を出しても賞与や決算賞与を多く出すな、と言っているわけではない。
私は、そういうときには「割増し賞与を三〜五年の長期の定期預金で渡しなさい」とアドバイ
スしているc
三〜五年後には不景気がきっと来る。そのとき、賞与を支払えない事態になるかもしれな
い。そのときのための定期預金だと。ただ、社員のなかには家を建てるとか、子供の入学や
進学とかで、どうしてもお金が必要な人もいる。そういう社員が定期預金を下ろすのは自由
に任せればよい。「遅かれ早かれ、必ず不況は来る。そのときの用意はしておきなさい」と言っ
て渡すようにするのであるc
実は、このことは社員も知っておく必要があるが、最もそれを忘れてはならないのが、経
営者である。古い昔の蔵は飢饉に備えて存在したように、好況の際に不況の到来を考え、不
況のために蓄える蔵がいるのだ。
現代企業の蔵づくりとは、好況期における徹底した贅肉とりの実践である。すなわち、不
良債権や不良在庫の整理、機械。設備の償却、土地の圧縮、高金利の借入金の返済など、そ
して蓄積策としては十分なる引当金の積み増し。外資系の生命保険会社の商品のなかには蔵
の役割をする保険が存在しているように、各種企業保険の研究を怠ってはならない。
8
コメント