ドラッカーによる解説
- ・われわれの顧客は誰か?
- ・われわれの活動対象としての顧客は誰か?
- ・われわれのパートナーとしての顧客は誰か?
- ・われわれの顧客はどのように変わっていくだろうか?
❖——顧客とは何か
ついこの間まで、非営利組織の世界では、顧客という言葉はほとんど耳にしなかった。
「われわれには顧客はいない。顧客とはマーケティングの用語である。われわれがもっているのは顧客ではない。助けるべき相手、受給者、会員、患者、学生である」
ここで顧客という言葉の定義を行うつもりはない。たんにこうお聞きしたい。
「あなたの組織は、誰を満足させたとき成果をあげたと言えるか?」この質問に答えるならば、その答えが、そのまま顧客は誰かを教える。
すなわち、「組織の活動と、その提供するものに価値を見出す人たち」という意味での顧客を定義したことになる。
組織には二種類の顧客がいる。
一方は、活動対象としての顧客(プライマリー・カスタマー、主たる顧客)、すなわち組織の活動によって生活と人生を変えられる人たちである。
組織が成果をあげるには、活動対象としての顧客を絞らなければならない。「われわれの顧客は誰か?」という質問に答えなければならない。焦点を絞らなければ、エネルギーは放散し、成果はあがらない。
もう一方は、パートナーとしての顧客(サポーティング・カスタマー、支援者たる顧客)である。ボランティア、有給スタッフ、寄付者、委託先など、やはり組織の活動によって満足させるべき人たちである。
彼らパートナーとしての顧客は、組織が提供するものにノーと言える人たち、つまり組織の活動とのかかわりを拒むことのできる人たちである。
彼らこそ、組織が意義ある奉仕の機会を与え、その寄付を成果に結びつけ、その活動をコミュニティのニーズに応えさせることによって、満足させるべき人たちである。
活動対象としての顧客だけが顧客ではない。パートナーとしての顧客が満足しなければ成果をあげることはできない。そこで、パートナーとしての顧客を活動対象としての顧客と並置したくなる。
しかし、組織が成果をあげるには、その焦点はあくまでも活動対象としての顧客に絞らなければならない。
❖——活動対象としての顧客に焦点を絞る
活動対象としての顧客の選択と集中について、好例がある。その組織がミッションとしているものは、就業困難者の自立だった。活動は四つの分野にわたり、プロジェクトは二五件あった。
創立以来三五年間、活動対象としての顧客は就業困難者としてきた。
当初は身体障害者だけを対象としていたが、今日では、在宅のメンタルケア対象者、更生中の薬物依存者、シングルマザー、失業者も対象としている。
いずれもが活動対象としての顧客である。そしていずれも活動の成果は、生産的な仕事への就業率によって評価している。活動対象としての顧客は、直接面会し相談にのってやれるものばかりとはかぎらない。
乳幼児であることもあれば、絶滅の危機に瀕している「種」であることもある。だが組織としては、直接のコンタクトの有無にかかわらず、活動対象としての顧客を識別し、活動の優先順位を定めることが必要である。
❖——パートナーとしての顧客を認識する
全米ガールスカウト連盟は、女の子たちのための世界最大の組織である。活動対象としての顧客は女の子たちである。
これに対しパートナーとしての顧客は多様であって、かつ時代とともに変化している。ガールスカウトでは、女の子ならば誰でも団員になれることが原則である。
一九一二年に創立者が規定した「女の子たち皆のもの」との原則を守っている。
一九六七年から九〇年まで全米ガールスカウト連盟のCEOをつとめたフランシス・ヘッセルバインは、私にこう言ったことがある。
「人口統計を見れば、やがてアメリカ人の三分の一はマイノリティになっているはずです。このことを心配する人もいます。でも私たちは、これを、成長期にある女の子たち全員に手を差し伸べる絶好の機会と捉えています」
活動対象としての顧客が変化するということは、パートナーとしての顧客も変化するということである。
「低所得者向けの再開発地でも、女の子とその親たちはガールスカウトを必要としています」
「多様な人種と所得層に働きかけをするには、それぞれのニーズ、文化、状況を理解しなければなりません。そのためには、いろいろなパートナーが必要です。聖職者、再開発地の責任者、女の子たちの親御さんなど、地元のいろいろな人の協力が必要です」
「私たちは、ガールスカウトのリーダーをコミュニティで育てています。コミュニティを大事にし、コミュニティに敬意をもっていることを伝えています。親御さんたちには、ガールスカウトが良い経験になることをわかってもらいます」
❖——顧客のニーズはいつも同じではない
顧客は変わっていく。活動対象としての顧客は、増えることもあれば減ることもある。多様化することもある。彼らのニーズ、欲求、希望も変わっていく。
成果をあげるには、新たに顧客を開拓しなければならないこともある。組織の活動を必要としながら、まだ手にしていない人たちがいるかもしれない。
逆に、自分たちの活動のおかげですでにニーズが満たされ、あるいは他の方法で満たされ、さらにあるいは、自分たちの力では一向に成果があがらないために、活動をやめるべきこともある。
「われわれの顧客は誰か?」という問いに答えることによって、顧客にとっての価値を知り、組織にとっての成果を知り、行動のための計画を立てることができるようになる。
しかし、いかに検討した後でも、顧客には驚かされる。もちろん柔軟に適応していかなければならない。
よい例がある。
知人の牧師が、「うちの副牧師が、新婚のカップル用に素晴らしいプログラムをつくったのですが」と言っていた。事実、そのプログラムは人気を集めた。
ところが驚いたことに、参加者のなかに新婚のカップルは一組も入っていなかった。参加したのは、同棲中の未婚のカップルばかりだった。
知人の牧師は、未婚者の参加を禁じようとする副牧師をなだめるのに苦労することになった。顧客のほうが一歩先に行っているということは、よくあることである。
われわれは、われわれの顧客は誰かを考えなければならない。しかも、繰り返し考える必要がある。顧客は変化してやまない。
成果をあげるには、原則に忠実でありつつも、顧客の変化に応じて自ら変化していくことができなければならない。
質問2に寄せて 顧客の満足にどれだけ貢献するか
フィリップ・コトラー(PhilipKotler)ノースウェスタン大学大学院ケロッグ・スクールのS・C・ジョンソン&サン記念国際マーケティング講座教授。
マーケティングの先覚者、世界的権威。マーケティングにおけるターゲットへの集中の重要性を説いた。
著書に『マーケティング・マネジメント』、『社会的責任のマーケティング』(ナンシー・リーとの共著)など多数ある。
www.kotlermarketing.com❖——顧客がボスであるピーター・ドラッカーは五〇年前にこう言った。
「企業の目的は顧客の創造である。利益の源泉たるプロフィットセンターは、顧客のなかだけにある」。
GEの前CEOジャック・ウェルチも、かつて従業員にこう言った。
「雇用を保証してくれるのは顧客だけである」
顧客が情報をもち、互いに意見を交わしているネットの時代にあっては、なおのことである。あらゆる企業が、ボスは顧客であるという事実を認めざるをえない。昔フォード社の役員の一人がこう言ったという。
「顧客のために運営しなければ、われわれの車も運転されない」。
フォード社は、この役員の言には従わなかったようである。しかし今日では、ドラッカーは、こう言うに違いない。
「最高の企業は、顧客を創造するだけでなく、ファンを創造する」。
どれだけ利益をあげたかよりも、どれだけ大事な顧客をつかんだかのほうが大事である。そのためには、顧客とすべきは誰かを知らなければならない。
かつては、顧客がわれわれのことを知り、われわれの製品を選んでくれた。これからは、われわれが顧客を選ばなければならない。
ある種の顧客に対しては、取引を断わることもしなければならない。誰をも喜ばせることが大事なのではない。
大事なことは、対象とする顧客を深く喜ばせることである。したがって、まず行うべきは対象とする顧客の定義である。そこからすべてが変わる。提供すべき財サービスの仕様、デザイン、流通チャネル、広告、価格が変わる。
❖——顧客を定義する
顧客を定義するには購買のプロセスを大きく捉える必要がある。購買とは、いくつかの役が演じられた末のものである。
家族用の新車購入が一つの例である。火付け役は家族の友人かもしれない。あるモデルの素晴らしさについて話をした。
だが、実際に購入する車種に大きな影響を与えるのは一〇代の息子である。
決定をするのは妻である。夫は買うだけである。
マーケティングを行うには、これらの役割を把握し、限られた資源を、決定を行う者、決定に最も大きな影響を与える者に投ずる必要がある。
それぞれの役の嗜好と価値観を把握しておかなければならない。
すでに、カスタマー・リレーション(顧客関係)なる活動によって顧客に関する全データを収集しようとしている企業がある。
製薬会社は医師についてのデータを集めている。だが、データだけでは不十分なことはすでに明らかである。顧客の経験を捉えるまでにはいたっていない。
いかにデータを集めても、満足の経験に勝るものはない。
中国の古い諺も、「喜ばせられなければ店を開くな」と言う。つまるところ、対象とすべき顧客が誰かを知らなければならない。何が彼らに影響を与えるか、何が彼らを喜ばせるかを知る必要がある。
今日の顧客は、価値を買う。あなたの成功は、顧客にどれだけ貢献するかによって決まる。
質問2を考えるための問い
- ■われわれの顧客は誰と誰か?
- ■顧客リストを作成したか?活動対象としての顧客のリストに加え、パートナーとしての顧客のリストを作成する。
- ■われわれはそれぞれの顧客にいかなる価値を提供しているか?
- ■われわれの強みと資源は、それらの顧客のニーズにマッチしているか?もしマッチしているとすれば、それはなぜか?マッチしていないとすれば、それはなぜか?われわれの顧客は変わったか?
- ■われわれの活動対象としての顧客は、どのように変わったか?(性別、年齢層、家族、災害など)
- ■それらの変化は、われわれの組織にとって、どのような意味をもつか?顧客を増やすか減らすか?
- ■現在の顧客の他にどのような顧客がありうるか?それはなぜか?
- ■われわれには彼らの役に立つどのような能力があるか?
- ■顧客のうち、もはや相手にしないでよい顧客は誰か?それはなぜか?彼らのニーズが変化したからか、われわれの資源にかぎりがあるからか、他の組織のほうが優れた仕事をしているからか?顧客のニーズと、われわれのミッションあるいは能力がマッチしないからか?
ミレニアル・コラムドラッカーはすでにミレニアルだった
ラグー・クリシュナムーシー(RaghuKrishnamoorthy,)ゼネラル・エレクトリック(GE)の幹部育成担当副社長兼チーフ・ラーニング・オフィサー。
グローバル人材開発部門を統括する。
www.ge.com二〇一四年七月、『ブルームバーグ・ビジネスウィーク』にジョシュ・エイデルソンの署名記事「毀誉褒貶のベンチャー、ウーバー社」が掲載された。
ウーバー(Uber)とは、世界各地でタクシー業界と対立を深めているスマホ利用の配車サービス会社である。この記事によれば、同社の企業価値は一七〇億ドルに達しているという。
もしドラッカーが言っていたように企業の目的が顧客の創造にあるならば、ウーバーはその忠実な実践者である。
顧客中心の考えをビジネスモデルにしているのは、同社だけではない。
民泊会社エアビーアンドビー(Airbnb)、貸衣装会社レント・ザ・ランウェイ(RenttheRunway)、LED照明器具のクリー(Cree)、アマゾン、グーグルもそうである。
これらの企業が、企業のコンセプトを変えつつある。ドラッカーが存命であれば、強い既視感にとらわれたに違いにない。
初めてドラッカーが事業戦略の中心に顧客をおくべきことを説いたとき、すでに彼は時代の最先端にあった。
株主価値の増大が企業の目的とされていた頃、顧客を中心におくべきことを主張したのは、まさに予言的と言うべきだった。
今日、そのような考えは当然のことである。
組織たるものはすべて、その大小、新旧、グローバル性にかかわらず、顧客への奉仕を中心におかなければならない。
株主価値その他すべてのものが、顧客創造という根本目的に照らせば、派生物にすぎない。したがって、ドラッカーが今日ほど意味を持ったことはない。
彼は、われわれがミレニアル世代を知る前から、すでにミレニアルだった。ドラッカーは顧客に焦点を合わせただけではなかった。顧客とは静的な存在ではないとした。
ニーズ、欲求、意思において、絶えず多様化していくものとしてとらえた。しかも、組織の成否は顧客への貢献にかかっているとした。
顧客の世界の脈動にいかに寄り添えるかが、企業存続の鍵である。それができなければ、無用の存在となる。
GEの場合GEは創立一三〇年を超える老舗企業である。
ダウ・ジョーンズ指数発足以来、唯一、現在にいたる銘柄企業であるが、それというのも長い歴史のなかで、自らを変身させてきたからこそである。
創立者トーマス・エジソンは、数限りない発明品を残しただけではない。いわば「発明」という概念を発明したのが、彼だった。
いかなる組織といえども、製品のみに頼って存続し続けることはできない。
財・サービスをめぐる組織プロセスを継続的に発明し、イノベーションを行っていくことで生存は可能となる。
とくに二一世紀のイノベーションは、製品やテクノロジーにのみ帰すべきものではない。顧客に価値を提供するために、自らをいかに組織化、体系化しうるかにある。
GEでは、各時代の顧客のニーズに合わせて自らの意義を考え直し、刷新することがDNAとして根づいている。
CEOジェフ・イメルトが推進している「シンプリフィケーション」(シンプル化)なる経営方針も、大企業でありながら、顧客中心の小企業の姿勢とスピードを体現するためのものである。
電球からジェットエンジンにいたる多様な財・サービスを一七〇か国で提供するGEにとっては、顧客のニーズを理解し対応することが最も肝要である。
GEのシンプリフィケーションとは、四つの柱から成る。第一が、リーンマネジメントである。これは小企業のマネジメントを大組織GEで実現することである。
とくに必要なことは、実験、学びの精神、敏捷さである。
第二が、顧客中心主義である。顧客に集中することである。
第三が、サービス志向である。今日の複雑化する世界においては、人は財・サービスを目的のために手段として見る。
たとえば、ジェットエンジンに求められるのは、単なる駆動力ではない。燃費も求められる。電球には明るさだけでなく、耐久性が求められる。病院には治療だけでなく、予防も求められる。
財・サービスそのものだけではなく、顧客が必要としているものに価値がある。
したがって、差別化要因となるものは、財・サービスを取り巻く多様なサービス・イノベーションである。
iPodの差別化要因はiTunesであり、スマートフォンの差別化要因はアプリである。第四が、テクノロジーである。今後最大の変化要因である。
クラウド・コンピューティング、IoT(モノのインターネット)、3Dプリンタが、財・サービスの世界を一変させつつある。
GEはすでにこの分野で巨額の投資を行っている。企業において、最大の決定要因は顧客である。ドラッカーが喝破したように、顧客が究極の価値基準である。
いかにして顧客が望む財・サービスを顧客が望んだときに臨んだ形で届けるか、いかにして顧客が喜ぶ解決策を予期し、分析し、提供するか、そのためにいかにしてGEの組織を組み立てるかが最大の問題である。
ミレニアル・コラムパートナーとしての顧客から始める
ルーク・オーウィングズ(LukeOwings)二〇一一年、ハーバード・ビジネスクール在学中に、職場でのスキルギャップ解消を事業目的とするフルブリッジ・プログラムにコーチングスタッフとして参加。
ドラッカーが「われわれの顧客は誰か?」と問題提起したとき、焦点は組織の「活動対象としての顧客」(プライマリー・カスタマー、主たる顧客)に合わせられていた。
そうした顧客の存在が、かつてのあなたにとって、今の仕事への就業動機となったということは、おおいにありうることである。
しかし、非常に多くの仕事において、最初の主たる接触先は、組織の「活動対象としての顧客」ではなく、仕事の「パートナーとしての顧客」(サポーティング・カスタマー、支援者たる顧客)だったはずである。
したがって、「パートナーとしての顧客」に思いを致すことによって、組織との関係やミッションとのかかわりをさらに深めることができるに違いない。
職場でのスキルギャップ解消を目的とするフルブリッジ社の訓練プログラムにおいて、私はコーチング役を務めてきた。
対象は、スキルはあるが職場経験は不十分という職場の新顔たちだった。
私のコーチング職務は標準化によって一定の成果を実現したものの、柔軟性に欠け、成果は限定的という問題があった。
幸い、研修参加者の多くが、キャリア初期にありながら、意欲ある人たちだった。
そこでなすべき仕事を明らかにし、不要な仕事をなくすことによって、彼ら自身が研修内容を発展させていけるようにしたところ、成果は大幅に向上した。
結果として、わが社の「活動対象としての顧客」(プライマリー・カスタマー)の満足度も大幅に増大することとなった。
今日、ウェブベースのツールが多様化するなか、短期雇用の市場が爆発的に伸びている。
この成長市場を手にするものは、イノベーションの源泉さえ手にできるはずである。
したがって、「パートナーとしての顧客」のニーズと動機を知ることによって、あなたのミッション、ひいては「活動対象としての顧客」のニーズに応えることができるはずである。
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