ドラッカーによる解説
- ・われわれのミッションは何か?
- ・われわれが現在ミッションとしているものは何か?
- ・われわれが直面している問題は何か?
- ・われわれにとっての機会は何か?
- ・われわれが現在ミッションとしているものは見直す必要はないか?
❖——組織の存在理由
組織はすべて、人と社会をより良いものにするために存在する。すなわち、組織にはミッションがある。目的があり、存在理由がある。
アメリカでは非営利組織の数は一〇〇万を越える。それぞれがそれぞれのミッションをもっている。
いずれも人の生活と人生を変えることを動機とし、成果としている。ミッションとは人にかかわるものである。それは心底からのものである。人が正しいと信ずるものである。
したがってリーダーたる者は、組織のメンバー全員がミッションを理解し、信条とすることを確実にしなければならない。
何年か前、私たちはある大病院で救急室のミッションを検討した。最初の答えは「健康」だった。だが、間違った定義だった。病院は健康を扱ってはいない。扱っているのは病気である。
検討の結果得られたミッションが、「患者の安心」だった。そこで現状を調べた。驚いたことに、一〇人のうち八人は、「朝には直っているでしょう」「お子さんは風邪です。引きつけを起こしましたが、心配することはありません」と言ってやるだけでよかった。
救急室のミッションとしては、あまりに簡単だった。
しかし、そのためには、運び込まれた患者を一分以内に診てやらなければならなかった。大事なのは直ちに診ることだった。本人と親を安心させるには、絶対に必要なことだった。
❖——簡潔な言葉でミッションを規定する
ミッションを規定するものとしてのいわゆるミッション・ステートメントは、Tシャツにプリントできる簡潔なものにしなければならない。
それは、何を、なぜ行うかを表すべきものである。いかに行うかを表すものではない。ミッションは大きくとらえなければならない。無限大でさえなければならない。
しかも、直ちに行動に結びつけられなければならない。「私は貢献している」と皆が言えなければならない。したがって、明確でなければならない。人を行動に駆り立てなければならない。
全員が、「そうだ。それが私が憶えられたいことだ」と言えなければならない。ミッションを成果に結びつけるには、機会と能力と意欲が必要である。
ミッション・ステートメントとは、これら三つの要素からなるものである。
まず、組織の外を見る。
組織の内からスタートして、手持ちの資源を投入すべき場所を探すようでは、支離滅裂となるだけである。あらゆるものが変わる。ニーズも変わる。
だからこそ、すでに起こったものを探さなければならない。機会となり、問題となるものを見つける。
上げ潮によって上がるだけであるならば、下げ潮によって下がるだけであることを認識する必要がある。
未来を予期し、創造していかなければならない。
もちろん、全能ならざる身の人間としては、完璧を期すことはできない。だからこそ、機会を求め続けなければならない。
最新の知識、環境の変化、競争の状態、資金的な状況、埋めるべきギャップを知る必要がある。
病院は靴をつくらない。授業をしない。病人の面倒を見る。しかし、力の入れ方は変わっていく。今重要なことも、間もなく重要でなくなる。
問題でなくなることさえある。できることに限界があるなかで、どこに力を入れ、成果をあげるかが重要である。何を成果とし、何を活力の源とするか。
❖——金のために妥協してはならない
ここで重要な警告がある。金のために妥協してはならない。品位にもとる機会は拒否しなければならない。さもなければ、やがて魂を売ることになる。
受け入れ難い条件が付いた美術品寄贈の申し出を受けたことがある。
「ありがたくいただこう。問題は時間をかけて処理すればよい」という意見があった。
これに対し、「だめだ。原則にかかわる問題だ」という考えがあった。
会議は長引いた。最終的には、申し訳ないが原則を曲げるわけにはいかないということになった。立派な彫刻を何点か入手しそこなった。しかし、美術館としての原則のほうが大事だった。
❖——考え抜くこと
つねに、「われわれのミッションは何か?」を正面に据えなければならない。そのうえで、われわれの顧客は誰かを見極め、顧客にとっての価値、われわれにとっての成果を明らかにしていく。
こうして、計画の段階にいたったとき、再びわれわれのミッションは何かを考える。
「5つの質問」を検討するにあたっては、まず初めに、一七世紀のかの偉大な哲人、ジョン・ダンの名文を想起していただきたい。
「永遠にいたるには、明日への一歩から始めてはならない。積み重ねでは永遠にいたらない」。大きな一歩を考え、そのうえで「今日、何をするか」を問わなければならない。
しかも、重要なのは、言葉の美しさではない。成果である。
質問1に寄せて継続と変化を可能にする力ジム・コリンズ(JimCollins)現代社会についての最先端の思想家、企業研究家。
優良企業から突出した超優良企業への変身の軌跡など、今日の代表的企業の成長と繁栄の要因に詳しい。
世界的ベストセラー『ビジョナリーカンパニー』の著者。非営利組織についての論考集『ビジョナリーNPO』がある。www.jimcollins.com
❖——偉大な組織の本質
「われわれのミッションは何か?」という簡単な問いが、継続と変革を可能にする。偉大な組織は、すべて本質を維持しつつ進化していく。変わらぬミッションに従いつつも、改善とイノベーションを求めてやまない。
ミッションを不変とするがゆえに、変化に呼応して、行動、規範、戦略、戦術、プロセス、構造、方法を不断に変えることができる。
それらの組織は、変えてはならないものが何かを心得ている。だからこそ、世界の変貌に即時対応していく。
錨を下ろした組織だけが、何ごとも容易に変えられる。
聖なるものと聖ならざるもの、変化させるべきものと変化させざるべきもの、目的とするものと方法とするものとの違いを知る。
一流の大学は、真理探究の自由を聖域としつつも、教授の身分保障は見直していくべきことを知っている。
真正の教会は、信仰箇条は不変としつつも、時代の変化に応じて礼拝の場所や時間の変化を当然とする。
ドラッカーの言うミッションこそが、拡大、分権、グローバル化、多様化に、一体性を付与する。ミッションは、放浪の民にとっての信仰の役割を果たす。
アメリカの独立宣言における自由の精神の役割を果たし、科学にとっての真理探究の理念の役割を果たす。
ミッションは、何を行うべきかとともに、何を行うべきでないかを教える。組織は、世のため人のために良いことを行うことに誇りをもつ。
しかし、世のため人のための貢献を最大にするには、自らがミッションとするものに徹底して的を絞らなければならない。多角化への誘惑に克たなければならない。ミッションでないものは行わないとの規律を守らなければならない。
❖——ミッションは働くことの意味を示す
フランシス・ヘッセルバインは、ガールスカウトを率いていた頃、いたってシンプルなモットーに従っていた。
「私たちは女の子たちを目一杯に花開かせるために働く」彼女はあらゆる活動をこのモットーに従い展開していった。
ガールスカウトの活動を、団員である女の子たちの成長に最大の貢献をなすものに絞った。ある慈善団体が、女の子たちの笑顔を目当てに、戸別訪問での協力を提案してきた。そのときヘッセルバインは、趣旨には賛同したものの、協力することは丁重に断わった。
女の子たちにとっては一生に一度の貴重な募金活動への参加の機会ではあっても、それだけでは、ガールスカウトの活動とするには十分でなかった。
いかに素晴らしい機会であろうとも、ミッションに合わないならば、「ありがとうございます。ですが……」と答えなければならない。
ミッションをもつことは、激動の世の中ではますます重要となる。世界がどう変わろうとも、人は、誇りあるものの一員たることを必要とする。人生と仕事に意味を必要とする。絆と信条の共有を必要とする。予測不能な暗夜にあっては、導きとなる原理、丘の上の灯を必要とする。
人類の歴史上、今日ほど、自由と責任という自治の精神のもとに、意義あるもののために働くことが必要とされているときはない。
質問1を考えるための問い
- ■われわれは何を実現しようとしているか?
- ■われわれは今日のところ、組織のミッションは何であると理解しているか?
- ■われわれの組織の存在理由は何か?
- ■今行っていることはなぜ行っているのか?
- ■要するに、われわれは何をもって憶えられたいのか?特筆すべき新しい問題と機会は何か?
- ■われわれはどのような新しい問題に直面しているか?(人口、規制、技術、競争など)
- ■われわれには、どのような新しい機会があるか?(提携、技術、社会的トレンド、文化的トレンドなど)
- ■われわれの組織にとって、どのようなマネジメント上の問題が現れているか?(社員の多様化、地域とのかかわり、市場シェア、医療費負担の増大、流通チャネルの変化など)ミッションは再検討すべきか?
- ■ミッション・ステートメントは修正すべきか?修正の必要がなければ、それはなぜか?必要ならば、それはなぜか?
- ■ミッション・ステートメントはどのように修正すべきか?
- ■新たにミッションとすべきものは何か?それはなぜか?
- ■ミッションを修正することによって、何か問題は生じないか?どこに生じるか?それはなぜか?したがって、何をどうしなければならないか?
ミレニアル・コラム
あなたご自身のミッションは?
マーシャル・ゴールドスミス(MarshallGoldsmith)アメリカで最も影響力のあるビジネス思想家、リーダーシップ論の権威。
その著書は三〇カ国で刊行され、一二カ国でベストセラーとなっている。ケリー・ゴールドスミス(KellyGoldsmith)消費者行動の最先端の研究家。ノースウェスタン大学ケロッグ・マネジメントスクールのマーケティング学科教員。
/www.kellogg.northwestern.edu
組織の仕事上のミッションについては多くが論じられているが、一人ひとりの人間の人生上のミッションについてはあまり論じられていない。
おそれ多くも、私(マーシャル)はドラッカー本人に「組織のミッションについてはいろいろご指導されているが、あなたご自身のミッションは何でしょうか」と聞いたことがある。
「皆さんがそれぞれの目的を達成するのをお助けすることです。道に反していないことが条件ですが……」最近私たちは、生きがいと楽しさの関係について調査した。
そこでわかったのは、生きがいと楽しさは、いずれもがなくてはならないものであるということだった。
楽しさのためには、プロセスが肝心である。行うことが好きでなければならない。他方、生きがいを得るためには、行った結果に価値がなければならない。結果が意味を持たなければならない。
楽しく、かつ、生きがいのある時間生きがいと楽しさは、人によって違う。人それぞれである。
仕事にせよ、生活にせよ、満足を最大化するには、生きがいと楽しさの双方を最大化しなければならない。
楽しいが生きがいのない活動に時間を費やしているという人たちは、仕事でも遊びでも空しさを感じると回答していた。
仕事については理解できても、遊びについてはやや理解しがたい回答だった。
しかしこれは、遊びにおいてさえ、過剰な楽しさの追求は望ましくないことを意味している。他方、生きがいはあるが楽しくはないという活動に時間を費やしているという人たちは、殉教者の心境だと答えていた。
行っていることは重要であっても、生き方に心底満足できているとは言えなかった。私たちの調査で人生に満足していると答えたのは、生きがいと楽しさを同時に追求しているという人たちだった。
まさにドラッカーが典型である。仕事を楽しみ、引退など毛頭考えていなかった。仕事が楽しみの源だった。自分の仕事の価値を知っていた。そこには、生きがいがあった。
人生においてこれ以上に望めるものがあるだろうか。
四つのポイントところで、あなたはどうだろうか?生きがいと楽しさを同時に追求するには、以下の点を振り返ってほしい。
第一に、個としての自分のミッションを確立しなければならない。ドラッカーはそれを、Tシャツにプリントできるぐらいに簡潔に表せと言っていた。
第二に、ミッションはあなたにとって、重要なものでなければならない。よく考え、本当に大切なことだけを行うべきである。
第三に、ミッションを達成するプロセスそのものが、心から楽しめるものでなければならない。人生は短い。殉教者でもないかぎり、行っていて楽しくなることを行うべきである。
第四に、自分の時間を分析しなさい。楽しく、かつ、生きがいのある時間を最大にしなさい。そうでない活動はやめなさい。
「あなたのミッションは何か」は、仕事上、きわめて重要な質問である。
しかし、あなたの人生においては、さらに重要な質問である。
ミレニアル・コラムホルスティー・マニフェストができるまでマイケル・ラドパーヴァ(MichaelRadparvar)ニューヨークのブルックリンに工房を構えるエコ志向の雑貨通販、デザイン・ベンチャー企業ホルスティー社の共同創業者。
www.holstee.com二〇〇九年の春、弟デイブが僕とファビアンに提案してきた。僕たちにとって大切なことを言葉にしておきたい。時間をとってくれないか、というのだった。
僕たちの会社ホルスティー社は、設立してやっと三週間ほど、やらなくてはならないことは山ほどあった。
しかも間の悪いことに、僕らの世代にとっては初めての景気後退のさなかだった。だが、大切なことを言葉にしておくのに反対する理由など、あろうはずはない。
僕たちのこれからの旅路において、大きな意味を持つものになる。皆がそう感じた。こうしてデイブの提案はすんなりと受け入れられた。
大切なことを言葉にするどう書くにせよ、それは未来の自分たちに向けたメッセージになるであろうということで、思いは一致した。
もう一つ、何を求めるかを、お金ではないもので表しておくまたとない機会だという点でも、考えは同じだった。
僕たちは心に浮かぶ言葉をかたっぱしから書き出していった。そして、書いたものを羅針盤にすべく、いつでも目に入る場所に置くことにした。
その場所とは、会社のウェブサイトだった。僕たちはそれを「ホルスティー・マニフェスト」と名づけた。やがてこのマニフェストは、思いもかけない拡散の仕方をした。
世界中でシェアされ、印刷され、額にまで入れられた。『ワシントン・ポスト』紙は、ミレニアル版の「ジャスト・ドゥ・イット」(ナイキのミッション)になぞらえた。
それは、僕たちの会社のミッション・ステートメントにもなった。
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