将来を考え、子供に美田を残してやるべきか否か。
「美田を残さず」というのは昔の話で、残したほうがいいに決まっている。できるだけ多く残していく。しかし、それは本当の財産ではないことも、きちっと教えておく。本当の財産は手腕であり、株であり、お客様である。
美田、すなわち、昔通りの不動産とか現金とかは、あっても役に立たないということはない。問題があるとすれば、美田を残された子供の性格の方である。その子が不正に流用するような軟弱な育ち方をしていたら、美田を残しても仕方がない。それは、むしろ親の責任である。その子に何かの会社をやりたい意欲があるなら、その子のために美田を残して、活かしてやる。
多くの二代目は、父親が財をたくさん残したから、それを土台となし、今日の事業を築けた。何にもないところからスタートしても、たちまちおしまいになるだけだ。サラリーマンの場合は、 一から一段一段と上へ上がっていく。その子供も、また一から一段一段と上へ上がっていかなければならない。何代にもわたって、 一から同じことを繰り返す。
ところが、事業家の場合、子供は残された財産や地位を起点にして、自分の才覚を継ぎ足していける。何代にもわたって、上へ上へと昇って行くことができる。サラリーマンと事業家とでは、この点が違う。
だから、できるだけ多くの株を残し、お客様を残し、そして余った金で種をまいていって、もしも一朝何かあったときにはそれを売って凌いでいく。それを売ってしまっても、何かで補完できるような財産であれば、いくらあってもいいに決まっている。
問題は、その子にそういう手腕があるかどうかだ。手腕をつけてやるためには、財産を上手に活用するやり方を教育していかなければならない。評論としてではなく、体系的に、しかも実務としてきちっと教える。事業に早く目覚めさせることが大切である。借金も財産の一つだ。借金がないなどというのは、決して自慢にならない。
土地とかは、大概、税務署は時価評価しないで、公示価格、つまり路線価で税額を決める。路線価と実売価格の逆転がバブル崩壊後あったが、いまでも多少そうなっている。そうすると、おかしなことが起こる。
借金は、大体、財産から控除できる。相続で、自分が死んだ時には、その借金分を控除して息子が税額を計算するわけだ。借金十億円と財産が十億円であれば、税金はただになる。また、時価評価と路線価のずれの分だけ、儲かることになる。実売価格が、たとえば十億円の土地で、路線価が五億円だとしたら、五億円は残る。そして、借金が五億円あった場合、税金はただになる。
ところが、すぐ十億円で売れることなどないから、売った時にまた別の税金がかかるが、そういう財産とか、相続とか、贈与とかの計算もきちっとやっておく。あとは、税理士とか公認会計士に相談をする。
しかし、計算の前に青写真が描けない人はだめである。すぐにそのような計算をするのではなくて、極端に言えば、どのようにしたら税金を合法的に安く払うかという青写真を描く。計算ではなくて、青写真を描くことのほうが大切だ。
先代に、青写真がなかったために、いざという時に、私に相談に来られる社長が引きも切らさないc
現在、自分が社長、父親が会長で、会長の持ち株が約八〇%あり、銀行の試算では一株当たり四万五千円ぐらいになるという。会長は七十三歳、社長が四十七歳で、自社株の譲渡の問題についての相談を、つい最近も受けたばかりである。
この問題は、非常に微妙だ。私は、税理士でも公認会計士でもないので、ほとんどその任の人を紹介することにしている。だから、以下の回答は、「こうしろ」ということではなく、事業の永続継承という観点から、「こういう方向もあるのでは……」というニュアンスで受け取って欲しい。この点、くれぐれも誤解がないようにお願いしたい。
まず、株式を八〇%ぐらい持っている場合、贈与にしろ、相続にしろ、物すごく税金が高い。事業を続けられないことも起こる。 一番のネックは、株価が高すぎることで、これをもっと落とさないといけない。そのために、 一つは、会社の借金で設備投資を過大にしてみる。あるいは、もう一つは、業績を意識的に落とす。そうすると、株価を落とすことになる。そうしておいてから、相続する。税理士や公認会計士、時には税務署そのものに相談しながら、
法律に照らし合わせてやっていくことを忘れないで欲しい。さらに、銀行から借金する。生前贈与や相続の税に見合った分をまともに借金する。銀行から大量の借金をし、それを何年にわたって年間いくら返していくかという計画をきちっと立て、その分だけ個人の給料を上げる。
あるいはまた、地道に少しずつ、少しずつ、父親の株を自分が買い取っていく。もしも、父親が亡くなり、母親が健在であれば、残った株の半分を母親が持つようになるかもしれないが、その辺のことは、相続税に詳しい税理士や公認会計士に相談する以外にない。歯切れが悪いが、私が税金のことを言うと、本当は良くないことになっている。とにかく、社長の人生計画の中で、財産とか、相続とか、贈与とかの計算を事前にきちっとやっておかなければならない。
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