定石23:設備投資は原則として、減価償却費の範囲内とせよ
固定資産投資と減価償却は、たとえば製造業でいうと、 一般には付加価値配分の10%前後の比重を占めているのが普通である。項目としては、人件費、変動費についで比率が大きい。しかも、設備投資というのは一部ずつ徐々に回収されるものであり、その全額を回収するには相当の長期間を要するのが通例である。それだけに、社長としても慎重が期される重要項目なのだ。
いうまでもないことだが、設備というものは年を経るごとに陳腐化していく。したがって、今後より一層、生産性を上げていくためには、時代の変化に伴い、仮に製造業なら最新の効率的な設備・機械に切り替えていかなければならないし、流通サービス業なら最適な店舗や内装設備・機械に切り替えていかなければならないだろう。だが、それにはかなりの資金が要るし、そのうえ資金には限度というものがある。
そこで問題となるのが減価償却の捉え方なのだが、ここでも会計の専門家や経理の見方とは違った、社長として知っておくべき定石がある。それは、「設備投資額は減価償却費の範囲内」というものだ。これは定石であって法律ではないから必ずしも守る必要はないわけだが、社長として忘れてはいけない、経営のひとつの基本なのである。
この定石はすでに多くの経営書で言われているとおり、減価償却は資金支出の伴わない経費であるから、この範囲内で設備投資していれば、 一切の資金負担が増えないという理由からだ。
すなわち、減価償却の範囲を逸脱すれば、その分どこからか新たに資金を調達してこなければならない。それを減価償却で減った分を投資で増やしていけばプラスマイナス・ゼロになるから、常に安定した状態を保てるというわけだ。
定石24:設備投資については、設備生産性と労働装備高を常にチェッタせよ
「設備投資の枠は、減価償却費の範囲内」という定石について述べたが、それでは設備投資をどういうふうにして決めたらいいのか、設備投資を決定するための定石を述べておく。
それは、設備生産性の向上により労働生産性が上がるか、チェックするということだ。人件費の定石のなかで述べたことだが、少ない人数でいかに生産性を高めていくか、 一人あたりどのくらいの付加価値を生み出しているかというのが、「労働生産性」の指標である。この労働生産性を年々上げていくことが企業の発展には必要であり、また労働生産性の向上なくして社員の待遇改善も増員もありえない。
したがって、この労働生産性を設備の面からもチェックする必要があるのだが、式は第22表のとおり労働生産性=労働装備高×設備生産性となる。
労働装備高とは、機械設備の平均資産残高を平均社員数で割ったもので、社員一人当たりがどれだけの設備を装備しているかという指数である(前に説明したが、「平均」は、期首と期末の実績を足して2分して算出する。
つまり、当期の平均社員数は前期末(当期期首)の社員数と当期末の社員数を足して2で割った数、当期の平均償却資産残高は当期期首の償却資産残高十当期末の償却資産残高の半分である)。
ということは、労働生産性を上げるには、 一つはこの労働装備高を上げることだ。社員がどれだけの設備を装備しているか、装備率の高いほうが生産性の向上に役立つことはいうまでもない。つまり、戦争をするのに兵隊が竹やりで戦うのと、ピストルや戦車などで重装備するのとでは、重装備した方が勝つに決まっている。
ただ、労働装備高を年々上げることは、収益性の面からも健全性の面からもあまり望ましいことではない。なぜなら、固定資産がどんどん大きくなると、その分B/Sが肥大化するからだ。よって、これからの時代はとくに、労働装備高は横ばい、あるいは微減で推移し続けるようにコントロールすべきである。
それよりも、もう一方の設備生産性を高めて労働生産性を上げることの方が望ましい方法だ。設備生産性とは、付加価値を平均償却資産残高で割ったもので、設備一円あたり、どのくらいの付加価値を上げるかの指標である。
償却費以上の付加価値を稼いでくれない機械設備など、ただの置物と一緒だ。ましてや、これからいよいよ低成長が予測されるなかで、ムダな設備を入れられたら利益の足かせになってしまうだけである。したがって社長は、工場長から「こういう旋盤を入れたい」などといった設備投資の要求が出た場合、今よりも設備生産性が上がるかどうかをチェックするのだ。
そして、設備生産性の向上が見込める設備ならば黙って承認印を捺せばよいし、見込めないのならば、社長としてひとこと言わなければならない。つまり社長は、機械一つひとつについての細かい指示までする必要はない。それは担当部長の仕事で、社長はそこまでやる必要はない。
その代わり、その設備投資が設備生産性を向上させるものなのか、また、今後5年の設備投資で設備生産性は向上し続けるのか、これを設備取得の指標として、必ずチェックしていただきたいのだ。
定石25:設備投資は耐用年数の短いものから優先せよ 短い方が投資効率が高く、回収が早いからだ
設備投資を決める際に社長を迷わす案件のひとつに、設備投資の予算が足らなくて、何を優先的に投資したらいいのかわからない、ということがある。この場合の答えとして、設備投資の優先順位は、耐用年数の短いものから実施する、これが定石である。
そもそも、機械設備と一口にいっても、その償却率や償却年数は大きく異なる。たとえば、一般機械設備だと償却年数10〜12年で、年間の償却率がおおむね20%ぐらい、工具・金型のようなものであれば償却年数は2〜3年からせいぜい5年、年間償却率が50%くらいで大変な違いがある。つまり、耐用年数の短いものは償却率が高いということである。
減価償却費は実際にキャッシュアウトしない経費であるから、資金繰りの重要な源泉になる。したがって、設備投資で何を優先したらいいのかという問題が起きたときには、迷わずに耐用年数が短いものからやる。たとえば、短期間に収益性の優れた会社にしたかったら、建物やマザーマシンのような償却年数の長いものへの投資は当分止め、利益増大にすぐにでも貢献でき、しかも償却年数の短い設備、すなわち新製品開発のための金型とか合理化機械のような即効性のある設備に、投資の重点を置くといった具合だ。
このように、設備投資を決めるときに社長は、償却年数の長い設備への投資と短い設備ヘの投資とを区別し、状況によって使い分けるという視点を持っていただきたい。そして、優先順位を決める場合のルールとしては、耐用年数の短いものから優先的に設備投資枠の中に繰り入れていく、これが資本効率を上げて資金繰りを良くする、大事な定石である。
定石26:設備投資は単年度計画ではダメ 5年先までの償却費の変化をつかめ
設備投資は減価償却費の範囲内にする。これが設備投資の定石だと繰り返し申し上げた。
ただ現実的には、減価償却費の枠と設備投資の枠が、単年度ごとにぴったりと一致するかといえば、そう簡単にうまくいくものでもない。
理由の一つは、機械設備によって償却率や償却年数が大きく異なるからだ。たとえば、 一般機械設備だと償却年数10〜12年で、年間の償却率がおおむね20%ぐらい、工具・金型のようなものであれば償却年数は2〜3年からせいぜい5年、年間償却率が50%くらいで大変な違いがある。
さらに建物などになると、鉄筋では償却年数が65年、鉄骨で25年、償却率も9〜21・5%である。そうすると、機械設備を多く入れる期と工具。金型が多い期では、減価償却費は当然のことながら大きく変わってくるから、どうしても単年度でコントロールするのが難しい。
そこで、減価償却費の範囲内に設備投資を収めるにしても、単年度ではなく5年スパンで減価償却費を出して、設備投資の枠を見積もるのが無理のないやり方だろう。
さて、それでは第23表のモデル会社A社の設備投資計画表を使って、今後5年間での設備投資計画のやり方を説明しよう。
まずは既存の機械設備の今後5年間の償却費を書き入れる。減価償却費については経理が把握しているので、担当者に聞けばすぐにわかる。A社の場合は、直前期末の既存償却資産の簿価が1億7,800万円なので、金額の欄に数字を入れる。そして、直前期末の残高ということは初年度期首残高ということであるから、初年度の所定欄にも同じ数字を書き込む。続いて2年度から5年度までも期首残高と償却費を、同じ要領で記入していく。そうするとA社の既存機械設備の5年間の償却費合計は8,500万円ということがわかった。
すなわち、新しい機械設備を買わなくても、今後5年で8,500万円の償却費が出ることになる。続いて、新規投資の予定を書き込んで減価償却費を算出してみる。減価償却費は、(取得価格― 前年度までの減価償却費の累計額)×償却率で求められる。償却率は税法で耐用年数に応じて定められているので、経理の担当者に聞いていただきたい。
A社は、初年度に3,000万円の機械装置と、lσ00万円の金型の購入を予定している。償却率表でそれぞれの償却率を調べると、機械装置は年間償却率が25%、金型は年間償却率が100%とわかる。そこで、この2つの資産の初年度の償却費を求めるのだが、ここで一点注意が必要だ。
償却費の計算は(取得価格― 前年度までの減価償却費の累計額)×償却率だから、機械装置の初年度の償却費は、取得価格3,000万円×償却率25%=800万円(百万円以下四捨五入)である。しかし、取得初年度の償却費だけは、これを半額の400万円としておくのだ。
というのも、償却費は月割りで計算するため、期首に取得した場合は800万円の償却費だが、期の真ん中で取得すれば半額の400万円になるし、年度末に取得した場合は800万円を12等分した1カ月分しか償却できない。
そこで、期のどこで取得するかわからない初年度の償却費は、とりあえず期の真ん中で取得したということで、半額にしておくのだ。
よって、1,000万円の金型の初年度償却費も同様に、取得価格1,000万円×償却率100%=1,000万円の半額500万円となる。
そうすると、初年度の償却費総額は、既存償却資産の償却費2,600万円+機械装置400万円+金型500万円で、合計3,500万円と算出できる。
続いて、2年度も同様のやり方で償却費を求める。まず、2年度に新たに取得する2,500万円の機械装置と1,200万円の金型の償却費から求めよう。
これらは、先ほど説明したとおり期の中央で取得したという前提で半額にするので、機械装置は(2,500万円×償却率25%)■2=3,125,000の四捨五入で300万円となり、金型は(1,200万円×償却率100%)■2=6,000,000の四捨五入で600万円が償却費と算出される。
そして、この新規取得の償却費合計900万円に、初年度に取得した資産4,000万円の2年度の償却費1,200万円と、直前期以前から取得していた既存資産の償却費2,000万円を加算した計4,100万円が、2年度の償却費総額となるのだ。
ちなみに、初年度取得の機械装置と金型の2年目の償却費の計算方法は以下の通りだ。まず機械装置の方は、初年度の償却費が400万円だから、2年度の期首残高は3,000万円1400万円で2,600万円ということになる。この2,600万円に償却率25%を掛けて100万円以下を四捨五入すると、2年度の償却費は700万円と算出できる。
そして、初年度取得の金型の2年度の償却費は、2年度期首の残高が500万円(初年度期首残高1,000万円―償却費500万円)だから、これに償却率100%をかけて、償却費500万円と出す。よって、初年度取得資産である機械装置と金型の2年目の償却費総額は、1,200万円と求められるのだ。
さて、同様の計算で5年度まで各期を計算していくと、A社の5年間の新規投資額合計は2億700万円、そして5年間の減価償却費合計は2億1,200万円となり、「設備投資は減価償却費の範囲内で行う」という定石を守りながら設備投資ができることが実証された。
しかし、ここで満足してはいけない。設備生産性の面からも毎期数値が順調に上がるのかをチェックしてみなければならない。
A社の設備生産性はどうか。まず初年度の目標付加価値は5億3,300万円である。
期間平均償却資産残高は、期首と期末の償却資産残高を足して2で割るから、期首1億7,800万円十期末1億8,300万円■2=180・5の四捨五入で1億8,100万円となる。
ということは初年度の設備生産性は、付加価値5億3,300万円■初年度平均償却資産残高1億8,100万円=2・9円(小数点以下第二位四捨五入)である。
機械設備1円あたり2・9円の付加価値をあげており、機械設備が付加価値造成にきちんと貢献しているということだ。
同じ要領で5年度までの設備生産性を計算していくと、2年度「3・1」円、3年度「3・4」円、4年度「3・7」円、5年度「3・9」円と年々着実に上がっていく。
それでは、労働装備高はどうか。労働装備高は期間平均償却資産残高を期間の平均社員数で割るので、初年度の平均償却資産残高1億8,100万円■初年度の平均社員数46名=390万円となる。
同様に5年度までを計算していくと、2年度「3・9」百万円、3年度「3・7」百万円、4年度「3。5」百万円、5年度「3・4」百万円と年々微減する。ということは、設備生産性は毎期微増、労働装備高は微減となるので、これも問題ないことがわかった。
以上が、設備に対する5年計画の立て方である。この方法どおりにやれば、多額の借入金に頼ることなく、安定的な設備投資で社長の事業計画を実現できるのだ。
しかし、事業計画によっては、5年間の投資額が減価償却費の累計をどうしても上回る場合もあろう。とくに今回のような不況期には、ライバル社の倒産などで攻め時が到来することもあるc
そういう場合は、あえて定石を破ってでも減価償却費を上回る投資が必要になる。あまりに「分相応」を意識しすぎて、時代に遅れて業績は右肩下がり、将来に何ら希望のない会社、というのではダメだ。
そこで、設備投資が減価償却費の範囲を超える場合には、その上限を130%までと心得て欲しい。すなわち、減価償却費が1,000万円のときは設備投資は1,300万円、減価償却費1億円のときは1億3,000万円までならば、健全性指標やROAを悪化させることなく、安全に設備投資をすることが可能である。
定石27:製造業において減価償却費が減って出た利益は自分の体を食べているのと同じである 償却前の利益を重視せよ
私の経営塾の塾生で、「今年は利益が出ました」と言われる経営者に決算書を見せていただくと、やはり景気が悪いせいか、設備投資を積極的におこなっていないことが多い。したがって、利益は確かに増えていても、それは単に減価償却費が減って利益が出たという企業が、意外に多いのだ。
あるいは、赤字決算にしたくないからと減価償却を控えて利益を出すような社長もおられる。その結果、大方の会社では使いもしない機械が減価償却もろくにされないまま、資産として帳簿に残ってしまう。しかし、資産といっても、中古機械を実際に売却しても二束三文だから売るに売れず、その差額の合み損を抱えたまま、無駄な資産でバランスシートが肥大化する。
一方、その機械購入にあてた長期借入金はそのまま残る。利益を生まない資産を抱えて、なおかつ借金があれば、ROAを圧迫し、会社の収益性と健全性が悪くなる。それでも、売上が大きく伸びていた時代ならばやっていけたが、これからの売上の大幅な増加が見込めない時代には、生産性の低い機械を買って、なおかつ赤字決算が嫌で減価償却を控えるようなことをすれば、 一気に資金繰りに詰まるはずだ。
こういう間違いを犯す社長は、要するに表面上の売上・利益には目がいっても、実際の「資金」というものがまったくわかっておられないのだ。そこで、減価償却を減らして利益を出しても、実際の会社の資金運用上は何の意味もないということを、資金繰りの面から解説しておきたい。会社の資金の流れを簡略化したのが第27表である。上段が固定資金の流れで下段が運転資金の流れを表している。そして、会社の機械設備というのはB/Sの固定資産であるから、注目していただきたいのは上段の固定資金の流れである。
まず、会社の資金の源泉の大もとは、税引前利益である。会社は、売上を発生させて付加価値を生み、そこから様々な経費を差し引いて、税引前利益が残る。これが会社の利益の源泉となるのだ。
さらに、減価償却費も経費としてP/Lには計上されるが、実際にお金を払っているわけではないので資金の源泉となる。
固定資産処分損というのは、固定資産の売却額と帳簿価額との差額のことなので、「損」という名称だが実際のキャッシュアウトはない。たとえば、帳簿価額7億円の土地を2億円で売却すると固定資産売却損は差額5億円となるが、5億円を実際に支払ったわけではないからだ。これも資金の源泉となる。
そのほか貸倒引当金や賞与引当金、退職引当金の繰り入れも実際にはキャッシュアウトしない経費なので、これらの合計5,700万円が固定資金の源泉である。
一方、この源泉に対する使途の方は、まず当期支払いの税金や配当・役員賞与がある。さらに設備投資などの固定資産投資やら、その他の投資、長期借入の返済などが固定資金の使途であり、第27表で言えばこれらの合計額7,700万円が使途となる。そうすると、資金の源泉が5,700万円で使途が7,700万円だから、その不足分の2,000万円を、今度は日々の営業にかかる運転資金の資金繰りで賄わなければならない。
ちなみに、固定資金の源泉と使途との差額を「固定資金余裕」といい、これがプラスの場合は運転資金の源泉が潤沢になり、運転資金の使途を上回った分が蓄積され、固定資金余裕がマイナスの場合は、先ほど述べたように、これを運転資金の資金繰りで賄わなければならないというのが、会社の資金の大きな流れである。
さて、もし減価償却費を減らして利益を出した場合は、資金の面ではどうなるのだろうかか。P/Lの上では減価償却費が減れば経費が減るのだから、利益は出る。しかし、資金の実態を考えてみると、資金の源泉である減価償却費が減ってしまい、なおかつ税引前利益の増加により税金支払いが増えてしまう。つまり、資金の源泉は減って使途が増えるということだ。
そうすると、結果的に運転資金へまわるカネが減ってしまうことになり、もしも固定資金余裕がマイナスの場合は、その分の資金の不足を運転資金から捻出しなければならなくなる。要するに、減価償却を減らして利益が出たと喜んでいるのは、タコが自分の足を食べているのと、何ら変わりはないということなのだ。
もっといえば、固定資産すべてにおいて、収益を生まない遊休資産は売却損が出ても絶対に処分すべきである。売却損が出ればP/L上の利益は減るが、累損分の税金は免除されて、なおかつ実際の資金支出がないまま、売却した分のキャッシュが入ってくるからだ。そのカネでさっさと借金を返してB/Sを小さくしたら、健全性は良くなるし、金利支払いの負担が減って、収益性も向上する。要するに、単年度のP/Lにしか興味のない、資金の実態をつかまない経営では、会社を潰すということである。
したがって、設備投資についても、減価償却をきちんと計上して出る利益、いわゆる償却前利益を大事にするということ、そして、資金の面から減価償却の意味をしっかりと理解することが、設備投資について覚えておかなければならない定石である。
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