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裏表のない組織を作る―刺激弁別

第9章裏表のない組織を作る──刺激弁別

ケース─「人見知り」はなぜ起きる?1先行刺激による行動の制御2相手によって態度を変える理由3裏表のある性格4行動のABC分析5行動を制御する随伴性は一つではない

「人見知り」はなぜ起きる?「おう、サカモトさん。

久しぶり」製造部長の岩崎啓太が、しばらくぶりにサカモトのもとを訪ねてきた。

「最近じゃ、開発や営業で、いろいろ変えてるらしいじゃないですか」今やすっかりサカモトを頼りにしている岩崎は、サカモトに対する言葉遣いも、いつの間にか敬語まじりになっている。

「こんにちは、岩崎さん。

製造の皆さんは、お元気ですか」「うん。

おかげさまで、小田切も金本も、いきいきしながら仕事しとるよ。

そこで、きょうは私自身の勉強も兼ねて、サカモトさんに、また一つ相談があってきたんじゃ」「嬉しいですね。

何ですか?」サカモトは、目を輝かせながら言った。

「そう、その目!普通の人なら、難しい問題を持ってこられたら嫌な顔の一つもするだろうに、サカモトさんは逆に楽しそうな顔をするんじゃからなあ。

変わった人だよ。

でも、そのおかげで、こちらはつい気やすく相談に来ようと思ってしまうんじゃけど」「それでいいんですよ。

私にしてみたら、誰も相談に来ていただけなかったら、仕事がなくなってしまうんですから」「ははは。

相談に来るという行動を、強化しているわけか」岩崎の思いがけない分析的な発言に、サカモトは思わず驚いた表情を見せた。

「ふふ。

勉強しとるじゃろ?」岩崎は、いたずらっぽい顔をして笑った。

「じゃあ、本題に入るとするか」サカモトはうなずいて、傾聴の姿勢に入った。

「サカモトさん。

購買課長の村上って、知ってますか?」サカモトは黙ってうなずく。

「あいつは悪いやつではないんじゃが、少々、裏表のある性格でね」サカモトの眉が、「どういうことですか?」と尋ねるように上がる。

「村上は大日本エレクトロンでも購買をしていて、今でもそのときのやり方を守ろうとしているんだ」「どういう、やり方ですか?」「まあ、日本的というか……。

つきあいの長い部品メーカーを、なるべくなら使ってやろうとするのさ。

むろん、値引きはできるだけ、させるけどね」「ははあ。

ケイレツというやつですか」「そんな大げさなものじゃないよ。

でも、それが調達ディレクターの方針と合わなくてね」「桐山さんと、ですか?」「そう。

彼はドライというか、ともかく複数の業者から見積もりをとって、少しでも安いところを機械的に選ぼうとするだろう?合併して、村上は私だけじゃなく桐山さんとも上司・部下の関係になったので、桐山さんの言うことを聞かないといけないのが、うっとうしいのさ」「岩崎さんから見ると、どちらの方針が本来は正しいのですか?」「いや、どちらも一理はあるんじゃよ。

どの業者だろうと安いところから買うというのは、誰が考えても合理的ではある。

けど、それだと業者がうちの会社にロイヤルティ(忠誠心)を感じなくなる。

すると、いざというときに、こっちの無理を聞いてくれなくなる恐れがあるんじゃ」「いざというとき、といいますと?」「わかりやすい例が、地震や台風などの自然災害があって、部品供給が逼迫してしまったときじゃ。

うちは部品がないと生産が止まってしまうというときに、部品メーカーがうちのライバル企業を優先しては困る。

また、『安いところから買う』という方針をうちがとっていると、逆に『高く売れるところに売る』ということにも、なりかねんじゃろう?そうなると、うちの部品調達コストが上がって利益が圧迫されてしまうわけじゃよ」「なるほど。

単純にはいかないわけですね」サカモトは腕組みをした。

「ならば、村上さんは、桐山さんに、そういう話をすればよいのではないですか?」「そこじゃよ。

裏表があるというのは」岩崎は顔をしかめた。

「村上は私の前だと、そういった自分の考えを素直に話す。

でも桐山さんの前に立つと、黙って何も言わず、あとになって私に不平不満を述べるのさ」「ははあ。

刺激弁別が働いているのかもしれないな」サカモトは独り言をつぶやいた。

「刺激……弁別?」岩崎は聞きなれない言葉に目を白黒させた。

「きちんとしたご説明は別途しますが、簡単にいえば、村上さんは『岩崎さんがいる』というときにだけ、『思ったことを話す』という行動をとり、それ以外のときには、そういう行動をとらない、ということです」「まあ、私が説明したまんまだが」「大切なのは、話すという行動の前にある条件です。

これを先行条件とか先行刺激とかいったりします。

岩崎さんが目の前にいるという先行刺激と、桐山さんがいるという先行刺激。

この二つを村上さんは弁別して、行動したりしなかったりしているわけです」「ふむ。

だんだん難しくなってきたな。

でも、その両者を区別するのは、ある意味、当然じゃないかな」「なぜですか?」サカモトは突っ込んだ。

「なぜって……。

だって、村上は私とは長いつきあいだが、桐山さんのことはよく知らないから……」「よく知らない相手だと、思ったことを話せない、というのですか?」「だって、桐山さんから、どういう反応が返ってくるかわからないじゃないか」その言葉を聞くと、サカモトはわが意を得たりとばかりにニッコリ笑って、「そこがポイントですね」と言った。

「『桐山さんがいる』という先行条件のときに、村上さんが思ったことを話すという行動をとると、結果として何が起こるか。

そこに強化随伴性が確立されていないから、村上さんは話すという行動になかなか出ないのだと思います。

これが岩崎さんの前だったら、村上さんが話すと、岩崎さんはどうされていますか?」「まあ、とりあえずは、きちんと聴くわな」「それから?」「一応の理解は示す。

村上の話をすべて肯定するわけではないが」「それでよいのです。

きちんと聴いて、理解してくれる。

それが村上さんの話すという行動を強化しているのです。

たとえすべてを肯定してくれなかったとしても」「それが、桐山さんの場合にはないと」「本当にないのでしょうか?」サカモトは、あえて聞いた。

「村上さんは、桐山さんに思ったことを話して、それで聞く耳を持ってもらえなかったとか、まったく理解してくれなかったとか、そういうことがあったのでしょうか?」「いやあ、どうだろう。

私が知る限りじゃ、そういうことはなかったんじゃないかと思うが」

「その辺は、村上さんご本人に確かめてみましょう。

でも、桐山さんは、なかなかに度量の広い人ではないかと私は思いますよ。

ですから、今まで何があったかにかかわらず、桐山さんが岩崎さんと同様に、村上さんの話をきちんと聴いて一定の理解を示してくださるよう、われわれのほうからお願いしてみてはどうでしょうか」もとより岩崎に異論のあるはずもない。

二人は、桐山のところに話をしに行った。

桐山は、笑って快諾した。

数日後、生産コスト会議が開かれた。

出席者は事業ディレクターの田宮、調達ディレクターの桐山、製造部長の岩崎、生産1Gと2Gのグループ長、そして購買課長の村上である。

実はこの会議の前日、サカモトと岩崎は、村上と非公式に話し合った。

村上に、会議で思ったことを正直に言うようすすめるためである。

村上は、はじめは恐れをなして抵抗した。

けれどサカモトと岩崎の説得の結果、渋々ながら、「まあ、話すだけは話してみますけど」と合意した。

そして会議の当日。

皆が生産コストを削減するための改善策を述べ、討議する。

「部品や材料を調達する業者をもっと増やして、彼らの間での競争を一層あおってみては、どうだろう。

そうすれば、もっと安い価格で調達できるかもしれない」桐山は言った。

(ここだ!)絶好のタイミングを察した岩崎が、「村上君は、どう思う?」と水を向ける。

村上は、どきっとした顔を岩崎に向けたが、(頑張れ)と目で励ます岩崎を見て、決心したように口を開いた。

「そ、それは、必ずしも最良の方法ではないかもしれない、と思います」「ほほう?」桐山が、おもしろいことを聞いたという顔で村上を見る。

「業者を増やしすぎると、彼ら一社当たりの当社との取引件数は減ります。

つまり、彼らにとっては、『損して得取る』というような長い目で取引を考えることができなくなり、一回一回の納入で、きちんと利益を出さないといけないと考えるはずです」「なるほど。

それは、そうかもしれないな」桐山が、真面目な顔で大きくうなずく。

その姿に勇気づけられたように、村上が続ける。

「特に、原油価格の高騰や国際情勢の不安定さなどが心配されるこの時期には、一回の取引のコストを下げるよりも、年間を通じて安定した低価格で部品や材料が調達できるようにすることを模索すべきではないでしょうか」「うんうん、それで?」桐山が、身を乗り出して村上の話を聞く。

「ですから、業者の数を増やすのではなく、むしろ絞り込んで、うちに対する優先的な条件を導き出すほうが、得策かと」「なるほどねえ。

村上君の言うことも、一理あるが。

しかし……」桐山が、腕組みをして目をつぶり、考え込む。

そして、しばらくして首をかしげ、こう言った。

「業者を絞り込んだとして、本当に当社に有利な扱いをするという保証が、あるのかね?」村上は、苦虫を嚙みつぶしたような顔になった。

(やっぱり、言うんじゃなかった)と、心の中でつぶやく。

それまで二人のやり取りを黙って聞いていた田宮が、ここで口を開いた。

「村上君の考えでは、業者は何社くらいに絞ったらよいのかね?」「えっ……。

大日本のときは、一部材につき一社でしたが……」「一社では、やっぱりリスクがあるな。

その会社自体に何か起こったら、その部材の調達ができなくなる恐れもある」桐山が重々しく言う。

だが次に、彼はこう言った。

「……二社にしてみたら、どうだ?」村上が、うつむけていた顔を上げる。

そして、宙を見ながら考えて、「そうですね。

たとえば半量ずつ納入させて……」「それなら、少しは確実性が増すだろう」と桐山。

「えっと……いいですか?」それまで黙っていた生産1G長の金本が、ここで発言した。

「業者の数も大切ですが、同じ会社に長い間ずっと任せておくことの問題もないですか?」それを聞いた村上が言った。

「それでは、こうしてみたらどうでしょう。

二社に、それぞれ一年契約で納入させるというのは」桐山が、パッと明るい顔をした。

「おっ。

それ、いいじゃないか。

一回一回の見積もりでなく、年間の調達コストで二社を競わせる」「それで、一年たって成績の悪いほうは、次年度に入れ替えの可能性もあるようにすれば、両社とも必死で安定的な低価格を実現しようとするでしょう」村上が言った。

「そうすれば、変な馴れ合いにもならず、しかも低価格と安定供給の両方が期待できるというわけだな。

うん。

さすがだな、村上君」桐山が満足した顔で言った。

村上は、ほっと安心したような、嬉しいような顔をした。

こうして、この日の会議は実のあるものになった。

この出来事を境に、村上は桐山のところにも積極的に相談に行くようになった。

そして後日、「いやあ、私も未熟でした」と、村上はサカモトに言った。

「岩崎部長とは長いつきあいなので、話が通じるという安心感があって、何でも話していたのですが。

桐山ディレクターは、正直どういう人かよくわからなくて、それに『業者間で自由競争させよ』とよくおっしゃるものですから。

私が話しても、きっとわかってもらえず、むしろ疎まれたら嫌だなと私のほうで勝手に思い込んで、あまり正直に思ったことを話せずにいたのです」「まあ、よく知らない人とつきあうときは、慎重になりがちですよね」「でもね、やっぱりよくないですよ。

人によって話をしたり、しなかったりするのは」村上は真面目な顔で言った。

「それはまあ、いろいろな人がいるでしょうが、でも、基本的には皆、この会社をよくしたいと願っているわけですから、そういった根底的なところでは、すでに共通認識があるんですよね」サカモトは感動してしまい、言葉もなく村上の話に聞き入っていた。

「そういう共通部分のうえに立って話しているんだということがわかれば、きっとどこかの点で相手とわかり合えるんだということを、何となく最近の私は感じ始めているんです」村上は、少し照れたような顔をして続ける。

「この間の生産コスト会議だけでなく、このところ、どういった場でも、相手が誰でも、なるたけ自分の考えを述べるようにしているんです」「おお。

それはすばらしい」とサカモト。

「思い切って話してみると、今まで『どうせわかり合えない』と思っていた相手が意外と熱心にこちらの話に耳を傾けてくれたりするんで、何となく嬉しいんです。

それに、話してみると、自分の盲点にも気がつきますし」「盲点?」「今までは、自分の話が丸ごと受け入れられるか、すべて否定されるかの、どちらかで捉えていたようなところがあって。

だから話す相手を限定していたのかもしれません。

でも、私の考えも完璧ではないんです。

恥ずかしながら、やっとそれに気がつきました」村上は、はにかんだ笑いを浮かべた。

「みんなと話し合うことで、自分の足りないところに気がつき、また相手も同じような体験をするんですね」「そうですね。

完璧な人は、誰もいませんからね」「そうやって、みんなで考えを合わせながら、それまで誰も思っていなかった新しいアイデアとかがつかめると、けっこう嬉しいですよ」「うーん。

いいですね。

皆さん、『誰が正しいか』ではなく、『何が正しいか』で議論できるのですね。

いや、私も改めて、この会社がよい会社であることを認識させてもらいました。

ありがとう」。

サカモトは、村上に感謝した。

解説1.先行刺激による行動の制御行動分析学的に行動の原因を考えるとき、最も重要な点は、行動の直後に何が起こったかに目をつけることであった。

だから、行動の原因を知りたいならば、直後に起こった出来事を明らかにし、行動を変化させたいならば、行動の直後の結果を操作する。

しかし、行動は直後に起こることによってだけ変化するわけではないことは、日常生活から容易に見てとれる。

この章では、行動の原理をさらに拡大し、行動に先行する刺激や出来事の重要性を扱う。

行動の真の理解と改善にとって、直後の状況の変化に加え、先行する状況の分析も重要だからである。

たとえば、運転中に信号にさしかかると、青であればそのままアクセルを踏み続けるし、赤であれば、ブレーキに踏み替える。

信号の色によって、アクセルを踏むか、ブレーキを踏むかが決まってくる。

就職して一人暮らしを始めた子どもが、手元不如意になったとき、母親におねだりすることは多いが、父親にはめったにしない。

言葉遣いもそうだ。

「おはよう」という朝の挨拶一つとってみても、相手が同僚か、部下か、上司か、お客様かによって、変わってくる。

同僚や部下には「おはよう」で済むが、上司やお客様には「おはようございます」と言うだろう。

妻や恋人に対して「愛しているよ」と言ったとしても、職場の同僚には、そのようなことはむやみに言わない。

行動は直後の結果によってだけ左右されるわけではなく、このように、行動に先立つ先行刺激が行動を制御することもある。

これを行動が刺激制御(stimuluscontrol)されているという。

刺激制御の研究は、他の行動の原理と同じように、動物実験によって行われた。

空腹のハトを一辺約三〇㎝の実験箱に入れる。

この

実験箱は考案したスキナーの名前をとって、通常スキナー箱といわれている。

スキナー箱の内壁の一面に直径二㎝程度のキーと呼ばれる窓がある。

このキーにスキナー箱の外部から色光を照射する。

そして、緑の色光を照射したとき(ハトから見ればキーが緑に見える)にキーをつつくとエサがもらえる。

しかし、赤の色光を照射したとき(ハトから見ればキーが赤に見える)は、いくらつついてもエサはもらえない。

消去である。

緑と赤の色光をランダムな順序で見せながら、一日に二〇分ほどこの訓練を続けると、はじめのうちは緑でも赤でもつつくのだが、訓練を繰り返すうちに赤のときはつつかなくなり、一週間もすれば緑のときはつつくが、赤のときはまったくといっていいほどつつかなくなる。

ちょうど、私たちが、青信号では道路を横断するが、赤信号では渡らずに待っているかのようだ。

信号ならぬ、キーの色がハトの行動を刺激制御するようになったのだ。

このとき、ハトは緑と赤の刺激を弁別しているという。

そして、強化に結びつく刺激である「緑のキー」のことを弁別刺激(discriminativestimulus;)という。

このように、緑色のキーに対するキーつつきが強化され、赤い色のキーに対しては消去されるという経験をすると、ハトは緑色のキーにだけ反応するようになり、刺激の弁別が起こる(図9-1)。

私たちは、道路横断の際には、信号の色を弁別刺激にしている。

挨拶をする際は、挨拶する相手を弁別刺激にして、言葉遣いを選ぶ。

母親にだけ、こっそり仕送りをおねだりするとしたら、それは母親へのおねだりは成功したが、父親には逆に説教されて援助が得られなかったからである。

その結果、おねだりの相手は絞られていく。

刺激弁別が起こる。

2.相手によって態度を変える理由このケースに登場する村上課長は、岩崎製造部長と桐山調達ディレクターに対する態度が違うようだ。

岩崎の前では「思ったことを話す」が、桐山に対しては、そうはせず、黙って何も言わない。

岩崎の前では、自分の意見を率直に言っているということは、「思ったことを話す」行動が強化されているということだ。

岩崎自身がサカモトに説明しているように、村上が「思ったことを話す」と、岩崎は「とりあえずはきちんと聴き、理解を示す」。

この傾聴が好子として機能し、岩崎に話すことは強化される。

岩崎は、大日本エレクトロン時代からの気心の知れた上司であり、岩崎に対する発言は長期にわたる強化随伴性によって維持されている。

しかし、桐山ディレクターに対しては、そうした強化の随伴性がまだない(そもそも、桐山には自分の意見を言わないのだから、何の随伴性にもさらされていない)。

特に、桐山はノルウェー・モバイル出身の新しい上司である。

さらに、日頃から、自分と異なる意見を持った相手であることも知っている。

村上はおそらくこれまで、自分と相容れない意見を持つ相手に、腹を割って話しても聞き入れてもらえなかった経験があったのだろう(図9-2)。

ただし、村上は、意見具申が桐山から消去を受けた経験はなさそうだ。

消去を受けた実際の経験はないが、日頃の桐山の言動から考えて何となく無理そうだ(消去されるだろう)と、勝手に思い込んでいるにすぎない。

桐山に直接消去された経験はないが、桐山のような自分と相容れない意見の持ち主から、これまで、消去されてきた経験はあるに違いない(図9-2)。

3.裏表のある性格岩崎は、こうした村上の刺激弁別を「裏表のある性格」と呼ぶ。

なぜ村上の性格に裏表があるかといえば、相手によって態度を変えるからである。

このように考えると循環論に陥って、村上の行動を的確に説明できない。

典型的な医学モデルによる行動観であり、個人攻撃の罠にはまっている。

二重人格、多重人格は通常、臨床心理学のテーマだが、スキナー自身、著書の中で、これらもまた刺激制御で説明できるとしている。

科学的説明の指針として、「オッカムの剃刀」という言葉がある。

もともとスコラ哲学にあるものだが、一四世紀の哲学者・神学者のオッカムが多用したことで有名になった。

「ある事柄を説明するためには、必要以上に多くの実体を仮定するべきでない」という指針である。

「剃刀」という言葉は、説明に不要な存在をそぎ落とすことを意味し、「節約の原理」とも呼ばれている。

行動を説明する際に、強化や弱化、消去、刺激制御などの基本原理でより多くの事柄を説明できるなら、循環論を招くような「性格」といった余計な概念を持ち込む必要はない。

枕が変わると眠れないという人がいる。

自宅ではよく眠れるが、旅先では眠れないのだ。

しかし、こういう人を二重人格とは呼ばないだろう。

自宅と旅先、普段使っている枕と、ホテルの枕に対して刺激弁別が起こっていると説明すれば済む。

村上の二面性も、旅先では眠れないことも、刺激弁別という一つの概念で説明可能な点で、二重人格という説明より優れているのである。

4.行動のABC分析本書では、行動の原因を分析するとき、行動の直前から直後にかけての状況の変化に注目してきた。

そして、それを記述するために、「直前行動直後」のダイアグラムを使ってきた。

これに対しスキナーはじめ、多くの行動分析学者は、弁別刺激()行動(behavior)結果(consequence)と記述される、ABC分析と呼ばれるダイアグラムを使うことのほうが多い。

特に、パフォーマンス・マネジメントの領域ではそうである。

直前から直後の変化を「結果」としてまとめて表現し、行動に先立つ刺激を付加して強調する書き方だ。

弁別刺激は行動に先行する刺激なので、先行刺激(Antecedent)、行動はBehavior、結果はConsequenceなので、それぞれの頭文字をとって、ABC分析と呼んでいる。

どんな状況で(A)、その行動が起きたのか(B)、その後何が起こったか(C)を明らかにすることで、行動の原因を分析するダイアグラムである。

行動随伴性とABC分析は、図9-3のような関係になっている。

5.行動を制御する随伴性は一つではないサカモトと岩崎の助力により、生産コスト会議での発言が思いがけなく桐山に受け入れられた村上は、その日を境に、桐山のところにも相談に行くようになった。

村上に起こった変化は、プロンプト(第10章)と新しい好子によるものだ。

これまでは、自分の意見に反論が返ってくることが、村上にとっては嫌子であり、意見の合わない相手と議論することは弱化されていた(図9-4)。

会議に臨む前は、そもそも、肌の合わない相手に自分の意見を言う行動は、過去の弱化随伴性により、完全に欠落していた。

しかし、岩崎が発言のタイミングを計ってプロンプトし、ともかく行動を引き出し、岩崎は発言する村上に目で励ますという好子を与えている。

発言は、桐山からの好子(うなずき、身を乗り出して聞く姿勢)を勝ち取り、田宮や金本からの好子(新しいアイデアの気づき)につながったのである。

村上は、思いがけず桐山に自分の意見が受け入れられただけではなく、相手の反論の中に新しいアイデアを見出す結果となった(図9-4)。

自分の意見を言うと反論が返ってくるという状況はこれからも続くはずだ。

しかし、同時に、新しいアイデアというすばらしい好子も得られる。

行動を制御する随伴性は一つではない。

一つの行動に対して複数の強化随伴性が働くこともあるし、一つの行動に強化と弱化の随伴性が同時に存在することもある。

弱化によって欠落していた行動を引き出し、新しい強化随伴性が生まれたことで、村上は変わり、職場が変わっていったのである。

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